説明

水系潤滑剤組成物及び加工方法

【課題】潤滑性に優れた水系潤滑剤組成物及び該水系潤滑剤組成物又はその希釈物を用いた加工方法を提供する。
【解決手段】本発明の水系潤滑剤組成物は、基油を含む水系溶媒又は分散剤及び防錆剤の少なくとも一方を含む水系溶媒中にフラーレン等のナノカーボン材料を含有する。また、本発明の加工方法は、本発明の潤滑剤組成物又はその希釈物を用いて被加工材の加工を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系潤滑剤組成物及び該水系潤滑剤組成物又はその希釈物を用いた加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、物体間の摩擦の低減等を目的として、種々の分野で潤滑剤組成物が使用されている。例えば、エンジン等の機械において、可動部材間の摩擦低減等のために、機械油が使用されている。また、金属加工分野では、金属等の被加工材と工具又は金型(以下、「工具等」という。)間の摩擦の低減並びに工具等の冷却及び保護等の目的で、潤滑剤組成物が使用されている。従来、潤滑剤組成物には、潤滑性を付与する目的で、硫黄系、塩素系、及びリン系の極圧添加剤が添加されている。
【0003】
また、近年、潤滑性その他の機能を期待して、金属加工分野において、フラーレンが利用されている。例えば、特許文献1には、特定の基油に酸化防止剤としてのフラーレンを添加した潤滑剤組成物が記載されている。特許文献2には、溶融金属を充填する前に金型のキャビティ面にフラーレンを付着させて炭素被膜を形成し、該炭素被膜面上に離型剤を塗布する鋳造方法が記載されている。特許文献3には、被加工材又は金型表面にフラーレン膜を形成する離型剤及び膜形成方法が記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開2005−336309号公報
【特許文献2】特開2007−144499号公報
【特許文献3】特開2006−306010号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、潤滑剤組成物は様々な分野に用いられており、従来よりも更に潤滑性に優れた潤滑剤組成物が求められている。一方、特許文献1はフラーレンを酸化防止剤として添加することが開示されているに過ぎず、特許文献1には、潤滑剤のその他の性質とフラーレンとの関係についての技術的知見が存在しない。また、特許文献2及び3記載の方法では、潤滑剤組成物とは別個にフラーレン膜を金型表面等に形成しているに過ぎず、潤滑剤組成物に含まれる成分と作用効果との関係について全く記載も示唆もない。
【0006】
本発明は、潤滑性に優れた水系潤滑剤組成物及び該水系潤滑剤組成物又はその希釈物を用いた加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の水系潤滑剤組成物(以下、単に「潤滑剤組成物」という。)は、基油を含む水系溶媒又は分散剤及び防錆剤の少なくとも一方を含む水系溶媒中にナノカーボン材料を含有することを特徴とする。
【0008】
本発明の加工方法は、本発明の潤滑剤組成物又はその希釈物を用いて被加工材を加工することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の潤滑剤組成物は、優れた潤滑性を有する。本発明の加工方法によれば、本発明の潤滑剤組成物による優れた潤滑性のため、被加工材を良好に加工することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(1)潤滑剤組成物
本発明の潤滑剤組成物に含まれる上記ナノカーボン材料の種類、構造及び形状には特に限定はない。上記ナノカーボン材料としては、例えば、カーボンナノチューブ(一枚のグラファイトシートがチューブ状に丸まった単層タイプ及びこのチューブが入れ子状に複数層重なった多層タイプ)、フラーレン、カーボンナノファイバ、カーボンナノ粒子(ナノホーンを含む)、CNナノチューブ、CN(ナノ)ファイバ、CNナノ粒子、BCNナノチューブ、BCN(ナノ)ファイバ、及びBCNナノ粒子が挙げられる。
【0011】
本発明では、上記ナノカーボン材料として、フラーレンを用いることができる。該フラーレンを構成するフラーレン骨格の種類及び構造には特に限定はない。上記フラーレンの炭素数は通常は偶数である。上記フラーレンの炭素数は、例えば、60〜130の偶数、好ましくは60〜120の偶数、更に好ましくは60〜100の偶数とすることができる。上記フラーレンとして具体的には、例えば、C60、C70、C76、C78、C82、C84、C90、C94及びC96並びにこれらよりも多くの炭素を有する高次の炭素クラスターが挙げられる。上記フラーレンとして好ましくはC60である。
【0012】
上記フラーレンは1種単独で用いてもよく、異なる種類又は構造を有する2種以上のフラーレンを用いてもよい。例えば、上記フラーレンはC60でもよく、あるいは、C60を主成分とし、異なる種類又は構造を有する2種以上のフラーレンでもよい。C60を主成分とする2種以上のフラーレンとして具体的には、例えば、C60を50〜99質量%、好ましくは60〜98質量%、更に好ましくは70〜95質量%、より好ましくは75〜90質量%含有するフラーレンが挙げられる。残部を構成するフラーレンとしては、例えば、C70、C76、C78、C82、C84、C90、C94及びC96並びにこれらよりも多くの炭素を有する高次の炭素クラスターが挙げられる。C60を主成分とする2種以上のフラーレンとしてより具体的には、例えば、C60を上記範囲で含有し、且つC70を0.5〜30質量%、好ましくは1.5〜25質量%、更に好ましくは3〜20質量%、より好ましくは8〜15質量%含有するフラーレンが挙げられる。
【0013】
上記フラーレンは、フラーレン骨格上に官能基を有するフラーレン誘導体でもよい。該官能基の種類は、本発明の作用効果を阻害しない限り、特に限定はない。上記官能基としては、例えば、アルキル基及びアラルキル基等の疎水性基、並びに親水性基が挙げられる。上記官能基は1種のみのでもよく、2種以上の異なる官能基でもよい。上記官能基として好ましくは親水性基である。よって、上記フラーレンとして、1種又は2種以上の親水性基を有する水溶性のフラーレン誘導体が好ましい。上記フラーレンは、上記親水性基を1種のみでもよく、2種以上の異なる親水性基でもよい。上記親水性基として具体的には、例えば、水酸基、アミノ基(第1級、第2級、及び第3級)、ニトロ基、スルホン酸基、硫酸基、フェノール性水酸基、及びカルボキシル基の1種又は2種以上が挙げられる。
【0014】
上記フラーレンは、他の包接化合物(例えば、シクロデキストリン等)により包接されていてもよい。よって、上記フラーレンとして、フラーレン包接物を用いることができる。上記フラーレンとして上記フラーレン包接物を用いると、フラーレンの構造の変化及び剛性低下を抑制し、フラーレンの特性を維持したまま水に可溶化することができる。その結果、潤滑性を向上することができるので好ましい。上記フラーレンは、本発明の作用効果を阻害しない限り、フラーレン骨格内部に他の金属又は化合物を包接していてもよい。また、上記フラーレンは、本発明の作用効果を阻害しない限り、他の金属又は化合物と錯体を形成していてもよい。
【0015】
上記ナノカーボン材料の含有量には特に限定はない。上記ナノカーボン材料の含有量は、本発明の潤滑剤組成物全体を100質量%とした場合、通常、0.01〜20質量%、好ましくは0.01〜10質量%、更に好ましくは0.01〜5質量%、より好ましくは0.05〜3質量%、特に好ましくは0.05〜2質量%である。上記ナノカーボン材料の含有量が上記範囲であると、潤滑性に優れた潤滑剤組成物を得ることができるので好ましい。
【0016】
上記水系溶媒は、基油を含む水系溶媒又は分散剤及び防錆剤の少なくとも一方を含む水系溶媒である限り、その種類には特に限定はない。例えば、分散剤及び防錆剤の少なくとも一方を含む水系溶媒は、基油を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。上記水系溶媒として具体的には、例えば、水及び水溶性のアルコールが挙げられる。該アルコールは1価アルコールでもよく、多価アルコールでもよい。該アルコールとしては、例えば、炭素数1〜5の脂肪族アルコール及び炭素数2〜5のグリコールが挙げられる。
【0017】
上記基油の種類には特に限定はない。上記基油としては、例えば、鉱物油、油脂、及び合成潤滑油が挙げられる。上記鉱物油としては、例えば、灯油、軽油、スピンドル油、マシン油、ニュートラル油、タービン油、シリンダー油、及び流動パラフィンが挙げられる。また、上記油脂としては、牛脂、豚脂、ナタネ油、ヤシ油、パーム油、及びヌカ油、並びにこれらの水素添加油等が挙げられる。更に、上記合成潤滑油としては、上記油脂から得られる脂肪酸、脂肪酸とアルコールのエステル、ポリブテン等のポリαオレフィン、ポリエチレングリコール、ポリオールエステル等のポリオール類、ポリエーテル若しくはポリエステル、及び高級アルコール等が挙げられる。上記基油は、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0018】
上記基油の含有量には特に限定はない。本発明の潤滑剤組成物全体を100質量%とした場合、上記基油の含有量は通常0.1〜60質量%、好ましくは0.5〜40質量%、更に好ましくは1〜20質量%、より好ましくは1〜10質量%である。
【0019】
本発明の潤滑剤組成物では、水系溶媒中に上記ナノカーボン材料を均一に懸濁又は分散させるために、1種又は2種以上の分散剤を含有させることができる。水系溶媒中に上記ナノカーボン材料が均一に懸濁又は分散していると、潤滑性を高めることができるので好ましい。上記分散剤の種類には特に限定はない。上記分散剤としては、例えば、界面活性剤が挙げられる。該界面活性剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0020】
上記界面活性剤としては、例えば、非イオン性界面活性剤及び陰イオン性界面活性剤が挙げられる。上記非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリエチレングリコール(若しくはエチレンオキシド)と高級脂肪酸(例えば、炭素数12〜18の直鎖又は分岐脂肪酸)とから構成されるポリオキシエチレンアルキルエステル、並びにソルビタンとポリエチレングリコールと高級脂肪酸(例えば、炭素数12〜18の直鎖又は分岐脂肪酸)とから構成されるポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステルが挙げられる。また、上記陰イオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪酸塩、硫酸エステル塩、スルホン酸塩、リン酸エステル塩、及びジチオリン酸エステル塩が挙げられる。
【0021】
本発明の潤滑剤組成物には、上記の成分以外にも、一般的な潤滑剤組成物に添加されている種々の添加剤を必要に応じて適宜含有させることができる。例えば、ヒンダードエステル、アルキルアミン等の油性剤、ポリスルフィド及び硫化油脂等の有機硫黄化合物並びに(亜)リン酸エステル及び酸性(亜)リン酸エステル等の有機リン化合物等の極圧添加剤、ジチオリン酸亜鉛及びジチオカルバミン酸モリブデン等の有機金属塩、黒鉛及び二硫化モリブデン等の固体潤滑剤、酸化防止剤、防錆剤、並びに防食剤等が挙げられる。
【0022】
黒鉛及び二硫化モリブデンの使用は、作業環境を悪化させることがある。よって、本発明の潤滑剤組成物では、他の固体潤滑剤として、黒鉛及び/又は二硫化モリブデンの使用を控えることができる。例えば、本発明の潤滑剤組成物全体を100質量%とした場合、上記黒鉛及び二硫化モリブデンの含有量は0〜1質量%、好ましくは0質量%を超え0.5質量%以下、更に好ましくは0質量%を超え0.1質量%以下が好ましい。また、本発明の潤滑剤組成物は、極圧添加剤を含まなくても優れた離型性を示す。よって、本発明の潤滑剤組成物全体を100質量%とした場合、極圧添加剤(例えば、硫黄系、及びリン系の極圧添加剤)の含有量は0〜1質量%、好ましくは0質量%を超え0.5質量%以下、更に好ましくは0質量%を超え0.1質量%以下とすることができる。
【0023】
また、本発明の潤滑剤組成物は、有機硫黄化合物及び有機リン化合物(例えば、有機硫黄系及び有機リン系の極圧添加剤等)を含有しなくても優れた潤滑性を示す。また、本発明の潤滑剤組成物が有機硫黄化合物及び有機リン化合物を含まない場合、環境への悪影響を避けることができる。よって、本発明の潤滑剤組成物では、有機硫黄化合物、有機リン化合物、(例えば、有機硫黄系及び有機リン系の極圧添加剤等)の使用を控えることができる。
【0024】
例えば、本発明の潤滑剤組成物全体を100質量%とした場合、有機硫黄化合物及び有機リン化合物の含有量を、それぞれ0〜1質量%、好ましくは0.5質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下とすることができる。また、本発明の潤滑剤組成物全体を100質量%とした場合、有機硫黄化合物及び有機リン化合物の含有量の合計を0〜1質量%、好ましくは0質量%を超え0.5質量%以下、更に好ましくは0質量%を超え0.1質量%以下とすることができる。
【0025】
更に、本発明の潤滑剤組成物は、金属化合物(ZnDTP,MoDTC、カルシュウム石鹸等)を含まなくても優れた潤滑性を示す。また、本発明の潤滑剤組成物が金属化合物を含まない場合、環境への悪影響を避けることができる。よって、本発明の潤滑剤組成物では、金属化合物の使用を控えることができる。本発明の潤滑剤組成物全体を100質量%とした場合、金属化合物の含有量を0〜1質量%、好ましくは0.5質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下とすることができる。
【0026】
本発明の潤滑剤組成物は、そのまま使用することができる。また、本発明の潤滑剤組成物は、必要に応じて、更に水等の希釈剤で稀釈して使用することもできる。本発明の潤滑剤組成物の希釈物を調製する場合、その希釈倍率は通常1.5〜100倍、好ましくは2〜70倍、更に好ましくは5〜50倍、より好ましくは10〜50倍である。また、上記希釈物中の上記ナノカーボン材料の含有量は、希釈物全体を100質量%とした場合、通常0.01〜5質量%、好ましくは0.01〜1質量%、更に0.01〜0.5質量%である。
【0027】
本発明の潤滑剤組成物は、潤滑性が要求される種々の用途に使用することができる。例えば、本発明の潤滑剤組成物は、機械油(油圧作動油及び工作機械油等)として用いることができる。また、本発明の潤滑剤組成物は、金属加工油等の加工油剤として用いることができる。上記加工油剤としてより具体的には、例えば、切削油、研削油、鋳造油、鍛造油、圧延油、プレス油、及び引き抜き油が挙げられる。また、本発明の潤滑剤組成物は、熱間加工、温間加工、及び冷間加工のいずれにも用いることができる。
【0028】
(2)加工方法
本発明の加工方法は、本発明の潤滑剤組成物又はその希釈物(以下、単に「潤滑剤組成物等」という。)を用いて被加工材を加工する。本発明の加工方法では、必ずしも被加工物表面にナノカーボン材料を含む膜を形成する必要はない。また、本発明の加工方法では、ナノカーボン材料の塗布と潤滑剤組成物の塗布とを別工程とする必要はない。
【0029】
上記被鋳造材の材質及び形状には特に限定はない。上記被鋳造材は、金属材料でもよく、非金属材料(例えば、ガラス及びセラミックス等)でもよい。上記被鋳造材の材質として具体的には、例えば、(1)鉄、鋳鉄,鋼(炭素鋼及びステンレス鋼等)、及び鉄合金、(2)インコネル、チタン、及びチタン合金、並びに(3)アルミニウム、マグネシウム、亜鉛,銅等の非鉄金属並びにそれらの合金が挙げられる。また、本発明の加工方法では、棒材やブロック材等だけでなく、熱間鍛造後の形状物(ギヤ及びシャフト等)の加工も考えられる。よって、上記被加工材の形状には特に限定がない。
【0030】
本発明の加工方法において、上記潤滑剤組成物等を供給する方法には特に限定はない。例えば、上記潤滑剤組成物等を圧延油として用いる場合、予め圧延ロールに塗布したり、あるいは、圧延加工中に圧延ロール又は被圧延材に対して噴霧又は塗布(ロールコート等)することにより供給することができる。上記潤滑剤組成物等を供給する方法としてその他に、例えば、ノズルから液状で供給する方法、手づけ給油(ブラシ塗り及び油差し等)で供給する方法、及び噴霧により供給する方法が挙げられる。更に、本発明の加工方法では、上記潤滑剤組成物等を入れたタンク内に被加工材を浸漬し、次いで、該被加工材を加工することができる。
【0031】
本発明の加工方法において、上記水系潤滑剤組成物等は、上記被加工材の加工部位に液状で供給することができる。即ち、本発明の加工方法は、液状潤滑により行うことができる。尚、「加工部位に液状で供給する」とは、上記水系潤滑剤組成物等が加工部位に液状で供給されていればよく、必ずしも直接加工部位に供給される必要はない。上記水系潤滑剤組成物等を上記被加工材の加工部位に液状で供給する方法としては、例えば、前述の方法が挙げられる。
【0032】
本発明の加工方法の具体的内容には特に限定はない。該加工方法は、熱間加工、温間加工、及び冷間加工のいずれでもよい。上記加工方法として具体的には、例えば、切削加工、研削加工、塑性加工、鋳造加工、鍛造加工、圧延加工、プレス加工、及び引き抜き加工が挙げられる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明について、実施例を挙げて具体的に説明する。尚、本発明は、これらの実施例に何ら制約されるものではない。
【0034】
(1)フラーレンの合成
以下に記載の方法により、本実施例で使用したフラーレン誘導体を合成した。
【0035】
(A)水酸化及びアミノ化フラーレン
水酸化及びアミノ化フラーレンは、特開2007−176899号公報に記載の方法により合成した。C60フラーレン(商品名「nanom purplex ST」、フロンティアカーボン株式会社製)1.53g、30%過酸化水素水150ml、及び28%アンモニア水61mlを、冷却管付きの500mlナス型フラスコに入れ、60℃で12時間攪拌した。得られた懸濁液を遠心分離(3000rpm、20分間)することにより、上澄み液と沈殿物に分離した。この上澄み液にエタノール450mlを加え、析出した固体を遠心分離(10000rpm、15分間)により分離して取り出した。この固体を35mlの純水に溶解して、攪拌下でエタノール150mlに滴下した。析出した淡黄色懸濁物を、350mlのエタノールで2回超音波洗浄し、2日間常温で真空乾燥して、淡黄色の生成物である水酸化及びアミノ化フラーレン1.2gを得た。該生成物の元素分析値はC;34.9%、H;4.8%、N;11.3%であった。
【0036】
(B)水酸化フラーレン
水酸化フラーレンは、Long Y. Chiang and others : J. Org. Chem. 1994, 59, 3960-3968に記載の方法で合成した。C60フラーレン(商品名「nanom purplex ST」、フロンティアカーボン株式会社製)2.284g及び30%発煙硫酸12mlを、冷却管付きの100mlナスフラスコに入れ、65℃で6時間反応させた。反応物を氷冷した純水50mlに滴下し、得られた赤褐色懸濁物をNo.6ろ紙(保留粒子3ミクロン)で吸引ろ過した。ろ過物を100mlの純水に分散させ、85℃で5.5時間加熱・攪拌し、その後、室温まで冷却した。懸濁物を遠心分離(13000rpm、1時間)で沈降させた。この操作を上澄み液が中性になるまで4回行った。得られた沈降物を40℃で5時間真空乾燥し、赤褐色固体である水酸化フラーレン2.42gを得た。
【0037】
(C)硫酸化フラーレン
硫酸化フラーレンは、Long Y. Chiang and others : J. Org. Chem. 1994, 59, 3960-3968の方法を参考にして合成した。上記(B)で得られた水酸化フラーレン1.01g及び30%発煙硫酸59mlを、200mlのナスフラスコに入れ、室温〜35℃で3日間攪拌した。得られた褐色液を、攪拌下で氷冷したエーテル600mlに滴下した。静置後、上澄み液を除き、残った濃縮液を遠心分離(10000rpm、15分間)し、沈降物を取り出した。この沈降物について、エーテル洗浄−遠心分離(10000rpm、15分間)を4回繰り返し、その後、4時間真空乾燥して、赤褐色の粉体である硫酸化フラーレン0.82gを得た。
【0038】
(D)フラーレンのγ−シクロデキストリン包接物
フラーレンのγ−シクロデキストリン包接物は、Koichi Komatsu and others : J. Chem. Soc., Perkin Trans. 1, 1999, 2963-2966 を参考にして合成した。C60フラーレン(商品名「nanom purplex ST」、フロンティアカーボン株式会社製)0.2083g、γ−シクロデキストリン1.4237g、及び直径1.75mmの高純度ジルコニア球80gを、蓋付きの100ml金属製容器に入れ、プロペラ式攪拌機で攪拌した。攪拌条件は920rpm−30分間である。得られた茶褐色粉末を80mlの純水に分散させ、次いで0.65μメンブランフィルターで吸引ろ過した。紫色のろ液中のフラーレンを、紫外可視吸光光度計を用いて335nmの波長で定量した。ろ液中のフラーレン濃度は1180ppmであった。
【0039】
(2)潤滑剤組成物の調製
基油として、ユシロ化学工業株式会社製水溶性切削油「FGE201」を用いた。基油、フラーレン及びフラーレン誘導体、硫黄系極圧添加剤(ポリスルフィド)、γ−シクロデキストリン、及び水を表1に示す割合で配合し、試料1〜8の各潤滑剤組成物を調製した。
【0040】
【表1】

【0041】
(3)潤滑試験
上記試料1〜8の各潤滑剤組成物を用いて潤滑試験を行った。シェル高速四球試験機を用い、耐摩耗性、平均摩擦係数、及び耐荷重能を測定した。また、振り子試験機を用いて摩擦係数を測定した。耐摩耗性及び平均摩擦係数の評価条件、耐荷重能の評価条件、並びに摩擦係数の測定条件を表2に示す。以上の測定結果を表1に併記する。
【0042】
【表2】

【0043】
表1より、基油を水で希釈した試料6と比較して、フラーレン又はフラーレン誘導体を含有する試料1〜5の各潤滑剤組成物は、摩耗痕径及び摩擦係数が低く、焼付き荷重が大きい。よって、試料1〜5の各潤滑剤組成物は、潤滑性に優れていることが分かる。
【0044】
また、従来用いられていた硫黄系極圧添加剤を含有する試料7と比較して、試料1〜5の各潤滑剤組成物は、摩擦係数及び焼付き荷重が同程度であり、摩耗痕径が小さい。この結果から、試料1〜5の各潤滑剤組成物は、従来潤滑性を高めるために用いられていた極圧添加剤を含有しなくても優れた潤滑性を示すことが分かる。また、試料1〜5の各潤滑剤組成物は、硫黄化合物、塩素化合物、及びリン化合物を含んでいないことから、作業環境を悪化を抑制することができ、また、外部環境に排出した場合に、外部環境の悪化を抑制することができる。
【0045】
フラーレン誘導体(水溶性のフラーレン誘導体)を用いた試料2〜4は、フラーレンを含有する試料1よりも摩擦係数が小さく、焼付き荷重が大きいことから、より潤滑性に優れていることが分かる。また、フラーレンのシクロデキストリン包接物を用いた試料5は、フラーレンを含有する試料1よりも摩擦係数が小さく、焼付き荷重が大きいことから、より潤滑性に優れていることが分かる。
【0046】
尚、本発明は、上記実施例に限らず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施例とすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油を含む水系溶媒又は分散剤及び防錆剤の少なくとも一方を含む水系溶媒中にナノカーボン材料を含有することを特徴とする水系潤滑剤組成物。
【請求項2】
上記ナノカーボン材料がフラーレンである請求項1記載の水系潤滑剤組成物。
【請求項3】
上記フラーレンが水溶性のフラーレン誘導体又はフラーレン包接物である請求項2記載の水系潤滑剤組成物。
【請求項4】
水系潤滑油組成物100質量%中、上記ナノカーボン材料の含有量が0.01〜20質量%である請求項1乃至3のいずれかに記載の水系潤滑剤組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の水系潤滑剤組成物を希釈剤により希釈することにより得られ、水系潤滑剤組成物の希釈物100質量%中、上記ナノカーボン材料の含有量が0.01〜5質量%であることを特徴とする水系潤滑剤組成物。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の水系潤滑剤組成物又はその希釈物を用いて被加工材を加工することを特徴とする加工方法。
【請求項7】
上記水系潤滑剤組成物又はその希釈物は、上記被加工材の加工部位に液状で供給される請求項6記載の加工方法。

【公開番号】特開2009−173814(P2009−173814A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−15569(P2008−15569)
【出願日】平成20年1月25日(2008.1.25)
【出願人】(000115083)ユシロ化学工業株式会社 (69)
【Fターム(参考)】