説明

水洗便器

【課題】リム部のオーバーハングをできるだけ少なくできる水洗便器を提供する。
【解決手段】排水路に連通する溜水部が形成されるボウル部と、前記ボウル部の上に設けられたリム面と、第1の導水路を介して供給された洗浄水を前記ボウル部に向けて吐水するとともに、前記供給された洗浄水を前記リム面の略接線方向に吐水し前記リム面と前記ボウル部との境界付近を前方に流れる旋回流を形成する第1のスリット開口と、を備え、前記第1のスリット開口から吐水される水流の流れ方向に対して略垂直な断面のスリット開口形状は、水平方向に偏平な形状とされたことを特徴とする水洗便器が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水洗便器に関し、具体的には、洗い落とし式、サイホン式、サイホンゼット式などの水洗便器に関する。
【背景技術】
【0002】
水洗便器のリム部に吐水口を設け、ここらから洗浄水を吐水させて旋回流によりボウルを洗浄する水洗便器が開示されている(例えば、特許文献1、2)。このような洗浄方式によれば、便器のリム内側に汚れなどが付着・残留しにくく、清掃性も良好であり、また少ない水量で便器のボウル全面を効率的に洗浄できる。
【特許文献1】特開2001−271407号公報
【特許文献2】特許第3381261号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このような水洗便器では、旋回流を形成する洗浄水が便器外に飛び出すことを防止するために、リム部にオーバーハングが設けられている。このようなリム部のオーバーハングをできるだけ少なくすることにより、清掃性がさらに良好となり、汚れなどの付着もより確実に防止できる。
【0004】
本発明は、かかる課題の認識に基づいてなされたものであり、リム部のオーバーハングをできるだけ少なくできる水洗便器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、排水路に連通する溜水部が形成されるボウル部と、前記ボウル部の上に設けられたリム面と、第1の導水路を介して供給された洗浄水を前記ボウル部に向けて吐水するとともに、前記供給された洗浄水を前記リム面の略接線方向に吐水し前記リム面と前記ボウル部との境界付近を前方に流れる旋回流を形成する第1のスリット開口と、を備え、前記第1のスリット開口から吐水される水流の流れ方向に対して略垂直な断面のスリット開口形状は、水平方向に偏平な形状とされたことを特徴とする水洗便器が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、リム部のオーバーハングをできるだけ少なくできる水洗便器が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
図1は、本発明の実施の形態にかかる水洗便器の平面図である。
また、図2は、図1のA−A線断面図である。
また、図3は、図1のB−B線断面図である。
【0008】
本実施形態の水洗便器10の上面12の前方には、ボウル部20とその上に設けられたリム部30が開口し、上面12の後方には、洗浄水を導入するための給水口40が開口している。給水口40の上に、例えば図示しないロータンクを付設し、このロータンクから給水口40に洗浄水を導入することができる。あるいは、水道からフラッシュバルブや電磁開閉弁などを介して給水口40に洗浄水を導入してもよい。
【0009】
ボウル部20は、溜水水位22よりも下方にあり、洗浄水を溜める溜水面24と、溜水水位22よりも上方において露出した露出面26と、を有する。図3に表したように、溜水面24の一部は下方に深く延在し、その後方には、排水路に連通する排水口60が開口している。通常の状態において、溜水水位22まで洗浄水が溜められた溜水部が形成されている。
【0010】
一方、リム部30は、ボウル部20と上面12との間において、水洗便器の開口端を周回するリム面32を有する。そして、リム部30の後方の中央付近には、中央スリット開口54が設けられ、その左右には、水平方向に偏平なスリット開口56、56がそれぞれ開口している。中央スリット開口54の後方には、分配部50が設けられている。
【0011】
本実施形態においては、左右の偏平なスリット開口56、56から、洗浄水がそれぞれ吐水される。スリット開口56、56から前方に向けて吐水された洗浄水は、左右にやや拡がりながらボウル部20の露出面26を前方に向けて流下し、ボウル部20を洗浄する。また、スリット開口56、56からリム部30のリム面32の略接線方向に向けて吐水された洗浄水は、リム面32の下端を旋回する旋回流を形成する。この旋回流は、リム面32と露出面26との境界28に沿って前方に向けて流れる。
【0012】
そして、本実施形態においては、これらスリット開口56、56から吐水される水流の流れ方向に対して略垂直な断面のスリット開口形状は、水平方向に偏平な形状とされている。こうすることにより、旋回流の上下方向の拡がりを抑え、スリット開口56、56から前方の左右方向へ広範囲に洗浄水を吐水することができる。そして、リム面32と露出面26との境界28に沿って旋回する旋回流がリム面32を這い上がって便器外に飛び出すことを抑制でき、露出面26に洗浄水を行き渡らせることができる。その結果として、旋回流の飛び出しを抑制するためのリム面32のオーバーハングを少なくすることができる。図2及び図3に表した具体例の場合、リム面32はほぼ垂直に立設され、オーバーハングは殆ど形成されていない。つまり、リム面のオーバーハング量を、境界28の下側の露出面26の棚部25(図2参照)の突出量よりも少なくすることができる。すなわち、スリット開口から左右方向のリム面32に吐水された洗浄水は、リム面32を上昇する流れではなく、リム面32の下端に沿って前方へ向かう旋回流を形成する。
このようにリム面のオーバーハング量を少なくすることにより、清掃性がさらに良好となり、汚れなどの付着もより確実に防止できる。
以下、本実施形態の水洗便器における洗浄水の導水路の構造と、洗浄水の流れについて説明する。
図4は、本実施形態の水洗便器における導水路の構成を例示する一部断面模式図である。
また、図5は、本実施形態の水洗便器における洗浄水の流れを説明するための模式図である。
【0013】
また、図6は、スリット開口を正面方向から眺めた模式図である。
【0014】
図4に表したように、水洗便器の上面12の後方に設けられた給水口40は、水洗便器の内部に形成された導水路42に連通している。導水路42は水洗便器10の前方に向けて延設され、隔壁44により上部導水路46と下部導水路48とに分岐している。すなわち、給水口40から矢印Aで表したように導入された洗浄水は、隔壁44により矢印Bで表したように上下に分岐して、上部導水路46と下部導水路48にそれぞれ供給される。
【0015】
上部導水路46は隔壁44の上側を水洗便器の前方に向けて延在し、図5に表したように、前方に向けてその流路幅(図5において左右方向の幅)が拡開した拡開部53を有する。また、拡開部53の上流側の端部の近傍において、上部導水路46の中央付近に、分配部50が設けられている。分配部50は、上部導水路46を流れる洗浄水を左右に分配し、それぞれ拡開部53に導く。図5において矢印B1で表したように分配部50により分配された洗浄水は、拡開部53の左右の拡開した流路に沿って矢印B2で表したようにそれぞれ左右方向に流れの方向が変化し、矢印F1、矢印Cで表したように、前方に吐水される。矢印F1で表したようにスリット開口56から前方に向けて吐水された洗浄水は、左右にやや拡がりながらスリット開口56の下方から前方にかけてボウル部20を洗浄する。一方、矢印Cで表したように、左右のスリット開口56、56からリム面32の略接線方向に沿ってそれぞれ吐水された洗浄水は、図5に矢印C1で表したように、リム面32とボウル部20との境界28に沿って前方に進む旋回流をそれぞれ形成し、リム面32の下端付近を洗浄することができる。この旋回流は、リム面32とボウル部20との境界28に沿って旋回し、リム面32の前方の端部付近で合流し、矢印C2で表したように、ボウル部20に流下することにより、ボウル部20の前方の露出面26の表面を洗浄し、排水口60へ向けて主流を形成して、汚物を溜水とともに押し込む作用を有する。また、矢印C1で表した旋回流の一部は、矢印F2(図5参照)で表したようにボウル部20に順次流下し、ボウル部20の露出面26の表面を順次洗浄する。
【0016】
一方、隔壁44の下方に形成された下部導水路48は、図1及び図5に表したように溜水面24の裏側を延在し、排水路の排水口60に対向して設けられた吐水開口62に連通している。すなわち、下部導水路48を流れた洗浄水は、図5に矢印Gで表したように、吐水開口62から排水路の排水口60に向けて吐水される。この吐水流は、いわゆる「ゼット」として作用し、排泄物を含んだ洗浄水を、対向する排水口60から排水路に向けて押し込む役割を有する。
【0017】
一方、上部導水路46に設けられた分配部50の下流側には、連通口52が設けられている。連通口52は、図4に表したように、上部導水路46と下部導水路48とを連通している。この連通口52は、下部導水路48に洗浄水が流れ込む際に、いわゆる「空気抜き」の開口として作用する。すなわち、下部導水路48の下流側は吐水開口62に連通し、溜水の中に開口している。従って、下部導水路48に洗浄水を円滑に導入するためには、導水路中に残留する空気を速やかに排出する必要がある。これに対して、本実施形態によれば、連通口52を設けることにより、下部導水路48に残留する空気を速やか排出し、図4に矢印Dで表したように、洗浄水を下部導水路48に円滑に導入することができる。なお、連通口52から排出される空気は、比較的広い流路となっている拡開部53を経由して、スリット開口に排出される。このため、連通口52から排出される圧縮された空気は、上面12の裏側に当たり、拡開部53を経由する際に、その勢いが抑制されてスリット開口から開放されるため、スリット開口からの水の飛び出しを抑制することができる。
【0018】
またさらに、このようにして洗浄水が円滑に導入され、下部導水路48が満水状態になると、その水の一部が下部導水路48から連通口52を介して上部導水路46に溢れ出す。このようにして溢れ出した洗浄水は、中央スリット開口54から下方に流下し、ボウル部20の後方の露出面26の表面を洗浄する。この時、中央スリット開口54からは、図4〜図6に矢印Eで表したように、その下方のボウル部20に向けて洗浄水が吐水される。吐水された洗浄水は、左右にやや拡がりながら、その下方に延在する露出面26の表面を流下することによりボウル部20を洗浄し、溜水表面に浮遊している汚物等を溜水内に押し込み、排水口60へ誘導する作用を有する。
【0019】
一方、左右のスリット開口56、56のうちの中央スリット開口54に近い部分から吐水された洗浄水は、矢印F1で表したようにやや斜め下方に流れ、ボウル部20の後方を洗浄する。この時、中央スリット開口54から矢印Eの如く吐水された洗浄水の流れと、左右のスリット開口56、56から矢印F1の如く吐水された洗浄水の流れと、によりボウル部20の後部の全体をカバーしてむらなく洗浄することができる。
【0020】
このようにして左右のスリット開口56、56及び中央スリット開口54から吐水された洗浄水によりリム面32とボウル部20の露出面26がむらなく洗浄され、その水はボウル部20の下方に流れ込んでボウル部20の水位が上昇する。またこれと同時に、吐水開口62から吐水された洗浄水により、排泄物を含んだ水は、排水路の排水口60に押し込まれる。これらの流れにより、排泄物を含んだ洗浄水は、排水路の上昇水路64(図4参照)を満水状態にし、さらに下降水路66に急速に流れ出すことによりサイホン現象を引き起こして、一気に排出される。
【0021】
洗浄水がサイホン現象により排水された後は、左右のスリット開口56、56や、吐水開口62から吐水された洗浄水によりボウル部20の水位が再び上昇し、溜水水位22まで上昇する。
【0022】
以上説明したように、本実施形態によれば、左右のスリット開口56、56から前方に向けて吐水される流れF1と、中央スリット開口54から流下する流れEと、ボウル部20の後方から前方に亘る一部までが洗浄され、また、スリット開口56、56から吐水される旋回流C、C1、C2により、リム面32の下端を洗浄し、また、これら旋回流の一部が流下することにより形成される流れF2によりボウル部20の前方側がむらなく洗浄される。すなわち、左右のスリット開口56、56から吐水される流れF1、Cと、中央スリット開口54から流下する流れEと、によりボウル部20の全面をむらなく洗浄することができる。
【0023】
本発明者の実験によれば、上部導水路46と下部導水路48に供給する水量の合計量を4.3リッター程度にまで低下させても、ボウル部20とリム部30のほぼ全面にむらなく洗浄水を行き渡らして、水洗便器を確実に洗浄することができる。また、上部導水路46に供給する洗浄水の量V1と下部導水路48に供給する洗浄水の量V2の割合は、例えば、V1:V2=3:7〜1:4の範囲内とすることができる。
【0024】
そして、本実施形態においては、左右のスリット開口56、56から吐水される洗浄水の吐水流の断面形状を水平方向に偏平な形状にすることで、旋回流C1が水洗便器の外に飛び出すことを効果的に抑制できる。
図7は、上部導水路の一部拡大平面図である。
また、図8は、図7のC−C線断面図である。
【0025】
上部導水路46の拡開部53は、矢印B2で表したように左右に流れの方向が分岐してスリット開口56、56からそれぞれ吐水する流路を形成している。この流路の流れ方向に対して略垂直な断面のスリット開口形状は、水平方向に偏平な形状とされている。例えば、分配部50の側壁に対して略平行な水流がそれぞれ形成されると仮定した場合、矢印B2で表される水流の幅W(図7参照)と高さH(図8参照)との比率は、W:H=2:1以上である。このように偏平な水流をスリット開口56、56からそれぞれ吐水させることにより、旋回流C1がリム面32を上昇し、便器の上面12を越えて飛び出すことを効果的に抑制できる。つまり、偏平な水流を吐水させることにより、上下方向の拡がりを抑制しつつ、所定の流量の旋回流を形成することができる。旋回流C1の上下方向、特に上方の拡がりを抑制することにより、リム面32のオーバーハングを少なくできる。
また、矢印B2で表される水流の流路の断面やスリット開口56、56の上下の端辺が直線に近いほど、吐水された旋回流の上下方向の拡がりが抑制できる傾向がみられた。
また、スリット開口のリム面側の開口幅を中央の開口幅よりも漸次小さくし、リム面側の吐水量を少なくすることで、リム面側での洗浄水の上下方向の拡がりをより抑制できる。
【0026】
図9は、図3の一部拡大図であり、リム面32の近傍の断面図である。
図9に表したように、本実施形態においては、リム面32のオーバーハングが非常に少なく、リム面32はほぼ垂直に近い面とされている。これは、スリット開口56、56から吐水される吐水流の流れ方向に対して略垂直な方向にみた断面を偏平な形状とすることにより、旋回流C1の上方への拡がりを効果的に抑止しているからである。すなわち、旋回流C1の上方への拡がりが大きい場合には、便器外への飛び出しを防ぐために、リム面32のオーバーハングを大きくする必要がある。つまり、リム面32の上部をボウルに向けて傾斜させる必要がある。
図10は、比較例に係る水洗便器の一部を表す模式断面図である。
すなわち、図10は、旋回流を形成する吐水口156の開口近傍の断面構造を表す。本比較例においては、吐水口156が殆ど偏平とされていない。このため、吐水口156から吐水された洗浄水が上下方向に拡がりやすい。このため、本比較例においては、旋回流の上下方向の拡がりを抑えるために、旋回流の流路となるリム面32の下方に棚部125を設けるとともに、リム面32の上方にも大きく突出したオーバーハング32Pを設けている。つまり、旋回流の流路の上方にはオーバーハング32Pが形成され、下方には棚部125が形成されている。そして、リム面32の底面に対して、棚部125とオーバーハング32Pの突出量P1は同程度とされている。
【0027】
これに対して、本実施形態によれば、旋回流C1の上方への拡がりを抑制することにより、リム面32のオーバーハングを可及的に少なくできる。すなわち、図1〜図6などに関して前述したように、リム面32のオーバーハングを少なくすることができ、その突出量は、棚部25の突出量よりも顕著に小さくすることが可能となる。その結果として、清掃性がさらに向上し、汚れなどの付着もさらに抑制することができる。
【0028】
本実施形態の場合、図9に表したように、リム面32は略垂直な面とされ、その下に連続するボウル部20の露出面26の上端が傾斜することにより、旋回流C1を下から支えて前方に向かわせる棚部25として作用する。本実施形態によれば、スリット開口56、56から吐水された旋回流は、便器の前方端まで到達すればよく、それ以上周回する必要がないので、棚部25の突出を少なくすることができる。例えば、棚部25の上端における傾斜角度θを概ね45度程度まで小さくすることも可能となる。つまり、棚部25における凹凸や段差をへらし、ボウル面をより滑らかで連続的な曲面により形成することができる。ボウル面の凹凸や段差が減ると、汚れの付着や残留をより効果的に抑制でき、また例えば雑巾などでサッとむらなく拭き取ることも容易となり、清掃性もさらに向上させることができる。
【0029】
図11は、図7のD−D線断面図である。
中央スリット開口54の背後には連通口52が設けられ、下部導水路48から連通口52を介して上部導水路46に溢れでた洗浄水や、分配部50により左右に分配された洗浄水の一部は、中央スリット開口54から吐水される。
そして、中央スリット開口54の開口部において、上部導水路46の上方には、下方に向けて突出した突出部55(図4も参照)が設けられている。つまり、中央スリット開口54が吐水される洗浄水は、突出部55により、その向きが下方に向けて修正される。ここで仮に、中央スリット開口54から吐水される洗浄水が矢印Yで表したように、前方に向けて勢いよく吐水されると、中央スリット開口54の直下のボウル部20の露出面26が洗浄されないこともある。これに対して、本実施形態によれば、中央スリット開口54から吐水される洗浄水の方向を突出部55により下方に向けることによって、矢印Eで表したように直下のボウル部20の露出面26を流下させ、その表面をむらなく洗浄することができ、溜水表面に浮遊している汚物等を溜水内に押し込み排水口60へ誘導する作用により洗浄を効果的に実行できる。
【0030】
以下、本発明者が実施した実験の結果について説明する。
図12は、本発明者が試作した水洗便器におけるスリット開口の寸法を例示する模式図である。ここでは、左右のスリット開口56、56の端部までの幅L1を185ミリメータとし、中央スリット開口54の幅L2を90ミリメータとした。また、左右のスリット開口56の高さH1は7ミリメータまたは6ミリメータとし、中央スリット開口54の高さH2は6ミリメータまたは5ミリメータとした。
【0031】
洗浄水は、ロータンクから給水口40に供給し、その合計水量は4.3リッターとし、最大の瞬間流量は毎分210リッターとした。なお、上部導水路46に供給する水量は1.2リッターとし、下部導水路48に供給する水量は3.1リッターとした。
【0032】
図13は、評価の内容を説明するための模式図である。ここで、図13(a)〜(c)は、図1、図3、図2にそれぞれ対応する。
図13(a)〜(c)に表したa点及びb点においては、リム面32を旋回する旋回流がどのくらい上方に拡がったかを測定した。すなわち、リム面32と棚部25との境界28から旋回流C1の上端までの距離を測定した。なお、試作した水洗便器においては、境界28から上面12までの距離は、a点において45ミリメータ、b点において55ミリメータである。また、リム面32は、ほぼ垂直面すなわち鉛直方向に対して略平行な面とした。また、境界28の直下の棚部25の傾斜角度は、図9に関して前述したように、ほぼ45度とした。
一方、図13(a)に表したc点においては、旋回流が到達し、その直下のボウル部20の露出面26に行き渡ったか否かを評価した。
【0033】
表1は、リム面32を流れる旋回流の瞬間流量を変えて実験した結果を表す。ここでは、a点とb点における境界28から旋回流C1の上端までの距離(ミリメータ)を表した。また、c点においては、その直下のボウル部20の露出面26に洗浄水が行き渡った場合を「○」とした。

【表1】



ここで、スリット開口56、56の高さH1は7ミリメータとし、中央スリット開口54の高さH2は6ミリメータとした。
【0034】
表1の結果から、例えば、リム面32を流れる旋回流の瞬間流量を毎分100リッター以上とした場合でも、境界28から旋回流の上端までの距離はa点で6.0ミリメータ、b点で5.0ミリメータであり、旋回流の上方への拡がりは十分に抑制されていることが分かる。そして、c点において、旋回流が到達し、その直下のボウル部20の露出面26をむらなく洗浄できることが分かる。
【0035】
従って、試作した水洗便器においては、境界28から上面12までの距離は、a点において45ミリメータ、b点において55ミリメータとしたが、これらの距離をはるかに短くしてもよいことが分かる。例えば、境界28から上面12までの距離を、a点及びb点において、例えば10ミリメータ程度とすれば、旋回流の飛び出しを抑制しつつ、リム面32のほぼ全面を洗浄することができる。
【0036】
次に、表2は、スリット開口の高さH1、H2をそれぞれ6ミリメータ、5ミリメータとした場合の結果を表す。ここでは、a点とb点における境界28から旋回流C1の上端までの距離(ミリメータ)を表した。また、c点においては、その直下のボウル部20の露出面26に洗浄水が行き渡った場合を「○」とした。

【表2】


表2から、スリット開口の高さH1、H2を低くすることにより、リム面32を流れる旋回流の上方への拡がりをより効果的に抑制できることが分かる。また同時に、c点における洗浄効果も高いレベルに維持することができる。
【0037】
表2の結果から、開口の高さH1、H2を低くした場合には、境界28から上面12までの距離を、a点及びb点において、例えば5ミリメータ程度としても、旋回流の飛び出しを抑制しつつ、リム面32のほぼ全面をむらなく洗浄することができることが分かる。
【0038】
図14〜図16は、本実施形態の水洗便器の変型例を表す部分断面図である。すなわち、これらの図は、図1のD−D線断面図に対応する。
【0039】
本実施形態においては、左右のスリット開口56から吐水される洗浄水の水流の断面形状を偏平とすることにより、境界28に沿って流れる旋回流の上方向の拡がりを抑制できる。しかし、このようにして上方向の拡がりが抑制された旋回流が左右から到達して水洗便器10の前方の端部のリム面32において合流する時、水勢が相乗されることにより水の一部が便器外に飛び出すこともあり得る。そこでこのような場合には、水洗便器の前方において、リム面32にオーバーハングを設けてもよい。
【0040】
この場合、図14に表したように、リム面32の上下方向の全体にわたって下方に傾斜させたオーバーハングを設けてもよい。または、図15に表したように、リム面32の上方のみに突出したオーバーハング32Pを設けてもよい。このようにすれば、水洗便器の左右のリム面32はほぼ垂直面としつつ、前方のみに必要に応じてオーバーハングを設けて、旋回流の飛び出しを確実に抑制しつつ、清掃性を可及的に良好にでき汚れなども可及的に防ぐことができる。
なお、水洗便器の左右のリム面32に対しても、図14あるいは図15に例示したようなオーバーハングを適宜設けてもよいことは言うまでもない。このような場合でも、本実施形態によれば、左右のスリット開口56から吐水される洗浄水の水流の断面形状を偏平とすることにより、リム面32を流れる旋回流の上方向の拡がりを抑制できるので、オーバーハングの量を可及的に少なくすることができる。
【0041】
さらに、図16に表したように、リム面32を上下方向の全体にわたって外側に傾斜するようにしてもよい。このようにすることで、リム面32及びボウル部20の表面の全体を上方から使用者が目視でき、より清掃性に優れたものとなる。
【0042】
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。前述の実施の形態に関して、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、水洗便器の形状やサイズ、構造について、例示したものに限定されるわけではなく、適宜変更することができる。水洗便器の材料についても、陶器により形成することもできるが、これ以外にも、例えばアクリルなどの樹脂やその他、各種の有機材料やその表面に各種の被覆を施したものも用いることができる。
また、前述した各具体例が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施の形態にかかる水洗便器の平面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】図1のB−B線断面図である。
【図4】本実施形態の水洗便器における導水路の構成を例示する一部断面模式図である。
【図5】本実施形態の水洗便器における洗浄水の流れを説明するための模式図である。
【図6】スリット開口を正面方向から眺めた模式図である。
【図7】上部導水路の一部拡大平面図である。
【図8】図7のC−C線断面図である。
【図9】図3の一部拡大図であり、リム面32の近傍を断面図である。
【図10】比較例に係る水洗便器の一部を表す模式断面図である。
【図11】図7のD−D線断面図である。
【図12】本発明者が試作した水洗便器におけるスリット開口の寸法を例示する模式図である。
【図13】評価の内容を説明するための模式図であり、(a)〜(c)は、図1、図3、図2にそれぞれ対応する。
【図14】本実施形態の水洗便器の変型例を表す部分断面図であり、図1のD−D線断面図に対応する。
【図15】本実施形態の水洗便器の変型例を表す部分断面図であり、図1のD−D線断面図に対応する。
【図16】本実施形態の水洗便器の変型例を表す部分断面図であり、図1のD−D線断面図に対応する。
【符号の説明】
【0044】
10 水洗便器、 12 上面、 20 ボウル部、 22 溜水水位、 24 溜水面、 25 棚部、 26 露出面、 28 境界、 30 リム部、 32 リム面、 32P オーバーハング、 40 給水口、 42 導水路、 44 隔壁、 46 上部導水路、 48 下部導水路、 50 分配部、 52 連通口、 53 拡開部、 54 中央スリット開口、 55 突出部、 56 スリット開口、 60 排水口、 62 吐水開口、 64 上昇水路、 66 下降水路、C1 旋回流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排水路に連通する溜水部が形成されるボウル部と、
前記ボウル部の上に設けられたリム面と、
第1の導水路を介して供給された洗浄水を前記ボウル部に向けて吐水するとともに、前記供給された洗浄水を前記リム面の略接線方向に吐水し前記リム面と前記ボウル部との境界付近を前方に流れる旋回流を形成する第1のスリット開口と、
を備え、
前記第1のスリット開口から吐水される水流の流れ方向に対して略垂直な断面のスリット開口形状は、水平方向に偏平な形状とされたことを特徴とする水洗便器。
【請求項2】
前記リム面は略垂直に延在してなることを特徴とする請求項1記載の水洗便器。
【請求項3】
前記リム面の上端にオーバーハングが設けられてなることを特徴とする請求項1記載の水洗便器。
【請求項4】
前記第1の導水路を介して供給された洗浄水を前記ボウル部に向けて吐水するとともに、前記供給された前記洗浄水を前記リム面の略接線方向に吐水し前記リム面と前記ボウル部との境界付近を前方に流れる旋回流を形成する第2のスリット開口をさらに備え、
を備え、
前記第2のスリット開口から吐水される水流の流れ方向に対して略垂直な断面のスリット開口形状は、水平方向に偏平な形状とされ、
前記第2のスリット開口から吐水される前記旋回流の旋回方向は、前記第1のスリット開口から吐水される前記旋回流の旋回方向とは反対であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の水洗便器。
【請求項5】
前記第1のスリット開口と前記第2のスリット開口との間に設けられ、前記ボウル部に洗浄水を吐水する中央スリット開口をさらに備えたことを特徴とする請求項4記載の水洗便器。
【請求項6】
前記第1のスリット開口と、前記中央スリット開口と、前記第2のスリット開口と、は、連続してなることを特徴とする請求項5記載の水洗便器。
【請求項7】
前記溜水部に開口した吐水開口に洗浄水を供給する第2の導水路と、
前記中央スリット開口の後方に設けられ、前記第1の導水路と前記第2の導水路とを連通する連通口と、
をさらに備えたことを特徴とする請求項5または6に記載の水洗便器。
【請求項8】
前記第2の導水路から前記連通口を介して前記第1の導水路に供給された洗浄水が前記中央スリット開口から吐水されることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1つに記載の水洗便器。
【請求項9】
前記中央スリット開口の上端は、下方に向けて突出した突出部を有することを特徴とする請求項5〜8のいずれか1つに記載の水洗便器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−97172(P2009−97172A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−267624(P2007−267624)
【出願日】平成19年10月15日(2007.10.15)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】