説明

水和反応制御方法と発熱材

【課題】生石灰(焼成ドロマイトを含む)の保存性を高め、密閉されていない条件で長期に保存した場合でも、雰囲気から水分を吸収して消化されてしまうことがなく、しかも、水和反応を行なおうとするときはいつでも水和が可能なような生石灰と、その製造方法を提供する。あわせて、その生石灰を所望の時点で水和させて、その発熱を安全に利用する方法を提供する。
【解決手段】生石灰の粒子の表面に、アクリルゴム、カルボキシ変性ニトリルゴムまたはそれらの混合物のコーティングを設ける。水和に当たっては、このコーティングを破壊するトリガー物質として、第四級アンモニウム塩である界面活性剤を含む水和水を作用させる。水和水の適用から若干のタイムラグをへたのち、発熱が始まって、顕著に進行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水和反応性を制御し、保存性がきわめて高い生石灰または焼成ドロマイト(以下の説明において、焼成ドロマイトに言及する必要がない場合は、「生石灰」で代表させる)と、その製造方法に関する。本発明はまた、保存性がきわめて高い生石灰を水和させ、その発熱を利用する水和方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
生石灰は、その水和に伴って生じる大きな発熱が、たとえば食品の加熱に利用するなど、さまざまな分野で利用されている。その場合、発熱が急激に起こるという問題がある。反応が急激であると、取り扱いに危険が伴ったり、生石灰全体に水和水が行き渡らないうちに表層部だけで発熱が起こって、水和水が蒸発してしまったりするという問題がある。この対策としては、水和水の量を十分多くするとともに、ショ糖のような反応遅延剤を添加することが提案されている(特許文献1)。
【0003】
水和反応の速度を制御する方法として、粒状に粉砕した生石灰の表面に、スルホン化メラミン樹脂の粉末を付着させ、その付着量を増減することによって水和反応の時間を制御する技術も開示されている(特許文献2)。生石灰それ自体が遅延された水和反応性を有するものを製造する技術も公開されている(特許文献3)。その方法は、粗粉砕された生石灰に、界面活性剤または油脂を添加し、さらに微粉砕するという段階を踏むものである。
【特許文献1】特開昭61−232817
【特許文献2】特開平1−208317
【特許文献3】特開平9−169551
【0004】
生石灰のもついまひとつの問題は、水和反応性がきわめて高く、保存性が低いことである。密閉して保存することは容易でないから、雰囲気中の水分を吸収して水酸化物になる「ふけ」が避けがたい。それを防止するために、表面を炭酸化したり、表面にタールのような防水性の物質を塗布したりする対策が考えられている。しかし、その効果は十分とはいえないし、いざ水和反応をさせる段階に至ったとき、所望の速度で水和を進めることもまた、困難がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の第一の目的は、生石灰の保存性を高め、密閉されていない条件で長期に保存した場合でも、雰囲気から水分を吸収して消化されてしまうことがなく、しかも、水和反応を行なおうとするときはいつでも水和が可能なような生石灰を提供することにある。本発明の第二の目的は、上記のような特性を持った生石灰を製造する好適な方法を提供することにある。本発明の第三の目的は、上記のような特性を持った生石灰を所望の時に水和して、水和反応に伴う発熱を利用する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一の目的を達成する、水和反応性を制御した生石灰または焼成ドロマイト(ここでも、以下の説明に必要がない限り「生石灰」で両者を代表させる)は、生石灰の粒子の表面に、アクリルゴム、カルボキシ変性ニトリルゴムまたはそれらの混合物のコーティングを設けたことを特徴とする。
【0007】
本発明の第二の目的を達成する、水和反応性を制御した生石灰を製造する方法には、二つの態様がある。基本的な態様は、アクリルゴム、カルボキシ変性ニトリルゴムまたはそれらの混合物を溶媒に溶解した溶液を用意し、この溶液を生石灰の粒子の表面に適用したのち、溶媒を揮発させることによりコーティングを行なうことを特徴とする製造方法である。
【0008】
水和反応性を制御した生石灰を製造する方法の好適な態様は、アクリルゴム、カルボキシ変性ニトリルゴムまたはそれらの混合物を溶媒に溶解した溶液を用意し、生石灰または焼成ドロマイトの粒子をこれに浸漬したのち、貧溶媒を添加して、溶質である上記のゴムを析出させることによりコーティングを行なうことを特徴とする製造方法である。
【0009】
本発明の第三の目的を達成する、水和反応性を制御した生石灰を水和させる方法は、上記の生石灰に対し、上記のコーティングを破壊して水和水の接触を可能にするトリガー物質を添加した水和水を適用することを特徴とする水和方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水和反応性を制御した生石灰は、きわめて保存性が高く、雰囲気中に放置しても長期にわたってその水和が防止されるから、必要なときに水和を行なって、期待したとおりの水和反応熱を完全に利用することができる。
【0011】
本発明の水和反応性を制御した生石灰の製造方法は、基本的な態様も好適な変更態様も、ともに上記したような性能を有する生石灰または焼成ドロマイトを与える。水和反応性を制御するコーティング材料の使用量を調節すれば、コーティング層の厚さを調節することができ、それによって、水和水を適用してから発熱が顕著になるまでの「タイムラグ」の長さを、ある範囲内で選択することができる。
【0012】
本発明の水和反応性を制御した生石灰を水和させる方法は、水和水を適用してから、トリガー物質によるコーティングの破壊に要する若干の時間を経過したのち、水和が起こる。すなわち、水和水の適用から発熱までに、上記したタイムラグがあり、これは、たとえば発熱を、燻蒸剤の蒸発のために利用する場合、利用者らの安全な退避が容易になる、といった利益をもたらす。いったん水和が進行し始めれば、発熱は急速に起こって、水和熱をほぼ完全に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
アクリルゴムとは、アクリル酸エステルを重合させて得られる合成ゴムであって、界面活性剤を作用させたときに可溶化する性質をもっている。カルボキシ変性ニトリルゴムとは、詳細にいえばカルボキシ変性アクリロニトリルブタジエンゴムであって、分子中のカルボキシル基の存在により、後記するようなトリガー物質を作用させたとき、生石灰の粒子の表面に設けたコーティングが破壊される特性をもっている。両者は、任意の割合で混合して使用することもできる。
【0014】
アクリルゴム、カルボキシ変性ニトリルゴムまたはそれらの混合物に対する溶媒としては、極性をもった分子構造の有機溶媒のさまざまなものが使用できるが、ありふれた溶媒であるアセトンが、これらのゴムに対する十分な溶解度を有し、かつ、適当な沸点を有するので、とくに使いやすい。基本的な態様に従って生石灰の粒子の表面へのコーティングを行なうには、溶液に生石灰の粒子を浸漬したのち濾過し、溶剤を揮発させて除去するという簡単な操作に従うことができる。溶液をスプレーするという手法も可能である。必要により、複数回繰り返すことができるのはいうまでもない。溶剤は、回収して再利用することができる。
【0015】
一方、変更態様に従って生石灰または焼成ドロマイトの粒子の表面へのコーティングを行なう場合の貧溶媒としては、非極性の溶媒が有用であって、とりわけヘキサンが好適である。富溶媒と貧溶媒とを併用する変更態様の製造方法は、溶媒を揮発させて除去する基本的な態様に比べ、1回の操作で、より厚いコーティングを形成することができるという利点を有する。この態様によるときは、回収した溶媒が混合物となってしまうが、蒸留により容易に分離することができる。
【0016】
生石灰のコーティングを破壊するトリガー物質としては、コーティング物質を溶解させたり、コーティングのカルボキシル基に作用してその分解を引き起こしたりする物質であればよい。前者の物質としては、コーティング物質を可溶化する界面活性剤が適しており、後者の物質としては、界面活性剤としての機能をも有している第四級アンモニウム塩である界面活性剤、たとえば臭化n−ヘキサデシルトリメチルアンモニウムが有用である。
【実施例】
【0017】
生石灰を破砕し、粒径1〜3mmの部分を採取したものを対象とし、下記のゴムをコーティング材料として使用した。
アクリルゴム:日本ゼオン社製「AR12」
カルボキシ変性ニトリルゴム:日本ゼオン社製「1072J」
【0018】
フラスコ内のアセトン200mlに、生石灰30gと、コーティング材料であるアクリルゴムまたはカルボキシ変性ニトリルゴム0.3gとを加え、オイルバスで40℃に温めながら1時間撹拌した。ついでフラスコ内を減圧してアセトン溶媒を揮発させて、約10mlになるまで減容した。そこにヘキサン200mlを加え、約20時間撹拌したのち、フラスコ内を減圧してヘキサン溶媒を揮発させることによって乾燥し、表面をアクリルゴムまたはカルボキシ変性ニトリルゴムでコーティングした、本発明の生石灰を得た。
【0019】
フッ素樹脂製ビーカーを2個用意し、それぞれに10重量%エタノール水溶液60gを入れ、そこへ上で製造した生石灰のサンプル10gを投入し、撹拌しながら、水溶液の温度を熱電対で10秒ごとに測定した。5分後に、一方のビーカーには水10mlを加え、他方には、水10mlにトリガー物質である臭化n−ヘキサデシルトリメチルアンモニウム0.5gを添加した溶液を加えた。
【0020】
コーティング材料としてアクリルゴムを用いた場合について、時間の経過に伴うビーカー内の液の温度変化を、図1に示す。トリガー物質を含有する水を加えた場合は、当初は周囲温度(25℃)であったものが6〜7分後に発熱が顕著になり、12〜13分後にピーク温度(47〜8℃)に達した。これに対して、単に水を加えた場合、温度上昇は緩やかで、約20分後に30℃に達したものの、約30分後には下降に転じ、水和に伴う発熱は実質上利用できなかった。
【0021】
上記の水和反応性を制御した生石灰は、室内の環境条件下に約3ヶ月放置した後も、その水和特性はほとんど変化していなかった。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施例のデータであって、本発明の製造方法に従って製造した水和反応性を制御した生石灰を、本発明の水和方法に従って水和したときの時間−温度の関係を表したグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生石灰または焼成ドロマイトの粒子の表面に、アクリルゴム、カルボキシ変性ニトリルゴムまたはそれらの混合物のコーティングを設けたことを特徴とする、水和反応性を制御した生石灰または焼成ドロマイト。
【請求項2】
請求項1に記載の水和反応性を制御した生石灰または焼成ドロマイトを製造する方法であって、アクリルゴム、カルボキシ変性ニトリルゴムまたはそれらの混合物を溶媒に溶解した溶液を用意し、この溶液を生石灰または焼成ドロマイトの粒子の表面に適用したのち、溶媒を揮発させることによりコーティングを行なうことを特徴とする製造方法。
【請求項3】
溶媒としてアセトンを使用して実施する請求項2の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の水和反応性を制御した生石灰または焼成ドロマイトを製造する方法であって、アクリルゴム、カルボキシ変性ニトリルゴムまたはそれらの混合物を溶媒に溶解した溶液を用意し、生石灰または焼成ドロマイトの粒子をこれに浸漬したのち、貧溶媒を添加して、溶質である上記のゴムを析出させることによりコーティングを行なうことを特徴とする製造方法。
【請求項5】
溶媒としてアセトンを使用し、貧溶媒としてヘキサンを使用して実施する請求項4の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の水和反応性を制御した生石灰または焼成ドロマイトを水和させる方法であって、上記生石灰または焼成ドロマイトに対し、上記コーティングを破壊して生石灰または焼成ドロマイトと水和水との接触を可能にする、トリガー物質を添加した水和水を適用することを特徴とする水和方法。
【請求項7】
上記コーティングを破壊するトリガー物質として、第四級アンモニウム塩からなる界面活性剤を使用して実施する請求項6の水和方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−179502(P2009−179502A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−18596(P2008−18596)
【出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【出願人】(000160407)吉澤石灰工業株式会社 (38)
【出願人】(304036743)国立大学法人宇都宮大学 (209)
【Fターム(参考)】