説明

水噴出器具及びそれを用いたアーク溶接方法

【課題】 アーク溶接の溶融池から所定距離後方のビード部分に冷却水を散布して急速冷却し被溶接材の熱変形を抑制するための水噴出器具を提供すること。
【解決手段】 本発明は、冷却水4を注入する注入口11を配設し、スチールウール又は耐熱繊維から成り冷却水4を分散させて流す分散用部材1と、この分散用部材1の底部に密着され、分散用部材1からの冷却水4を通すための多数個の貫通孔を有するプレート部材2と、このプレート部材2の少なくとも底部を被覆しスチールウール又は耐熱繊維から成り、プレート部材2からの冷却水4をビード部分に散布する散布部材3と、を備えたことを特徴とする水噴出器具及びそれを用いたアーク溶接方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーク溶接の溶融池から所定距離後方のビード部分に冷却水を噴出して急速冷却し被溶接材の熱変形を抑制するための水噴出器具及びそれを用いたアーク溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アーク溶接に供された構造物には溶接による熱によって変形が生じるために,溶接工程後に変形を矯正する工程が必要となり,またその変形によって溶接構造物の品質も低下する。このため,特許文献1に開示の従来技術1では,オーステナイト系ステンレス鋼の溶接において,溶接直後の溶接部表裏面のうち少なくとも片面に,二酸化炭素の凝結固体粒子を吹き付けて冷却し,溶接部及びその周辺の残留応力及び熱歪みを低減する方法が記載されている。
【0003】
しかし,この方法は溶接部又はその周囲の温度が非常に高い場合には、二酸化炭素の凝結固体粒子が急激に気化されて二酸化炭素と被溶接材表面との間に断熱層を形成することがあり,所望とする冷却効果が得られないことがある。このために,従来技術1を実用上適用することができる溶接構造物の板厚は、3mm程度以下に限定されていた。すなわち、従来技術1は、薄板溶接には適用できるが、厚板溶接には適用できなかった。
【0004】
また,特許文献2に開示の従来技術2では、突合せ溶接部の近傍に沿って予め板材の上に冷媒を通した殻体を仮設密着させて,溶接熱の伝播を阻止して熱歪みを低減する方法が記載されている。しかし,この方法では、殻体を仮設に時間がかかり生産効率が低下する。さらに、溶接構造物のサイズに応じて殻体の仮設配置を変更する必要があり,汎用的にこの方法を使用することはできなかった。
【0005】
【特許文献1】特開平8−155650号公報
【特許文献2】特開2001−71129号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、従来技術1による二酸化炭素の凝結固体粒子吹き付け方法では、冷却効果が限定的であるために、薄板溶接にしか適用することができないという課題がある。また。従来技術2による冷媒を通す殻体配設方法では、溶接構造物の種類ごとに殻体配設を適正化した多種類の専用治具を作製する必要があり、生産性が悪くなるという課題がある。
【0007】
そこで、本発明では、上記の課題を解決することができる水噴出器具及びそれを用いたアーク溶接方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、第1の発明は、アーク溶接の溶融池から所定距離後方のビード部分に冷却水を散布して急速冷却し被溶接材の熱変形を抑制するための水噴出器具において、
前記冷却水を注入する注入口を配設しスチールウール又は耐熱繊維から成り前記冷却水を分散させて流す分散用部材と、
この分散用部材の底部に密着され、前記分散用部材からの前記冷却水を通すための多数個の貫通孔を有するプレート部材と、
このプレート部材の少なくとも底部を被覆しスチールウール又は耐熱繊維から成り、前記プレート部材からの前記冷却水を前記ビード部分に散布する散布部材と、を備えたことを特徴とする水噴出器具である。
【0009】
また、第2の発明は、第1の発明記載の水噴出器具を使用し、アーク溶接の溶融池から所定距離後方のビード部分に冷却水を散布して急速冷却し、被溶接材の熱変形を抑制することを特徴とするアーク溶接方法である。
【発明の効果】
【0010】
上記第1の発明によれば、分散用部材、プレート部材及び散布部材の3層構造の水噴出器具を使用することによって、冷却対象ビード部分を効果的に冷却することができる。このために、本発明の水噴出器具は、薄板溶接から厚板溶接まで広く使用することができる。さらに、溶接構造物のサイズが変化しても同一の水噴出器具を使用することができ、適用範囲が広くなる。このために、生産性を低下させることもない。
【0011】
上記第2の発明によれば、上記の水噴出器具を使用することによって冷却対象ビード部分を効果的に冷却することができる。このために、被溶接材の残留応力が小さくなり、被溶接材の熱変形及び熱歪みを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に係る水噴出器具の構造を示す図である。さらに、図2は、この水噴出器具の内部構造を示す図である。以下、両図を参照して説明する。
【0014】
水噴出器具は、分散用部材1、プレート部材2及び散布部材3の3層から成る。分散用部材1は、冷却水4を注入するための注入口11を有し、スチールウール又は耐熱繊維から作られている。注入された冷却水4は内部に埋設された複数の水路12を通り分流され、スチールウール又は耐熱繊維によってさらにその流れが分散される。このために、分散用部材1によって冷却水4は底部全体に分散されて流れ出る。
【0015】
プレート部材2は、上記の分散用部材1の底部に密着されて設けられ、上記の分散用部材1からの冷却水4を通すための多数個の貫通孔21を有する鋼材製パンチプレート等である。このプレート部材2の多数個の貫通孔21によって、冷却水4は底さらに均一に分散して流れ出る。
【0016】
散布部材3は、上記のプレート部材2の少なくとも底部を被覆し、スチールウール又は耐熱繊維から作られる。この散布部材3は、冷却対象ビード部分に押し当てられながら溶接進行に伴い移動する。この散布部材3によって、冷却水4はビード部分に長く接するように流れるために、ビード部分の温度を急速に冷却することができる。
【0017】
上述した水噴出器具は、3層構造にすることで、ビード部分の冷却効果を高めている。また、冷却水4の流量を多くすれば冷却効果をさらに高めることができる。したがって、本発明の水噴出器具は薄板溶接はもちろん高い冷却効果が必要な厚板溶接にも使用することができる。加えて、溶接構造物のサイズが変化しても、水噴出器具のサイズはそれほど変える必要がなく、多種類の溶接構造物で共用することができる。
【0018】
[実施の形態2]
図3は、上記の水噴出器具を用いたアーク溶接方法を示す図である。溶接トーチ8の電極と被溶接材6との間でアーク7が発生し、溶融池61が形成される。この溶融池61から所定距離L[mm]だけ後方のビード62の特定部分Pを水噴出器具5で冷却する。溶接トーチ8が移動して溶融池61が移動すると、上記の所定距離Lを保つように水噴出器具5も移動する。このように連動させるために、溶接トーチ8にブラケットを取り付け、このブラケットの先端が所定距離L後方になるようにして、ブラケット先端に水噴出器具5を装着するようにしても良い。また、水噴出器具5を移動させるための他の移動手段を使用しても良い。
【0019】
アーク7が現時点での溶融池61の位置から移動すると、その溶融地61は冷却されてビード62が形成される。この冷却課程において、鋼材の場合約800℃から下の温度低下時間を短くすることによって、残留応力を小さくすることができ被溶接材6の熱変形及び熱歪みを抑制することができることが知られている。アルミニウム材の場合は上記の温度(以下、冷却開始温度という)は約350℃になる。この冷却開始温度になる位置が、溶融池61から所定距離L後方の位置である。すなわち、所定距離Lは、その位置の温度が被溶接材6の材質によって定まる冷却開始温度に略等しくなるように設定する。本発明の水噴出器具5による冷却水4の散布によって、上記の冷却開始温度からの温度低下時間を短縮している。水噴出器具5の底部の横幅は、ビード幅と略同一又はそれよりも少し広くする。また、長手方向の長さは横幅の1.5〜4.0倍程度とする。
【0020】
[実施の形態3]
図4は、本発明の実施の形態3に係る水噴出器具の構造及びその使用方法を示す図である。上述した図1及び図2と同様に、同図(A)の水噴出器具は分散用部材1、プレート部材2及び散布部材3の3層から成る。同図(A)の水噴出器具は、同図(B)に示すように、T字すみ肉溶接用の器具であり、すみ肉部を冷却することができるように散布部材3の断面形状が三角形になっている。したがって、同図(B)に示すように、散布部材2がすみ肉溶接部にピッタリと密着して冷却水を散布し急速冷却する。
【0021】
[効果]
図5は、本発明の水噴出器具を用いたアーク溶接方法の効果の一例を示す変形量比較図である。同図は、以下に示す溶接条件で水噴射器具を用いてアーク溶接を行い、同図(A)に示すアビードを形成し、同図(B)に示す変形量を測定したものである。同図(C)はその測定結果であり、上述した従来技術1の場合と本発明の場合との変形量を比較している。主な溶接条件は、被溶接材に鉄鋼材の5mmt×500mm×1000mmを使用し、溶接電流200A、溶接電圧22V、溶接速度30cm/minでマグ溶接を行った場合である。結果は、同図(C)から明らかなように、本発明の変形量が大幅に小さくなっている。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態1に係る水噴出器具の構造図である。
【図2】図1の水噴出器具の内部構造図である。
【図3】本発明の実施の形態2に係る水噴出器具を用いたアーク溶接方法を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態3に係るT字すみ肉溶接用水噴出器具の構造図である。
【図5】本発明の効果の一例を示す被溶接材の変形量の比較図である。
【符号の説明】
【0023】
1 分散用部材
2 プレート部材
3 散布部材
4 冷却水
5 水噴出器具
6 被溶接材
7 アーク
8 溶接トーチ
11 注入口
12 水路
21 貫通孔
61 溶融池
62 ビード
L 所定距離


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アーク溶接の溶融池から所定距離後方のビード部分に冷却水を散布して急速冷却し被溶接材の熱変形を抑制するための水噴出器具において、
前記冷却水を注入する注入口を配設しスチールウール又は耐熱繊維から成り前記冷却水を分散させて流す分散用部材と、
この分散用部材の底部に密着され、前記分散用部材からの前記冷却水を通すための多数個の貫通孔を有するプレート部材と、
このプレート部材の少なくとも底部を被覆しスチールウール又は耐熱繊維から成り、前記プレート部材からの前記冷却水を前記ビード部分に散布する散布部材と、を備えたことを特徴とする水噴出器具。
【請求項2】
請求項1記載の水噴出器具を使用し、アーク溶接の溶融池から所定距離後方のビード部分に冷却水を散布して急速冷却し、被溶接材の熱変形を抑制することを特徴とするアーク溶接方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−7662(P2007−7662A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−187851(P2005−187851)
【出願日】平成17年6月28日(2005.6.28)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)