説明

水溶性薬剤内包リポソーム及びその製造方法

【課題】天然由来の保湿性ポリマーを水溶性薬剤と共にリポソームの内水相に共存させることで、内包薬剤を高濃度に保持し、人為的、非人為的に起きる乾燥や温度変動、経時保存等の条件に対する高い安定性を有した水溶性薬剤内包リポソーム及びその製造方法を提供する。
【解決手段】リポソームの内部に天然由来の保湿性ポリマーと水溶性薬剤とを内包していることを特徴とする水溶性薬剤内包リポソーム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水溶性薬剤内包リポソーム及びその製造方法に関する。詳しくは、水溶性薬剤、及び天然由来の親水性ポリマーを共存させることで当該水溶性薬剤を安定に内包させたリポソーム、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リポソームは、リン脂質あるいはその誘導体を膜成分として有し、必要に応じてステロール類や脂質等を加えて形成される単層または複数層の脂質二重膜からなる閉鎖小胞体である。このリポソームは、水溶性の薬剤を脂質二重膜で囲まれる内部の水相に、油溶性の薬剤類を二重膜の中に保持することができるため、本来不安定で失活しやすい薬効成分を安定的に内包させることが可能となる。また、リポソームの脂質膜は生体膜と類似の構造や機能を有するため、免疫系を刺激しにくく、低抗原性ゆえに素材としての安全性が高い。このようなことから、リポソームは診断薬、治療薬、化粧品などの様々な分野で応用開発が行われている。これらリポソームの製造法としては、バンガム法、逆相蒸発法、凍結融解法、機械的分散法、超臨界二酸化炭素法、押出法などの種々の方法が知られている。
【0003】
更に近年、薬物送達システム(以下「DDS」と呼ぶ。)として、リポソームの粒径、脂質膜の性質、特定細胞に対する標的性付与などの調整を通じて受動的または能動的なターゲティング機能を有する薬剤内包リポソームが盛んに研究されている。
【0004】
DDSにおいては、薬剤を長期間安定に内包するためにリポソーム製造方法の改良、膜をより強固にするためにリン脂質や、その他の脂質類の構造選択、合成モノマーを共存させて重合による壁材の架橋、更に界面活性剤やゲル化剤を用いた分散安定化等種々の改良手段が検討されている。その他リポソーム分散液に糖類を添加した上で安定に凍結乾燥やスプレードライなどを行う粉体化の方法も盛んに研究されている。
【0005】
しかしながら、DDSでは特に安全性が求められることから、新規の素材を導入することは容易ではなく、また、リポソームはリン脂質等の自己集積性を利用して形成するために人為的な制御が効きにくく、外力による破壊や変形が起きやすく、リン脂質二重膜の内部も外部も水相であることから水溶性薬剤を内部にのみ留めておくのも難しい。前述のように水溶性薬剤をリポソーム内部に安定に保持し、長期間の保存に耐えるような薬剤内包リポソームを得ることは依然大きな課題である。
【0006】
リポソームの内水相に水溶性薬剤を高効率で安定に内包するために種々の研究が行われており、一部は実用化されている。例えばリポソームの内水相と外水相でpHを変化させるpH勾配法が知られており、内水相を酸性に保ち外水相を中和することで弱塩基性であるドキソルビシンは相転移温度以上で内水相に移動して硫酸アンモニウム溶液と造塩することにより安定化されるため高濃度で内包される。同様に特許文献1には内部がより低く、外部がより高いpH勾配を有する勾配充填されたリポソームを形成する方法が記載されている。
【0007】
しかしながら、これらは薬剤構造が塩形成性などの特殊なものに限られるため一般的な方法とはなりえない。
【0008】
また、ゲル化された極性コアを有するリポソームが特許文献2〜4に記載されており、水溶性薬剤をゲル中に保持しうることが示唆されているが、内包に適した具体的な薬剤も内包する方法も記載されてはいない。また、一般にゲル化能が高い程、保湿能が低い関係にあり多量の薬剤を含有することは原理的に難しい。更に特許文献5〜6にはヒアルロン酸あるいは生体ポリマーを内包するリポソームが記載されているが、生体ポリマー自体を利用するものであり、その他薬剤の安定化を意図するものではない。
【特許文献1】特表2006−515578号公報
【特許文献2】欧州特許第393,049号明細書
【特許文献3】特表平10−502332号公報
【特許文献4】特表2002−511077号公報
【特許文献5】特許第3783385号明細書
【特許文献6】特表平9−501168号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、天然由来の保湿性ポリマーを水溶性薬剤と共にリポソームの内水相に共存させることで、内包薬剤を高濃度に保持し、人為的、非人為的に起きる乾燥や温度変動、経時保存等の条件に対する高い安定性を有した水溶性薬剤内包リポソームの提供、及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、リポソームの内部に天然由来の保湿性ポリマーと水溶性薬剤とを共存させることで相溶状態が形成されて析出や分離が生じにくいことを見出した。
【0011】
すなわち、本発明に係る上記課題は下記の手段により解決される。
【0012】
1.リポソームの内部に天然由来の保湿性ポリマーと水溶性薬剤とを内包していることを特徴とする水溶性薬剤内包リポソーム。
【0013】
2.前記水溶性薬剤が、少なくとも一つのヒドロキシル基又はカルボキシ基を有することを特徴とする前記1に記載の水溶性薬剤内包リポソーム。
【0014】
3.前記天然由来の保湿性ポリマーが、デンプン、ヒアルロン酸、アルギン酸、ポリグルタミン酸、キトサン、ポリリシンから選択される少なくとも1種類の化合物であることを特徴とする前記1又は2に記載の水溶性薬剤内包リポソーム。
【0015】
4.前記リポソームの内部の水溶性薬剤の濃度が、外部液中の水溶性薬剤の濃度よりも50質量%以上高いことを特徴とする前記1〜3のいずれか一項に記載の水溶性薬剤内包リポソーム。
【0016】
5.前記水溶性薬剤が水溶性造影剤であることを特徴とする前記1〜4のいずれか一項に記載の水溶性薬剤内包リポソーム。
【0017】
6.前記1〜5のいずれか一項に記載の水溶性薬剤内包リポソームの製造方法であって、天然由来の保湿性ポリマーと水溶性薬剤を混合した水溶液及びリポソーム壁材溶液とを混合して作製することを特徴とする水溶性薬剤内包リポソームの製造方法。
【0018】
7.前記6に記載の水溶性薬剤内包リポソームの製造方法であって、製造工程に凍結乾燥工程を含むことを特徴とする水溶性薬剤内包リポソームの製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の上記手段により、リポソームの内部に天然由来の保湿性ポリマーと水溶性薬剤とを内包させることにより生体内での安全性が高く、保存安定性が高く、内部に高濃度に薬剤を内包可能で、容易に粉末製剤が作製可能な水溶性薬剤内包リポソーム、及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の水溶性薬剤内包リポソームは、リポソームの内部に天然由来の保湿性ポリマーと水溶性薬剤とを内包していることを特徴とする。この特徴は、請求項1〜7に係る発明に共通する技術的特徴である。すなわち、本発明の水溶性薬剤内包リポソームでは、天然由来の保湿性ポリマーと水溶性薬剤とが混合されてなる相溶状態の安定性が重要である。
【0021】
以下、本発明とその構成要素等について詳細な説明をする。
【0022】
(天然由来の保湿性ポリマー)
天然由来の保湿性ポリマーとしては、デンプン、ヒアルロン酸、アルギン酸、ポリグルタミン酸、キトサン、ポリリシン、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等が知られている。以上のポリマーは内部にヒドロキシル基やカルボキシ基等の多量の水和性基を有し、しばしば架橋構造を有し、自重の数倍以上の水を保持する特徴がある。安定性と保湿性能からデンプン、ヒアルロン酸、アルギン酸、ポリグルタミン酸、キトサン、ポリリシンが特に好ましい。更に好ましくは、デンプン、ヒアルロン酸、ポリグルタミン酸である。
【0023】
使用量としては、リポソームに内包する水溶性薬剤の0.5〜500質量%が好ましく、更に好ましくは、1〜50質量%である。本発明の効果の顕著な発現及びリポソームの安定性の観点からこのような範囲が好ましい。
【0024】
なお、天然由来の保湿性ポリマーにはヒドロキシル基やカルボキシ基を有する構造的特長があり、共存する水溶性薬剤に少なくとも一つのヒドロキシル基またはカルボキシ基を含有していれば両者の相互作用が強まるため更に好ましい。
【0025】
前記条件の基で作製したリポソームを種々の方法で外液を置換することでリポソーム内の水溶性薬剤濃度が外部液よりも50質量%以上高く保持することができる。
【0026】
(内包薬剤)
本発明の水溶性薬剤内包リポソームにおいて、内包される薬剤は水溶性であり、脂質二重膜に囲まれた閉鎖空間の水相に内包される。内包される薬剤としては、例えば広く医薬品に使用される水溶性の物質が挙げられる。具体的には造影化合物、抗がん化合物、抗酸化化合物、抗菌化合物、抗炎症化合物、血行促進化合物、美白化合物、肌荒れ防止化合物、老化防止化合物、発毛促進化合物、保湿化合物、ホルモン剤、ビタミン類、色素、およびタンパク質類などが挙げられる。この中でもヒドロキシル基、カルボキシ基を分子構造中に含有する化合物が安定性の観点から好ましい。
【0027】
上記薬剤の中では造影剤が本発明の薬剤として好ましく、特にヨード化合物が溶解したヨード系X線造影剤、ガドリニウム化合物などの造影剤が溶解したガドリニウム系MRI造影剤などが挙げられる。即ち、内包させる水溶性薬剤が水溶性造影剤である時に本発明の効果が特に高まる。
【0028】
本発明で好ましいヨード系X線造影剤用のヨード化合物としては、例えば、イオメプロール、イオパミドール、イオヘキソール、イオペントール、イオプロミド、イオキシラン、イオシミド、イオベンゾール、イオトロラン、イオジキサノール、イオデシモル、イオタスル、メトリザミド、1,3−ビス−(N−3,5−(ビス−(2,3−ジヒドロキシプロピルアミノカルボニル)−2,4,6−トリヨウドフェニル)−N−ヒドロキシアセチル−アミノ)−プロパンなどの非イオン性ヨード化合物が挙げられ、なかでも、高度に親水性であり、かつ高濃度でも浸透圧が高くならない点から、イオヘキソール、イオメプロール、イオパミドール、イオトロラン、イオジキサノールが好適である。
【0029】
また、本発明で用いることのできるガドリニウム系MRI造影剤用のガドリニウム化合物としては、ガドリニウムとキレート化剤(NTA,EDTA,HEDTA,DTPA,DTPA−BMA,BOPTA,TTHA,NOTA,DOTA,DO3A,HP−DO3A,EOB−DTPA,TETA,HAM,DPDP,ポルフィリン等)とからなる錯体が挙げられる。例えば、Gd−DOTA(ガドテル酸メグルミン)、Gd−DTPA(ガドペンテト酸メグルミン)、Gd−BOPTAなどは、本発明で用いることのできる好適なガドリニウム系MRI造影剤である。また、抗がん性物質としては、具体的には、メトトレキサート、ドキソルビシン、エビルビシン、ダウノルビシン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトボシド、エリブシチン、カプトデシン、パクリタキセル、ドセタキソル、シスブラチン、ブレドニゾンなどが挙げられる。これらの化合物は単独で用いてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
本発明に係る薬剤の使用量は、薬剤の種類と使用目的に応じて異なるが、内包薬剤量としてはリポソームのリン脂質使用量に対して1〜2000質量%が好ましい。造影剤では100〜1000質量%が好ましい。
【0031】
さらに、必要に応じて、pH緩衝剤、キレート化剤、抗酸化剤、浸透圧調節剤、安定化剤、粘度調節剤、保存剤、無機塩類、さらには血管拡張剤、凝固抑制剤などの薬理的活性物質などの添加剤を用いることができる。
【0032】
以上のような薬剤類を含有する水溶液は、公知の手法を適宜利用して調製すればよい。通常は、蒸留水、局方注射用水、純水、あるいは生理食塩水、各種緩衝液、塩類などを含む水溶液などの水性媒体に、用途に応じた薬剤類を添加し、混合して調製する。また、薬剤類を含有するあらかじめ調製済みの商品等を用いてもよい。
【0033】
なお本明細書において、上記化合物は遊離形態の他に、その塩、水和物なども含めて言及することがある。
【0034】
必要に応じて水溶性を上げるために一般的に知られている安全な溶解剤、例えば界面活性剤(分解性界面活性剤、天然由来の界面活性剤、バイオサーファクタント等)やヒドロトロープ剤(ニコチンアミド、ビタミンB3、シトシン、カフェイン)なども使用可能である。
【0035】
(リポソーム)
〈脂質膜成分〉
本発明におけるリポソーム膜の脂質成分は特に限定されるものではなく、公知の様々な態様の配合組成を適用することができる。一般的には、リン脂質を主体として構成され、その他、糖脂質や、リポソームの膜安定化剤として作用するステロール類などが含まれてもよい。リポソームを構成する脂質膜の組成は、膜の強度やリポソームの生体内での挙動などに影響を与えるので、用途に応じて好適な組み合わせ、混合比を選択すればよい。
【0036】
上記リン脂質は、卵白、大豆もしくはその他の動植物に由来するもの(レシチン等)であっても、合成または半合成により得られたもの(リン脂質の部分的もしくは完全な水素添加物、またはポリエチレングリコールやアミノグリカン類を導入したリン脂質誘導体等)であってもよい。例えば、ホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジミリストリルホスファチジルコリン(DMPC)、ジオレイルホスファチジルコリン(DOPC)等の中性のグリセロリン脂質;ホスファチジルセリン、ジパルミトイルホスファチジルセリン(DPPS)、ジステアロイルホスファチジルセリン(DSPS)、ホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)、ホスファチジルイノシトール、ジパルミトイルホスファチジルイノシトール(DPPI)、ジステアロイルホスファチジルイノシトール(DSPI)、ホスファチジン酸、ジパルミトイルホスファチジン酸(DPPA)、ジステアロイルホスファチジン酸(DSPA)等の負に荷電したグリセロリン脂質;ホスファチジルエタノールアミン、その他スフィンゴミエリン等のスフィンゴリン脂質などを用いることができる。
【0037】
これらのリン脂質は、通常は単独で使用されるが、2種以上を併用してもよく、ホスファチジルコリンを主体とすることが好ましい。なお、2種以上の荷電リン脂質を使用する場合には、負電荷のリン脂質同士または正電荷のリン脂質同士で使用することが、リポソームの凝集防止の観点から望ましい。また、中性リン脂質と荷電リン脂質を併用する場合、これらの質量比は、通常200:1〜3:1、好ましくは100:1〜4:1、より好ましくは40:1〜5:1である。
【0038】
糖脂質としては、例えば、ジガラクトシルジグリセリド、ガラクトシルジグリセリド硫酸エステル等のグリセロ脂質;ガラクトシルセラミド、ガラクトシルセラミド硫酸エステル、ラクトシルセラミド、ガングリオシドG7、ガングリオシドG6、ガングリオシドG4等のスフィンゴ糖脂質が挙げられる。
【0039】
また、ステロール類としては、例えば、コレステロール、ジヒドロコレステロール、コレステロールエステル、フィトステロール、シトステロール、スチグマステロール、カンペステロール、コレスタノール、ラノステロール、さらに、1−O−ステロールグルコシド、1−O−ステロールマルトシド、1−O−ステロールガラクトシドといったステロール誘導体が挙げられ、特にコレステロールが好ましい。ステロール類の使用量は、リン脂質1質量部に対して通常は0.05〜1.5質量部、好ましくは0.2〜1質量部、より好ましくは0.3〜0.8質量部の割合である。
【0040】
ポリアルキレンオキシド基(ポリオキシアルキレン鎖)またはPEG鎖をリポソーム膜表面に付けることにより、新たな機能をリポソームに付与することができる。例えば、PEG化リポソームには免疫系から認識されにくくなる効果が期待できる。さらにリポソームは親水的傾向を持つことにより血中安定性を増して、長時間にわたり血液中の濃度を維持できることが明らかになっている
生理学的に許容される各種の緩衝剤、EDTANa2−Ca、EDTANa2などといったエデト酸系のキレート化剤、無機塩類、薬理的活性物質(例えば血管拡張剤、凝固抑制剤など)、さらには浸透圧調節剤、安定化剤、抗酸化剤(例えばα−トコフェロール、アスコルビン酸)、粘度調節剤、保存剤などを加えることができる。好ましくは、アミン系緩衝剤およびキレート化剤をともに含めるのがよい。pH緩衝剤として、水溶性アミン系緩衝剤および炭酸塩系緩衝剤が好ましく用いられる。特に好ましくはアミン系緩衝剤であり、中でもトロメタモールが望ましい。キレート化剤は好ましくは、EDTANa2−Ca(エデト酸カルシウム2ナトリウム)である
(リポソームの調製方法)
本発明で用いるリポソームの製造方法は特に限定されるものではなく、公知の各種の製造方法により得られたリポソームを対象とすることができる。例えば、バンガム法、逆相蒸発法、凍結融解法、機械的分散法、超臨界二酸化炭素法、押出法が知られているが、内包する薬剤により使用できる製造方法が異なる場合があるし、また製造方法の違いで得られるリポソームの形態や特性の傾向は相違するため、所望の形態や特性を有するリポソームが得られる製造方法を適宜選択すればよい。
【0041】
例えば、バンガム法や逆相蒸発法は、有害な溶剤を使用し粒径も単分散性が低いが装置的には容易な製造方法であり、押出法と組み合わせると粒径も改善される。機械的分散法は一枚膜にはなりにくいが高濃度で製造できる可能性がある、また、超臨界二酸化炭素法は、単層の脂質膜を持ち一枚膜で高内包率のリポソームを作製するのに優れている。押出法は前述の様々な作製方法と組み合わせて粒子を整粒するのに優れている。
【0042】
(本発明に係る水溶性薬剤内包工程)
本発明においては、天然由来の保湿性ポリマーと水溶性薬剤の両方を内包する必要がある。本発明の水溶性薬剤内包リポソームを製造する際には種々の方法を用いることができるが、一つの方法として保湿剤ポリマーを内包したリポソームを作製し、その分散液を凍結乾燥等の方法で乾燥粉末を調製した後、水溶性薬剤液に該リポソームの乾燥粉末を添加して水溶性薬剤内包リポソームとすることができる。
【0043】
しかしながら、このような方法では保湿剤の水和能が大きすぎるために増粘を起こしやすい他、リン脂質分子の分散を邪魔して凝集しやすくリポソーム作製を阻害しやすい。研究の結果、天然由来の保湿性ポリマーと水溶性薬剤の混合液にすると増粘が小さくなりリン脂質の凝集等の問題は起きないことが分かった。
【0044】
従って、本発明に係る内包工程としては、天然由来の保湿性ポリマーと親水性薬剤の水溶液を混合して、別途調製したリポソーム壁材溶液との混合、析出により作製することが好ましい。すなわち、天然由来の保湿性ポリマーと水溶性薬剤の両方を混合した水溶液を作製し、更にリン脂質等の溶液、例えばリン脂質を溶解したアルコール溶液やリン脂質を分散した水溶液とを混合することで作製する水溶性薬剤内包リポソームの製造方法が好ましい。
【0045】
ここで、「リポソーム壁材」とは、リポソームの壁材を構成するリン脂質、ステロール類、その他脂質類、およびそれらの誘導体の全てを意味する。また、「リポソーム壁材溶液」とは、前記リポソーム壁材を水または有機溶剤に分散あるいは溶解した状態の溶液を意味する。
【0046】
リン脂質を溶解する溶剤としては、一般的な溶剤を全て使用できる。例えば、ハロゲン系溶剤(例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン等)、アルコール系溶剤(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、t−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、デカノール等)、エーテル系溶剤(ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジ−iso−プロピルエーテル等)を挙げることができる。安全性と価格からハロゲン系溶剤、アルコール系溶剤、水系分散が好ましい。
【0047】
脱溶剤について記述する。ハロゲン系やエーテル系溶剤を使用した場合は、水と混和しないためリポソーム作製時に脱溶剤する必要がある。一般的には、減圧または常圧下で加熱しながら脱溶剤する。アルコール類を使用した場合、リン脂質等に対する溶解度は保湿剤と水溶性薬剤が混合した水溶液を加えていく過程で急速に落ちるため、オートクレーブ中または限外濾過で脱溶剤するか、そのまま凍結乾燥、スプレードライ等の脱水操作で乾燥するのが好ましい。また、混合内包化工程内に限外濾過膜や逆浸透膜を置いてリポソーム作製操作とアルコール類を除去することを同時に行うことも可能である。その他高圧蒸気滅菌器で滅菌と同時にアルコール類を除去することも可能である。
【0048】
薬剤の保存性を考えると、以上のようにして薬剤内包リポソームを製造した後、さらにそれを凍結乾燥し、使用までの間の保管に適した態様にすることが望ましい。
【0049】
(整粒工程)
リポソーム作製後、好ましい粒径に揃えるためには、フィルターを使用した整粒工程が必要である。使用するフィルターとしては孔径0.1〜0.4μmのポリカーボネート膜またはセルロース膜をフィルターとして装着した静圧式押出し装置に通すことにより、中心粒径が50〜500nm程度であるリポソームが効率よく調製される。このようなサイズのリポソームは、毛細血管を閉塞するおそれがほとんどない利点を有する。上記の静圧式押出し装置としては、例えば、日油リポソーム社製「エクストルーダー」、野村マイクロサイエンス社製「リポナイザー」などが挙げられる。この工程では、更に微粒子化(所望の粒径に調整)を行う場合には、別途加温しながら加圧し、釜内で撹拌するといった手法を用いることもでき、高圧乳化装置(例えば、ナノマイザー、マイクロフルイタイザー、マントンゴーリンホモジナイザー、OHL式装置等)を工程内に用いて凝集を抑制しながら、更に微細化しフィルターを通過した液をまた釜に循環することも可能である。
【0050】
膜濾過工程における温度条件は50〜100℃、好ましくは60〜80℃である。また、膜濾過の圧力はCO2、N2などの気体で0.1〜50MPa、さらに0.1〜3MPaで加圧を行うのが好ましい。
【0051】
(外液置換工程)
DDSの経済性、及び薬剤性能の観点から、通常はリポソーム内部に薬剤が集中している方が好ましい。本発明の水溶性薬剤内包リポソームにおいては、リポソームの内部の水溶性薬剤の濃度は、外部液中の水溶性薬剤の濃度よりも50質量%以上高いことが好ましい。より好ましくは、70質量%以上高いことである。その理由は、リポソーム内部の薬剤はDDS(例えば造影剤の場合蓄積性がでてくる。)として働き、外部液中の薬剤はDDSの効果がなくノイズとなりやすいからである。従って、DDS効果を際立たせるためには50質量%以上の内外の薬剤濃度差が必要である。
【0052】
水溶性薬剤を使用した場合の内外の薬剤濃度は、pH勾配法等を使用しない限り通常内外濃度は同じである。内部の薬剤濃度を高めるためには外液にある薬剤を膜濾過などにより、水で希釈しながら除去していく必要がある。しかしながら、内外の薬剤濃度を変化させても通常、数日後には薬剤の拡散が生じて薬剤濃度差はなくなる。
【0053】
本発明の水溶性薬剤内包リポソームにおいては、保湿剤と薬剤の相互作用、および保湿作用により内外濃度差を長期間高濃度に保つことができる。
【0054】
膜分離では使用する膜の穴の大きさ、性質、透過速度により種々の方法がある。一般的には工業的にも利用されている逆浸透法、限外濾過法、透析法などが知られており、薬剤の種類により適宜選択できるが、本発明においては限外濾過法が好ましい。前記方法はフィルターおよび送液装置を使用して行なうことができる。フィルターとしては、アクリルニトリル共重合体、芳香族ナイロン、ポリサルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエーテルサルホン、ポリイミド、セルロースなどの疎水、親水性樹脂からなる膜が利用できる。
【0055】
膜分離による濃縮では、リポソーム外にある水溶性薬剤は、塩類、水性媒体などともに濾過膜の二次側に移行する。一方、リポソーム内に内包されている水溶性薬剤は、リポソーム膜内の保湿性ポリマーに保持されているために、安定的に濃縮されることとなる。濾過の操作は、20〜90℃、好ましくは25℃で、0.01〜5MPa、好ましくは0.1〜1MPaの圧力下、下で回収するデッドエンドの濾過方式か、またはクロス・フローの濾過方式で行なう。あるいは迅速で行なえるが、処理容量が極めて少ない場合に好都合な遠心操作で濾過を促進する遠心式濾過であってもよい。本発明による製造方法では、これらの膜分離を行なうことにより、リポソーム外部の薬剤濃度をほぼ0に近づけることが可能である。具体的な装置としては限外濾過機であるウルトラフィルター(アドバンテック社製)、セントラメイト(日本ポール社製)等を挙げることができる。
【0056】
(粉末製剤化工程)
薬剤内包リポソームを長期間分散液の状態で保存することは安定性、再現性の観点から好ましくなく、通常粉末化して保存する。粉末化工程としては、凍結乾燥やスプレードライの他、減圧下や送風下での水溶液の乾燥によっても可能である。好ましくは、凍結乾燥であり、従来のリポソームを製造する場合と同様の手段や装置を用いて行うことができる。なお、該リポソームは、保湿性ポリマーを含有することから凍結乾燥しても、内包薬剤の固化や組織の破壊を受けない特徴があるため、凍結乾燥を行い粉末製剤とすることが好ましい。
【0057】
例えば、間接加熱凍結方法、冷媒直膨方法、熱媒循環方法、三重熱交換方法、重複冷凍方法などの手法に従い、適切な条件によって(例えば、−120〜−20℃の温度、1〜15Paの圧力下で、16〜26時間)行えばよい。本発明においては天然由来の保湿性ポリマーを含有するため、凍結乾燥によるショックは起きにくいが、投与の際の人体への影響を考慮した場合、血液と等張となるよう、浸透圧濃度を典型的には250〜500mosmol/L、好ましくは290〜350mosmol/Lに調節してもよい。このような濃度とするために、非毒性の水溶性物質、例えば塩化ナトリウム等の塩類、マンニトール、グルコース、ショ糖、ソルビトール等の糖類などを媒質中に添加して用いることもできる。
【0058】
(水溶性薬剤内包リポソームの使用方法)
本発明により製造した薬剤内包リポソームは、従来のリポソームと同様にして使用することができる。前述のようにして凍結乾燥したリポソームは、激しい攪拌や加熱などを行わなくても水性媒体に短時間で完全に分散させることができ、リポソーム含有製剤として好適に利用できる。
【0059】
リポソームを分散させる水性媒体としては、最終的に得られる製剤の態様に応じて所望の水性媒体を用いればよいが、リポソーム内外の浸透圧差によるリポソームの不安定化を抑制し、薬剤等の保持率をより一層向上させることが可能であることから、リポソームに内包した薬剤類を同程度の濃度で含む水性溶媒であることが望ましい。
【0060】
また、リポソーム含有製剤の浸透圧濃度、粘度、pHなどの性状は、人体に投与することなどを考慮して適宜調整すればよい。37℃におけるリポソーム含有製剤の粘度は、通常20mPa・s以下、好ましくは18mPa・s以下である。室温でのpHは、通常6.5〜8.5、好ましくは6.8〜7.8程度であり、必要であれば各種の緩衝液を用いてもよい。
【0061】
さらに、リポソーム含有製剤中に含有される薬剤の量についても、用途などに応じて適切に設定すればよい。例えば、ヨード系X線造影剤として用いる場合には、通常想定される10〜300mlの投与量において100〜500mgI/ml、好ましくは150〜300mgI/mlとなるようにすればよい。
【実施例】
【0062】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。最初に本製造例で行った共通操作と物性測定について説明する。
【0063】
[共通操作]
(整粒操作)
エクストルーダ(日油リポソーム社製)と、0.8μm、0.4μmおよび0.2μmの3種類のポリカーボネートフィルター(アドバンテック社製)を用意した。リポソーム分散液をエクストルーダに入れて80℃においてN2ガス0.3MPaの圧力で、各フィルターについて10回ずつ加圧ろ過を行い、整粒したリポソーム分散液を得る。
【0064】
(膜分離)
分散液を限外濾過機セントラメイト(日本ポール社製、分画分子量20,000)を用いて限外濾過することにより、リポソーム外部の水溶性薬剤を除去しながら純水で置換する。
【0065】
(凍結乾燥)
分散液をレイタント社製凍結乾燥機「LFD−600DNCPS1」を用いて標準条件で凍結乾燥し、粉末状リポソームを作製する。
【0066】
[物性測定]
(粒径測定)
光散乱粒径測定装置ゼータサイザー1000(マルバーン社製)で粒径測定を行い体積平均粒径を求める。
【0067】
(薬剤内包率の測定)
薬剤内包リポソームの分散液50μlを採取し1.8%生理食塩水950μlを加えて遠心分離(6,000rpm、20分)を行う。得られた上清および残渣(リポソーム)を完全に分離した後、各々アルコールを加えて溶解し20mlに仕上げる。波長240nmにおける吸光度を測定し、内包薬剤の吸光度と薬剤濃度の検量線に基づき、リポソーム内包薬剤質量および系内の全薬剤質量を計算して、以下の式で薬剤内包率を求める。ここで、リポソーム内包薬剤質量は残渣から測定された薬剤質量、全薬剤量は上清と残渣から測定された薬剤質量の和とする。
【0068】
薬剤内包率(%)=リポソーム内包薬剤質量/全薬剤質量×100(%)
以下の製造例、比較例においては整粒操作、限外濾過、凍結乾燥、粒径測定、薬剤内包率については全て上記と同じ方法、条件で行った。
【0069】
以下リポソームの調製例を詳述する。
【0070】
製造例1
クロロホルムとメタノールと水の混合物(質量比100:20:0.1)60mlにジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)0.86g、およびコレステロール0.35gを混合し、加熱して溶解させた。この溶液をロータリーエバポレーター中に入れて完全に溶剤留去を行った。残渣を更に2時間真空乾燥し、脂質フィルム薄膜を形成した。X線造影剤イオヘキソールを40質量%、及びデンプン5質量%含有する水溶液100mlと前記脂質フィルム薄膜とを混合し、65℃においてボルテックスミキサーで10分間攪拌しリポソームを調製した。更に整粒操作を行い、粒径、及び薬剤内包率を測定した。平均粒径200nm、薬剤内包率6.8%であった。
【0071】
製造例2
ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)0.46gと、コレステロール0.22gの混合物をエタノール10gに溶解した溶液をステンレス製の特製オートクレーブに仕込み、オートクレーブ内を60℃に加熱後に液体二酸化炭素を導入した。オートクレーブ内の圧力を初期値の5MPaから気体圧縮装置を用いて8MPaにまで上げて、二酸化炭素を超臨界状態にし、撹拌しながら、さらにX線造影剤溶液(イオヘキソール35質量%、ヒアルロン酸5質量%)50gを定量ポンプで連続的に注入した。注入終了後、系内を減圧して二酸化炭素を排出し、造影剤溶液を含有するリポソームの分散液を得た。更に整粒操作を行い、粒径、及び薬剤内包率を測定した。平均粒径190nm、薬剤内包率7.5%であった。
【0072】
製造例3
製造例2の処方において、リポソームのリン脂質をジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)0.8gおよびジパルミトイルホスファチジルセリン(DPPS)0.06gに変更した以外は製造例2と全く同じ処方、条件で水溶性薬剤内包リポソームを製造した。平均粒径185nm、薬剤内包率7.3%であった。
【0073】
製造例4
製造例2の処方において、リポソームのリン脂質を水素添加大豆レシチン精製品(HSPC)0.86gに変更した以外は製造例2と全く同じ処方、条件で水溶性薬剤内包リポソームを製造した。平均粒径190nm、薬剤内包率7.7%であった。
【0074】
製造例5
製造例2の処方において、ヒアルロン酸5質量%をカルボキシエチルセルロース5質量%に変更した以外は製造例2と全く同じ処方、条件で水溶性薬剤内包リポソームを製造した。平均粒径205nm、薬剤内包率6.1%であった。
【0075】
製造例6
製造例1の処方において、リポソームのリン脂質をジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)0.8gおよびジステアロイルホスファチジルエタノールアミンPEG2000修飾品(DSPE−PEG2000)0.06g、ヒアルロン酸5質量%をキトサン5質量%に変更した以外は製造例2と全く同じ処方、条件で水溶性薬剤内包リポソームを製造した。
【0076】
平均粒径195nm、薬剤内包率6.6%であった。
【0077】
比較製造例1
製造例2の処方において、ヒアルロン酸5質量%を除いた以外は製造例2と全く同じ処方、条件で比較の水溶性薬剤内包リポソームを製造した。
【0078】
平均粒径190nm、薬剤内包率6.2%であった。
【0079】
比較製造例2
製造例1の処方において、ヒアルロン酸5質量%の代わりに代表的なゲル化剤であるゼラチン5質量%に変更した以外は製造例2と全く同じ処方、条件で比較の水溶性薬剤内包リポソームを製造した。途中増粘が激しくて十分な分散ができなかった。
【0080】
平均粒径210nm、薬剤内包率2.1%であった。
【0081】
(実施例1)
前述の製造例1〜6と比較製造例1および2で得られたリポソームを限外濾過機を用いて薬剤の内外濃度差が5対1となるまで外液を純水で置換した。その後35℃で1週間保存した後に薬剤の内外濃度比を測定して以下の基準により薬剤保持性を評価して表1にまとめた。
【0082】
(薬剤保持性)
A:薬剤の内外濃度が4対1〜5対1
B:薬剤の内外濃度が3対1〜4対1
C:薬剤の内外濃度が2対1〜3対1
D:薬剤の内外濃度が1対1〜2対1
【0083】
【表1】

【0084】
表1から分かるように本発明の構成要件を備えた製造例1〜6の水溶性薬剤内包リポソームは、いずれも比較的高い内包率を有し、かつ保存時において内外濃度比を高いまま維持できるのに比較して、水溶性薬剤のみを内包した比較例1は薬剤の内外濃度差を全く保持できない。また、弱い保湿能は有するもののゲル架橋性の強い比較製造例2では内包率が上がらず、かつ保存安定性も限られたものであることが分かる。
【0085】
製造例7
クロロフォルム100ml、およびイソプロピルエーテル100mlの混合液に大豆レシチン0.8gを溶解し、イオパミドール30質量%およびヒアルロン酸4質量%を含有する水溶液30mlを加えて60℃において超音波分散機で乳化した。得られたエマルジョンをロータリーエバポレーターで減圧下60℃で有機溶媒を蒸発除去しリポソーム液20mlを得た。更に整粒操作を行い、粒径、及び薬剤内包率を測定した。平均粒径185nm、薬剤内包率7.3%であった。
【0086】
製造例8
製造例7の処方において、リン脂質を卵黄レシチン0.8g、ヒアルロン酸4質量%の代わりにアルギン酸4質量%に変更した以外は製造例7と全く同じ処方、条件で水溶性薬剤内包リポソームを製造した。平均粒径190nm、薬剤内包率7.1%であった。
【0087】
製造例9
製造例7の処方において、リン脂質を卵黄レシチン0.8g、ヒアルロン酸4質量%の代わりにポリグルタミン酸4質量%に変更した以外は製造例7と全く同じ処方、条件で水溶性薬剤内包リポソームを製造した。平均粒径185nm、薬剤内包率7.0%であった。
【0088】
製造例10
製造例7の処方において、ヒアルロン酸4質量%の代わりにポリリシン4質量%に変更した以外は製造例7と全く同じ処方、条件で水溶性薬剤内包リポソームを製造した。平均粒径190nm、薬剤内包率7.1%であった。
【0089】
製造例11
製造例7の処方において、リン脂質をDPPC0.8g、ヒアルロン酸4質量%の代わりに6質量%に変更した以外は製造例7と全く同じ処方、条件で水溶性薬剤内包リポソームを製造した。平均粒径190nm、薬剤内包率7.4%であった。
【0090】
製造例12
製造例7の処方において、リン脂質をPMPC0.9gに変更した以外は製造例7と全く同じ処方、条件で水溶性薬剤内包リポソームを製造した。平均粒径185nm、薬剤内包率7.5%であった。
【0091】
比較製造例3
製造例7の処方において、ヒアルロン酸4質量%を除いた以外は製造例7と全く同じ処方、条件で比較製造例の水溶性薬剤内包リポソームを製造した。平均粒径200nm、薬剤内包率6.7%であった。
【0092】
比較製造例4
製造例7の処方において、リン脂質を卵黄レシチン0.8gに変更し、ヒアルロン酸4質量%を除いた以外は製造例7と全く同じ処方、条件で比較製造例の水溶性薬剤内包リポソームを製造した。平均粒径195nm、薬剤内包率6.5%であった。
【0093】
(実施例2)
前述の製造例7〜12と比較例3および4で得られたリポソームを限外濾過後、更に凍結乾燥を行って粉末製剤を作製した。この粉末製剤を純水で希釈、攪拌して再分散させた後に薬剤の内外濃度比を測定して凍結乾燥時の安定性を以下の基準により評価してその結果を表2にまとめて示す。
(凍結乾燥安定性)
A:薬剤の内外濃度が4対1〜5対1
B:薬剤の内外濃度が3対1〜4対1
C:薬剤の内外濃度が2対1〜3対1
D:薬剤の内外濃度が1対1〜2対1
【0094】
【表2】

【0095】
表2から分かるように本発明の構成要件を備えた製造例7〜12の水溶性薬剤内包リポソームは、いずれも比較的高い内包率を有し、かつ凍結乾燥においても内外濃度比を高いまま維持できているため水の結晶化、及びそれに伴うリポソームの破壊を抑制していることが分かる。一方、水溶性薬剤のみを内包した比較製造例3および4は凍結乾燥によりリポソーム構造が破壊されて内外の薬剤濃度比を保持できていないことが分かる。
【0096】
(実施例3)
製造例1〜12及び比較製造例1〜4のサンプルをリポソーム調製後、整粒したサンプル(限外濾過は行わない。)を温度45℃で1週間保存して保存安定性を以下の基準に基づき評価した。別途、生理食塩水1mlを加えて温度25℃で1週間保存して食塩安定性を以下の基準に基づき評価した。結果を表3に示す。
【0097】
(保存安定性)
A:保存後のリポソーム内包率が保存前の90%以上
B:保存後のリポソーム内包率が保存前の70%〜89%
C:保存後のリポソーム内包率が保存前の50%〜69%
D:保存後のリポソーム内包率が保存前の50%未満
(食塩安定性)
A:保存後分離したリン脂質の質量が全体の10%以下
B:保存後分離したリン脂質の質量が全体の11%〜30%
C:保存後分離したリン脂質の質量が全体の31%〜50%
D:保存後分離したリン脂質の質量が全体の51%以上
【0098】
【表3】

【0099】
表3から明らかなように、本発明の保湿剤と水溶性薬剤を内包させた水溶性薬剤内包リポソームは、経時あるいは加熱に対する保存安定性が向上し、かつ食塩に代表される各種電解質に対する耐久性も向上していることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リポソームの内部に天然由来の保湿性ポリマーと水溶性薬剤とを内包していることを特徴とする水溶性薬剤内包リポソーム。
【請求項2】
前記水溶性薬剤が、少なくとも一つのヒドロキシル基又はカルボキシ基を有することを特徴とする請求項1に記載の水溶性薬剤内包リポソーム。
【請求項3】
前記天然由来の保湿性ポリマーが、デンプン、ヒアルロン酸、アルギン酸、ポリグルタミン酸、キトサン、ポリリシンから選択される少なくとも1種類の化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の水溶性薬剤内包リポソーム。
【請求項4】
前記リポソームの内部の水溶性薬剤の濃度が、外部液中の水溶性薬剤の濃度よりも50質量%以上高いことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の水溶性薬剤内包リポソーム。
【請求項5】
前記水溶性薬剤が水溶性造影剤であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の水溶性薬剤内包リポソーム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の水溶性薬剤内包リポソームの製造方法であって、天然由来の保湿性ポリマーと水溶性薬剤を混合した水溶液及びリポソーム壁材溶液とを混合して作製することを特徴とする水溶性薬剤内包リポソームの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の水溶性薬剤内包リポソームの製造方法であって、製造工程に凍結乾燥工程を含むことを特徴とする水溶性薬剤内包リポソームの製造方法。

【公開番号】特開2008−133195(P2008−133195A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−318205(P2006−318205)
【出願日】平成18年11月27日(2006.11.27)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】