説明

水圧転写フィルム及び水圧転写体

【課題】 フィルムの保管中に未硬化状態の硬化性樹脂層と水溶性支持体フィルムとの密着性が低下しない水圧転写用フィルムを提供する。
【解決手段】 1)水酸基、及び側鎖に(メタ)アクリロイル基を有し、水酸基価が10〜150mgKOH/gであり、重量平均分子量5000〜100000の(メタ)アクリル共重合体と、2)前記(メタ)アクリル共重合体と相溶するエポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート及びポリエーテルアクリレートからなる群から選ばれる重量平均分子量が10,000以下のラジカル重合性化合物とを含有し、前記(メタ)アクリル共重合体は20質量%以上80質量%以下である硬化性樹脂層を有する水圧転写フィルム、及び該水圧転写フィルムを使用して得た水圧転写体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性樹脂層を有する水圧転写用フィルム及び該フィルムを水圧転写した水圧転写体に関する。
【背景技術】
【0002】
水圧転写法は、水溶性もしくは水膨潤性の樹脂からなる支持体フィルムと転写層を有する水圧転写フィルムを、支持体フィルムを下方にして水面に浮かべ、活性化剤と呼ばれる有機溶剤で転写層を軟化させた後、被転写体をその上方から押し付けながら水中に沈めることにより、転写層を被転写体に転写する方法である。
【0003】
水圧転写法は意匠性に富む装飾層を複雑な三次元形状の成形品に付与できる方法であるが、水圧転写後にさらに水圧転写した装飾層に硬化性樹脂を保護層としてスプレー塗装する工程が必要であるため、転写体を得るためには2ステップの工程が必要であった。また、スプレー塗装工程のために、水圧転写設備の他に塗装設備も必要であるためコスト高であった。このため、工程の簡略化とコスト低減のために1ステップ工程による水圧転写法が求められていた。
【0004】
この要請に対して、転写層が熱可塑性樹脂層(表面保護層)と装飾層を有する水圧転写フィルムを用いて、被転写体に熱可塑性樹脂層と装飾層を1ステップで転写する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、該技術は表面保護層が熱可塑性樹脂、詳しくはブチルアクリレートとエチルアクリレートの共重合体からなるもので、硬化性塗膜ではないため、表面保護層の耐溶剤性や表面硬度などの物理的・化学的耐久性が十分ではなかった。
【0005】
また、1ステップ工程による水圧転写法として、塗工層がラジカル重合性不飽和基を有するガラス転移温度が0〜250℃のポリマーからなり、未硬化状態で、常温で固体状をなし、且つ非粘着性の塗工層を有する水圧転写用シートを用いて被転写体に塗工層を転写し、電離放射線または熱で該塗工層を硬化させる、硬化樹脂層を有する成形品の製造方法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。しかし常温で非粘着性のため、室温で保管中に硬化性樹脂層と水溶性支持体フィルムの密着性が低下し、硬化性樹脂層と水溶性支持体フィルムとの界面ではがれ等が生じることがあった。
【特許文献1】特開平4−197699号公報
【特許文献2】特開昭64−22378号公報(特公平7−29084号公報)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、1ステップ工程による水圧転写法に使用する硬化性樹脂層を有する水圧転写用フィルムであって、該フィルムの保管中に未硬化状態の硬化性樹脂層と水溶性支持体フィルムとの密着性が低下しない水圧転写用フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、硬化性樹脂層として、1)水酸基、及び側鎖に(メタ)アクリロイル基を有し、水酸基価が10〜150mgKOH/gであり、重量平均分子量5000〜100000の(メタ)アクリル共重合体(成分A)と、(メタ)アクリル共重合体と相溶する重量平均分子量が10,000以下のラジカル重合性化合物とを特定の割合で用いることにより、上記課題を解決することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
水酸基を有する(メタ)アクリル共重合体は、極性の大きな支持体フィルムとの密着性に優れるが、水酸基を多量に有すると粘着性が増大して水圧転写性に影響を与えたり、得られる水圧転写体の耐水性、耐溶剤性等に劣る傾向にある。本発明では、水酸基を有する(メタ)アクリル共重合体の側鎖に、極性基であり且つ非親水性である(メタ)アクリロイル基を導入することで、水酸基量を最小限に抑えつつ、支持体フィルムとの密着性を可能にした。(メタ)アクリロイル基は活性エネルギー線の照射によって硬化が可能なので、得られた水圧転写体は耐溶剤性に優れる。
【0009】
すなわち、本発明は、水溶性もしくは水膨潤性の樹脂からなる支持体フィルムと該支持体フィルム上に設けた有機溶剤に溶解可能な転写層を有し、該転写層が活性エネルギー線照射と加熱の少なくとも一種で硬化可能な硬化性樹脂層を有する水圧転写用フィルムであって、前記硬化性樹脂層が、1)水酸基、及び側鎖に(メタ)アクリロイル基を有し、水酸基価が10〜150mgKOH/gであり、重量平均分子量5000〜100000の(メタ)アクリル共重合体(成分A)と、2)前記(メタ)アクリル共重合体(成分A)と相溶するエポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート及びポリエーテルアクリレートからなる群から選ばれる重量平均分子量が10,000以下のラジカル重合性化合物(成分B)とを含有し、前記硬化性樹脂層中の、前記(メタ)アクリル共重合体(成分A)は20質量%以上80質量%以下である水圧転写フィルムを提供する。
【0010】
また、本発明は、前記記載の水圧転写フィルムを、前記支持体フィルムを下にして水に浮かべ、有機溶剤により前記転写層を活性化し、前記転写層を被転写体に転写し、前記支持体フィルムを除去し、次いで前記転写層を活性エネルギー線照射と加熱の少なくとも一種で硬化させた水圧転写体を提供する。
【0011】
なお、本発明で言う硬化性樹脂層は、転写の段階では未硬化状態の層であって、硬化後、硬化樹脂層を形成する層を意味する。また、硬化樹脂層は、転写後の硬化反応によって作製される層を意味する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(支持体フィルム)
本発明の水圧転写用フィルムに用いる水溶性もしくは水膨潤性の樹脂からなる支持体フィルムは、水で溶解もしくは膨潤可能な樹脂からなるフィルムである。
水溶性もしくは水膨潤性の樹脂からなる支持体フィルム(以下、支持体フィルムと略す)としては、例えば、PVA(ポリビニルアルコール)、ポリビニルピロリドン、アセチルセルロース、ポリアクリルアミド、アセチルブチルセルロース、ゼラチン、にかわ、アルギン酸ナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のフィルムが使用できる。
【0013】
なかでも一般に水圧転写用フィルムとして用いられているPVAフィルムが水に溶解し易く、入手が容易で、硬化性樹脂層の印刷にも適しており、特に好ましい。用いる支持体フィルムの厚みは10〜200μm程度が好ましい。
【0014】
(転写層)
本発明の水圧転写用フィルムの支持体フィルム上に設けられる転写層は、活性エネルギー線照射と加熱の少なくとも1種で硬化可能な硬化性樹脂層(以下、硬化性樹脂層と言う。)を有する。また、転写層は硬化性樹脂層とその上に設けられた印刷インキ皮膜または塗料皮膜からなる装飾層(以下、装飾層と言う。)とを有していてもよい。本発明での硬化性樹脂層は、常温では硬化せず活性エネルギー線照射で硬化して、硬化樹脂層を形成する。
【0015】
(硬化性樹脂層)
((メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリル共重合体)
本発明で使用する水酸基、及び側鎖に(メタ)アクリロイル基を有し、水酸基価が10〜150mgKOH/gであり、重量平均分子量5000〜100000の(メタ)アクリル共重合体(成分A)とは、モノ(メタ)アクリレートを主な重合成分とする(メタ)アクリル共重合体であって、該(メタ)アクリル共重合体が(メタ)アクリロイル基を側鎖に有するものを称する。具体的には、モノ(メタ)アクリレートと、ヒドロキシル基を有するモノ(メタ)アクリレートとを主な重合成分とする(メタ)アクリル共重合体の主鎖部分に、(メタ)アクリロイル基をペンダントした、光硬化性を有する(メタ)アクリル共重合体である。
このような(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリル共重合体を得る方法として、例えば、反応性基(a)を有する(メタ)アクリレートとヒドロキシル基を有するモノ(メタ)アクリレートとを必須重合成分として重合させた(メタ)アクリル共重合体(以下、(メタ)アクリル主鎖と略す)に、反応性基(a)と反応しうる反応性基(b)を有する(メタ)アクリレートを反応させる方法が挙げられる。
(メタ)アクリル共重合体の主鎖部分に(メタ)アクリロイル基をペンダントする方法としては、例えば、反応性基(a)を有する(メタ)アクリレートを必須重合成分として重合させた(メタ)アクリル共重合体(以下、(メタ)アクリル主鎖と略す)に、反応性基(a)と反応しうる反応性基(b)を有する(メタ)アクリレートを反応させる方法が挙げられる。
【0016】
例えば、反応性基(a)としてヒドロキシル基を用いた場合、反応性基(b)として、例えばイソシアネート基を用いれば良い。このような、ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリレートは、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレートなどのヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートが挙げられる。また、イソシアネート基を有する(メタ)アクリレートは、例えば、(メタ)アクリロイルイソシアネート、(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートなどが挙げられる。
【0017】
また、反応性基(a)としてカルボキシル基を用いた場合、反応性基(b)として、例えばグリシジル基を用いれば良い。このような、カルボキシル基を有する(メタ)アクリレートは、例えば、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられる。また、グリシジル基を有する(メタ)アクリレートは、例えば、グリシジル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0018】
以上に示した反応性基(a)及び反応性基(b)の組み合わせは一例に過ぎなく、例えば、
反応性基(a)がイソシアネート基で反応性基(b)がヒドロキシル基
反応性基(a)がグリシジル基で反応性基(b)がカルボキシル基
反応性基(a)がグリシジル基で反応性基(b)がヒドロキシル基
反応性基(a)がヒドロキシル基で反応性基(b)がカルボキシル基
反応性基(a)がヒドロキシル基で反応性基(b)がグリシジル基
等、公知の組み合わせを選択することができる。
中でも、ヒドロキシル基を同時に導入できることから、反応性基(a)がヒドロキシル基で、反応性基(b)がイソシアネート基、カルボキシル基、又はグリシジル基であることが好ましく、イソシアネート基が最も好ましい。
【0019】
反応性基(a)を有する(メタ)アクリル主鎖の重合方法は、ラジカル重合によって行われる。ラジカル重合の形態に特に限定はなく、溶液重合、乳化重合、懸濁重合等、公知の方法で重合させることができる。中でも、ポリメチルメタクリレート及びヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートを必須重合成分としたポリ(メタ)アクリル共重合体が、透明性、耐溶剤性および耐擦傷性に優れる点で好ましい。
【0020】
(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリル共重合体の水酸基価が10未満では硬化性樹脂層と水溶性支持体フィルムとの密着性向上が発現せず、水酸基価が150を超えると粘着性が増大しすぎるおそれがある。
中でも、水酸基価が15以上130以下の範囲がより好ましい。水酸基価は、ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートの使用量により調節可能である。
【0021】
(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリル共重合体の重量平均分子量が100000を超えると、UV硬化不良等により耐溶剤性および耐擦傷性が低下する傾向があり、重量平均分子量5000未満では硬化性樹脂層の粘着性が増大するため、硬化性樹脂層付の水圧転写フィルムを調製することが困難となるおそれがある。
中でも、重量平均分子量5000〜100000であることが好ましく、より好ましくは10000〜90000、更には20000〜80000が最も好ましい。
【0022】
以下、反応性基(a)がヒドロキシル基で、反応性基(b)がイソシアネート基である場合の(メタ)アクリル共重合体の合成方法を例に説明する。
水酸基価が10〜100である(メタ)アクリル共重合体(成分A)を製造するときの2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートの仕込量は、反応率等も考慮にいれ、(メタ)アクリル共重合体が有する水酸基1.00モル(理論量)に対して、通常0.8〜1.2モルであり、0.9〜1.1モルがより好ましい。
なお、熱可塑性アクリル系樹脂(成分D)が有する水酸基とイソシアネート基との反応を促進させるために、例えばトリエチルアミン、ベンジルジメチルアミン等の第3級アミン類、ジブチルスズジラウリレート、ジオクチルスズジラウリレート等のジラウリレート化合物を触媒として用いることができる。これら触媒の添加量は、反応混合物全体の重量に対して、通常、0.001〜5.0重量%であり、好ましくは0.01〜1.1重量%である。反応時間は、通常、1〜10時間である。また反応温度は、通常、20〜120℃であり、好ましくは30〜90℃である。
【0023】
上記の(メタ)アクリル共重合体(成分A)の合成では、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートの末端イソシアネート基に不活性な溶剤を反応溶剤として用いることができる。このときに用いられるイソシアネート基に不活性な溶剤の具体例としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のようなケトン類、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、エチルベンゼン等のような芳香族炭化水素化合物を挙げることができる。
【0024】
(ラジカル重合性化合物(成分B))
重量平均分子量が10,000以下のラジカル重合性化合物(成分B)は、硬化性に優れることから(メタ)アクリレートが好ましく、(メタ)アクリロイル基を1分子中に2〜15個有する多官能(メタ)アクリレートが特に好ましい。ラジカル重合性化合物に特に限定はないが、硬化前のガラス転移温度が40℃未満であると、反応性基がマトリックス内でも比較的動きやすく、効率的に硬化反応が進むため好ましい。
【0025】
(ウレタン(メタ)アクリレート)
ウレタン(メタ)アクリレートとは、分子内にウレタン結合を持つ(メタ)アクリレートであり、水酸基含有(メタ)アクリレート、ポリイソシアネート、およびポリオールを反応させて得ることができる。尚、目的に応じて、ポリオールを原料に用いず、水酸基含有(メタ)アクリレートとポリイソシアネートとからなるウレタン(メタ)アクリレートを使用することも可能である。勿論、市販のウレタン(メタ)アクリレートを使用してもよい。
【0026】
(ポリエステル(メタ)アクリレート)
本発明で使用するポリエステル(メタ)アクリレートは、1分子中に少なくとも2個の(メタ)アクリロイル基を有する飽和または不飽和ポリエステル(メタ)アクリレートである。例えば、多塩基酸またはその無水物、ポリオール、(メタ)アクリル酸またはその無水物をエステル化したポリエステル(メタ)アクリレート、ポリオールと(メタ)アクリル酸またはその無水物とからなるポリエステル(メタ)アクリレート、常法により合成されたポリエステルのカルボキシル基と、エポキシ基を有する(メタ)アクリレートを反応させて得られるポリエステル(メタ)アクリレート等が挙げられる。勿論、市販のポリエステル(メタ)アクリレートを使用してもよい。
多塩基酸としては、例えば、芳香族多塩基酸、鎖状脂肪族多塩基酸、環状脂肪族多塩基酸等が使用できる。ポリオールとしては、例えば、アルキレンポリオール等が使用できる。
【0027】
(エポキシ(メタ)アクリレート)
エポキシ(メタ)アクリレートとは、ポリエポキシドと(メタ)アクリル酸またはその無水物を反応させて得られる(メタ)アクリレートである。ポリエポキシドとしては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等や、ビスフェノール型エポキシ樹脂の芳香環を水素添加したものが挙げられる。エポキシ(メタ)アクリレートとしては、ビスフェノールA型エポキシアクリレートが好ましい。勿論、市販のエポキシ(メタ)アクリレートを使用してもよい。
【0028】
(ポリエーテル(メタ)アクリレート)
ポリエーテル(メタ)アクリレートとは、例えば、ポリエーテルと(メタ)アクリル酸またはその無水物をエステル化して得られる(メタ)アクリレートである。ポリエーテルとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、およびその他の分岐アルキルポリオールや、ビスフェノールA骨格、ポリシロキサン鎖等を組み合わせたもの等が使用できる。
【0029】
本発明において、前記硬化性樹脂層中の前記(メタ)アクリル共重合体(成分A)は、20質量%以上80質量%以下である。20質量%に満たないと粘着性が高すぎて、特に剥離性フィルムを使用した場合、水圧転写時上手く剥離できないと行った問題が生じる。また、80質量%を越えてしまうと支持体フィルムと硬化性樹脂層との間で剥離が発生する可能性がある。中でも前記(メタ)アクリル共重合体(成分A)は、30質量%以上70質量%以下が好ましい。
【0030】
(光重合開始剤)
硬化性樹脂層には、必要に応じて慣用の光重合開始剤や光増感剤が含まれて良い。光重合開始剤の代表的なものとしては、ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトンの如きアセトフェノン系化合物;ベンゾイン、ベンゾインイソプロピルエーテルの如きベンゾイン系化合物;2,4,6−トリメチルベンゾインジフェニルホスフィンオキシドの如きアシルホスフィンオキシド系化合物;ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル−4−フェニルベンゾフェノンの如きベンゾフェノン系化合物;2,4−ジメチルチオキサントンの如きチオキサントン系化合物;4,4′−ジエチルアミノベンゾフェノンの如きアミノベンゾフェノン系化合物などが挙げられる。
【0031】
光重合開始剤は全重合性成分に対して、通常0.5〜15質量%、好ましくは1〜8質量%である。光増感剤としては、例えば、トリエタノールアミン、4−ジメチルアミノ安息香酸エチルの如きアミン類が挙げられる。さらに、ベンジルスルホニウム塩やベンジルピリジニウム塩、アリールスルホニウム塩などのオニウム塩は、光カチオン開始剤として知られており、これらの開始剤を用いることも可能であり、上記の光ラジカル発生剤と併用することもできる。
【0032】
硬化性樹脂層に、所望の物性発現を阻害しない範囲で、汎用の(メタ)アクリルモノマー、あるいは、乾燥性を高めるなどの目的でアクリル樹脂、ポリエステル樹脂等の非反応性熱可塑性樹脂を配合してもよい。
【0033】
硬化性樹脂層は、膜厚が厚いほど、得られる成形品の保護効果は大きく、また装飾層の凹凸を吸収する効果が大きいために成形品に優れた光沢を持たせることができる。従って、硬化性樹脂層の膜厚は、具体的には3μm以上、好ましくは15μm以上の厚みを持つことが好ましい。硬化性樹脂層の厚みが200μmを超えると、有機溶剤による硬化性樹脂層の活性化が十分なされにくい。有機溶剤による硬化性樹脂層の十分な活性化、装飾層に対する保護層としての機能、及び装飾層の凹凸の吸収等の観点から、硬化性樹脂層の乾燥膜厚は3〜200μmであることが好ましく、より好ましくは、15〜70μmである。
【0034】
(装飾層)
硬化性樹脂層の上に装飾層を設けてもよい。装飾層には、汎用の印刷インキまたは塗料を使用することができる。有機溶剤によって活性化されて転写に十分な柔軟性が得られることが好ましい。グラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷、熱転写印刷などを用いて形成する。装飾層の乾燥膜厚は0.5〜15μmであることが好ましく、更に好ましくは、1〜7μmである。また絵柄のない着色層や、無色のワニス樹脂層についても塗工によって形成することができる。
【0035】
装飾層は、支持体上の硬化性樹脂層上への塗布または印刷する方法、や、支持体フィルム上に硬化性樹脂層が形成されたフィルムと剥離性フィルム上に装飾層を有するフィルムとのドライラミネートする方法により水圧転写用フィルム中に積層することができる。中でも、後者のドライラミネートする方法により水圧転写用フィルム中に積層が好ましい。
【0036】
なお、硬化性樹脂層および装飾層中に、意匠性、展延性を阻害しない範囲において、消泡剤、沈降防止剤、顔料分散剤、流動性改質剤、ブロッキング防止剤、滑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、光安定化剤、紫外線吸収剤、シリカゾル、オルガノシリカゾルなどの慣用の各種添加剤を加えることができる。これらの添加剤は液体でも固体でもよいし、溶解するものであっても、分散するだけであってもよい。
【0037】
本発明の水圧転写用フィルムは、従来の水圧転写用フィルムの水圧転写と同様な方法で水圧転写を行うことができる。
【0038】
(水圧転写体の製造方法)
本発明の硬化性樹脂層、または装飾層と硬化性樹脂層とを有する成形品の製造方法は、本発明の水圧転写フィルムを、その支持体フィルムを下にして水に浮かべ、有機溶剤により硬化性樹脂層、または装飾層と硬化性樹脂層を有する転写層を活性化した後、転写層を被転写体に水圧転写し、支持体フィルムを除去し、次いで転写層を活性エネルギー線照射で硬化させる方法であり、従来の水圧転写用フィルムと同様な方法で水圧転写を行うことができる。水圧転写用フィルムを用いた装飾成形品の製造方法の概略は、以下に示す通りである。
【0039】
(1)水圧転写フィルムを、その支持体フィルムを下にし、転写層を上にして水槽中の水に浮かべ、前記支持体フィルムを水で溶解もしくは膨潤させる。
(2)水圧転写用フィルムの転写層に活性化剤を塗布または噴霧することにより硬化性樹脂層と装飾層からなる転写層を活性化させる。
なお、転写層の有機溶剤による活性化はフィルムを水に浮かべる前に行っても良い。
(3)水圧転写用フィルムの転写層に被転写体を押しつけながら、被転写体と水圧転写用フィルムを水中に沈めて行き、水圧によって転写層を前記被転写体に密着させて転写する。
(4)水から出した被転写体から支持体フィルムを除去し、被転写体に転写された転写層の硬化性樹脂層を活性エネルギー線照射により硬化させ、硬化性樹脂層もしくは硬化性樹脂層と装飾層とを有する成形品を得る。
【0040】
硬化性樹脂層または、硬化性樹脂層と装飾層とからなる本発明の水圧転写フィルムの転写層は、有機溶剤を塗布または散布することにより活性化され、十分に可溶化もしくは柔軟化される。ここで言う活性化とは、転写層に有機溶剤を塗布または散布することにより、転写層を完全には溶解せずに可溶化させ、転写層に柔軟性を付与することにより転写層の被転写体への追従性と密着性を向上させることを意味する。この活性化は転写層を水圧転写用フィルムから被転写体へ転写する際に、これらの転写層が柔軟化され、被転写体の三次元曲面へ十分に追従できる程度に行われれば良い。
【0041】
水圧転写における水槽の水は、支持体フィルムを膨潤または溶解させる他、転写層を転写する際に水圧転写用フィルムを被転写体の三次元曲面に密着させる水圧媒体として働く。具体的には、水道水、蒸留水、イオン交換水などの水で良く、また用いる支持体フィルムによっては、水にホウ酸等の無機塩類やアルコール類を10%以内の範囲で溶解させたものでもよい。
【0042】
(活性化剤)
活性化剤は、硬化樹脂層もしくは硬化性樹脂層と装飾層とを可溶化させ、柔軟性を付与する有機溶剤である。水圧転写工程が終了するまで蒸発しないことが好ましい。本発明で使用される活性化剤は、一般の水圧転写に用いる活性化剤を用いることができる。具体的には、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酢酸イソブチル、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、エチルセロソルブ、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブ、カルビトール、カルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、ソルフィットアセテート及びそれらの混合物が挙げられる。
【0043】
この活性化剤中に印刷インキ又は塗料と成形品との密着性を高めるために、若干の樹脂成分を含ませてもよい。例えば、ポリウレタン、アクリル樹脂、エポキシ樹脂といった、インキのバインダーに類似の構造のものを1〜10%含ませることによって密着性が高まることがある。
【0044】
また同様の目的で、活性化剤中に上述したラジカル重合性化合物や光重合開始剤を溶解させて使用してもよい。
【0045】
被転写体に転写層を水圧転写した後、支持体フィルムを水で溶解もしくは剥離して除去し乾燥させる。被転写体からの支持体フィルムの除去は、従来の水圧転写方法と同様に水流で支持体フィルムを溶解もしくは剥離して除去する。
【0046】
硬化性樹脂層は、水および活性化剤を乾燥後に、活性エネルギー線照射により硬化を行う。硬化時間は、組成、硬化剤の種類にもよるが、数分から1時間以内に硬化が進むものが工程上好ましい。
【0047】
(活性エネルギー線)
活性エネルギー線は、可視光、紫外線、電子線、ガンマ線を意味し、いずれも使用可能であるが、特に紫外線が好適である。紫外線源としては、太陽光線、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ等が用いられる。
【0048】
(被転写体となる成形品)
被転写体となる成形品は、その表面に硬化性樹脂層や装飾層が十分密着することが好ましく、このため必要に応じて成形物表面にプライマー層を設ける。プライマー層を形成する樹脂は、プライマー層として慣用の樹脂を特に制限なく用いることができ、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂などが挙げられる。また、密着性の良好なABS樹脂やSBSゴムなど、溶剤吸収性の高い樹脂成分からなる成形品にはプライマー処理は不要である。成形品の材質は、プライマー処理さえ施されていて、水中に沈めても形状が崩れたりせず品質上問題を起こさないレベルの防水性があれば、金属、プラスチック、木材、パルプモールド、ガラスなど特に限定されない。
【0049】
本発明が適用できる成形物の具体例としては、テレビ、ビデオ、エアコン、ラジオカセット、携帯電話、冷蔵庫等の家庭電化製品、パーソナルコンピューターやプリンター等のOA機器、その他石油ファンヒーター、カメラなどの家庭製品のハウジング部分に適用できる。また、テーブル、タンス、柱などの家具部材や、バスタブ、システムキッチン、扉、窓枠、廻り縁などの建築部材、筆記用具、電卓、電子手帳、ケースなどの雑貨、文房具、自動車内装パネル、自動車やオートバイの外板、ホイールキャップ、スキーキャリヤ、自動車用キャリアバッグ、ゴルフクラブ、ヨットなどの船舶部品、スキー板、スノーボード、ヘルメット、ゴーグル、モニュメントなどの曲面を有し、かつ意匠性を必要とする成形品に特に有用に用いられ、極めて広い分野で使用可能である。
【実施例】
【0050】
以下に、実施例をもって、本発明を具体的に説明するが、これらに何ら制限されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0051】
(製造例1)<木目柄印刷フィルムP1>
厚さ30μmの東洋紡製無延伸ポリプロピレンフィルム「パイレンCT」上に、下記組成の印刷インキG1をグラビア印刷にて、ベタ2版、柄3版で木目柄を印刷し、印刷フィルムP1を得た。
【0052】
(インキ組成G1、黒、茶、白)
バーノックEZL676:20質量部(固形分換算)
顔料(黒、茶、白):10質量部(固形分)
ワックス等添加剤:10質量部
溶剤:不揮発分が30%となるように添加
但し、バーノックEZL676は、大日本インキ化学工業(株)社製のポリウレタンであり、溶剤はトルエン、酢酸エチル、メチルエチルケトンを2:1:1で混合した溶剤を用いた。
【0053】
(製造例2)<(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリロイル共重合体(XA1)製造例>
モノマー混合物として、スチレン28.5部、メタクリル酸メチル126部、メタクリル酸シクロヘキシル45部、メタクリル酸ヒドロキシエチル99部、メタクリル酸1.5部の混合物300部を作成した。
2L四つ口フラスコに酢酸ブチル120部、トルエン120部を仕込み、モノマー混合物に開始剤としてカヤエステルO(化薬アクゾ社製)を6.6部添加して滴下用モノマー混合物を準備した。フラスコ内の反応混合物温度を120℃に保持した後に滴下用モノマー混合物を6時間掛けて滴下し、滴下終了後に酢酸ブチル15部を投入した。反応混合物温度を120℃のまま1時間保持し、追加開始剤としてカヤエステルOを1.2部と酢酸ブチルを15部とからなる開始剤混合物を1時間おきに3回一括添加した。さらにフラスコ内の反応混合物温度120℃のまま1時間保持した後、室温まで放冷し、アクリル系樹脂溶液(P−1)を得た。アクリル系樹脂溶液(P−1)の固形分は51wt%、水酸基価144mgKOH/g(対固形分)、酸価1.6mgKOH/g(対固形分)、重量平均分子量は45,000、Tgは81℃であった。
1Lセパラブルフラスコに、得られたアクリル系樹脂溶液(P−1)500.0gを入れ、ジブチルスズジラウリレート 0.3gを添加して40℃で撹拌した。この溶液に、2−アクリロイルオキシエチルイソシアネート(昭和電工(株)製、商品名:カレンズAOI) 41.0gを発熱に注意しながら40〜50℃の温度で2時間かけて滴下した。滴下後、そのまま40〜50℃で1時間撹拌し、さらに昇温して70〜80℃で3時間撹拌し、NCO価(残存するイソシアネート基を重量%で表したもの。NCO価は、DIN 53 185、ASTM D 1638に準拠して測定した。また、以下の製造例においても同様に測定した。)が0.1%以下となったことを確認した。得られた(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリロイル共重合体(XA1)溶液の固形分は55%、水酸基価81mgKOH/g(対固形分)であった。
【0054】
(製造例3)<(メタ)アクリル共重合体(XA2)製造例>
1Lセパラブルフラスコに、製造例2で得られたアクリル系樹脂溶液(P−1)500.0gを入れ、ジブチルスズジラウリレート 0.3gを添加して40℃で撹拌した。この溶液に、2−アクリロイルオキシエチルイソシアネート(昭和電工(株)製、商品名:カレンズAOI) 27.1gを発熱に注意しながら40〜50℃の温度で2時間かけて滴下した。滴下後、そのまま40〜50℃で1時間撹拌し、さらに昇温して70〜80℃で3時間撹拌し、NCO価が0.1重量%以下となったことを確認した。得られた(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリロイル共重合体(XA2)溶液の固形分は54%、水酸基価127mgKOH/g(対固形分)であった。
【0055】
(製造例4)<(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリロイル共重合体(XA3)製造例>
モノマー混合物として、スチレン28.5部、メタクリル酸メチル126部、メタクリル酸エチル60部、メタクリル酸ブチル45部、メタクリル酸シクロヘキシル24部、メタクリル酸ヒドロキシエチル15部、メタクリル酸1.5部の混合物300部を作成した。
2L四つ口フラスコに酢酸ブチル120部、トルエン120部を仕込み、モノマー混合物に開始剤としてカヤエステルO(化薬アクゾ社製)を6.6部添加して滴下用モノマー混合物を準備した。フラスコ内の反応混合物温度を120℃に保持した後に滴下用モノマー混合物を6時間掛けて滴下し、滴下終了後に酢酸ブチル15部を投入した。反応混合物温度を120℃のまま1時間保持し、追加開始剤としてカヤエステルOを1.2部と酢酸ブチルを15部とからなる開始剤混合物を1時間おきに3回一括添加した。さらにフラスコ内の反応混合物温度120℃のまま1時間保持した後、室温まで放冷し、アクリル系樹脂溶液(P−2)を得た。アクリル系樹脂溶液(P−2)の固形分は51wt%、水酸基価22mgKOH/g(対固形分)、酸価1.4mgKOH/g(対固形分)、重量平均分子量は52,000、Tgは75℃であった。
1Lセパラブルフラスコに、得られたアクリル系樹脂溶液(P−2)500.0gを入れ、ジブチルスズジラウリレート 0.3gを添加して40℃で撹拌した。この溶液に、2−アクリロイルオキシエチルイソシアネート(昭和電工(株)製、商品名:カレンズAOI) 6.2gを発熱に注意しながら40〜50℃の温度で2時間かけて滴下した。滴下後、そのまま40〜50℃で1時間撹拌し、さらに昇温して70〜80℃で3時間撹拌し、NCO価が0.1%以下となったことを確認した。得られた(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリロイル共重合体(XA3)溶液の固形分は55%、水酸基価11gKOH/g(対固形分)であった。
【0056】
(製造例5)<(メタ)アクリル共重合体(XA4)製造例>
1Lセパラブルフラスコに、製造例5で得られたアクリル系樹脂溶液(P−2)500.0gを入れ、ジブチルスズジラウリレート 0.3gを添加して40℃で撹拌した。この溶液に、2−アクリロイルオキシエチルイソシアネート(昭和電工(株)製、商品名:カレンズAOI) 18.1gを発熱に注意しながら40〜50℃の温度で2時間かけて滴下した。滴下後、そのまま40〜50℃で1時間撹拌し、さらに昇温して70〜80℃で3時間撹拌し、NCO価が0.1重量%以下となったことを確認した。得られた(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリロイル共重合体(XA4)溶液の固形分は54%、水酸基価8mgKOH/g(対固形分)であった。
【0057】
(製造例6)<(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリロイル共重合体(XA5)製造例>
モノマー混合物として、スチレン28.5部、メタクリル酸メチル126部、メタクリル酸シクロヘキシル24部、メタクリル酸ヒドロキシエチル120部、メタクリル酸1.5部の混合物300部を作成した。
2L四つ口フラスコに酢酸ブチル120部、トルエン120部を仕込み、モノマー混合物に開始剤としてカヤエステルO(化薬アクゾ社製)を6.6部添加して滴下用モノマー混合物を準備した。フラスコ内の反応混合物温度を120℃に保持した後に滴下用モノマー混合物を6時間掛けて滴下し、滴下終了後に酢酸ブチル15部を投入した。反応混合物温度を120℃のまま1時間保持し、追加開始剤としてカヤエステルOを1.2部と酢酸ブチルを15部とからなる開始剤混合物を1時間おきに3回一括添加した。さらにフラスコ内の反応混合物温度120℃のまま1時間保持した後、室温まで放冷し、アクリル系樹脂溶液(P−3)を得た。アクリル系樹脂溶液(P−3)の固形分は51wt%、水酸基価176mgKOH/g(対固形分)、酸価1.6mgKOH/g(対固形分)、重量平均分子量は42,000、Tgは78℃であった。
1Lセパラブルフラスコに、得られたアクリル系樹脂溶液(P−3)500.0gを入れ、ジブチルスズジラウリレート 0.3gを添加して40℃で撹拌した。この溶液に、2−アクリロイルオキシエチルイソシアネート(昭和電工(株)製、商品名:カレンズAOI) 11.5gを発熱に注意しながら40〜50℃の温度で2時間かけて滴下した。滴下後、そのまま40〜50℃で1時間撹拌し、さらに昇温して70〜80℃で3時間撹拌し、NCO価が0.1%以下となったことを確認した。得られた(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリロイル共重合体(XA5)溶液の固形分は55%、水酸基価161mgKOH/g(対固形分)であった。
【0058】
(実施例1〜8)
表1〜2記載の硬化性樹脂組成物C1〜C8を、硬化性樹脂層用組成物として調製した。アイセロ化学社製の厚さ30μmのPVAフィルムに、該硬化性樹脂組成物C1〜C8を、リップコーターで固形分膜厚20μmになるように塗工し、次いで60℃で2分間乾燥してフィルムを製造した。このフィルムの硬化性樹脂層と、製造例1で作製した印刷フィルムP1の装飾層を向き合わせて60℃でラミネートした。ラミネートしたフィルムをそのまま巻き取り水圧転写用フィルムF1〜F8を製造した。得られた水圧転写用フィルムF1〜F8を3ヶ月間、気温25℃湿度60%環境下で遮光保管したが、未硬化状態の硬化性樹脂層とPVAフィルムとの密着性低下はみられなかった。
【0059】
遮光保管後の水圧転写用フィルムF1〜F8を、30℃の水浴にインキ面が上になるようにして浮かべ、2分間放置後、活性化剤S:40g/mをフィルム上に散布した。さらに10秒放置後、垂直方向からプライマー塗工済みのABS製自動車ドアパネルに、水圧転写した。転写後、被転写体を水洗し、90℃で20分乾燥した。次にUV照射装置(出力160W/cm、5m/分のコンベア速度)に1回前記ドアパネルを通すことにより、光沢のある硬化皮膜を有するドアパネルを得た。
【0060】
(比較例1)
実施例1と同様にして、硬化性樹脂層組成物C51をPVAフィルム上に塗布した後、製造例1で作製した印刷フィルムP1の装飾層を向き合わせて60℃でラミネートした。装飾フィルムをラミネートして、水圧転写用フィルムF51を得た。該水圧転写用フィルムF51を3ヶ月間、気温25℃湿度60%環境下で遮光保管したところ、未硬化状態の硬化性樹脂層とPVAフィルムとの界面で剥離が発生し、水圧転写に適用できなかった。
【0061】
(比較例2)
実施例1と同様にして、硬化性樹脂層組成物C52をPVAフィルム上に塗布した後、製造例1で作製した印刷フィルムP1の装飾層を向き合わせて60℃でラミネートした。装飾フィルムをラミネートして、水圧転写用フィルムF52を得た。該水圧転写用フィルムF52を3ヶ月間、気温25℃湿度60%環境下で遮光保管したところ、未硬化状態の硬化性樹脂層とPVAフィルムとの界面で剥離が発生し、水圧転写に適用できなかった。
【0062】
(比較例3)
実施例1と同様にして、硬化性樹脂層組成物C53をPVAフィルム上に塗布した後、製造例1で作製した印刷フィルムP1の装飾層を向き合わせて60℃でラミネートした。装飾フィルムをラミネートして、水圧転写用フィルムF53を得た。該水圧転写用フィルムF53を3ヶ月間、気温25℃湿度60%環境下で遮光保管したが、未硬化状態の硬化性樹脂層とPVAフィルムとの密着性低下はみられなかった。
遮光保管後の水圧転写用フィルムF53を、30℃の水浴にインキ面が上になるようにして浮かべることを試みたが、硬化性樹脂層組成物の粘着性が大きすぎて、保護フィルムであるPPフィルムを剥離させることができず、水圧転写を実施できなかった。
【0063】
(比較例4)
実施例1と同様にして、硬化性樹脂層組成物C54をPVAフィルム上に塗布した後、製造例1で作製した印刷フィルムP1の装飾層を向き合わせて60℃でラミネートした。装飾フィルムをラミネートして、水圧転写用フィルムF54を得た。該水圧転写用フィルムF54を3ヶ月間、気温25℃湿度60%環境下で遮光保管したところ、未硬化状態の硬化性樹脂層とPVAフィルムとの界面で剥離が発生し、水圧転写に適用できなかった。
【0064】
(比較例5)
実施例1と同様にして、硬化性樹脂層組成物C55をPVAフィルム上に塗布した後、製造例1で作製した印刷フィルムP1の装飾層を向き合わせて60℃でラミネートした。装飾フィルムをラミネートして、水圧転写用フィルムF55を得た。該水圧転写用フィルムF55を3ヶ月間、気温25℃湿度60%環境下で遮光保管したが、未硬化状態の硬化性樹脂層とPVAフィルムとの密着性低下はみられなかった。
遮光保管後の水圧転写用フィルムF55を、30℃の水浴にインキ面が上になるようにして浮かべることを試みたが、硬化性樹脂層組成物の粘着性が大きすぎて、保護フィルムであるPPフィルムを剥離させることができず、水圧転写を実施できなかった。
【0065】
【表1】

ユニディック17−813:大日本インキ化学工業(株)社製ポリウレタンポリ(メタ)クリレート(固形分:80%、重量平均分子量:1,500)
イルガキュア184:チバ・スペシャリティケミカルス社製光重合開始剤
希釈溶剤:MEK、酢酸ブチル、トルエンの混合溶剤
【0066】
【表2】

ユニディック17−813:大日本インキ化学工業(株)社製ポリウレタンポリ(メタ)クリレート(固形分:80%、重量平均分子量:1,500)
ユニディックV5500:大日本インキ化学工業(株)社製エポキシアクリレート
(重量平均分子量:1,070)
イルガキュア184:チバ・スペシャリティケミカルス社製光重合開始剤
希釈溶剤:MEK、酢酸ブチル、トルエンの混合溶剤
【0067】
【表3】

ユニディック17−813:大日本インキ化学工業(株)社製ポリウレタンポリ(メタ)クリレート(固形分:80%、重量平均分子量:1,500)
アクリペットVH:三菱レーヨン(株)社製非反応性熱可塑アクリル樹脂
(重量平均分子量:200,000、Tg:100℃、水酸基価1mgKOH/g以下)
イルガキュア184:チバ・スペシャリティケミカルス社製光重合開始剤
希釈溶剤:MEK、酢酸ブチル、トルエンの混合溶剤
【0068】
(転写体の試験方法)
各実施例で得られたドアパネルを用いて下記の各種物性試験を行った。
【0069】
(水圧転写性)
実施例、比較例で行った水圧転写において、表面欠陥がなく、柄の再現性が良好なものを○、著しい表面欠陥や、柄の崩れを生じたものは×とした。
【0070】
(表面光沢評価)
JIS-K5400「7.6鏡面光沢度」に従い、60゜鏡面光沢度を測定した。
【0071】
(鉛筆硬度)
JIS-K5401「塗膜用鉛筆引き掻き試験機」を用いて塗膜の鉛筆硬度を測定した。芯の長さは3mm塗膜綿との角度45度、荷重1Kg、引き掻き速度0.5mm/分、引き掻き長さ3mm、使用鉛筆は三菱ユニとした。
【0072】
(耐溶剤試験)
MEKを含ませた脱脂綿で1Kgの加重でラビング試験機で100往復擦り、塗膜の表面を観察して、変色、光沢の変化がなければ○、どちらかが生じれば×とした。
【0073】
【表4】






【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性もしくは水膨潤性の樹脂からなる支持体フィルムと該支持体フィルム上に設けた有機溶剤に溶解可能な転写層を有し、該転写層が活性エネルギー線照射と加熱の少なくとも一種で硬化可能な硬化性樹脂層を有する水圧転写用フィルムであって、前記硬化性樹脂層が、1)水酸基、及び側鎖に(メタ)アクリロイル基を有し、水酸基価が10〜150mgKOH/gであり、重量平均分子量5000〜100000の(メタ)アクリル共重合体(成分A)と、2)前記(メタ)アクリル共重合体(成分A)と相溶するエポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート及びポリエーテルアクリレートからなる群から選ばれる重量平均分子量が10,000以下のラジカル重合性化合物(成分B)とを含有し、前記硬化性樹脂層中の、前記(メタ)アクリル共重合体(成分A)は20質量%以上80質量%以下であることを特徴とする水圧転写フィルム。
【請求項2】
請求項1記載の水圧転写フィルムを、前記支持体フィルムを下にして水に浮かべ、有機溶剤により前記転写層を活性化し、前記転写層を被転写体に転写し、前記支持体フィルムを除去し、次いで前記転写層を活性エネルギー線照射と加熱の少なくとも一種で硬化させたことを特徴とする水圧転写体。





【公開番号】特開2006−346884(P2006−346884A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−172383(P2005−172383)
【出願日】平成17年6月13日(2005.6.13)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】