説明

水素とLPGとの混合燃料ガス

【課題】 既存の燃焼機器に対して充分に適合することのできるLPGと水素との混合燃料ガスを提供する。
【解決手段】 水素ガスとLPGとを混合してなる民生用燃焼機器用の混合燃料ガスであって、LPG燃焼機器用として使用する場合の水素ガスの割合を0.1〜30 vol%とし、都市ガス燃焼機器用として使用する場合には水素ガスの割合を45〜70 vol%とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス燃焼機器用の燃料ガスに関し、特に水素ガスと液化石油ガス(LPG)との混合燃料ガスに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の混合燃料ガスとしては、例えば特許文献1、2に示すものが知られている。特許文献1には、クリーンなガスとして期待される水素を液化天然ガス(LNG)及び液化石油ガス(LPG)と混合して混合燃料ガスとして利用することが記載されている。また、特許文献2には、天然ガスに一定量の水素を混合して都市ガス用燃焼機器と水素利用機器(燃料電池等)に併用するようにした技術が開示されている。
【特許文献1】特開平11−228101号公報
【特許文献2】特開2002−213695号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記特許文献1に示すものでは、一層クリーンな混合燃料ガスとしての水素ガスの利用可能性を示唆しているが、そのガスを使用する燃焼機器との適合性を示すものではなく、具体性に欠けるという問題があった。また、特許文献2においてはガス事業法によるグループ分けに使用される燃焼速度指数及びウォッベ指数の記述はあるものの、LPGに対する水素ガスの具体的な混合比率などは記載されておらず、混合ガスとしての具体性に欠けるという問題があった。
【0004】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、既存の燃焼機器に対して充分に適合することのできるLPGと水素との混合燃料ガスを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の目的を達成するために請求項1に記載の発明は、水素ガスとLPGとを混合してなる混合燃料ガスであって、LPG用燃焼機器に適合する混合燃料ガスとして、水素ガスの割合を0.1〜30 vol%にしたことを特徴とし、請求項2に記載の発明は、都市ガス用燃焼機器に適合する混合燃料ガスとして、水素ガスの割合を45〜70 vol%にしたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
本発明では、LPGに対する水素ガスの混合割合をLPG用燃焼機器に適合する混合燃料ガスの場合には、0.1〜30 vol%、都市ガス(13A)用燃焼機器に適合する混合燃料ガスの場合には、45〜70 vol%としていることから、いずれの燃焼機器に対しても、燃料ガスとして最適な水素ガスとLPGとの混合燃料ガスを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
一般に、都市ガス燃焼機器の安定燃焼を確保するために、都市ガスの特性としてガス組成から、発熱量とガスの空気に対する比重との関数として算出されるウォッベ指数および燃焼速度指数を基にグループ分けがなされる。
【0008】
そして、LPGに水素ガスを混合していくと、図1に示すようにウォッベ指数は低下し、燃焼速度指数は上昇する。このため、LPGと水素ガスとの混合燃料ガスをLPG用燃焼機器で使用した場合には、熱量不足と逆火とが懸念され、LPGと水素ガスとの混合燃料ガスを高カロリー都市ガス(13A)用燃焼機器に使用した場合には、不完全燃焼と逆火が懸念される。
【0009】
そこで、図2に示す実験装置を使用して、目視による火炎の安定性、排ガス測定による不完全燃焼有無の確認、熱効率評価による熱量不足有無の確認、燃焼機器内部温度測定による逆火発生有無の確認を行った。
【0010】
実験装置は、図2に示すように混合原料ガスとしての水素ガスを貯蔵している水素貯蔵容器(1)から導出した水素ガス供給路(2)を水素ガス用マスフローコントローラ(3)を介して混合器(4)に連通してある。一方、この混合器(4)に混合原料ガスとしてLPGを貯蔵している液化石油ガス貯蔵容器(5)から導出したLPG供給路(6)がLPG用マスフローコントローラ(7)を介して連通接続できるようにしてある。
【0011】
さらに、混合器(4)から導出した混合ガス路(8)にはLPG用マスフローコントローラ(9)とLPG用調整器(10)及び温度計(11)、微差圧計(12)が介装してあり、この混合ガス路(8)はLPG用燃焼機器(13)及び高カロリー都市ガス用燃焼機器(14)に接続され、これらLPG用燃焼機器(13)及び高カロリー都市ガス用燃焼機器(14)は択一的に使用するようにしてある。
【0012】
上述の実験装置を使用して、全体を100%としたときの水素ガスの割合を変化させた場合の目視による火炎の安定性の評価結果は図3に示すとおりであった。図3中「○」は安定に燃焼をしていることを示し、「△」はやや不安定な燃焼、「×」は不安定な燃焼を示している。その結果、LPG用燃焼機器にあっては、水素ガスの割合が30 vol%以下であれば安定した燃焼が得られ、高カロリー都市ガス燃焼機器にあっては、45〜75 vol%の範囲であれば安定することがわかった。
【0013】
また、LPGへの水素ガスの割合を変化させた場合におけるJIS S2103「家庭用ガス調理機器」の性能及び試験方法に準拠した方法で理論乾燥燃料ガス中の一酸化炭素濃度を測定した結果は図4及び図5に示す通りであった。図4はLPG用燃焼機器を使用した場合で、LPGと水素ガスとの混合比率を10 vol%、20 vol%、30 vol%とした混合ガスと、水素ガスを無添加の場合を示している。図5は高カロリー都市ガス燃焼機器を使用した場合で、水素ガスとの割合を40 vol%、50 vol%、60 vol%、70vol%とした混合燃料ガスと、高カロリー都市ガス相当ガスとしてのメタンガスを使用した場合を示している。
【0014】
図4及び図5から、LPG用燃焼機器では水素ガスの割合を30 vol%までとした場合であっても、一酸化炭素濃度は基準値以下であった。また、高カロリー都市ガス燃焼機器を使用した場合には、水素ガスの割合が50〜70 vol%で基準値を下回った。
【0015】
図6及び図7は混合燃料ガスの水素ガスの割合を変えた場合におけるJIS S2103「家庭用ガス調理機器」の性能及び試験方法に準じた方法で熱効率を測定した結果であり、図6はLPG用燃焼機器を使用した場合で、水素ガスの割合を10 vol%、20 vol%、30 vol%とした混合燃料ガスと、水素ガスを無添加の場合を示している。図7は高カロリー都市ガス燃焼機器を使用した場合で、水素ガスの割合を40 vol%、50 vol%、60 vol%、70vol%とした混合燃料ガスと、高カロリー都市ガス相当ガスとしてのメタンガスを使用した場合を示している。
【0016】
図6及び図7から、LPG用燃焼機器では水素ガスの割合を30 vol%までとした場合であっても熱効率に変化は見られなかった。また、高カロリー都市ガス燃焼機器を使用した場合には、水素ガスの割合が50〜70 vol%の範囲での熱効率に差は見られなかった。
【0017】
図8はLPG用燃焼機器及び高カロリー都市ガス燃焼機器において混合燃料ガスを30分間燃焼させたときの燃焼機器内部(混合管)の温度を示す。逆火の場合、混合管の内部において火炎が発生することから、混合管内部温度が高温となるが、図8からわかるように、LPG燃焼機器を使用した場合、水素ガスの割合を30 vol%とした混合燃料ガスを燃焼させた場合と水素を混合しないプロパンガス(LPG)を燃焼させた場合とで混合管の内部温度に顕著な差はなかった。また、高カロリー都市ガス燃焼機器を使用した場合でも、都市ガスに相当するメタンガスを燃焼させた場合と水素ガスの割合をそれぞれ50 vol%、70vol%とした混合燃料ガスを燃焼させた場合とで混合管の内部温度に顕著な差はなかった。
この結果、検出温度はいずれの場合にも火炎が発生している温度とは考えにくい程度の温度であることから、この範囲の混合燃料ガスではいずれの場合にも逆火は発生していないと考えられる。
【0018】
以上のことから、LPGと水素との混合ガスを、既設のLPG用燃焼機器や高カロリー都市ガス用燃焼機器に使用する混合燃料ガスとする場合、水素ガスの割合をLPG用燃焼機器の場合には0.1〜30 vol%、高カロリー都市ガス用燃焼機器の場合には45から70 vol%とすることが妥当である。
【0019】
図9は本発明にかかる混合燃料ガスをLPG供給地域で供給するシステムの一例を示すもので、一定規模の需要家をまとめた個所にLPG貯蔵槽(20)と水素ガス貯蔵槽(21)とを設置し、この両ガス貯蔵槽(20)(21)からそれぞれ導出したガス取り出し路(22)(23)にそれぞれ流量調整器(24)(25)を配置し、両ガス取り出し路(22)(23)で供給されるLPGと水素ガスとを予め設定されて所定の一定流量で混合器(26)に供給することにより所定の混合率に混合し、この混合器(26)から導出した混合ガス供給路(27)を流路開閉弁(28)、ガスメータ(29)を介して各需要家(30)に連通接続し、混合器(26)と流路開閉弁(28)との間の混合ガス供給路(27)にバッファタンク(31)を介装している。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】LPGと水素ガスとの混合燃料ガスの水素ガスの割合に対する燃焼速度指数とウォッベ指数との関係を示す図である。
【図2】燃焼実験装置の一例を示す概略構成図である。
【図3】LPGと水素ガスとの混合燃料ガスの水素ガスの割合に対する燃焼状態の目視結果を示す図である。
【図4】LPGと水素ガスとの混合燃料ガスをLPG燃焼機器で燃焼させた場合の燃焼排ガス中の一酸化炭素濃度を示す図である。
【図5】LPGと水素ガスとの混合燃料ガスを高カロリー都市ガス用燃焼機器で燃焼させた場合の燃焼排ガス中の一酸化炭素濃度を示す図である。
【図6】LPGと水素ガスとの混合燃料ガスを高カロリー都市ガス用燃焼機器で燃焼させた場合の熱効率を示す図である。
【図7】LPGと水素ガスとの混合燃料ガスをLPG燃焼機器で燃焼させた場合の熱効率を示す図である。
【図8】LPGと水素ガスとの混合燃料ガスをLPG燃焼機器及び高カロリー都市ガス用燃焼機器で燃焼させた場合の混合管内部温度を示す図である。
【図9】LPG供給地域での混合燃料ガス供給系の一例を示す配管図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素ガスとLPGとを混合してなる混合燃料ガスであって、LPG燃焼機器用として、水素ガスの割合を0.1〜30 vol%としたことを特徴とする水素ガスとLPGとの混合燃料ガス。
【請求項2】
水素ガスとLPGとを混合してなる混合燃料ガスであって、都市ガス燃焼機器用として、水素ガスの割合を45〜70 vol%としたことを特徴とする水素ガスとLPGとの混合燃料ガス。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−314589(P2007−314589A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−142371(P2006−142371)
【出願日】平成18年5月23日(2006.5.23)
【出願人】(000158312)岩谷産業株式会社 (137)