説明

水生生物の防除方法および防除装置

【課題】有害物質を使用せず物理的な手法で確実に水生生物を防除する。複雑・高度な制御や大掛かりな装置を不要にする。既存の流路をそのまま又は簡単な改造で利用する。
【解決手段】防除対象の水生生物1が生息する領域を密閉すると共に、その密閉領域3内の水4のガス溶存量を増加させて水生生物1の体内のガス溶存量を増加させた後、密閉領域3内の水4のガス許容溶存量を減少させて水生生物1の体内に溶存できなくなったガスの気泡を生じさせるようにする。体内での気泡の発生により水生生物1は死滅する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水生生物の防除方法および防除装置に関する。更に詳しくは、本発明は、施設内の流路等に入り込んだ水生生物を人体に有毒な薬品等を使用せずに防除する水生生物の防除方法および防除装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
施設内の流路等に入り込んだ魚介類、昆虫等の水生生物を防除する装置として、例えば特開2001−140234号公報に開示された海棲生物付着防止装置がある。かかる海棲生物付着防止装置は、図4に示すように、施設101内に海水を取り込む分岐水路102の取水口103近傍に設けられた高圧一酸化炭素注入装置104と、排水口105近傍に設けられた高圧酸素注入装置106を備えている。施設101に取り込まれる前の海水に高圧一酸化炭素注入装置104から一酸化炭素が注入される。一酸化炭素の注入によって海水中に溶け込む一酸化炭素が飽和状態となり、海水中の生物を窒息させて駆除し、施設101内において幼貝等の海棲生物が分岐水路102内壁面に付着するのを防止している。また、施設101内で使用した海水を海に戻す前に高圧酸素注入装置106から酸素を注入して海水中に溶け込んでいる一酸化炭素を中和し、排水口105近辺の海洋に生息する生物を死滅させないようにしている。
【0003】
また、別の手法として、例えば特開2004−81119号公報に開示された水生生物の付着防止方法がある。かかる水生生物の付着防止方法は、図5に示すように、水中に配置した電極107でパルス放電を発生させ、放電に伴って発生する衝撃波及び紫外線を直接水生生物に照射して駆除するものである。電極107はコンピュータ108制御のパルス電源109に高電圧ケーブル110を介して接続されており、この高電圧ケーブル110によって海水中に吊り下げられている。また、海水中に設置した散気装置111に地上のコンプレッサ112から空気ホース113を介して空気を供給し、海水中に気泡を発生させて余分な衝撃波や紫外線を吸収するようにしている。
【0004】
さらに別の手法として、例えば特開2006−802号公報に開示された水の処理装置がある。かかる処理装置は、図6に示すように、容器114内に処理水を供給する処理液供給管115と、モータ116によって回転される回転平板117と、容器114内を減圧する図示しない真空ポンプを備えている。処理液供給管115から供給された処理水は回転平板117に衝突し、遠心力で飛ばされる。飛ばされた処理水は容器114の壁面114aに衝突し、その時の衝撃で処理水中の生物にダメージを与える。また、容器114の壁面114aに衝突した処理水は壁面114aに薄膜を形成しながら垂れ下がる。容器114内は真空ポンプによって減圧されており、減圧の影響を受けて水中生物の内部に溶存するガスを気泡化させ、気泡が膨張することで水中生物の外殻を破損、殺傷させることが図られている。
【0005】
【特許文献1】特開2001−140234号
【特許文献2】特開2004−81119号
【特許文献3】特開2006−802号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、図4の海棲生物付着防止装置では、生物にとって有害な一酸化炭素を使用しており、有害な一酸化炭素が飽和状態となっている海水を施設101内に取り込んで使用するため、海水中の一酸化炭素が気体となって空気中に出てくるのを防止する手段や、万が一、一酸化炭素が気体となって空気中に出てきた場合にその一酸化炭素を素早く検出する手段等の一酸化炭素に対する安全対策が必要となる。また、使用済みの海水を海に戻す際に行われる一酸化炭素の中和に高度な制御が必要である。
【0007】
また、図5の水生生物の付着防止方法では、パルス電源109、コンプレッサ112、これらを制御するコンピュータ108を地上に配置する他、電極107および散気装置111を海水中に配置する必要があり、必要な装置が大掛かりなものになる。
【0008】
さらに、図6の水の処理装置では、容器114内を減圧することで水生生物の体内に溶存するガスを気泡化させることを図っているが、処理水が処理液供給管115から連続的に供給されており、短時間で水生生物が流されてしまう。また、単に容器114内を減圧することで水生生物の体内に気泡を発生させるようにしている。これらのため、実際には、水生生物の体内に効率よく気泡を発生させることは困難であると考えられる。また、図6の水の処理装置では、当該処理装置が設置されている場所に処理水をわざわざ導くか、又は処理水の水路の途中に処理装置を設置する必要があり、既存の水路をそのまま又は簡単な改造を施して水生生物の駆除に利用することは困難である。
【0009】
本発明は、有害物質を使用せず物理的な手法で確実に水生生物を防除することができ、しかも、複雑・高度な制御や大掛かりな装置が不要であり、既存の流路をそのまま又は簡単な改造を施して利用することができる水生生物の防除方法及び防除装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一定温度、一定圧力条件下において液体に溶解できるガスの量には限界があり、その量を飽和溶存気体量という。ただし、飽和溶存気体量を超えた量の気体も、ある一定量までは溶存状態で存在することが可能であり、その状態を過飽和という。そして、飽和溶存気体量+過飽和によって溶存できる気体の量の上限をガス許容溶存量という。ガス許容溶存量は、通常、圧力が高いほど多く、圧力が低いほど少なくなり、温度が低いほど多く、温度が高いほど少なくなる。また、ガス許容溶存量は振動を加えると少なくなる。圧力や温度等の変化、振動の付与等によりガス許容溶存量が少なくなり、過飽和を超えるガスが溶液中に存在する状態になると、溶液中にガスが溶存できなくなり、遊離し、ガスとなり気泡を生じさせる。
【0011】
本発明は、上述の原理を利用して、ガス許容溶存量を急激に低下させるような環境に防除対象の水生生物を暴露することにより、水生生物の体内、特に血管中に溶けきれなくなったガスの泡を発生させ、血液循環の停滞等を生じさせて、生体機能の停止や組織の機能障害を生じさせて水生生物を防除するものである。
【0012】
ここで、過飽和溶存気体状態は一定温度、一定圧力条件下における溶存可能気体量(飽和溶存気体量)を上回る気体(ガス)が溶存した状態であり、(i)人工的に調整した過飽和溶存気体状態の水の供給、(ii)高圧ガスの直接供給や気−液共存状態での加圧による溶存気体量の増加などによって発生させることができる。
【0013】
また、急激にガス許容溶存量を低下させるには、ある一定圧力の過飽和溶存気体状態から急激に圧力を低下させたり、温度を変化させたり、超音波等により液体の容器や液体中に浸された固体表面を振動させたりする方法が考えられる。
【0014】
なお、上記(i)や(ii)においては、水生生物を過飽和溶存気体状態の水中に放置するだけでも、自然の圧力変動や温度変化により水生生物の体内に気泡が発生すると考えられるが、水生生物を過飽和溶存気体状態の水中に置いた後に積極的に減圧状態に曝すことにより、より効果的に水生生物の体内に気泡を発生させることができる。最も積極的な処理としては、例えば(a)→(b)→(c)→(d)の手順が考えられる。ただし、かかる手順に限るものではない。
【0015】
(a)防除対象箇所を密封
適用対象の流路が管状部材の場合、カテーテル方式が採用できれば、閉鎖弁の有無や口径の大小に関係なく、密閉領域を形成できる。
【0016】
(b)過飽和溶存気体状態を作成
過飽和溶存気体状態の実現手法としては、例えば、別途ガス添加−加圧等により過飽和溶存気体状態の水を調整し、密閉領域に導入すること、水を密閉した密閉領域にガスを導入−加圧することにより過飽和溶存気体状態の水を作ること、等が考えられる。また、その効果の向上手法としては、例えば、密閉領域を加圧すること、密閉領域の温度を上昇させること、等が考えられる。ここで、密閉領域を加圧すると、溶融できるガスの量が増加し過飽和溶存気体状態を高くすることができる。また、密閉領域の温度を上昇させると、水生生物の代謝が促進され体内へのガスの取り込み速度の上昇を期待できる。なお温度上昇は、密閉領域の加圧による場合と、ヒータ等を使用する場合とがある。
【0017】
(c)一定時間静置し、生物体内が過飽和溶存気体状態になるのを待つ。
(d)密閉状態を解除
過飽和溶存気体状態の水を放置するだけでも気泡が発生し水生生物にダメージを与えることができると考えられるが、密閉領域の密閉を解除して減圧状態の発生あるいは加圧減圧の繰り返しにより、より効果的に気泡を発生させることができる。
【0018】
即ち、上述の目的を達成するために、請求項1記載の水生生物の防除方法は、防除対象の水生生物が生息する領域を密閉すると共に、その密閉領域内の水のガス溶存量を増加させて水生生物の体内のガス溶存量を増加させた後、密閉領域内の水のガス許容溶存量を減少させて水生生物の体内に溶存できなくなったガスの気泡を生じさせるものである。
【0019】
水生生物が生息する領域を密閉してその密閉領域内の水のガス溶存量を増加させた後、十分な時間が経過すると、その水に生息する水生生物の体内のガス溶存量も増加する。この状態で、密閉領域内の水のガス許容溶存量を減少させると、水中に溶けていたガスの一部が溶けていることができなくなって気泡化する。同様に、水生生物の体内に溶けていたガスの一部も気泡化する。体内におけるガスの気泡化によって水生生物は死滅する。
【0020】
ここで、密閉領域内の水のガス許容溶存量を減少させる手段としては、例えば密閉領域内の圧力を減少させる手段、密閉領域内の水温を上昇させる手段、密閉領域内の水に震動を与える手段等が考えられるがこれらに限るものではない。また、水中に溶かすガスとしては、例えば酸素ガス、窒素ガス、空気等の使用が考えられるがこれらのガスに限るものではない。
【0021】
また、密閉領域内の水のガス許容溶存量を増加させる手段としては、請求項2記載の水生生物の防除方法のように、密閉領域に過飽和水を導入することで密閉領域内のガス溶存量を増加させるようにしても良く、また、請求項3記載の水生生物の防除方法のように、密閉領域内の水中にガスを供給して密閉領域内のガス溶存量を増加させるようにしても良い。
【0022】
また、請求項4記載の水生生物の防除方法のように、密閉領域内を加圧しながら密閉領域内のガス溶存量を増加させるようにしても良い。
【0023】
さらに、請求項5記載の水生生物の防除装置は、防除対象の水生生物が生息する領域を密閉する密閉手段と、その密閉領域内の水のガス溶存量を増加させるガス溶存量増加手段と、密閉領域内の水のガス許容溶存量を減少させる気泡化手段とを備えるものである。
【0024】
したがって、密閉手段が水生生物の生息領域を密閉し、ガス溶存量増加手段が密閉領域内の水のガス溶存量を増加させた後、十分な時間が経過すると、水生生物の体内のガス溶存量も増加する。この状態で、気泡化手段が密閉領域内の水のガス許容溶存量を減少させると、水中に溶けていたガスの一部が溶けていることができなくなって気泡化する。同様に、水生生物の体内に溶けていたガスの一部も気泡化する。体内におけるガスの気泡化によって水生生物は死滅する。
【発明の効果】
【0025】
請求項1記載の水生生物の防除方法では、防除対象の水生生物が生息する領域を密閉すると共に、その密閉領域内の水のガス溶存量を増加させて水生生物の体内のガス溶存量を増加させた後、密閉領域内の水のガス許容溶存量を減少させて水生生物の体内に溶存できなくなったガスの気泡を生じさせるので、有害物質を使用せずに物理的な手法で確実に水生生物を防除することができる。また、複雑・高度な制御や大掛かりな装置類が不要で、簡単に水生生物を防除することができる。また、既存の流路やタンク等をそのまま又は簡単な改造で利用することができる。また、ガスとして例えば酸素や窒素等の無害のガスを使用することが可能であり、無害のガスの使用によって環境に対する負荷をほとんど無くすことができる。また、薬品等の有害物質を使用しないため、例えば飲料水設備への適用も可能である。また、配管や容器表面等にダメージを与えることがない。さらに、生物種による選択系がほとんど無いとともに、物理的な手法であるため、繰り返し防除を実施しても耐性形成の出現が考え難い。
【0026】
ここで、請求項2記載の水生生物の防除方法のように、密閉領域に過飽和水を導入することで密閉領域内のガス溶存量を増加させるようにしても良く、請求項3記載の水生生物の防除方法のように、密閉領域内の水中にガスを供給して密閉領域内のガス溶存量を増加させるようにしても良い。
【0027】
また、請求項4記載の水生生物の駆除方法では、密閉領域内を加圧しながら密閉領域内のガス溶存量を増加させるようにしているので、溶存できるガスの量を増加させることができると共に、減圧によって密閉領域内の水のガスの許容溶存量を減少させるのが容易になる。
【0028】
さらに、請求項5記載の水生生物の駆除装置では、防除対象の水生生物が生息する領域を密閉する密閉手段と、その密閉領域内の水のガス溶存量を増加させるガス溶存量増加手段と、密閉領域内の水のガス許容溶存量を減少させる気泡化手段とを備えているので、有害物質を使用せずに物理的な手法で確実に水生生物を防除することができる。また、複雑・高度な制御や大掛かりな装置類が不要で、簡単に水生生物を防除することができる。また、既存の流路やタンク等をそのまま又は簡単な改造で利用することができる。また、ガスとして例えば酸素や窒素等の無害のガスを使用することが可能であり、無害のガスの使用によって環境に対する負荷をほとんど無くすことができる。また、薬品等の有害物質を使用しないため、例えば飲料水設備への適用も可能である。また、配管や容器表面等にダメージを与えることがない。さらに、生物種による選択系がほとんど無いとともに、物理的な手法であるため、繰り返し防除を実施しても耐性形成の出現が考え難い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の構成を図面に示す最良の形態に基づいて詳細に説明する。
【0030】
図1に、本発明の水生生物の防除装置の第1の実施形態を示す。水生生物の防除装置(以下、単に防除装置という)は、防除対象の水生生物1(図1では図示省略)が生息する領域を密閉する密閉手段2と、その密閉領域3内の水4のガス溶存量を増加させるガス溶存量増加手段5と、密閉領域3内の水4のガス許容溶存量を減少させる気泡化手段6とを備えるものである。また、本発明の水生生物の防除方法は、防除対象の水生生物1が生息する領域を密閉すると共に、その密閉領域3内の水4のガス溶存量を増加させて水生生物1の体内のガス溶存量を増加させた後、密閉領域3内の水4のガス許容溶存量を減少させて水生生物1の体内に溶存できなくなったガスの気泡を生じさせるものである。
【0031】
本実施形態では、密閉領域3内の水4を過飽和溶存気体状態にし、その後、その水4のガス許容存在量を減少させることで密閉領域3内の水4および水生生物1の体内に気泡を生じさせる。ただし、必ずしも密閉領域3内の水4を過飽和溶存気体状態にまで到達させる必要はなく、過飽和溶存気体状態に到達していない状態であっても、その後に減圧するなどしてガスの許容存在量を減少させることで水生生物1の体内に気泡を生じさせて死滅させることができる程度にガス溶存量を増加させるものであれば良い。
【0032】
水生生物1が生息する水4は例えば海水(以下、海水4という)であり、海から汲み上げた海水4を流す配管7内に密閉領域3が形成される。海水4中には防除の対象となる水生生物1、例えば貝の幼生や稚貝等が混入しており、これらが配管7の内壁面に付着して成長する(図2、図3参照)。
【0033】
配管7には、間隔をあけた2箇所に開閉弁8が設けられている。2つの開閉弁8を閉じることで、これらの間が密閉領域3となる。即ち、2つの開閉弁8が密閉手段2である。通常の運転時には2つの開閉弁8は開けられており、配管7によって海水4を運搬している。
【0034】
配管7の密閉領域3の途中には分岐管9が設けられており、分岐管9には圧力計10、チャンバー11、接続管12が接続されている。配管7を流れる海水4の一部は分岐管9からチャンバー11及び接続管12内に導かれている。接続管12には加減圧装置13が接続されている。加減圧装置13は接続管12内にガスを供給して密閉領域3内の海水4のガス溶存量を増加させると共に密閉領域3内の圧力を増加させる。即ち、ガスを供給する加減圧装置13が海水4のガス溶存量を増加させるガス溶存量増加手段5である。また、加減圧装置13は、密閉領域3内の海水4を抜いて密閉領域3内を減圧することもできる。減圧によって密閉領域3内の水4のガス許容溶存量が減少する。即ち、加減圧装置13が許容溶存量を減少させる気泡化手段6でもある。
【0035】
次に、水生生物1の防除の手順について説明する。水生生物1の防除は、例えば定期的又は不定期に行われる。防除を行う場合には2つの開閉弁8を閉じ、海水4の運搬を停止させる。2つの開閉弁8を閉じることで、これらの間が密閉領域3となる。密閉領域3内は海水4で満たされている。その後、加減圧装置13を作動させて密閉領域3内にガスを供給し、海水4のガス溶存量を増加させて過飽和溶存気体状態にする。このとき、ガスの供給によって密閉領域3内が加圧されるので、より多くのガスを海水4中に溶存させることができ、過飽和溶存気体状態をより高くすることができる。
【0036】
密閉領域3内の海水4を過飽和溶存気体状態にした後、加減圧装置13を停止させて一定時間静置する。水生生物1は海水4を体内に取り入れており、過飽和溶存気体状態の海水4内で一定時間静置することで体内が過飽和溶存気体状態になる。なお、静置する時間は、海水4の温度や密閉領域3内の圧力、水生生物1の種類等により異なるが、例えば1時間程度、長くても数時間程度である。ただし、これらの時間に限るものではなく、後述するように密閉領域3内の海水4のガス許容溶存量を減少させた場合に水生生物1の体内に溶存できなくなったガスの気泡を生じさせることができる程度に水生生物1の体内のガス溶存量を増加させることができる時間であれば良い。
【0037】
その後、加減圧装置13を作動させて密閉領域3内を減圧する。減圧は配管7等を破損させない範囲で可能な限り急激に行う。急激に減圧することで海水4および水生生物1体内のガス許容溶存量が減少し、水生生物1の体内に溶存できなくなったガスの気泡が発生する。気泡の発生によって水生生物1は死滅する。これにより水生生物1の防除作業が終了する。その後、2つの開閉弁8を開いて配管7に海水4を流し、通常運転状態に戻す。
【0038】
次に、本発明の水生生物1の防除方法および防除装置の第2の実施形態について説明する。なお、上述の部材・要素と同一の部材・要素には同一の符号を付し、それらの詳細な説明を省略する。
【0039】
図1の実施形態では開閉弁8が配管7に予め設けられており、これらを密閉手段2として利用したが、図2の実施形態では配管7にこれらのような開閉弁は設けられていない。この場合の密閉手段2は、例えばカテーテル14によって配管7内に挿入され、所定の位置で膨らまされたバルーン15である。バルーン15は間隔をあけた2箇所にそれぞれ設けられる。カテーテル14およびバルーン15は、例えば配管7に設けられている図示しない開閉可能なポートより挿入される。密閉手段2としてカテーテル14およびバルーン15を使用することで、開閉弁8が設置されていない場所を密閉することができる。また、バルーン15を膨らませて配管7内を塞ぐので、配管7の口径の大小による影響を受け難い構成である。ただし、バルーン15に代えて例えば封鎖用の弁等をカテーテル14によって挿入しても良い。
【0040】
配管7のバルーン15によって形成される密閉領域3の途中には分岐管9が設けられており、分岐管9にはガス溶存量増加手段5としてのポンプ16が接続されている。ポンプ16にはタンク17が接続されており、タンク17には過飽和溶存気体状態に調整された海水4が貯留されている。タンク17内の海水4は、ガスの添加と加圧によって予め過飽和溶存気体状態に調整されている。ポンプ16はタンク17内の過飽和溶存気体状態の海水4を密閉領域3に供給し、密閉領域3内を過飽和溶存気体状態の海水4で満たすと共に加圧する。なお、ポンプ16と配管7との間には、配管7側からポンプ16への逆流を防止する逆止弁18が設けられている。
【0041】
次に、水生生物1の防除の手順について説明する。防除は、配管7内の海水4の流れを止めた状態で行われる。海水4の流れが止められ、密閉領域3となる部位に海水4が無くなった後、密閉手段2としてのバルーン15が膨らまされる。これにより2つのバルーン15の間に密閉領域3が形成される。そして、ポンプ16を作動させて密閉領域3にタンク17内の過飽和溶存気体状態の海水4を供給する。このとき、2つのバルーン15のうち、例えば上側のバルーン15を若干萎ませておき、配管7と上側のバルーン15との間に隙間を形成し、この隙間から空気を抜きながら密閉領域3内を過飽和溶存気体状態の海水4で満たす。そして、密閉領域3内が過飽和溶存気体状態の海水4で満たされた後、上側のバルーン15を膨らませて配管7との間の隙間を塞ぎ、密閉領域3を完全に密閉する。
【0042】
密閉領域3内を過飽和溶存気体状態の海水4で満たして加圧した後、ポンプ16を停止させて一定時間静置して水生生物1の体内が過飽和溶存気体状態になるのを待つ。ポンプ16と分岐管9の間には逆止弁18が設けられているので、ポンプ16停止後にも密閉領域3内の圧力は維持される。そして、水生生物1の体内が過飽和溶存気体状態になった後、気泡化手段6としてのバルーン15を萎ませて密閉領域3内を急激に減圧する。急激に減圧することで、海水4および水生生物1体内のガス許容溶存量が減少し、水生生物1の体内に溶存できなくなったガスの気泡が発生する。気泡の発生によって水生生物1は死滅する。これにより水生生物1の防除作業が終了する。その後、バルーン15およびカテーテル14を撤去し、配管7に海水4を流して通常運転状態に戻す。
【0043】
このように、本発明では、水生生物1の体内のガス溶存量を一旦増加させた後、減圧等によって海水4中に溶存できるガス量の上限(ガス許容溶存量)を減少させて溶存できなくなったガスを気泡化させている。また、過飽和溶存気体状態の海水4の中で水生生物1を静置し、水生生物1の体内を確実に過飽和溶存気体状態にしている。これらにより、水生生物1の体内で確実に気泡を発生させることができると共に、水生生物1の体内に気泡を発生させること自体も容易である。しかも、海水4中のガス溶存量を増加させて減圧等を行うだけであり、複雑・高度な制御や大掛かりな装置類が不要である。さらに、配管7に予め設けられている開閉弁8を利用したり、開閉弁が設けられてない場合にはカテーテル14及びバルーン15を利用することで密閉領域3を形成することが可能であり、既存の配管7をそのまま利用して水生生物1の防除を行うことができる。また、配管7に開閉弁が設けられていない場合には開閉弁8を追加する等の簡単な改造を施すだけで密閉領域3を形成することが可能であり、当該配管7を利用して水生生物1の防除を行うことができる。
【0044】
本発明は、例えば水道施設、水力発電所施設、冷却水等の取水施設等の流路の内壁に付着する水生生物1の防除に適用可能である。特に比較的小口径の配管を使用した流路については既に設置されている開閉弁を利用可能であり、また、たとえ開閉弁が設置されていない場合であっても開閉弁等の増設のみで本発明の適用が可能である。
【0045】
例えば、魚類においては生息する水4の溶存窒素量が120%以上になると稚魚や成魚の区別無く窒素ガス病が生じる可能性があるといわれており、体内に気泡を生じさせるのにさほど大きな加圧状態を必要としない。このように、一旦水生生物1の体内のガス溶存量を増加させることで、水生生物1の体内に気泡を生じさせるのは容易である。このため、本発明は種々の場面で実施可能である。
【0046】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【0047】
例えば上述の説明では、駆除の対象となる水生生物1が貝の幼生や稚貝等であったが、防除対象となる水生生物1はこれらに限るものではなく、例えばイガイやカキ等の貝類、フジツボ等の甲殻類、魚類、カワゲラ等の昆虫類、ホヤ類、ヒドロ虫類、コケムシ類、カイメン類、動物・植物プランクトン等の水生生物の幼体から成体までについても適用可能である。また、水生生物1の卵にも適用できる。即ち、卵内に気泡が生じ、気泡が生じた卵は水面に浮上するために、その後の孵化等を抑制することができる。
【0048】
また、上述の説明では、気泡化手段6は加減圧装置13を作動させることやバルーン15を萎ませることで密閉領域3内を減圧していたが、気泡化手段6による減圧の手段はこれらに限るものではない。例えば重力を利用して減圧を行っても良い。この場合の例を図3に示す。図3(A)に示すように貯留池19の下には水路20が設けられており、水路20の上の入口と下の出口には開閉扉21,22がそれぞれ設けられている。出口側の開閉扉22を閉めた状態で入口側の開閉扉21を開けると、貯留池19内の水4が水路20内に落下して溜まる(図3(B))。この状態で入口側の開閉扉21を閉めると、水路20内が密閉領域3となる。密閉領域3内に図示しないノズルからガスを供給してバブリング等を行い、水路20内の水4を過飽和溶存気体状態にすると共に水路20内を加圧する。なお、予め過飽和溶存気体状態に調整された水4を貯留池19から水路20内に落下させるようにしても良い。
【0049】
この状態で静置し、水路20内に生息する水生生物1の体内が過飽和溶存気体状態になるのを待つ。そして十分な時間が経過し、水生生物1の体内が過飽和溶存気体状態になった後、出口側の開閉扉22を一部開いて水路20内の水4を放出する(図3(C))。放出の開始によって密閉領域3内が急激に減圧され、水4のガス許容溶存量が減少するので、水4中及び水生生物1の体内に溶けていたガスの一部が気泡化し、水生生物1の体内で気泡化したガスが水生生物1を死滅させる。
【0050】
即ち、この例では、入口側開閉扉21と出口側開閉扉22が密閉手段2であり、水路20内でバブリングを行うノズル又は予め過飽和溶存気体状態に調整された水4を貯留池19から水路20内に導入する手段(重力)がガス溶存量増加手段5であり、密閉領域3内の水4の放出によって減圧する手段(重力)が気泡化手段6である。
【0051】
また、上述の説明では、気泡化手段6が密閉領域3内の圧力を減少させることで水4のガス許容溶存量を減少させていたが、必ずしも密閉領域3内の圧力を減少させるものに限るものではない。例えば、密閉領域3内の水4の温度を上昇させることでガス許容溶存量を減少させても良く、この場合には、例えばヒータ等の使用が可能である。また、気泡化手段6は密閉領域3内の水4に震動を加えることでガス許容溶存量を減少させるものでも良く、この場合には、例えば超音波振動子等の使用が可能である。なお、ヒータや超音波振動子は例えば配管7の外周面に設けられて配管7の外から内部の水4を加熱又は振動させる。あるいは水路20の中に直接ヒータや超音波振動子を配置しても良い。
【0052】
また、密閉領域3内の水4のガス溶存量を増加させる手法として、例えば(A)密閉領域3内の水中又は気相部分にガスを供給する、(B)予めガス溶存量を増加させた水4を密閉領域3内に導入する、ことが考えられ、(A)手法と(B)手法のいずれか一方を選択して行っても良いが、(A)手法と(B)手法の両方を一緒に行っても良い。また、密閉領域3内を加圧しながら(A)手法と(B)手法のいずれか一方を選択して行っても良く、密閉領域3内を加圧しながら(A)手法と(B)手法の両方を一緒に行っても良い。
【0053】
また、上述の説明では、配管7や水路20への適用であったが、適用できる場所は配管7や水路20に限るものではなく、水4を密閉可能な場所であれば配管7や水路20以外の場所、例えばタンク類等にも適用可能である。ここで、タンク類としては、例えばタンカーのタンクにも適用可能である。即ち、タンカーのタンクが密閉できる構造であれば、(i)タンクにバラスト水を積載する時に加圧した窒素ガス等をタンク気相部分に充填する。充填された窒素ガス等はバラスト水に自然溶解し、バラスト水を過飽和溶存気体状態にする。あるいは、(ii)タンク内にバラスト水を取り込む際に窒素ガス等をバブリングし、タンク内のバラスト水を過飽和溶存気体状態にする。これらのように、タンクを密閉し、窒素ガス等を供給し微加圧を行うことでバラスト水を過飽和溶存気体状態にする。タンカーの航行により、タンク内にバラスト水と一緒に紛れ込んだ水生生物1の体内が過飽和溶存気体状態になる時間を十分に確保することができる。そして、航行終了後、バラスト水排水時のタンク開放による減圧で水生生物1の体内に気泡を生成することができるため、バラスト水中に紛れ込んだ外来水生生物1を防除することができる。
【0054】
また、水生生物1の体内を過飽和溶存気体状態にするために密閉領域3の水4中に静置する際、代謝を阻害しない程度に水4の温度を高くしても良い。水4の温度を高くすることで、水生生物1の体内へのガスの取り込み速度を増加させることができ、静置時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の水生生物の防除装置の第1の実施形態を示す概念図である。
【図2】本発明の水生生物の防除装置の第2の実施形態を示す断面図である。
【図3】本発明の水生生物の防除装置の第3の実施形態を示す概念図である。
【図4】従来の海棲生物付着防止装置の概略構成図である。
【図5】従来の水生生物の付着防止方法の概略構成図である。
【図6】従来の水の処理装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0056】
1 水生生物
2 密閉手段
3 密閉領域
4 水
5 ガス溶存量増加手段
6 気泡化手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防除対象の水生生物が生息する領域を密閉すると共に、その密閉領域内の水のガス溶存量を増加させて前記水生生物の体内のガス溶存量を増加させた後、前記密閉領域内の水のガス許容溶存量を減少させて前記水生生物の体内に溶存できなくなったガスの気泡を生じさせることを特徴とする水生生物の防除方法。
【請求項2】
前記密閉領域に過飽和水を導入することで前記密閉領域内のガス溶存量を増加させることを特徴とする請求項1記載の水生生物の防除方法。
【請求項3】
前記密閉領域内の水中にガスを供給して前記密閉領域内のガス溶存量を増加させることを特徴とする請求項1又は2記載の水生生物の防除方法。
【請求項4】
前記密閉領域内を加圧しながら前記密閉領域内のガス溶存量を増加させることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の水生生物の防除方法。
【請求項5】
防除対象の水生生物が生息する領域を密閉する密閉手段と、その密閉領域内の水のガス溶存量を増加させるガス溶存量増加手段と、前記密閉領域内の水のガス許容溶存量を減少させる気泡化手段とを備えることを特徴とする水生生物の防除装置。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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