水洗式便器
【課題】汚物や洗浄水が集まりやすく、少ない水で洗浄できる水洗式便器を提供する。
【解決手段】本発明の水洗式便器は、溜水面Wの平面視形状が、前後方向に長い略楕円形であり、平面視における最大横幅を有する位置Pが、前記溜水面Wの前後方向中央より前側に設定されている。
【解決手段】本発明の水洗式便器は、溜水面Wの平面視形状が、前後方向に長い略楕円形であり、平面視における最大横幅を有する位置Pが、前記溜水面Wの前後方向中央より前側に設定されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水洗式便器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に開示されているように、便器の溜水面の前方部位に上下方向に立ち上がる立ち面を形成させて、この立ち面により洗浄水をトラップ入口に集めることにより、少ない水で洗浄できるように構成した水洗便器が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−61950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示されている水洗便器は、溜水面は平面視形状が後方側に広がった形状となっており、溜水面の前方部位に立ち面壁を造ったものであり、このような立ち面壁だけでは、汚物を排水路に集める力が弱く、十分な節水効果が得られにくいという問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、洗浄水や汚物がトラップ入口に集まりやすく、少ない水で洗浄できる水洗式便器の提供を目的とし、この目的の少なくとも一部を達成するために以下の手段を採った。
本発明の水洗式便器は、溜水面の平面視形状が、前後方向に長い略楕円形であり、平面視における最大横幅を有する位置が、前記溜水面の前後方向中央より前側に設定されていることを要旨とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の水洗式便器では、溜水面の平面視形状が前後方向に長い略楕円形であるため、洗浄水や汚物がトラップ入口に集まりやすくなり、少ない水で良好に洗浄できるものとなる。また、最大横幅を有する位置が前側にあるため、前側から後方側のトラップ入口に向かって洗浄水および汚物を速く集めることができる。
【0007】
また、本発明の水洗式便器において、略楕円形における前方先端近傍の曲率半径が最も小さく設定されているものとすることもできる。
こうすれば、曲率半径が小さい前方部の左右側の面で洗浄水を跳ね返して、洗浄水をトラップ入口に向かわせることができる。
【0008】
また、本発明の水洗式便器において、前記溜水面の外周に立ち上がる立ち面を有し、該立ち面の全周が略垂直状または溜水面側へ膨らむ凸面状であるものとすることもできる。
こうすれば、立ち面が垂直状または溜水面側へ膨らむ凸面状であるため、洗浄水を立ち面に沿って落とし込み、速くトラップ入口に向かわせることができ、また、汚物は広がることなく立ち面内でスムーズにトラップ入口に向かうこととなり、少ない水で良好に洗浄できるものとなる。
【0009】
また、本発明の水洗式便器において、前記立ち面の前部部位上端から前方へ延びる鉢面の形状が、平面視幅方向中央部に前後方向に延びる凹部を有し、該凹部の幅方向両端に凸状の凸部を有する形状であり、前記凸部は前記凹部よりも曲率半径が小さく設定されているものとすることもできる。
こうすれば、凹部により、鉢面上の水流の旋回を早期に止めて、洗浄水を立ち面に沿って落とし込み、汚物および洗浄水をトラップ入口に向かわせ、良好にトラップ入口に汚物や洗浄水を集めることができ、少ない水で洗浄できるものとなる。また、凹部により小便の飛び散りを良好に防止できるものとなる。
【0010】
また、本発明の水洗式便器において、前記立ち面の後部部位上端から後方側へ向かって凸状の上傾した上傾面が形成されているものとすることもできる。
こうすれば、便器後方側から上傾面に沿ってトラップ入口へ洗浄水を落とし込むことができ、洗浄水をトラップ入口に速く集めることができる。また、洗浄水がトラップ入口に向かって流れ落ちるため、旋回流の勢いを便器後部で弱めることができ、これにより、旋回流の遠心力が小さくなって、汚物が広がらず、スムーズな洗浄水の排出ができる。
【0011】
また、本発明の水洗式便器において、前記立ち面の上部には全周に亘って、立ち面に向かって湾曲凸面状のアール部が形成され、該アール部の曲率半径は前記上傾面が最も大きくなっているものとすることもできる。
こうすれば、便器の後部では、洗浄水を曲率半径の大きい上傾面に沿ってトラップ入口に向かって速く流れ落とすことができ、一方、便器の前部では、アール部の曲率半径は小さいため、立ち面内に落ちた旋回流が再び立ち面を登り外側に広がるのを防いで、洗浄水を速くトラップ入口に向かわせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】サイフォン式水洗便器の縦断面構成図である。
【図2】サイフォン式水洗便器の平面構成図である。
【図3】図1のA−A線断面図である。
【図4】図1のB−B線断面図である。
【図5】図1のC−C線断面図である。
【図6】図1のD−D線断面図である。
【図7】図1のE−E線断面図である。
【図8】図1のF−F線断面拡大図である。
【図9】図1のG−G線断面拡大図である。
【図10】図1のI−I線断面拡大図である。
【図11】図1のJ−J線断面拡大図である。
【図12】図1のK−K線断面拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
図1は、サイフォン式水洗便器の縦断面図を示し、図2は、サイフォン式水洗便器の平面図を示す。
サイフォン式水洗便器1の便器本体2内には、鉢面3が形成され、この鉢面3に連続して底側へ落ち込む立ち面4が形成され、最も深い位置にトラップ入口5が開口されて、このトラップ入口5から、後方側に向かって上傾する逆U字状のトラップ排水路6が形成されており、トラップ排水路6の下流端には下向きの排水口7が形成され、この排水口7に、円形状のゴムパッキン13を介し別体の排水ソケット8が接続されている。
【0014】
また、便器本体2の上面側には、鉢面3の外周にリム通水路9aを形成するリム9及び洗浄段12が設けられており、また、便器本体2の後部上面側には洗浄水の分配器10が配置されて、この分配器10の一方側の第1流出口10aから流出される洗浄水が第1吐水口11aから吐水され、リム通水路9aを通り、鉢面3上に旋回流となって供給されるように構成されている。
また、分配器の他方側の第2流出口10bから流出された洗浄水は第2吐水口11bから吐水され、立ち面4後部から連続して後方側へ湾曲凸面状に上傾した上傾面4aに沿って流下され、直接トラップ入口5へ向かって洗浄水が供給されるように構成されている。なお、上傾面4aは、凸状になっており、第2吐水口11bからの洗浄水がトラップ入口5に向かって流れ落ちるため、旋回流の勢いを便器後部で弱めることができ、これにより、旋回流の遠心力が小さくなって、汚物が広がらず、スムーズな洗浄水の排出ができるように構成されている。
【0015】
このように、鉢面3上を旋回して立ち面4内に流下する洗浄水と、上傾面4aに沿って流下する洗浄水が、トラップ入口5に集められると、トラップ排水路6内の溜水面Wが上昇し、洗浄水がトラップ排水路6内の頂部6aを超えて排水口7に流下し、排水ソケット8に形成されている絞り部8aで絞られることで、トラップ排水路6内が満水状態となり、このトラップ排水路6内が満水状態となった時の鉢面3側の溜水面Wとの水位差により排水方向に引き込み力が生じて、このサイフォン作用により良好に汚物を洗浄水とともに排出することができるものである。
【0016】
引き続きサイフォン式水洗便器の詳細を図3〜図12の断面図に従って説明する。
図3は、図1のA−A線断面図であり、図4は、図1のB−B線断面図であり、図5は、図1のC−C線断面図であり、図6は、図1のD−D線断面図であり、図7は、図1のE−E線断面図である。
【0017】
図3および図4に示すように、便器本体2内の前側の鉢面3の平面視幅方向中央部には、下方側へ凹ませて凹部3aが形成され、凹部3aの平面視幅方向両端には、凸状の凸部3bが連続して形成され洗浄段12に至っている。なお、凸部3bは凹部3aよりも曲率半径が小さく設定されている。
凹部3aは、後方側(立ち面4側)へ向かって徐々に深さを増して傾斜しており、この凹部3aにより、鉢面3上での小便の跳ね返りを良好に防げるように構成されている。また、この凹部3aにより、鉢面3上の洗浄水の旋回が早期に止められ、洗浄水は凹部3aに沿って立ち面4側へ流れ込むこととなる。
【0018】
図1および図5〜図7に示す立ち面4は、下方側へ向かって垂直状あるいは溜水面W側へ膨らんだ凸面状に形成されており、立ち面4の全周が垂直状または溜水面W側へ膨らむ凸面状となっている。即ち、立ち面4は溜水面Wの外周に立ち上げられており、鉢面3上を旋回する洗浄水を早期にこの立ち面4に沿って流下させ、洗浄水を速くトラップ入口5に向かわせるように構成されており、この立ち面4により、汚物を外側へ広がることなく、速くトラップ入口5に集めることができる。
なお、立ち面4の上部には全周に亘って、立ち面4に向かって湾曲凸面状のアール部Rが形成され、便器後部の上傾面4aもアール部Rの一部となっている。
このアール部Rの曲率半径は上傾面4aが最も大きくなっている。即ち、便器の後部では、第2吐水口11bからの洗浄水をトラップ入口5に向かって流れ落とすために曲率半径は大きい方がいいからである。一方、便器の前部では、アール部Rの曲率半径は小さいため、立ち面4内に落ちた旋回流が再び立ち面4を登り外側に広がるのを防いで、洗浄水を速くトラップ入口5に向かわせるようにしてある。
【0019】
立ち面4内の溜水面Wの平面視形状は、図2に示すように、前後方向に長い略楕円形となっている。
なお、この溜水面Wの平面視形状において前方側の曲率半径R2が最も小さく設定されており、この曲率半径R2が小さい前方部の左右側の立ち面4で洗浄水を跳ね返して、洗浄水をトラップ入口5に向かわせるように構成されている。
また、溜水面Wの前後方向中央よりも前側に、平面視最大横幅を有するP点が存在するように設定されており、鉢面3から立ち面4に沿って溜水面Wに流れ落ちる洗浄水が、曲率半径R2が小さい前方側の部分から後方のトラップ入口5近傍の横幅の狭まった部分に向けて速度を増して集められるように構成されている。これにより、トラップ入口5に洗浄水および汚物が速く流れ込むこととなり、少ない洗浄水で汚物をトラップ入口5に集めてサイフォンを速く起動させることができる。
【0020】
なお、トラップ入口5の断面形状は、図8(図1のF−F線断面図である。)に示すように、上面および下面が略水平形状となっており、上方の角部は角ばっていて下方の角部は丸く、全体として略D形状になっている。このトラップ入口5は、縦寸法よりも横幅寸法が大きい形状に開口されたものであり、このトラップ入口5の縦寸法aは50mmとなっており、横幅寸法bは77mmとなっている。
このように縦寸法よりも横幅寸法を大きくしたことにより、トラップ入口5内にスムーズに洗浄水および浮遊物等が流れ込むこととなり、早期にサイフォンを起動させることができるものとなる。
即ち、トラップ入口5では、流れ込む洗浄水の縦方向下部部位は、下側へもぐり込むことで速度が遅くなり淀みができるため、縦寸法aは短いものとして横幅寸法bを広げれば、その分、流れ込む洗浄水の速度の速い上部部位の面積が増えることとなるため、洗浄水をスムーズにトラップ入口5へ淀みなく速く流れ込ませることができ、トラップ入口5で整流化できるものである。さらに、横幅があるため、トラップ入口5での汚物の詰まりも起こらないのである。なお、略D形の断面形状において上方の角部を角ばらせることは、流れ込む洗浄水の速度の速い断面上部部位の面積を増やすこととなり、好ましい形状と言える。
【0021】
なお、トラップ入口5の縦寸法aは50mm〜60mmの範囲に設定することが好ましく、また、横幅寸法bは70mm〜85mmの範囲に設定することが好ましい。
また、トラップ入口5は図8のような断面D形状に限定するものではなく、縦寸法よりも横幅寸法が大きい楕円形等の形状としても十分な効果が得られる。なお、断面楕円形よりも断面横長長方形のほうが効果が大であり、さらに断面横長長方形よりも断面略D形状のほうが効果が大である。
また、このトラップ入口5の手前には、図1に示すように、トラップ入口5へ向かって下向きに延びる導入通路5aが設けられており、この導入通路5aの内周面に沿って洗浄水がトラップ排水路6内に流れ込む際に、洗浄水が絞られて整流化され、洗浄水の流れがスムーズなものとなる。
なお、トラップ入口5の前でしっかり整流化され、さらに、扁平形状のトラップ入口5で整流化できるため、洗浄水がトラップ排水路6内に整流のまま流れ込み、トラップ排水路の上昇管6Pの縦寸法を大きくしても乱流が起き難く、スムーズに洗浄水の排出ができる。
【0022】
また、図12は、図1のK−K線断面構成図である。
図12に示すように、頂部6a手前のトラップ排水路6の断面形状は、横幅寸法bが77mmに設定されており、縦寸法cは62mmに設定されている。即ち、図12において、トラップ排水路6の内周の上面側中央部が上側へ膨らませて形成されており、この上側へ膨らんだ部分により汚物が回転し易いため、頂部6a付近で汚物の詰まりが発生し難いものとなる。
このように上面側中央部を膨らませて汚物回転用空間6bを形成したことにより、汚物回転用空間6b内で汚物が良好に回転して頂部6aを超えて排水口7に落下することができるものとなり、硬く長い汚物でも詰まることなく排出できるものとなる。
【0023】
なお、汚物が良好に頂部6aを超えることができれば良いため、良好に汚物が回転できる寸法として、縦寸法cは53mm以上に設定することが好ましい。また、横幅寸法bは70mm〜85mmの範囲内に設定することが好ましい。
このように汚物が詰まらないようにして早期に排水ソケット8の絞り部8a(内径53mm)まで洗浄水を満水状態とさせて、早期にスムーズにサイフォンを起動させることができ、少ない水で良好に洗浄できるものとなる。
【0024】
また、図9は、図1のG−G線断面図を示す。
この図9は、トラップ排水路6の頂部6aの断面形状を示すものであり、この頂部6aの下面は水平形状となっており、横幅寸法bは、トラップ入口5の横幅寸法と同じ77mmに設定されている。
即ち、このトラップ排水路6の頂部6aも下面は水平形状で横幅が広いものとなっており、トラップ排水路6内に押し込まれた洗浄水により、トラップ排水路6内の溜水面Wの水位が頂部6aよりも僅かに上方へ上昇すると、横幅寸法bが広く下面は水平なために大量の水が勢いよく排水口7に向かって流れ落ちることとなり、速くサイフォンを起動させることができるのである。
なお、一般的には、この頂部6aの横幅寸法は50mm〜60mmであるが、この横幅寸法bは75mm以上とするのが好ましい。
【0025】
なお、図10は、図1のI−I線断面図であり、また、図11は、図1のJ−J線断面構成図であり、排水口7の部分を示しており、この排水口7の部分の排水路は円形状に形成されて、下端側は内径が58mmの絞られた形状となっている。
【0026】
なお、図2のような溜水面Wの平面視形状が前後方向に長い略楕円形や、図6および図7に示すような立ち面4の凸面状の形状や、図8のような横幅の広い扁平なトラップ入口5の形状や、図12のような汚物回転用空間6bを形成させたトラップ排水路6の断面形状等は、サイフォン式水洗便器に限らず、サイフォンゼット式水洗便器や、サイフォン作用が生じない洗い落とし式便器に採用することもでき、汚物および洗浄水がトラップ入口5に集まりやすく、少ない水で洗浄できる構造を確保することができるものとなる。
【符号の説明】
【0027】
1 サイフォン式水洗便器
2 便器本体
3 鉢面
3a 凹部
4 立ち面
4a 上傾面(アール部)
5 トラップ入口
5a 導入通路
6 トラップ排水路
6P トラップ排水路の上昇管
6a 頂部
6b 汚物回転用空間
7 排水口
8 排水ソケット
8a 絞り部
9 リム
9a リム通水路
10 分配器
10a 第1流出口
10b 第2流出口
11a 第1吐水口
11b 第2吐水口
12 洗浄段
W 溜水面
R アール部
P 最大幅位置
【技術分野】
【0001】
本発明は、水洗式便器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に開示されているように、便器の溜水面の前方部位に上下方向に立ち上がる立ち面を形成させて、この立ち面により洗浄水をトラップ入口に集めることにより、少ない水で洗浄できるように構成した水洗便器が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−61950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示されている水洗便器は、溜水面は平面視形状が後方側に広がった形状となっており、溜水面の前方部位に立ち面壁を造ったものであり、このような立ち面壁だけでは、汚物を排水路に集める力が弱く、十分な節水効果が得られにくいという問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、洗浄水や汚物がトラップ入口に集まりやすく、少ない水で洗浄できる水洗式便器の提供を目的とし、この目的の少なくとも一部を達成するために以下の手段を採った。
本発明の水洗式便器は、溜水面の平面視形状が、前後方向に長い略楕円形であり、平面視における最大横幅を有する位置が、前記溜水面の前後方向中央より前側に設定されていることを要旨とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の水洗式便器では、溜水面の平面視形状が前後方向に長い略楕円形であるため、洗浄水や汚物がトラップ入口に集まりやすくなり、少ない水で良好に洗浄できるものとなる。また、最大横幅を有する位置が前側にあるため、前側から後方側のトラップ入口に向かって洗浄水および汚物を速く集めることができる。
【0007】
また、本発明の水洗式便器において、略楕円形における前方先端近傍の曲率半径が最も小さく設定されているものとすることもできる。
こうすれば、曲率半径が小さい前方部の左右側の面で洗浄水を跳ね返して、洗浄水をトラップ入口に向かわせることができる。
【0008】
また、本発明の水洗式便器において、前記溜水面の外周に立ち上がる立ち面を有し、該立ち面の全周が略垂直状または溜水面側へ膨らむ凸面状であるものとすることもできる。
こうすれば、立ち面が垂直状または溜水面側へ膨らむ凸面状であるため、洗浄水を立ち面に沿って落とし込み、速くトラップ入口に向かわせることができ、また、汚物は広がることなく立ち面内でスムーズにトラップ入口に向かうこととなり、少ない水で良好に洗浄できるものとなる。
【0009】
また、本発明の水洗式便器において、前記立ち面の前部部位上端から前方へ延びる鉢面の形状が、平面視幅方向中央部に前後方向に延びる凹部を有し、該凹部の幅方向両端に凸状の凸部を有する形状であり、前記凸部は前記凹部よりも曲率半径が小さく設定されているものとすることもできる。
こうすれば、凹部により、鉢面上の水流の旋回を早期に止めて、洗浄水を立ち面に沿って落とし込み、汚物および洗浄水をトラップ入口に向かわせ、良好にトラップ入口に汚物や洗浄水を集めることができ、少ない水で洗浄できるものとなる。また、凹部により小便の飛び散りを良好に防止できるものとなる。
【0010】
また、本発明の水洗式便器において、前記立ち面の後部部位上端から後方側へ向かって凸状の上傾した上傾面が形成されているものとすることもできる。
こうすれば、便器後方側から上傾面に沿ってトラップ入口へ洗浄水を落とし込むことができ、洗浄水をトラップ入口に速く集めることができる。また、洗浄水がトラップ入口に向かって流れ落ちるため、旋回流の勢いを便器後部で弱めることができ、これにより、旋回流の遠心力が小さくなって、汚物が広がらず、スムーズな洗浄水の排出ができる。
【0011】
また、本発明の水洗式便器において、前記立ち面の上部には全周に亘って、立ち面に向かって湾曲凸面状のアール部が形成され、該アール部の曲率半径は前記上傾面が最も大きくなっているものとすることもできる。
こうすれば、便器の後部では、洗浄水を曲率半径の大きい上傾面に沿ってトラップ入口に向かって速く流れ落とすことができ、一方、便器の前部では、アール部の曲率半径は小さいため、立ち面内に落ちた旋回流が再び立ち面を登り外側に広がるのを防いで、洗浄水を速くトラップ入口に向かわせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】サイフォン式水洗便器の縦断面構成図である。
【図2】サイフォン式水洗便器の平面構成図である。
【図3】図1のA−A線断面図である。
【図4】図1のB−B線断面図である。
【図5】図1のC−C線断面図である。
【図6】図1のD−D線断面図である。
【図7】図1のE−E線断面図である。
【図8】図1のF−F線断面拡大図である。
【図9】図1のG−G線断面拡大図である。
【図10】図1のI−I線断面拡大図である。
【図11】図1のJ−J線断面拡大図である。
【図12】図1のK−K線断面拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
図1は、サイフォン式水洗便器の縦断面図を示し、図2は、サイフォン式水洗便器の平面図を示す。
サイフォン式水洗便器1の便器本体2内には、鉢面3が形成され、この鉢面3に連続して底側へ落ち込む立ち面4が形成され、最も深い位置にトラップ入口5が開口されて、このトラップ入口5から、後方側に向かって上傾する逆U字状のトラップ排水路6が形成されており、トラップ排水路6の下流端には下向きの排水口7が形成され、この排水口7に、円形状のゴムパッキン13を介し別体の排水ソケット8が接続されている。
【0014】
また、便器本体2の上面側には、鉢面3の外周にリム通水路9aを形成するリム9及び洗浄段12が設けられており、また、便器本体2の後部上面側には洗浄水の分配器10が配置されて、この分配器10の一方側の第1流出口10aから流出される洗浄水が第1吐水口11aから吐水され、リム通水路9aを通り、鉢面3上に旋回流となって供給されるように構成されている。
また、分配器の他方側の第2流出口10bから流出された洗浄水は第2吐水口11bから吐水され、立ち面4後部から連続して後方側へ湾曲凸面状に上傾した上傾面4aに沿って流下され、直接トラップ入口5へ向かって洗浄水が供給されるように構成されている。なお、上傾面4aは、凸状になっており、第2吐水口11bからの洗浄水がトラップ入口5に向かって流れ落ちるため、旋回流の勢いを便器後部で弱めることができ、これにより、旋回流の遠心力が小さくなって、汚物が広がらず、スムーズな洗浄水の排出ができるように構成されている。
【0015】
このように、鉢面3上を旋回して立ち面4内に流下する洗浄水と、上傾面4aに沿って流下する洗浄水が、トラップ入口5に集められると、トラップ排水路6内の溜水面Wが上昇し、洗浄水がトラップ排水路6内の頂部6aを超えて排水口7に流下し、排水ソケット8に形成されている絞り部8aで絞られることで、トラップ排水路6内が満水状態となり、このトラップ排水路6内が満水状態となった時の鉢面3側の溜水面Wとの水位差により排水方向に引き込み力が生じて、このサイフォン作用により良好に汚物を洗浄水とともに排出することができるものである。
【0016】
引き続きサイフォン式水洗便器の詳細を図3〜図12の断面図に従って説明する。
図3は、図1のA−A線断面図であり、図4は、図1のB−B線断面図であり、図5は、図1のC−C線断面図であり、図6は、図1のD−D線断面図であり、図7は、図1のE−E線断面図である。
【0017】
図3および図4に示すように、便器本体2内の前側の鉢面3の平面視幅方向中央部には、下方側へ凹ませて凹部3aが形成され、凹部3aの平面視幅方向両端には、凸状の凸部3bが連続して形成され洗浄段12に至っている。なお、凸部3bは凹部3aよりも曲率半径が小さく設定されている。
凹部3aは、後方側(立ち面4側)へ向かって徐々に深さを増して傾斜しており、この凹部3aにより、鉢面3上での小便の跳ね返りを良好に防げるように構成されている。また、この凹部3aにより、鉢面3上の洗浄水の旋回が早期に止められ、洗浄水は凹部3aに沿って立ち面4側へ流れ込むこととなる。
【0018】
図1および図5〜図7に示す立ち面4は、下方側へ向かって垂直状あるいは溜水面W側へ膨らんだ凸面状に形成されており、立ち面4の全周が垂直状または溜水面W側へ膨らむ凸面状となっている。即ち、立ち面4は溜水面Wの外周に立ち上げられており、鉢面3上を旋回する洗浄水を早期にこの立ち面4に沿って流下させ、洗浄水を速くトラップ入口5に向かわせるように構成されており、この立ち面4により、汚物を外側へ広がることなく、速くトラップ入口5に集めることができる。
なお、立ち面4の上部には全周に亘って、立ち面4に向かって湾曲凸面状のアール部Rが形成され、便器後部の上傾面4aもアール部Rの一部となっている。
このアール部Rの曲率半径は上傾面4aが最も大きくなっている。即ち、便器の後部では、第2吐水口11bからの洗浄水をトラップ入口5に向かって流れ落とすために曲率半径は大きい方がいいからである。一方、便器の前部では、アール部Rの曲率半径は小さいため、立ち面4内に落ちた旋回流が再び立ち面4を登り外側に広がるのを防いで、洗浄水を速くトラップ入口5に向かわせるようにしてある。
【0019】
立ち面4内の溜水面Wの平面視形状は、図2に示すように、前後方向に長い略楕円形となっている。
なお、この溜水面Wの平面視形状において前方側の曲率半径R2が最も小さく設定されており、この曲率半径R2が小さい前方部の左右側の立ち面4で洗浄水を跳ね返して、洗浄水をトラップ入口5に向かわせるように構成されている。
また、溜水面Wの前後方向中央よりも前側に、平面視最大横幅を有するP点が存在するように設定されており、鉢面3から立ち面4に沿って溜水面Wに流れ落ちる洗浄水が、曲率半径R2が小さい前方側の部分から後方のトラップ入口5近傍の横幅の狭まった部分に向けて速度を増して集められるように構成されている。これにより、トラップ入口5に洗浄水および汚物が速く流れ込むこととなり、少ない洗浄水で汚物をトラップ入口5に集めてサイフォンを速く起動させることができる。
【0020】
なお、トラップ入口5の断面形状は、図8(図1のF−F線断面図である。)に示すように、上面および下面が略水平形状となっており、上方の角部は角ばっていて下方の角部は丸く、全体として略D形状になっている。このトラップ入口5は、縦寸法よりも横幅寸法が大きい形状に開口されたものであり、このトラップ入口5の縦寸法aは50mmとなっており、横幅寸法bは77mmとなっている。
このように縦寸法よりも横幅寸法を大きくしたことにより、トラップ入口5内にスムーズに洗浄水および浮遊物等が流れ込むこととなり、早期にサイフォンを起動させることができるものとなる。
即ち、トラップ入口5では、流れ込む洗浄水の縦方向下部部位は、下側へもぐり込むことで速度が遅くなり淀みができるため、縦寸法aは短いものとして横幅寸法bを広げれば、その分、流れ込む洗浄水の速度の速い上部部位の面積が増えることとなるため、洗浄水をスムーズにトラップ入口5へ淀みなく速く流れ込ませることができ、トラップ入口5で整流化できるものである。さらに、横幅があるため、トラップ入口5での汚物の詰まりも起こらないのである。なお、略D形の断面形状において上方の角部を角ばらせることは、流れ込む洗浄水の速度の速い断面上部部位の面積を増やすこととなり、好ましい形状と言える。
【0021】
なお、トラップ入口5の縦寸法aは50mm〜60mmの範囲に設定することが好ましく、また、横幅寸法bは70mm〜85mmの範囲に設定することが好ましい。
また、トラップ入口5は図8のような断面D形状に限定するものではなく、縦寸法よりも横幅寸法が大きい楕円形等の形状としても十分な効果が得られる。なお、断面楕円形よりも断面横長長方形のほうが効果が大であり、さらに断面横長長方形よりも断面略D形状のほうが効果が大である。
また、このトラップ入口5の手前には、図1に示すように、トラップ入口5へ向かって下向きに延びる導入通路5aが設けられており、この導入通路5aの内周面に沿って洗浄水がトラップ排水路6内に流れ込む際に、洗浄水が絞られて整流化され、洗浄水の流れがスムーズなものとなる。
なお、トラップ入口5の前でしっかり整流化され、さらに、扁平形状のトラップ入口5で整流化できるため、洗浄水がトラップ排水路6内に整流のまま流れ込み、トラップ排水路の上昇管6Pの縦寸法を大きくしても乱流が起き難く、スムーズに洗浄水の排出ができる。
【0022】
また、図12は、図1のK−K線断面構成図である。
図12に示すように、頂部6a手前のトラップ排水路6の断面形状は、横幅寸法bが77mmに設定されており、縦寸法cは62mmに設定されている。即ち、図12において、トラップ排水路6の内周の上面側中央部が上側へ膨らませて形成されており、この上側へ膨らんだ部分により汚物が回転し易いため、頂部6a付近で汚物の詰まりが発生し難いものとなる。
このように上面側中央部を膨らませて汚物回転用空間6bを形成したことにより、汚物回転用空間6b内で汚物が良好に回転して頂部6aを超えて排水口7に落下することができるものとなり、硬く長い汚物でも詰まることなく排出できるものとなる。
【0023】
なお、汚物が良好に頂部6aを超えることができれば良いため、良好に汚物が回転できる寸法として、縦寸法cは53mm以上に設定することが好ましい。また、横幅寸法bは70mm〜85mmの範囲内に設定することが好ましい。
このように汚物が詰まらないようにして早期に排水ソケット8の絞り部8a(内径53mm)まで洗浄水を満水状態とさせて、早期にスムーズにサイフォンを起動させることができ、少ない水で良好に洗浄できるものとなる。
【0024】
また、図9は、図1のG−G線断面図を示す。
この図9は、トラップ排水路6の頂部6aの断面形状を示すものであり、この頂部6aの下面は水平形状となっており、横幅寸法bは、トラップ入口5の横幅寸法と同じ77mmに設定されている。
即ち、このトラップ排水路6の頂部6aも下面は水平形状で横幅が広いものとなっており、トラップ排水路6内に押し込まれた洗浄水により、トラップ排水路6内の溜水面Wの水位が頂部6aよりも僅かに上方へ上昇すると、横幅寸法bが広く下面は水平なために大量の水が勢いよく排水口7に向かって流れ落ちることとなり、速くサイフォンを起動させることができるのである。
なお、一般的には、この頂部6aの横幅寸法は50mm〜60mmであるが、この横幅寸法bは75mm以上とするのが好ましい。
【0025】
なお、図10は、図1のI−I線断面図であり、また、図11は、図1のJ−J線断面構成図であり、排水口7の部分を示しており、この排水口7の部分の排水路は円形状に形成されて、下端側は内径が58mmの絞られた形状となっている。
【0026】
なお、図2のような溜水面Wの平面視形状が前後方向に長い略楕円形や、図6および図7に示すような立ち面4の凸面状の形状や、図8のような横幅の広い扁平なトラップ入口5の形状や、図12のような汚物回転用空間6bを形成させたトラップ排水路6の断面形状等は、サイフォン式水洗便器に限らず、サイフォンゼット式水洗便器や、サイフォン作用が生じない洗い落とし式便器に採用することもでき、汚物および洗浄水がトラップ入口5に集まりやすく、少ない水で洗浄できる構造を確保することができるものとなる。
【符号の説明】
【0027】
1 サイフォン式水洗便器
2 便器本体
3 鉢面
3a 凹部
4 立ち面
4a 上傾面(アール部)
5 トラップ入口
5a 導入通路
6 トラップ排水路
6P トラップ排水路の上昇管
6a 頂部
6b 汚物回転用空間
7 排水口
8 排水ソケット
8a 絞り部
9 リム
9a リム通水路
10 分配器
10a 第1流出口
10b 第2流出口
11a 第1吐水口
11b 第2吐水口
12 洗浄段
W 溜水面
R アール部
P 最大幅位置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溜水面の平面視形状が、前後方向に長い略楕円形であり、平面視における最大横幅を有する位置が、前記溜水面の前後方向中央より前側に設定されていることを特徴とする水洗式便器。
【請求項2】
前後方向に長い略楕円形における前方先端近傍の曲率半径が最も小さく設定されていることを特徴とする請求項1に記載の水洗式便器。
【請求項3】
前記溜水面の外周に立ち上がる立ち面を有し、
該立ち面の全周が略垂直状または溜水面側へ膨らむ凸面状である
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の水洗式便器。
【請求項4】
前記立ち面の前部部位上端から前方へ延びる鉢面の形状が、
平面視幅方向中央部に前後方向に延びる凹部を有し、該凹部の幅方向両端に凸状の凸部を有する形状であり、
前記凸部は前記凹部よりも曲率半径が小さく設定されている
ことを特徴とする請求項3に記載の水洗式便器。
【請求項5】
前記立ち面の後部部位上端から後方側へ向かって凸状の上傾した上傾面が形成されていることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の水洗式便器。
【請求項6】
前記立ち面の上部には全周に亘って、立ち面に向かって湾曲凸面状のアール部が形成され、該アール部の曲率半径は前記上傾面が最も大きくなっていることを特徴とする請求項5に記載の水洗式便器。
【請求項1】
溜水面の平面視形状が、前後方向に長い略楕円形であり、平面視における最大横幅を有する位置が、前記溜水面の前後方向中央より前側に設定されていることを特徴とする水洗式便器。
【請求項2】
前後方向に長い略楕円形における前方先端近傍の曲率半径が最も小さく設定されていることを特徴とする請求項1に記載の水洗式便器。
【請求項3】
前記溜水面の外周に立ち上がる立ち面を有し、
該立ち面の全周が略垂直状または溜水面側へ膨らむ凸面状である
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の水洗式便器。
【請求項4】
前記立ち面の前部部位上端から前方へ延びる鉢面の形状が、
平面視幅方向中央部に前後方向に延びる凹部を有し、該凹部の幅方向両端に凸状の凸部を有する形状であり、
前記凸部は前記凹部よりも曲率半径が小さく設定されている
ことを特徴とする請求項3に記載の水洗式便器。
【請求項5】
前記立ち面の後部部位上端から後方側へ向かって凸状の上傾した上傾面が形成されていることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の水洗式便器。
【請求項6】
前記立ち面の上部には全周に亘って、立ち面に向かって湾曲凸面状のアール部が形成され、該アール部の曲率半径は前記上傾面が最も大きくなっていることを特徴とする請求項5に記載の水洗式便器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−157738(P2011−157738A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−20789(P2010−20789)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【出願人】(302045705)株式会社LIXIL (949)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【出願人】(302045705)株式会社LIXIL (949)
【Fターム(参考)】
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