説明

水生植物の発芽防止剤

【課題】淡水水域の底泥を硬化させずに、抽水植物、浮葉植物及び沈水植物などの、淡水水域の底泥に根を張る水生植物の発芽を防止できる方法を提供する。
【解決手段】淡水水域の底泥に、粒子径が1mm以下の酸化マグネシウム粉末を散布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抽水植物、浮葉植物及び沈水植物などの淡水水域の底泥に根を張る水生植物の発芽防止剤、及び水生植物の発芽防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
河川や湖沼などの淡水水域において、水生植物は水中や底泥中のリンや窒素などの栄養塩を吸収して繁茂することから、アオコの発生を抑える効果があるとされている。
【0003】
しかしながら、水生植物が異常繁茂すると、腐敗による悪臭の発生(生活への悪影響)、船舶の航行障害、漁業障害(漁場環境の悪化)、湖底環境の悪化(泥化、貧酸素化)、生態系への悪影響という様々な問題が発生する。
【0004】
淡水水域に繁茂した水生植物の除去方法としては、水生植物を刈り取る方法がある。しかし、この方法は多大な労力が必要となり、また刈り取った水生植物の処理が必要となるという問題がある。
【0005】
特許文献1は地面の雑草の繁殖を防止する方法として、地面を硬化させる方法が記載されている。この特許文献1には地面を硬化させる方法として、酸化マグネシウムを含む雑草繁殖防止材を地面に供給し、雑草繁殖防止材と土壌とを撹拌して混合した後、土壌に散水して、土壌に混合した酸化マグネシウムを水と反応させて硬化させる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−47388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献1に記載にされている地面を硬化させる方法は地面の雑草の繁殖を防止する方法としては有用であるが、淡水水域の底泥には、種々の生物が生息しているため、淡水水域の底泥を硬化させると、淡水水域の生態系に悪影響を与える恐れがある。
従って、本発明の目的は、淡水水域の底泥を硬化させずに水生植物の発芽を防止できる方法、及びその水生植物の発芽防止に有用な水生植物の発芽防止剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、粒子径が1mm以下の酸化マグネシウム粉末を淡水水域の底泥に散布すると底泥を硬化させずに、水生植物の発芽を防止できることを見出した。
【0009】
従って、本発明は、粒子径が1mm以下の酸化マグネシウム粉末を含む、淡水水域の底泥に根を張る水生植物の発芽防止剤にある。
【0010】
本発明の水生植物の発芽防止剤の好ましい態様は、次の通りである。
(1)酸化マグネシウム粉末が、粒子径が1mm以下の粒子を80質量%以上含む。
(2)酸化マグネシウム粉末が、粒子径が0.75mm以下の粒子を80質量%以上含む。
(3)酸化マグネシウム粉末が、2.10g/cm3以上の見掛け密度を示す。
(4)酸化マグネシウム粉末が、硬焼酸化マグネシウム粉末もしくは電融酸化マグネシウム粉末である。
(5)水生植物がヒシ科植物である。
【0011】
本発明はさらに、淡水水域の底泥に上記本発明の水生植物の発芽防止剤を散布する、抽水植物、浮葉植物及び沈水植物などの淡水水域の底泥に根を張る水生植物の発芽防止方法にもある。
【発明の効果】
【0012】
本発明の水生植物の発芽防止剤を、淡水水域の底泥に散布することによって、淡水水域の底泥に根を張る水生植物、特にヒシ科植物の発芽を効率良く防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1の透明プラスチックケースを上方から撮影した写真である。
【図2】比較例1の透明プラスチックケースを上方から撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の発芽防止剤は、粒子径が1mm以下である比較的微細な酸化マグネシウム粉末を含む。酸化マグネシウム粉末の平均粒子径は、0.75mm以下であることが好ましく、0.03〜0.5mmの範囲にあることがさらに好ましい。酸化マグネシウム粉末の見掛け密度(あるいは嵩密度)は、2.10g/cm3以上であることが好ましく、3.10〜3.56g/cm3の範囲にあることがより好ましく、3.10〜3.50g/cm3の範囲にあることがさらに好ましく、3.15〜3.30g/cm3の範囲にあることが特に好ましい。酸化マグネシウム粉末の見掛け密度は、アルキメデスの原理に基づく気相置換法により測定することができる。
【0015】
本発明の発芽防止剤で用いる酸化マグネシウム粉末は、粒子径が1mmよりも大きい粗大な粒子を含んでいてもよい。但し、酸化マグネシウム粉末は、粒子径が1mm以下の微細な粒子を80質量%以上含有していることが好ましく、90質量%以上含有することが特に好ましい。さらに、酸化マグネシウム粉末は、粒子径が0.75mm以下の粒子を80質量%以上含有していることが好ましく、90質量%以上含有することが特に好ましい。また、粒子径が0.005mmよりも大きい粒子を80質量%以上含有していることが好ましく、90質量%以上含有することが特に好ましい。
【0016】
本発明の発芽防止剤で用いる酸化マグネシウム粉末は、硬焼酸化マグネシウム粉末及び電融酸化マグネシウム粉末であることが好ましい。
【0017】
本発明において、硬焼酸化マグネシウム粉末は、水酸化マグネシウム及び炭酸マグネシウムなどのマグネシウム化合物を900℃以上、好ましくは1600℃以上の温度、特に好ましくは1700〜2100℃の温度で焼成して得られる酸化マグネシウム焼成物を、そのままあるいは粉砕処理した後、篩などの通常の分級により粒度を調整する方法により製造したものをいう。
【0018】
本発明において、電融酸化マグネシウム粉末は、酸化マグネシウム、もしくは水酸化マグネシウム及び炭酸マグネシウムなどのマグネシウム化合物を電融して得られる酸化マグネシウム溶融固化物を、そのままあるいは粉砕処理した後、篩などの通常の分級により粒度を調整する方法によって製造したものをいう。
【0019】
硬焼酸化マグネシウム粉末及び電融酸化マグネシウム粉末の製造原料として用いる水酸化マグネシウムの例としては、海水、もしくはマグネシウム塩を含む苦汁やブラインに、消石灰を加えて析出させた水酸化マグネシウムを乾燥することによって得られた水酸化マグネシウム粉末を挙げることができる。炭酸マグネシウムの例としては、天然のマグネサイトを挙げることができる。また、電融酸化マグネシウム粉末の製造原料として用いる酸化マグネシウムの例としては、軽焼酸化マグネシウム粉末、硬焼酸化マグネシウム粉末、及びマグネシアクリンカーを挙げることができる。
【0020】
酸化マグネシウム焼成物及び酸化マグネシウム溶融固化物は、嵩密度が2.10g/cm3以上であることが好ましく、3.10〜3.50g/cm3の範囲にあることがより好ましく、3.10〜3.30g/cm3の範囲にあることが特に好ましい。なお、酸化マグネシウム焼成物や酸化マグネシウム溶融固化物の嵩密度は、媒体にケロシンを用いたアルキメデス法により測定することができる。
【0021】
本発明の発芽防止剤を淡水水域の底泥に散布することによって、抽水植物(例えば、ヨシ、ガマ、ハス、マコモ、フトイ、コウホネ)、浮葉植物(例えば、ヒシ、オオオニバス、ヒツジグサ、ヒルムシロ)及び沈水植物(例えば、セキショウモ、クロモ、ホザキノフサモ、エビモ、シャジクモ)などの淡水水域の底泥に根を張る水生植物の発芽を防止することができる。
【0022】
発芽防止剤の散布量は、底泥1m2の面積に対して、好ましくは0.1〜10kgの範囲、特に好ましくは0.5〜5kgの範囲である。発芽防止剤の散布時期は、水生植物の発芽が始まる時期の1週間〜3ヶ月前であることが好ましい。
【0023】
発芽防止剤の散布方法に特には制限はない。例えば、発芽防止剤を粉末の状態で淡水水域の水面に散布してもよいし、発芽防止剤を水に分散させた分散液の状態で淡水水域の水中に注入してもよい。
【0024】
淡水水域に散布された発芽防止剤は、淡水水域中を沈降して底泥の表面に速やかに到達する。底泥の表面に到達した発芽防止剤(酸化マグネシウム粉末)は微細な粉末であるため、速やかに水に溶解して周囲の底泥を弱アルカリ性に変質させると共に、溶解したマグネシウムイオンは底泥周囲のリン化合物と反応して、難溶性のリン酸マグネシウムを生成する。底泥を弱アルカリ性に変質させ、さらに底泥周囲のリン化合物を難水溶性のリン酸マグネシウムとして固定することによって、水生植物の発芽防止が効果的に抑制される。
【実施例】
【0025】
[実施例1]
ヒシが繁茂している湖の底泥と湖水とを採取して、透明プラスチックケース(縦18cm×横30cm×高さ23cm)に底泥の深さが約3cm、湖水の深さが約9cmとなるように入れた。次いで、硬焼酸化マグネシウム粉末(粒子径:0.75mm以下、見掛け密度:3.23g/cm3)54g(底泥1m2の面積あたりの量で1kg)を底泥全体に均一に堆積するように散布して、静置した。図1に、3週間経過後の透明プラスチックケースを上方から撮影した写真を示す。図1に示すように、3週間経過後でもヒシは発生しなかった。また、3週間経過後の底泥をガラス棒で突いたところ、底泥は硬化していなかった。
【0026】
[比較例1]
酸化マグネシウム粉末を散布しなかったこと以外は実施例1と同様にして、透明プラスチックケースに底泥と湖水とを入れて静置した。図2に、3週間経過後の透明プラスチックケースを上方から撮影した写真を示す。図2に示すように、3週間経過後にはヒシが繁茂していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子径が1mm以下の酸化マグネシウム粉末を含む、淡水水域の底泥に根を張る水生植物の発芽防止剤。
【請求項2】
酸化マグネシウム粉末が、粒子径が1mm以下の粒子を80質量%以上含む請求項1に記載の水生植物の発芽防止剤。
【請求項3】
酸化マグネシウム粉末が、粒子径が0.75mm以下の粒子を80質量%以上含む請求項1に記載の水生植物の発芽防止剤。
【請求項4】
酸化マグネシウム粉末が、2.10g/cm3以上の見掛け密度を示す請求項1に記載の水生植物の発芽防止剤。
【請求項5】
酸化マグネシウム粉末が、硬焼酸化マグネシウム粉末もしくは電融酸化マグネシウム粉末である請求項1に記載の水生植物の発芽防止剤。
【請求項6】
水生植物がヒシ科植物である請求項1に記載の水生植物の発芽防止剤。
【請求項7】
淡水水域の底泥に請求項1乃至6のうちのいずれかの項に記載の水生植物の発芽防止剤を散布する、淡水水域の底泥に根を張る水生植物の発芽防止方法。
【請求項8】
水生植物の発芽防止剤の散布量が、底泥1m2の面積に対して0.1〜10kgの範囲にある請求項7に記載の水生植物の発芽防止方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−144158(P2011−144158A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187005(P2010−187005)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【出願人】(509241007)株式会社環境マグネシア (3)
【出願人】(000119988)宇部マテリアルズ株式会社 (120)
【Fターム(参考)】