説明

水処理方法及び水処理設備

【課題】放射性物質を含有する被処理水の水処理方法において、管理が容易な水処理方法を提供すること。
【解決手段】放射性物質を含有する被処理水を前記放射性物質の濃度を向上させた濃縮水と前記濃度を低下させた透過水とに逆浸透膜を用いて膜分離した後に放射性物質を吸着可能な吸着材に前記濃縮水を接触させて該吸着材に前記放射性物質を吸着させる吸着処理を実施して、該吸着処理後の吸着処理水の少なくとも一部を前記膜分離以前の工程に返送することを特徴とする水処理方法などを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性物質を含有する被処理水を処理する水処理方法と水処理設備とに関し、より詳しくは、放射性物質を吸着可能な吸着材が用いられた水処理方法と水処理設備とに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、放射能の平和利用が盛んに行われており、平和利用によって生じた放射性廃棄物はガラス化されて埋設処理されたりしている。
このような放射能を利用する施設や、放射性物質により汚染された廃棄物の貯蔵施設や埋立処分場(最終処分場)においては、予期せぬ形で放射性物質を漏洩させてしまうことがあり、地下水及び周辺土壌等を放射能汚染させるおそれを有する。
そして、このような放射性物質に汚染された廃棄物の埋立処分場では降雨などが生じると放射性物質を含有する浸出水が生じ、該浸出水に適切な処理がされない場合には汚染領域をさらに拡大させてしまうおそれを有する。
【0003】
この浸出水のような放射性物質を含有する水を処理するための水処理方法としては、吸着材を用いる方法が知られている。
すなわち、放射性物質を含有する水を被処理水とし、放射性物質を吸着可能な吸着材に前記被処理水を接触させて前記放射性物質を前記吸着材に吸着させることにより吸着処理後の吸着処理水の放射性物質の濃度を吸着処理前の前記被処理水よりも低下させる水処理方法が従来知られている。
【0004】
このような水処理方法に関して、例えば、下記特許文献1には吸着処理を実施させるための吸着処理部を吸着材充填塔によって構成させた水処理設備を用いることが記載されており、放射性物質を含有する被処理水を吸着材充填塔において吸着材に接触させて該被処理水の放射性物質の濃度を低下させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−206291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
なお、この種の被処理水には、放射性物質とは別に除去することが求められる有機物等が含有される場合がある。
しかし、この有機物の分解除去などのために放射性物質の吸着処理とは別に活性汚泥などを用いた生物学的な処理をしようとすると余剰汚泥等の新たなる処理対象物を発生させるおそれを有する。
しかも、この余剰汚泥に放射性物質が含有されている場合には、該余剰汚泥を脱水するとその放射性物質の濃度を向上させるおそれを有する。
【0007】
ところで、厚生労働省によって定められた「電離放射線障害防止規則」(以下「電離則」ともいう)においては、例えばセシウムでは放射能濃度が10,000Bq/kgを超えるものに関しては放射性物質として特に厳しい管理が求められており、東京都において定められた放射線障害防止指針などにおいては8,000Bq/kgを超える飛灰等に関して特別な管理が求められている。
【0008】
従って、前記のように余剰汚泥を脱水させて脱水ケーキ等を作製した場合には、この脱水ケーキに対して前記電離則等に基づく管理を必要にさせるおそれがある。
【0009】
このような問題は、有機物を含有する被処理水に限ったものではなく、例えば、除去すべき金属イオンが含有されている場合にキレート樹脂などを使って除去しようとすると、このキレート樹脂の取替えに際してその放射能濃度に注意を払う必要が生じ、仮にキレート樹脂の放射能濃度が前記のような濃度を超えている場合には、電離則等に基づく管理を必要とするおそれがある。
【0010】
本発明は、上記のような問題を解決することを課題としており、放射性物質を含有する被処理水の水処理方法において、管理が容易な水処理方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための水処理方法に係る本発明は、放射性物質を含有する被処理水を前記放射性物質の濃度を向上させた濃縮水と前記濃度を低下させた透過水とに逆浸透膜を用いて膜分離した後に放射性物質を吸着可能な吸着材に前記濃縮水を接触させて該吸着材に前記放射性物質を吸着させる吸着処理を実施して、該吸着処理後の吸着処理水の少なくとも一部を前記膜分離以前の工程に返送することを特徴としている。
【0012】
また、上記課題を解決するための水処理設備に係る本発明は、放射性物質を含有する被処理水を前記放射性物質の濃度を向上させた濃縮水と前記濃度を低下させた透過水とに膜分離する逆浸透膜分離装置を備えた膜分離部と、該膜分離部の前記逆浸透膜分離装置によって得られる濃縮水と放射性物質を吸着可能な吸着材とが接触されて該吸着材に前記濃縮水に含まれている放射性物質が吸着される吸着処理部とを有し、該吸着処理部で吸着処理された吸着処理水の少なくとも一部を前記膜分離部以前に返送する返送手段がさらに備えられていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、逆浸透膜による膜分離を実施することから、放射性物質のみならず、有機物等を濃縮水側に含有させうる。
従って、透過水に有機物等を含有させないように放射性物質の吸着処理とは別に別途生物学的な処理等を実施させる必要性を低減させ得る。
即ち、放射性物質の濃度が高い脱水ケーキなどが形成されるおそれなども抑制させることができ、この脱水ケーキなどのために特別な管理が必要となる事態を回避させうる。
このようなことから本発明によれば管理が容易な水処理方法が提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る水処理設備の概略構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る水処理設備において用いられる逆浸透膜分離装置の膜分離モジュールの概略構成を示す部分断面図である。
【図3】本発明の他実施形態に係る水処理設備の概略構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の水処理方法に係る実施の形態について、放射性汚染物質の埋設処理された埋立処分場(最終処分場)からの浸出水を被処理水とする場合を例にして、図を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態において用いる水処理設備の概略構成を示すブロック図であり図中の符号1は、前記水処理設備に導入される被処理水(原水)を浸出させるおそれのある埋立処分場を表し、符号2は、当該埋立処分場1から排出された浸出水を貯留するための受け槽を表している。
そして、符号200は、放射性物質を含有する被処理水を前記放射性物質の濃度を向上させた濃縮水と前記濃度を低下させた透過水とに膜分離するための膜分離部を表している。
さらに、図中の符号10、20は、それぞれ放射性物質を吸着可能な吸着材が収容された吸着処理部であり、10が前記膜分離部200の前段側において被処理水に対して第一の吸着処理を実施するための第一の吸着処理部(以下「第一吸着処理部」ともいう)であり、20が膜分離部200で得られる濃縮水に対して第二の吸着処理を実施させるための第二の吸着処理部(以下「第二吸着処理部」ともいう)である。
さらに、破線Aは、本実施形態の水処理設備において放射能濃度及び数量に基づく管理を行う管理区域を表している。
この図にも示されているように、本実施形態においては、第一吸着処理部10が管理区域内に設置されており、第二吸着処理部20や膜分離部200などのその他のものは管理区域外に設けられている。
【0016】
本実施形態の水処理設備には、図1に示すように、前記埋立処分場1から浸出する浸出水が処理される順に、第一吸着処理部10、一次処理水貯留部30、保安フィルター部130、膜分離部200、及び、前記第二吸着処理部20が備えられている。
また、本実施形態の水処理設備には、該第二吸着処理部20において吸着処理がされた後の吸着処理水に含まれる塩類や放射性物質が水を蒸発させることによって濃縮される蒸発濃縮部160と該蒸発濃縮部160で蒸発された水が凝縮された凝縮水を貯留する凝縮水貯留部170がさらに備えられている。
また、本実施形態の水処理設備には、前記凝縮水を第一吸着処理部10に返送する返送手段50を有している。
【0017】
本実施形態の水処理設備は、前記被処理水を濃縮水と透過水とに分離する第一の膜分離と、該第一の膜分離によって得られた透過水を濃縮水と透過水とに分離する第二の膜分離との少なくとも2段階に分けて前記膜分離を実施し得るように、前記膜分離部200に2台の逆浸透膜分離装置140,150が備えられており、前記第二の膜分離を実施する第二の逆浸透膜分離装置150(以下「第二逆浸透膜分離装置」ともいう)の透過水が処理水として系外に放出されるように構成されている。
また、本実施形態の水処理設備は、前記第一の膜分離を実施する第一の逆浸透膜分離装置140(以下「第一逆浸透膜分離装置」ともいう)によって得られる濃縮水と、前記第二逆浸透膜分離装置150によって得られる濃縮水とのそれぞれの濃縮水が前記第二吸着処理部20で吸着処理される被処理水として当該第二吸着処理部20に供給され得るように構成されている。
【0018】
前記第一膜分離装置140は、平面膜型モジュールを有し、膜分離を行う被処理水によって平面状の逆浸透膜の表面に乱流が形成されるような逆浸透膜分離装置であることが好ましく、前記第二膜分離装置150は、スパイラル型逆浸透膜モジュール、中空糸型逆浸透膜モジュール又はプリーツ型逆浸透膜モジュールを有する逆浸透膜分離装置であることが好ましい。
【0019】
この平面膜型モジュールを有する前記逆浸透膜分離装置としては、図2に例示されるような、複数のスペーサー7が配され、それぞれのスペーサー7間に逆浸透膜(平面膜6)が介装された平面膜型モジュール4を備えたものが挙げられる。
【0020】
図2に示される平面膜型モジュール4は、ディスクタイプの平面膜と、ディンプルの付いたスペーサーとが、交互に積層された構造からなるものである。
具体的には、平面膜型モジュール4は、円筒状の逆浸透膜モジュール本体5内に、円板状の平面膜(逆浸透膜)6が同じく円板状のスペーサー7の間に設けられた逆浸透膜部8が複数組積層されて構成されている。
前記逆浸透膜分離装置は、逆浸透膜モジュール本体5の内周面に被処理水を導入する被処理水流路9が設けられており、被処理水流路9から逆浸透膜の周囲に被処理水が導入され、該被処理水の導入によって平面膜6の表面において前記被処理水による乱流が形成されるように構成されている。
また、逆浸透膜部8の上部にはエンドプレート3が設けられ、浸透圧以上の圧力に耐えられるようになっている。
図2に示される平面膜型モジュール4において、透過水パイプ11は、逆浸透膜部8の中央部に貫通されている。
該平面膜型モジュール4は、前記透過水パイプ11により、逆浸透膜によって分離された透過水が排出され、濃縮水パイプ12により、各逆浸透膜によって濃縮された濃縮水がモジュール本体5外へ排出されるように構成されている。
【0021】
二段構えとした膜分離装置の前段側にこのような平面膜型モジュールを有する前記逆浸透膜分離装置を設けるのが好ましいのは、後段側のスパイラル型逆浸透膜モジュール、中空糸型逆浸透膜モジュール又はプリーツ型逆浸透膜モジュールを有する逆浸透膜分離装置に比べて膜面への付着物の形成が抑制されるためである。
一方で、後段側においては平面膜型モジュールを有する前記逆浸透膜分離装置の透過水が導入されるため、膜面に付着物が形成されるおそれが低く、装置の大きさに対して膜面積を広く確保することが容易なスパイラル型逆浸透膜モジュール、中空糸型逆浸透膜モジュール又はプリーツ型逆浸透膜モジュールを有する逆浸透膜分離装置を用いることが好ましい。
【0022】
本実施形態においては、これらの逆浸透膜分離装置で構成される膜分離部200で得られた濃縮水が、前記第二吸着処理部20を通じて、例えば、第一吸着処理部10へと返送される。
なお、該第二吸着処理部20から前記第一吸着処理部10へは、前記第二吸着処理部20で吸着処理した吸着処理水の全てを返送しても一部のみを返送しても良い。
また、前記被処理液に有機物や金属イオンなどが含有されていた場合でも、前記第二膜分離装置150の透過水に系外への排出基準値を超えて有機物や金属イオンが含有されることを抑制させることができる。
従って、生物処理やキレート処理といった工程を行う必要性を低減させることができ、例えば、生物処理などに付随して実施されるpH調整や凝集沈殿処理といった工程もその必要性を低減させることができる。
【0023】
一方で、放射性物質については、第二吸着処理部20と第一吸着処理部10とを通じて吸着処理されるため、その濃度が十分に低減され、第二膜分離装置150の透過水における放射性物質の濃度を系外に放流するのに適したものとすることができる。
【0024】
なお、本実施形態においては、前記第二吸着処理部20は、吸着材を収容するための容器と、該容器に収容させた吸着材とを有する吸着塔によって構成されており、前記容器の一方から導入された被処理水を、該容器内部の吸着材に接触させながら容器の他方側に移動させて排出すべく構成された吸着塔によって構成されている。
即ち、前記吸着塔は、被処理水と吸着材との接触によって被処理水に含有される放射性物質が前記吸着材に吸着されて該被処理水よりも放射性物質の濃度が低下された吸着処理水を得るように構成されている。
【0025】
なお、この第二吸着処理部20においては、吸着させる放射性物質が、放射性セシウム、放射性ヨウ素、放射性ストロンチウムなどの場合には、前記容器に収容させるための吸着材としては、ゼオライトなどのアルミノケイ酸塩鉱物;雲母やセリサイトなどのフィロケイ酸塩鉱物;フェロシアン化カリウム、フェロシアン化コバルト、フェロシアン化鉄などのフェロシアン化合物などを好適に採用することができる。
なお、これらの物質は、吸着材として利用する際には、単独で用いても、複数混合して用いてもよい。
その場合には、これらを粉末や該粉末を焼結させた多孔質材の形態で利用することができる。
一方で、容器については、放射線によって大きな物性低下を生じないようなものであれば特にその材質が限定されるものではない。
【0026】
このような吸着塔によって第二吸着処理部20を構成させる場合には、前記第一吸着処理部10は、前記第二吸着処理部20の吸着塔において吸着材を収容している容器の数倍から数十倍以上の容積を有するコンクリート製の槽(以下「コンクリート槽」ともいう)によって構成させることが好ましい。
なお、本実施形態における第一吸着処理部10のコンクリート槽は、前記埋立処分場の一部に一定厚みを有するコンクリートによって周壁と底面壁とを形成される形で設けられており、その内外が完全に隔離されるようにして設けられている。
また、第一吸着処理部10は、コンクリート槽中に一定の堆積厚みとなるように吸着材を収容させて内部に前記吸着材による吸着材層を形成させているとともに、地上部から前記吸着材層を通る形でコンクリート槽の槽底に向かって延びる吸引管を有している。
この第一吸着処理部10において前記吸着材層を形成させるための吸着材としては、第二吸着処理部20に関して説明したものと同じような材質のものを採用することができる。
ただし、第一吸着処理部10において用いる吸着材は、第二吸着処理部20において用いる吸着材と同じである必要はなく、形状や材質等を第二吸着処理部20において用いる吸着材と異ならせていてもよい。
また、逆に、第二吸着処理部20と用いる吸着材を共通させて、第二吸着処理部20と全く同じ吸着材で前記吸着材層を形成させてもよい。
【0027】
そして、本実施形態においては、第一吸着処理部10は、前記埋立処分場から降雨等によって浸出した浸出水を被処理水とし、該被処理水を前記受け槽2を経由させて被処理水として前記コンクリート槽の上部から導入させるとともに前記吸着材層を下降流となって通過した被処理水を前記コンクリート槽の底部から前記吸引管を通じて地上に汲み上げて一次処理水として前記一次処理水貯留部30に流下させ得るように構成されている。
即ち、第一吸着処理部10は、前記吸着材層を通過する被処理水中の放射性物質を前記吸着材に吸着させて該被処理水の放射性物質の濃度を低下させ得るように構成されている。
【0028】
また、当該第一吸着処理部10を構成させるコンクリート槽は、前記吸着材層の上側に十分な収容スペースを有し、後述するように前記第二吸着処理部20の吸着材を新しいものに入れ替えた際にそれまで第二吸着処理部20で用いていた吸着材をこの吸着材層の上に新たに堆積させてこのコンクリート槽中での吸着処理に利用可能となっていることが好ましい。
【0029】
なお、本実施形態においては、放射性物質を吸着材に吸着させた後の吸着処理水をコンクリート槽内に設けた吸引管を通じてコンクリート槽から汲み上げるような態様を第一吸着処理部10における第一の吸着処理の具体的な方法として例示しているが、前記コンクリート槽の底部に排出口を設けてコンクリート槽の底部から吸着処理された水を排出させてもよい。
ただし、当該第一吸着処理部は、最終的には完全に外界と遮断された閉鎖空間となるように構成されることが好ましい点において、底部に排出口などを設けない方が好ましく、前記のような上部側にのみ開口を有するコンクリート槽を採用することが好ましい。
【0030】
なお、第一吸着処理部の後段側に設けられた前記一次処理水貯留部30は、前記第一吸着処理部10で吸着処理された吸着処理水を次段以降の処理に供するのに際してその流量や水質を安定化させるための調整槽を備えさせたものとすることができる。
また、前記第一吸着処理部10に前記第二吸着処理部20から吸着処理水を返送するための返送手段50としては、液体を搬送するための手段であれば特に限定されず、例えば、配管とポンプ等を用いて形成させることができる。
【0031】
このような水処理設備を用い、前記浸出水を処理する水処理方法においては、前記第二吸着処理部20の吸着材が、その放射能濃度が10,000Bq/kg以下、好ましくは8,000Bq/kg以下の状態で新たな吸着材に取替える吸着材取替工程を実施することが当該水処理方法を簡便なものとする上において好適である。
即ち、上記のような放射能濃度を示す状態において第二吸着処理部20の吸着材を取り扱うことで、この吸着材の取り扱いに電離則等に定められた厳重な管理を行う必要性を低減させることができる。
なお、第二吸着処理部20の吸着材が過度に放射能濃度が低い状態で前記吸着材取替工程を実施すると当該吸着材取替工程を頻繁に実施しなければならなくなり、水処理を実施する上での効率面から好ましいものではない。
従って、前記吸着材取替工程は、第二吸着処理部20の吸着材の放射能濃度が6,400Bq/kg以上の状態で実施することが好ましい。
【0032】
なお、第二吸着処理部20の吸着材が、どの程度の放射能濃度となっているかについては、この第二吸着処理部20に導入される濃縮水の放射性物質含有量と、該第二吸着処理部20から流下される吸着処理水の放射性物質含有量とを比較して処理水量から予測することができる。
なお、通常、前記第二逆浸透膜分離装置150から系外に排出される透過水には放射性物質が含まれていたとしてもその影響を無視できる程度に微量しか含有されないことから、例えば、一次処理水貯留部30において調整槽に貯留されている水の放射性物質含有量を濃縮水の放射性物質含有量に代えて測定しても同じように第二吸着処理部20の吸着材がどの程度の放射能濃度となっているかを予測することができる
【0033】
ただし、通常、水質の測定には時間を要することから、別の方法として、第二吸着処理部近傍の空間線量を測定することで、予め準備した吸着量と空間線量の関係性のデータと比較することによって吸着塔内部の放射能濃度を推定する方法を採用することもできる。
この方法によれば、空間線量はすぐに測定することができるため、当該測定時点の吸着量を反映でき、交換のタイミングを正確に管理出来る。
なお、吸着量と空間線量の関係は吸着材毎に異なる場合があるため、それぞれの吸着材毎にデータを測定しておくことが好ましい。
【0034】
また、本実施形態の水処理方法においては、この吸着材取替工程において取替えられた第二吸着処理部20の前記吸着材を前記第一吸着処理部10での吸着処理に利用することが吸着材の消費量を抑制させる上において好適である。
即ち、第二の吸着処理に用いられた吸着材は、放射能濃度が10,000Bq/kg以下、場合によっては、8,000Bq/kg以下で新たなものに取り換えられることが好ましいものであるが、通常、この程度の放射能濃度であれば、いまだに十分な吸着性能を有しているために、これを第一の吸着処理において有効に活用することが好ましい。
【0035】
本実施形態の好ましい水処理設備においては、前記第一吸着処理部10における吸着材の収容スペースが、前記第二吸着処理部20における吸着材の収容スペースに比べて格段に大きいものとされることから、数回、あるいは、数十回の吸着材取替工程を実施しても該吸着材取替工程前に吸着塔に収容されていた古い吸着材を第一吸着処理部10のコンクリート槽に収容させることができる。
ここで、第二吸着処理部20においてそれまで用いられていた吸着材を前記第一吸着処理部10の吸着材に加えて該第一吸着処理部の吸着材層の厚みを増大させることで、それまでに比べて第一吸着処理部10における放射性物質の吸着量を増大させることができ、同じような放射性物資の濃度の浸出水が発生していた場合でも、吸着材取替工程後(取り換えた吸着材の第一吸着処理部への収容後)において一次処理水貯留部30に向けて流下される吸着処理水の放射性物資の濃度を低減させることができる。
【0036】
即ち、第一吸着処理部10は吸着材取替工程後に吸着処理に利用される時間の経過とともに放射性物質の吸着性能が低下するが、その後、吸着材取替工程により吸着材が追加されるので第一吸着処理部全体としての吸着性能がこの吸着材取替工程時点で向上されることになる。
【0037】
なお、この第一吸着処理部10のコンクリート槽に第二吸着処理部20から吸着材を持ち込めなくなった場合には、コンクリート槽内にコンクリートを導入し、吸着材とコンクリートとを混合して不溶化処理を施すとともにコンクリート槽の上部もコンクリートで蓋をして完全に外界と遮断された閉鎖空間とさせればよい。
そして、埋立処分場に、(例えば、閉鎖させた第一吸着処理部の隣の区画に)新たに第一吸着処理部を設けて水処理を継続させればよい。
このように、本実施形態においては、基本的に第一吸着処理部のみを管理区域として水処理を行うことができ、放射能濃度が10,000Bq/kgを超える状態で第二吸着処理部の吸着材を取り換える場合に比べて管理を容易にすることができる。
【0038】
なお、本実施形態においては、膜分離により有機物、塩類及び放射性物質等が濃縮水側に濃縮される。
そのため、本実施形態においては、前記返送手段50を設けたことによる系内の塩類循環を防止するために、前記蒸発濃縮部160において第二吸着処理部20通過後の水についての蒸発濃縮処理を行い、塩分等を固化処理することで、系内の塩類循環を防止するようにしている。
ただし、ここで固化される成分に放射性物質が10,000Bq/kgを超える濃度で含有されると、特別な管理が必要になるおそれがあることから、蒸発濃縮処理は得られる固体が10,000Bq/kg以下、好ましくは8,000Bq/kg以下の放射能濃度となるように実施することが好ましい。
このような処理を実施する場合、蒸発した水分は前記凝縮水貯留部170を通じて排出しても良いし、前記第一吸着処理部10、前記一次処理水貯留部30などのいずれか、又は、これらを含む複数個所に返送して循環させても良い。
また、第二吸着処理部20通過後の水は、一部をそのまま循環させて、残りの一部を蒸発濃縮処理しても良い。
【0039】
(その他の実施形態)
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく上記例示の実施形態に対して従来公知の技術事項を適宜付加したり、上記例示した各構成の内、本発明の本質的な部分ではないものについてはこれを適宜削除することもできる。
さらには、上記例示の構成を同種の機能を有するものに変更したり、処理の流れにおける各構成の順番を入れ替えたりすることも可能である。
【0040】
例えば、逆浸透膜が放射性物質によって劣化して通常よりも過度に耐用期間が短くなるようなおそれがある場合には、図3に示すように、前記膜分離部200の直前に別の吸着処理部21を設けることができる。
さらには、第二膜分離装置150の濃縮水には、通常、放射性物質が極僅かにしか含有されないことからこの濃縮水を第二吸着処理部20に導入させることなく、前記第一吸着処理部10に返送させて該第一吸着処理部10だけで吸着処理をさせるようにしてもよい。
また、第一膜分離装置140によって十分に放射性物質を除去しうる場合は、第二膜分離装置150を設けない構成としても良い。
一方で、実際の使用において、安全のために膜分離部の後段においてセーフティーネットとして第三の吸着処理部を設けて排出される透過水を処理するようにしても良い。
即ち、逆浸透膜に予期せぬ破損等が生じて透過水側に放射性物質が漏洩した場合を想定して前記第三の吸着処理部によってセーフティーネットを構成させてもよい。
さらに、濃縮水に対して蒸発濃縮処理を行う構成としているが、この構成は必須では無い。即ち、濃縮水中の塩濃度が問題とならない場合、蒸発濃縮処理を行わずに返送する構成としても良い。
【0041】
さらには、ここではこれ以上の詳述を行わないが、上記例示以上の変更を加え得ることは説明するまでもなく当然の事柄である。
【符号の説明】
【0042】
4 平面膜型モジュール
6 平面膜
7 スペーサー
9 被処理水流路
10 第一吸着処理部
20 第二吸着処理部
30 一次処理水貯留部
50 返送手段
140 第一逆浸透膜分離装置
150 第二逆浸透膜分離装置
200 膜分離部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性物質を含有する被処理水を前記放射性物質の濃度を向上させた濃縮水と前記濃度を低下させた透過水とに逆浸透膜を用いて膜分離した後に放射性物質を吸着可能な吸着材に前記濃縮水を接触させて該吸着材に前記放射性物質を吸着させる吸着処理を実施して、該吸着処理後の吸着処理水の少なくとも一部を前記膜分離以前の工程に返送することを特徴とする水処理方法。
【請求項2】
前記膜分離を複数の逆浸透膜分離装置を用いて実施し、被処理水を濃縮水と透過水とに分離する第一の膜分離と、該第一の膜分離によって得られた透過水を濃縮水と透過水とに分離する第二の膜分離との少なくとも2段階に分けて前記膜分離を実施し、それぞれの膜分離によって得られた濃縮水を前記吸着処理して前記返送させる請求項1記載の水処理方法。
【請求項3】
前記第一の膜分離を、逆浸透膜の表面において前記被処理水による乱流が形成されるように構成された平面膜型モジュールを有する逆浸透膜分離装置で実施し、前記第二の膜分離をスパイラル型逆浸透膜モジュール、中空糸型逆浸透膜モジュール、プリーツ型逆浸透膜モジュールのいずれかのモジュールを有する逆浸透膜分離装置で実施する請求項2記載の水処理方法。
【請求項4】
前記濃縮水の吸着処理に用いる吸着材とは別に準備した吸着材に前記膜分離前に被処理水を接触させて放射性物質を吸着させる第一の吸着処理を実施し、該第一の吸着処理によって得られた吸着処理水を前記膜分離し、該膜分離によって得られた濃縮水に対する前記吸着処理を第二の吸着処理として実施する請求項1乃至3のいずれか1項に記載の水処理方法。
【請求項5】
前記第二の吸着処理に用いた吸着材の放射能濃度が10,000Bq/kgを超える前に該吸着材を新たな吸着材に取替える吸着材取替工程を実施し、取替えられた前記吸着材を前記第一の吸着処理に利用する請求項4記載の水処理方法。
【請求項6】
前記吸着材取替工程を、前記吸着材の放射能濃度が8,000Bq/kg以下で実施する請求項5記載の水処理方法。
【請求項7】
処理する前記被処理水には、放射性物質又は放射性物質により汚染された廃棄物が埋設処理された埋立処分場から浸出する浸出水が含有されている請求項1乃至6のいずれか1項に記載の水処理方法。
【請求項8】
放射性物質を含有する被処理水を前記放射性物質の濃度を向上させた濃縮水と前記濃度を低下させた透過水とに膜分離する逆浸透膜分離装置を備えた膜分離部と、該膜分離部の前記逆浸透膜分離装置によって得られる濃縮水と放射性物質を吸着可能な吸着材とが接触されて該吸着材に前記濃縮水に含まれている放射性物質が吸着される吸着処理部とを有し、該吸着処理部で吸着処理された吸着処理水の少なくとも一部を前記膜分離部以前に返送する返送手段がさらに備えられていることを特徴とする水処理設備。
【請求項9】
前記膜分離部には、該膜分離部に導入された被処理水を濃縮水と透過水とに分離する第一の逆浸透膜分離装置と、該第一の逆浸透膜分離装置によって得られた透過水を濃縮水と透過水とに分離する第二の逆浸透膜分離装置との少なくとも2つの逆浸透膜分離装置が備えられており、それぞれの逆浸透膜分離装置によって得られた濃縮水を前記吸着処理部で吸着処理させるように構成されている請求項8記載の水処理設備。
【請求項10】
前記第一の逆浸透膜分離装置が、逆浸透膜の表面において前記被処理水による乱流が形成されるように構成された平面膜型モジュールを有する逆浸透膜分離装置であり、前記第二の逆浸透膜分離装置が、スパイラル型逆浸透膜モジュール、中空糸型逆浸透膜モジュール、プリーツ型逆浸透膜モジュールのいずれかのモジュールを有する逆浸透膜分離装置である請求項9記載の水処理設備。
【請求項11】
吸着材を接触させて被処理水に含まれている放射性物質を吸着させる第一の吸着処理部が前記膜分離部の前段側にさらに備えられており、前記膜分離部の後段側で前記濃縮水に対する吸着処理を実施する前記吸着処理部が第二の吸着処理部として備えられている請求項8乃至10のいずれか1項に記載の水処理設備。
【請求項12】
前記第二の吸着処理部の吸着材の放射能濃度が10,000Bq/kgを超える前に該吸着材が新たな吸着材に取替えられて用いられ、該取替えられた前記吸着材が前記第一の吸着処理部の吸着材に加えられて該第一の吸着処理部での吸着処理に利用される請求項11記載の水処理設備。
【請求項13】
前記第二の吸着処理部の吸着材が、前記放射能濃度が8,000Bq/kg以下で新たな吸着材に取替えられて用いられる請求項12に記載の水処理設備。
【請求項14】
放射性物質又は放射性物質により汚染された廃棄物が埋設処理された埋立処分場から浸出する浸出水を含んだ前記被処理水の処理に用いられる請求項8乃至13のいずれか1項に記載の水処理設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−96701(P2013−96701A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236409(P2011−236409)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000192590)株式会社神鋼環境ソリューション (534)