説明

水消去性水性インキ組成物

【課題】非浸透性の筆記面上に弾かれることなく筆記することができ、しかも、その筆記面期に形成された筆跡は、これを水で濡らした布やティッシュ等にて拭うことによって筆記面から消去することができる水消去性水性インキ組成物を提供する。更に、そのようなインキ組成物を内蔵してなる水性マーキングペンを提供する。
【解決手段】本発明によれば、(a)溶剤としての水、(b)水溶性染料、(c)水溶性樹脂、及び(d)デカグリセリンカプリル酸エステル0.5〜10重量%を含有することを特徴とする水消去性水性インキ組成物が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水消去性水性インキ組成物に関し、詳しくは、非浸透性の筆記面、代表的には所謂白板と呼ばれる筆記面に弾かれることなく筆記することができ、しかも、その筆記面上の筆跡は、これを濡れた布やティッシュ等にて拭うことによって筆記面から消去することができる水消去性水性インキ組成物に関する。更に、本発明は、そのようなインキ組成物を内蔵してなる水性マーキングペンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、非浸透性の筆記面に筆記した筆跡を柔らかい布帛からなるイレーザー(白板拭き)にて軽く擦過することによって、筆記面から拭い去って、筆跡を消去するようにした水性消去性インキ組成物は、既に種々のものが知られている。このような従来の水性消去性インキ組成物は、一般に、溶剤としての水、着色剤としての顔料及び樹脂を含むインキ組成物に筆跡を筆記面から剥離させるために、高級脂肪酸エステル等のような常温で難揮発性の油状物質のエマルジョンからなる剥離剤が配合されている(特許文献1参照)。
【0003】
同じく水消去性であっても、水及び水溶性樹脂と共に、着色剤として所定の平均粒子径を有するマイクロカプセル顔料や着色樹脂粒子を用いてなり、水で濡らした布で筆記面上の筆跡を拭うことによってその筆跡を消去することができるようにした水消去性水性着色剤組成物も提案されている(特許文献2参照)。
【0004】
更に、着色剤として、上記マイクロカプセル顔料や着色樹脂粒子に代えて、水溶性染料を用いてなる水消去性水性着色剤組成物も提案されている(特許文献3参照)。
【0005】
しかし、従来、知られているこのような水消去性水性着色剤組成物は、非浸透性の筆記面に筆記したとき、筆跡が筆記面上で弾かれて、筆跡が途切れたりする問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平1−252681号公報
【特許文献2】特開2000−34436号公報
【特許文献3】特開2002−129085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来の水消去性水性着色剤組成物乃至インキ組成物における上述した問題を解決するためになされたものであって、非浸透性の筆記面上に弾かれることなく筆記することができ、しかも、その筆跡を水で濡らした布やティッシュ等にて拭うことによって筆記面から消去することができる水消去性水性インキ組成物を提供することを目的とする。更に、本発明は、そのようなインキ組成物を内蔵してなる水性マーキングペンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、(a)溶剤としての水、(b)水溶性染料、(c)水溶性樹脂、及び(d)デカグリセリンカプリル酸エステル0.5〜10重量%を含有することを特徴とする水消去性水性インキ組成物が提供される。
【0009】
本発明において、上記水溶性染料は、好ましくは、食用染料であり、また、上記水溶性樹脂は、好ましくは、ポリビニルピロリドンである。
【0010】
本発明による好ましい態様として、水溶性染料0.5〜15重量%、水溶性樹脂1〜20重量%、及びデカグリセリンカプリル酸エステル1〜5重量%を含有する水消去性水性インキ組成物が提供される。
【0011】
更に、本発明によれば、上述したような水消去性水性インキ組成物を内蔵してなる水性マーキングペンが提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の水消去性水性インキ組成物によれば、(a)溶剤としての水、(b)水溶性染料及び(c)水溶性樹脂と共に、レベリング剤として、(d)デカグリセリンカプリル酸エステルを含有し、特に、上記デカグリセリンカプリル酸エステルを含有することによって、非浸透性の筆記面に弾きなしに筆記することができ、しかも、水溶性染料と水溶性樹脂を含有することによって、その非浸透性の筆記面に筆記した筆跡は、これを水で濡らした布やティッシュ等にて拭うことによって、筆記面から消去することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明による水消去性水性インキ組成物は、(a)溶剤としての水、(b)水溶性染料、(c)水溶性樹脂、及び(d)デカグリセリンカプリル酸エステルを含有する。
【0014】
本発明によるマーキングペンインキ組成物においては、溶剤として、水が用いられる。インキ組成物における水の量は、通常、60〜90重量%、好ましくは、70〜90重量%の範囲である。
【0015】
本発明による水消去性水性インキ組成物においては、着色された筆跡を形成し得るように、着色剤としては、水溶性染料が用いられる。水溶性染料としては、酸性染料、塩基性染料又は直接染料が用いられる。
【0016】
このような水溶性染料として、例えば、ウオーター・イエロウ1(C.I.アシッド・イエロウ23)、ウオーター・レッド1(C.I.アシッド・レッド18)、ウオーター・レッド3(C.I.アシッド・レッド73)、ウオーター・バイオレット7(C.I.アシッド・バイオレット17)、ウオーター・ブルー3(C.I.ダイレクト・ブルー87)、ウオーター・ブルー9(C.I.アシッド・ブルー9)、ウオーター・ブラック191−L(C.I.ダイレクト・ブラック19)、ウオーター・ブラックR−510(C.I.アシッド・ブラック2)(以上、オリエント化学工業(株)製)、ローダミン6GCP(C.I.ベイシック・レッド1)(住友化学(株)製)、メチルバイオレット(C.I.ベイシック・バイオレット1)、ローダミンB(C.I.ベイシック・バイオレット10)、ビクトリアブルー(C.I.ベイシック・ブルー26、マラカイトグリーン(C.I.ベイシック・グリーン4)(以上、保土谷化学工業(株)製)を挙げることができる。
【0017】
なかでも、本発明においては、食用色素として用いられている水溶性染料が好ましい。水溶性食用色素としては、例えば、食用赤色1号、食用赤色3号、食用赤色102号、食用赤色104号、食用赤色105号、食用赤色106号、食用黄色4号、食用黄色5号、食用緑色3号、食用青色1号、食用青色2号等を挙げることができる。
【0018】
本発明による水消去性水性インキ組成物においては、このような水溶性染料は、インキ組成物に基づいて、通常、0.5〜15重量%の範囲で用いられ、好ましくは、1〜10重量%の範囲で用いられる。
【0019】
本発明によるインキ組成物において、水溶性樹脂は、非浸透性の筆記面に筆記したとき、筆跡の発色性を高めると共に、筆跡の筆記面への定着性を高め、更には、その水溶性によって、前記非浸透性の表面に筆記した筆跡に水消去性を与えるために用いられる。水溶性樹脂としては、例えば、アラビアガム、トラガントガム、キサンタンガム、デキストリン、ゼラチン、カゼイン、アルギン酸、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレンオキシド等を挙げることができるが、安全性の点から特にポリビニルピロリドンが好ましく用いられる。
【0020】
本発明によるインキ組成物において、このような水溶性樹脂の含有量は、通常、1〜20重量%の範囲であり、好ましくは、2〜15重量%の範囲である。インキ組成物における水溶性樹脂の含有量が余りに少ないときは、筆跡の発色性と定着性が悪いのみならず、非浸透性の表面に筆記した筆跡の水消去性も悪くなる。しかし、インキ組成物における水溶性樹脂の含有量が余りに多いときは、得られるインキ組成物の粘度が過度に高くなるので、例えば、マーキングペンに充填したとき、ペン先からのインキ組成物の流出が悪くなる。
【0021】
本発明によれば、インキ組成物の表面張力を低減して、非浸透性の筆記面への濡れをよくするために、レベリング剤として、デカグリセリンカプリル酸エステルが用いられる。
本発明において、デカグリセリンカプリル酸エステルは、平均重合度10のポリグリセリンのカプリル酸モノエステル、ジエステル、トリエステル及びより高次のポリエステルの混合物をいい、市販品(例えば、三菱化学フーズ(株)のリョートーポリグリエステルCE−19D)として入手することができる。
【0022】
本発明によるインキ組成物は、レベリング剤として、上記デカグリセリンカプリル酸エステルを含有することによって、非浸透性の筆記面に筆記するとき、その筆跡は筆記面上で弾かれないという特異的な効果を有する。本発明によるインキ組成物において、上記デカグリセリンカプリル酸エステルの含有量は、通常、0.5〜10重量%の範囲であり、好ましくは、1〜5重量%の範囲である。インキ組成物において、上記デカグリセリンカプリル酸エステルの含有量が0.5重量%よりも少ないときは、非浸透性の筆記面に筆記したとき、筆跡が依然として弾かれる。しかし、インキ組成物において、上記デカグリセリンカプリル酸エステルの含有量が10重量%よりも多いときは、非浸透性の筆記面に筆記したとき、筆跡が弾かれることはないが、非浸透性の筆記面に筆記したときの筆跡が乾燥し難く、また、インキ組成物の製造費用も嵩むこととなるので好ましくない。
【0023】
レベリング剤として、上記デカグリセリンカプリル酸エステル以外のポリグリセリン脂肪酸エステル、例えば、デカグリセリンラウリン酸エステル、デカグリセリンステアリン酸エステル又はデカグリセリンオレイン酸エステルを上記デカグリセリンカプリル酸エステルに代えてインキ組成物に含有させても、非浸透性の筆記面に筆記したとき、筆跡は、弾かれる。ここに、上記デカグリセリンラウリン酸エステル、デカグリセリンステアリン酸エステル及びデカグリセリンオレイン酸エステルはいずれも、上記デカグリセリンカプリル酸エステルと同じく、平均重合度10のポリグリセリンのラウリン酸エステル、ステアリン酸エステル及びオレイン酸エステルであって、モノエステル、ジエステル又はこれらの混合物である。
【0024】
本発明によるインキ組成物は、必要に応じて、通常、水性インキ組成物に配合されるエチレングリコールやグリセリンのような湿潤剤のほか、pH調整剤、防腐剤防黴剤等を適宜量、含有していてもよい。
【0025】
本発明によるインキ組成物は、例えば、水溶性染料と水溶性樹脂とデカグリセリンカプリル酸エステルを水に加え、常温で攪拌し、均一に混合することによって得ることができる。
【0026】
本発明によるインキ組成物は、水性筆記具であれば、どのような筆記具にもインキ組成物として用いられ、なかでも、マーキングペン用インキ組成物として好適に用いられる。マーキングペンとは、第1には、フェルトペンともいわれる筆記具であって、繊維束、焼結体又はプラスチックよりなるペン先を有すると共に、本体内にフェルトや繊維束からなる所謂中芯にインキを含浸させてなるインキ貯蔵手段を備え、このようなインキ貯蔵手段からペン先に毛細管現象を利用してインキを供給し、筆記を可能とする筆記具、所謂中芯式マーキングペンをいい、第2には、筒状の本体内にインキをそのまま、直接に貯蔵し、 このインキをペン先に供給するようにした非中芯式又は所謂フリー・インキ型マーキングペンをいう。本発明によるインキ組成物は、このようなマーキングペンのいずれにも好適に用いられる。
【実施例】
【0027】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。以下の実施例及び比較例において、成分量は重量%にて示されており、残部は水である。
【0028】
実施例1〜7
表1に示す割合にて各成分を均一に混合して、本発明による水消去性水性インキ組成物を調製した。
【0029】
比較例1〜9
表2に示す割合にて各成分を均一に混合して、比較例としての水消去性水性インキ組成物を調製した。
【0030】
実施例及び比較例において用いた各成分は以下のとおりである。
【0031】
食用黄色4号:C.I. Acid Yellow 23(ダイワ化成(株)製)
食用赤色102号:C.I. Acid Red 18(ダイワ化成(株)製)
食用青色1号:C.I. Acid Blue 9(ダイワ化成(株)製)
【0032】
デカグリセリンカプリル酸エステル:三菱化学フーズ(株)製リョートーポリグリエステルCE−19D(平均重合度10のポリグリセリンのカプリル酸エステルであって、モノエステル、ジエステル、トリエステル及びより高次のポリエステルの混合物である。)
デカグリセリンラウリン酸エステル:三菱化学フーズ(株)製リョートーポリグリエステルL−7D(平均重合度10のポリグリセリンのラウリン酸エステルであって、モノエステル、ジエステル、トリエステル及びより高次のポリエステルの混合物であり、デカグリセリン1モル部にラウリン酸0.7モル部を反応させて得られる。HLB値17)
デカグリセリンラウリン酸エステル:三菱化学フーズ(株)製リョートーポリグリエステルL−10D(平均重合度10のポリグリセリンのラウリン酸エステルであって、モノエステル、ジエステル、トリエステル及びより高次のポリエステルの混合物であり、デカグリセリン1モル部にラウリン酸1モル部を反応させて得られる。HLB値16)
デカグリセリンステアリン酸エステル:三菱化学フーズ(株)製リョートーポリグリエステルS−24D(平均重合度10のポリグリセリンのステアリン酸エステルであって、モノエステル、ジエステル、トリエステル及びより高次のポリエステルの混合物である。)
デカグリセリンオレイン酸エステル:三菱化学フーズ(株)製リョートーポリグリエステルO−15D(平均重合度10のポリグリセリンのオレイン酸エステルであって、モノエステル、ジエステル、トリエステル及びより高次のポリエステルの混合物である。)
ショ糖ラウリン酸エステル:三菱化学フーズ(株)製リョートーシュガーエステルL−1695
【0033】
ポリビニルピロリドンK−15:アイエスピー・ジャパン(株)製、重量平均分子量6000〜15000(カタログ値)
ポリビニルピロリドンK−30:アイエスピー・ジャパン(株)製、重量平均分子量40000〜80000カタログ値)
アクリル樹脂エマルジョン:昭和高分子(株)製ポリゾールPSA SE−1300N
【0034】
上記実施例及び比較例で得た水消去性水性インキ組成物をそれぞれ繊維束からなるペン先を有する中芯式マーキングペンに充填し、ポリプロピレン樹脂シート上に筆記したとき、筆記面上で筆跡が弾かれる程度、筆記面上に形成された筆跡の発色の程度とその水消去性を下記の基準で評価した。
【0035】
筆跡の弾き
筆跡が全く弾かれないときを○、筆跡が幾らか弾かれるときを△、筆跡が著しく弾かれるときを×とした。
【0036】
筆跡の発色
筆跡の発色が良好であるときを○、筆跡の発色が悪いときを×とした。
【0037】
筆跡の水消去性
ポリプロピレン樹脂シートからなる筆記面上に筆記して10分後に、水で濡らしたティッシューで筆跡を拭ったとき、筆跡が消去されたときを○とし、筆跡の一部が残ったときを△とし、筆跡の全部が残ったときを×とした。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
表1及び表2の結果から明らかなように、本発明によるインキ組成物は、レベリング剤としてデカグリセリンカプリル酸エステルを含有するので、非浸透性の筆記面上に弾かれることなく筆記することができ、しかも、その筆跡は、水消去性にもすぐれ、更に、発色性にもすぐれる。
【0041】
これに対して、比較例1のインキ組成物は、レベリング剤を何も含有しないので、筆記面に筆記するとき、筆跡は著しく弾かれる。比較例2〜6のインキ組成物は、レベリング剤がデカグリセリンカプリル酸エステルではないので、筆記面に筆記するとき、筆跡は幾らか又は著しく弾かれる。比較例7のインキ組成物は、レベリング剤としてデカグリセリンカプリル酸エステルを含有するものの、その量が少なすぎるので、筆記面上で筆跡は依然として弾かれる。比較例8のインキ組成物は、水溶性樹脂を含有しておらず、そのために、筆跡の発色性が悪いのみならず、筆跡の水消去性に劣る。比較例9のインキ組成物は、樹脂として、エマルジョンを含有するので、筆跡に水消去性はない。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)溶剤としての水、(b)水溶性染料、(c)水溶性樹脂、及び(d)デカグリセリンカプリル酸エステル0.5〜10重量%を含有することを特徴とする水消去性水性インキ組成物。
【請求項2】
水溶性染料が食用染料である請求項1に記載の水消去性水性インキ組成物。
【請求項3】
水溶性樹脂がポリビニルピロリドンである請求項1に記載の水消去性水性インキ組成物。
【請求項4】
水溶性染料0.5〜15重量%及び水溶性樹脂1〜20重量%を含有する請求項1に記載の水消去性水性インキ組成物。
【請求項5】
デカグリセリンカプリル酸エステル1〜5重量%を含有する請求項1に記載の水消去性水性インキ組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の水消去性水性インキ組成物を内蔵してなる水性マーキングペン。