説明

水性エマルジョン、およびその製造方法

【課題】 ポリビニルアルコール系樹脂を含む分散剤と、ビニルエステル系単量体に由来する構造単位を含む重合体を分散質とする水性エマルジョンであって、0℃での粘度安定性に優れた水性エマルジョンを提供すること。
【解決手段】 凝固点降下剤を配合せず、固形分濃度を50重量%に調整し、0℃で1週間静置したときの粘度上昇率が5%以下である水性エマルジョン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール系樹脂(以下、ポリビニルアルコールをPVAと略記する。)を含む分散剤と、ビニルエステル系単量体に由来する構造単位を含む重合体を分散質として含有する水性エマルジョンに関し、さらに詳しくは、凝固点降下剤を配合しなくても0℃で凍結することなく、さらに0℃以下での粘度安定性、および、長期保存安定性に優れた水性エマルジョンに関する。
【背景技術】
【0002】
酢酸ビニルに代表されるビニルエステル系単量体の重合体を分散質とする水性エマルジョンは、各種素材との接着性に優れることから、紙用、木工用、プラスチック用などの接着剤、紙、不織布などのバインダー、紙加工剤、繊維加工剤、セメント混和剤、打ち継ぎ剤、塗料などの用途に広く用いられている。
かかるビニルエステル系重合体の水性エマルジョンは、通常、分散剤としてポリビニルアルコール系樹脂を用いた乳化重合によって製造される。
【0003】
かかるビニルエステル系重合体の水性エマルジョンは、分散剤として用いるPVA系樹脂のケン化度によって、物性を制御することが可能である。例えば、高粘度と低温での粘度安定性が求められる接着剤等に用いられる水性エマルジョンの場合、低ケン化度のPVA系樹脂が一般的に用いられている。しかしながら、低ケン化度PVA系樹脂を分散剤として得られた水性エマルジョンは、耐水性に乏しいという問題がある。
一方、高ケン化度PVA系樹脂を用いると耐水性は改善されるが、低温での粘度安定性が不充分となる。すなわち、PVA系樹脂のケン化度の調整では、耐水性と低温での粘度安定性の両方の特性を満足する水性エマルジョンを得ることは困難であった。
【0004】
かかる課題に対し、種々の変性PVA系樹脂を用いる検討が広くおこなわれ、例えば、低温における放置安定性と凍結融解安定性、さらに皮膜の耐溶剤性に優れる水性エマルジョンとして、主鎖の結合様式である1,2−グリコール結合を1.9モル%以上有し、活性水素を含有する官能基を分子内に有するPVA系樹脂を分散剤とする水性エマルジョンが提案されている。(例えば、特許文献1参照。)
なお、かかる特許文献1には、活性水素を含有する官能基として、1級アミノ基、2級アミノ基、アセトアセチル基、ジアセトンアクリルアミド基が例示され、具体的にはアミノ基あるいはアセトアセチル基を含有するPVA系樹脂で得られた水性エマルジョンが挙げられている。
【0005】
また、本出願人も、機械安定性、凍結安定性、さらに高温での長期放置安定性に優れた水性エマルジョンとして、側鎖に1,2−ジオール構造単位を有するPVA系樹脂を分散剤として得られる水性エマルジョンを提案している。(例えば、特許文献2参照。)
なお、かかる特許文献2においては、1,2−ジオール構造単位を含有するPVA系樹脂として残存エステル基量が15モル%以下のもの(ケン化度として85モル%を超えるもの)が好ましいと説明されており、実施例では、残存エステル基量が2.2〜6.0モル%(ケン化度として94.0〜97.8モル%)のもの、すなわち、比較的ケン化度が高いものが用いられている。
【0006】
【特許文献1】特開2004−300193号公報
【特許文献2】特開2006−124682号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1および2に記載の水性エマルジョンは、低温での粘度安定性に優れたものであるが、いずれもその評価は5℃で行われたものである。しかしながら、近年では、水性エマルジョンをより過酷な環境で使用する機会が増大し、例えば、寒冷地で冬季に屋外で使用する場合に相当する、0℃以下での安定性が強く求められている。
【0008】
このような観点から、特許文献1に記載の、主鎖の1,2−グリコール結合が通常よりも多く、活性水素含有官能基としてアセトアセチル基を有するPVA系樹脂を分散剤として得られたポリ酢酸ビニルエマルジョンを評価したところ、0℃で水層が凍結し、系全体の流動性がなくなることが判明した。
なお、特許文献1に記載の水性エマルジョンは凍結安定性について考慮されており、凍結したとしても、解凍することで凍結前の状態に戻ることが確認されている。しかしながら、一旦凍結した水性エマルジョンを加熱解凍する場合、攪拌等による均一加熱が困難であるため、過度に高温となった部分のエマルジョン破壊がおきたり、それを避けるために、低温で長時間かけて解凍する必要があることなどから、水性エマルジョンを凍結させることは極力避けるべきである。
【0009】
同様に、特許文献2の記載に基づいて得られた、側鎖に1,2−ジオール構造を有し、ケン化度が94モル%以上であるPVA系樹脂を分散剤として用い、酢酸ビニルを乳化重合して得られたポリ酢酸ビニルの水性エマルジョンの0℃での安定性を評価したところ、系全体が凍結することはないが、保存時に増粘し、最終的にはゲル化してしまうことが判明した。
これは、水性エマルジョンを0℃で保存した場合、完全に凍結しないまでも、水層に氷の微結晶が生成し、これが水性エマルジョンを破壊することによって凝集がおこり、粘度上昇の原因となるものである。
【0010】
このような問題点を解決する方策として、通常は凝固点降下剤を配合し、0℃以下での凍結防止、および粘度安定性の向上が図られていた。
なお、水性エマルジョンに配合される凝固点降下剤としては、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類、エチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトールなどの多価アルコール類、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアムド、アセトニトリルなどの水との混和性が高い有機溶剤類、塩化ナトリウム、塩化リチウム、塩化カルシウムなどの塩類、が挙げられる。
【0011】
しかしながら、アルコール類や有機溶剤類は、水性エマルジョンの使用時、あるいは使用後の乾燥時に空気中に揮散しやすく、環境を汚染したり、健康被害をもたらす原因となり、多価アルコール類の場合、これを含有する水性エマルジョンをセメント混和剤に用いると、セメントの硬化を阻害する場合があったり、乾燥後に表面に漏出してべたつきや汚染の原因となったりする場合があり、塩類は、塩析効果などによって、エマルジョンの安定性が低下する場合があるため、好ましくない。
すなわち、水性エマルジョンの物性面、特性面などから、かかる凝固点降下剤を併用することは好ましいことではない。
【0012】
すなわち本発明は、上述の課題を解決するために行われたものであって、具体的には、凝固点降下剤を配合しなくとも、0℃以下の低温での粘度安定性に優れるビニルエステル系重合体水性エマルジョンの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記事情に鑑み鋭意検討した結果、PVA系樹脂を含む分散剤と、ビニルエステル系単量体に由来する構造単位を含む重合体を分散質とする水性エマルジョンであって、凝固点降下剤を配合せず、濃度を50重量%に調整し、0℃で1週間静置したときの粘度上昇率が5%以下である水性エマルジョンがかかる課題を解決するものであることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
なお、本発明の水性エマルジョンは、例えば、下記一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位を有し、ケン化度が70〜93モル%であるPVA系樹脂を含む分散剤を用い、ビニルエステル系単量体を乳化重合することによって得ることができる。
【化1】


[式中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示す。]
【0015】
すなわち、本発明のビニルエステル系重合体水性エマルジョンに分散剤として用いられる、一般式(1)で示される構造単位を有し、特定ケン化度範囲であるPVA系樹脂は通常のPVA系樹脂と比較して水との親和性が高いことから、水の凝固点を下げる効果が大きく、水性エマルジョン中で一部水層に存在することで、0℃以下となっても凍結が抑制され、さらにかかるPVA系樹脂は、ビニルエステル系重合体に対する保護コロイド力が強く、強固な水和層が形成されるため、氷の微結晶が生成したとしても、その影響を受けにくいことからエマルジョン破壊がおこらず、エマルジョンの凝集に起因する粘度上昇がおこらないものと推測される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の水性エマルジョンは0℃付近の低温での粘度安定性に優れることから、凝固点降下剤を配合する必要がなく、その結果、かかる凝固点降下剤の存在に起因する水性エマルジョンの各種問題点が生じないため、紙用、木工用、およびプラスチック用などの各種接着剤、含浸紙用および不織布製品用などの各種バインダー、混和剤、打ち継ぎ剤、塗料、紙加工および繊維加工等の用途に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定されるものではない。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0018】
本発明の水性エマルジョンは、PVA系樹脂を含む分散剤と、ビニルエステル系単量体に由来する構造単位を含む重合体を分散質を含有する水性エマルジョンであり、濃度を50%に調整し、0℃で1週間静置したときの粘度上昇率が5%以下であることを特徴とするものである。かかる粘度上昇率は、さらに3%以下、特に2%以下であるものがより好ましい。
なお、かかる粘度上昇率は、水性エマルジョンに凝固点降下剤を配合せずに0℃で1週間静置保存した場合の、保存前後の粘度を測定し、その変化率から算出したもので、具体的には、25℃における初期粘度をBH型粘度計(ローターNo.4、回転数10rpm)で測定し、これを密閉状態として0℃で1週間静置した後、同様に粘度を測定し、初期粘度に対する上昇率を求めたものである。
【0019】
本発明の水性エマルジョンは、凝固点降下剤を配合しなくても0℃以下の低温における安定性に優れる点を特徴とするものであるが、少量であれば凝固点降下剤が配合されていてもよく、その配合量は、水性エマルジョンに対して0〜5重量%、特に0〜3重量%、さらに0〜1重量%である。
【0020】
本発明の水性エマルジョンで用いられるビニルエステル系単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル、1−メトキシビニルアセテート、酢酸イソプロペニル等を挙げることができるが、一般に酢酸ビニルが好適に用いられる。
【0021】
また、上記のビニルエステル系単量体は、それぞれ単独で重合に用いることも可能であるが、2種類以上混合して重合に用いたり、さらに水性エマルジョンとしての特性を大幅に損なわない範囲内でビニルエステル系単量体以外のエチレン性不飽和単量体を併用することも可能である。
このような単量体としては、エチレン、プロピレン、イソブチレンなどのオレフィン類、塩化ビニル、フッ化ビニル、ビニリデンクロリド、などのハロゲン化オレフィン類、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、などのアクリル酸およびそのエステル類、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシルなどのメタクリル酸およびそのエステル類、アクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチルおよびこれらの四級化物、さらには、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、などのアクリルアミド系単量体、スチレン、α−メチルスチレン、p−スチレンスルホン酸およびそのナトリウム塩、カリウム塩などのスチレン系単量体、ブタジエン、イソプレン、クロロプレンなどのジエン系単量体が挙げられる。
【0022】
本発明の水性エマルジョンの平均粒子径は通常0.3〜10μmであり、さらに0.5〜5μm、特に0.6〜3μmである。かかる平均粒子径が小さすぎると高濃度のエマルジョンを得ようとしたときに、重合安定性が低下したり、エマルジョンの各種安定性、特に機械的安定性が低下する傾向があり。逆に大きすぎると造膜性が悪くなったり、接着性、透明性が低下する傾向がある。
なお、かかる水性エマルジョンの平均粒子径は、ダイナミック光散乱光度計(大塚電子株式会社製「DLS−700」)を用いて測定したものである。
【0023】
また、本発明の水性エマルジョンの固形分濃度は、通常30〜70%であり、特に40〜60%のものが好ましく用いられる。かかる濃度が低すぎるとエマルジョン粒子が沈降しやすくなり、粘度安定性が低下したり、凍結安定性が低下する傾向にあり、逆に高すぎると作業性が阻害される傾向がある。
なお、かかる水性エマルジョンの固形分濃度は、水性エマルジョンを105℃で3時間乾燥させた際の残分である。
【0024】
次に、本発明の水性エマルジョンの製造方法について説明する。
本発明の水性エマルジョンは、下記一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位を有し、ケン化度が70〜93モル%であるPVA系樹脂を含む分散剤を用い、水中でビニルエステル系単量体を乳化重合することにより得ることができる。
【0025】
まず、本発明の水性エマルジョンにおいて、分散剤として好適に用いられるPVA系樹脂である、下記一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位を有するPVA系樹脂について説明する。
【0026】
かかるPVA系樹脂は下記一般式(1)で示される構造単位を有するもので、一般式(1)におけるR1、R2、及びR3はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示すものである。
【化2】

【0027】
一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位中のR1〜R3、及びR4〜R6は、すべて水素原子であることが望ましく、下記一般式(1’)で表わされる構造単位を有するPVA系樹脂が最も好適に用いられる。
【化3】

【0028】
なお、かかる一般式(1)で表わされる構造単位中にR1〜R3、及びR4〜R6は、樹脂特性を大幅に損なわない程度の量であれば有機基で置換されていてもよく、その有機基としては特に限定されないが、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、必要に応じて、ハロゲン基、水酸基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等の置換基を有していてもよい。
【0029】
また、一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位中のXは代表的には単結合であり、熱安定性の点や高温下/酸性条件下での構造安定性の点で単結合であるものが最も好ましいが、本発明の効果を阻害しない範囲であれば結合鎖であってもよく、かかる結合鎖としては特に限定されないが、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、フェニレン、ナフチレン等の炭化水素(これらの炭化水素はフッ素、塩素、臭素等のハロゲン等で置換されていても良い)の他、−O−、−(CH2O)m−、−(OCH2m−、−(CH2O)mCH2−、−CO−、−COCO−、−CO(CH2mCO−、−CO(C64)CO−、−S−、−CS−、−SO−、−SO2−、−NR−、−CONR−、−NRCO−、−CSNR−、−NRCS−、−NRNR−、−HPO4−、−Si(OR)2−、−OSi(OR)2−、−OSi(OR)2O−、−Ti(OR)2−、−OTi(OR)2−、−OTi(OR)2O−、−Al(OR)−、−OAl(OR)−、−OAl(OR)O−、等(Rは各々独立して任意の置換基であり、水素原子、アルキル基が好ましく、またmは自然数である)が挙げられる。中でも製造時あるいは使用時の安定性の点で炭素数6以下のアルキレン基、特にメチレン基、あるいは−CH2OCH2−が好ましい。
【0030】
本発明で用いられるPVA系樹脂の製造法は、特に限定されないが、(i)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(2)で示される化合物との共重合体をケン化する方法や、(ii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(3)で示される化合物との共重合体をケン化及び脱炭酸する方法や、(iii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(4)で示される化合物との共重合体をケン化及び脱ケタール化する方法が好ましく用いられる。
【化4】

【化5】

【化6】

上記一般式(2)、(3)、(4)中のR1、R2、R3、X、R4、R5、R6は、いずれも一般式(1)の場合と同様である。R7及びR8はそれぞれ独立して水素原子またはR9−CO−(式中、R9はアルキル基である)である。R10及びR11はそれぞれ独立して水素原子または有機基である。
【0031】
(i)、(ii)、及び(iii)の方法については、例えば、特開2006−95825に説明されている方法を採用できる。
なかでも、共重合反応性および工業的な取り扱い性に優れるという点から、R1 〜R6 が水素、Xが単結合、R7〜R8 がR9−CO−であり、R9 がアルキル基である、3,4−ジアシロキシ−1−ブテンが好ましく、さらにそのなかでも特にR9がメチル基である3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが好ましく用いられる。
なお、ビニルエステル系モノマーとして酢酸ビニルを用い、これと3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを共重合させた際の各モノマーの反応性比は、r(酢酸ビニル)=0.710、r(3,4−ジアセトキシ−1−ブテン)=0.701、であり、これは(ii)の方法で用いられる一般式(3)で表される化合物であるビニルエチレンカーボネートの場合の、r(酢酸ビニル)=0.85、r(ビニルエチレンカーボネート)=5.4、と比較して、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが酢酸ビニルとの共重合反応性に優れることを示すものである。
【0032】
また、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの連鎖移動定数は、Cx(3,4−ジアセトキシ−1−ブテン)=0.003(65℃)であり、これはビニルエチレンカーボネートの場合の、Cx(ビニルエチレンカーボネート)=0.005(65℃)や、(iii)の方法で用いられる一般式(4)で表される化合物である2,2−ジメチル−4−ビニル−1,3−ジオキソランの場合のCx(2,2−ジメチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン)=0.023(65℃)と比較して、重合度が上がりにくくなったり、重合速度低下の原因となることがないことを示すものである。
【0033】
また、かかる3,4−ジアセトキシ−1−ブテンは、その共重合体をケン化する際に発生する副生物が、ビニルエステル系モノマーとして多用される酢酸ビニルに由来する構造単位からケン化時に副生する化合物と同一であり、その後処理や溶剤回収系に敢えて特別な装置や工程を設ける必要がなく、従来からの設備を利用出来るという点も、工業的に大きな利点である。
【0034】
なお、上記3,4−ジアセトキシ−1−ブテンは、例えば、WO00/24702に記載の1,3−ブタジエンを出発物質とした合成ルートで製造された製品や、USP5623086、USP6072079に記載の技術によるエポキシブテン誘導体を中間体として製造された製品を入手することができ、また試薬レベルではアクロス社の製品をそれぞれ市場から入手することができる。また、1,4−ブタンジオール製造工程中の副生成物として得られる3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを精製して利用することもできる。
また、1,4−ブタンジオール製造工程の中間生成物である1,4−ジアセトキシ−1−ブテンを塩化パラジウムなどの金属触媒を用いた公知の異性化反応することによって3,4−ジアセトキシ−1−ブテンに変換して用いることもできる。また、再公表WO00−24702号公報に記載の有機ジエステルの製造方法に準じて製造することも可能である。
【0035】
なお、(ii)や(iii)の方法によって得られたPVA系樹脂は、ケン化度が低い場合や、脱炭酸あるいは脱アセタール化が不充分な場合には側鎖にカーボネート環あるいはアセタール環が残存する場合があり、その結果、かかるPVA系樹脂を分散剤として用いた水性エマルジョンの粗粒子量が増加する傾向があり、これらの点からも、(i)の方法によって得られたPVA系樹脂が本用途においては最も好適である。
【0036】
上記ビニルエステル系モノマーとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられるが、経済的にみて中でも酢酸ビニルが好ましく用いられる。
また上述のモノマー(ビニルエステル系モノマー、一般式(2)、(3)、(4)で示される化合物)の他に、樹脂物性に大幅な影響を及ぼさない範囲であれば、共重合成分として、エチレンやプロピレン等のα−オレフィン;3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1,2−ジオール等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類、およびそのアシル化物などの誘導体;イタコン酸、マレイン酸、アクリル酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはモノ又はジアルキルエステル;アクリロニトリル等のニトリル類、メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、AMPS等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩などの化合物、などが共重合されていてもよい。
【0037】
本発明で用いられるPVA系樹脂のケン化度(JIS K6726に準拠して測定)は、通常、70〜93モル%であり、特に80〜92モル%、さらに85〜90モル%のものが好ましく用いられる。かかるケン化度が低すぎると曇点現象によって重合中にPVA系樹脂の不溶物が析出し、重合を阻害する場合があり、逆に高すぎると得られた水性エマルジョンの0℃での粘度安定性が低下する傾向がある。
【0038】
また、PVA系樹脂の平均重合度(JIS K6726に準拠して測定)は通常は200〜4000であり、特に300〜3000、さらに400〜2000のものが好ましく用いられる。かかる平均重合度が低すぎると、保護コロイド力が得られず、逆に高すぎると得られたエマルジョンの粘度が高くなりすぎ、重合中に攪拌できず、重合困難となる場合がある。
【0039】
PVA系樹脂に含まれる1,2−ジオール構造単位の含有量は通常は0.5〜15モル%であり、特に1〜10モル%、さらに1〜8モル%のものが好ましく用いられる。かかる含有量が少なすぎると、グラフト化能が低下してビニルエステル系単量体およびかかる単量体からなる重合体に対する保護コロイド力が不足し、逆に多すぎると、グラフト化能が強くなりすぎる為、保護コロイド力が強くなりすぎ、いずれの場合にも重合が不安定になる傾向がある。
【0040】
なお、PVA系樹脂中の1,2−ジオール構造単位の含有率は、PVA系樹脂を完全にケン化したものの1H−NMRスペクトル(溶媒:DMSO−d6、内部標準:テトラメチルシラン)から求めることができ、具体的には1,2−ジオール単位中の水酸基プロトン、メチンプロトン、およびメチレンプロトン、主鎖のメチレンプロトン、主鎖に連結する水酸基のプロトンなどに由来するピーク面積から算出すればよい。
【0041】
次に、本発明の水性エマルジョンの製造法について説明する。
水性エマルジョンを得るにあたっては、乳化重合、後乳化方法等の方法があり、前者の乳化重合を実施するに当たっては、イ)水、PVA系樹脂及び重合触媒の存在下にビニルエステル系単量体を一時又は連続的に添加して、加熱、撹拌する如き通常の乳化重合法、ロ)水、PVA系樹脂及び重合触媒の存在下に、ビニルエステル系単量体をPVA系樹脂の水溶液に混合分散した分散液(プレエマルジョン)を一時又は連続的に添加して、加熱、撹拌する如き乳化重合法が実施し得る。
以下、代表的な製造法として、上記イ)の方法について説明する。
【0042】
乳化重合時に分散剤として用いる本発明のPVA系樹脂の使用量としては、その種類や所望する水性エマルジョンの濃度等によって多少異なるが、通常乳化重合反応系の全体に対して0.1〜30重量%であり、さらには1〜25重量%、特には2〜20重量%の範囲であり、かかる使用量が少なすぎるとエマルジョン粒子を安定な乳化状態で維持することが困難となり、逆に多すぎるとエマルジョン粘度が上昇しすぎて作業性が低下したり、耐水性が低くなりすぎる傾向がある。
【0043】
重合触媒としては、通常、普通過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、臭素酸カリウム等がそれぞれ単独で又は酸性亜硫酸ナトリウムと併用して、更には過酸化水素−酒石酸、過酸化水素−鉄塩、過酸化水素−アスコルビン酸−鉄塩、過酸化水素−ロンガリット、過酸化水素−ロンガリット−鉄塩等の水溶性のレドックス系の重合触媒が用いられ、具体的には化薬アクゾ社製『カヤブチルB』や同社製『カヤブチルA−50C』等の有機過酸化物とレドックス系からなる触媒を用いることもできる。
【0044】
重合触媒の使用量は、通常ビニルエステル系単量体100重量部に対して、0.01〜10重量部であり、特に0.05〜5重量部、さらに0.1〜3重量部の範囲が好ましく用いられる。かかる重合開始剤の使用量が少なすぎると重合速度が遅くなる傾向があり、逆に多すぎると重合安定性が低下する傾向がある。
なお、重合開始剤の添加方法としては、特に制限はなく、初期に一括して反応液中に添加しておく方法や重合の経過に伴って連続的に添加する方法等を採用することができる。
【0045】
通常、上述のPVA系樹脂と重合触媒、および水を含む反応液が投入された攪拌装置、還流冷却器を備えた反応容器中に、ビニルエステル系単量体が滴下され、乳化重合される。
乳化重合反応の温度は、通常30〜90℃であり、特に40〜80℃の範囲が好ましく用いられる。
【0046】
反応液への単量体の滴下速度は、用いる単量体の反応性や重合開始剤の使用量、反応温度などによって一概に言えず、重合熱による反応液の温度の状況等を観察しながら適宜決定すればよい。
なお、単量体の一部、例えば全量の5〜30%を予め反応液中に投入しておき、重合の進行に応じて残りの単量体を滴下していくことも可能である。また、単量体を全量滴下した後、一定時間の熟成期間を設けることも好ましい実施態様である。
【0047】
なお、上記の乳化重合においては、分散剤として、本発明のPVA系樹脂とともに、水溶性高分子や非イオン性活性剤、アニオン性活性剤を併用することもできる。
水溶性高分子としては、本発明のPVA系樹脂以外の、未変性PVA、カルボキシル基含有PVA、PVAのホルマール化物、アセタール化物、ブチラール化物、ウレタン化物、スルホン酸、カルボン酸等とのエステル化物等のPVA、ビニルエステルとそれと共重合可能な単量体との共重合体ケン化物等が挙げられる。ビニルエステルと共重合可能な単量体としてはエチレン、ブチレン、イソブチレン、α−オクテン、α−ドデセン、α−オクタデセン等のオレフィン類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはモノ又はジアルキルエステル等、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類、アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩類、アルキルビニルエーテル類、ビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等が挙げられる。
かかる水溶性高分子、非イオン性活性剤、アニオン性活性剤を併用する場合、その使用量は、分散剤の全量に対して、通常、0.1〜15重量%であり、特に0.5〜10重量%、さらに1〜5重量%であることが好ましい。
【0048】
又、PVA以外の水溶性高分子として、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アミノメチルヒドロキシプロピルセルロース、アミノエチルヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース誘導体類、デンプン、トラガント、ペクチン、グルー、アルギン酸又はその塩、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸又はその塩ポリメタクリル酸又はその塩、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、酢酸ビニルとマレイン酸、無水マレイン酸、アクリル酸、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等不飽和酸との共重合体、スチレンと上記不飽和酸との共重合体、ビニルエーテルと上記不飽和酸との共重合体及び前記共重合体の塩類又はエステル類が挙げられる。
【0049】
非イオン性活性剤としては、例えばポリオキシエチレン−アルキルエーテル型、ポリオキシエチレン−アルキルフェノール型、ポリオキシエチレン−多価アルコールエステル型、多価アルコールと脂肪酸とのエステル、オキシエチレン・オキシプロピレンブロックポリマー等が挙げられる。
【0050】
アニオン性活性剤としては、例えば高級アルコール硫酸塩、高級脂肪酸アルカリ塩、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ナフタリンスルホン酸塩ホルマリン縮合物、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、高級アルコールリン酸エステル塩等が挙げられる。
更に、フタル酸エステル、リン酸エステル等の可塑剤、炭酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウム等のpH調整剤等も併用され得る。
【0051】
かくして得られた本発明の水性エマルジョンには、必要に応じて架橋剤、耐水化剤、顔料、分散剤、消泡剤、油剤、粘性改質剤、粘着付与剤、増粘剤、保水剤、繊維柔軟剤、平滑剤、帯電防止剤等、各種用途に応じた添加剤を適宜混合することができる。
【0052】
本発明の水性エマルジョンは、0℃での粘度安定性、長期保存安定性に優れ、2年程度の保存が可能であるのみならず、機械安定性、凍結安定性、化学安定性、高温放置安定性に優れることから、セメント・モルタル混和剤、セメント・モルタル塗布剤、土木用原料、塗料、接着剤、粘着剤(感圧接着剤)、繊維加工剤、紙加工剤、無機物バインダー、塩ビ等の樹脂の改質剤、汚泥や産業廃棄物等の粘性土の固化安定剤、表面保護用再剥離性被覆材、化粧品用途等に好適に使用できる。
【実施例】
【0053】
以下に、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、実施例の記載に限定されるものではない。
尚、例中、「部」、「%」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0054】
実施例1
〔PVA系樹脂の製造〕
還流冷却器、滴下漏斗、撹拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル1500g、メタノール285g、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン87gを仕込み、アゾビスイソブチロニトリルを0.09モル%(対仕込み酢酸ビニル)投入し、撹拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、重合を開始した。酢酸ビニルの重合率が80%となった時点で、重合禁止剤としてm−ジニトロベンゼン30ppm(対仕込み酢酸ビニル)を加え、重合を終了した。続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液を得た。
次いで、該溶液をメタノールで希釈して濃度30%に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を40℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル及び3,4−ジアセトキシ−1-ブテンの合計量1モルに対して3.2ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行すると共にケン化物が析出して、粒子状となった時点で濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、PVA系樹脂を得た。
得られたPVA系樹脂のケン化度は、残存酢酸ビニル及び残存3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの加水分解に要するアルカリ消費量で分析を行ったところ87モル%であり、平均重合度はJIS K6726に準じて分析を行ったところ1200であった。また、1,2−ジオール構造を含有する側鎖の導入量は、1H−NMR(内部標準:テトラメチルシラン、溶媒:DMSO−d6)で測定して算出したところ3モル%であった。
【0055】
〔乳化重合〕
攪拌翼、還流冷却器、滴下漏斗、温度計を備えたセパラブルフラスコに水46部、PVA系樹脂3部、酢酸ビニル4.7部を仕込み、攪拌しながらフラスコ内の温度を70℃に上げた。昇温後、3%の過硫酸アンモニウム水溶液2.86部を添加して重合を開始した。初期重合を1時間行ない、残りの酢酸ビニル42.3部を3時間かけて滴下し、さらに3%の過硫酸アンモニウム水溶液2.86部を添加し、1時間熟成した後、冷却して、固形分50%のポリ酢酸ビニルの水性エマルジョンを得た。
【0056】
得られた水性エマルジョンの低温粘度安定性を下記のように評価した。結果を表2に示す。
(低温粘度安定性)
得られた水性エマルジョンの25℃における粘度を、BH型回転粘度計(ローターNo.4、回転数10rpm)にて測定した(V0)。この水性エマルジョンを密閉容器に入れ、0℃に設定した恒温槽内に1週間静置した後、25℃での粘度を同様の方法で測定した(V1)。これらの測定値から、下記式より粘度上昇率を求めた。
粘度上昇率(%)=[(V1−V0)/V0]×100
【0057】
実施例2
〔PVA系樹脂の製造〕
還流冷却器、滴下漏斗、撹拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル1500g、メタノール105g、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン170gを仕込み、アゾビスイソブチロニトリルを0.04モル%(対仕込み酢酸ビニル)投入し、撹拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、重合を開始した。酢酸ビニルの重合率が80%となった時点で、重合禁止剤としてm−ジニトロベンゼン30ppm(対仕込み酢酸ビニル)を加え、重合を終了した。続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液を得た。
次いで、該溶液をメタノールで希釈して濃度35%に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を40℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル及び3,4−ジアセトキシ−1-ブテンの合計量1モルに対して5ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行すると共にケン化物が析出して、粒子状となった時点で濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、PVA系樹脂を得た。
得られたPVA系樹脂のケン化度は、90モル%であり、平均重合度は1200であった。また、1,2−ジオール構造を含有する側鎖の導入量は6モル%であった。
【0058】
〔乳化重合〕
得られたPVA系樹脂を用い、実施例1と同様にして乳化重合を行い、固形分50%のポリ酢酸ビニルの水性エマルジョンを得た。
得られた水性エマルジョンを実施例1と同様に評価した。結果を表2に示す。
【0059】
実施例3
〔PVA系樹脂〕
還流冷却器、滴下漏斗、撹拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル1200g、メタノール228g、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン66.8gを仕込み、アゾビスイソブチロニトリルを0.05モル%(対仕込み酢酸ビニル)投入し、撹拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、重合を開始した。酢酸ビニルの重合率が80%となった時点で、重合禁止剤としてm−ジニトロベンゼン30ppm(対仕込み酢酸ビニル)を加え、重合を終了した。続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液を得た。
次いで、該溶液をメタノールで希釈して濃度35%に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を40℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル及び3,4−ジアセトキシ−1-ブテンの合計量1モルに対して5.5ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行すると共にケン化物が析出して、粒子状となった時点で濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、PVA系樹脂を得た。
得られたPVA系樹脂のケン化度は、92.7モル%であり、平均重合度は1200であった。また、1,2−ジオール構造を含有する側鎖の導入量は3モル%であった。
【0060】
〔乳化重合〕
攪拌翼、還流冷却器、滴下漏斗、温度計を備えたセパラブルフラスコに水46部、PVA系樹脂5部を仕込み、攪拌しながらフラスコ内の温度を75℃に上げた。昇温後、3%過酸化水素水を0.5部、2.4%酒石酸水溶液を0.5部添加し、酢酸ビニル45部を4時間かけて滴下し、重合を開始した。滴下中、1時間おきに3%過酸化水素水を0.5部、2.4%酒石酸水溶液を0.5部ずつ、計3回添加し、滴下終了後、さらに3%過酸化水素水を0.5部、2.4%酒石酸水溶液を1部添加し、1時間熟成した後、冷却して、固形分50%のポリ酢酸ビニルの水性エマルジョンを得た。
得られた水性エマルジョンを実施例1と同様に評価した。結果を表2に示す。
【0061】
比較例1
実施例1において、PVA系樹脂としてケン化度87モル%、平均重合度1700の未変性PVAを用いた以外は実施例1と同様にポリ酢酸ビニル水性エマルジョンを作製し、同様に評価した。結果を表2に示す。
【0062】
比較例2
PVA系樹脂として実施例1において水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液の使用量を、共重合体中の酢酸ビニル及び3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの合計量1モルに対して6ミリモルとした以外は同様にして得られた側鎖1,2−ジオール構造単位の含有量3モル%、重合度1200、ケン化度95.5モル%であるPVA系樹脂を用い、実施例3と同様にポリ酢酸ビニル水性エマルジョンを作製し、同様に評価した。結果を表2に示す。
【0063】
[表1]
────────────────────────────────────────
PVA系樹脂
────────────────────────────────
ケン化度 重合度 1,2-ジオール構造単位含有量
(モル%) (モル%)
────────────────────────────────────────
実施例1 87 1200 3
〃 2 90 1200 6
〃 3 92.7 1200 3
────────────────────────────────────────
比較例1 87 1700 −
〃 2 95.5 1200 3
────────────────────────────────────────
【0064】
[表2]
─────────────────────────────
初期粘度 粘度上昇率
(mPa・s) (%)
─────────────────────────────
実施例1 15840 0
〃 2 8640 3
〃 3 27900 0
─────────────────────────────
比較例1 39600 6
〃 2 17080 10
─────────────────────────────
【0065】
かかる実施例において、まず、実施例1と比較例1の比較から、1,2−ジオール構造単位を有するPVA系樹脂を分散剤として用いた場合に、0℃での粘度安定性に優れた水性エマルジョンが得られることが明らかである。
さらに、実施例3と比較例2との比較から、かかるPVA系樹脂のケン化度の違いが、水性エマルジョンの安定性に大きな影響を及ぼすことが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の水性エマルジョンは、0℃での粘度安定性に優れていることから、凝固点降下剤を配合する必要がなく、そのため、かかる凝固点降下剤に起因する水性エマルジョン物性の低下がなく、長期保存安定性にも優れていることから、工業的に非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂を含む分散剤と、ビニルエステル系単量体に由来する構造単位を含む重合体を分散質として含有する水性エマルジョンであって、凝固点降下剤を配合せず、固形分濃度を50重量%に調整し、0℃で1週間静置したときの粘度上昇率が5%以下であることを特徴とする水性エマルジョン。
【請求項2】
ポリビニルアルコール系樹脂が、下記一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位を有し、ケン化度が70〜93モル%であるポリビニルアルコール系樹脂であることを特徴とする請求項1記載の水性エマルジョン。
【化1】

[式中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示す。]
【請求項3】
下記一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位を有し、ケン化度が70〜93モル%であるポリビニルアルコール系樹脂の存在下、水中でビニルエステル系単量体を乳化重合することを特徴とする、請求項1または2記載の水性エマルジョンの製造方法。
【化2】

[式中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示す。]

【公開番号】特開2009−173895(P2009−173895A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−325486(P2008−325486)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】