説明

水処理技術

【課題】
非常に簡便で安全な方法を用いて、重金属イオンを含む廃液から、析出によって有価物である重金属を高純度で製造する方法を提供する。さらに、重金属を回収した後の廃液から、凝集剤として使用できる水酸化アルミニウムを製造する方法を提供する。
【解決手段】
重金属イオンを含有する被処理液から、析出により重金属を製造する方法であって、該重金属イオンを含有する被処理液のpHを9以上または4以下に調整する工程、該被処理液にアルミニウムを添加する工程、および、析出した重金属を分離回収する工程を含む重金属の製造方法である。さらに、重金属を回収した後の被処理液に、カルシウム塩および/またはマグネシウム塩を添加する工程を含むことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属の製造方法に関し、詳細には、分離回収するべき重金属をイオンとして含有する被処理液から、析出により該重金属を分離回収する重金属の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メッキ工程やエッチング工程からは、重金属を多量に含んだ廃液が排出される。この廃液から重金属を分離回収する方法として、従来、イオン交換処理、電解処理、凝集沈澱処理およびスピネルフェライト生成法が知られており、なかでも、比較的ランニングコストが低いとされる凝集沈殿処理が広く一般的に行われている。
【0003】
凝集沈殿処理として、水酸化物沈殿法が一般的であるが、被処理液と重金属の水酸化物沈殿との分離が困難であり、かつ多量のスラッジが発生するという問題がある。さらには、被処理液がキレート剤を含有する場合には、水酸化物沈殿の生成が困難で、効果的に処理することができない。
【0004】
これに代わる凝集沈殿処理として、多量のホルムアルデヒドと水酸化ナトリウムを加え、60℃に昇温することで、重金属イオンを還元して、金属の沈殿物を生じさせるというものがある。しかし、この方法では、処理が不完全で廃液中に重金属イオンが残ってしまうばかりでなく、使用されるホルムアルデヒドが人体に有害であり、さらには加温が必要であるというデメリットがある。
【0005】
その他、共沈剤や凝集剤を利用した凝集沈殿処理が一般に知られているが、共沈剤を利用した方法では多量のスラッジが発生するばかりでなく、とくに被処理液がキレート剤を含有する場合、やはり処理が不完全になるという問題がある。また、凝集剤による処理は、一般に高価になるというデメリットがある。
【0006】
また、スピネルフェライト生成法は、重金属イオンに硫酸鉄(II)を加えてアルカリ性にし、空気を送り込みながら加熱することによって、重金属イオンをフェライトの中に取り込み、沈殿として処理する方法であるが、やはり60℃で1時間の加温が必要であり、また、処理能力も十分ではない。
【0007】
そこで、安全で簡便な方法として、目的の重金属よりイオン化傾向の大きい金属を廃液に入れ、金属元素間の電子のやり取りにより重金属を還元して、分離回収する方法が開示されている。
【0008】
たとえば、特許文献1には、反応槽内の銅含有エッチング廃液から、銅よりもイオン化傾向の大きい金属と接触させて銅粉を析出させて、得られた銅粉スラリー液中に気体を導入し、反応槽外へ気体とともに銅粉を同伴させて搬出する方法が開示されている。
【0009】
また、特許文献2には、回収すべき金属がイオン状態で含有されている被処理液をリアクター本体内に流入するとともに、該リアクター本体内に回収すべき金属よりもイオン化傾向が大きい平均粒径0.1〜8mmの金属粒子を添加し、該金属粒子を流動させ、イオン化傾向の差異により前記被処理液中に含有される金属を前記金属粒子の表面に析出させ、その後、剥離手段によって前記金属粒子から前記析出した金属を剥離して回収する方法が記載されている。
【0010】
しかし、これらの方法では、析出した金属を回収するための特別で大掛かりな装置を必要とするため、コストの点で問題である。特許文献1では、未反応の金属と析出した銅粉とを分別するためのフィルターを有する回転ドラムや、該銅粉を気体とともに系外に搬出するための配管設備が必要であるし、特許文献2では、金属粒子とその表面に析出した目的の金属とを剥離するための超音波装置や、振動装置などを必要としている。
【0011】
さらに、特許文献2では、添加する金属を粒子のサイズに小さくすることで反応のための金属の表面積を増大させ、析出反応速度を向上させているが、金属を粒子サイズに小さくすることは非常に煩雑な工程を必要とするばかりでなく、析出する重金属のサイズも結果的に小さくなり、処理液との分離が困難になるという問題がある。
【0012】
【特許文献1】特開平6−146021号公報
【特許文献2】特開2007−39788号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、非常に簡便で安全な方法を用いて、重金属イオンを含む廃液からの析出により、有価物である重金属を高純度で製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち、本発明は、重金属イオンを含有する被処理液から、析出により重金属を製造する方法であって、該重金属イオンを含有する被処理液のpHを9以上に調整する工程、該被処理液にアルミニウムを添加する工程、および、析出した重金属を分離回収する工程を含む重金属の製造方法に関する。
【0015】
さらに、重金属を回収した後の被処理液に、カルシウム塩および/またはマグネシウム塩を添加する工程を含むことが好ましい。
【0016】
また、本発明は、重金属イオンを含有する被処理液から、析出により重金属を製造する方法であって、該重金属イオンを含有する被処理液のpHを4以下に調整する工程、該被処理液にアルミニウムを添加する工程、および、析出した重金属を分離回収する工程を含む重金属の製造方法に関する。
【0017】
さらに塩化物塩を添加する工程を含むことが好ましい。
【0018】
前記塩化物塩が、塩化ナトリウムであることが好ましい。
【0019】
さらに、重金属を回収した後の被処理液に、カルシウム塩および/またはマグネシウム塩を添加する工程を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、目的の重金属よりイオン化傾向の大きいアルミニウムを廃液に入れ、金属元素間の電子のやり取りにより重金属を還元して分離回収する際に、廃液のpHを酸性またはアルカリ性に調整することにより、添加した両性元素であるアルミニウムの反応により水素が発生し、該アルミニウム表面に析出した重金属が自然に剥離される。このため、添加したアルミニウムの表面が析出する重金属に完全には被覆されず、連続的な処理が可能となる。さらに、アルミニウムと被処理液とが常時接触することで、反応速度が速くなる。
【0021】
また、本発明によれば、強制的な剥離手段を必要としないため、析出した重金属は微細化されず、被処理液との分離が容易な大きさで回収することができる。
【0022】
さらには、このアルミニウムの反応により発生する水素を周知の手段によって回収することにより、グリーンエネルギーとして使用することができる。したがって、本発明の方法により、有価物である重金属と、グリーンエネルギーである水素とを容易に製造することが可能となる。
【0023】
加えて、重金属の回収工程後、被処理液に、人体に無害なカルシウム塩またはマグネシウム塩を添加する共沈法により、溶解したアルミニウムを水酸化物として沈殿させて回収することができる。したがって、本発明の方法により、凝集剤として産業的価値の高い水酸化アルミニウムを同時に得ることができる。
【0024】
また、酸性条件で処理を行う場合は、被処理液に塩化物塩を投入することにより、アルミニウムが錯体を形成しながら水素発生の反応を進行させ、反応速度を速くすることができる。なかでも、塩化物塩として塩化ナトリウムを使用することにより、被処理液の水質を悪化させず、安価に処理できるメリットがある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の製造方法は、重金属イオンを含有する被処理液から、析出により重金属を製造する方法であって、該重金属イオンを含有する被処理液のpHを9以上または4以下に調整する工程、該被処理液にアルミニウムを添加する工程、および、析出した重金属を分離回収する工程を含む。
【0026】
本発明で使用される被処理液は、重金属イオンを含むものであればとくに限定されない。具体的には、電解銅メッキ、無電解銅メッキ、電解ニッケルメッキ、無電解ニッケルメッキ、電解銀メッキ、無電解銀メッキ、電解金メッキ、無電解金メッキ、電解銅ニッケル合金メッキおよび無電解錫メッキなどの工程から排出されるメッキ廃液や、銅またはニッケルなどを含むエッチング廃液などがあげられる。
【0027】
前記メッキ廃液は、使い終わった液体原料(以下、老廃液と称する場合がある)、製品の洗浄廃液およびメッキ付帯設備洗浄廃液の大きく3つに分けられる。メッキ付帯設備洗浄廃液とは、メッキ槽や配管などに析出してしまった重金属を過硫酸などで溶解洗浄した際に排出されるもので、通常、強力な酸化剤を多量に含んでいる。そのため、イオン交換法や逆浸透膜処理法などでは、樹脂が劣化するために処理できない。
【0028】
本発明は、重金属のイオン濃度の高い老廃液または酸化剤を多量に含むメッキ付帯設備洗浄廃液に対してとくに有効である。また、無電解メッキの場合、その老廃液にはキレート剤が多量に含まれるため、一般的な水酸化物沈殿法や共沈法では処理が不十分であるが、本発明の方法によれば、そのような老廃液に対しても、有効である。
【0029】
前記重金属イオンの含有量は、とくに限定されないが、10〜200000ppmである。重金属イオンが10ppmより少ないと、重金属の分離回収は可能であるが、溶解するアルミニウムの量が増大するために反応が非効率的となる傾向にあり、200000ppmをこえると、多量のアルミニウムが必要となる傾向にあり、現実的でない。
【0030】
また、前記重金属としては、マンガン、亜鉛、クロム、鉄、カドミウム、コバルト、ニッケル、錫、鉛、アンチモン、ビスマス、銅、水銀、銀、パラジウム、白金および金などがあげられる。これらは、アルミニウムよりもイオン化傾向の小さい金属である。なかでも、銅は、メッキされる金属として一般的に使用されている。
【0031】
本発明においては、まず、前記被処理液に酸またはアルカリを添加して、そのpHを9以上または4以下に調整する。pHは、アルカリ性域としては11以上が好ましく、酸性域としては3以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましい。pHを9以上または4以下とすることにより、後段の析出反応が速やかに進行し、また、後述するようにアルミニウムの反応により水素が発生するため、該アルミニウム表面に析出した重金属の剥離が容易となる。
【0032】
もちろん、被処理液のpHを測定し、pHが9以上または4以下である場合は、とくに酸またはアルカリを添加しなくてもよい。
【0033】
また、pHの調整はアルミニウムを添加した後で行ってもよい。つまり、重金属イオンを含有する被処理液のpHを9以上または4以下に調整する工程と、被処理液にアルミニウムを添加する工程との順序は問われず、いずれの工程が先であってもよく、もちろん同時に行ってもよい。
【0034】
本発明では、目的の重金属とアルミニウムとの間の電子のやり取りを、pHが9以上または4以下の条件下で行うことを特徴とするものである。少なくとも、目的とする重金属のイオン濃度が、後述するようにその排水基準以下(銅ならば水質汚濁防止法および下水道法に定められている3ppm以下)になるまでは、被処理液のpHが9以上または4以下となるようにする。なお、反応中にpHは若干変化するが、9以上または4以下となるように調整してやることで、反応は速やかに進行していく。
【0035】
アルミニウムによる水素発生反応式を以下に示す。
(アルカリ性域)
2Al+2NaOH+6HO → 2Na[Al(OH)]+3H
(酸性域)
2Al+6HCl → 2AlCl+3H
【0036】
添加する酸としては、とくに限定されないが、塩酸または硫酸があげられる。なかでも、後述する塩化物塩を添加することによって、アルミニウムによる水素発生反応の進行をより早くすることができる点で、塩酸が好ましい。
【0037】
また、酸を添加して被処理液のpHを4以下にする場合、反応を早く進行させることができる点で、さらに塩化物塩を添加することが好ましい。この塩化物塩の添加工程は、酸を添加した後でも、添加する前でもよい。酸として塩酸を使用する場合は、塩酸の添加と同時に行ってもよい。
【0038】
塩化物塩としては、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化カリウムなどがあげられる。なかでも、反応がより早く進行し、安価で環境にやさしいという点で、塩化ナトリウムが好ましい。
【0039】
また、添加するアルカリとしても、とくに限定されないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび炭酸水素ナトリウムなどがあげられる。なかでも、溶解度が高く、安価であるという点で、水酸化ナトリウムが好ましい。
【0040】
次いで、アルミニウムを添加する。前記重金属よりもイオン化傾向の高いアルミニウムを添加することにより、電子の交換が起こり、アルミニウム表面に重金属が析出する。アルミニウムは両性元素であるため、酸またはアルカリとの反応により、その表面付近で水素を発生する。この水素の発生により、表面に析出した重金属が、特別な処理を施すことなしに剥離する。
【0041】
被処理廃液に添加する金属としては、亜鉛など目的の重金属よりもイオン化傾向の高いものであればよいが、実用性、反応速度の速さ、および、入手の容易さの点で、アルミニウムを使用する。アルミニウムとして、例えば、アルミ箔やアルミ板など純粋なものや、アルミドロス、アルミ加工屑、アルミ缶などの廃アルミに適切な前処理を施すことで使用することができる。
【0042】
アルミニウムの添加量はとくに限定されず、被処理液中に含まれる重金属イオンを重金属として析出させるのに必要な量、および、析出した重金属を剥離するのに必要な水素を発生させることができる量だけであればよく、重金属を析出させるために必要なアルミニウム量(化学式から算出)の1.2〜10倍であることが好ましい。アルミニウムが1.2倍より少ないと、被処理液中に重金属イオンが残存するなど処理が不完全になったり、水素発生が少ないために析出した金属の剥離が不十分になったりする傾向にあり、10倍をこえると、弱酸または弱アルカリ条件下では添加したアルミニウムが残ったり、逆に、強酸または強アルカリ条件下では、水素発生反応により過剰のアルミニウムが溶解したりする傾向にある。
【0043】
また、その形状もとくに限定されないが、析出する重金属が剥離しやすく、回収しやすい点で、ホイル状または薄板状であることが好ましい。
【0044】
このアルミニウム添加工程は、常温で行うことができるが、30℃以上に加温することにより、より反応速度を高めることができる。
【0045】
ついで、析出および剥離した重金属を分離回収するが、本発明では、強制的な剥離手段を必要としていないため、重金属は微細化されずに析出した状態、つまり、サイズが大きいままで剥離する。そのため、特別な装置を必要とせず、公知の方法で容易に分離回収することができる。
【0046】
分離回収方法としては、例えば、重力沈降分離、ろ過、吸引ろ過、回収金属が磁性体の場合であれば磁気分離などにより、固液分離して回収することができる。このときの被処理液の重金属イオン濃度は、その重金属の排水基準値以下(銅ならば水質汚濁防止法および下水道法に定められている3ppm以下)とする。
【0047】
また、本発明の製造方法においては、有価物である重金属を得ることが容易になるとともに、アルミニウムの反応により発生した水素を回収することにより、グリーンエネルギーである水素をも得ることができる。
【0048】
重金属を回収した後の被処理液は、アルミニウムが溶解している。この被処理液は、中和してアルミニウムの水酸化物沈殿を形成させて固液分離した後、放流することが可能である。
【0049】
しかし、被処理液中のアルミニウム濃度をより低くすることができる点で、重金属を回収した後の被処理液にカルシウム塩またはマグネシウム塩を添加して、溶解したアルミニウムを水酸化物として沈殿させて回収することが好ましい。
【0050】
カルシウム塩およびマグネシウム塩は共沈剤として作用するものであり、カルシウム塩としては、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウムおよび硝酸カルシウムなど、マグネシウム塩としては、塩化マグネシウム、炭酸マグネシウムおよび硫酸マグネシウムなどがあげられる。なかでも、共沈効果が高い点で、塩化カルシウムまたは水酸化カルシウムが好ましい。
【0051】
この工程により得られるアルミニウムの水酸化物沈殿は、汚泥などに対する凝集剤として利用できる産業的価値のあるものである。
【0052】
前記共沈剤の添加量としては、とくに限定されないが、カルシウムイオン濃度またはマグネシウムイオン濃度(併用する場合は、それらの合計濃度)が10〜10000mg/Lの範囲となるように添加することが好ましい。共沈剤が10mg/Lより少ないと、共沈効果が小さく、処理が不完全となる傾向にあり、10000mg/Lをこえると、沈殿量が多大となり固液分離が困難となる傾向にある。
【0053】
実施例1 無電解銅メッキ老廃液処理
(銅の製造)
銅イオン2055ppmおよびキレート剤(エチレンジアミン四酢酸)30.0g/Lを含むpH13の老廃液100mlに、アルミニウム薄板0.25gを添加して、撹拌した。撹拌開始から数分後、アルミニウム表面上に、金属の析出および気体の発生が確認できた。約30分後、老廃液が透明になり、液中にアルミニウム片と該金属の沈殿物とを確認した。
アルミニウム片をピンセットで除去した後、ろ過により金属沈殿物と液体とを分離した。乾燥後の金属沈殿物は0.18g得られた。また、得られたろ液を原子吸光光度計(株式会社日立製作所製、Z−8230)を用いて測定したところ、銅イオン濃度は1.40ppm、アルミニウムイオン濃度は1460ppmであった。この測定結果と反応式とから、得られた金属の沈殿物は銅であり、また、発生した気体は水素であると考えられる。
【0054】
(水酸化アルミニウムの製造)
前記ろ液を25mlずつ5つのビーカーにとり、それぞれ共沈剤として、それぞれ無添加(A)、水酸化カルシウム(B)(ナカライテスク社製、以下同じ)、炭酸カルシウム(C)、塩化マグネシウム(D)、塩化カルシウム(E)をカルシウムイオン濃度またはマグネシウムイオン濃度が2000mg/Lになるように添加した。ついで、1Nの硫酸を撹拌しながら添加して中和(pH7)したところ、多量のキレート剤が添加されているため(A)では沈殿が生じなかったが、それ以外の系について、白色の沈殿が確認された。吸引ろ過にて、沈殿物とろ液とに分離し、原子吸光法により、ろ液のアルミニウムイオン濃度を測定した。その結果を表1に示す。測定の結果、アルミニウムイオン濃度が減少していることと、沈殿物が生成したことから、沈殿物は水酸化アルミニウムであると考えられる。
【0055】
【表1】

【0056】
実施例2〜4および比較例1〜2 無電解銅メッキ老廃液処理
実施例1と同じ廃液を用いて、pH域の違いによる老廃液中の重金属分離回収の速さの違いを試験した。
すなわち、前記老廃液を100mlずつ6つのビーカーにとり、それぞれ、pH3(i)、pH5(ii)、pH7(iii)、pH9(iv)およびpH11(v)に塩酸を用いて調整した。ついで、アルミニウム薄板0.25gをそれぞれ添加し、撹拌した。まず、各pHにおけるアルミニウムからの気泡の発生状態を調べ、気泡が発生した場合は、撹拌開始からの経過時間を調べた。ついで、10分後、20分後、30分後、60分後、120分後、180分後、240分後、420分後および23時間後の銅イオン濃度を原子吸光光度計を用いて測定した。なお、各実施例および比較例が3ppm以下となった時点で実験を終了し、420分後になっても3ppmに達しない場合に23時間後を測定した。実施例1(pH13(vi))の結果とともに、測定結果を表2に示す。また、この結果をグラフとして図1に示す。
【0057】
【表2】

【0058】
pH3(i)、pH9(iv)、pH11(v)およびpH13(vi)では、撹拌時間と共に銅イオン濃度が減少し続けた。とくに、pH13においては、撹拌開始後30分で銅イオン濃度が3ppm以下となった。pH9およびpH11はそれぞれ120分後および420分後に3ppm以下となり、pH3では23時間後に3ppm以下となった。
一方、pH5(ii)およびpH7(iii)では、銅イオン濃度の減少はほとんど見られず、反応時間が極めて遅い。
【0059】
実施例5〜8および比較例3〜4 無電解銅メッキ老廃液処理
撹拌しなかったこと以外は、それぞれ実施例2〜4および比較例1〜2と同様にして、pH域の違いによる老廃液中の重金属分離回収の速さの違いを試験した。
すなわち、前記老廃液を100mlずつ6つのビーカーにとり、それぞれ、pH3(i)pH5(ii)、pH7(iii)、pH9(iv)、pH11(v)およびpH13(vi)に硫酸を用いて調整した。ついで、アルミニウム薄板0.25gをそれぞれ添加し、撹拌せずに放置した。まず、各pHにおけるアルミニウムからの気泡の発生状態を調べ、気泡が発生した場合は、撹拌開始からの経過時間を調べた。ついで、10分後、20分後、30分後、60分後、120分後、180分後、240分後、300分後、360分後、420分後および23時間後の銅イオン濃度を原子吸光光度計を用いて測定した。なお、各実施例および比較例が3ppm以下となった時点で実験を終了し、420分後になっても3ppmに達しない場合に23時間後を測定した。測定結果を表3に示す。また、この結果をグラフとして図2に示す。
【0060】
【表3】

【0061】
pH3(i)、pH9(iv)、pH11(v)およびpH13(vi)では、静置時間と共に銅イオン濃度が減少し続けた。とくに、pH13においては、240分で銅イオン濃度が3ppm以下となった。pH9およびpH11ではそれぞれ300分および420分後に3ppm以下となり、pH3では23時間後に3ppm以下となった。
一方、pH5(ii)およびpH7(iii)では、銅イオン濃度の減少はほとんど見られず、アルミニウム表面が銅で被覆されてしまったため反応が進まなくなった。
【0062】
このことから、本発明の方法によれば、析出した重金属は自然にアルミニウム表面から剥離するため、撹拌(または振動)することにより、析出した金属を強制的に剥離することなく、析出反応を進行させることができることがわかる。また、実施例1〜4のように撹拌することにより、さらに析出反応を早めることができる。
【0063】
実施例9 無電解銅メッキ付帯設備洗浄廃液処理
(銅の製造)
銅イオン150ppmおよび酸化剤(Na2S2O8)1重量%を含むメッキ付帯設備洗浄廃液(pH5)100mlに、水酸化ナトリウムを加えてpHを13に調整した。ついで、前記廃液にアルミニウム薄板0.01gを添加して、撹拌した。撹拌開始から数分後、アルミニウム表面上に、金属の析出および気体の発生が確認できた。約1時間後、老廃液が透明になり、液中にアルミニウム片と該金属の沈殿物を確認した。
アルミニウム片をピンセットで除去した後、ろ過により金属沈殿物と液体とを分離した。乾燥後の金属沈殿物は0.01g得られた。また、得られたろ液を原子吸光法にて測定したところ、銅イオン濃度はほぼ1ppm、アルミニウムイオン濃度は89ppmであった。この測定結果と反応式とから、得られた金属の沈殿物は銅であり、また、発生した気体は水素であると考えられる。
【0064】
実施例10 電解銅メッキ老廃液処理
銅イオン22500ppmを含むpH1の老廃液100mlに、塩化ナトリウム0.2gを添加した後、アルミニウム薄板1.0gを添加して、撹拌した。撹拌開始から数分後、アルミニウム表面上に、金属の析出および気体の発生が確認できた。約1時間後、老廃液が透明になり、液中にアルミニウム片と該金属の沈殿物を確認した。
アルミニウム片をピンセットで除去した後、ろ過により金属沈殿物と液体とを分離した。乾燥後の金属沈殿物は2.2g得られた。また、得られたろ液を原子吸光法にて測定したところ、銅イオン濃度はほぼ2.10ppm、アルミニウムイオン濃度は6587ppmであった。この測定結果と反応式とから、得られた金属の沈殿物は銅であり、また、発生した気体は水素であると考えられる。
【0065】
比較例5 無電解銅メッキ老廃液処理
実施例1と同じ廃液を用い、アルミニウム薄板の代わりに亜鉛粉末0.5g(ナカライテスク社製)を添加したこと以外は、実施例1と同様にして処理を行った。1時間後でも反応が見られなかったため、24時間撹拌を続けた。24時間後、亜鉛粉末の一部の溶解と金属の析出とを確認した。
ろ過後、ろ液を原子吸光光度計(株式会社日立製作所製、Z−8230)を用いて測定したところ、銅イオン濃度は1070ppmであった。
【0066】
比較例6 無電解銅メッキ老廃液処理
実施例1と同じ廃液を用い、塩酸によりpHを3に調整し、アルミニウム薄板の代わりに亜鉛粉末0.5g(ナカライテスク社製)を添加したこと以外は、実施例1と同様にして処理を行った。1時間後でも反応が見られなかったため、24時間撹拌を続けた。24時間後、亜鉛粉末が全量溶解したことを確認したが、金属の析出は確認できなかった。
ろ過後、ろ液を原子吸光光度計(株式会社日立製作所製、Z−8230)を用いて測定したところ、銅イオン濃度は1900ppmであった。
【0067】
比較例7 無電解銅メッキ老廃液処理
実施例1と同じ廃液を用い、塩酸によりpHを3に調整し、アルミニウム薄板の代わりに鉄粉0.5g(ナカライテスク社製)を添加したこと以外は、実施例1と同様にして処理を行った。1時間後でも反応が見られなかったため、24時間撹拌を続けた。24時間後、鉄粉が全量溶解したことを確認したが、金属の析出は確認できなかった。
ろ過後、ろ液を原子吸光光度計(株式会社日立製作所製、Z−8230)を用いて測定したところ、銅イオン濃度は1900ppmであった。
【0068】
比較例5〜7の結果、亜鉛粉末または鉄粉による処理では、処理後もろ液中に銅イオンが多く存在しており、処理能力が低いものであった。
【0069】
比較例8 無電解銅メッキ付帯設備洗浄廃液処理
実施例9と同じ廃液を用いて、共沈法により銅を水酸化物として得た。
すなわち、銅イオン150ppmおよび酸化剤(Na2S2O8)1重量%を含むメッキ付帯設備洗浄廃液(pH3)を25mlずつ5つのビーカーにとり、それぞれ共沈剤として、塩化マグネシウム0.1g(a)、硫酸鉄(II)0.1g(b)、塩化鉄(III)0.1g(c)を添加した。ついで、撹拌しながら水酸化カルシウムを添加してpH12に調整したところ、沈殿が確認された。吸引ろ過にて沈殿物とろ液とに分離し、原子吸光法により、ろ液の銅イオン濃度を測定した。その結果を表4に示す。
【0070】
【表4】

【0071】
結果、ろ液には銅イオンが多く存在しており、処理能力が低いものであった。
【0072】
比較例9 無電解銅メッキ付帯設備洗浄廃液処理
実施例2と同じ廃液を用いて、スピネルフェライト生成法により銅を水酸化物として得た。
すなわち、銅イオンに150ppmおよび酸化剤(Na2S2O8)1重量%を含むメッキ付帯設備洗浄廃液(pH3)に、1重量%となるように硫酸鉄(II)を加えた。ついで、撹拌しながら水酸化カルシウムを添加してpH10に調整し、小型ポンプで空気を送り込みながら、60℃で反応させた。1時間経過後、沈殿が確認された吸引ろ過により沈殿物とろ液とに分離し、原子吸光法により、ろ液の銅イオン濃度を測定したところ、5ppmであった。
結果、ろ液には銅イオンが残存しており、処理能力が十分ではなかった。また、有価物である金属銅を得るためには更なる処理が必要であり、経済的に好ましくない。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】実施例2〜4および比較例1〜2における、銅イオン濃度の測定結果を示したグラフである。
【図2】実施例5〜8および比較例3〜4における、銅イオン濃度の測定結果を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重金属イオンを含有する被処理液から、析出により重金属を製造する方法であって、該重金属イオンを含有する被処理液のpHを9以上に調整する工程、該被処理液にアルミニウムを添加する工程、および、析出した重金属を分離回収する工程を含む重金属の製造方法。
【請求項2】
さらに、重金属を回収した後の被処理液に、カルシウム塩および/またはマグネシウム塩を添加する工程を含む請求項1記載の重金属の製造方法。
【請求項3】
重金属イオンを含有する被処理液から、析出により重金属を製造する方法であって、該重金属イオンを含有する被処理液のpHを4以下に調整する工程、該被処理液にアルミニウムを添加する工程、および、析出した重金属を分離回収する工程を含む重金属の製造方法。
【請求項4】
さらに塩化物塩を添加する工程を含む請求項3記載の重金属の製造方法。
【請求項5】
前記塩化物塩が、塩化ナトリウムである請求項4記載の重金属の製造方法。
【請求項6】
さらに、重金属を回収した後の被処理液に、カルシウム塩および/またはマグネシウム塩を添加する工程を含む請求項3、4または5記載の重金属の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−1856(P2009−1856A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−163364(P2007−163364)
【出願日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】