説明

水溶性ポリマーの製造方法

【課題】ポリビニルアミン又はポリアミジンから成る水溶性ポリマーの製造方法であって、変性工程で塩酸を使用しながらも水溶性ポリマー粒子同志の合着現象を抑制した、工業的に有利な上記の製造方法を提供する。
【解決手段】疎水性有機溶媒中、乳化剤の存在下、N−ビニルカルボン酸アミド又はこれと他の共重合成分および重合開始剤を含む単量体水溶液を懸濁重合させて(共)重合体粒子のスラリーを得る重合工程、得られた(共)重合体粒子のスラリーに塩酸を添加して変性する変性工程を順次に包含するスラリー状の水溶性ポリマーの製造方法であって、重合工程における単量体水溶液中の単量体濃度を20〜80重量%とし、変性工程における塩酸の濃度を25〜40重量%とし、そして、重合工程と変性工程との間に蒸留脱水工程を設け、変性工程における塩酸に同伴される水分量を含めて計算される重合系内の水分量を35重量%以下になるように蒸留脱水する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性ポリマーの製造方法に関し、詳しくは、ポリビニルアミン又はポリアミジンから成るスラリー状又は粒状の水溶性ポリマーの製造方法に関する。ポリビニルアミン及びポリアミジンは、凝集剤、製紙用薬剤、繊維処理剤、塗料添加剤などとして広く利用されている有用な物質である。なお、以下の説明において、水溶性ポリマーの用語は、ポリビニルアミン又はポリアミジンを意味するものとする。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアミンはN−ビニルカルボン酸アミドを重合した後に加水分解することにより得られ、また、ポリアミジンはN−ビニルカルボン酸アミド及び(メタ)アクリロニトリルを共重合した後に加水分解およびアミジン化することによって得られる。なお、以下の説明において、上記の加水分解またはこれとアミジン化をまとめて「変性」と総称する。
【0003】
上記の(共)重合法としては、水溶液重合や断熱重合の他、(逆相)懸濁重合が知られている。この懸濁重合は、(共)重合体粒子を得る方法であり、疎水性有機溶媒中、乳化剤の存在下、単量体および重合開始剤を含む水溶液を懸濁させて重合する方法である。
【0004】
粒状の水溶性ポリマーを得るための加水分解方法としては、懸濁重合の後に共沸蒸留脱水して得られた水分5重量%以下の乾燥状態の重合体粒子に塩化水素ガスを接触させる方法が知られている(特許文献1)。また、懸濁重合後の反応液に塩化水素ガスまたは塩酸を導入する方法(特許文献2〜7)も良く知られている。この場合、粒状の水溶性ポリマーは、変性で得られた水溶性ポリマースラリー(懸濁液)を(共沸)蒸留脱水し、更に、回収した水溶性ポリマーを乾燥することにより得られる。
【0005】
ところで、本発明者が、単量体濃度20〜80重量%の単量体水溶液を使用して懸濁重合を行い、得られた懸濁重合後の反応液について変性を試みた結果、塩化水素ガスを使用した場合は問題ないものの、塩酸を使用した場合は得られる水溶性ポリマー粒子の一部が合着するという問題が見出された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平4−36162号公報
【特許文献2】特開平5−86115号公報
【特許文献3】特開平5−86127号公報
【特許文献4】特開平5−97931号公報
【特許文献5】特開平5−125117号公報
【特許文献6】特開平5−255565号公報
【特許文献7】特開平6−329718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、ポリビニルアミン又はポリアミジンから成るスラリー状又は粒状の水溶性ポリマーの製造方法であって、変性工程で塩酸を使用しながらも水溶性ポリマー粒子同志の合着現象が抑制された、工業的に有利な上記の製造方法を提供することにある。
【0008】
本発明者は、水溶性ポリマー粒子同志の合着現象の原因を究明すべく鋭意検討した結果、変性前の(共)重合体粒子の水分量を一定の範囲に制御することにより上記の合着現象が抑制されるとの知見を得た。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の知見を基に更に検討を重ねた結果完成されたものであり、その第1の要旨は、疎水性有機溶媒中、乳化剤の存在下、N−ビニルカルボン酸アミド又はこれと他の共重合成分および重合開始剤を含む単量体水溶液を懸濁重合させて(共)重合体粒子のスラリーを得る重合工程、得られた(共)重合体粒子のスラリーに塩酸を添加して変性する変性工程を順次に包含するスラリー状の水溶性ポリマーの製造方法であって、重合工程における単量体水溶液中の単量体濃度を20〜80重量%とし、変性工程における塩酸の濃度を25〜40重量%とし、そして、重合工程と変性工程との間に蒸留脱水工程を設け、変性工程における塩酸に同伴される水分量を含めて計算される重合系内の水分量を35重量%以下になるように蒸留脱水することを特徴とするスラリー状の水溶性ポリマーの製造方法に存する。
【0010】
また、本発明の第2の要旨は、上記の方法で得られた水溶性ポリマースラリーを蒸留脱水し、回収した水溶性ポリマーを乾燥することを特徴とする粒状の水溶性ポリマーの製造方法に存する。そして、本発明の好ましい態様においては、蒸留脱水の前に水溶性ポリマースラリーにメタノールを添加し、酸変性によって副生したギ酸をエステル化して蒸留脱水により除去する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば工業的に有利な水溶性ポリマーの製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
<(共)重合>
本発明においては、(共)重合方法としては、懸濁重合、すなわち、疎水性有機溶媒(分散媒)中、乳化剤の存在下、単量体および重合開始剤を含む単量体水溶液を懸濁重合する方法を採用する。
【0014】
疎水性有機溶媒としては、基本的に水に難溶性で且つ重合反応に不活性であれば、如何なるものも使用できる。その一例を挙げれば、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環状炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素などが挙げられる。水と共沸する溶媒(共沸脱水溶媒)を選択するならば、後述の蒸留脱水工程を有利に行うことが出来る。上記の列挙した疎水性有機溶媒は何れも共沸脱水溶媒である。疎水性有機溶媒と後述の単量体水溶液の量比(容量比)は、通常10:1〜1:10、好ましくは5:1〜1:5である。
【0015】
乳化剤としては、通常、W/O(油中水滴)型乳化が可能な界面活性剤が使用される。斯かる界面活性剤としては、HLB(Hydrophilic Lipophilic Balance)が通常9〜20、好ましくは12〜19のノニオン系界面活性剤が好適であり、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、モリグリセリド、ソルビトールアルキルエステル、スクロースアルキルエステル等であり、好ましくは、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルである。具体的には、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウレート、ポリオキシエチレンオレエート、ポリオキシエチレンステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンステアレート等の化合物が例示される。乳化剤の使用量は、疎水性有機溶媒に対し、通常0.01〜5重量%、好ましくは0.05〜1重量%の範囲から適宜選択される。
【0016】
本発明で使用するN−ビニルカルボン酸アミドとしては、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルプロピルアミド等が例示される。これらの中では、N−ビニルホルムアミド(CH2=CHNHCHO)は、重合性が高くて高分子量重合体が得られ易いこと、加水分解によるポリビニルアミンへの変換が容易なこと等から好ましい。N−ビニルカルボン酸アミドは、単独重合させてもエチレン性不飽和結合を有する任意の単量体と共重合させてもよい。
【0017】
共重合させ得る単量体としては、(メタ)アクリル酸およびその塩、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、N−アルキル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド、ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリルアミド及びその塩あるいは4級化物、ジアルキルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド及びその塩あるいは4級化物、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート及びその塩あるいはその4級化物、ジアセトンアクリルアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、酢酸ビニル等が例示される。
【0018】
ポリビニルアミンを製造する際、単量体組成物中のN−ビニルホルムアミドの含有割合は、通常50モル%以上、好ましくは90〜100モル%である。
【0019】
一方、ポリアミジンを製造する際はN−ビニルカルボン酸アミドと(メタ)アクリロニトリルとの共重合が行われる。N−ビニルカルボン酸アミドと(メタ)アクリロニトリルとのモル比は、後述するアミジン化反応の観点から、通常20:80〜80:20、好ましくは30:70〜70:30である。
【0020】
上記の単量体は水溶液として使用され、その濃度は、20〜80重量%、好ましくは50〜80重量%、更に好ましくは60〜80重量%である。単量体水溶液中の単量体濃度が20重量%未満の場合は、重合中に合着し易くて懸濁重合が困難となり、また、分子量も上がらない。一方、80重量%を超える場合は、発熱が大きくてその除去が困難となって分子量の低下を惹起し、また、水不溶分が多くなる。単量体水溶液は、回分仕込みでも連続滴下仕込みでもよい。また、分散媒と単量体水溶液の量比(容量比)は、通常10:1〜1:10、好ましくは5:1〜1:5である。
【0021】
重合開始剤としては、一般的なラジカル重合開始剤を使用することが出来るが、アゾ化合物が好ましい。特に好ましいラジカル重合開始剤は水溶性のアゾ化合物であり、その具体例としては、2,2′−アゾビス−2−アミジノプロパンの塩酸塩、硫酸塩および酢酸塩、アゾビス−N,N′−ジメチレンイソブチルアミジンの塩酸塩、硫酸塩および酢酸塩、4,4′−アゾビス−4−シアノ吉草酸のアルカリ金属塩およびアンモニウム塩などが例示される。ラジカル重合開始剤の使用量は、単量体に対し、重量基準として、通常100〜10000ppm、好ましくは500〜5000ppmである。ラジカル重合開始剤は単量体水溶液に溶解して使用される。
【0022】
本発明においては、緩衝液などの重合安定剤を使用してもよい。重合安定剤としては、塩化アンモニウム、リン酸ナトリウム等が挙げられる。重合安定剤の使用量は、単量体に対し、通常0.1〜20重量%、好ましくは1〜15重量%である。
【0023】
重合温度は、通常30〜100℃、好ましくは50〜80℃である。pHは通常5〜9である。pHがこの範囲を外れると、N−ビニルカルボン酸アミド、特にN−ビニルホルムアミドの加水分解によるロスが増加する。また、重合時間は、通常0.5〜10時間、好ましくは1〜8時間である。なお、重合に際しては、重合熱が発生するので、通常、重合系を冷却することにより、重合温度が上記範囲内に保持されるように調節される。
【0024】
重合操作としては、乳化剤を含む疎水性有機溶媒(分散媒)を所定の重合温度に保持し、窒素ガス気流中、攪拌下、重合開始剤を含む単量体水溶液を分散媒中に添加する方法が例示されるが、単量体、溶媒、助剤の混合順次は特に限定されるものではない。
【0025】
本発明においては、前記の(共)重合の後、公知の不溶化防止剤を使用して不溶化防止処理を行うことが好ましい。不溶化防止処理とは、加水分解に先立ち又は加水分解と平行して、残存する単量体が分解して生じるアルデヒド基がオキシム化反応や酸化還元反応などを起こすのを防止するため、アルデヒド基との反応性が高い物質(不溶化防止剤)を添加する処理である。不溶化防止剤としては、特開平5−86127号公報や特開5−125109号公報に示されているような、ヒドロキシルアミン又はその塩酸塩若しくは硫酸塩、過酸化水素、水素化硼素ナトリウム、アスコルビン酸、硫酸水素ナトリウム、二酸化硫黄、亜二チオン酸ナトリウム、アミノグアニジン、フェニルヒドラジン、尿素、エチレン尿素、プロピレン尿素、アンモニア、塩化アンモニウム、或いは硫酸アンモニウム等が挙げられる。特に、ヒドロキシルアミン、ヒドロキシルアミン塩酸塩、ヒドロキシルアミン硫酸塩、水素化硼素ナトリウム、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム等が好適である。
【0026】
不溶化防止剤の使用量は、(共)重合体中に残存する単量体量によって異なるが、重合時の転化率が98%以上の場合、(共)重合体100重量部に対し、通常0.1〜15重量部、好ましくは1〜10重量部である。
【0027】
前記の(共)重合においては(共)重合体粒子はスラリーとして得られる。重合体粒子の装置などへの付着を緩和するため付着防止剤を使用することが出来る。付着防止剤としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンカルボン酸エステル、アルキレングリコールアルキルエーテル等のノニオン界面活性剤;テトラアルキル4級アンモニウム塩、トリアルキルベンジル4級アンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩などのカチオン界面活性剤;シリコーンオイル、シリコーンエマルション等のシリコーン類などが例示される。これらは2種以上を併用してもよい。付着防止剤の使用量は、(共)重合体100重量部に対し、通常0.1〜10重量部、好ましくは0.3〜5重量部である。付着防止剤は、重合段階から使用することも可能である。
【0028】
<蒸留脱水工程>
本発明においては、重合工程と変性工程との間に設けられた蒸留脱水工程において、重合系内の水を蒸留脱水することが重要である。通常、蒸留脱水工程は、(共)重合体粒子のスラリーを撹拌下に加熱する単蒸留方式によって行われるが、疎水性有機溶媒として共沸脱水溶媒を選択している場合は、水の沸点以下の温度で水を除去することが出来る利点がある。
【0029】
蒸留脱水工程で除去する水の量は、次工程である変性工程における塩酸(25〜40重量%の塩酸)に同伴される水分量を含めて計算される重合系内の水分量が35重量%以下になる量である。ここで、重合系内の水分量とは、重合系に存在する全ての成分に対する水の割合であり、この水の量は、通常、変性工程で使用される塩酸に同伴される水分量に重合工程で使用された単量体水溶液中の水分量を加えた合計量である。上記の重合系内の水分量は、好ましくは30重量%以下であり、その下限は通常5重量%である。
【0030】
なお、本発明において、上記のようの重合系内の水分量を制御する理由は次の通りである。すなわち、変性により得られる水溶性ポリマー粒子同志の合着現象が惹起される理由は、必ずしも、明らかではないが、懸濁重合で得られた疎水性有機溶媒中の(共)重合体粒子の表面の含水率が塩酸に同伴される水分によって高められて粒子表面の粘着性が高くなることと、変性により得られる水溶性ポリマー粒子の親水性は(共)重合体のそれよりも遥かに大であることに起因しているものと推定される。そこで、塩酸に同伴される水の量を考慮した上で重合系内の水の量を上記のように制御するならば、合着現象が惹起される程に(共)重合体粒子の表面の含水率が高められることがなく、その結果、水溶性ポリマー粒子同志の合着現象が阻止されると推定される。
【0031】
<加水分解>
本発明においては濃度25〜40重量%の塩酸を使用する。一般に入手し易い製品は塩化水素濃度が35重量%のものであるが、塩化水素濃度が37重量%のものも濃塩酸として市販されている。塩化水素濃度が25重量%未満の希塩酸では加水分解速度が低下する恐れがある。塩化水素濃度が40重量%を超えるものは、調製可能であるが、塩化水素の揮発が早く(蒸気圧が高く)、保管・使用に際して温度や圧力などに特別の注意を要する欠点がある。酸(HCl)の使用量は、所望する加水分解率によって異なるが、目的とするポリビニルアミン中のビニルアミン単位に対し、通常0.8〜2倍当量、好ましくは1〜1.5倍当量である。加水分解率は、N−ビニルカルボン酸アミド単量体単位に対する割合として、通常0.1〜100モル%、好ましくは1〜95モル%である。
【0032】
加水分解は通常20℃〜90℃で行われる。反応時間は、温度によって異なるが、通常1分から1週間である。加水分解により、N−ビニルカルボン酸アミド重合体は、カチオン性のポリビニルアミン(塩)に変換される。(メタ)アクリロニトリルを共重合している場合は、加水分解条件によっては生成したアミンの一部が後述のアミジン化することがある。
【0033】
<アミジン化>
アミジン化は、分子内にアミジン環を形成する反応であり、アミノ基と隣接するシアノ基が反応してアミジン環を形成する。アミジン化は加水分解後に行っても加水分解と共に行ってもよい。そして、アミジン化率は、通常60〜150℃、好ましくは80〜120℃の熱処理(加熱熟成)により高めることが出来る。加熱熟成の時間は通常0.5〜24時間である。
【0034】
前記の方法により得られたスラリー状の水溶性ポリマーは、粒子同志の合着が抑制され、従って、保存安定性に優れている。
【0035】
粒状の水溶性ポリマーは、前記の方法で得られた水溶性ポリマースラリーを蒸留脱水し、回収した水溶性ポリマーを乾燥することにより得られる。この場合、蒸留脱水の前に水溶性ポリマースラリーにメタノールを添加し、酸変性によって副生したギ酸をエステル化して蒸留脱水により除去するのが好ましい。これにより、不純物の少ない粒状の水溶性ポリマーが得られる。なお、ギ酸は、水分と共に留去可能であるが、エステル化することにより、その腐食性が抑えられると共に、その沸点が大幅に下がるので除去が容易になる。
【0036】
乾燥機としては公知の種々の装置を使用し得る。具体的には、バンド乾燥機、振動流動乾燥機、ディスク乾燥機、コニカル乾燥機などが使用される。乾燥温度は、適宜選択することが出来るが、温度が低すぎる場合は、乾燥効率が悪く水分の調節に時間が掛かりすぎるため、組成が変化することがある。一方、温度が高すぎる場合は、(共)重合体劣化の原因となる。従って、乾燥温度は、通常50〜140℃、好ましくは60〜130℃、更に好ましくは70〜100℃である。また、減圧にする方法は低温で短時間に処理でき、製品の劣化を防ぐ点で優れている。この際、空気や窒素などの乾燥ガスを流通してもよい。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0038】
実施例1(アミジンの製造例):
攪拌器、冷却管、定量ポンプからの導入管、ジャケット冷却器、および窒素ガス導入管を備えた4ツ口フラスコに、シクロヘキサン300g、ポリオキシエチレンオレイルエーテル(第一工業製薬(株)製商品名「ノイゲンET140E」、HLB値14)2.7g、塩化アンモニウム4.0g、水27.0gを入れ、攪拌下50℃に昇温した。
【0039】
次に、窒素ガス気流下、2,2′−アゾビス−2−アミジノプロパン2塩酸塩10重量%水溶液2.0gを添加した後、N−ビニルホルムアミド43.4g、アクリロニトリル36.6g、水26.0gの混合液を、定量ポンプを使用し、2.5時間かけて供給した。その後、さらに55℃で反応を2時間続けた。
【0040】
上記で得られた反応液を、そのまま、攪拌器、加熱ヒーター、油水分離機付き冷却管を備えたオートクレーブに投入し、26重量%のヒドロキシアミン硫酸塩18.5gを添加して反応した後、ポリエチレングリコール(分子量20000)1.6gを添加した。
【0041】
次いで、還流ラインに装備した油水分離器により、水層を分離してシクロヘキサン層を還流し、反応液からの分離水が44mlになるまで予備脱水を行って重合系内の水分量を28重量%(計算値)にした。引き続き、攪拌下、35重量%塩酸68.5gを仕込み、密閉系として、内温が108℃になるまで加熱した。その温度を保ったまま3時間反応を行った。続いて圧力を大気圧まで放圧した。
【0042】
引き続き、反応液を加熱還流させ、還流ラインに装備した油水分離器により、水層を分離してシクロヘキサン層を還流し、分離水が30mlになるまで脱水を行った。そして、変性によって副生したギ酸をエステル化するため、メタノール23.1gを添加し、1時間加熱し、加熱還流させた。その後、還流ラインに装備した油水分離器により、水層を分離してシクロヘキサン層を還流し、反応液の脱水を行った。還流温度が81℃になるまで脱水を行った後、反応液を取り出し、濾過、通風乾燥して粉末状のカチオン系水溶性重合体を取得した。
【0043】
反応中、反応液はスラリー状態を維持し、フラスコの壁などへの粒子付着や粒子同士の合着は認められなかった。更に、取得した重合体は良好な水溶解性を示した。また、C13−NMRによる分析でアミノ基は一部が隣接ニトリル基と反応し、アミジン基に変換されていることが確認された。表1に上記の結果をまとめて示した。
【0044】
実施例2(アミジンの製造例):
実施例1において、予備脱水における反応液からの分離水量を30mlに変更して重合系内の水分量を33重量%に変更し、更に、その後の脱水における反応液からの分離水量を44mlに変更した以外は、実施例1と同様に操作してアミジンの製造を行った。反応中、反応液はスラリーを維持し、フラスコの壁などへの粒子付着や粒子同志の合着は起こらなかった。表1に上記の結果をまとめて示した。
【0045】
比較例1(アミジンの製造例):
実施例1において、予備脱水における反応液からの分離水量を11mlに変更して重合系内の水分量を39重量%に変更し、更に、その後の脱水における反応液からの分離水量を64mlに変更した以外は、実施例1と同様に操作してアミジンの製造を行った。反応中、反応液はスラリーを維持していたが、フラスコの壁などへの粒子付着と粒子同士の合着が一部に観察された。表1に上記の結果をまとめて示した。
【0046】
比較例2(アミジンの製造例):
実施例1において、予備脱水を行わず、その後の脱水における反応液からの分離水量を74mlに変更した以外は、実施例1と同様に操作してアミジンの製造を試みた。変性反応中、反応液がスラリーを維持できなくなり、その後の操作を中断した。フラスコの壁などへの粒子付着と粒子同志の合着が起きていた。表1に上記の結果をまとめて示した。
【0047】
実施例3(アミンの製造例):
攪拌器、冷却管、定量ポンプからの導入管、ジャケット冷却器、および窒素ガス導入管を備えた4ツ口フラスコに、シクロヘキサン300g、ポリオキシエチレンオレイルエーテル(第一工業製薬(株)製商品名「ノイゲンET140E」、HLB値14)7.5g、塩化アンモニウム4g、水30gを入れ、攪拌下55℃に昇温した。
【0048】
次に、窒素ガス気流下、2,2′−アゾビス−2−アミジノプロパン2塩酸塩10重量%水溶液3.2gを添加した後、N−ビニルホルムアミド80g、水30gの混合液を、定量ポンプを使用し、2.5時間かけて供給した。その後、さらに60℃で反応を2時間続けた。
【0049】
上記で得られた反応液を、そのまま、攪拌器、加熱ヒーター、油水分離機付き冷却管を備えたオートクレーブに投入し、26重量%のヒドロキシアミン硫酸塩18.5gを添加して反応したした後、ポリエチレングリコール(分子量20000)1.6gを添加した。
【0050】
次いで、還流ラインに装備した油水分離器により、水層を分離してシクロヘキサン層を還流し、反応液からの分離水が31mlになるまで予備脱水を行って重合系内の水分量を34重量%(計算値)にした。引き続き、攪拌下、35重量%塩酸47.0gを仕込み、密閉系として、内温が70℃になるまで加熱した。その温度を保ったまま3時間反応を行った。
【0051】
引き続き、反応液を加熱還流させ、還流ラインに装備した油水分離器により、水層を分離してシクロヘキサン層を還流し、分離水が36mlになるまで脱水を行った。そして、メタノール17.3gを添加し、1時間加熱し、加熱還流させた。その後、還流ラインに装備した油水分離器により、水層を分離してシクロヘキサン層を還流し、反応液の脱水を行った。還流温度が81℃になるまで脱水を行った後、反応液を取り出し、濾過、通風乾燥して粉末状のカチオン系水溶性重合体を取得した。
【0052】
反応中、反応液はスラリー状態を維持し、フラスコの壁などへの粒子付着や粒子同志の合着は認められなかった。更に、取得した重合体は良好な水溶解性を示した。表1に上記の結果をまとめて示した。
【0053】
比較例3(アミンの製造例):
実施例3において、予備脱水を行わず、その後の脱水における反応液からの分離水量を67mlに変更した以外は、実施例3と同様に操作してアミンの製造を試みた。変性反応中、反応液がスラリーを維持できなくなり、その後の操作を中断した。フラスコの壁などへの粒子付着と粒子同志の合着が起きていた。表1に上記の結果をまとめて示した。
【0054】
参考例1(アミジンの製造例):
実施例1において、予備脱水を行わず、塩酸の代わりに塩化水素ガス24.0gを使用して変性反応を行った以外は、実施例1と同様に操作してアミジンの製造を行った。反応中、反応液はスラリーを維持し、フラスコの壁などへの粒子付着や粒子同志の合着は起こらなかった。更に、取得した重合体は良好な水溶解性を示した。表1に上記の結果をまとめて示した。
【0055】
参考例2(アミンの製造例):
実施例3において、予備脱水を行わず、塩酸の代わりに塩化水素ガス16.5gを使用して変性反応を行った以外は、実施例3と同様に操作してアミンの製造を行った。反応中、反応液はスラリーを維持し、フラスコの壁などへの粒子付着や粒子同志の合着は起こらなかった。更に、取得した重合体は良好な水溶解性を示した。表1に上記の結果をまとめて示した。
【0056】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性有機溶媒中、乳化剤の存在下、N−ビニルカルボン酸アミド又はこれと他の共重合成分および重合開始剤を含む単量体水溶液を懸濁重合させて(共)重合体粒子のスラリーを得る重合工程、得られた(共)重合体粒子のスラリーに塩酸を添加して変性する変性工程を順次に包含するスラリー状の水溶性ポリマーの製造方法であって、重合工程における単量体水溶液中の単量体濃度を20〜80重量%とし、変性工程における塩酸の濃度を25〜40重量%とし、そして、重合工程と変性工程との間に蒸留脱水工程を設け、変性工程における塩酸に同伴される水分量を含めて計算される重合系内の水分量を35重量%以下になるように蒸留脱水することを特徴とするスラリー状の水溶性ポリマーの製造方法。
【請求項2】
請求項1の方法で得られた水溶性ポリマースラリーを蒸留脱水し、回収した水溶性ポリマーを乾燥することを特徴とする粒状の水溶性ポリマーの製造方法。
【請求項3】
蒸留脱水の前に水溶性ポリマースラリーにメタノールを添加し、酸変性によって副生したギ酸をエステル化して蒸留脱水により除去する請求項2に記載の製造方法。

【公開番号】特開2012−122010(P2012−122010A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274526(P2010−274526)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(301057923)ダイヤニトリックス株式会社 (127)
【Fターム(参考)】