説明

水性樹脂組成物

【課題】腐敗物に起因する水性樹脂組成物の劣化による問題を解決し、長期間にわたって所望の性能を出すことができる水性樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】本発明は、重合体(A)を主剤として含有し、該重合体(A)の一部が2−オキサゾリン基と反応し得る官能基を有する重合体であり、2−オキサゾリン基を有する重合体(B)を前記重合体(A)の架橋剤として含有しており、更に添加剤(C)を含有する構成の水性樹脂組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な水性樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、優れた機械的強度、耐水性、耐溶剤性、耐熱性、耐久性、基材への密着性等の諸性能を有する皮膜を形成し、塗料、表面処理剤、コーティング剤、接着剤、シーリング剤等の分野に利用でき得る長期間にわたって損なわない貯蔵安定性をもつ水性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明が属する技術分野においてオキサゾリン基と反応し得る官能基を有する水性樹脂とオキサゾリン基を有する重合体を含む水性樹脂組成物が開示されている(例えば、特許文献1参照)。オキサゾリン基と反応しうる官能基を有する水溶性、水希釈性または水分散性重合体とオキサゾリン基を有する水溶性重合体についての開示がある(例えば、特許文献2参照)。また、水性樹脂の分野において、ポリマーに抗菌・防カビ剤を加え抗菌性や防かび性を有する塗料組成物の開示がされている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平02−099537号公報
【特許文献2】特開平05−295275号公報
【特許文献3】特開2005−281299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらの技術においても、水性樹脂組成物を長期間にわたって保存した際に、それを用いて作製された塗膜の外観、耐水性、耐溶剤性等の塗膜物性の維持という課題は解決に至っていない。本発明の課題は、腐敗物に起因する水性樹脂組成物の劣化による上記の問題を解決し、長期間にわたって所望の性能を出すことができる水性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、本発明は、カルボキシル基を有する重合体(A)を主剤として含有し、2−オキサゾリン基を有する水溶性、水希釈性または水分散性の重合体(B)を前記重合体(A)の架橋剤として含有しており、重合体(A)と(B)の配合割合と更に添加剤(C)の配合割合を調整することにより、本発明の水性樹脂組成物は、従来の水性樹脂組成物では成し得なかった長期間にわたって所望の性能を出すことができる。
【発明を実施するための形態】
【0006】
以下、本発明の実施形態について説明する。
<重合体(A)について>
本発明で使用する重合体(A)は、水溶性、水希釈性または水分散性のカルボキシル基を有する重合体である。カルボキシル基を有する重合体(A)としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂およびポリオレフィン樹脂等が挙げられるが、アクリル樹脂が好ましい。主剤である重合体(A)がアクリル樹脂の場合におけるカルボキシル基の量は重合体モノマー成分合計重量を100重量部として、カルボキシル基を有するモノマーを好ましくは1〜15重量部、更に好ましくは2〜10重量部、最も好ましくは3〜8重量部とすることで、本発明の水性樹脂組成物の硬化皮膜が強靭となり、耐水性、耐久性および基材への密着性に優れた皮膜が形成される。
【0007】
重合体(A)において、カルボキシル基を有するモノマーとはモノカルボン酸類、ジカルボン酸類、ジカルボン酸モノエステル類などを挙げることができる。より具体的には、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノブチル、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノブチル、ビニル安息香酸、シュウ酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、カルボキシル基末端カプロラクトン変性アクリレート(例えば「プラクセルFA」シリーズ;ダイセル工業製)、カルボキシル基末端カプロラクトン変性メタクリレート(例えば「プラクセルFMA」シリーズ;ダイセル工業株式会社製)などを挙げることができる。これらの中でも(メタ)アクリル酸、イタコン酸が好ましい。これらは1種または2種以上を適宜選択し用いることができる。これらの中でも、重合体としての粘度が作業に好適になる(メタ)アクリル酸が好ましい。
【0008】
カルボキシル基を有するモノマー以外のモノマーとしては、特に限定は無いが、例えば以下のようなものを挙げることができ、モノマー由来の性能を発揮させるためにそれらの1種または2種以上を適宜選択し用いることができる。
【0009】
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルカルビトール(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロドデシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸のアルキルまたはシクロアルキルエステルモノマー類。
【0010】
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシ(メタ)アクリレート(例えば、ダイセル化学工業製の「プラクセルF」シリーズ等)等のヒドロキシル基含有モノマー類、特にヒドロキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル類。
【0011】
メトキシブチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシブチル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリプロポキシ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸のアルコキシアルキルエステル類。ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(メトキシエトキシ)シラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、2−スチリルエチルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルヒドロキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルヒドロキシシラン等のヒドロキシシランおよび/または加水分解性シラン基含有ビニル系モノマー類。
【0012】
(メタ)アクリルアミド、N−モノメチル(メタ)アクリルアミド、N−モノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタクリルアミド、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、モルホリンのエチレンオキサイド付加(メタ)アクリレート、N−ビニルピリジン、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルピロール、N−ビニルピロリドン、N−ビニルオキサゾリドン、N−ビニルサクシンイミド、N−ビニルメチルカルバメート、N,N−メチルビニルアセトアミド、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−2−オキサゾリン、(メタ)アクリロニトリル等の窒素含有モノマー類。
【0013】
(メタ)アクリロイルアジリジン、(メタ)アクリル酸2−アジリジニルエチル等のアジリジニル基含有モノマー類。
【0014】
グリシジル(メタ)アクリレート、α−メチルグリシジルアクリレート、α−メチルグリシジルメタクリレート(例えば、ダイセル化学工業製の「MGMA」)、グリシジルアリルエーテル、オキソシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルアクリレート(例えば、ダイセル化学工業製の「サイクロマー(登録商標)A400」等)、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレート(例えば、ダイセル化学工業製の「サイクロマー(登録商標)M100」等)等のエポキシ基含有モノマー類。
【0015】
α−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロルメチルスチレン等の芳香族ビニルモノマー類。
【0016】
アクロレイン、ジアセトンアクリルアミド、ホウミルスチロール、4〜7個の炭素原子を有するビニルアルキルケトン(ビニルエチルケトン等)、(メタ)アクリルオキシアルキルプロペナール、アセトニルアクリレート、ジアセトン(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレートアセチルアセテート、ブタンジオール−1,4−アクリレートアセチルアセテート等のカルボニル基含有モノマー類。パーフルオロブチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロイソノニルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート等のパーフルオロアルキル(メタ)アクリレート類。
【0017】
4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン(例えば、旭電化工業製「アデカスタブ(登録商標)LA−87」)、4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン(例えば、旭電化工業製「アデカスタブ(登録商標)LA−82」)、4−(メタ)アクリロイル−1−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(メタ)アクリロイル−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−クロトノイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルアミノ−1,2,2,6,
6−ペンタメチルピペリジン、4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−クロトノイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(メタ)アクリロイル−4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−クロトノイル−4−クロトノイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等の紫外線安定性モノマー類。
【0018】
2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタ)アクリロイルオキシメチルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−5−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル]−2H−1,2,3−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタ)アクリロイルオキシメチルフェニル]−5−t−ブチル−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタ)アクリロイルアミノメチル−5’−t−オクチルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタ)アクリロイルオキシプロピルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル]−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−t−ブチル−3’−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル]−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル]−5−シアノ−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル]−5−t−ブチル−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(β−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)−3’−t−ブチルフェニル]−4−t−ブチル−2H−ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール
系紫外線吸収性モノマー類。
【0019】
2−ヒドロキシ−4−(メタ)アクリロイルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−[2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシ]プロポキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−[2−(メタ)アクリロイルオキシ]エトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−[3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ]ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−3−t−ブチル−4−[2−(メタ)アクリロイルオキシ]ブトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系紫外線吸収性モノマー類。
【0020】
重合体(A)は、通常の溶液重合や乳化重合のなどの公知の重合方法により調製することが可能である。重合体(A)主剤が乳化重合の場合、好ましい分子量は、重量平均分子量で好ましくは10万〜300万、更に好ましくは30万〜200万、最も好ましくは50万〜100万である。分子量をこの範囲に設定することで、塗膜の成膜性と耐久性のバランスがよくなる。
【0021】
また、水溶性のラジカル重合においては、分子量は好ましくは1000〜50000、更に好ましくは3000〜30000、最も好ましくは5000〜20000である。分子量をこの範囲に設定することで、塗工時の作業性と塗膜耐久性のバランスがよくなる。
【0022】
本発明において、重合体(A)は公知のものを広く使用することができる。例えば、アクリセット19E、アクリセット210E、アクリセット260E、アクリセット288E、アロロン453(いずれも株式会社日本触媒製)等の水分散性あるいは水溶性アクリル樹脂;ソフラネートAE−10、ソフラネートAE−40(いずれも日本ソフラン加工株式会社製)、ハイドランHW−110、ハイドランHW−131、ハイドランHW−135、ハイドランHW−320、ボンディック72070(いずれも大日本インキ化学工業株式会社製)、ポイズ710、ポイズ720(いずれも花王株式会社製)、メルシー525、メルシー585、メルシー414、メルシー455(いずれも東洋ポリマー株式会社製)等の水分散性ポリウレタン樹脂;バイロナールMD−1200、バイロナールMD−1400、バイロナールMD−1930(いずれも東洋紡績株式会社製)、WD3652、WJL6342(いずれもイーストマンケミカル社製)等の水分散性ポリエステル樹脂;イソバン−10、イソバン−06、イソバン−04(いずれもクラレイソプレンケミカル株式会社製)、プリマコール5981、プリマコール5983、プリマコール5990、プリマコール5991(いずれもダウケミカル社製)等の水溶性、水希釈性または水分散性のポリオレフィン系樹脂等を挙げることができる。
<重合体(B)について>
本発明で架橋剤として使用される重合体(B)は、付加重合性オキサゾリン(a)および必要に応じて少なくとも1種の他の単量体(b)を重合してなるものである。本発明において付加重合性オキサゾリン(a)とは、下記一般式(I)によって表されるものである。
【0023】
【化1】

【0024】
〔式中、R1、R2、R3およびR4はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基、フェニル基または置換フェニル基であり、R5は付加重合性不飽和結合を持つ非環状有機基である。〕 具体例としては、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリンを挙げることができ、これらの群から選ばれる1種または2種以上の混合物を使用することができる。中でも、2−イソプロペニル−2−オキサゾリンが工業的にも入手しやすく好適である。
【0025】
付加重合性オキサゾリン(a)の使用量は特に限定されるものではないが、重合体(B)を得る際に使用する単量体混合物中、5重量%以上であることが好ましい。5重量%未満の量では硬化の程度が不充分であり、耐久性、耐水性等が損なわれる傾向にある。本発明において他の単量体(b)とは、オキサゾリン基と反応しない、付加重合性オキサゾリン(a)と共重合可能な単量体であれば特に制限はなく、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−アミノエチルおよびその塩等の(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリルニトリル等の不飽和ニトリル類;(メタ)アクリルアミド、N−メチ
ロール(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド等の不飽和アミド類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;エチレン、プロピレン等のα−オレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル等の含ハロゲンα,β−不飽和単量体類;スチレン、α−メチルスチレン、スチレンスルホン酸ナトリウム等のα,β−不飽和芳香族単量体類が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。
【0026】
重合体(B)は、付加重合性オキサゾリン(a)および必要に応じて少なくとも1種の他の単量体(b)を、従来公知の重合法によって水性媒体中で重合を行うことにより製造することができる。使用することができる水性媒体は、水と混合可能なものであれば特に制限はないが、例示すれば、水;または、水とメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ターシャリーブタノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコール、アセトン、メチルエチルケトン等の混合溶液が挙げられる。
【0027】
重合体(B)に必要に応じて水溶性を付与するためには、単量体混合物中の親水性単量体の割合が50重量%以上、好ましくは70重量%以上である。親水性単量体とは、付加重合性オキサゾリン(a)および他の単量体(b)の中の、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸2−アミノエチルおよびその塩、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、スチレンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。また、乳化重合によっても調製することができる。
【0028】
本発明における、重合体(A)と重合体(B)との配合割合は、重合体(A)100重量部に対して重合体(B)1〜50重量部の範囲が好ましく、2〜30重量部の範囲がより好ましい3〜10重量部の範囲がより好ましい。この範囲に量比を設定することで硬化の程度充分であり、耐久性、耐水性等がよく、基材への密着性がよくなる。
【0029】
本発明の組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で必要に応じて、溶剤、可塑剤、無機または有機の充填剤、着色顔料、染料、増粘剤、分散剤、湿潤剤、消泡剤、防錆剤等を添加することも可能である。本発明の組成物を製造するに際しては、特に限定されず、当該業者で慣用の手段を広く適用でき、例えば、重合体(A)の水溶液、水希釈液または水分散液に、重合体(B)と必要に応じてその他添加剤を適宜添加、混合すればよい。そして、塗料、表面処理剤、コーティング剤、接着剤、シーリング剤に使用するに際しては、ロールコーター、スプレー、浸漬、刷毛塗り等当該業者で慣用の方法で基材に塗布すればよい。硬化は室温で1日〜2週間で行うことができるが、必要であれば120℃で30分間程度のような加熱により行うこともできる。
【0030】
<添加剤(C)について>
添加剤Cは、水性の樹脂組成物によく発生する生物(カビ、バクテリア、プランクトン等)の発生を抑制しかつ水性樹脂組成物由来の塗膜の性能を維持する。添加剤(C)はCosmocilCQ(AVECIA製、有効成分20%)、アクチサイドMB(ソージャパン株式会社製、有効成分5%)、ファインサイドHS−10(東京ファインケミカル株式会社製、有効成分5%)、PERMACHEMトップサイド−1000(パーマケムアジア製、有効成分5%)などが好ましく用いられるが、塩素系のCosmocilCQ、トップサイド1000が生物の発生抑制の観点から特に好ましく用いられる。
【0031】
添加剤(C)の使用量は、重合体(B)1重量部に対して、有効成分で0.0001〜0.01重量部が好ましい。より好ましくは0.00015〜0.005重量部で、更に好ましくは0.00018〜0.003重量部である。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
なお、以下では、特にことわりのない限り、「%」は「重量%」、「部」は「重量部」を示す。
【0033】
<製造例1(重合体(A)アクリルエマルションの製造例)>
攪拌機、還流冷却器、窒素導入管、温度計および滴下ロートを備えたフラスコに、脱イオン水376.5部およびハイテノールN−08(第一工業製薬株式会社製のポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸アンモニウム塩)15%水溶液70.8部を仕込み、ゆるやかに窒素ガスを流しながら80℃に加熱した。予め調整しておいたアクリル酸2−エチルヘキシル131部、スチレン205部およびアクリル酸17部からなる単量体混合物の5%をフラスコに仕込み、続いて過硫酸カリウムの5%水溶液21部を注入し重合を開始した。10分後に残りの単量体混合物を3時間にわたって滴下した。反応中は窒素ガスを吹き込み続け、フラスコ内の温度を80±1℃に保った。滴下終了後も1時間同じ温度に保った後、冷却し、25%アンモニア水9部でpH8.5に調整し、不揮発分44.1%、pH8.5のアクリルエマルション(3)を得た。
【0034】
<製造例2(重合体(B)水溶性樹脂の製造例)>
攪拌機、還流冷却器、窒素導入管および温度計を備えたフラスコに、脱イオン水1350部、過硫酸ソーダ5部、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン120部およびアクリル酸エチル30部を仕込み、ゆるやかに窒素ガスを流しながら50℃に加熱した。フラスコ内の温度を50±1℃に保ち、10時間攪拌を続けて反応を完結させた後冷却し、CosmocilCQを0.15部添加した。不揮発分10.2%のオキサゾリン基含有重合体水溶液(1)を得た。この重合体の数平均分子量は約2万であった。
【0035】
<製造例3(重合体(B)水溶性樹脂の製造例)>
製造例2のCosmocilCQを1.5部添加した以外は製造例2と同様。
【0036】
<製造例4(重合体(B)水溶性樹脂の製造例)>
製造例2のCosmocilCQをPERMACHEMトップサイド−1000 0.6部に変更した以外は製造例2と同様。
【0037】
<製造例5(重合体(B)水溶性樹脂の製造例)>
製造例2のCosmocilCQをアクチサイドMB0.6部に変更した以外は製造例2と同様。
【0038】
<製造例6(重合体(B)水溶性樹脂の製造例)>
製造例2のCosmocilCQをファインサイドHS−10 0.6部に変更した以外は製造例2
と同様。
【0039】
<製造例7(重合体(B)エマルションの製造例)>
攪拌機、還流冷却器、窒素導入管、温度計および滴下ロートを備えたフラスコに、脱イオン水782.4部およびハイテノールN−08(第一工業製薬株式会社製のポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸アンモニウム塩)15%水溶液128部を仕込み、適量の28%アンモニア水でpH9.0に調整し、ゆるやかに窒素ガスを流しながら70℃に加熱した。そこへ過硫酸カリウムの5%水溶液64部を注入し、続いて予め調整しておいたアクリル酸ブチル288部、スチレン288部および2−イソプロペニル−2−オキサゾリン64部からなる単量体混合物を3時間にわたって滴下した。反応中は窒素ガスを吹き込み続け、フラスコ内の温度を70±1℃に保った。滴下終了後も2時間同じ温度に保った後、内温を80℃に昇温させて1時間攪拌を続けて反応を完結させた。その後冷却し、CosmosilCQを0.64部添加した。不揮発分39.8%、pH8.0のオキサゾリン基含有重合体水性分散液(3)を得た。
【0040】
<製造例8(重合体(B)水溶性樹脂の製造例)>
製造例2のCosmocilCQを15.0部添加した以外は製造例2と同様。
【0041】
<製造例9(重合体(B)水溶性樹脂の製造例)>
製造例2のCosmocilCQを添加しない以外は製造例2と同様。
【0042】
<製造例10(重合体(B)水溶性樹脂の製造例)>
製造例7のCosmocilCQを添加しない以外は製造例2と同様。
結果を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
〔耐腐敗性試験〕
表1の配合とした各実施例、各比較例サンプルを100mlを容量110mlサンプル瓶に取り密封し、30℃で180日間暗所にて保存する。180日経過後、目視にて変化を確認する。当初と変化が無ければ〇、僅かにカビが発生していれば△、カビが多く発生していれば×として目視で評価した。
【0045】
〔耐水白化試験〕
表1で配合した樹脂組成物実施例1〜7および比較例1〜3の混合液を調整し180日経過後、それぞれの混合液に成膜助剤のCS−12(チッソ製)を固形に対して8部ずつ添加して24hr静置後した。この混合液を温度が23±2℃で、相対湿度が65±3%である雰囲気中でガラス板(縦:15cm、横:7cm)上にドライ膜厚が150μmになるようにアプリケーターを用いて塗布し、このガラス板をこの雰囲気中で2分間放置し、次いで120℃の温度で30分間加熱した後、放冷することにより、塗膜が形成されたガラス板を作製した。この塗膜が形成されたガラス板の塗膜に直径30mm、長さ30mmのガラス管を接着させた後、ガラス管の内部にイオン交換水10mLを注いだ状態で、温度が23±2℃で、相対湿度が65±3%である雰囲気中に24時間放置した後、イオン交換水と接している塗膜の状態を目視で観察し、以下の評価基準に基づいて評価した。なお、試験開始前の塗膜と比較して試験後の塗膜に変化がないほど架橋性能が良好である。
(評価基準)
○:塗膜に変化が認められない。
△:塗膜の一部にやや白濁が認められる。
×:塗膜全体白化が認められる。
【0046】
〔耐溶剤性試験:MEKラビング試験〕
前記で得られた塗膜が形成されたガラス板の塗膜を、MEKを含ませた脱脂綿で50往復擦るラビング試験を行なった後、その塗膜の状態を目視で観察し、以下の評価基準に基づいて評価した。なお、塗膜に変化がないほど架橋性が良好である。
(評価基準)
○:塗膜に変化が認められない。
△:塗膜の一部に溶解が認められる。
×:塗膜全体に溶解が認められる。
【0047】
〔フィルム外観試験〕
前記で得られた塗膜が形成されたガラス板の塗膜を、30℃×80%RHの恒温恒湿機で30日間静置後に塗膜の状態を観察した。
(評価基準)
○:塗膜に変化が認められない。
△:塗膜の一部にやや白化が認められる。
×:塗膜全体白化が認められる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の水性樹脂組成物は、優れた機械的強度、耐水性、耐溶剤性、耐熱性、耐久性、基材への密着性等の諸性能を有する皮膜を形成し、塗料、表面処理剤、コーティング剤、接着剤、シーリング剤等の分野に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基を有する重合体(A)を主剤として含有し、2−オキサゾリン基を有する重合体(B)を前記重合体(A)の架橋剤として含有しており、前記重合体(B)の配合割合は前記重合体(A)100重量部に対して1〜50重量部であり、更に添加剤(C)を(B)1重量部に対して、0.0001〜0.01重量部含有してなる水性樹脂組成物。
【請求項2】
重合体(A)のカルボキシル基を有するモノマー1〜15重量部およびその他のモノマー85〜99重量部からなるアクリル樹脂重合体であることを特徴とする請求項1に記載の水性樹脂組成物。
【請求項3】
添加剤(C)が塩素を含有する請求項1または2に記載の水性樹脂組成物。

【公開番号】特開2012−214804(P2012−214804A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−83414(P2012−83414)
【出願日】平成24年3月31日(2012.3.31)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】