説明

水系でのポリマー濃度の測定方法

1つの態様では、本発明は、緩衝溶液を陽イオン性色素溶液と混合し、緩衝液−色素混和物の吸光度を選択された波長(1以上)で測定し、前もって決定された吸光度値からポリマー又はオリゴマーの濃度を決定することを含んでなる、工業用水中の陰イオン性ポリマー又はオリゴマーの濃度を決定する方法に関する。本発明の別の実施形態において、緩衝溶液は多機能性緩衝溶液であり得、複数の緩衝液、マスキング剤、及び/又は安定化剤並びにこれらの組合せからなり得る。他の実施形態では複数の色素を使用し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、一般に、冷却及びボイラー水系のような工業用水系における水溶性ポリマーの検出に関する。具体的には、本発明は、陽イオン性色素と水溶性ポリマーとの相互作用に基づいて工業用水系において陰イオン性の水溶性ポリマーの濃度又は有効性を決定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロセス装置から熱を除去するとか蒸気の発生とかのような数多くの様々な工業プロセスにおいて水を使用することはよく知られている。しかし、殆どの工業プロセスにおいて、不純物の存在は当該プロセスに影響を与える可能性があるので未処理の水を使用することは賢明又は可能ではない。例えば、これらのプロセスに使用する装置でスケール(湯垢)が生成又は付着するのを防止するためにスケールの生成を抑制する化合物が冷却塔及び沸騰水に添加される。
【0003】
殆どの工業用水は、カルシウム、バリウム、マグネシウム及びナトリウムのような金属カチオン、並びに重炭酸イオン、重酸イオン、硫酸イオン、リン酸イオン及びフッ素イオンのようなアニオンを含有する。これらカチオンとアニオンの組合せが一定の濃度を超えて存在すると、反応生成物がそのプロセスにおいて水と接触する装置の表面上に析出し、スケール又は堆積物を形成する。かかるスケール又は堆積物が存在すると、プロセス条件が最適ではなくなり、かかるスケール又は堆積物の清浄化又は除去が必要となるが、これはそのプロセス又は系の停止を必要とすることが多いという点で費用がかかり厄介である。従って、かかるスケール又は堆積物が生起するのを防止するために、それらの生成を予防するべく適正な化学物質で水を処理するのが好ましい。
【0004】
スケール及び堆積物の生成は、カチオン−アニオン反応生成物の溶解度を越えないように保証することによって回避することができる。この目的のために、不飽和カルボン酸及び不飽和スルホン酸並びにそれらの塩から誘導されたポリマーのような水溶性ポリマーを始めとするある種の化学物質が有用であることは公知である。幾つかの特に有用な水溶性ポリマーは、HPS−I、AEC及びAPES並びにポリエポキシコハク酸(いずれもGE Beta、Trevose、PAから入手可能)を包含し、また米国特許第5518629号、同第5378390号、同第5575920号、同第6099755号、同第5489666号、同第5248483号、同第5378372号及び同第5271862号に詳細に記載されている。しかし、これらのポリマーが存在すると、工業用水系のポリマーの濃度を注意深く監視しなければならないので、別の重大な問題が生じる。使用するポリマーが少なすぎると、やはりスケール生成が起こる可能性があり、一方あまりに多くのポリマーを使用すると、その処理が費用効果的でなくなる可能性がある。各所与の系に対して、実現する必要がある最適な濃度レベル又は範囲がある。
【0005】
水性系において水溶性ポリマーの濃度を測定する方法は公知である。例えば、色素を用いて特定の成分のレベルを決定する多くの方法が利用可能である。米国特許第4894346号には、ある種の陽イオン性色素を用いて水性系内のポリカルボキシレートを比色分析測定する方法が教示されている。Ciotaらの米国特許第6214627号では、試薬、水、Nile Blue色素及びキレート化剤を含む水溶液中の負荷電ポリマーの濃度を測定している。加えて、チオシアン酸鉄のキレート化を使用して、ポリアクリル酸に基づくキャリブレーションを検出するHachポリアクリル酸法がある。その他の方法として、米国特許第5958778号のように蛍光又は化学発光法による検出技術と組み合わせて発光(luminal)タグ付きポリマーを用いて工業用水を監視するものがある。米国特許第6524350号で実証されているように、多くの陽イオン性色素は溶液状態で安定ではない。この特許には、ピナシアノールクロリドが水溶液中で安定ではないことが示されている。しかし、これらの方法には、水性系での不安定性、狭いダイナミックレンジ、並びに天然のポリマー及び試料のイオン強度による干渉を始めとする数多くの欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5518629号明細書
【特許文献2】米国特許第5378390号明細書
【特許文献3】米国特許第5575920号明細書
【特許文献4】米国特許第6099755号明細書
【特許文献5】米国特許第5489666号明細書
【特許文献6】米国特許第5248483号明細書
【特許文献7】米国特許第5378372号明細書
【特許文献8】米国特許第5271862号明細書
【特許文献9】米国特許第4894346号明細書
【特許文献10】米国特許第6214627号明細書
【特許文献11】米国特許第5958778号明細書
【特許文献12】米国特許第6524350号明細書
【特許文献13】国際公開第01/36542号
【特許文献14】国際公開第00/58725号
【特許文献15】米国特許第5389548号明細書
【特許文献16】米国特許第5032526号明細書
【特許文献17】欧州特許出願公開第0144130号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現行の方法には、多くの問題、特に様々な要因及び成分による干渉の問題がある。従って、水溶液中の水溶性ポリマーの濃度を決定するのに容易に使用することができ、高い再現性、干渉に対する低下した応答及び高まった安定性を示す簡易化された、より正確な試験方法に対するニーズが存在している。
【課題を解決するための手段】
【0008】
1つの態様では、本発明は、緩衝溶液と陽イオン性色素溶液とを混合し、緩衝液−色素混和物の選択された波長(1以上)で吸光度を測定し、前もって決定された吸光度値からポリマー又はオリゴマーの濃度を決定することからなる、工業用水中の陰イオン性のポリマー又はオリゴマーの濃度を決定する方法に関する。
【0009】
本発明の別の実施形態において、緩衝溶液は多機能性緩衝溶液であり得、複数の緩衝液、マスキング剤、及び/又は安定化剤及びこれらの組合せからなり得る。他の実施形態では、複数の色素を使用してもよい。
【0010】
本発明を特徴付ける新規性の様々な特徴は、本出願の一部をなす添付の特許請求の範囲に特定して記載されている。本発明を使用して得られる作動利点及び利益がより良く理解できるように、添付の図面と以下の詳細な説明を参照する。添付の図面は本発明の多くの態様の例を示すことを意図している。これらの図面は、本発明を実施し使用することができるあらゆる方法を限定することを意図したものではない。当然、本発明の様々な成分の変更及び置換が可能である。本発明はまた、記載された要素の下位の組合せ及び下位の系にも関し、またそれらを使用する方法にも関する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、530、593及び647nmにおける1,9−ジメチルメチレンブルーの吸光度の変化をポリマーHPS−Iの濃度の関数としてプロットした図である。
【図2】図2は、593nmにおけるAzure Bの吸光度の変化をポリマーHPS−Iの濃度の関数としてプロットした図である。
【図3】図3は、ブリリアントクリスタルブルーの吸光度の変化をポリマーHPS−Iの濃度の関数としてプロットした図である。
【図4】図4は、2ppm濃度のポリマーHPS−Iに対する585nmにおけるブリリアントクリスタルブルー(BCB)の吸光度の変化を溶液の導電率の関数としてプロットした図である。
【図5】図5は、HPS−1の添加の際のDMMB色素の析出を示す図である。
【図6】図6は、図5と同じアッセイの図であるが、40ppmのArabicガムを添加した。
【図7】図7は、AECに対するマスキング剤としてMn2+を使用した図である。
【図8】図8は、DCA247に対する校正曲線の図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
好ましい実施形態に関連して本発明を説明するが、本発明が属する技術分野の当業者は本発明の技術的範囲から逸脱することなくこれらの実施形態に対して様々な変更又は置換をなすことができる。従って、本発明の技術的範囲は、上記実施形態のみならず、特許請求の範囲の範囲内に入るものを全て包含する。
【0013】
本明細書及び特許請求の範囲を通じて使用する場合、概算の言語は、関連する基本的な機能に変化を生じることなく変化することが許容され得るあらゆる定量的表現を修飾するために適用され得る。従って、「約」のような用語により修飾された値はその特定された厳密な値に限定されることはない。少なくとも幾つかの場合において、概算の言語は、その値を測定するための機器・装置の精度に対応し得る。範囲の境界は組み合わせ及び/又は互換が可能であり、かかる範囲は同一とみなされ、前後関係又は言語が他の意味を示さない限りあらゆる中間の範囲が本発明に包含される。実施例又は他に指摘する場合を除き、本明細書及び特許請求の範囲で使用する成分、反応条件などの量に関係する数又は表現は全て、いかなる場合も用語「約」によって修飾されているものと了解されたい。
【0014】
本明細書で使用する場合、用語「含む」、「包含する」、「有する」その他これらの変形は、包括的に含むことを対象としている。例えば、一覧の要素を含むプロセス、方法、物品又は装置は、必ずしもそれらの要素のみに限定されることはなく、明示されていないか又はかかるプロセス、方法、物品又は装置に固有の他の要素を含み得る。
【0015】
本発明の実施形態は、工業用水試料中の陰イオン性のポリマー及び/又はオリゴマーの濃度を決定するための改良された方法を含む。本明細書に開示され特許請求の範囲に記載されている方法は、限定されることはないがボイラー、冷却塔、蒸発器、ガス洗浄器、キルン及び脱塩装置を始めとする水性系内の陰イオン性のポリマー腐食又はスケール抑制剤の濃度を迅速かつ正確に決定するのに特に適している。この方法では、最適な効率及び効力に対して予め決定された校正曲線を使用する。本明細書に開示された方法によって検出することができるポリマーとしては、限定されることはないが、カルボン酸、スルホン酸、硫酸、ホスホン酸、リン酸のような陰イオン性の基を含有する水溶性の陰イオン性ポリマーがある。その例はポリアクリル酸部分(moiety)ポリマー、ポリスルホン化ポリマー、及び無水マレイン酸ポリマーである。考えられる陰イオン性ポリマーの幾つかの特定の例はHPS−1、AEC及びAPES(GE Betz、Trevose、PA)である。
【0016】
各特定のポリマーに対して評価する必要がある1つの要因は、そのポリマーと色素との間の相互作用の程度である。この要因は、色素の吸光度変化をある特定のポリマーの関数としてマッピングすることによって決定することができる。色素組成物の吸光度の変化を決定するためには、色素組成物の初期吸光度を、組成物の混合後の設定された時間に300〜700nmの可視スペクトル内のある波長で決定する。本出願においては、特定のポリマー濃度の関数としてこれらの測定を繰り返した。一例として、図1に、530、593及び647nmにおける1,9−ジメチルメチレンブルー(DMMB)の吸光度変化を、ポリマーHPS−I(アクリル酸/1−アリルオキシ,2−ヒドロキシプロピルスルホネート)、及びその濃度の関数として示す。図2は、別の色素Azure B(AB)の吸光度変化を593nmにおけるHPS−Iの関数として示す。従って、特定の色素と、限定されることはないがHPS−Iのような任意のポリマーとの間の相互作用の程度を定量化することが可能である。当業者にとってみれば、図1と図2の試験は、DMMBとHPS−Iとの間で示された相互作用がABとHPS−Iとの間の相互作用よりずっと強いことを明らかに示している。
【0017】
本発明の1つの実施形態で考慮される別の要因はイオン強度効果である。図3に、ブリリアントクリスタルブルー(BCB)色素の585nmにおける吸光度をHPS−Iポリマーの濃度の関数として示す。図3と2のプロットを比較すると、BCBは、HPS−Iに対する相互作用がABよりも一層弱い。これは、相互作用が弱ければ弱い程その色素とポリマーの組合せはそれだけ望ましくないという点で重要な関係がある。
【0018】
図4は、本発明の1つの実施形態において考慮され得るもう1つ別の要因を示している。具体的には、図4は、2ppmのHPS−Iポリマー濃度に対する585nmでのBCBの吸光度変化を溶液の導電率の関数として示している。この導電率の値はイオン強度の量的指標である。イオン強度効果はBCBで際立っており、従ってBCBが実際の水試料でのHPS−Iの測定にとって良好な色素ではないことを示唆している。これは、試料のイオン強度を調整するのは極めて困難であるからである。図4から得られる情報は、図1及び2で決定された情報と相俟って、水溶液中に存在するポリマー又はオリゴマーに関する最も正確な知識を得るには適正な色素を選択する必要があることを立証している。具体的には、水マトリクスにより起こり得る干渉を最小限に抑えるためには、当該ポリマーと強い相互作用を有する色素を使用する必要がある。現在のところ、ポリマー/色素相互作用、イオン強度、及び溶液導電率のような要因の総合効果を考慮したプロセスはこれまで知られていない。これらの相互作用を検討したことで得られたデータによって本発明の方法が見出された。
【0019】
陽イオン性及び陰イオン性色素並びにポリマーは、それらが電荷を保有する、すなわち正又は負に荷電しているという事実のため水溶性である。色素がポリマーと複合体を形成すると、その複合体により担持される全イオン電荷は相互の電荷の中和のため低下する。1つの例は負の色素と正荷電ポリマーとの相互作用である。この相互作用の結果として、色素−ポリマー複合体はそのアッセイ系から析出し得る。かかる作用は、特にその水性系が高い硬度要因をもつものである状況では、問題となる可能性がある。本発明の1つの実施形態においては、水溶液中のポリマー及び/又はオリゴマーの存在を迅速かつ正確に測定する能力を制限する要因の幾つかに対処するために、多機能性の緩衝液を添加することができる。多機能性の緩衝液は、限定されることはないが安定化剤、マスキング剤、及び/又はpH緩衝液、並びにこれらの組合せを含む組成物又は溶液である。かかる多機能性の緩衝液は従来技術では知られておらず使われてもなく、溶液中のポリマー/オリゴマー濃度の正しい決定の際の干渉の問題に対して大いに役立つ。かかる多機能性緩衝液の使用は、ポリマー濃度の効果的かつ効率的な決定に影響する要因を最小限に抑えるか又は排除することによって選択性と安定性の問題に対処し、このため本方法は現行の工業設備で実用される。
【0020】
本発明の1つの実施形態では、水溶液中のポリマー/オリゴマー濃度をより正確に決定するために安定化剤を添加する。安定化剤を添加することは、析出及びアッセイの不安定性の問題を解決するのに役立つ。図5は、ポリマー、すなわちこの場合はHPS−Iの添加の際にDMMBがアッセイ溶液から迅速に析出することを示している。図6は同じアッセイとポリマー相互作用を示しているが、安定化剤を添加しており、このため析出が減少している。特に、図6は、DMMBが、ポリマーHPS−1の添加後安定化剤、すなわちこの場合はArabicガムの存在のため、ほぼ同程度の量又は同程度迅速にしか析出しないことを示している。析出がない安定なアッセイは、析出の結果流れが閉塞したり、例えば光学窓上に堆積したりする可能性があるオンライン又は自動的応用の場合必要とされる。安定化剤は約10〜約100ppm、又は約30〜約50ppmのような様々な量で添加することができる。
【0021】
本発明のもう1つ別の実施形態は、ポリマー及び/又はオリゴマーと共に存在し得る界面活性剤のマスキングを提供する。陰イオン性界面活性剤は、マスキング剤を多機能性緩衝液に含ませることによって効果的にマスキングすることができる。かかるマスキング剤を含ませることによって、ポリマー濃度の読み取り値はより正確になる。図7は、5ppmのポリエポキシコハク酸(PESA)が緩衝液中の490ppmのMn2+の存在下で色素に対して全く応答を示さないことを実証している。ドデシルベンゼンスルホネートは、水性系に陽イオン性界面活性剤を添加することによってマスキングすることができる別の陰イオン性界面活性剤の例である。このマスキング剤は20〜約2000ppm、さらには約100〜約1000ppmの量である。マスキング剤としては、限定されることはないが、二価のマンガン塩、第一鉄塩、カルシウム塩、亜鉛塩、四級アミン界面活性剤、又はこれらの組合せがある。
【0022】
ある種の成分は水及び水性系内に天然に存在する。例えば、タンニン酸は地表水中に存在する天然の成分の1つである。タンニン酸は、合成陰イオン性ポリマーのような陰イオン性ポリマーの濃度を測定するとき異染性色素に基づく比色分析法に深刻な干渉を引き起こす可能性が高い。ポリマーのHPS−I及びPESAは、高い硬度濃度を有する水の存在下で、限定されることはないがBasic Blue 17のような陽イオン性色素に応答しないことが判明した。しかし、タンニン酸は、高い硬度濃度を有する水性系の存在下でBasic Blue 17(BB 17)のような色素に対して感受性の応答を示す。従って、本発明の別の実施形態では、HPS−Iのような陰イオン性ポリマーの濃度とタンニン酸の濃度の両方を決定するための二色素法が必要とされる。これを達成するには、水性系がタンニン酸とHPS−Iのような陰イオン性ポリマーとを含んでいる場合、最初にDMMBのような陽イオン性色素に対する水性系の全体の応答を測定することができ、その後、BB 17のような第2の陽イオン性色素を水性系に暴露し、その暴露に対して応答する吸光度を測定する。第2の色素、すなわちこの場合はBB 17は陰イオン性ポリマー、すなわちこの場合はHPS−Iに応答しないので、この第2の色素のときに測定された吸光度は明らかにタンニン酸のような他の成分に関連している。従って、第2の色素により測定された第2の成分の濃度を、全体としての応答の最初の読み取り値から単に差し引くことで、結果として、系内の陰イオン性ポリマー、すなわちこの場合はHPS−Iの濃度が測定されることになる。
【0023】
本発明の1つの実施形態において、工業用水試料中の陰イオン性のポリマー又はオリゴマーの濃度を決定するための方法は、多機能性の緩衝溶液を工業用水試料に加え、次いでその緩衝液を含む水試料に陽イオン性色素溶液を加えて混和物を得、その混和物の吸光度を選択された波長で測定し、予め決定された校正式に基づいて吸光度値からポリマー又はオリゴマーの濃度を決定することからなる。特定のポリマーに対するキャリブレーションは、設定された波長でポリマーの濃度の関数として吸光度をプロットすることによって決定される。
【0024】
工業用水試料の部分又は試料はポリマー又はオリゴマー化合物を含有する水溶液のいかなる便利な量であってもよい。さらに、粒子状物質を除去するための試料のろ過、存在する場合の塩素及び/又は第二鉄を低減するための効果的な量の還元剤の添加といったような水試料の前処理が望ましいことがあり、これによりこれらの成分による干渉を最小限に抑えることができる。
【0025】
色素は、ポリイオン性化合物との相互作用に際して色変化を起こす色素である一群の異染性色素から選択される。陽イオン性色素が選択される一群の色素としては、限定されることはないが、ジメチルメチレンブルー、Basic Blue 17、New Methylene Blue、及びこれらの組合せがある。本発明の1つの実施形態では陽イオン性色素として1,9−ジメチルメチレンブルーを使用する必要がある。陽イオン性色素は効果的な量で添加され、この量は一般にアッセイにおけるポリマーのモル濃度の約0.5〜約3.0倍である。
【0026】
本発明の別の実施形態では、第2の又は追加の多機能性緩衝液を使用する必要がある。この実施形態において、差動マスキングによって工業用水試料中の陰イオン性ポリマー又はオリゴマーの濃度を決定する方法は、前記試料の一部分に第1の多機能性緩衝溶液を加え、次いでその試料−緩衝液混合物に陽イオン性色素溶液を加えて混和物を作成し、その混和物の吸光度を選択された波長(1以上)で測定し、次いで工業用水試料の第2の部分に第2の多機能性緩衝液を加えて第2の緩衝液−水混合物を作成し、その第2の緩衝液−水混合物に陽イオン性色素溶液を加え、その第2の混合物から得られた混和物の吸光度を測定し、予め決定された校正式に基づいてこれらの2つの吸光度値からポリマー及びオリゴマー濃度を決定することからなる。2つの多機能性緩衝溶液を使用することを含む1つの実施形態において、多機能性緩衝液は各々が少なくとも1つのマスキング剤を含んでおり、これらのマスキング剤は各々の緩衝溶液で同じあることも異なっていることもでき、また同じ若しくは異なる量で緩衝溶液中に存在することができ、さらにまたこれらの任意の組合せもよい。
【0027】
本発明のもう1つ別の実施形態は上記段階に従うが、第2の水−緩衝液混合物と混合されて第2の混和物を形成する第2の又は別の陽イオン性色素を用いる推論(inference)バックグラウンド補正によって試料を決定する点において異なっている。従って、この場合のプロセスは、多機能性緩衝溶液を水試料の一部分に加え、第1の陽イオン性色素溶液を最初の試料−緩衝液混合物に加え、その最初の混和物の吸光度を選択された1以上の波長で決定し、次に第1の陽イオン性色素溶液を第2の陽イオン性色素溶液に替えてこれらの段階を繰り返すことを含んでいる。その後、上記のプロセスで読み取られた吸光度値から、予め決定された校正式を用いてポリマー及びオリゴマー濃度が得られる。
【0028】
本明細書で使用する場合、吸光度は次式のLambert−Beer Lawに従って定義することができる。
A=abc
式中、A=吸光度であり、a=色素の吸光係数であり、b=光路長であり、c=着色物質の濃度である。使用する各々の色素は300〜1000nm範囲内に最大吸光度を有しており、最大吸光度の範囲内の波長で吸光度を測定するのが望ましい。
【0029】
吸光度は、当技術分野で吸光度を測定するのに公知のあらゆる適切な装置を用いて測定することができる。かかる適切な装置としては、限定されることはないが、比色計、分光光度計、カラーホイール、及びその他の型の公知の比色測定器具がある。1つの実施形態は、白色光源(例えば、Dunedin、FLのOcean Optics,Incから入手可能なタングステンランプ)及び携帯式分光計(例えば、Dunedin、FLのOcean Optics,Inc.から入手可能なModel ST2000)を含む光学系を用いて行われる光学的応答の測定を提供する。使用される分光計は約250〜約1100nmのスペクトル範囲をカバーするのが望ましい。
【0030】
工業用水系中の利用可能な陰イオン性ポリマーの濃度又は量を決定するためには、先ず所定の各ポリマーに対する校正曲線を作成する必要がある。校正曲線を作成するには、既知の量のポリマーを含有する様々な水の試料を調製し、適当な試薬溶液を作成し、その試薬溶液を用いて試料の吸光度を測定する。本発明の1つの実施形態においては、吸光度は吸光度差として記録される。吸光度差は、試薬溶液自身の吸光度と、試薬溶液及び試験される水の試料の混合物の吸光度との差である。そこで、校正曲線は試料中のポリマーの既知の濃度に対する吸光度差のプロットである。一旦作成されたら、この校正曲線を用いて、試料の測定された吸光度差をその曲線と比較し、存在するポリマーの量を曲線から読み取ることによって、どれだけのポリマーが試料中に存在するか判定することができる。かかる曲線の一例を図8に示すが、これはDCA 247に対する校正曲線である。
【0031】
本明細書に記載した本実施形態の様々な変更及び修正は当業者には明らかであることを了解されたい。かかる変更及び修正は、本発明の思想と範囲から逸脱することなく、またその付随する利点を減じることなくなすことができる。従って、かかる変更及び修正は特許請求の範囲に包含されるものである。
【実施例】
【0032】
以下の非限定実施例で本発明を例証するが、これらの実施例は例示の目的で挙げるものであり、本発明の範囲を限定するものと解してはならない。これらの実施例中の部及びパーセントは、特に断らない限り全て重量基準である。
【0033】
DCA 247(GE Betz、Trevose、PA)に対して校正曲線を決定した。脱イオン水中に100ppmの1,9−ジメチルメチレンブルー(DMMB)を含むDMMB溶液を調製した。緩衝液のpHは4.2であり、脱イオン水中で0.1M酢酸と1M水酸化ナトリウムから調製した。この緩衝溶液は安定化剤として100ppmのArabicガムを、またポリエポキシコハク酸(PESA)の干渉を排除するためのマスキング剤として5000ppmの硫酸マンガン一水和物を含有していた。525nmで吸光度を測定し、DCA 247の濃度の関数としてプロットした。校正式はy=0.0311x+0.207であり、R2=0.9984であった。結果を図12に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工業用水試料中の陰イオン性のポリマー又はオリゴマーの濃度を決定するための方法であって、
(a)多機能性の緩衝溶液を前記試料に添加する段階、
(b)段階(a)の緩衝液−試料混合物に陽イオン性色素溶液を添加する段階、
(c)上記段階(b)の混和物の吸光度を1以上の選択された波長で測定する段階、及び
(d)予め決定された校正式に基づいて、段階(c)で決定された吸光度の値からポリマー又はオリゴマーの濃度を決定する段階
を含んでなる、前記方法。
【請求項2】
段階(a)の前記多機能性緩衝液が安定化剤を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
段階(a)の多機能性緩衝液が少なくとも1種のマスキング剤を含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
段階(a)の多機能性緩衝液がpH緩衝液を含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
陽イオン性色素が、Dimethyl Methylene Blue、Basic Blue 17及びNew Methylene Blue N、並びにこれらの組合せからなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項6】
陽イオン性色素が1,9−ジメチルメチレンブルーからなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項7】
安定化剤がArabicガムである、請求項2記載の方法。
【請求項8】
前記マスキング剤が、二価のマンガン塩、第一鉄塩、カルシウム塩、亜鉛塩、四級アミン界面活性剤又はこれらの任意の組合せからなる群から選択される、請求項3記載の方法。
【請求項9】
前記マスキング剤が四級アミン界面活性剤である、請求項3記載の方法。
【請求項10】
工業用水試料中の陰イオン性のポリマー又はオリゴマーの濃度を差動マスキングによって決定するための方法であって、
(a)第1の多機能性の緩衝溶液を前記試料の一部分に添加する段階、
(b)段階(a)の試料−緩衝液混合物に陽イオン性色素溶液を添加する段階、
(c)段階(b)の混和物の吸光度を選択された1以上の波長で測定する段階、
(d)第2の多機能性緩衝液を前記試料の第2の部分に添加する段階、
(e)段階(d)の試料−緩衝液混合物に前記陽イオン性色素溶液を添加する段階、
(f)段階(e)で得られた混和物の吸光度を測定する段階、
(g)段階(c)及び(f)の両者で得られた吸光度の値から、予め決定された校正式に基づいてポリマー及びオリゴマーの濃度を決定する段階
を含んでなる、前記方法。
【請求項11】
段階(a)の第1の多機能性緩衝液が安定化剤を含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
段階(d)の第2の多機能性緩衝液が安定化剤を含む、請求項10記載の方法。
【請求項13】
段階(a)の第1の多機能性緩衝液が少なくとも1種のマスキング剤を含む、請求項10記載の方法。
【請求項14】
段階(d)の第2の多機能性緩衝液が少なくとも1種のマスキング剤を含む、請求項10記載の方法。
【請求項15】
第1の多機能性緩衝液が少なくとも1種のマスキング剤を含んでおり、前記マスキング剤が第2の多機能性緩衝液のマスキング剤と異なる、請求項10記載の方法。
【請求項16】
第1の多機能性緩衝液が、第2の多機能性緩衝液中に存在するマスキング剤と等しくない量で存在するマスキング剤を含む、請求項10記載の方法。
【請求項17】
第1の多機能性緩衝液がpH緩衝液を含有する、請求項10記載の方法。
【請求項18】
第2の多機能性緩衝液がpH緩衝液を含有する、請求項10記載の方法。
【請求項19】
陽イオン性色素が、Dimethyl Methylene Blue、Basic Blue 17及びNew Methylene Blue N、並びにこれらの任意の組合せからなる群から選択される、請求項10記載の方法。
【請求項20】
陽イオン性色素が1,9−ジメチルメチレンブルーである、請求項10記載の方法。
【請求項21】
安定化剤がアラビアガムである、請求項11記載の方法。
【請求項22】
安定化剤がアラビアガムである、請求項12記載の方法。
【請求項23】
マスキング剤が、二価のマンガン塩、第一鉄塩、カルシウム塩、亜鉛塩、四級アミン界面活性剤 又はこれらの任意の組合せからなる群から選択される、請求項13記載の方法。
【請求項24】
マスキング剤が、二価のマンガン塩、第一鉄塩、カルシウム塩、亜鉛塩、四級アミン界面活性剤又はこれらの任意の組合せからなる群から選択される、請求項14記載の方法。
【請求項25】
工業用水試料中の陰イオン性のポリマー又はオリゴマーの濃度を、第2の色素溶液を用いる干渉バックグラウンド補正によって決定するための方法であって、
(a)前記試料の一部分に多機能性の緩衝溶液を添加する段階、
(b)第1の陽イオン性色素溶液を(a)の試料−緩衝液混合物に添加する段階、
(c)段階(b)で得られた混和物の吸光度を選択された1以上の波長で決定する段階、
(d)第1の色素溶液を第2の色素溶液に替えて段階(a)、(b)及び(c)を繰り返す段階、
(e)段階(c)及び(d)で得られた吸光度の値から、予め決定された校正式を用いてポリマー及びオリゴマーの濃度を得る段階
を含んでなる、前記方法。
【請求項26】
第1の陽イオン性色素が、Dimethyl Methylene Blue、Basic Blue 17及びNew Methylene Blue N、並びにこれらの任意の組合せからなる群から選択される、請求項25記載の方法。
【請求項27】
第2の陽イオン性色素が、Dimethyl Methylene Blue、Basic Blue 17及びNew Methylene Blue N、並びにこれらの任意の組合せからなる群から選択される、請求項25記載の方法。
【請求項28】
第1の陽イオン性色素及び第2の陽イオン性色素が、Dimethyl Methylene Blue、Basic Blue 17及びNew Methylene Blue N、並びにこれらの組合せからなる群から選択されるが、第1の陽イオン性色素が第2の陽イオン性色素と同一ではない、請求項25記載の方法。
【請求項29】
段階(a)の前記多機能性緩衝液が安定化剤、マスキング剤、pH緩衝液、及びこれらの組合せからなる群から選択される、請求項25記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2010−529430(P2010−529430A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−510394(P2010−510394)
【出願日】平成20年4月29日(2008.4.29)
【国際出願番号】PCT/US2008/061832
【国際公開番号】WO2008/147618
【国際公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】