説明

水生生物を利用する水質監視装置

【課題】従来の装置と比較して水槽掃除の頻度が少なくてすみ、懸濁物質を含む被検水も利用可能な水生生物を用いた水質監視装置を提供する。
【解決手段】水生生物1を飼育している水槽2に、工場排水など被検水3を連続的に注水し、水生生物1を光源4で照らして撮影装置5で撮影し、その撮像から情報解析装置6で解析を行い、水質異常の有無を判定する水質監視装置において、光源4として植物が光合成に利用しにくい波長領域の光を発する光源を使用し、被検水3中の懸濁物質が水槽の撮影範囲内に蓄積しない装置構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工場排水などの被検水を注水している水槽中で飼育している水生生物を常時監視することにより、被検水の水質異常を検知する水質監視装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年産業技術の進展とともに、各種工場排水や農業用水などが河川や湖に大量に排出されている。これらの中には、水銀、カドミウムなどの重金属や農薬など有害物質が混入していることも考えられ、生態系への悪影響や飲料用水への毒物混入等が懸念される。しかし、河川水等に有害物質が含まれているか調査する際、物理・化学的手法による水質分析では、多大な時間と労力がかかり、また、複数の物質が混在することにより毒性が発現するような複合物の影響は検出できないという問題がある。
【0003】
そこで、上記問題を解決するため、各種工場排水や農業用水などの被検水を、魚など水生生物を飼育している水槽に注水し、水生生物を常時監視することにより、被検水の水質異常(毒物の混入など)を検知する、水質監視装置が提案されている。
【0004】
しかし、従来の水質監視装置を使用した場合、被検水の性状によっては、水生生物を監視することができなくなり、水質監視が不能になることがある。例えば台風通過直後の河川水などのように、懸濁物質を含む被検水の場合、懸濁物質が次第に水槽内に蓄積し、付近を水生生物が動き回り前記蓄積した懸濁物質をまきあげることなどにより、情報解析装置が水生生物と懸濁物質を混同してしまい、水質監視が不能になってしまう。水槽へ注水する前に被検水をろ過処理することで回避することができるが、目詰まりによるろ過フィルターの交換が必要となり、費用と労力がかかる。また、被検水中の懸濁物質に毒物が付着していた場合、ろ過処理を行うことで、被検水中の懸濁物質と共に、懸濁物質に付着していた毒物も同時に除去されてしまうため、水質異常を正しく検出できなくなり、問題である。
【0005】
さらに、水槽への藻の大量発生も水質監視が不能になる原因の一つである。特に夏場は、2、3日で藻が水槽に付着し始め、一週間ほどで、藻が水槽に大量発生し、水質監視ができなくなることもある。水槽の掃除を頻繁に行うことで回避できるが労力がかかり、また掃除を行っている間は水質の監視ができないため、毒物の混入があっても検知できないという問題がある。
【0006】
音波を発信し、反射された音波から画像を合成し、合成された画像から監視対象物の位置や活動状態を判定する水質監視装置が知られている(特許文献1参照)。しかし、音波を利用して画像を合成するのは迂遠であり、カメラなどの撮影装置を使用した方が安価で、鮮明な画像が得られる。また、水中に水生生物だけではなく、大きな気泡や懸濁物質も存在した場合、音波を使用した方法では、音波が水生生物まで届かず、水質異常を正しく検出できないと考えられる。
【0007】
水槽の上方開口部より、水面を透かせて魚類を撮影する水質検知装置が知られている(特許文献2参照)。しかし、上方からの画像のみでは水生生物に関する高さ方向の位置情報が得られないため、魚が水槽の水面付近にいるのか、底付近にいるのか判別できない。水中に毒物が混入している場合、魚は水面付近で鼻上げ行動などの異常行動を行うことが知られているが、この装置では、魚のこのような異常行動を検知することができず、水質異常を正しく検出できないと考えられる。
【特許文献1】特開2003−287525号公報
【特許文献2】特開2002−257815号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上の状況に鑑み、本発明の課題は、従来の装置と比較して水槽掃除の頻度が少なくてすみ、懸濁物質を含む被検水も利用可能な水生生物を用いた水質監視装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、水生生物を飼育する水槽と、水生生物を照らす光源、および、水生生物を撮影する撮影装置を有し、撮影装置により撮影された水生生物の撮像から情報解析装置により水質異常を検知する水質監視装置において、被検水中の懸濁物質が水槽の撮影範囲内に蓄積しない構成とすることにより、本発明の課題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
被検水中の懸濁物質が水槽の撮影範囲内に蓄積しないためには、水槽の中に被検水は通過できるが、水生生物は通過できない機構が必要で、具体的には、水槽中の上面及び/又は底面付近に被検水中の懸濁物質が堆積せずに浮上若しくは沈降し、水生生物は通過できない区画を設けることが例示される。
【0011】
被検水中の懸濁物質が堆積せずに浮上若しくは沈降し、水生生物は通過できない区画としては、水槽中心方向の端部に鋭角部を備えている部材を水生生物が入り込めないような間隔で並べたものが例示される。このような部材としては、線状部材、先端部に鋭角部を備えている板状部材、柱状部材が使用できる。
【0012】
前記部材の材質は、有害物質の溶出がなく、適度の強度を有するものであれば種類を問わないが、金属や合成樹脂が好ましい。
【0013】
さらに本発明は、上記水質監視装置における光源として、植物が光合成に利用しにくい波長領域の光を発する光源を使用することにより、水槽の透明壁面内側に藻が発生し、視界を妨ぐようにした水質監視装置に関するものである。
【0014】
かかる光源としては、光合成に余り寄与しない緑色や赤色のLED照明が好ましく使用できる。さらに、装置全体を遮光箱で覆い、外部からの光の侵入を遮断すれば、より効果的である。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、被検水中に懸濁物質がある場合でも、水生生物を用いた水質監視装置にて、被検水の水質を監視することができ、水槽掃除の頻度が少なくてすむ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、図面に基づいて本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明の具体的構成はこの実施の形態に限定されることはなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更などがあっても、本発明に含まれる。
【0017】
図1は本発明の実施の形態における水質監視装置の概略構成図である。図1において、本実施形態における水質監視装置は、水生生物1を飼育する水槽2、水生生物1を照らす光源4、水生生物1を撮影する撮影装置5を有し、情報解析装置6によって被検水3の水質異常の有無を判定する。
【0018】
水槽2には、流入管8から、工場排水などの被検水3が導入される。そして、上部流出管9および下部流出管10から排出された後、流出管11で混合して系外に排出される。また、被検水3よりも比重が軽い懸濁物質は上部流出管9から、被検水3よりも比重が重い懸濁物質は下部流出管10から、被検水3と共に排出される。なお、被検水3よりも比重が重い懸濁物質の中には、その性状により、下部流出管10から流出せずに、水槽2の底面に蓄積するものもある。この場合、蓄積した懸濁物質は、光源4からの光を反射するため、情報解析装置6は、同じく光を反射する水生生物1と懸濁物質との区別ができなくなってしまい、水質監視が不能になってしまう。
【0019】
そこで、水槽2中に被検水中の懸濁物質は通過できるが、水生生物は通過できない機構を備えることが望ましい。被検水中の懸濁物質は上記機構の下方に蓄積するが、水生生物1はそこに入りこめないため、その部位は撮影範囲外とすることができる。したがって、被検水3中の懸濁物質が水槽2の撮影範囲内に蓄積しないため、懸濁物質を含む被検水であっても水質監視が可能となる。
【0020】
このような機構として、水槽2底面にビー玉などを敷き詰める方法、水生生物1の大きさより狭い間隔で線状の突起物12を付ける方法などが挙げられる。線状の突起物12の場合、その先端部17の角度を任意に調整でき、鋭角とすることで、線状の突起物12上部に被検水中の懸濁物質が蓄積せず、懸濁物質を線状の突起物12の間に落としやすいため、より望ましい。また、被検水3が多くの懸濁物質を含む場合、長期間の水質監視により、線状の突起物12の間から蓄積した懸濁物質が撮影範囲内に溢れ出てしまわないように、線状の突起物12の高さを高くすることがより望ましい。
【0021】
水生生物1としては、メダカ、タナゴ、コイ、金魚などの魚類やエビなどを使用することができる。特に魚類としては、メダカを使用することが望ましい。メダカの体表面は白色であり、光が反射しやすいため、撮影装置5により撮影した撮像の解析が行いやすい。また、メダカは飼育もしやすく、小型の魚類であるため、装置も小型化しやすい。さらに、水中の毒物に対する感度も比較的良好である。
【0022】
水槽2は、水生生物1の大きさと飼育数や被検水3の濁度などにより大きさが設定され、取替え自在となっている。水槽2の少なくとも一面は、水槽2内の水生生物1を撮影装置5にて撮影可能となるよう、透明のものを使用する。水槽2の材質は、ガラスやアクリルなどのプラスチックなどを使用することができる。水槽2への藻の発生がより少なく、掃除の際に傷がつきにくいガラスを使用するのがより望ましい。
【0023】
被検水3として、河川水、工場排水、農業用水、飲料用水など様々な水を使用することができる。これら被検水3中で水生生物1を飼育するため、水槽2へ注水する前に被検水3の温度、溶存酸素量、pHなどを必要に応じて調整することもできる。なお、本発明による装置は、被検水3中の懸濁物質の影響を受けにくいため、従来の装置では監視が困難であった懸濁物質量(SS)が10mg/L以上200mg/Lと懸濁物質が多い被検水を使用することもできる。
【0024】
光源4として、蛍光灯、ハロゲンランプ、LED照明など各種照明を使用することができる。植物が光合成を行う際、可視光の中で緑色や赤色の光は、あまり利用しないことが知られている。また他の照明装置と比較して、LED照明が発する光の波長領域は狭いため、緑色や赤色のLED照明を使用した場合、植物が光合成の際に主として利用する波長領域の光の照射量は比較的少ない。したがって、光合成があまり行われず、水質監視の妨げになる水槽2への藻の発生を抑制でき、水槽掃除の頻度を少なくすることができる。そのため光源4として緑色や赤色のLED照明を使用するのが望ましい。
【0025】
また、外光があると光合成が活発に行われ、水槽2に藻が大量に発生する場合もあるため、箱13を使用し、外光を遮断するのがより望ましい。なお、被検水3の濁度が高く、水生生物1を撮影装置5で撮影しにくい場合には、水槽2を小さくするか、光量調整装置7にて、光量を調整するか、情報解析装置6にて、コントラストの調整を行えばよい。
【0026】
撮影装置5としてCCDカメラやCMOSカメラなど各種カメラを使用することができる。水生生物1の致死や異常行動を正しく検出するため、水生生物1の高さ方向の位置情報を取得できない水槽2の上方からの撮影ではなく、水槽2の側面から水生生物1の撮影を行うのが望ましい。撮影された撮像は、情報解析装置6に随時送信される。情報解析装置6として、解析ソフトを搭載したパーソナルコンピュータを使用することができる。情報解析装置6にて、撮影された撮像から、水生生物1が死んでいるか、急速行動や鼻上げ行動などの異常行動を行っているかを判断し、被検水3の水質異常を検出する。被検水3の水質異常を検出した後、情報解析装置6のモニターに水質異常があることを表示し、警報を鳴らして周囲に水質異常を知らせることができる。また、電話回線を用いて、遠隔地にいる担当者に警報や画像を送信することもできる。さらに、水質異常検出時の被検水を採取、保管することもでき、その水質を分析することにより、水質異常の原因を特定することも可能である。
【実施例】
【0027】
以下に実施例をあげて、本発明をより具体的に説明するが、勿論これらの例に限定されるものではない。
【0028】
〈評価方法〉
懸濁物質の蓄積の評価:懸濁物質を含む被検水を注水し、水生生物を飼育している水槽を光源で照らし、これを撮影装置で撮影した画像について、情報解析装置にて2値化処理を行い、水生生物と蓄積した懸濁物質の存在部位のみが白くなるように閾値を設定する。それぞれの存在部位の面積を積算できるように設定し、蓄積した懸濁物質由来の面積が水生生物由来の面積の半分を超えた時点で、懸濁物質の蓄積により水質監視が不能になったと判断し、そうなるまでの経過日数で評価した。
【0029】
[実施例]
〔使用被検水〕
被検水:工場排水。20Lの被検水を採取し、十分撹拌し、そのうち実施例、比較例でそれぞれ5Lを循環しながら使用した。なお、被検水の懸濁物質量(SS)は、85mg/Lで、水より比重が重い懸濁物質を多く含んでいた。
〔水生生物の選定〕
生後三ヶ月のメダカを使用した。
〔水槽の選定〕
縦10cm横10cm高さ10cmの水槽に、高さ1cmの線状の突起物を5mm間隔で底面に敷き詰めた。なお突起物の先端部の角度は45度であった。
〔光源の選定〕
赤色のLED照明を使用した。なお、周囲を箱で覆い、外光を遮断した。
〔水生生物の撮影〕
33万画素のCCDカメラを使用して、毎秒3フレームで、水槽の側面から水生生物を撮影した。撮影範囲は水生生物が常時撮影できるように、水生生物が移動できる範囲とした。
〔画像処理〕
取得した画像について2値化処理を行い、上記評価方法にて評価を行った。
【0030】
[比較例]
実施例において、水槽の底面に線状の突起物をつけないこと以外は、実施例と同様の方法で懸濁物質蓄積の評価を行った。
以上の評価結果を表1に示した。
【0031】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施例を示す水質監視装置の概略構成図である。
【図2】本発明の一実施例での水槽の断面図である。
【図3】本発明の一実施例での水槽の俯瞰図である。
【符号の説明】
【0033】
1 水生生物
2 水槽
3 被検水
4 光源
5 撮影装置
6 情報解析装置
7 光量調整装置
8 被検水の流入管
9 被検水の上部流出管
10 被検水の下部流出管
11 被検水の流出管
12 線状の突起物
13 箱
14 水槽の底面部
15 水槽の側面部
16 線状の突起物
17 突起物の先端部
18 水槽の側面部
19 線状の突起物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検水が注水され、かつ水生生物が入れられた水槽と、水生生物を照らす光源と、水生生物を撮影する撮影装置と、撮影された撮像から被検水の水質の異常の有無を判定する情報解析装置を備えた水質監視装置において、水槽の撮影範囲内に懸濁物質を蓄積させない機構を備えたことを特徴とする水質監視装置。
【請求項2】
前記機構が上記水槽中の上面及び/又は底面付近に被検水中の懸濁物質が浮上若しくは沈降し、水生生物は通過できない区画であることを特徴とする請求項1記載の水質監視装置。
【請求項3】
前記区画が、水槽中心方向の端部に鋭角部を備えていることを特徴とする請求項2に記載の水質監視装置。
【請求項4】
前記光源が、植物が光合成に利用しにくい波長領域の光を発する光源を使用することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の水質監視装置。
【請求項5】
被検水が注水され、かつ水生生物が入れられた水槽と、水生生物を照らす光源と、水生生物を撮影する撮影装置と、撮影された撮像から被検水の水質の異常の有無を判定する情報解析装置を備えた水質監視装置において、前記光源が、植物が光合成に利用しにくい波長領域の光を発する光源を使用することを特徴とする水質監視装置。
【請求項6】
前記光源が緑色のLED照明であることを特徴とする請求項4又は5記載の水質監視装置。
【請求項7】
水槽の周りを遮光箱で覆い、装置の光源以外の光が水槽に侵入しないようにしたことを特徴とする請求項4ないし6のいずれかに記載の水質監視装置。
【請求項8】
懸濁物質量(SS)が10mg/L以上200mg/L以下の被検水を用いる、請求項1〜7のいずれかに記載の水質監視装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−244046(P2009−244046A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−90018(P2008−90018)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000153281)株式会社日本紙パルプ研究所 (7)
【出願人】(591212718)株式会社正興電機製作所 (25)