説明

水密絶縁電線の水密材の除去方法

【課題】水密絶縁電線のリサイクル処理方法として使用できる実用的な残留水密材の除去方法であって、水密絶縁電線の被覆材料を機械的に皮剥ぎした後、導体上に密着或いは導体素線間に残留している水密材を効率よく除去できる除去方法を提供することにある。
【解決手段】水密絶縁電線の導体に密着残留している水密材を効率よく除去する方法であって、絶縁被覆層を除去した後の水密材が付着している導体を、100℃の水蒸気に一定時間接触させた後に、前記水密材を剥離する水密絶縁電線の水密材の除去方法とすることによって、解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋外配線用等として用いられている水密絶縁電線の導体に密着残留している水密材の除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在のリサイクル社会においては、各種電線・ケーブルもリサイクルが行われている。すなわち、回収された電線・ケーブルは、通常導体と被覆材料に分けられ、導体は溶解して再利用され、また各種被覆材料は、再生樹脂やサーマルリサイクル(燃料)として利用される。しかしながら、屋外配線用等として用いる水密絶縁電線は、複数の素線を撚り合せた導体には雨水等の浸入を防止するために、導体素線間に水密処理が行われている。例えば前記素線を撚り合わせる際に、撚り線導体上或いは撚り線導体間に密着性に優れた水密材が充填され、その上に絶縁被覆が施されたものが多用されている。前記水密絶縁電線の水密材としては、エチレン・エチルアクリレート共重合体(以下、EEA)エチレン・酢酸ビニル共重合体(以下、EVA)等は、高い水密性を有するために好ましいとされている。このように、水密絶縁電線をリサイクル材料として利用するためには絶縁被覆と導体に分離することが必要であり、通常絶縁被覆は機械的に皮剥ぎされて導体と分離する。このとき、導体上の水密材は殆ど剥離されるが、導体撚り線間に充填されているEEAやEVA等からなる水密材は導体素線に密着して残留する。このように水密材が残留した導体は、これを粉砕後も導体素線上に密着残留しており、その後の導体の溶解処理等に支障をきたしリサイクル処理上問題がある。そこで、比較的簡便に水密材を除去することができる除去方法が望まれている。しかしながら、特に導体素線間のような細部に残留する水密材を簡便に除去することまで考慮されていないのが現状であり、このため水密絶縁電線は水密材を残したまま絶縁被覆と導体に解体されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
よって本発明が解決しようとする課題は、水密絶縁電線のリサイクル処理方法として使用できる実用的な残留水密材の除去方法であって、水密絶縁電線の被覆材料を機械的に皮剥ぎした後、導体上に密着或いは導体素線間に残留している水密材を効率よく除去できる除去方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記解決しようとする課題は、請求項1に記載されるように、水密絶縁電線の導体に密着残留している水密材を効率よく除去する方法であって、絶縁被覆層を除去した後の水密材が付着している導体を、100℃の水蒸気に一定時間接触させた後に、前記水密材を剥離する水密絶縁電線の水密材の除去方法とすることによって、解決される。
【0005】
また、請求項2に記載されるように、水密絶縁電線の導体に密着残留している水密材を効率よく除去する方法であって、絶縁被覆層を除去した後の水密材が付着している導体を、60℃以上の電気絶縁油に一定時間浸漬させた後に、前記水密材を剥離する水密絶縁電線の水密材の除去方法とすることによって、解決される。
【0006】
さらに、請求項3に記載されるように、水密絶縁電線の導体に密着残留している水密材を効率よく除去する方法であって、絶縁被覆層を除去した後の水密材が付着している導体を、室温で有機溶剤に一定時間接触させた後に、前記水密材を剥離する水密絶縁電線の水密材の除去方法とすることによって、解決される。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、水密絶縁電線の絶縁被覆層を除去した後に導体に密着残留している水密材を効率よく除去する方法であって、水密材が密着残留している導体を100℃の水蒸気に一定時間接触させた後に、前記水密材を剥離する水密絶縁電線の水密材の除去方法とすることによって、また、60℃以上の電気絶縁油に一定時間浸漬させた後に、前記水密材を剥離する水密絶縁電線の水密材の除去方法とすることによって、さらに室温で有機溶剤に一定時間接触させた後に前記水密材を剥離する、いずれかの水密絶縁電線の水密材の除去方法とすることによって、導体上に密着或いは導体素線間に残留している水密材を効率よく除去することができ、水密絶縁電線のリサイクル処理方法として実用的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に本発明を詳細に説明する。請求項1に記載される発明は、水密絶縁電線の導体(特に導体素線間)に密着残留している水密材を効率よく除去する方法であって、絶縁被覆層を除去した後の水密材が付着している導体を、100℃の水蒸気に一定時間接触させた後に、前記水密材を剥離する水密絶縁電線の水密材の除去方法である。このような水密絶縁電線のリサイクル処理方法によれば、被覆材料を皮剥ぎした後の特に撚り線導体に密着残留している水密材を効率よく除去することができる。
【0009】
水密絶縁電線は先に説明したとおり、撚り線導体上或いは撚り線導体間にEEAやEVA等の水密材が充填され、その上に絶縁被覆が施されている。また、前記水密材のEEAやEVAは、非架橋で使用される場合や架橋される場合もある。このような処理の有無によっても、水密材の除去処理に差が出てくる。すなわち、水密絶縁電線を絶縁被覆と導体に分離したときに、通常水密材は絶縁被覆と共に皮剥ぎされて導体と分離する。しかしながら、水密材の種類や架橋、非架橋によって剥離の状態が異なり、特にEEAやEVAからなる非架橋の水密材は、導体素線に密着して残留することが多い。このように密着残留した水密材は撚り線導体を粉砕後も導体素線に残留しており、その後の導体の溶解処理等に支障をきたしリサイクル材として問題がある。
【0010】
そこで種々の実験を行って、導体上或いは導体素線上に水密材が残留しない除去方法について検討した結果、絶縁被覆層を機械的に除去した後の水密材が付着している導体を100℃の水蒸気に一定時間接触させることによって、比較的簡単に導体素線から水密材が除去できることを確認した。このように100℃の水蒸気に曝すのは、水密材の除去処理として比較的簡単であるためで、100℃未満の温度で行うことは時間を考慮すれば差し支えないが、80℃以下では時間がかかり過ぎて実用的ではない。具体的には、絶縁被覆を皮剥ぎした撚り線導体を100mm長程度に切断し、金網のかごに入れ水を入れた密閉容器内に吊るし、100℃のオーブン中で5分間保持した後、取り出して室温まで冷却した。この撚り線導体を攪拌スクリュー等により攪拌したところ、水密材は簡単に剥離した。これは、水密材と導体素線の界面に水が蒸気として浸入したことによると思われる。このように、導体素線上に残留する水密材を完全に除去することによって、導体は金属材料として溶解処理して再利用することが十分可能となる。前述の結果から、絶縁被覆層を除去した後の水密材が付着している撚り線導体は、100℃の水蒸気に少なくとも5分間曝せば良いことが確認された。また、10分間を超えて水蒸気に曝すのは、コスト的にも過剰である。なお、架橋タイプのEEAやEVAの場合には、100℃の水蒸気では3分程度でも水密材の除去効果が見られた。
【0011】
また、請求項2に記載される発明は、水密絶縁電線の導体(特に導体素線間)に密着残留している水密材を効率よく除去する方法であって、絶縁被覆層を機械的に除去した後の水密材が付着している導体を、60℃以上の電気絶縁油に一定時間浸漬させた後に前記水密材を剥離する水密絶縁電線の水密材の除去方法である。このような水密絶縁電線の水密材の除去方法によっても、絶縁被覆を皮剥ぎした後に導体素線上等に密着残留している水密材を効率よく除去することができる。
【0012】
すなわち、絶縁被覆を皮剥ぎした撚り線導体を100mm長程度に切断し、金網のかごに入れ、60℃に温めた絶縁油に8分間浸漬させた後取り出した。その状態は、水密材はかなり膨潤しており一部は撚り線導体から剥離していた。ついで、この撚り線導体を前述と同様に攪拌したところ水密材は簡単に剥離した。また、架橋EEAやEVAの場合には、60℃の絶縁油に5分間浸漬させることでも効果があった。なお、前記絶縁油としては、ドデシルベンゼン油(以下、DDB)、鉱油等の絶縁油が使用できる。このような除去方法によっても導体素線上等に残留する水密材を十分に除去できるので、導体は金属材料として溶解処理して、十分に再利用することが可能となる。以上の結果から、絶縁被覆を除去した後の水密材が付着している撚り線導体は、60℃の絶縁油に少なくとも5分間浸漬すれば良いことが判ったが、5分間の浸漬では、非架橋EEAやEVAの水密材については十分とは言えなかった。
【0013】
さらに請求項3に記載される発明は、絶縁被覆を除去した導体(特に導体素線間)に密着残留している水密材を効率よく除去する方法であって、絶縁被覆を機械的に除去した後の水密材が付着している撚り線導体を、室温で有機溶剤に一定時間接触させた後に水密材を剥離する水密絶縁電線の水密材の除去方法である。このような、水密絶縁電線の導体から水密材を除去する除去方法によれば、絶縁被覆を皮剥ぎした後の撚り線導体に密着残留している水密材を効率よく除去することができる。
【0014】
この方法は、絶縁被覆を皮剥ぎした撚り線導体を100mm長程度に切断し、金網のかごに入れ、室温で10分間キシレン浸漬させた後に取り出せば良い。この状態で水密材はかなり膨潤しており一部は撚り線導体から剥離していた。ついで、この撚り線導体を攪拌したところ、水密材は簡単に剥離した。また前記キシレンの代わりにトルエン、石油ベンジン等の有機溶剤を用いた場合も同様の効果が見られた。この除去方法は、常温で行っても導体素線上等に残留する水密材を除去できるので実用的であると共に、水密材が除去された導体は金属材料として溶解処理して再利用することが可能となる。以上の実験結果から、絶縁被覆を除去した後の水密材が付着している撚り線導体は、有機溶剤中に室温で少なくとも10分間程度浸漬すれば良いことが確認された。なお、非架橋のEEAやEVAの水密材を用いた場合には10分間浸漬させると、溶解が進み過ぎペーストを塗ったような状況になり、水密材の除去がかえって旨く行えなかった。
【実施例】
【0015】
以下に実施例並びに比較例を示して、本発明の効果を記載した。非架橋のEEA系水密材、非架橋のEVA系の水密材、および架橋したEEA系水密材、EVA系水密材が充填された、それぞれの水密絶縁電線の絶縁被覆を機械的に皮剥ぎした後、撚り線導体を100mm長に切断したものを試料とした。これ等の試料を用いて、100℃の水蒸気による水密材の除去処理、絶縁油による除去処理、有機溶剤による除去処理をそれぞれ行った。実施例の結果を表1に、比較例の結果を表2に、示した。なお、表中の〇印は目視によって観察した結果、撚り線導体に水密材が全く見られない場合。△印は、同様に観察した結果、撚り線導体の表面が95%以上露出している場合。×印は、同様に観察した結果、撚り線導体の表面が95%未満の露出の場合である。なお比較のために、水密絶縁電線の絶縁被覆を皮剥ぎ処理したのみの場合を記載した。
【0016】
【表1】

【0017】
【表2】

【0018】
水蒸気による処理:架橋EEA、架橋EVA、非架橋EEAおよび非架橋のEVA水密材を使用した前記試料をそれぞれ5本づつ用意し、順次金属のカゴに入れ、水を充填した密閉容器内に吊るし、100℃のオーブン中に3分間、5分間および10分間保持した後、取り出して室温まで冷却した。結果は、表1の実施例1〜8に記載するように、100℃の水蒸気に10分間曝した場合は、架橋、非架橋に関係なく熱により水密材は溶解し密着力は殆どなくなっていた。ついで、これらの撚り線導体を攪拌スクリューによって攪拌したところ、〇印で示したようにいずれの水密材も簡単に剥離した。これに対して、表2の比較例1および2に示した非架橋のEEAおよび非架橋EVAを100℃の水蒸気に3分間保持した場合は、△印で示したように若干の水密材が残留することが確認された。
【0019】
絶縁油による処理:架橋EEA、架橋EVA、非架橋EEAおよび非架橋のEVA水密材を使用した前記試料をそれぞれ5本づつ用意し、順次金属のカゴに入れ60℃のDDB(ドデシルベンゼン油)中に8分間、30分間および40分間浸漬後、取り出して室温まで冷却した。結果は、表1の実施例9〜16に見られるように、水密材は架橋、非架橋関係なく、60℃の絶縁油中に8分間以上浸漬すれば良いことが判る。ついで、これらの試料を、攪拌スクリューによって攪拌したところ、前記水密材はいずれも簡単に剥離した。これに対して、非架橋のEEAおよびEVAの場合には、比較例3および4のように60℃の絶縁油中に5分間浸漬した場合は、×印で示したようにかなりの水密材の残留が見られた。また、比較例5および6のように、60℃の絶縁油中に40分間浸漬した場合には、水密材は溶解してしまいこの試料を、攪拌スクリューによって攪拌したところ、前記水密材はペースト状に再付着されて好ましくなかった。
【0020】
有機溶剤による処理:架橋EEA、架橋EVA、非架橋EEAおよび非架橋のEVAの水密材を使用した前記試料を、それぞれ5本づつ用意し、順次金属のカゴに入れ、室温でキシレン、ベンジンおよびトルエン中にそれぞれ10分間浸漬後、取り出して室温まで冷却した。実施例17〜20に見られるように、水密材は架橋、非架橋に関係なく、キシレン中に10分間以上浸漬した場合は、殆ど剥離していた。ついで、これらの試料を、攪拌スクリューによって攪拌したところ、〇印の結果で示すようにいずれも水密材は簡単に剥離した。これに対して、比較例7および8で示した石油ベンジンに10分間浸漬させた場合には、非架橋のEEAやEVAの水密材は溶解してしまい、この試料を攪拌スクリューによって攪拌したところ、前記水密材はペースト状に再付着されて好ましくなかった。また、比較例9および10で示したトルエンに10分間浸漬した場合も、非架橋のEEAやEVAの水密材は溶解してしまい、この試料を攪拌スクリューによって攪拌したところ、前記水密材はペースト状に再付着されて好ましくなかった。
【0021】
なお、水密絶縁電線から絶縁被覆を皮剥ぎしたのみの試料(比較例11〜14)は、架橋、非架橋に関係なくEEAおよびEVAいずれの水密材も撚り線導体の素線間に密着して残留していた。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の水密材の除去方法によれば、導体上に水密材が全く残留しないので、導体は溶解処理して十分に再利用が可能であるから、水密絶縁電線のリサイクル処理方法として実用的な方法である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水密絶縁電線の導体に密着残留している水密材を効率よく除去する方法であって、絶縁被覆層を除去した後の水密材が付着している導体を、100℃の水蒸気に一定時間接触させた後に、前記水密材を剥離することを特徴とする水密絶縁電線の水密材の除去方法。
【請求項2】
水密絶縁電線の導体に密着残留している水密材を効率よく除去する方法であって、絶縁被覆層を除去した後の水密材が付着している導体を、60℃以上の電気絶縁油に一定時間浸漬させた後に、前記水密材を剥離することを特徴とする水密絶縁電線の水密材の除去方法。
【請求項3】
水密絶縁電線の導体に密着残留している水密材を効率よく除去する方法であって、絶縁被覆層を除去した後の水密材が付着している導体を、室温で有機溶剤に一定時間接触させた後に、前記水密材を剥離することを特徴とする水密絶縁電線の水密材の除去方法。

【公開番号】特開2007−273294(P2007−273294A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−98302(P2006−98302)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)