説明

水稲栽培方法

【課題】稲に対する温度と水管理が十分に行え、稲の分げつを促すことで収穫量の拡大を図ることができる水稲栽培方法を提供する。
【解決手段】栽培地面に植栽部2となる畝2aを設けることでこの植栽部2を他の地面よりも高くし、前記植栽部2の上部に設けた穴3に稲の種aを直播すると共に、栽培地面に植栽部2の上部が水没しないよう湛水bを施すことで育苗・栽培する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、直播による水稲の栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圃場を用いた一般的な直播による水稲の栽培方法は、栽培地面に耕耘や溝切りなどで天地返し等を施して平坦な水平に仕上げ、この平坦な地面に播種して湛水栽培するようにしている。
【0003】
即ち、従来の水稲栽培方法は、栽培地面の水稲が植わっている部分とその他の部分が水平であり、湛水によって栽培地面の全てが水没することになる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、栽培地面の全てが水没する場合に、水深を深くすることで雑草の発生を抑制しているが、平坦な地面では水稲も深水となり、このため、温度上昇が望めないので、徒長などを招いたり、分げつを妨げるという問題がある。
【0005】
なぜならば、苗経ち後の栽培において、湛水の水深を深くすることで雑草を抑制するが、これは、水没させて呼吸困難にしたり、米糖や緑藻などで遮光させて光合成ができないようにしたり、水温を下げて生育活性を不活性化することによるものであり、これは、雑草のみに必要であり、稲に対しては負担となる。
【0006】
即ち、稲は分げつすることで穂を増やすが、この分げつには温度が重要であり、上記のように栽培地面の全てを水没させると、稲に対する温度管理が十分に行えず、稲の生育活性や分げつを邪魔することになる。
【0007】
そこで、この発明の課題は、稲に対する発芽から育苗・栽培までの温度と水管理が十分に行え、稲の分げつを促すことで収穫量の拡大を図ることができる水稲栽培方法を提供することにある。なお、この発明は、JST(独立行政法人科学技術振興機構)における平成19年度モデル化事業による成果の一部である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記のような課題を解決するため、この発明は、栽培地面に高低差を設けることで植栽部を他の地面よりも高くし、この植栽部に播種すると共に、前記栽培地面に植栽部の上部が水没しないよう湛水することで育苗・栽培するようにしたものである。
【0009】
上記植栽部が、栽培地面に設けた畝又は点在的に配置した島によって形成されているようにしたり、上記植栽部の上部に上から穴を開け、この穴に種を直播して覆土しないようにすることができる。
【0010】
ここで、栽培地面に設けた畝や島の上部に上から穴を開け、この穴に種を直播して覆土しない状態で、種に十分な水分を含ませておけば、朝方の結露水のみでも発芽は可能であり、栽培地面に湛水せずに乾田状態で発芽させることができ、育苗・栽培のために、適宜の時期に畝や島の上部が水没しないように湛水する。
【0011】
また、乾燥条件の畝や島においては、畝や島の上部が水没しないように湛水すればよく、穴に播いた種に対して横浸透により給水され、水分供給ができて発芽させることができる。
【0012】
上記のように、畝や島の上部が水没しないように湛水すれば、穴に対する潅水で種が窒息するのを防ぐことができ、畝や島の周囲に対する雑草発芽抑制が得られると共に、水位調節と土の浸透性により、出芽後の苗立ちにおける水分調整が容易に行え、稲の分げつを促すことになり、更に、根系が発達すると根が水中に張り出し、畝や島の周りが水路となることで、水流により根の吸収がよくなる。
【発明の効果】
【0013】
この発明によると、栽培地面に高低差を設けて植栽部を他の地面よりも高くし、この植栽部の上部に播種し、前記植栽部の上部が水没しないよう湛水して育苗・栽培するようにしてので、湛水による畝や島の周囲の雑草発芽抑制を維持しながら、水位調節により温度管理が容易に行え、出芽時の苗立ちにおける水分調整が容易となり、稲の分げつを促すことで結実数を増やし収穫量の拡大を実現することができる。
【0014】
また、植栽部の周りが水路となることで、根系が発達していない場合は、除草剤や初期除草、後期施肥の特性を持つ有機物や石灰窒素などを低いところに運び置くことができ、また、根系が発達すると水中に根が張り出し、水流により根の吸収がよくなり、栽培効果の向上が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0016】
図示のように、この発明の水稲栽培方法は、水を溜めることができるようにした圃場1の栽培地面に高低差を設け、この高低差によって植栽部2を他の地面よりも高くし、前記植栽部2の上部に稲の種aを播種すると共に、前記栽培地面に植栽部2の上部が水没しないよう湛水bで満たすことで育苗・栽培するようにしたものである。
【0017】
上記植栽部2は、図1と図2の場合、長く連続するように土を盛った畝2aによって形成し、図3と図4の例は、お椀形のような盛り土を点在的に配置した島2bによって形成し、この植栽部2の上部に棒状の部材を用いて上から穴3を開け、この穴3に種を直播すると共に、穴3に覆土はしないようにするものである。
【0018】
上記植栽部2の上部に設ける穴3は、植栽部2の上部に一つだけ設けるようにしてもよいが、植栽部2が畝2aの場合、図2のように、上記の穴3は複数を一組とし、これを長さ方向に一定間隔の配置で設けるようにし、また、植栽部2が島2bの場合は、図4のように、各島2bの上部に適宜距離を置いた3個程度の複数を一組として設けるようにすることができ、このように、複数を一組とする穴3とすれば、一つの穴3の苗が立ち枯れしたような場合でも、他の苗に影響が及ぶのを防ぐことができるという利点がある。
【0019】
上記の穴3は、播種後に覆土しないため、鳥害を防ぐことができる直径と深さに設定されている。
【0020】
例えば、稲の種を栽培地面にある切り株に穴を設け、この穴に播種する栽培方法の場合、切り株の高さにもよるが、通常のコンバインやバインダ等では、10cm以上の切り株が覆うため、直径1cmで深さ2cm程度の穴に播いても鳥害を防ぐことができるが、この発明のように、畝や島の場合は、直径1cmで深さ5センチ程度の穴3にすれば、雀等の小鳥のくちばしが穴底に達しない深さとなり、穴3内に播いた種aを鳥害から守ることができると共に、覆土をすることなく発芽が得られることになる。なお、穴3が前記よりも深くなり、これを覆土すると、種は発芽しないで螺局を巻くという不都合が生じることになる。
【0021】
また、上記植栽部2となる畝2aは、栽培地面に複数を並列状に形成することにより、隣接する畝2aの間に湛水bの溜まる溝4を形成し、島2bの場合は、所定の間隔で設けられる多数の島2bが列となって並ぶように配置し、各島2bの周囲が湛水bの溜まる凹部5になる。
【0022】
次に、この発明の水稲直播栽培の方法を説明する。
【0023】
圃場1の栽培地面に、必要ならば、耕耘や溝切りなどで天地返し等を施した後、この栽培地面に畝2aや島2bを土盛りすることで高低差を設けて植栽部2を形成し、前記植栽部2の上部に上から穴3を開け、この穴3に稲の種aを直播して覆土しないようにする。
【0024】
上記穴3に稲の種aを直播したあとの発芽に対する潅水については、乾田状態での発芽と湛水の注入による発芽を選択することができる。
【0025】
先ず、乾田状態での発芽は、穴3に稲の種aを直播するときに、種aに十分な水分を含ませておけば、朝方の穴3内での結露水のみで発芽することになる。
【0026】
次に、湛水の注入による発芽は、種aや畝2a、島2bが十分な水分を含んでいない場合や、時期によっては穴3内に結露が生じにくい場合であり、穴3に稲の種aを直播したあと、圃場1の溝4や凹部5に植栽部2の上部が水没しないよう湛水bを施し、畝2aや島2bの横浸透水で種aに対して水分を供給してすることで発芽させるものである。
【0027】
種aの発芽時や発芽後において、図2と図4のように、植栽部2の上部が水没しないように湛水bを施すことにより、種aは水没せずに植栽部2の周囲下部が水没し、種aの窒息発生をなくし、植栽部2を浸透した水分が種aに作用して発芽、育苗を促すことになり、また、溝4や凹部5の湛水bが雑草発芽抑制となる。
【0028】
上記溝4や凹部5は水路となり、発根が発達していない場合は、この溝4や凹部5の低いところに、除草剤や初期除草、後期施肥の特性を持つ、米糖などの微生物が分解できる有機物、石灰窒素などを、前記通路を通じて運び置くことができ、これによって、施肥が効率よく行え、また、溝4や凹部5内の水位調節や土の浸透性により、苗立ち(出芽)における水分調整、即ち、植栽部2の上部の乾燥と湿潤が容易にでき、発芽と発根の促進を図ることができる。
【0029】
また、図5のように、苗立ち後の栽培において、植栽部2の上部が水没しないよう湛水bを調整することで、苗Aの温度を上げることができ、これにより、生育活性や分げつを高めることができ、分げつすることで穂を増やす(植え付け時は3本でも分げつ後は18本以上)ことが可能になり、しかも、成長と共に根系が発達すると、根Bが水中に張り出し、水流により根Bの吸収がよくなり、収穫量の増大につながることになる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明の水稲栽培方法において、圃場の栽培地面に設ける植栽部を畝によって形成した場合の平面図
【図2】(a)は図1の畝を拡大した平面図、(b)は(a)の矢印b−b線での縦断正面図
【図3】この発明の水稲栽培方法において、圃場の栽培地面に設ける植栽部を島によって形成した場合の平面図
【図4】(a)は図3の島を拡大した平面図、(b)は(a)の矢印b−b線での縦断正面図
【図5】植栽部と湛水及び稲の関係を示す縦断面図
【符号の説明】
【0031】
1 圃場
2 植栽部
2a 畝
2b 島
3 穴
4 溝
5 凹部
a 種
b 湛水
A 苗
B 根

【特許請求の範囲】
【請求項1】
栽培地面に高低差を設けることで植栽部を他の地面よりも高くし、この植栽部に播種すると共に、前記栽培地面に植栽部の上部が水没しないよう湛水することで育苗・栽培する水稲栽培方法。
【請求項2】
上記植栽部が、栽培地面に設けた畝又は島によって形成されている請求項1に記載の水稲栽培方法。
【請求項3】
上記植栽部の上部に上から穴を開け、この穴に種を直播して覆土しない請求項1又は2に記載の水稲栽培方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−142126(P2010−142126A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−319430(P2008−319430)
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【出願人】(000250007)有光工業株式会社 (30)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)