説明

水可溶型保護被膜被覆ステンレス鋼板

【目的】 保護被膜を弱アルカリ水溶液で除去可能な保護被膜被覆ステンレス鋼板を提供する。
【構成】 シリカ粉末を0.5〜30mass%含有する酸価が40〜500のアクリル樹脂被膜またはこのシリカ含有アクリル樹脂被膜に平均粒径0.1〜40μmの高分子樹脂粉末を1〜25mass%添加した被膜をステンレス鋼板表面に10〜100μm形成した。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、保護被膜を弱アルカリ水溶液で除去可能な保護被膜被覆ステンレス鋼板に関する。
【0002】
【従来技術】ステンレス鋼板は、耐食性、外観に優れているので、厨房機器、建材などに見られるごとく、多くの用途ではステンレス鋼板特有の肌をそのまま活かして使用している。しかし、ステンレス鋼板は表面に傷が付くと極めて目立ち易いという欠点がある。このため、ステンレス鋼板の表面をそのまま利用する用途に対しては運搬、加工および取り扱い時などに傷が付くのを防止するため、塩化ビニル樹脂の保護フィルムを貼付けていた。また、塩化ビニル樹脂の保護被膜は、潤滑性、加工性が不十分なため、加工の際には保護フィルムの上にプレス油を塗布していた。そして、加工品を製品に組み立て後や施工後にプレス油を塩素系溶剤やアルカリ系水溶液で除去し、その後保護フィルムを手作業で剥離していた。
【0003】しかしながら、プレス油除去の際の塩素系溶剤やアルカリ系水溶液の使用は、作業者の健康を損なう恐れがあり、環境汚染防止のために廃液処理に多大の費用を要していた。また、保護フィルムは加工によりしごきを受けると、ステンレス鋼板に強固に密着してしまうため、手作業で保護フィルムを剥離するのに多くの労力、時間および費用を要していた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、これらの問題を解決した保護被膜被覆ステンレス鋼板を提供するものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、シリカ粉末を0.5〜30mass%含有する酸価が40〜500のアクリル樹脂被膜またはこのシリカ含有アクリル樹脂被膜に平均粒径0.1〜40μmの高分子樹脂粉末を1〜25mass%添加した被膜をステンレス鋼板表面に10〜100μm形成した。
【0006】
【作用】酸価が40〜500のアクリル樹脂被膜がシリカを含有していると、強靭になり、耐傷付き性が向上するので、この被膜で被覆したステンレス鋼板が加工の際にしごきを受けても、被膜は破損しない。また、アクリルエマルジョンのような溶液で被膜を形成する場合、被膜が収縮するが、シリカ粉末を含有していると、被膜に割れが発生するのを防止する。また、酸価が40〜500のアクリル樹脂はpH7以上の水溶液に溶解するので、水溶液に浸漬するだけで除去でき、その被膜がステンレス鋼板に強固に付着していても、除去できる。さらに、酸価が40〜500のアクリル樹脂被膜に樹脂粉末を添加すると、潤滑性が向上するので、無塗油で加工可能になる。
【0007】ステンレス鋼板を被覆するアクリル樹脂としては、アクリル酸、メタアクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルの重合体または共重合体が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルとしては、メチル(メタ)アクリレ−ト、エチル(メタ)アクリレ−ト、ブチル(メタ)アクリレ−ト、2−エチルヘキシルアクリレ−トなどがある。共重合体としては、スチレン、アクリロニトリル、アクリルアミド、ブタジエン、ビニルアセテ−トとの共重合体が挙げられる。
【0008】アクリル樹脂は、酸価を40〜500にする。ここで酸価とは樹脂1g中に含まれる遊離脂肪酸を中和させるのに要する水酸化カリウムのミリグラム数のことで、酸価が40未満であると、pH7以上の水溶液による溶解除去が困難であり、500を超えると、被覆が脆弱になり、耐傷付き性が劣り、加工の際に被膜が破れる恐れがある。溶解除去と被膜強度を調和させるには、酸価を100〜300の範囲にするのが好ましい。
【0009】アクリル樹脂被膜に含有させるシリカ粉末は、含有量が0.5mass%未満であると、耐傷付き性が不十分で、30mass%を超えると、処理液の安定性が不十分となり、シリカ粉末の沈降やゲル化が生じ、また、被膜が脆くなって耐傷付き性が低下するので、0.5〜30mass%にする。
【0010】アクリル樹脂被膜には、高分子樹脂粉末を潤滑剤として添加すると、潤滑性が向上し、無塗油で加工が可能になり、塗油工程や脱脂工程を省略できる。しかし、樹脂粉末の添加量が1mass%未満であると、プレス油を塗油した場合より潤滑性が劣り、25mass%を超えると、被膜中への分散が困難になり、また、被膜とステンレス鋼板との密着性も低下する。このため、添加量は1〜25mass%にする。また、樹脂粉末は平均粒径が0.1μm未満であると、被膜からあまり突出しないため、潤滑性があまり得られず、40μmを超えると、加工時に樹脂粉末が脱落し、潤滑性を発揮しない。このため、平均粒径は0.1〜40μmにする。
【0011】樹脂粉末としては、特に限定はないが、テトラフルオロエチレンのようなフッ素樹脂、高圧ポリエチレンのようなポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレ−トのようなポリエステル樹脂の粉末が挙げられる。
【0012】アクリル樹脂被膜の膜厚は、10μm未満であると、加工時にステンレス鋼板表面への傷付き防止が困難になり、100μmを超えると、加工後の被膜剥離が困難になり、さらに、形成時に被膜乾燥が困難になり、被膜が脆弱になる。このため、被膜の膜厚は10〜100μmにする。
【0013】ステンレス鋼板表面へのアクリル樹脂被膜形成は、アクリル樹脂エマルジョンをロ−ルコ−タ−のような均一被膜の得られる塗装法で塗布して、乾燥すればよい。
【0014】
【実施例】酸価の異なるメチルメタクリレ−ト、ブチルメタクリレ−ト、メタクリレル酸から成るアマリル樹脂のエマルジョンにシリカゾルまたはこれとともにポリエチレン樹脂粉末を添加して、表1に示すような処理液を調製し、この処理液の安定性、均一塗布性を下記方法で調査した。この結果を表1に示す。また、表1の処理液をステンレス鋼板にバ−コ−タ−で塗布して、オ−ブンで乾燥して、得られたアクリル樹脂被膜被覆ステンレス鋼板の被膜密着性、耐傷付き性、潤滑性、被膜の溶解性および加工性を下記方法で調査した。この結果を表2に示す。
【0015】(1)処理液の安定性処理液を40℃に保ち、増粘やゲル化が10日間経過しても認められないものを○、24時間から10日以内に認められたものを△、24時間以内に認められたものを×で評価した。
(2)塗布均一性処理液の塗布、乾燥後被膜に割れが認められないものを○、割れが認められたものを×で評価した。
【0016】(3)被膜密着性試験片に180度折り曲げ加工を施して、曲げ部をセロテ−プで剥離し、被膜残存率が90%以上のものを○、60%以上90%未満のものを△、60%未満のものを×で評価した。
(4)耐傷付き性Aクレメンス型引掻き硬さ試験機により鋼板表面に傷が付く荷重が200gf以上であるものを○、150gf以上200gf未満であるものを△、150gf未満であるものを×で評価した。
【0017】(5)耐傷付き性B円筒絞り加工試験を行い、加工部に傷付きが認められないものを○、一部に傷付きが認められたものを△、加工部全体に傷付きが認められたものを×で評価した。
(6)潤滑性表面性状測定機によりSUS304、BA仕上げステンレス鋼板表面に対する動摩擦係数を荷重200gf、移動速度60mm/minで測定し、動摩擦係数が0.2未満のものを○、0.2以上、0.3未満のものを△、0.3以上を×で評価した。
【0018】(7)被膜の溶解性試験片を常温のアンモニア水(pH11)またはアルカリ脱脂液(pH12)に浸漬して、被膜が完全に溶解するまでに要する時間が2分未満のものを○、2分以上、5分未満のものを△、5分以上のものを×で評価した。
(8)加工性ポンチ径40mm、絞り比2.3、しわ押さえ力2.5×104Nの条件で円筒絞り加工を行い、加工前後の試験片径の比(O.D.R)が0.92未満のものを○、0.92以上、0.96未満のものを△、0.96以上のものを×で評価した。
【0019】
【表1】


【0020】
【表2】


【0021】
【発明の効果】以上のように、本発明の保護被膜被覆ステンレス鋼板は、保護被膜が潤滑性に優れているので、加工の際にプレス油を塗布する必要がない。また、被膜はpH7以上の水溶液に溶解するので、水溶液に浸漬しておけば除去でき、手作業で剥離する必要がない。従って、加工作業性は著しく改善される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 シリカ粉末を0.5〜30mass%含有する酸価が40〜500のアクリル樹脂被膜をステンレス鋼板表面に10〜100μm形成したことを特徴とする水可溶型保護被膜被覆ステンレス鋼板。
【請求項2】 アクリル樹脂被膜に平均粒径0.1〜40μmの高分子樹脂粉末を1〜25mass%添加したことを特徴とする請求項1に記載の水可溶型保護被膜被覆ステンレス鋼板。