説明

水底の危険物回収装置とその回収方法

【課題】砲弾や機雷などの危険物を水底から回収することができる水底の危険物回収装置とその回収方法を提供する。
【解決手段】一対のバケット本体21,21を開閉可能に設けたグラブバケット9を備え、バケット本体21は複数の排出口33を有する。また、バケット本体21,21の閉まる力の上限を設定可能なリミッタ手段34を備える。危険物Kと共に掬い上げた土砂を排出口33から排出し、危険物Kのみを回収することができ、バケット本体21を開けた後の回収を容易に行うことができる。また、バケット本体21の閉成動作時に、バケット本体21の先端が危険物Kに当たったり、先端間に危険物を挟んだりしてバケット本体21の閉まる力が上限値に達すると、その力が上がることがなく、危険物Kの破損を防止できる。また、危険物以外の異物を挟んだ場合でも、バケット本体21の破損を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砲弾や機雷などの危険物を水底から回収する危険物回収装置とその回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
砲弾を回収する装置として、両端に砲弾側に突出する把持指を有する把持指ステーと、把持フレームと把持指ステー間に設けられ、前記把持指からの反力を受けて砲弾の形状に沿って把持指ステーの回動を許容すると共に常時に把持指ステーを砲弾の軸方向と平行になるセンター位置に保持するように把持指ステーをセンター側に付勢するスプリング機構とを備えた砲弾把持装置(例えば特許文献1)がある。
【0003】
上記の砲弾把持装置では、地中に埋められた砲弾を発掘して回収する作業に適したものであるが、水底の砲弾や機雷の危険物の回収にそのまま用いることはできない。
【0004】
従来、水底の危険物の回収は潜水士により行われているが、現場の透明度や流速などの施工条件に制約を受け、回収が困難な場合がある。
【0005】
そこで、水底土砂の浚渫などに用いるグラブバケット本体により、水底の砲弾や機雷の危険物を回収することが考えられる。
【特許文献1】特開2007−139360号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のようにグラブバケット本体を用いる方法では、危険物と共に水底の土砂を掬い上げてしまうためグラブバケットを開いて内部の土砂を台船などに移した後、土砂の中から選別する作業が必要となる。また、バケット本体の先端間に危険物を挟んだ場合、危険物に無理な力が加わる虞も有る。
【0007】
そこで、本発明は、砲弾や機雷などの危険物を水底から回収することができる水底の危険物回収装置とその回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、水底の危険物を回収する水底の危険物回収装置において、一対のバケット本体を開閉可能に設けたグラブバケット本体を備え、前記バケット本体は複数の排出口を有するものである。
【0009】
請求項2の発明は、前記一対のバケット本体を油圧により開閉し、前記バケット本体の閉まる力の上限を設定可能なリミッタ手段を備えるものである。
【0010】
請求項3の発明は、前記グラブバケット本体の閉成時に前記バケット本体の先端間に隙間を設け、この隙間を有する状態で、前記先端が上向きをなすものである。
【0011】
請求項4の発明は、前記バケット本体の先端に緩衝材を設けたものである。
【0012】
請求項5の発明は、前記バケット本体の先端側から圧縮水を噴射する圧縮水噴射手段を備えるものである。
【0013】
請求項6の発明は、既知点に設置された固定GPSを有する基地局と、前記台船に配置された移動GPSを有する移動局とで構成され、衛星からのGPS信号を前記固定GPSと移動GPSとで受信することにより前記台船の測位値を得るGPS装置と、前記台船に設けられ前記グラブバケットの位置を測定する位置測定装置とを備えるものである。
【0014】
請求項7の発明は、請求項1〜6のいずれか1項の危険物回収装置を用い、前記グラブバケット本体の閉成時に前記バケット本体の先端間に隙間を設けて前記危険物を回収する方法である。
【0015】
請求項8の発明は、前記隙間が100〜300ミリである方法である。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の構成によれば、危険物と共に掬い上げた土砂を排出口から排出し、危険物のみを回収することができ、バケット本体を開けた後の回収を容易に行うことができる。また、グラブバケットが軽量となる。
【0017】
また、請求項2の構成によれば、バケット本体の閉成動作時に、バケット本体の先端が危険物に当たったり、先端間に危険物を挟んだりしてバケット本体の閉まる力が上限値に達すると、その力が上がることがなく、危険物の破損を防止できる。また、危険物以外の異物を挟んだ場合でも、バケット本体の破損を防止できる。
【0018】
また、請求項3の構成によれば、先端間に隙間を設けることにより、先端間に危険物を挟んで破損することを防止できる。また、隙間がある状態で先端が上向きをなすので、左右のバケット本体内に危険物を確実に取り込むことができる。
【0019】
また、請求項4の構成によれば、緩衝材により、危険物接触時の衝撃を緩和し、危険物の破損を防止できる。
【0020】
また、請求項5の構成によれば、圧縮水を噴射しながらグラブバケットを駆動することにより、バケット本体による掘削時の土圧を軽減し、リミッタ手段の誤作動を防止することができる。また、水底に埋まった危険物を圧縮水の噴射で掘り起こすことにより、刃先が接触した場合の危険物の破損を防止できる。さらに、圧縮水の噴射により危険物を浮かし、グラブ内への取り込みを補助する。特に、先端に隙間を設けて閉めるから、隙間からの危険物の漏れを防止できる。
【0021】
また、請求項6の構成によれば、衛星からのGPS信号が固定GPS及び第1,第2の移動GPSのそれぞれで受信され、固定GPSからの測位データは、送信機を介して移動GPSに送られる。移動局では、前記固定GPSと第1の移動GPSで受信したGPS信号を用いて所定の初期化処理を実行し、複数の候補点の中から真の解と見做し得る測定点を決定する初期化を行って、第1の測位結果とする。同様に前記固定GPSと第2の移動GPSとの間でも初期化が実行されて、第2の測位結果が得られる。初期値と見做された第1、第2の測位結果は、判断手段に導かれて第1,第2の移動GPSに対する所定の位置関係を満足しているかどうかが判断される。すなわち、第1,第2の測位結果は、第1,第2の移動GPSの位置を測位したものであるから、これらの測位結果と、前記所定の位置関係を照合することによって、第1,第2の測位結果が真の測位値であることがより高い確率で判断される。このようにして得られた移動GPSの測位値により、グラブバケットの位置情報を正確に算出することができる。
【0022】
また、請求項7の構成によれば、バケット本体の先端間に危険物を挟むことなく、危険物を回収することができる。
【0023】
また、請求項8の構成によれば、危険物が砲弾の場合、砲弾を挟まずに回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明における好適な実施の形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を限定するものではない。また、以下に説明される構成の全てが、本発明の必須要件であるとは限らない。各実施例では、従来とは異なる新規な水底の危険物回収装置とその回収方法を採用することにより、従来にない機能を付加した水底の危険物回収装置とその回収方法が得られ、その水底の危険物回収装置とその回収方法を夫々記述する。
【実施例1】
【0025】
以下、本発明の実施形態を添付図面を参照して説明する。図1〜図9は、本発明の実施例1を示し、同図に示すように、本発明の危険物回収装置は、台船1を備え、この台船1は、河川、湖沼あるいは港湾等で、砲弾や機雷などの危険物の回収を行うものである。この台船1は、回収を行う現場の水底に打設された固定用ストッパ2により位置固定され、前記台船1に、起重機3を搭載している。この起重機3は、走行手段たるクローラ5の上部に車体4を旋回可能に設け、この車体4に起伏アーム7を上下回動自在に設け、この起伏アーム7の先端にワイヤー6を吊設し、このワイヤー6を巻取装置6Aにより巻き取り、前記起伏アーム7の起伏角度を角度検出手段8により検出し、前記ワイヤー6の先端(下端)にグラブバケット9を吊設している。また、前記起重機3のクローラ5は、図示しない固定手段により台船1に固定されている。
【0026】
図1〜図4に示すように、前記グラブバケット9は、左右一対のバケット本体21,21を開閉可能に有し、これらバケット本体21,21は、先端に刃先22,22を有する底部23,23と、左右の側部24,24とを連続して備えると共に、それらバケット本体21,21は、前後を側壁26,26によりそれぞれ塞いでいる。尚、左右のバケット本体21,21は、左右対称である。前記バケット本体21の上部には、前後に枢軸27,27が設けられ、これら枢軸27,27により、バケット本体21がグラブバケット9の基部28に枢支され、前記枢軸27の上方に作動部29が設けられ、左右のバケット本体21,21の作動部29,29が開閉手段たる油圧シリンダ30に連結されている。そして、油圧シリンダ30が収縮,伸張すると共に、図示しない同期機構により、左右のバケット本体21,21が左右対称に開閉するようになっている。尚、前記刃先22の先端は、凹凸のない線状に形成されている。
【0027】
前記底部23と側部24とは、縦枠材31と横枠材32を格子状に組むと共にそれら縦枠材31と横枠材32の間に縦長の排出口33を設けた網目構造をなしている。この場合、排出口33は、縦寸法より横寸法が小さい。
【0028】
前記回収装置は、バケット本体21,21の閉まる力の上限を設定するリミッタ手段34を備える。このリミッタ手段34は、開閉手段である前記油圧シリンダ30の発生油圧を測定手段35により測定し、その発生油圧の上限値により、バケット本体21,21の閉まる力を算出し、その上限を設定するものである。すなわち前記発生油圧とバケット本体21,21の閉まる力とは相関関係があるから、発生油圧によりバケット本体21,21の閉まる力を測定し、その上限を設定することができる。また、リミット手段34は、バケット本体21,21の閉まる力の上限を可変に設定する可変設定手段36を備え、バケット本体21,21の閉まる力が上限値に達すると、発生油圧の上昇を停止したり、発生油圧を下げたりするように制御される。尚、バケット本体21,21を停止するように制御してもよい。
【0029】
また、前記刃先22には、少なくともその先端に、緩衝材たるゴムコーティング40が施されている。
【0030】
したがって、バケット本体21,21の閉成動作時に、刃先22が危険物Kに当たったり、刃先22,22間に危険物Kを挟んだりしてバケット本体21,21の閉まる力が上限値に達すると、その力が弱まり、危険物Kの破損を防止できる。また、危険物K以外の異物を挟んでも、バケット本体21の破損を防止できる。さらに、バケット本体21,21の閉まる力の上限を可変に設定できるため、危険物Kの強度やゴムコーティング40の強度により設定し、現場で調整することができる。
【0031】
前記回収装置はグラブバケット9のバケット本体21の開度を検出する開度検出手段41と、バケット本体昇降制御手段とを備え、前記開度検出手段41により検出したバケット本体21,21の開度により水底の泥土を所定厚さの範囲で掘削するようにグラブバケット本体3の高さを制御する。尚、バケット本体21による掘削深度Hを200〜300ミリとしている。
【0032】
前記開度検出手段41は、前記油圧シリンダ30を駆動する油圧回路に設けられ、油圧シリンダ30に供給される油量から油圧シリンダ30の伸長量を測定し、バケット本体21の開度を検出したり、前記油圧回路に油圧シリンダ30の動作に対応して伸張する測定用のシリンダ(図示せず)を設け、測定用シリンダの伸張量を測定し、バケット本体21の開度を検出したりすることができる。あるいは、本実施例で示した油圧式以外でも、開度に対応した電気データを検出して制御手段に入力するものでもよい。
【0033】
また、前記グラブバケット本体9には、閉成時に刃先22,22間に隙間Sが設けられ、この隙間Sを可変に設定する隙間設定手段43を備える。この隙間設定手段43は、前記開度検出手段41により検出したバケット本体21,21の開度から刃先22,22間の隙間Sを検出し、前記油圧シリンダ30の動作を停止し、隙間Sを形成する。この隙間Sの寸法としては、危険物Kが砲弾であれば、100〜300ミリ、好ましくは200ミリ程度とすることにより、砲弾を直径方向から挟むことを防止できる。この場合、回収する危険物Kの大きさに対応して、具体的には砲弾の直径Dに対応して、この直径Dより隙間Sを僅かに大きく設定する。
【0034】
また、前記隙間Sを開けてバケット本体21,21を閉成した状態で、前記刃先22,22は上向きをなす。したがって、隙間Sがあっても、バケット本体21の底部23に掬い上げた危険物Kの落下を防止できる。
【0035】
前記回収装置には、前記バケット本体21の刃先22から先端に向って圧縮水を噴射する圧縮水噴射手段51を備え、この圧縮水噴射手段51は、前記刃先22に設けた複数の噴射ノズル52と、この噴射ノズル52に接続した可撓管からなる管路53と、この管路53に接続され前記台船1に搭載したポンプなどの圧縮水供給手段54とからなり、噴射ノズル52から圧縮水Wを噴射する。
【0036】
また、前記グラブバケット9は、左右方向の長さと、前後方向の幅と、高さをいずれも2.5メートル以下とし、陸上運搬が可能な大きさとしている。
【0037】
また、回収装置は、台船1に対するグラブバケット本体9の位置を検出するバケット位置検出手段61を備え、このバケット位置検出手段61はグラブバケット9に設けた送波器62と、この送波器62から送られた電波を受けて前記送波器62の位置を検出する受波器63とを備え、この受波器63を台船1に設けている。
【0038】
さらに、回収装置は、位置管理のために、GPS装置72を備え、以下、このGPS装置72について説明すると、移動局である台船1の後部には、所要の高さ位置に一対のGPSアンテナ161,171が配設されている。なお、GPS受信機160,170は、台船1の操作室(図示せず)に設けられ、図1に示すように、GPSアンテナ161,171とはそれぞれ信号線を介して接続されている。また、GPSアンテナ161,171の配置位置は、天井に限定されず、台船1上の適宜の2か所であればよい。本実施形態においては、GPSアンテナ161,171は互いに所定距離Lだけ離間した位置関係を有して配置されている。
【0039】
181は、地上に般けられた図外の基地局からの、後述する送信データを受信するデータアンテナである。なお、GPSアンテナ161,171は、マルチバス等による電波干渉の影響を極力防止するべく、適宜な高さ位置に搭載されている。
【0040】
図8は、本装置に用いるGPS装置のブロック図を示している。図において、基地局200は港湾近くの地上の特定の既地点に設置され、GPSアンテナ181及びGPS受信機180からなる固定GPSを備えると共に、この固定GPSで測位されたデータを移動局である台船に向けて伝送するためのデータ送信機182及びデータアンテナ183を備えている。
【0041】
一方、移動局である台船1は、前述したGPS受信機160,170及びGPSアンテナ161,171を備えるとともに、基地局200から伝送されてくるデータを受信するデータアンテナ191及び受信データをデコードするデータ受信機190を備える。
【0042】
100は管理システム部であって、制御部101及び測位値監視部102を備える。前記制御部101には、船体位置表示部103と、グラブバケット9の刃先22の位置情報を算出する刃先位置検出手段104とが設けられている。そして、前記制御部101には、開度検出手段41,感覚設定手段42及び前記バケット位置検出手段61が電気的に接続され、その検出データが取り込まれるようになっている。
【0043】
制御部101は、GPS受信機160,170からの測位データ1,2であるGPSアンテナ161,171の3次元位置から、台船1の所定位置(例えば基準位置P4)を算出し、前記バケット位置検出手段61の位置検出データにより、刃先22の位置を計算し、前記船体位置表示部103のディスプレーなどに表示するものである。そして、刃先22の位置を示す表示データは、台船1での起重機3の操作指示に供される。尚、前記基準位置P4は、起重機3の旋回中心に位置する。
【0044】
測位値監視部102は、GPS受信機160,170の出力側に接続され、測位データ1,2及び予め書き込まれている距離Lを用いて、測位データ1,2が真の測位値であるかどうかを判断するものであり、後述する初期化において、特に用いられる。なお、この測位値監視部102は、初期化後においても測位値誤差を監視し、側位データの誤差が、ある閾値を越えたときは、初期化のためのリセット(初期化リセット)を指示するようにしている。
【0045】
RTK−GPS(リアルタイムキネマティックGPS)による測位動作を、簡単に説明すると、L1(波長19cm)またはL2(波長24cm)の搬送波であるGPS信号は、得られた位相情報がいずれのサイクルのものかを確認する必要があることから、複数個の衛星が用いられ、3次元測位を行う際には少なくとも5個の衛星が用いられ、本発明では、3次元測位と、衛星の時計と各GPS受信機の時計間の誤差修正とのために、人工衛屋の内の、少なくとも5つの衛星からのGPS信号が用いられる。
【0046】
各GPSアンテナ181,161,171は、衛星からのGPS信号、例えばL1搬送波(波長19cm)を受信する。GPS受信機180は、受信されたGPS信号から搬送波の位相情報をデータ送信機182を介してデータアンテナ183から海上に送信する。同時に、GPSアンテナ161,171で受信されたGPS信号はGPS受信機160,170で、その位相情報が検出され、データアンテナ191で受信された基地局200の位相データとを用いて、それぞれ自己のGPSアンテナ161,171の双曲面内の(波長19cm毎の)測位候補点を得る。かかる処理を複数、例えば5個の衛星に対しても行うことで5個の双曲面内での格子点が真の測位点のための候補点として得られる。GPS受信機160,170はそれぞれ得られた上記候補点の中から、時間的に位置か変化しない格子点を、公知の解析手法等を利用して求め、真の測位点と見做し得る測位値を決定する。L1搬送波によるキネマティック方式を採用することで、測位精度は使用波長の数分の1である、数センチ程度まで向上させることができる。そして、GPS受信機160,170で初期化が終了すると、初期化完了信号を出力するようにしている。
【0047】
測位値監視部102には、このようにして得られた初期化による測位結果である測位値及び初期化完了信号が導かれ、これらの情報を元に、測定値が真の測位値かどうかについて、後述の回路ブロックを用いて判断する。
【0048】
図9は、測位値監視部102の内部ブロック図である。321,322はアンド回路で、測位データ1,2と初期化完了信号とが導かれる。323は演算部で、測位データ1,2で得られた両位置間の距離D1を算出する。324は平均化回路である。325は判断部で、測位データ1,2から得られた両位置間の距離D1が所定の閾値、すなわち規定値を越えたかどうかを判断する。
【0049】
以下、図9を用いて測位値監視処理について説明する。今、GPSアンテナ161,171の船体上の特定個所(例えばバックフォー4の基準位置P4)に対する位置を座標(x10,y10,z10),(x20,y20,z20)とすると、2点間の距離Dは、
【0050】
【数1】

で表され、この値は測位値監視部102内に予め書き込まれている。
【0051】
一方、アンド回路321,322から出力される測位データ1,2を座標(x1,y1,x1),(x2,y2,z2)とすると、2点間の距離D1は、演算部323で数2のように計算され、
【0052】
【数2】

となる。
【0053】
そして、測位データ1,2による2点間距離D1は、測位データ1,2が真の測位値であれば、距離Dに一致するはずであるから、ここで実測した距離DとGPS測位から得られた値D1との正誤のための照合を判断部325で行う。すなわち、数3に示す判断式において、D1が、
【0054】
【数3】

を満足するかどうかである。
【0055】
但し、測定精度の向上を図るべく、平均化回路324において、例えば連続する3回分D11,D12,D13の距離データが平均されている。例えば、D1の4番目の値は、(D11+D12十D13)/3、のように平均化される。
【0056】
そして、値D1が規定値内、すなわちD1がD−dDより大きく、かつD1がD+dDより小さければ、判断部325からNOを示す信号が正常ステータス信号として出力される。逆に、D1がD−dDより小さいが、又はD1がD+dDより大きければ、測定値は真の測定値ではないとして、再度の初期化を指示するべく、判断部325からYESを示す信号が初期化リセット信号として出力される。
【0057】
そして、かかる測位値監視部102は、測位動作中、常に監視処理を実行することで、初期化時、初期化後の測位中の双方において、誤った測位結果が得られると即座に初期化リセット指示を行うことが可能となる。従って、従来のように、誤った状態で、数10分も経過しなければそのことが判断し得ない場合に比して極めて高精度で、信頼性の高い装置ということができる。そして、位置をセンチレベルで正確に測定し得るので、例えば50センチ以下の薄層浚渫の作業精度の要請にも充分対応することが可能となる。
【0058】
以上のようにして、正常ステータス信号が制御部101に出力されると、制御部101は、得られた測位データ1,2をもとに、GPSアンテナ161,171のいずれか一方の測位結果を用いて起重機3の基準位置P4を計算し、さらに、バケット位置検出手段61から刃先22の位置が求められる。すなわち、基準位置P4から、バケット位置検出手段61によりグラブバケット本体9の基準位置を検出し、開度検出手段41により開度を検出し、これらのデータにより前記刃先位置検出手段104が刃先22の位置を算出する。
【0059】
なお、本実施例では、GPSアンテナ161,171の位置の中心位置を基準に座標設定したが、一方のGPSアンテナを基準に他方のGPSアンテナの位置座標のみ規定して位置を決定してもよく、このようにすれば、座標値を小さい値とすることができ、記憶容量が小さくできるし、また演算上も都合がよい。さらに、座標データに代えて直接、距離データを記憶させておいてもよく、このようにすれば、GPSアンテナ161,171間の距離を演算する必要がない。
【0060】
次に、前記回収装置による施工方法につき説明すると、回収場所において、固定用スパット2を水底に打ち込み、台船1を固定する。水底の危険物Kの位置を予め測定しておき、危険物Kにグラブバケット9の位置を合わせる。この際、刃先位置検出手段104により刃先22,22の位置を危険物Kに合わせることができる。
【0061】
そして、図1に示すように、圧縮水噴射手段51により噴射ノズル52から圧縮水Wを噴射しながら、油圧シリンダ30によりバケット本体21,21を閉める方向に駆動する。この場合、前記圧縮水Wの噴射により刃先22に加わる土圧を軽減でき、また、噴射した圧縮水Wにより、埋没した危険物Kを掘り起すようにして浮かせ、バケット本体21,21内に取り込むことができる。
【0062】
また、バケット本体21による掘削時に、バケット本体21を閉める力が上限値を超えると、リミット手段34によりバケット本体21が停止するから、刃先22に危険物Kが当たったり、危険物Kの向きにより刃先22,22間に危険物Kを挟んだりしても、危険物Kにそれ以上の力が加わらず、危険物K及びバケット本体21を破損することがない。さらに、バケット本体21を最大に閉めた状態で、刃先22,22には、隙間Sが設けられるから、刃先22,22間に砲弾などの危険物Kを挟むことがない。
【0063】
このようにしてバケット本体21,21内に危険物Kを回収した後、起重機3により、グラブバケット9を引き上げ、台船1上でバケット本体21,21を開いて台船1に危険物Kを回収する。この場合、バケット本体21には複数の排出口33が設けられているから、土砂分などを掬い上げることがなく、台船1での回収作業を容易に行うことができる。
【0064】
また、制御部101により、グラブバケット9の3次元位置を求め、2台のGPSアンテナ61,71の測位を作業中連続して行い、図9に示すように、グラブバケット9の断面位置を、ディスプレー上に表示すると共に、台船1及びグラブバケット9の平面位置をディスプレー上に表示し、これらを視覚的に確認しながら作業を行うことができ、また、2台のGPSアンテナ61,71を用いることにより、これらアンテナ61,71の計測結果を用いて台船1の位置及び向きを正確に管理することができる。
【0065】
また、水底面10の高さは、図示しない深度計を用いて測定し、これとGPS装置72とを組み合わせて使用することで、陸上、水中などの直接オペレータが目視でいない箇所の危険物Kを回収することができる。
【0066】
このように本実施例では、請求項1に対応して、水底の危険物Kを回収する水底の危険物回収装置において、一対のバケット本体21,21を開閉可能に設けたグラブバケット9を備え、バケット本体21は複数の排出口33を有するから、危険物Kと共に掬い上げた土砂を排出口33から排出し、危険物Kのみを回収することができ、バケット本体21を開けた後の回収を容易に行うことができる。また、グラブバケット9が軽量となり、扱い易いものとなる。
【0067】
また、このように本実施例では、請求項2に対応して、一対のバケット本体21,21を油圧により開閉し、バケット本体21,21の閉まる力の上限を設定可能なリミッタ手段34を備えるから、バケット本体21の閉成動作時に、バケット本体21の先端が危険物Kに当たったり、先端間に危険物を挟んだりしてバケット本体21の閉まる力が上限値に達すると、その力が上がることがなく、危険物Kの破損を防止できる。また、危険物以外の異物を挟んだ場合でも、バケット本体21の破損を防止できる。
【0068】
また、このように本実施例では、請求項3に対応して、グラブバケット9の閉成時にバケット本体21の先端間に隙間Sを設け、この隙間Sを有する状態で、先端たる刃先22が上向きをなすから、刃先22,22間に危険物Kを挟んで破損することを防止できる。また、隙間Sがある状態で刃先22が上向きをなすので、左右のバケット本体21,21内に危険物Kを確実に取り込むことができる。
【0069】
また、このように本実施例では、請求項4に対応して、バケット本体21の先端である刃先22に緩衝材たるゴムコーティング40を設けたから、危険物接触時の衝撃を緩和し、危険物Kの破損を防止できる。
【0070】
また、このように本実施例では、請求項5に対応して、バケット本体21の先端側から圧縮水Wを噴射する圧縮水噴射手段51を備えるから、圧縮水Wを噴射しながらグラブバケット9を駆動することにより、バケット本体21による掘削時の土圧を軽減し、リミッタ手段34の誤作動を防止することができる。また、水底に埋まった危険物Kを圧縮水Wの噴射で掘り起こすことにより、刃先22が接触した場合の危険物Kの破損を防止できる。さらに、圧縮水Wの噴射により危険物Kを浮かし、グラブ9内への取り込みを補助する。特に、先端に隙間Sを設けて閉めるから、隙間Sからの危険物Kの漏れを防止できる。
【0071】
また、このように本実施例では、請求項6に対応して、既知点に設置された固定GPSを有する基地局200と、台船1に配置された移動GPSを有する移動局とで構成され、衛星からのGPS信号を固定GPSたるGPSアンテナ81と移動GPSたる第1,第2のGPSアンテナ61,71とで受信することにより台船1の測位値を得るGPS装置と、台船1に設けられグラブバケット9の位置を測定する位置測定装置61とを備えるから、衛星からのGPS信号が固定GPSアンテナ81及び第1,第2の移動GPSアンテナ61,71のそれぞれの受信機80,60,70で受信され、固定GPSからの測位データは、GPSの送信機82を介して移動GPSに送られる。移動局では、固定GPSと第1の移動GPSで受信したGPS信号を用いて所定の初期化処理を実行し、複数の候補点の中から真の解と見做し得る測定点を決定する初期化を行って、第1の測位結果とし、同様に固定GPSと第2の移動GPSとの間でも初期化が実行されて、第2の測位結果が得られる。初期値と見做された第1、第2の測位結果は、判断手段に導かれて第1,第2の移動GPSに対する所定の位置関係を満足しているかどうかが判断される。すなわち、第1,第2の測位結果は、第1,第2の移動GPSアンテナ61,71の位置を測位したものであるから、これらの測位結果と、前記所定の位置関係を照合することによって、第1,第2の測位結果が真の測位値であることがより高い確率で判断さすることができる。さらに、浚渫船1に2台のGPSアンテナ61,71及びGPS受信機60,70を設け、それぞれの測位結果を算出することにより、浚渫船1及びグラブバケット9などの位置,方向確認を容易に行うことができる。
【0072】
また、このように本実施例では、請求項7に対応して、請求項1〜6のいずれか1項の危険物回収装置を用いグラブバケット9の閉成時にバケット本体21の先端たる刃先22,22間に隙間Sを設けて危険物Kを回収するから、バケット本体21の刃先22,22間に危険物Kを挟むことなく、危険物Kを回収することができる。
【0073】
また、このように本実施例では、請求項8に対応して、隙間Sが100〜300ミリであるから、危険物Kが砲弾の場合、砲弾を挟まずに回収することができる。
【0074】
また、実施例上の効果として、前記刃先22の先端は、凹凸のない線状に形成されているから、凹凸の有る場合のように、刃先22の一部が部分的に危険物Kに当たることがない。さらに、一つの刃先22に複数の噴射ノズル52を備えるから、略均一に圧縮水Wを噴射することができる。
【0075】
さらに、実施例上の効果として、既知点に設置された固定GPSを有する基地局200と、浚渫船1に配置された移動GPSを有する移動局とで構成され、衛星からのGPS信号を固定GPSたるGPSアンテナ181と、移動GPSたる第1,第2のGPSアンテナ161,171とで受信することにより浚渫船1の測位値を得るGPS装置と、刃先位置検出手段104とを備え、移動GPSの測位値を用いて位置情報を算出するから、衛星からのGPS信号を固定GPS及び移動GPSで受信し、固定GPSで得られた測位値により補正された移動GPSの測位値が得られ、この測位値により、刃先22の位置情報を算出することができるため、従来のように固定点からの測定を行う必要がなくなると共に、天候条件等にも左右されず、刃先22の位置管理を容易に行うことができる。
【0076】
また、本実施例上の効果として、移動局は、移動GPSとして台船1で所定の位置関係を有して配置された第1,第2のGPSたるGPSアンテナ161,171を備えると共に、固定GPSたるGPSアンテナ181と第1の移動GPSたるGPSアンテナ161との間で実行された初期化で得られた第1の測位結果と、固定GPSたるGPSアンテナ181との間で実行された初期化で得られた第2の測位結果とが、上記所定の位置関係を満足しているかどうかを判断する判断手段たる測位値監視部102を備えるものであるから、衛星からのGPS信号が固定GPSアンテナ181及び第1,第2の移動GPSアンテナ161,171のそれぞれの受信機180,160,170で受信され、固定GPSからの測位データは、GPSの送信機182を介して移動GPSに送られる。移動局では、固定GPSと第1の移動GPSで受信したGPS信号を用いて所定の初期化処理を実行し、複数の候補点の中から真の解と見做し得る測定点を決定する初期化を行って、第1の測位結果とし、同様に固定GPSと第2の移動GPSとの間でも初期化が実行されて、第2の測位結果が得られる。初期値と見做された第1、第2の測位結果は、判断手段に導かれて第1,第2の移動GPSに対する所定の位置関係を満足しているかどうかが判断される。すなわち、第1,第2の測位結果は、第1,第2の移動GPSアンテナ161,171の位置を測位したものであるから、これらの測位結果と、前記所定の位置関係を照合することによって、第1,第2の測位結果が真の測位値であることがより高い確率で判断さすることができる。また、前記所定の位置関係は、第1,第2の移動GPSアンテナ161,171の3次元位置座標であるから、第1,第2の移動GPSアンテナ161,171の位置を3次元位置座標で記憶しておくと、両者間の距離はベクトル演算で容易に求めることができる。また、GPSに係わる実施例上の効果として、前記所定の位置関係として、第1の移動GPSアンテナ161を基準とした第2の移動GPSアンテナ171の情報を用いるか、第2の移動GPSアンテナ171を基準とした第1の移動GPSアンテナ161の情報を用いたので、両移動GPSの位置関係を規定する情報量、値を小さくでき、記憶容量、計算上都合がよい。また、前記所定の位置関係として、移動GPSアンテナ161,171間の距離情報を用いたから、直接距離データを記憶しておいてその計算を省くことができる。また、前記判断手段を、前記第1の測定結果と第2の測定結果から第1,第2移動GPSアンテナ161,171間の距離を算出する距離算出部たる演算部323と、この演算部323で得られた算出距離が前記所定の位置関係と対応するかどうかを判断する一致判断部325とで構成したので、第1,第2の移動GPSアンテナ161,171間の距離を求めて、この距離情報が所定の位置関係を満足するかどうかの判断のみで、より高い精度で初期化ができる。また、前記距離算出部が、複数回の計算結果を平均する平均手段たる平均化回路324により得られた値を算出距離とするようにして、複数回の計算距離を平均化して判断部325に提供するので、判断精度の信頼性の向上を図ることができる。また、GPS測位装置において、第1,第2の移動GPSの少なくとも一方の測位値を用いて移動体の所定箇所(P4)の位置情報を算出する算出手段たる演算部323を設けたので、浚渫船1の所定箇所を第1,第2の移動GPSアンテナ161,171との関係で設定しておくだけで、この関係つけられた移動GPSの測位情報から所定箇所の位置を容易に得ることができる。
【0077】
なお、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、種々の変形実施が可能である。例えば、実施例ではバケット本体の側部と底部に排出口を設けたが、底部側のみに排出口を設けてもよい。また、リミッタ手段は、前記バケット本体の閉まる力の上限を設定可能なものであれば、各種の手段を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の実施例1を示すグラブバケットの図面であり、図1(A)は正面図、図1(B)は側面図を示す。
【図2】同上、回収装置全体の側面図を示す。
【図3】同上、グラブバケット下部の正面図である。
【図4】同上、回収装置全体の概略説明図を示す。
【図5】同上、リミッタ手段回りのブロック図である。
【図6】同上、制御部の要部のブロック図である。
【図7】同上、船体位置表示部により装置を表示した説明図である。
【図8】同上、GPS装置のブロック図である。
【図9】同上、即位値関し部の内部ブロック図である。
【符号の説明】
【0079】
1 台船
3 起重機
10 水底面
21 バケット本体
22 刃先(先端)
23 底部
24 側部
30 油圧シリンダ(開閉手段)
33 排出口
34 リミット手段
36 可変設定手段
40 ゴムコーティング(緩衝材)
S 隙間
K 危険物
51 圧縮水紛噴射手段
52 噴射ノズル
61 位置検出手段
72 GPS装置
W 圧縮水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水底の危険物を回収する水底の危険物回収装置において、一対のバケット本体を開閉可能に設けたグラブバケット本体を備え、前記バケット本体は複数の排出口を有することを特徴とする水底の危険物回収装置。
【請求項2】
前記一対のバケット本体を油圧により開閉し、前記バケット本体の閉まる力の上限を設定可能なリミッタ手段を備えることを特徴とする請求項1記載の水底の危険物回収装置。
【請求項3】
前記グラブバケット本体の閉成時に前記バケット本体の先端間に隙間を設け、この隙間を有する状態で、前記先端が上向きをなすことを特徴とする請求項2記載の水底の危険物回収装置。
【請求項4】
前記バケット本体の先端に緩衝材を設けたことを特徴とする請求項2又は3記載の水底の危険物回収装置。
【請求項5】
前記バケット本体の先端側から圧縮水を噴射する圧縮水噴射手段を備えることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の水底の危険物回収装置。
【請求項6】
既知点に設置された固定GPSを有する基地局と、前記台船に配置された移動GPSを有する移動局とで構成され、衛星からのGPS信号を前記固定GPSと移動GPSとで受信することにより前記台船の測位値を得るGPS装置と、前記台船に設けられ前記グラブバケットの位置を測定する位置測定装置とを備えることを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項に記載の水底の危険物回収装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項の危険物回収装置を用い、前記グラブバケット本体の閉成時に前記バケット本体の先端間に隙間を設けて前記危険物を回収することを特徴とする水底の危険物回収方法。
【請求項8】
前記隙間が100〜300ミリであることを特徴とする請求項7記載の水底の危険物回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−112021(P2010−112021A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−283736(P2008−283736)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(000155034)株式会社本間組 (15)