説明

水性塗料組成物

【課題】室温でも乾燥でき、溶剤系塗料に匹敵する優れた乾燥性を有するとともに、耐水性・耐食性・付着性にも優れ、VOCを大幅に低減できる水性塗料組成物を提供する。
【解決手段】水素イオン指数がpH7〜pH10の範囲内、分子量が2万〜7万の範囲内、粒子径が10nm〜100nmの範囲内である水分散型エポキシエステル樹脂Aを100重量部(うち固形分40重量部)、カーボンブラックを2重量部、イオン交換水を100重量部、ポリカルボン酸系の分散剤を1重量部、シリコン系の消泡剤を1重量部、コバルト系のドライヤーを1重量部配合したものに、亜鉛・リン酸系防錆顔料を1重量部〜10重量部配合してなる水性塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶媒として水を用いる水性塗料組成物に関し、特に揮発性有機化合物(VOC)の量を低く抑えながら従来の有機溶剤系塗料と同等以上の良好な乾燥性及び塗膜性能を有する水性塗料組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機溶剤を溶媒として用いた溶剤系塗料は塗料組成物として広く利用されているが、近年の地球環境保全問題への世界的な意識の向上の中で、揮発性有機化合物(VOC)の排出量を低く抑えなければならないという要請に基づいて、我が国でも大気汚染防止法の改正等によって、VOCの排出規制が厳しくなってきている。このような背景において、塗料についてもVOCを多量に含有する溶剤系塗料から、VOCの排出量を抑えることができる水性塗料への転換が盛んに行われている。
【0003】
しかし、水性塗料は有機溶剤よりも揮発性の悪い水を溶媒として使用するために、溶剤系塗料に比較して乾燥性が悪く、また耐水性や耐食性についても劣るという問題があった。そこで、特許文献1に記載の発明においては、ビニル変性エポキシエステル樹脂にビニル変性エポキシ樹脂をブレンドすることによって、水性塗料用樹脂組成物でありながら、溶剤系塗料に匹敵するような優れた乾燥性を持ち、耐水性・耐食性・耐薬品性にも優れる水性塗料を提供できるとしている。
【0004】
また、特許文献2に記載の発明においては、脂肪酸変性エポキシエステル樹脂と、ヒドロキシル基と不飽和二重結合を有するモノマー及びカルボキシル基と不飽和二重結合を有するモノマーを含む混合物とを、有機溶剤の存在下で共重合させて得られる複合重合体を水中に分散して得られる水分散体と、水に分散可能なポリイソシアネートとを含有する硬化性水性塗料用樹脂組成物について開示しており、かかる硬化性水性塗料用樹脂組成物は、耐水性・密着性に優れた塗膜を形成し得る極めて実用性の高いものであるとしている。
【特許文献1】特開2003−253193号公報
【特許文献2】特開2005−号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1における水性塗料用樹脂組成物からなる水性塗料においては、乾燥させるのに80℃×20分を要しており、溶剤系塗料に匹敵するような優れた乾燥性を有するとは到底言い難い。同様に、上記特許文献2に記載の硬化性水性塗料用樹脂組成物においても、乾燥させるのに70℃×30分を要しており、溶剤系塗料に匹敵するような優れた乾燥性を有するとは到底言い難い。さらに、上記特許文献1,2に記載の水性塗料用樹脂組成物及び硬化性水性塗料用樹脂組成物を製造する際には、いずれも重合反応において有機溶媒を用いなければならず、製造工程においてVOCが多量に発生するという問題点があった。
【0006】
そこで、本発明は、加熱することなく室温でも乾燥させることができ、溶剤系塗料に匹敵する優れた乾燥性を有するとともに、耐水性・耐食性・付着性にも優れ、VOCを大幅に低減することができる水性塗料組成物を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明にかかる水性塗料組成物は、水分散型エポキシエステル樹脂と、水と、亜鉛・リン酸系防錆顔料とを含有する水性塗料組成物であって、前記水分散型エポキシエステル樹脂は水素イオン指数がpH7〜pH10の範囲内、分子量が2万〜7万の範囲内、粒子径が10nm〜100nmの範囲内であり、前記水分散型エポキシエステル樹脂の固形分1重量部〜500重量部に対して前記亜鉛・リン酸系防錆顔料の含有量が1重量部〜50重量部であり、揮発性有機化合物(VOC)量が前記水性塗料組成物全体に対して1重量%〜20重量%であるものである。
【0008】
ここで、「亜鉛・リン酸系防錆顔料」とは、亜鉛及び/またはリン酸を主体とする防錆顔料であり、例えば、酸化亜鉛、亜リン酸亜鉛、オルトリン酸亜鉛、ポリリン酸亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム等がある。
【0009】
請求項2の発明にかかる水性塗料組成物は、請求項1の構成において、前記水分散型エポキシエステル樹脂の固形分5重量部〜100重量部に対して前記亜鉛系防錆顔料の含有量が1重量部〜50重量部であるものである。
【0010】
請求項3の発明にかかる水性塗料組成物は、請求項1または請求項2の構成において、前記亜鉛・リン酸系防錆顔料は酸化亜鉛、亜リン酸亜鉛、オルトリン酸亜鉛、ポリリン酸亜鉛、トリポリリン酸アルミニウムのうちいずれか、またはこれらのうち二つ以上を併用したものである。
【0011】
請求項4の発明にかかる水性塗料組成物は、請求項1乃至請求項3のうちいずれか1つの構成において、更に添加剤として分散剤、消泡剤、ドライヤーを添加したものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明にかかる水性塗料組成物は、水分散型エポキシエステル樹脂と、水と、亜鉛・リン酸系防錆顔料とを含有する水性塗料組成物であって、水分散型エポキシエステル樹脂は水素イオン指数がpH7〜pH10の範囲内、分子量が2万〜7万の範囲内、粒子径が10nm〜100nmの範囲内であり、水分散型エポキシエステル樹脂の固形分1重量部〜500重量部に対して亜鉛・リン酸系防錆顔料の含有量が1重量部〜50重量部であり、揮発性有機化合物(VOC)量が水性塗料組成物全体に対して1重量%〜20重量%であり、より好ましくはVOC量が水性塗料組成物全体に対して1重量%〜10重量%である。
【0013】
ここで、「亜鉛・リン酸系防錆顔料」とは、亜鉛及び/またはリン酸を主体とする防錆顔料であり、例えば、酸化亜鉛、亜リン酸亜鉛、オルトリン酸亜鉛、ポリリン酸亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム等がある。
【0014】
水分散型エポキシエステル樹脂のpH7〜pH10の範囲内の弱アルカリ性であることによって容易に水分散させることができ、分子量が2万〜7万の範囲内であることによって形成される塗膜の密着性・硬度・乾燥性が優れたものとなり、粒子径が10nm〜100nmの範囲内であることによって、分散性に優れたものとなる。そして、水分散型エポキシエステル樹脂の固形分1重量部〜500重量部に対して1重量部〜50重量部の亜鉛・リン酸系防錆顔料が含有されているため、耐食性にも優れたものとなる。
【0015】
具体的には、かかる水性塗料組成物は塗布後、室温(20℃)において約10分で乾燥し、塗膜硬度も鉛筆硬度でHBであり、付着性試験でも耐水性試験でも升目の剥がれは1枚もなく、塩水噴霧試験(SST)においても錆は殆ど生じなかった。そして、VOC量が水性塗料組成物全体に対して1重量%〜20重量%、より好ましくは1重量%〜10重量%であって、極めて少ない。
【0016】
このようにして、加熱することなく室温でも乾燥させることができ、溶剤系塗料に匹敵する優れた乾燥性を有するとともに、耐水性・耐食性・付着性にも優れ、VOCを大幅に低減することができる水性塗料組成物となる。
【0017】
請求項2の発明にかかる水性塗料組成物は、水分散型エポキシエステル樹脂の固形分5重量部〜100重量部に対して亜鉛系防錆顔料の含有量が1重量部〜50重量部である。これによって、水分散型エポキシエステル樹脂の固形分に対する亜鉛系防錆顔料の含有量がより適切な範囲内となり、上述したような優れた乾燥性・耐水性・耐食性・付着性がより向上する。
【0018】
このようにして、加熱することなく室温でも乾燥させることができ、溶剤系塗料に匹敵する優れた乾燥性を有するとともに、耐水性・耐食性・付着性にも優れ、VOCを大幅に低減することができる水性塗料組成物となる。
【0019】
請求項3の発明にかかる水性塗料組成物は、亜鉛・リン酸系防錆顔料が酸化亜鉛、亜リン酸亜鉛、オルトリン酸亜鉛、ポリリン酸亜鉛、トリポリリン酸アルミニウムのうちいずれか、またはこれらのうち二つ以上を併用したものである。
【0020】
上述の如く、亜鉛・リン酸系防錆顔料とは、亜鉛及び/またはリン酸を主体とする防錆顔料であるが、その中でも特に、酸化亜鉛、亜リン酸亜鉛、オルトリン酸亜鉛、ポリリン酸亜鉛、トリポリリン酸アルミニウムは防錆顔料として優れており、これらを単独で、または二つ以上を混合して用いることによって、水性塗料組成物を塗布して形成される塗膜の耐食性がより向上する。
【0021】
このようにして、加熱することなく室温でも乾燥させることができ、溶剤系塗料に匹敵する優れた乾燥性を有するとともに、耐水性・耐食性・付着性にも優れ、VOCを大幅に低減することができる水性塗料組成物となる。
【0022】
請求項4の発明にかかる水性塗料組成物は、請求項1乃至請求項3のうちいずれか1つの構成において、更に添加剤として分散剤、消泡剤、ドライヤーを添加したものである。
【0023】
分散剤を添加することによって顔料をより良く分散させることができ、消泡剤を添加することによって水性塗料組成物を製造する混合時に細かい泡が発生して水性塗料組成物が不均一になるのを防止することができ、ドライヤー(コバルト系等の金属ドライヤー)を添加することによって、水性塗料組成物が塗布されて塗膜が形成される段階において、水分散型エポキシエステル樹脂が更に重合して緻密な塗膜となるのを促進することができる。
【0024】
このようにして、加熱することなく室温でも乾燥させることができ、溶剤系塗料に匹敵する優れた乾燥性を有するとともに、均一で緻密な塗膜を形成することができ、耐水性・耐食性・付着性にも優れ、VOCを大幅に低減することができる水性塗料組成物となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態にかかる水性塗料組成物について説明する。
【0026】
まず、本実施の形態にかかる水性塗料組成物の製造法について説明する。水分散型エポキシエステル樹脂と、着色顔料としてのカーボンブラックと、溶媒としての水と、亜鉛・リン酸系防錆顔料と、添加剤として分散剤・消泡剤とを、1リットルのサンドミルに入れて、分散媒体として2mmφのガラスビーズを用いて、1時間回転分散させた。そして、最後に添加剤としてドライヤーを加えて、数回回転分散させた。
【0027】
ここで、本実施の形態にかかる水性塗料組成物の配合組成として、実施例1〜実施例6までの6種類の配合の水性塗料組成物を製造した。各実施例の配合を表1の上段に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
表1に示されるように、水分散型エポキシエステル樹脂・カーボンブラック・水(イオン交換水)及び添加剤の配合量は、実施例1〜実施例6の6種類において全て同一である。異なるのは、亜鉛・リン酸系防錆顔料として用いられる化合物の種類または配合量である。
【0030】
即ち、実施例1においては、水分散型エポキシエステル樹脂Aを100重量部(うち固形分40重量部)、カーボンブラックを2重量部、イオン交換水を100重量部、ポリカルボン酸系の分散剤を1重量部、シリコン系の消泡剤を1重量部、コバルト系のドライヤーを1重量部配合したものに、亜鉛・リン酸系防錆顔料として酸化亜鉛を5重量部添加している。
【0031】
また、実施例2においては、実施例1と同一の配合に対して、亜鉛・リン酸系防錆顔料として亜リン酸亜鉛を1重量部添加しており、実施例3においてはオルトリン酸亜鉛を5重量部添加しており、実施例4においてはポリリン酸亜鉛を2重量部添加しており、実施例5においてはトリポリリン酸アルミニウムを1重量部添加しており、実施例6においてはオルトリン酸亜鉛を10重量部添加している。
【0032】
ここで、水分散型エポキシエステル樹脂Aは、水素イオン指数がpH7〜pH10の範囲内、分子量が2万〜7万の範囲内、粒子径が10nm〜100nmの範囲内である水分散型エポキシエステル樹脂である。
【0033】
このようにして製造した実施例1〜実施例6にかかる6種類の水性塗料組成物の水性塗料としての特性を、供試体を作製して試験した。供試体の基板としては、未処理鋼板(SPCC−SD)を用い、溶剤洗浄して脱脂した後、エアースプレーによって水性塗料組成物を脱脂した未処理鋼板の表面に塗装した。塗膜厚さは20μm〜25μmとした。
【0034】
まず、乾燥方法としては、室温(20℃)で放置して乾燥した。乾燥性としては、指触乾燥(塗装面に指で3kg荷重して指に塗料が付着しなくなる時間を測定)及び半硬化乾燥(塗装面に指で3kg荷重して塗装面に指紋跡がつかなくなる時間を測定)によって評価した。
【0035】
塗膜性能については、室温(20℃)で7日間放置して乾燥した供試体を用いて評価を行った。付着性は、JIS−K5600 5−6に準じて評価した。即ち、塗装面にカッターナイフで縦横に1mm間隔で11本ずつの平行な切れ目を入れて100個の升目を形成し、この升目形成部分に粘着テープを付着させて一気に剥がし、100個の升目のうち何個が剥がれるかを測定した。また、塗膜硬度は、JIS−K5600 5−4(鉛筆硬度)に準じて評価した。また、光沢については、JIS−K5600 4−7に準じて評価した。
【0036】
さらに、耐食性については、塩水噴霧試験(SST)及び耐水性試験によって評価した。塩水噴霧試験(SST)については、塗装面にクロスカットを入れて、JIS−K5600 4−7に準じて評価した。具体的には、規定時間塩水噴霧試験を実施した後のクロスカットからの片錆幅を測定した。また、耐水性試験は、40℃の純水に規定時間浸漬した後に、JIS−K5600 5−6に準じて評価した。即ち、付着性試験と同様に100個の升目を入れて粘着テープを付着させて一気に剥がし、100個の升目のうち何個が剥がれるかを測定した。
【0037】
各特性試験の結果を、表1の下段に示す。表1に示されるように、実施例1〜実施例6にかかる6種類の水性塗料組成物のVOC量(配合から計算した値)は、いずれも6.0%〜6.4%と極めて少ない。このようなVOC量の少ない配合でありながら、乾燥性は指触乾燥が6分〜7分、半硬化乾燥が10分〜11分と極めて良好である。後述する比較例5、比較例6にかかる溶剤系塗料に匹敵する、優れた乾燥性を有している。
【0038】
また、塗膜性能については、付着性が実施例1〜実施例6の全てについて100個の升目の1個も剥がれないという良好な結果であり、硬度も鉛筆硬度でHBという値を示した。光沢についても、70〜80という良好な値を示している。
【0039】
耐食性については、塩水噴霧試験(SST)では240時間で1.2mm〜2.1mm、480時間で2.3mm〜3.0mmという優れた防錆性を示し、耐水性試験においても120時間,240時間のいずれにおいても実施例1〜実施例6の全てについて100個の升目の1個も剥がれないという良好な結果が得られた。
【0040】
これに対して、比較のために、本発明の要件を満たさない塗料組成物として、比較例1〜比較例5までの5種類の塗料組成物を製造して、同様な試験を行った。比較例1〜比較例5の塗料組成物の配合を、表2の上段に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
表2に示されるように、比較例1においては実施例1〜実施例6と同様に、水分散型エポキシエステル樹脂Aを100重量部(うち固形分40重量部)、カーボンブラックを2重量部、イオン交換水を100重量部、ポリカルボン酸系の分散剤を1重量部、シリコン系の消泡剤を1重量部、コバルト系のドライヤーを1重量部配合しているが、亜鉛・リン酸系防錆顔料が配合されていない。
【0043】
また、比較例2においては、分子量が1万で本発明の要件を満たさない水分散型エポキシエステル樹脂Bを100重量部(うち固形分30重量部)用いて、他は実施例1〜実施例6と同様に、カーボンブラックを2重量部、イオン交換水を100重量部、ポリカルボン酸系の分散剤を1重量部、シリコン系の消泡剤を1重量部、コバルト系のドライヤーを1重量部配合し、亜鉛・リン酸系防錆顔料としてオルトリン酸亜鉛を5重量部配合している。
【0044】
また、比較例3においても、分子量が1万で本発明の要件を満たさない水分散型エポキシエステル樹脂Bを100重量部(うち固形分30重量部)用いて、他は実施例1〜実施例6と同様に、カーボンブラックを2重量部、イオン交換水を100重量部、ポリカルボン酸系の分散剤を1重量部、シリコン系の消泡剤を1重量部、コバルト系のドライヤーを1重量部配合し、そして亜鉛・リン酸系防錆顔料としてポリリン酸亜鉛を2重量部配合している。
【0045】
一方、比較例4においては、本発明の要件を満たさない溶剤系エポキシ樹脂Cを50重量部(うち固形分30重量部)用いて、カーボンブラックを2重量部、溶媒としてメチルエチルケトン(MEK)50重量部と酢酸エチル50重量部を配合し、亜鉛・リン酸系防錆顔料としてオルトリン酸亜鉛を5重量部配合している。
【0046】
また、比較例5においても、本発明の要件を満たさない溶剤系エポキシエステル樹脂Dを50重量部(うち固形分30重量部)用いて、カーボンブラックを2重量部、溶媒としてメチルエチルケトン(MEK)50重量部と酢酸エチル50重量部を配合し、亜鉛・リン酸系防錆顔料としてオルトリン酸亜鉛を5重量部配合している。
【0047】
このような配合原料をそれぞれ1リットルのサンドミルに入れて、分散媒体として2mmφのガラスビーズを用いて1時間回転分散させて、比較例1〜比較例5にかかる5種類の塗料組成物を製造した。これら5種類の塗料組成物の塗料としての特性を、実施例1〜実施例6と同様に供試体を作製して試験した。即ち、供試体の基板としては未処理鋼板(SPCC−SD)を用い、溶剤洗浄して脱脂した後、エアースプレーによって塗料組成物を脱脂した未処理鋼板の表面に塗装した。塗膜厚さは20μm〜25μmとした。
【0048】
乾燥方法としても、実施例1〜実施例6と同様に、室温(20℃)で放置して乾燥した。乾燥性としては、指触乾燥(塗装面に指で3kg荷重して指に塗料が付着しなくなる時間を測定)及び半硬化乾燥(塗装面に指で3kg荷重して塗装面に指紋跡がつかなくなる時間を測定)によって評価した。その他の塗膜性能についても、実施例1〜実施例6と同様な方法によって評価した。
【0049】
各特性試験の結果を、表2の下段に示す。表2に示されるように、比較例1〜比較例5にかかる5種類の塗料組成物のうち、水性塗料組成物である比較例1〜比較例3のVOC量(配合から計算した値)は、6.3%,15.4%,15.1%と少ないが、溶剤系塗料組成物である比較例4及び比較例5は、VOC量(配合から計算した値)が77.0%と極めて多く、本発明にかかる課題を解決することができない。
【0050】
乾燥性については、比較例1,比較例4及び比較例5は指触乾燥が5分〜8分、半硬化乾燥が8分〜10分と極めて良好であるが、比較例2及び比較例3は指触乾燥が14分,15分、半硬化乾燥が20分,21分と乾燥性が悪くなっている。
【0051】
一方、塗膜性能については、付着性が比較例1〜比較例5の全てについて100個の升目の1個も剥がれないという良好な結果であり、硬度も鉛筆硬度でHBという値を示した。光沢についても、69〜90という良好な値を示している。
【0052】
しかしながら、耐食性については、塩水噴霧試験(SST)では比較例4が240時間で1.2mm、480時間で2.9mmという優れた防錆性を示した以外は、比較例1,比較例2,比較例5が240時間で2.5mm〜4.5mm、480時間で3.7mm〜6.7mmと防錆性に劣るという結果が得られ、比較例3に至っては全面ブリスターが発生するという結果となった。
【0053】
また、耐水性試験においても比較例1,比較例4,比較例5については120時間,240時間のいずれにおいても100個の升目の1個も剥がれないという良好な結果が得られたが、比較例2については240時間浸漬後に4個が剥がれ、比較例3については120時間浸漬後に4個が剥がれ、240時間浸漬後に5個が剥がれるという結果となった。
【0054】
このように、亜鉛・リン酸系防錆顔料を配合しない以外は実施例1〜実施例6と同様な配合である比較例1においては、塩水噴霧試験(SST)による防錆性のみが劣るという評価結果が得られ、分子量が1万で本発明の要件を満たさない水分散型エポキシエステル樹脂Bを用いた比較例2,比較例3については、乾燥性も悪く、耐食性にも劣るという結果が得られた。
【0055】
これに対して、溶媒として有機溶剤(MEK,酢酸エチル)を用いた比較例4,比較例5は、乾燥性及び塗膜性能においては優れた結果が得られたが、VOC量が77.0%と極めて多く、本発明にかかる課題を解決することができないものである。
【0056】
以上説明したように、水素イオン指数がpH7〜pH10の範囲内、分子量が2万〜7万の範囲内、粒子径が10nm〜100nmの範囲内である水分散型エポキシエステル樹脂Aを100重量部(うち固形分40重量部)、カーボンブラックを2重量部、イオン交換水を100重量部、ポリカルボン酸系の分散剤を1重量部、シリコン系の消泡剤を1重量部、コバルト系のドライヤーを1重量部配合したものに、亜鉛・リン酸系防錆顔料を1重量部〜10重量部配合してなる本実施の形態の実施例1〜実施例6にかかる水性塗料組成物においては、VOC量が6.0%〜6.4%と少ないながら、溶剤系塗料に匹敵する優れた乾燥性を有し、塗膜性能も優れている。
【0057】
このようにして、本実施の形態の実施例1〜実施例6にかかる水性塗料組成物においては、加熱することなく室温でも短時間で乾燥させることができ、溶剤系塗料に匹敵する優れた乾燥性を有するとともに、耐水性・耐食性・付着性等の塗膜性能にも優れ、VOCを大幅に低減することができる。
【0058】
本発明を実施するに際しては、水性塗料組成物のその他の部分の組成、成分、配合量、材質、大きさ、作製方法等についても、本実施の形態に限定されるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分散型エポキシエステル樹脂と、水と、亜鉛・リン酸系防錆顔料とを含有する水性塗料組成物であって、
前記水分散型エポキシエステル樹脂は水素イオン指数がpH7〜pH10の範囲内、分子量が2万〜7万の範囲内、粒子径が10nm〜100nmの範囲内であり、
前記水分散型エポキシエステル樹脂の固形分1重量部〜500重量部に対して前記亜鉛・リン酸系防錆顔料の含有量が1重量部〜50重量部であり、
揮発性有機化合物(VOC)量が前記水性塗料組成物全体に対して1重量%〜20重量%であることを特徴とする水性塗料組成物。
【請求項2】
前記水分散型エポキシエステル樹脂の固形分5重量部〜100重量部に対して前記亜鉛系防錆顔料の含有量が1重量部〜50重量部であることを特徴とする請求項1に記載の水性塗料組成物。
【請求項3】
前記亜鉛・リン酸系防錆顔料は酸化亜鉛、亜リン酸亜鉛、オルトリン酸亜鉛、ポリリン酸亜鉛、トリポリリン酸アルミニウムのうちいずれか、またはこれらのうち二つ以上を併用したものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の水性塗料組成物。
【請求項4】
更に添加剤として分散剤、消泡剤、ドライヤーを添加したことを特徴とする請求項1乃至請求項3のうちいずれか1つに記載の水性塗料組成物。

【公開番号】特開2007−269972(P2007−269972A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−97189(P2006−97189)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)
【Fターム(参考)】