説明

水系コーティング剤

【課題】塗布基材との親和性が高く、塗布工数が増加する問題がなく、更に帯電防止機能があり、しかも摩擦係数が高いコーティング剤を提供すること。
【解決手段】ポリウレタン水分散物と導電性カーボンブラックを配合してなり、配合比が、ポリウレタン水分散物を構成するウレタン樹脂と導電性カーボンブラックの体積分率で83:17〜67:33の範囲であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系コーティング剤に関し、詳しくは、基材の物理的特性を損なうことなく表面に導電性、滑り防止機能を付加でき、搬送用コンベア等の生産設備、事務機器用ゴム、樹脂材、ロール等材質を問わず塗布することができる水系コーティング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子部品基板等の搬送用ベルトあるいは搬送装置においては、搬送中に発生する静電気が電子部品に悪影響することから、帯電防止が求められている。しかし、表面コーティングによって導電化すると、逆に滑り性が増加し、搬送中に部品が落下する問題があった。
【0003】
そこで、ベルトとの親和性が高く、帯電防止機能があり、しかも摩擦係数が高いコーティング剤の開発が望まれている。
【0004】
特許文献1には、結着樹脂と導電性付与剤を含有する母体粒子と、滑り防止剤とを粘着材を用いてボンディングしてなり、シート搬送ローラ用の滑り防止塗膜として利用できる粉体塗料が提案されている。
【0005】
しかし、粉体塗料であるため、シート搬送ローラのような塗布基材の材質によっては適応することができない。また、液状塗料に比べ多くの工数が必要であるという問題がある。
【特許文献1】特開2007−291284号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の課題は、塗布基材との親和性が高く、塗布工数が増加する問題がなく、更に帯電防止機能があり、しかも摩擦係数が高いコーティング剤を提供することにある。
【0007】
また本発明の他の課題は以下の記載によって明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は以下の各発明によって解決される。
【0009】
(請求項1)
ポリウレタン水分散物と導電性カーボンブラックを配合してなり、配合比が、ポリウレタン水分散物を構成するウレタン樹脂と導電性カーボンブラックの体積分率で83:17〜67:33の範囲であることを特徴とする水系コーティング剤。
【0010】
(請求項2)
ウレタン樹脂と導電性カーボンブラックの体積分率が80:20〜70:30の範囲であることを特徴とする請求項1記載の水系コーティング剤。
【0011】
(請求項3)
搬送用ベルト、又は搬送装置の表面に適用されることを特徴とする請求項1又は2記載の水系コーティング剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、塗布基材との親和性が高く、塗布工数が増加する問題がなく、更に帯電防止機能があり、しかも摩擦係数が高いコーティング剤を提供することができ、特に電子部品基板等の搬送用ベルトもしくは搬送装置に好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。
【0014】
本発明の水系コーティング剤は、ポリウレタン水分散物と導電性カーボンブラックを配合してなる。
【0015】
本発明において、ポリウレタン水分散物は、処理被膜に柔軟性、基材との密着性、滑り防止機能を与える成分である。
【0016】
本発明に用いることができるポリウレタン水分散物としては、ポリウレタンを水に乳化分散又は可溶化させた水分散物を用いることができ、例えばウレタン構造内に親水基が導入され、乳化剤を用いることなく乳化分散可能な自己乳化型ポリウレタン水分散物や、あるいは乳化剤を用いてポリウレタンを乳化分散させた強制乳化型ポリウレタン水分散物を好適に用いることができる。
【0017】
自己乳化型ポリウレタン水分散物は、例えば、ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物とイオン性親水基を付与する化合物、及び、必要に応じて鎖延長剤とを反応させて得られるイソシアネート基末端プレポリマーの中和物を水に分散させた後、アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するポリアミン化合物で鎖延長反応して得られる。
【0018】
また強制乳化型ポリウレタン水分散物は、ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物、及び、必要に応じて鎖延長剤とを反応させて得られるイソシアネート基末端プレポリマーを非イオン界面活性剤を用いて水に分散させた後、アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するポリアミン化合物で鎖延長反応させて得られる。
【0019】
自己乳化型や強制乳化型のポリウレタン水分散物の製造の際に用いられるポリオール化合物は、特に制限はなく、例えば、2個以上のヒドロキシル基を有するポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオールなどを挙げることができる。
【0020】
ポリエステルポリオールとしては、例えば、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンブチレンアジペート、ポリヘキサメチレンイソフタレートアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンセバケート、ポリブチレンセバケート、ポリ−ε−カプロラクトンジオール、ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレン)アジペート、1,6−ヘキサンジオールとダイマー酸の重縮合物、1,6−ヘキサンジオールとアジピン酸とダイマー酸の共重縮合物、ノナンジオールとダイマー酸の重縮合物、エチレングリコールとアジピン酸とダイマー酸の共重縮合物などを挙げることができる。
【0021】
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、ポリテトラメチレンカーボネートジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、ポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンカーボネートジオールなどを挙げることができる。
【0022】
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどの単独重合体、エチレンオキシドとプロピレンオキシド、エチレンオキシドとブチレンオキシドのランダム共重合体やブロック共重合体などを挙げることができる。
【0023】
またポリイソシアネート化合物は、特に制限はなく、例えば、2個以上のイソシアネート基を有する脂肪族ポリイソシアネート化合物、脂環式ポリイソシアネート化合物、芳香族ポリイソシアネート化合物などを挙げることができる。
【0024】
脂肪族ポリイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートなどを挙げることができる。
【0025】
脂環式ポリイソシアネート化合物としては、例えば、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンなどを挙げることができる。
【0026】
芳香族ポリイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどを挙げることができる。
【0027】
必要に応じて用いることができる鎖延長剤としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトールなどの低分子量多価アルコール、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノシクロヘキシルメタン、ピペラジン、2−メチルピペラジン、イソホロンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンなどの低分子量ポリアミンなどを挙げることができる。
【0028】
本発明の方法に用いる自己乳化型ポリウレタン水分散物の製造の際に用いるウレタン骨格に導入するイオン性親水基を付与する化合物は、特に制限はなく、例えば、アニオン性親水基を付与する化合物、カチオン性親水基を付与する化合物などを挙げることができる。
【0029】
アニオン性親水基を付与する化合物としては、例えば、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸などを挙げることができる。カチオン性親水基を付与する化合物としては、アルカノールアミン類を好適に用いることができ、例えば、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどを挙げることができる。
【0030】
本発明において、ポリウレタン水分散物の製造の際に、分散手段や可溶化手段は特に限定されない。
【0031】
本発明の水系コーティング剤に配合される導電性カーボンブラックは、処理被膜に導電性を与える役割を果たす。
【0032】
導電性カーボンブラックの種類は特に制限はないが、分散性、導電性に優れたファーネスブラックが好ましい。
【0033】
ポリウレタン水分散物と導電性カーボンブラックの配合比は、ポリウレタン水分散物の配合量が少なすぎると被膜の静摩擦係数、塗膜の密着性、柔軟性が低下し、また、配合量が多すぎると体積抵抗率が増大するので、ポリウレタン水分散物を構成するウレタン樹脂と導電性カーボンブラックの体積分率が83:17〜67:33となるように決定され、好ましくは、ウレタン樹脂と導電性カーボンブラックの体積分率が80:20〜70:30となるように決定される。
【0034】
本発明の水系コーティング剤に配合できるその他の成分としては、界面活性剤、消泡剤、増粘剤などが挙げられる。
【0035】
本発明の水系コーティング剤は、特に電子部品基板等の搬送用ベルトもしくは搬送装置に好適に用いられる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明の効果を例証する。
【0037】
実施例1
ポリウレタン水分散液として「タケラックW−6061」(固形分30%)(三井化学ポリウレタン株式会社製)を49.07wt%、導電性カーボンブラックとして「ピグダイブラックLN−720−N」(固形分30%)(レジノカラー工業株式会社製)を17.60wt%使用し、蒸留水33.33%を加え、塗料固形分を20wt%に調製した。
【0038】
焼成後被膜の体積分率は、ウレタン樹脂:カーボンブラック=80:20であった。
【0039】
実施例2
実施例1において、ポリウレタン水分散液として、「タケラックW−6061」に代えて「タケラックWS−6021」(固形分30%)(三井化学ポリウレタン株式会社製)を使用した以外は実施例1と同様に塗料を調製した。
【0040】
実施例3
ポリウレタン水分散液として「タケラックW−6061」(固形分30%)(三井化学ポリウレタン株式会社製)を43.33wt%、導電性カーボンブラックとして「ピグダイブラックLN−720−N」(固形分30%)(レジノカラー工業株式会社製)を23.33wt%使用し、蒸留水33.33%を加え、塗料固形分を20wt%に調製した。
【0041】
焼成後被膜の体積分率は、ウレタン樹脂:カーボンブラック=73:27であった。
【0042】
実施例4
実施例3において、ポリウレタン水分散液として、「タケラックW−6061」に代えて「タケラックWS−6021」(固形分30%)(三井化学ポリウレタン株式会社製)を使用した以外は実施例3と同様に塗料を調製した。
【0043】
実施例5
ポリウレタン水分散液として「タケラックW−6061」(固形分30%)(三井化学ポリウレタン株式会社製)を41.27wt%、導電性カーボンブラックとして「ピグダイブラックLN−720−N」(固形分30%)(レジノカラー工業株式会社製)を25.40wt%使用し、蒸留水33.33%を加え、塗料固形分を20wt%に調製した。
【0044】
焼成後被膜の体積分率は、ウレタン樹脂:カーボンブラック=70:30であった。
【0045】
実施例6
実施例5において、ポリウレタン水分散液として、「タケラックW−6061」に代えて「タケラックWS−6021」(固形分30%)(三井化学ポリウレタン株式会社製)を使用した以外は実施例5と同様に塗料を調製した。
【0046】
比較例1
ポリウレタン水分散液として「タケラックW−6061」(固形分30%)(三井化学ポリウレタン株式会社製)を53.33wt%、導電性カーボンブラックとして「ピグダイブラックLN−720−N」(固形分30%)(レジノカラー工業株式会社製)を13.33wt%使用し、蒸留水33.34%を加え、塗料固形分を20wt%に調製した。
【0047】
焼成後被膜の体積分率は、ウレタン樹脂:カーボンブラック=85:15であった。
【0048】
比較例2
比較例1において、ポリウレタン水分散液として、「タケラックW−6061」に代えて「タケラックWS−6021」(固形分30%)(三井化学ポリウレタン株式会社製)を使用した以外は比較例1と同様に塗料を調製した。
【0049】
比較例3
ポリウレタン水分散液として「タケラックW−6061」(固形分30%)(三井化学ポリウレタン株式会社製)を33.33wt%、導電性カーボンブラックとして「ピグダイブラックLN−720−N」(固形分30%)(レジノカラー工業株式会社製)を33.33wt%使用し、蒸留水33.34%を加え、塗料固形分を20wt%に調製した。
【0050】
焼成後被膜の体積分率は、ウレタン樹脂:カーボンブラック=39:41であった。
【0051】
比較例4
比較例3において、ポリウレタン水分散液として、「タケラックW−6061」に代えて「タケラックWS−6021」(固形分30%)(三井化学ポリウレタン株式会社製)を使用した以外は比較例3と同様に塗料を調製した。
【0052】
<体積抵抗率>
実施例1〜6、比較例1〜4の塗料を用いて、スプレー法で塗布し、120℃、30分焼成して作製した膜厚約50μmのフィルム状テストピースについて体積抵抗率を測定した。
【0053】
膜厚の確認には電磁膜厚計LZ−200(株式会社ケット科学研究所)を使用した。
【0054】
体積抵抗率の測定は、2つの電極間に試料を挟み、試料厚さと電極面積から、ρv=Rv×S/t(ρv:体積抵抗率(Ω・cm)、Rv:抵抗値(Ω)、S:電極面積(cm)、t=試料厚さ(cm))の式で計算できる。測定には絶縁抵抗計3224(HIOKI)を使用した。
5×10Ω・cm以下を合格とした。
測定結果を表1に示す。
【0055】
<静摩擦係数>
実施例1〜6、比較例1〜4の塗料を用いて、厚さ2mmのニトリルゴムシートの表面に、スプレー法で約20μm塗布し、120℃、30分焼成してテストピースを作製し、HEIDON表面性試験機(新東科学株式会社)を使用して静摩擦係数を測定した。
圧子:φ10mm、SUS、速度:50mm/分、荷重:0.49N、振幅:50mm
0.8以上を合格とした。
測定結果を表1に示す。
【0056】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン水分散物と導電性カーボンブラックを配合してなり、配合比が、ポリウレタン水分散物を構成するウレタン樹脂と導電性カーボンブラックの体積分率で83:17〜67:33の範囲であることを特徴とする水系コーティング剤。
【請求項2】
ウレタン樹脂と導電性カーボンブラックの体積分率が80:20〜70:30の範囲であることを特徴とする請求項1記載の水系コーティング剤。
【請求項3】
搬送用ベルト、又は搬送装置の表面に適用されることを特徴とする請求項1又は2記載の水系コーティング剤。