説明

水溶性ポリウロン酸の製造方法

【課題】 本発明における課題は、環境や人体への悪影響が少ないという多糖類本来の利点を生かしつつ、多糖類に親水性を付与した、ポリウロン酸やその水溶液を水系で有機溶媒を用いずに製造する方法を提供することを目的とするものである。
【解決手段】 本発明は、少なくとも、多糖類を選択的に酸化する工程と、該酸化多糖類に多価カチオンを添加し沈殿を生じさせ、水洗する工程と、さらに脱塩工程によりなることを特徴とする、水溶性ポリウロン酸の製造方法を提供するものである。また、前記多価カチオンが、金属塩であることを特徴とする水溶性ポリウロン酸の製造方法を提供するものである。また、前記多価カチオンが、ポリアミンであることを特徴とする水溶性ポリウロン酸の製造方法を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多糖類由来の構造が均一なポリウロン酸の有機溶剤を用いない簡便な製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、天然多糖類は新しいタイプの生分解性高分子材料として、また生体親和材料として注目され、その利用について多くの研究がなされている。天然多糖類の中でも、セルロースやキチンは、水や一般的なその他の溶媒にほとんど溶解せず、従来その利用が限られていたが、様々な誘導体化が発明され、アセトンやクロロホルムなどの有機溶媒、さらには水にも溶解するような手法が開発されてきた。しかし、これらの誘導体はその置換基の分布が均一でないことや、合成された誘導体は天然には存在しない単糖から構成されるため、導入された置換基が環境や生体に影響を及ぼす恐れがあるなどの問題があった。
【0003】
そこで最近になって、多糖類をN−オキシル化合物の触媒存在下で酸化反応を行い、水溶性のポリウロン酸を得る手法が発明された。この酸化方法は、多糖類の水分散または溶解系で2、2、6、6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシラジカル(TEMPO)などのN−オキシル化合物と次亜塩素酸ナトリウムなどの共酸化剤を用いて系内でオキソアンモニウム塩を順次生成しながら多糖類を酸化する。デンプンやプルランなどの水溶性多糖類からセルロース、キチンなど様々な多糖類に適用されている。こうして酸化された多糖類はその一級水酸基のみが高い選択性で酸化され、カルボキシル基またはその塩に変換されたポリウロン酸型の構造を有する。この合成ポリウロン酸は、天然に存在する糖類からなる均一な構造を有し、高い水溶性を有するため、その有効性について様々な報告がなされている。
【0004】
このN−オキシル化合物を触媒に用いた多糖類の酸化は、水系の反応中、TEMPOなどのN−オキシル化合物のほかに臭化ナトリウムなどの触媒を用いるなどして、酸化が進行する。酸化の進行に伴い、カルボキシル基またはそのナトリウム塩が増加するに従い、デンプンなどの水溶性多糖類はもちろん、セルロースやキチンなどの難溶性の多糖類も親水性が付与され、水に可溶化する。
【0005】
反応終了後は、一般的に反応水溶液をエタノールなどの貧溶媒に滴下し、水溶化した酸化多糖類を析出させる。単離後は、反応の過程で生成する食塩やその他の試薬を除去するために、水を含んだ有機溶媒で洗浄を繰り返し、最後はアセトンで脱水した後、乾燥させる方法が一般的である。この場合、反応自体は水系の反応であるが、単離精製に多量の有機溶媒を使用することになる。
あるいは、反応水溶液を透析にかけ、透析後の水溶液を凍結乾燥させる方法もとられるが、処理が大掛かりとなり、用途が限られ、大量生産には向かない。
【特許文献1】特開2002−360524
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明の課題は、環境や人体への悪影響が少ないという多糖類本来の利点を生かしつつ、多糖類に親水性を付与した、ポリウロン酸やその水溶液を水系で有機溶媒を用いずに製造する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、少なくとも、多糖類を選択的に酸化する工程と、該酸化多糖類に多価カチオンを添加し沈殿を生じさせ、水洗する工程と、さらに脱塩工程によりなることを特徴とする、化学式(1)から(3)のいずれかで表される水溶性ポリウロン酸の製造方法である。
【0008】
【化2】

【0009】
請求項2に記載の発明は、前記酸化工程が、多糖類を水系で分散または溶解させ、N−オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いて酸化することを特徴とする請求項1に記載の水溶性ポリウロン酸の製造方法である。
【0010】
請求項3に記載の発明は、前記多価カチオンが、金属塩であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の水溶性ポリウロン酸の製造方法である。
【0011】
請求項4に記載の発明は、前記多価カチオンが、アルカリ土類金属塩であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の水溶性ポリウロン酸の製造方法である。
【0012】
請求項5に記載の発明は、前記アルカリ土類金属塩が、カルシウム塩であることを特徴とする請求項4に記載の水溶性ポリウロン酸の製造方法である。
【0013】
請求項6に記載の発明は、前記多価カチオンが、ポリアミンであることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の水溶性ポリウロン酸の製造方法である。
【0014】
請求項7に記載の発明は、前記多糖類がでんぷん、セルロース、キチン、キトサン、プルランから選ばれる1種、または2種以上の混合物であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の水溶性ポリウロン酸の製造方法である。
【0015】
請求項8に記載の発明は、前記脱塩工程が、ポリウロン酸多価カチオン塩の懸濁液をイオン交換樹脂に通して脱塩することを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の水溶性ポリウロン酸の製造方法である。
【0016】
請求項9に記載の発明は、前記請求項1から8のいずれかに記載の製造方法により製造されることを特徴とする水溶性ポリウロン酸である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の製造方法により、化学構造が制御されたウロン酸構造を有する天然多糖類由来の親水性を付与したポリウロン酸を、水系で有機溶剤を用いることなく製造することが可能となる。また、有機溶剤を用いないことにより、生成物の安全性が高まったうえ、これらのポリウロン酸は容易に生分解し、生体親和性が高く、さらにはその後の改質などの処理を阻害し得る、ナトリウムなどの金属イオンの少ないポリウロン酸が生成することから、工業用汎用用途としての利用の他、医療用材料、薬品、食品、衛生用品、化粧品等として利用することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の製造方法で調整されるウロン酸残基を持つ水溶性または水分散性多糖類は、多糖類の酸化により得られる。酸化される前の多糖類には、でんぷんやプルラン、ヒアルロン酸などの水溶性多糖類、さらにはセルロースやキチン等を用いることができる。原料の調達、コスト、期待される機能、また、構造をほとんど変えずに水溶化することができるといった利点を考えると、でんぷん、セルロース、キチンを用いることがより好ましい。
【0019】
セルロースやキチンなど結晶性の高い多糖類を原料とする場合は、前処理として再生処理などの結晶性を低下させるための処理を行うことが好ましい。セルロースの再生処理としては、キュプラアンモニウム法、ビスコース法等の公知の再生処理方法を利用することができる。また、キチンの再生処理としても、再生後キチンの結晶性が低下していれば、その処理は限定されるものではないが、その後の利用等を考えると、再生処理により分子の切断などが起こることは好ましくない。そこで、例えばアルカリ再生処理が挙げられる。キチンを高濃度のアルカリに浸漬後、氷を加えながら低温下で希釈していくことにより、粘調な液体となる。ここに塩酸を加えて中和すると、フレーク状のキチンが析出する。この得られたキチンはほぼ非晶質化しており、これを十分に水洗して乾燥させずにまたは凍結乾燥した後に、酸化反応に供することにより、分子量低下を極力抑え、ほぼ全てのピラノース環6位の一級水酸基のみをカルボキシル基にまで酸化することができる。
【0020】
また、キチンの脱アセチル化物であるキトサンを原料に、均一反応下でN−アセチル化した材料を酸化反応に供してもよい。例えば、キトサンを酢酸に溶解し、メタノールで希釈後、キトサン中のアミノ基量に対して1.5〜3倍モル量の無水酢酸を添加することで、容易にN−アセチル化して、再びキチンの化学構造に戻すことができる。この操作を経て、十分に水洗したものを乾燥させずに、あるいは凍結乾燥して、酸化反応に供することにより、アルカリ再生キチン同様に6位の一級水酸基のみ選択性高く酸化される。さらにこの場合には、無水酢酸の添加量により酸化原料のN−アセチル化度をコントロールすることも可能である。
【0021】
このような多糖類の酸化によりポリウロン酸を得る酸化方法としては、一級水酸基の酸化に対する選択性が高く、できるだけ均一構造のものを得られる酸化方法をとるべきであり、N−オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いた手法が好ましい。この選択的酸化手法は、酸化度の制御が可能で、かつピラノース環の2位や3位を酸化することなく、ほとんど全てのピラノース環6位をカルボキシル基まで酸化することができる。また、水系で酸化反応を行うことが可能である。
【0022】
上記N−オキシル化合物としては、2、2、6、6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル(以下、TEMPO)などが好ましく用いられる。また、上記共酸化剤としては、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸や過ハロゲン酸、またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、窒素酸化物、過酸化物など、目的の酸化反応を促進し得る酸化剤であれば、いずれの酸化剤も使用できる。さらに、臭化物やヨウ化物の共存下で酸化反応を行うと、温和な条件下でも酸化反応を円滑に進行させ、カルボキシル基の導入効率を大きく改善できるため、より好ましい。N−オキシル化合物にはTEMPOを用い、臭化ナトリウムの存在下、共酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムを用いて酸化反応を行うことが特に好ましい。
【0023】
ここで、N−オキシル化合物は触媒としての量で済み、例えば、多糖類の構成単糖のモル数に対し、10ppm〜5%(ppc)であれば十分であるが、0.05〜3%がより好ましい。また、臭化物またはヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択することができ、例えば、多糖類の構成単糖のモル数に対し0〜100%、より好ましくは1〜50%である。
【0024】
また、構成単糖の一級水酸基への酸化の選択性を向上させ、副反応を抑える目的で、反応温度は室温以下、より好ましくは系内を5℃以下で反応させることが望ましい。さらに、反応中は系内をアルカリ性に保つことが好ましい。このときのpHは9〜12、より好ましくはpH10〜11に保つとよい。
【0025】
さらにこの酸化方法は、酸化剤の量およびpHを一定に保つ際に添加されるアルカリの量により酸化度を制御することができる。例えば、アルカリが糖残基と等モル量添加されれば、ほぼ全てのピラノース環6位の一級水酸基がカルボキシル基にまで酸化され、水溶性のポリウロン酸が得られる。
【0026】
例えば、でんぷんから得たポリウロン酸は、α−1、4−グルコピラノースおよびα−1、4−グルクロン酸を構成単糖とし、セルロースから得たポリウロン酸はβ−1、4−グルコピラノースおよびβ−1、4−グルクロン酸を構成単糖とし、キチンから得たポリウロン酸はβ−1、4−グルコサミンおよびβ−1、4−N−アセチルグルコサミンおよびβ−1、4−グルコサミヌロン酸およびβ−1、4−N−アセチルグルコサミヌロン酸を構成単糖に有している。以後、これらのポリウロン酸を順に、アミロウロン酸、セロウロン酸、キトウロン酸と称する。
【0027】
このように、例えば、臭化ナトリウムとTEMPOが触媒量存在する水溶液中で、次亜塩素酸ナトリウムを共酸化剤として用い、水酸化ナトリウムを用いてpH調整を行い、アルカリ系で酸化処理されて得られるポリウロン酸は、カルボキシル基のナトリウム塩として水に溶解している。
【0028】
次に、生成したポリウロン酸を多価カチオンで沈殿させ、水洗いする工程について述べる。ここで用いられる多価カチオンとしては、反応生成物中に存在するカルボキシル基の対イオンを交換し、沈殿、すなわち水に不溶化するものであれば、特に限定されるものではなく、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、シリカ、チタン、バナジウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、銀、バリウムなど、アルカリ土類金属塩を含めた様々な金属塩、またはポリアミンなどの有機多価カチオンなどが挙げられ、用途および必要物性などにより自由に選択することができる。例えば、抗菌性付与などの目的で利用するのには、銅、銀、または亜鉛などの多価金属を選択する。しかし、生成物の安全性、その後の脱塩処理の行い易さ、コストなどの面から、カルシウム塩であることが特に好ましい。また、カルシウム塩としては、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、硝酸カルシウム、クエン酸カルシウムおよび酢酸カルシウムなどの水溶性カルシウム塩が、過剰のカルシウム塩の水洗過程での除去の面から好ましい。
【0029】
多価カチオンで沈殿させる手法においては、特に限定されるものではないが、例えばポリウロン酸カルボキシル基量に対し、十分量の上記カチオンを含む水溶液を調製し、ポリウロン酸を含む水溶液系内に添加する。
多価カチオンとしてカルシウム塩を用いた場合を例にすると、ナトリウム塩として存在するポリウロン酸は、ナトリウムがカルシウムに速やかに交換され、不溶化して沈殿する。この交換反応は比較的速やかに生じる。
【0030】
さらに、この沈殿を生成させる工程の前に、反応液をろ過し、反応不十分な未溶解物などの不純物を取り除く工程を行ってもよい。
【0031】
次に、この沈殿物であるポリウロン酸多価カチオン塩を水で十分洗浄する。本発明のポリウロン酸多価カチオン塩の沈殿物は、カチオンを経由してポリマーのカルボキシル基が架橋する構造となるため、イオン交換水や蒸留水などで洗浄する際に、流出によるロスも少なく、デカンテーション、ろ過などにより容易に洗浄を行うことが可能である。洗浄の際に、酸化反応で用いた試薬や生成した塩、過剰のカルシウム塩などを除去することができる。
【0032】
ここで、単離されたポリウロン酸のカルシウム塩は安定な構造を有しており、乾燥した粉末状態で保存しておくこともできる。乾燥には、風乾、加熱乾燥、凍結乾燥など様々な方法を用いることができる。
【0033】
次に、脱塩の工程について説明する。上記のような酸化方法と洗浄工程とにより得られたポリウロン酸多価カチオン塩、例えばカルシウム塩(COOCa型)を水に分散させ、酸処理し、エタノールで再沈、洗浄、乾燥の操作を行う、あるいは、透析により不純物を除去することで、COOH型の脱塩したポリウロン酸を得ることができる。また、上記の水分散液をイオン交換樹脂で処理することによっても、脱塩したポリグルクロン酸を得ることができる。全ての処理を水系で行うことを考えると、このイオン交換樹脂を用いた方法がより好ましく、処理した水溶液からイオン交換樹脂を分離できるものでイオン含有量の少ないものは、そのままポリウロン酸水溶液として利用することも可能である。また、この水溶液を凍結乾燥することで、乾燥したポリウロン酸を得ることができる。
【0034】
さらに、本発明の製造方法により得られたポリウロン酸は、水酸基などと比較して反応性の高いカルボキシル基を有している。カルボキシル基の反応においては、カルボキシル基が塩を形成しているより、COOH型を形成している方が反応効率の面から好ましい。本発明の製造方法により得ることができるポリウロン酸はCOOH型であっても、高い水溶性を示すため、二次修飾の反応原料としても非常に有効である。
特に、前記したキトウロン酸やアミロウロン酸は、COOH型でも水溶性を示し、pH1〜14の広いpH域で高い水溶性を示す。
【0035】
以下、本発明を実施例に基いて詳細に説明するが、本発明の技術範囲はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0036】
はじめに、実施例、比較例に用いる原料となるN−アセチル化キトサンの製造例について説明する。
【0037】
<製造例1>
(N−アセチル化キトサンの調製)
脱アセチル化度100%のキトサンとして、大日精化工業(株)製ダイキトサン100D(VL)を用い、このキトサン10gを10%酢酸190gに溶解し、メタノール1Lで希釈し、撹拌しながら無水酢酸12.68gを加えると数分でゲル化した。これを15時間放置後、さらにメタノール1Lを加えてホモジナイザーで撹拌し、2N−NaOH水溶液を加えてpH7に中和し、これをろ過して、メタノール及び脱イオン水で十分に洗浄した後、凍結乾燥させてN−アセチル化キトサン11.6gを得た。元素分析によるN−アセチル化度は95%であった。
【実施例1】
【0038】
(キトウロン酸の調製)
前記製造例1において調製したN−アセチル化キトサン10gを蒸留水400gに懸濁し、蒸留水100gにTEMPOを0.1g、臭化ナトリウム2.0gを溶解した溶液を加え、5℃以下まで冷却した。ここに11%濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液84gを滴下により添加し、酸化反応を開始した。反応温度は常に5℃以下に維持した。反応中は系内のpHが低下するが、0.5N−NaOH水溶液を逐次添加し、pH10.75に調整した。そして、6位の一級水酸基の全モル数に対し、100%のモル数に対応するアルカリ添加量に達した時点で、エタノールを添加し、反応を停止させた。予め100gの水に11gの塩化カルシウムを溶解させた水溶液を系内に添加すると、白色の沈殿が生じた。この沈殿物を蒸留水で繰り返し洗浄し、キトウロン酸カルシウム塩を得た。得られたキトウロン酸カルシウム塩をさらに100gの水に懸濁させ、H型に再生処理したイオン交換樹脂(オルガノ(株)製アンバーライトIR120)70mLをつめたカラムに通し、脱塩処理を行った。得られたキトウロン酸水溶液を凍結乾燥し、白色粉末のキトウロン酸8.7gを得た。
【実施例2】
【0039】
(アミロウロン酸の調製)
コンスターチ10gを蒸留水400gに加熱溶解させ冷却した。この溶液に、蒸留水100gにTEMPOを0.18g、臭化ナトリウム2.5gを溶解した溶液を加え、11%濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液104gを滴下により添加し、酸化反応を開始した。反応温度は常に5℃以下に維持した。反応中は系内のpHが低下するが、0.5N−NaOH水溶液を逐次添加し、pH10.75に調整した。そして、6位の一級水酸基の全モル数に対し、100%のモル数に対応するアルカリ添加量に達した時点で、エタノールを添加し、反応を停止させた。予め100gの水に11gの塩化カルシウムを溶解させた水溶液を系内に添加すると、白色の沈殿が生じた。この沈殿物を蒸留水で繰り返し洗浄し、アミロウロン酸カルシウム塩を得た。得られたアミロウロン酸カルシウム塩を100gの水に懸濁させ、H型に再生処理したイオン交換樹脂(オルガノ(株)製アンバーライトIR120)70mLをつめたカラムに通し、脱塩処理を行った。得られたアミロウロン酸水溶液を凍結乾燥し、白色粉末のアミロウロン酸8.7gを得た。
【実施例3】
【0040】
(セロウロン酸の調製)
再生セルロースとして旭化成工業(株)製ベンリーゼを用い、再生セルロース10gを蒸留水400gに懸濁し、蒸留水100gにTEMPOを0.18g、臭化ナトリウム2.5gを溶解した溶液を加え、5℃以下まで冷却した。ここに11%濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液104gを滴下により添加し、酸化反応を開始した。反応温度は常に5℃以下に維持した。反応中は系内のpHが低下するが、0.5N−NaOH水溶液を逐次添加し、pH10.75に調製した。そして、6位の一級水酸基の全モル数に対し、100%のモル数に対応するアルカリ添加量に達した時点で、エタノールを添加し、反応を停止させた。予め100gの水に11gの塩化カルシウムを溶解させた水溶液を系内に添加すると、白色の沈殿が生じた。この沈殿物を蒸留水で繰り返し洗浄し、セロウロン酸カルシウム塩を得た。得られたセロウロン酸カルシウム塩をさらに1Lの水に懸濁させ、H型に再生処理したイオン交換樹脂(オルガノ(株)製アンバーライトIR120)70mLをつめたカラムに通し、脱塩処理を行った。得られたセロウロン酸水溶液を凍結乾燥し、白色粉末のセロウロン酸9.8gを得た。
【実施例4】
【0041】
水溶性でんぷん(ACROS社製)1.0gを、5%濃度で蒸留水に均一に分散させた。ここに、TEMPO19mg、臭化ナトリウム0.25gを溶解させた水溶液を加え、アミロースの固形分濃度が約2wt%になるよう調製した。反応系を冷却し、11%次亜塩素酸ナトリウム水溶液3.0gを添加し、酸化反応を開始した。反応温度は常に5℃以下に維持した。反応中は系内のpHが低下するが、0.5N NaOH水溶液を逐次添加し、pH10.8付近に調整するとともに、さらに11%次亜塩素酸ナトリウム水溶液8.0gを反応の進行に応じて調整しながら滴下した。グルコース残基の全モル数に対し、100%のモル数に対応するアルカリ添加量に近づくと、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の滴下に関係なく、アルカリの添加速度は遅くなり、系内は完全に溶解して、黄色の均一な溶液となった。アルカリ添加量がグルコース残基の全モル数に対し、100%(12.34ml)に達した時点で、エタノールを添加して反応を停止させた。反応時間は2時間であった。予め10gの水に1.1gの塩化カルシウムを溶解させた水溶液を系内に添加すると、白色の沈殿が生じた。この沈殿物を蒸留水で繰り返し洗浄し、アミロウロン酸カルシウム塩を得た。アミロウロン酸カルシウム塩を100gの水に懸濁させ、H型に再生処理したイオン交換樹脂(オルガノ(株)製アンバーライトIR120)70mLを加え、脱塩処理を行った。このアミロウロン酸水溶液からイオン交換樹脂を取り除き凍結乾燥し、白色粉末のアミロウロン酸8.7gを得た。
【0042】
<比較例>
水溶性でんぷん(ACROS社製)1.0gを、5%濃度で蒸留水に均一に分散させた。ここに、TEMPO19mg、臭化ナトリウム0.25gを溶解させた水溶液を加え、アミロースの固形分濃度が約2wt%になるよう調製した。反応系を冷却し、11%次亜塩素酸ナトリウム水溶液3.0gを添加し、酸化反応を開始した。反応温度は常に5℃以下に維持した。反応中は系内のpHが低下するが、0.5N NaOH水溶液を逐次添加し、pH10.8付近に調整するとともに、さらに11%次亜塩素酸ナトリウム水溶液8.0gを反応の進行に応じて調整しながら滴下した。グルコース残基の全モル数に対し、100%のモル数に対応するアルカリ添加量に近づくと、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の滴下に関係なく、アルカリの添加速度は遅くなり、系内は完全に溶解して、黄色の均一な溶液となった。アルカリ添加量がグルコース残基の全モル数に対し、100%(12.34ml)に達した時点で、エタノールを添加して反応を停止させた。反応時間は2時間であった。この反応溶液を過剰量のエタノール中に投入して、生成物を再沈させた。さらに、水:アセトン=1:7の溶液により十分洗浄した後、アセトンで脱水して、40℃減圧乾燥して、白色粉末状のポリグルクロン酸のナトリウム塩1.2gを得た。得られたポリグルクロン酸のナトリウム塩1.0gを40mlの蒸留水に溶解し、撹拌しながら、pH1になるまで2N塩酸を添加した。溶液は透明な溶液のままであった。この溶液を過剰量のエタノール中に投入し、生成物を再沈させた。さらに、水:アセトン=1:7の溶液により十分洗浄した後、アセトンで脱水して、40℃減圧乾燥して、白色粉末状の脱塩したアミロウロン酸0.8gを得た。
【0043】
従来の製造方法である比較例では多量の有機溶剤を用いているが、本発明の製造方法を用いることにより、単離精製の工程において有機溶剤を用いずに水溶性のポリウロン酸を得ることが可能である。さらに、実施例4と比較例とを比較すると明らかなように、本発明の製造方法を用いることにより、非常に高い収率で水溶性のポリウロン酸を得ることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明により、有機溶剤を用いることなくポリウロン酸を製造することが可能となり、生成物の安全性が高まったうえ、これらのポリウロン酸は容易に生分解し、生体親和性が高く、さらにはその後の改質などの処理を阻害し得る、ナトリウムなどの金属イオンの少ないポリウロン酸が生成することから、工業用汎用用途としての利用の他、医療用材料、薬品、食品、衛生用品、化粧品等として利用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、多糖類を選択的に酸化する工程と、該酸化多糖類に多価カチオンを添加し沈殿を生じさせ、水洗する工程と、さらに脱塩工程によりなることを特徴とする、化学式(1)から(3)のいずれかで表される水溶性ポリウロン酸の製造方法。
【化1】

【請求項2】
前記酸化工程が、多糖類を水系で分散または溶解させ、N−オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いて酸化することを特徴とする請求項1に記載の水溶性ポリウロン酸の製造方法。
【請求項3】
前記多価カチオンが、金属塩であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の水溶性ポリウロン酸の製造方法。
【請求項4】
前記多価カチオンが、アルカリ土類金属塩であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の水溶性ポリウロン酸の製造方法。
【請求項5】
前記アルカリ土類金属塩が、カルシウム塩であることを特徴とする請求項4に記載の水溶性ポリウロン酸の製造方法。
【請求項6】
前記多価カチオンが、ポリアミンであることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の水溶性ポリウロン酸の製造方法。
【請求項7】
前記多糖類がでんぷん、セルロース、キチン、キトサン、プルランから選ばれる1種、または2種以上の混合物であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の水溶性ポリウロン酸の製造方法。
【請求項8】
前記脱塩工程が、ポリウロン酸多価カチオン塩の懸濁液をイオン交換樹脂に通して脱塩することを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の水溶性ポリウロン酸の製造方法。
【請求項9】
前記請求項1から8のいずれかに記載の製造方法により製造されることを特徴とする水溶性ポリウロン酸。