説明

水洗便器の床固定構造

【課題】スカート部を有する水洗便器を確実に床面に固定することができ、しかも、地震や長期の使用による繰り返し振動に耐えることのできる水洗便器の床固定構造を提供する。
【解決手段】便器側固定部材5は、軟質粘着材層7を介して、床面8に設置された床側固定部材9に固定ボルト10によって固定されている。便器側固定部材5と床側固定部材9とを接続するには、軟質粘着材a1を床側固定部材9上に載置する。これにより便器側固定部材5と床側固定部材9とは、軟質粘着材層7を介して粘着・固定されているため、床面8に対して、上下方向、平行方向の力がかかった場合でも、柔軟性を持って互いの接続を維持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水洗便器 の床固定構造に係り、特に下部のほぼ全周にスカート部を備えた水洗便器の床固定構造に関する。
【背景技術】
【0002】
水洗便器は、従来、図6に示す構造で床面に取り付けられている。即ち、水洗便器100のスカート部101に隠れる位置の床102面に、固定ボルト103aによって床面固定部材104を取り付け、この床面固定部材104に固定ボルト103bでスカート部101を繋ぐことで床面102に固定している。
【0003】
上記床面固定部材104のA矢視図を図7(a)に、床面固定部材104の側面図を同図(b)に示す。床面固定部材104は、2本の固定ボルト103a、103aによって床102面に固定され、また、固定ボルト103bによって水洗便器100のスカート部101と床面固定部材104を繋ぐことで、床面102に固定している。
【0004】
上記の構成による固定構造によると、固定ボルト103bが水洗便器100のスカート部101外面に露出し、固定ボルト103bの頭を隠すために樹脂性のキャップを通常かぶせる構造を取るが、陶器面に異材質の部材がセットされることとにより意匠性が損なわれ、またキャップの凹凸により清掃性が損なわれるという課題があった。
【0005】
そこで、特許文献1ではいくつかの固定構造が提案されている。即ち、便器側メンバと床側メンバをマグネットで固着する。スナップピンで嵌合させる。両面(粘着)テープ、または接着剤で固定する。平面ファスナで結合させる。或いは上記と併用して、厚み方向に柔軟に収縮可能な軟質合成樹脂等よりなるシートを介在させる。
【0006】
【特許文献1】特開2005−48584号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に挙げられた各固定構造では、取り付け時にはある程度の融通性はあるものの、床面取り付け後は便器に作用する地震や長期の使用による繰り返し振動を十分に吸収することができない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため本発明は、便器本体下部のほぼ全周にわたってスカート部を備えた水洗便器を床に固定する構造であって、前記スカート部内側に便器側固定部材が固着され、この便器側固定部材と相対する位置に床側固定部材が設けられ、これら便器側固定部材と床側固定部材とが、両部材間に狭まれて変形するとともにその変形状態を維持する軟質粘着材からなる軟質粘着材層によって固定された構成とした。
斯かる構成にすることで、現場における水洗便器の据え付けが簡単になり、且つ据え付け後にずれるなどの不具合の発生もない。
【0009】
本発明にあっては、前記便器側固定部材及び床側固定部材の少なくとも一方の軟質粘着材層との接触面に凹凸形状を有する構成とすることが好ましい。このようにすることで更に接着強度が増す。
【0010】
また、前記便器側固定部材及び床側固定部材の少なくとも一方は、前記軟質粘着材層に埋没される突起片部を備えた構成としても、更に固定強度が向上する。
【0011】
前記軟質粘着材層としては、例えばポリプロピレンコンパウンド、常温硬化性の接着剤などが好適である。更に、前記便器側固定部材及び前記床側固定部材は、水洗便器の湾曲形状に合わせた弓形平面を有する構成とすれば、接着面積が大きくなって固定強度が向上する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る水洗便器の床固定構造によれば、便器側固定部材と床側固定部材とが、軟質粘着材層を介して粘着・固定されているため、床面に対して、上下方向、平行方向の力がかかった場合でも、柔軟性を持って互いの接続を維持することができる。したがって、水洗便器本体に負荷がかかる心配がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明の好適な実施例を添付図面に基づいて説明する。図1は、本発明に係る水洗便器の床固定構造の一例を示す側面断面図、図2(a)は図1の床固定構造設置前の部分断面図、(b)は図1の床固定構造設置後の部分断面図である。
【0014】
水洗便器1は、その外周がスカート部2によって覆われている。スカート部2の内側には、スカート支持壁3を設けてボウル面4側から与えられる負荷に耐える構造としている。
【0015】
スカート支持壁3には、本発明に係る便器側固定部材5が、2本の固定ボルト6、6によって固定されている。2本の固定ボルト6は裏側から締め付けを行う必要のない例えばターンナットやウエルナットで固定される。
【0016】
便器側固定部材5は、軟質粘着材層7を介して、床面8に設置された床側固定部材9に固定ボルト10によって固定されている。便器側固定部材5と床側固定部材9とを接続するには、図2(a)に示すように、軟質粘着材a1を床側固定部材9上に載置する。このとき、軟質粘着材a1が押し潰された時に位置ズレを生じないよう、また軟質粘着剤a1が床8にはみ出さないないように、床側固定部材9上部には囲み9aを設けておくことが好ましい。
【0017】
本発明で使用する軟質粘着材a1は、変形して便器側固定部材5と床側固定部材9との間隙を埋め、粘着固定し、その変形した形体を長期間保持できるものであればどのようなものでも使用が可能である。
【0018】
このような軟質粘着材a1の例としては、プラスチック粘土、プラスチックコンパウンド等を挙げることができるが、中でもプラスチックコンパウンド、特にポリプロピレンコンパウンドが好ましい。ポリプロピレンコンパウンドは、合成ゴム、無機充填材、その他の材料をポリプロピレン樹脂に練り込んだものであり市販されている。ポリプロピレンコンパウンドを軟質粘着材a1として使用すれば、圧力によって自由に変形し、しかも、収縮や劣化することなく、変形後の形体を保持することが容易である。
【0019】
図2(b)は、水洗便器1を床面8に向けて降下させ、便器側固定部材5と床側固定部材9とを接続した床固定構造を示し、便器側固定部材5と床側固定部材9とは、軟質粘着材a1によって形成された軟質粘着材層7を介して粘着・固定されているため、床面8に対して、上下方向、平行方向の力がかかった場合でも、柔軟性を持って互いの接続を維持することができる。したがって、水洗便器1本体に負荷がかかる心配がない。
【0020】
図3は、本発明の水洗便器の床固定構造の他の一例を示す側面断面図である。同図(a)は、床固定する前の状態を示す部分断面図である。この例では、床側固定部材9の上面9bを凹凸形状としている。上面9bを凹凸形状とすることにより、上面9bに載せられる軟質粘着材a1が押しつぶされた際に、上面9bと軟質粘着材a1との接触面積が広がって密着性が高まり、特に床面8に対して平行方向のズレを抑制することができる利点がある。
【0021】
同図(b)に、上面9bの凹凸形状の拡大図を示す。凹凸形状の種類については特に限定はなく、例えば突起状群、格子状、その他の模様形状群を挙げることができる。
【0022】
同図(c)は、床固定した後の部分断面図である。この例では、床側固定部材9の上面9bに凹凸形状を施したが、反対に、便器側固定部材5の粘着材層9との接触面に、同様の凹凸形状を刻んでもよい。さらに、上記接触面と上面9bとの両方への凹凸形成が最も推奨される。
【0023】
尚、本図に示す固定ボルト10の位置は、図2で示したものと異なって床側固定部材9の端部近辺に設けられているが、このような、固定ボルト10と床側固定部材9との相対的な位置に限定はなく、取り付け場所の構造や取り付ける水洗便器1自体の構造を考慮して適宜選択することができる。
【0024】
図4は、本発明の水洗便器の床固定構造の他の例を示す側面断面図である。同図(a)は、床固定する前の状態を示す部分断面図である。この例では、床側固定部材9の囲み9aによって形成される空間を固定材料収容部として使用することを特徴とする。固定材料収容部には、常温硬化性の接着剤a2または粘着剤a2を収容する。このような接着剤や粘着剤の例としては、一液硬化型、二液硬化型のポリウレタン系、エポキシ系、合成ゴム系接着剤、粘着剤を挙げることができる。常温硬化タイプとしては、湿気硬化、触媒硬化、エネルギー線硬化等、軟質の軟質粘着材層7を形成することができるものであれば特に制限はなく、水洗便器1の設置場所を考慮して適宜選択することができる。
【0025】
本例の、もう一つの特徴は、便器側固定部材5の下部に突起片部5aを突設することである。同図(b)の、床固定後の部分断面図に示すように、突起片部5aは、接着剤a2または粘着剤a2によって形成される粘着剤層7に埋没させて使用する。突起片部5aを埋没させた後に接着剤a2または粘着剤a2を硬化させれば、便器側固定部材5と床側固定部材9との密着性が高まるため好ましい。
【0026】
尚、図4においては、接着剤a2または粘着剤a2によって形成された粘着剤層7に突起片部5aを埋没させた例を示したが、突起片部5aは、上記ポリプロピレンコンパウンド等の軟質粘着材で形成される粘着剤層7に埋設することも、突起片部5aの先端を尖らせることによって可能である。
【0027】
図5は、便器側固定部材と床側固定部材の形状の一例を示す平面図である。従来例は、図7(a)に示したように床面固定部材104が、2本の固定ボルト103a、103aによって床面に固定されていた。これに対して、本例では、便器側固定部材5と床側固定部材9の両者を、水洗便器1のスカート部2湾曲形状に合わせた弓形平面としている。このような弓形平面とすることにより、便器側固定部材5と床側固定部材9相互の接触面積を広く確保することができるため、本発明の床固定構造の安定性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る水洗便器の床固定構造の一例を示す側面断面図
【図2】(a)は図1の床固定構造設置前の部分断面図、(b)は図1の床固定構造の部分断面図
【図3】(a)は床固定構造設置前の部分断面図、(b)は床固定構造の拡大部分断面図、(c)は床固定構造設置後の部分断面図
【図4】本発明に係る水洗便器の床固定構造の他の例を示す側面断面図であって、(a)は床固定構造設置前の部分断面図、(b)は床固定構造の部分断面図
【図5】便器側固定部材と床側固定部材の形状の一例を示す平面図
【図6】従来の水洗便器の床固定構造の一例を示す側面断面図
【図7】(a)は図6のA矢視図、(b)は(a)の側面図
【符号の説明】
【0029】
1…水洗便器、2…スカート部、3…スカート支持壁、4…ボウル面、5…便器側固定部材、5a…突起片部、6…固定ボルト、7…軟質粘着材層、8…床面、9…床側固定部材、9a…囲み、9b…上面、10…固定ボルト、a1…軟質粘着材、a2…接着剤または粘着剤、100…水洗便器、101…スカート部、102…床、103a、103b…固定ボルト、104…床面固定部材。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
便器本体下部のほぼ全周にわたってスカート部を備えた水洗便器を床に固定する構造であって、前記スカート部内側に便器側固定部材が固着され、この便器側固定部材と相対する位置に床側固定部材が設けられ、これら便器側固定部材と床側固定部材とが、両部材間に狭まれて変形するとともにその変形状態を維持する軟質粘着材からなる軟質粘着材層によって固定されていることを特徴とする水洗便器の床固定構造。
【請求項2】
請求項1に記載の水洗便器の床固定構造において、前記便器側固定部材及び床側固定部材の少なくとも一方の前記軟質粘着材層との接触面は、凹凸形状を有することを特徴とする水洗便器の床固定構造。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の水洗便器の床固定構造において、前記便器側固定部材及び床側固定部材の少なくとも一方は、前記軟質粘着材層に埋没される突起片部を備えていることを特徴とする水洗便器の床固定構造。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載の水洗便器の床固定構造において、前記軟質粘着材層はポリプロピレンコンパウンドからなる軟質粘着材で形成されていることを特徴とする水洗便器の床固定構造。
【請求項5】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載の水洗便器の床固定構造において、前記軟質粘着材層は常温硬化性の接着剤からなる軟質粘着材で形成されていることを特徴とする水洗便器の床固定構造。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れかに記載の水洗便器の床固定構造において、前記便器側固定部材及び前記床側固定部材は、水洗便器の湾曲形状に合わせた弓形平面を有することを特徴とする水洗便器の床固定構造。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5】
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【図6】
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【図7a】
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【図7b】
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【公開番号】特開2007−56483(P2007−56483A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−240760(P2005−240760)
【出願日】平成17年8月23日(2005.8.23)
【出願人】(000010087)東陶機器株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】