説明

水性液剤

【課題】菌の繁殖が抑制され、コーティング液の調製が簡便であり、さらに添加剤の分散安定性にも優れた水性液剤の提供。
【解決手段】ポリビニルアルコール及びその誘導体から選択される少なくとも1種と重合性ビニルモノマーとを重合して得られるポリビニルアルコール系共重合体を含む水性液剤。好ましくは、上記重合性ビニルモノマーがアクリル酸及びメタクリル酸からなる群から選ばれる少なくとも1種とメタクリル酸メチルを含むものである水性液剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性液剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の水溶性高分子が医薬品製剤のコーティング剤、バインダー剤(結合剤)等として用いられている。
【0003】
これらの水溶性高分子粉末を水に溶解して液剤とする場合、水溶性高分子の粉末粒子と水とを混合する際、高分子粉末の表面のみが急激に水を吸収し、粒子同士が付着して集合体となり粒子内部が水に未溶解の状態となる“ままこ”と呼ばれる塊を生じる。従って、水溶性高分子粉末を水に溶解する際には、通常、高分子粉末と水を混合した後、十分に分散、溶解してから液剤として使用されるため、溶解に長時間を要する。
【0004】
また、従来の水溶性高分子含有液剤は、一般的に水溶液の粘度が高く、取扱いが困難という問題点を有する。さらに、該高分子粉末を溶解した液剤を長時間放置すると、液剤中の生菌数が増加するといった問題点がある。
【0005】
また、医薬品製剤のコーティング剤には、酸化チタン、タルク等の隠蔽剤、アエロジル、ステアリン酸マグネシウム、カルナバワックス等の流動化剤等の添加剤が含まれるが、従来の水溶性高分子含有液剤は、これらの添加剤に対する分散安定性の点で問題があり、添加剤が分散した溶液の攪拌を停止すると、容易に懸濁物が沈降してしまう。さらに、コーティングした後の膜表面の平滑度も十分に満足のいくものではなかった。
【0006】
一方、特許文献1には、ポリビニルアルコール系共重合体を主体とする硬カプセルが開示されているが、水性液剤としての使用については開示されていない。
【特許文献1】国際公開WO02/17848パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のような背景に鑑みなされたものであり、菌の繁殖が抑制され、コーティング液の調製が簡便であり、さらに添加剤の分散安定性にも優れた水性液剤を提供することを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ポリビニルアルコール及びその誘導体から選択される少なくとも1種と重合性ビニルモノマーとを重合して得られるポリビニルアルコール系共重合体(以下、PVA共重合体ということがある)を含む水性液剤が、菌の繁殖を抑制する性質を有し、コーティング液の調製が簡便で、各種添加剤の分散安定性にも優れていることを見出した。
【0009】
また、本発明の水性液剤をコーティング剤として使用することにより、表面の平滑度が高く優れたフィルム特性を有するフィルムが得られることを見出した。さらに、該水性液剤を結合剤として造粒した打錠用顆粒は、製錠により優れた成形性を有し、杵への粉付着(スティッキング)を著しく低減することを見出した。本発明は、この様な知見に基づき、さらに検討を重ねて完成されたものである。
【0010】
本発明は、下記項1〜10に示す水性液剤を提供する。
【0011】
項1. ポリビニルアルコール及びその誘導体から選択される少なくとも1種と重合性ビニルモノマーとを重合して得られるポリビニルアルコール系共重合体を含む水性液剤。
項2. 重合性ビニルモノマーがアクリル酸及びメタクリル酸からなる群から選ばれる少なくとも1種とメタクリル酸メチルを含むものである項1に記載の水性液剤。
項3. ポリビニルアルコール及びその誘導体から選択される少なくとも1種と重合性ビニルモノマーの合計量を100質量%として、アクリル酸及びメタクリル酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の使用量が0.5〜20質量%であり、メタクリル酸メチルの使用量が5〜40質量%である項2に記載の水性液剤。
項4. ポリビニルアルコール系共重合体が、アクリル酸及びメタクリル酸からなる群から選ばれる少なくとも1種とメタクリル酸メチルがポリビニルアルコール及びその誘導体から選択される少なくとも1種にグラフト重合した重量平均分子量1万〜50万の共重合体である項2又は3に記載の水性液剤。
項5. ポリビニルアルコール系共重合体100質量部に対して揮発性液体の含有量が100〜9900質量部である項1〜4のいずれかに記載の水性液剤。
項6. 揮発性液体が水100質量部に対してアルコール0〜100質量部を含む項5に記載の水性液剤。
項7. ポリビニルアルコール系共重合体100質量部に対して隠蔽剤の含有量が0.1〜250質量部である項1〜6のいずれかに記載の水性液剤。
項8. ポリビニルアルコール系共重合体100質量部に対してセルロース誘導体及び/又はアクリル系高分子の含有量が0.1〜100質量部である項1〜7のいずれかに記載の水性液剤。
項9.項1〜8のいずれかに記載の水性液剤からなら医薬品用コーティング剤。
項10. 項1〜8のいずれかに記載の水性液剤からなる医薬用造粒バインダー剤。
【0012】
本発明の水性液剤は、ポリビニルアルコール及びその誘導体から選択される少なくとも1種と重合性ビニルモノマーとを重合して得られるポリビニルアルコール系共重合体及び必要に応じて添加される他の成分が、水を含む揮発性液体に分散されたものである。
【0013】
ポリビニルアルコール及びその誘導体
本発明において、ポリビニルアルコール(PVA)及びその誘導体は、従来公知のものを使用すれば良く、市販品が容易に入手可能である。
【0014】
ポリビニルアルコール及びその誘導体の重合度は、目的とする用途に応じた濃度、粘度で最適なものを選択すればよく、特に限定されるものでないが、例えば200〜2000程度、好ましくは300〜1000程度である。
【0015】
ポリビニルアルコールの誘導体としては、例えば、PVAの完全ケン化物、中間ケン化物、部分ケン化物の他に、アミン変性PVA、エチレン変性PVA、末端チオール変性PVA等の各種変性PVAを使用できる。ポリビニルアルコールの誘導体の市販品としては、例えば、日本酢ビ・ポバール製のJP−05(部分けん化PVA、重合度500、ケン化度88%)等が挙げられる。
【0016】
本発明において、ポリビニルアルコール及びその誘導体は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0017】
重合性ビニルモノマー
本発明において、重合性ビニルモノマーとしては、例えば、
(1)アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸等;
(2)(1)のナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩又はアルキルアミン塩等;
(3)メチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルメタクリレート、エチルアクリレート、ブチルメタクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ラウリルメタクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルメタクリレート、ステアリルアクリレート、アクリロニトリル、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、スチレン、酢酸ビニル、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ポリエチレングリコールとメタクリル酸とのエステル、ポリエチレングリコールとアクリル酸とのエステル、ポリプロピレングリコールとメタクリル酸とのエステル、ポリプロピレングリコールとアクリル酸とのエステル、N−ビニルピロリドン、アクリロイルモルホリン、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド等
が挙げられる。
【0018】
また、本発明において、好ましい重合性ビニルモノマーとしては、例えば、下記一般式(A)
C=C(R)−COOR (A)
[式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示す。]
で表される化合物が挙げられる。
【0019】
重合性ビニルモノマーは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0020】
重合性ビニルモノマーを2種以上混合して使用する場合、重合性ビニルモノマーは、一般式(A)で表される化合物において、Rが水素原子である化合物とRが炭素数1〜4のアルキル基である化合物とを含むものが好ましい。
【0021】
一般式(A)においてRが水素原子である化合物とRが炭素数1〜4のアルキル基である化合物の使用割合は、ポリビニルアルコール及びその誘導体から選択される少なくとも1種と重合性ビニルモノマーの合計量を100質量%として、通常Rが水素原子である化合物0.5〜20質量%程度、Rが炭素数1〜4のアルキル基である化合物5〜40質量%程度、好ましくはRが水素原子である化合物2.5〜5.0質量%程度、Rが炭素数1〜4のアルキル基である化合物15〜25質量%程度である。
【0022】
さらに、重合性ビニルモノマーは、前記(1)及び(2)に記載のモノマーからなる群から選ばれる少なくとも1種、及び前記(3)に記載のモノマーからなる群から選ばれる少なくも1種を含むものが好ましい。これらの中でも、アクリル酸及びメタクリル酸からなる群から選ばれる少なくとも1種とメタクリル酸メチルを含むものが好ましい。
【0023】
アクリル酸及びメタクリル酸からなる群から選ばれる少なくとも1種とメタクリル酸メチルの使用割合は、ポリビニルアルコール及びその誘導体から選択される少なくとも1種と重合性ビニルモノマーの合計量を100質量%として、通常アクリル酸及びメタクリル酸からなる群から選ばれる少なくとも1種0.5〜20質量%程度、メタクリル酸メチル5〜40質量%程度、好ましくはアクリル酸及びメタクリル酸からなる群から選ばれる少なくとも1種2.5〜5.0質量%程度、メタクリル酸メチル15〜25質量%程度である。
【0024】
重合性ビニルモノマーは、アクリル酸及びメタクリル酸メチルを含むものがさらに好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸メチルのみを使用するものが特に好ましい。
【0025】
ポリビニルアルコール系共重合体
本発明の水性液剤に使用されるポリビニルアルコール系共重合体は、前記ポリビニルアルコール及びその誘導体から選択される少なくとも1種と前記重合性ビニルモノマーとを重合することによって得られる。
【0026】
該ポリビニルアルコール系共重合体は、従来公知の製造方法によって得ることができ、市販品を入手することもできる。
【0027】
該ポリビニルアルコール系共重合体の製造方法としては、例えば、特許文献1(国際公開02/17848パンフレット)に記載されている方法が挙げられる。該共重合体の製造方法としては、例えば、水とポリビニルアルコール及びその誘導体から選択される少なくとも1種とを混合し、得られた混合液を加温してポリビニルアルコール及びその誘導体から選択される少なくとも1種を水に溶解し、次いで重合性ビニルモノマー及び重合開始剤を添加して、重合又は共重合反応させる方法が挙げられる。
【0028】
該共重合体の製造方法において、ポリビニルアルコール及びその誘導体から選択される少なくとも1種は、前記記載のものを使用すればよい。
【0029】
該共重合体の製造方法において、水とポリビニルアルコール及びその誘導体から選択される少なくとも1種の使用割合は、水100質量部に対して、ポリビニルアルコール及びその誘導体から選択される少なくとも1種5〜70質量部程度、好ましくは15〜40質量部程度である。
【0030】
該共重合体の製造方法において、水とポリビニルアルコール及びその誘導体から選択される少なくとも1種の混合液を加温して溶解する温度は、使用するポリビニルアルコール及びその誘導体から選択される少なくとも1種が水に溶解する温度に適宜設定すればよく、例えば80〜100℃程度とすればよい。
【0031】
該共重合体の製造方法において、重合性ビニルモノマーは、前記記載のものを使用すればよい。
【0032】
重合性ビニルモノマーの使用量は、目的とするポリビニルアルコール系共重合体の組成等に応じて適宜選択すればよく、ポリビニルアルコール及びその誘導体から選択される少なくとも1種100質量部に対して、通常5〜150質量部程度、好ましくは11〜66質量部程度である。
【0033】
また、重合性ビニルモノマーがアクリル酸及びメタクリル酸からなる群から選ばれる少なくとも1種とメタクリル酸メチルを含む場合、アクリル酸及びメタクリル酸からなる群から選ばれる少なくとも1種とメタクリル酸メチルの使用量は、ポリビニルアルコール及びその誘導体から選択される少なくとも1種と重合性ビニルモノマーの合計量を100質量%として、通常アクリル酸及びメタクリル酸からなる群から選ばれる少なくとも1種0.5〜20質量%程度、メタクリル酸メチル5〜40質量%程度、好ましくはアクリル酸及びメタクリル酸からなる群から選ばれる少なくとも1種2.5〜5.0質量%程度、メタクリル酸メチル15〜25質量%程度である。
【0034】
また、該共重合体の製造方法において、重合開始剤としては、従来公知のものが使用でき、例えば、2,2'−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジハイドロクロライド、AIBN(アゾイソブチロニトリル)等のアゾ化合物;過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;t−ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物;過酸化水素−酒石酸、過酸化水素−酒石酸ナトリウム等のレドックス開始剤等が使用できる。
【0035】
重合開始剤の使用量は、重合性ビニルモノマーの合計量100質量部に対して、通常0.1〜5.0質量部程度、好ましくは0.5〜3.0質量部程度である。
【0036】
該共重合反応の反応温度は、ポリビニルアルコール及びその誘導体から選択される少なくとも1種の分子量、重合性ビニルモノマーの種類等に応じて適宜選択すればよいが、通常30〜80℃程度、好ましくは40〜60℃程度である。
【0037】
該共重合反応によって得られたポリビニルアルコール系共重合体は、そのまま又は濃度調製を行って本発明の水性液剤に使用しても良いし、乾燥後、必要に応じて粉砕してから本発明の水性液剤に使用しても良い。
【0038】
該ポリビニルアルコール系共重合体は、市販品を使用することもできる。市販品を使用する場合、例えば、POVACOAT(ポバコート:登録商標:大同化成工業製)等を使用することができる。
【0039】
本発明の水性液剤において、ポリビニルアルコール系共重合体の重量平均分子量は、通常1万〜50万程度、好ましくは3万5千〜30万程度である。
【0040】
該共重合体としては、例えば、ポリビニルアルコールに重合性ビニルモノマーがグラフト重合したものが挙げられる。該共重合体としては、好ましくは、ポリビニルアルコール系共重合体が、アクリル酸及びメタクリル酸からなる群から選ばれる少なくとも1種とメタクリル酸メチルがポリビニルアルコール及びその誘導体から選択される少なくとも1種にグラフト重合した重量平均分子量1万〜50万程度の共重合体が挙げられ、さらに好ましくはアクリル酸及びメタクリル酸からなる群から選ばれる少なくとも1種とメタクリル酸メチルがポリビニルアルコール及びその誘導体から選択される少なくとも1種にグラフト重合した重量平均分子量3万5千〜30万程度の共重合体が挙げられる。
【0041】
水性液剤
本発明の水性液剤は、前記ポリビニルアルコール及びその誘導体から選択される少なくとも1種と前記重合性ビニルモノマーとを重合して得られるポリビニルアルコール系共重合体を揮発性液体中に均一に溶解乃至分散させたものである。本発明の液剤は水性液剤であり、揮発性液体は少なくとも水を含むことが必要である。
【0042】
本発明の水性液剤は、ポリビニルアルコール系共重合体、揮発性液体及び必要に応じて添加される他の成分を混合することによって得られる。ポリビニルアルコール系共重合体、揮発性液体及び必要に応じて添加される他の成分を混合する順序は特に限定されない。また、ポリビニルアルコール系共重合体、揮発性液体及び必要に応じて添加される他の成分の混合方法としては、特に限定されないが、例えば、攪拌機等を使用して各成分が均一になるように攪拌すればよい。
【0043】
本発明の水性液剤では、水以外の揮発性液体として、例えば、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール等の親水性溶媒を含んでいてもよい。
【0044】
揮発性液体としてアルコールを含む場合、水とアルコールの使用割合は、水100質量部に対して、アルコールが通常0〜100質量部程度、好ましくは0〜50質量部程度である。
【0045】
また、本発明の水性液剤において、揮発性液体の使用量は、ポリビニルアルコール系共重合体100質量部に対して、通常100〜9900質量部程度、好ましくは200〜1900質量部程度である。
【0046】
本発明の水性液剤に他の成分を混合する場合、他の成分としては、例えば、酸化チタン、タルク等の隠蔽剤;アエロジル、ステアリン酸マグネシウム、カルナバワックス等の流動化剤;医薬品等のコーティング剤に一般的に使用されるセルロース誘導体、アクリル系高分子等が挙げられる。
【0047】
本発明の水性液剤が酸化チタン、タルク等の隠蔽剤を含む場合、発明の水性液剤は、液剤中に酸化チタンやタルクが分散した分散液となる。本発明の水性液剤は、酸化チタンやタルクが分散した分散液となっている場合にも、分散安定性に優れている。
【0048】
本発明の水性液剤が隠蔽剤を含む場合、隠蔽剤の使用量は、ポリビニルアルコール系共重合体100質量部に対して、通常0.1〜250質量部程度、好ましくは10〜100質量部程度である。
【0049】
水性液剤が流動化剤を含む場合、流動化剤の使用量は、ポリビニルアルコール系共重合体100質量部に対して、通常0.1〜50質量部程度、好ましくは0.5〜10質量部程度である。
【0050】
また、水性液剤に前記セルロース誘導体及び/又はアクリル系高分子を含む場合、セルロース誘導体及び/又はアクリル系高分子の使用量は、ポリビニルアルコール系共重合体100質量部に対して、通常0.1〜100質量部程度、好ましくは0.5〜50質量部程である。
【0051】
本発明の水性液剤は、医薬品用のコーティング剤(フィルムコーティング剤、顆粒コーティング剤等)、造粒バインダー剤等として好適に使用できる。
【0052】
本発明の水性液剤を、医薬品用のコーティング剤、造粒バインダー剤等として使用する場合、該コーティング剤、造粒バインダー剤等には前記隠蔽剤、流動化剤、医薬品等のコーティング剤に一般的に使用されるセルロース誘導体、アクリル系高分子等を含んでもよい。
【0053】
本発明の水性液剤は、医薬品等のコーティング剤に一般的に使用されるセルロース誘導体、アクリル系高分子等との相溶性に優れている。従って、本発明の水性液剤をコーティング剤に使用することにより、苦味のマスキング効果が期待できる。
【0054】
また、前記ポリビニルアルコール系共重合体を含む本発明の水性液剤は、菌の繁殖を抑制する性質(抗菌性)を有する。本発明の水性液剤が繁殖を抑制できる菌の種類としては、例えば、Escherichia coli等の大腸菌類、Pseudomonas aeruginosa等の緑膿菌類、Staphylococcus aureus等の黄色ブドウ球菌類、Candida albicans等の真菌類、Aspergillus niger等のカビ類等が挙げられる。
【0055】
本発明の水性液剤は、その優れた分散性、抗菌性を利用して、医薬、農薬、肥料、化粧料、香料、食品材料、飼料、殺菌剤、防ばい剤、防虫剤、殺虫剤、防錆剤、吸収剤、塗料などにも配合することもできる。
【発明の効果】
【0056】
本発明の水性液剤は、菌の繁殖を抑制する性質があり、各種添加剤の分散安定性に優れている。さらに、該液剤は、粘度が低くハンドリング性が良好である。
【0057】
また、本発明の該水性液剤により得られたPVA共重合体フィルムは、表面の平滑度が高く優れたフィルム特性を有する。さらに、該水性液剤を結合剤として造粒した打錠用顆粒は、製錠により優れた成形性を有し、杵への粉付着を著しく低減するので、作業性の向上と医薬品の品質を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0058】
以下、実施例、比較例及び試験例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0059】
以下の実施例及び比較例においては、下記の材料を用いた。
【0060】
材料
(i) POVACOAT Type FL:ポリビニルアルコール系共重合体(アクリル酸、メタクリル酸メチル及びポリビニルアルコールを重合した共重合体)の液剤(大同化成工業製)
(ii) HPMC(TC−5RW):ヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学工業製)
(iii) HPC-L:ヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達製)。
【0061】
実施例1:製造例
還流冷却管、滴下ロート、温度計、窒素導入管及び攪拌装置を取り付けたセパラブルフラスコにPVA(JP05、重合度500、けん化度88%、日本酢ビ・ポバール製)175.8質量部、イオン交換水582.3質量部を仕込み常温で分散させた後、80℃で完全溶解させた。次いでアクリル酸5.4質量部、メタクリル酸メチル37.3質量部を添加し、窒素置換後40℃まで昇温した後、ターシャリーブチルハイドロパーオキサイド0.85質量部、エリソルビン酸ナトリウム0.85質量部を添加し、6時間反応した。その後、25%アンモニア水を0.3質量部添加し、ポリビニルアルコール系共重合体液剤(重量平均分子量 約40,000)を得た。得られたポリビニルアルコール系共重合体液剤は、水100質量部に対してポリビニルアルコール系共重合体液剤38質量部含む。
【0062】
実施例2:酸化チタン分散液の調製
200mLのトールビーカーに実施例1で得られたポリビニルアルコール系共重合体液剤(水100質量部に対してポリビニルアルコール系共重合体液剤10質量部になるように水を加えて調製)140gを量り取り、酸化チタン(NA65;東邦チタニウム製)4.0gを添加し、これに攪拌機で300rpm、30分間攪拌して分散液を調製した。
【0063】
比較例1:HPMCを用いた酸化チタン分散液の調製
実施例1で得られたポリビニルアルコール系共重合体液剤140gの代わりに、水100質量部に対してHPMC10質量部になるように調製したHPMCの水溶液140gを使用したこと以外は実施例2と同様の操作を行い、分散液を調製した。
【0064】
試験例1:酸化チタン分散液のツブサイズ測定
ツブゲージ(東洋テスター工業株式会社)を用い、実施例2及び比較例1で調製した酸化チタン分散液のツブサイズ(ツブサイズ)をそれぞれ測定した。実施例2で調製した分散液のツブサイズは20μmであった。一方、比較例1で調製した分散液のツブサイズは40μmであった。この結果から、実施例2で調製した分散液の方が、比較例1で調製した分散液よりも分散性に優れていることが分かる。
【0065】
試験例2:キャスティング膜の明度測定
実施例2及び比較例1で調製した酸化チタン分散液を用い、それぞれガラス版上に厚さ100μmのキャスティング膜を調製し、室温下で乾燥後、色差計(GretagMacbech製、Spectro Eye)で各キャスティング膜の明度を測定した。実施例2で調製した分散液を用いて得たキャスティング膜の明度(L)は76.18であった。一方、比較例1で調製した分散液を用いて得たキャスティング膜の明度は66.48であった。この結果から、実施例2で得られた分散液を用いた方が、比較例1で得られた分散液を用いた場合よりも高い明度のキャスティング膜が得られることが分かる。
【0066】
試験例3:酸化チタン分散液の分散安定性
実施例2及び比較例1で調製した酸化チタン分散液を、それぞれ室温下72時間放置し、酸化チタンの沈降度合いを目視にて観察した。実施例2で調製した分散液は72時間放置しても酸化チタンの沈降が抑制されているのに対し、比較例1で調製した分散液は72時間放置すると酸化チタンがほとんど沈降した。この結果から、実施例2で調製した分散液の方が、比較例1で調製した分散液よりも酸化チタン分散液の分散安定性に優れていることが分かる。
【0067】
試験例4:保存効力試験
実施例1で得られたポリビニルアルコール系共重合体液剤を用い、日本薬局方の保存効力試験に準じた以下の試験を行った。
【0068】
試験菌株:
(i) Escherichia coli
(ii) Pseudomonas aeruginosa
(iii) Staphylococcus aureus
(iv) Candida albicans
(v) Aspergillus niger。
【0069】
試験方法:
(1)試験菌株浮遊液(接種菌液)の調製
試験菌株(i)、(ii)、(iii)はSCD寒天培地に、菌株(iv)、(v)はCP加サブローブドウ糖寒天培地にそれぞれ接種し、試験菌を培養した。試験菌株(i)〜(iii)については、30〜35℃で18〜24時間、(iv)については、20〜25℃で40〜48時間、(v)については20〜25℃で1週間、十分な胞子が形成されるまで培養を行った。
【0070】
培養された(i)〜(v)の試験菌株を、滅菌生理食塩水に浮遊させ、それぞれ約108個/mlの生菌を含む浮遊液を調製した。但し、試験菌株(v)は、ポリソルベート80を0.05%の割合で添加した滅菌生理食塩水に浮遊させた。以下、これらの試験菌株浮遊液を接種菌液ということがある。接種菌液を液剤に添加する直前に、調製された接種菌液中の菌数計測を行った。
【0071】
(2)接種菌液の添加
実施例1で得られた液剤50gを入れた容器5つそれぞれの中に接種菌液0.5mlを無菌的に注入し、均一混合を行った。接種菌液量は、液剤1g当たり105〜106個の生菌数になるようにそれぞれ接種混合した。また、(i)〜(v)の試験菌株対して、実施例1で得られた液剤50gのみを入れた容器5つをブランク(対照)とした。
【0072】
(3)生菌数の測定
上記(2)で接種菌液を添加した容器5つ及びそれぞれのブランクの容器5つを、遮光下20〜25℃で保存し、0、14、28日目に容器内から無菌的に混合液10g採取し、それぞれ生菌数(寒天平板混釈法)測定を行った。その結果、液剤菌の増殖は認められず、逆に菌の栄養分がなく菌が死滅する結果が得られた。結果を表1に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
実施例3:打錠用顆粒の調製
高速攪拌造粒機(バーチカルFM−VG01、パウレック製)に仕込んだイブプロフェン50g及び賦形剤(乳糖/コーンスターチ=7/3)47gの混合粉末に、実施例1で得られたポリビニルアルコール系共重合体液剤に水を加えて、水100質量部に対してポリビニルアルコール系共重合体液剤6質量部に調製したポリビニルアルコール系共重合体液剤30gを添加して8分間攪拌混合した。得られた造粒物を60℃で乾燥した後、スピードミル(パンチングφ2mm、岡田精工製)で整粒を行い、打錠用顆粒を調製した。
【0075】
比較例2:打錠用顆粒の調製
実施例3のポリビニルアルコール系共重合体液剤30gの代わりに、水100質量部に対してHPC−L6質量部に調製したHPC―Lの水溶液30gを使用した以外は、実施例3と同様の操作を行い、打錠用顆粒を調製した。
【0076】
試験例5:打錠試験
実施例3及び比較例2で調製した顆粒を用い、ロータリー式打錠機(杵、臼の表面:硬質クロムメッキ処理品、菊水製作所製)を用い、それぞれ打錠試験を行った。結果を図1及び図2に示す。実施例3で調製した顆粒を用いた場合、4時間連続打錠後の杵表面は、光沢を有しておりスティッキングの現象は全く認められなかった。一方、比較例2で調製した顆粒を用いた場合、打錠開始わずか5分後にスティッキングによる打錠不良が発生した。また、5分後の杵表面は粉末が付着し光沢は全く認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の水性液剤は、菌の繁殖を抑制する性質があり、各種添加剤の分散安定性に優れている。さらに、該液剤は、粘度が低くハンドリング性が良好である。
【0078】
また、本発明の該水性液剤により得られたPVA共重合体フィルムは、表面の平滑度が高く優れたフィルム特性を有する。さらに、該水性液剤をバインダー剤として造粒した打錠用顆粒は、製錠により優れた成形性を有し、杵への粉付着(スティッキングという)を著しく低減する。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】試験例5において実施例3の顆粒を用いた場合の4時間連続打錠後の杵表面写真
【図2】試験例5において比較例2の顆粒を用いた場合の打錠開始5分後の杵表面写真

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール及びその誘導体から選択される少なくとも1種と重合性ビニルモノマーとを重合して得られるポリビニルアルコール系共重合体を含む水性液剤。
【請求項2】
重合性ビニルモノマーがアクリル酸及びメタクリル酸からなる群から選ばれる少なくとも1種とメタクリル酸メチルを含むものである請求項1に記載の水性液剤。
【請求項3】
ポリビニルアルコール及びその誘導体から選択される少なくとも1種と重合性ビニルモノマーの合計量を100質量%として、アクリル酸及びメタクリル酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の使用量が0.5〜20質量%であり、メタクリル酸メチルの使用量が5〜40質量%である請求項2に記載の水性液剤。
【請求項4】
ポリビニルアルコール系共重合体が、アクリル酸及びメタクリル酸からなる群から選ばれる少なくとも1種とメタクリル酸メチルがポリビニルアルコール及びその誘導体から選択される少なくとも1種にグラフト重合した重量平均分子量1万〜50万の共重合体である請求項2又は3に記載の水性液剤。
【請求項5】
ポリビニルアルコール系共重合体100質量部に対して揮発性液体の含有量が100〜9900質量部である請求項1〜4のいずれかに記載の水性液剤。
【請求項6】
揮発性液体が水100質量部に対してアルコール0〜100質量部を含む請求項5に記載の水性液剤。
【請求項7】
ポリビニルアルコール系共重合体100質量部に対して隠蔽剤の含有量が0.1〜250質量部である請求項1〜6のいずれかに記載の水性液剤。
【請求項8】
ポリビニルアルコール系共重合体100質量部に対してセルロース誘導体及び/又はアクリル系高分子の含有量が0.1〜100質量部である請求項1〜7のいずれかに記載の水性液剤。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の水性液剤からなら医薬品用コーティング剤。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載の水性液剤からなる医薬用造粒バインダー剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−269874(P2009−269874A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−123111(P2008−123111)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(591195592)大同化成工業株式会社 (19)
【Fターム(参考)】