説明

水素の製造方法

【課題】 触媒の活性が維持されかつ繰り返し使用することができ、使用する石炭により触媒を被毒することがない、触媒ガス化による水素の製造方法を提供すること。
【解決手段】 無灰石炭と触媒とを接触させることを特徴とする水素の製造方法。無灰石炭と触媒とを混合し、水蒸気と熱風とを供給しながら前記無灰石炭と前記触媒とをよく接触させ、発生した気体と残存する石炭残留物とから気体を分離することを特徴とする水素の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無灰石炭を利用した触媒ガス化による水素ガスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高効率燃料電池技術開発の発展はめざましく、また将来のエネルギー資源の脱炭素化の傾向と相俟って、水素は将来の重要なクリーンエネルギーとされている。化石資源は当面水素の製造原料として重要であるが、中でも石炭はその賦存量の大きさから有望な水素製造用原料と考えられる。
すでに商業化されている石炭ガス化の場合は、合成ガス(水素+一酸化炭素)が主生成物であることから、選択的に水素を製造する方法としては最適化されていない。
【0003】
一方、比較的低温でガス化が可能である触媒ガス化が提案されている(例えば、非特許文献1参照。)。触媒ガス化によると、従来と比較して低温で速い反応速度を得られるため、例えば950℃程度である原子力発電の余熱を利用することができる。
しかしながら、石炭中の鉱物質と例えば炭酸カリウムのような触媒との相互作用によって触媒活性が失活してしまう問題があった(例えば、非特許文献2参照。)。また、触媒に含まれるカリウムと石炭中の鉱物質との反応によって水に不溶の生成物が得られ、これによって触媒の再生循環使用が困難になるという問題もあった(例えば、非特許文献3参照。)。
【非特許文献1】Fuel,1983年,第62巻,242頁。(Helmut Kubiak, Hans-Jurgen Schroter, Alfred Sulimma, and Karl-Hinrich van Heek. Application of K2CO3 Catalysts in the Coal Gasification Process using Nuclear Heat.)
【非特許文献2】Fuel,1983年,第62巻,205頁。(Lothar Kuhn and Horst Plogmann. Reaction of Catalysts with Mineral Matter during Coal Gasification. )
【非特許文献3】Fuel,1988年,第67巻,67頁。(G. Bruno, M. Buroni, L. Carvani, G. Del Piero, and G. Passoni. Water-insoluble Compounds Formed by Reaction Between Potassium and Mineral Matter in Catalytic Coal Gasification. )
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上述の背景技術の問題点を鑑みてなされたものであり、触媒の活性が維持されかつ繰り返し使用することができ、使用する石炭により触媒を被毒することがなく、かつ触媒回収工程が不要な、触媒ガス化による水素の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、鉱物質をほとんど含まない無灰石炭と触媒とを接触させてガス化を行うことにより、触媒が被毒されずに触媒活性を維持し、かつ触媒を繰り返し使用することのできる水素の製造方法を見いだすに至った。
すなわち、本発明は、無灰石炭と触媒とを接触させることを特徴とする水素の製造方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、無灰石炭を用いるため触媒を被毒する物質をほとんど含まず、触媒の失活を防ぐことができ、触媒の損失が少なく再利用が容易になるため、製造プロセスの長期運転が可能となり、触媒の再生プロセスを省略することができる。また、本発明によれば、原炭を使用した場合と比較して反応速度を向上させることができ、また、生成したガス中の水素の割合を高くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に用いられる無灰石炭とは、有機溶剤を用いた溶剤抽出法により脱灰することにより得られたものであり、ハイパーコールとも呼ばれる。無灰石炭は鉱物質をほとんど含有しないため、触媒ガス化において触媒を被毒することがなく触媒の失活を防ぐことができる。
以下に無灰石炭の製造方法の一例を示す。まず、石炭に2〜3倍量の溶剤を混合し石炭スラリーを調製する。溶剤としては2環芳香族が好適に用いられ、具体的には、1−メチルナフタレン、粗メチルナフタレン油等が用いられる。この石炭スラリーは150℃程度で脱水された後、昇温昇圧されて溶剤抽出工程へ送液される。該石炭スラリーは溶媒抽出工程で350〜380℃程度に加熱され、これにより一部の石炭が溶剤に溶解する。次いで固液分離工程へ送られ、固形分をほとんど含まないオーバーフローと固形分が濃縮されたアンダーフローとに分けられる。オーバーフロー液からさらに溶剤を回収することにより無灰石炭(ハイパーコール)を得ることができる。回収された溶剤は、循環使用される。
【0008】
本発明に用いられる触媒は特に限定されず、石炭の触媒ガス化に用いられる触媒として従来知られているものを好適に用いることができる。例えば、Fuel,1983年、第62巻、217頁(Douglas W. McKee, Clifford L. Spiro, Philip G, Kosky, and Edward J. Lamby. Catalysis of Coal Char Gasification by Alkali Metal Salts.)に記載されているように、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸セシウム等を用いることができる。これらのうち、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムが好ましく、さらに炭酸カリウムが特に好ましい。これは、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムの分散性が良く、触媒活性が高いからである。
【0009】
本発明において、無灰石炭と触媒とを接触させる方法は特に限定されない。例えば、Fuel,1983年,第62巻,239頁(N. C. Nahas. Exxon Catalytic Coal Gasification Process.)に記載されている触媒ガス化の方法を用いることができる。
【0010】
本発明の製造方法において、無灰石炭と触媒とを混合し、水蒸気と熱風とを供給しながら前記無灰石炭と前記触媒とをよく接触させ、発生した気体と残存する石炭残留物とから気体を分離することが好ましい。水蒸気と熱風とを供給することにより、集塊性の無灰石炭を原料として用いた場合であっても石炭を細粒化し流動化状態にしてガス化を行うことができ、効率的に触媒ガス化を行って水素を製造することができる。
【0011】
次いで、本発明の製造方法を用いた連続プラントの例を図1に示し説明する。
まず、無灰石炭と触媒とをミキサー1に投入し、混合を行う。混合された無灰石炭と触媒とは、フィードスクリュー2を経て流動層4へと移動される。この流動層4は外部熱源3によって加熱することができる。また、水蒸気が水蒸気配管5から、さらに窒素が窒素配管10から流動層4へと供給される。水蒸気配管5および窒素配管10はそれぞれヒーター11により加熱することができる。
流動層4へと導入された当初の無灰石炭は100メッシュ程度の塊状であるが、水蒸気および窒素が加熱されて供給されることにより流動層4内で流動状態となる。すなわち、細粒化された無灰石炭が浮遊するような状態となり効率的にガス化が行える。流動層4内は、加熱された水蒸気および窒素の供給により、さらに外部熱源3による加熱によって通常700〜750℃程度の温度に保たれ、内部でガス化反応が進行する。なお、このときの昇温速度は、例えば5〜30℃/分、反応時間は、例えば10〜120分が好ましい。また、触媒担持量は、3%〜6%が好ましい。
【0012】
流動層4内で発生したガス(水素、二酸化炭素等を含む)と細粒化された無灰石炭とは、サイクロン7へと導入される。サイクロン7中で遠心分離を行って無灰石炭は再利用石炭用配管9を経て流動層4へと返却され、ガス生成物のみがコンデンサー8へと送られる。また、流動層4のオーバーフローはベッドオーバーフロー配管6からいったん排出された後再利用石炭用配管9より再度流動層4へと供給される。
コンデンサー8へ送られたガス生成物は室温へ冷却され、水素を含むガスはガス生成物導出口12より採取され、ミスト状(霧状)および液状の生成物は液状生成物導出口13より採取される。
なお、ガス化反応が進行し始めてからは、ミキサー1へ投入するのは無灰石炭のみで構わない。
上述のような連続ガス化プロセスにおいては、無灰石炭を使用しているため触媒が失活することがなく、触媒の回収工程が不要であり、また、触媒の使用量が抑えられかつ触媒交換しなくても連続的にガス化反応を行うことができる。さらに、このような連続プラントを用いれば、触媒と無灰石炭の接触効率がよく、効率的に水素を製造することができる。
【実施例】
【0013】
以下本発明の実施例を説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0014】
(実施例1)
豪州炭オーキークリーク炭から製造した無灰石炭と、触媒である5.5%炭酸カリウム(K2CO3)とを物理的に混合した。この混合物を用い、熱天秤で水蒸気ガス化を行った。すなわち、20℃/分の昇温速度で750℃まで温度を上昇させ、水蒸気の雰囲気下でガス化させた。発生した気体と石炭粉砕物とから気体を分離することにより、水素ガスを製造した。
【0015】
(比較例1)
無灰石炭の替わりに原炭である豪州炭オーキークリーク炭を用いた以外は実施例1と同様にしてガス化を行い、水素ガスを製造した。
(比較例2)
触媒を添加せずに、その他の条件は実施例1と同様にしてガス化を行った。
(比較例3)
無灰石炭の替わりに原炭である豪州炭オーキークリーク炭を用い、触媒を添加せずに、その他の条件は実施例1と同様にしてガス化を行った。
【0016】
図2は、実施例1および比較例1〜3のガス化の反応速度を示したものである。横軸はガス化の反応時間、縦軸はガスへの転化率を示す。
実施例1の無灰石炭に触媒を添加した場合は、約50分で無灰石炭がほぼ完全にガス化した。比較例1のように原炭に同量の触媒を添加した場合は、約90分でガスへの転化率が40%程度であった。また、比較例2および比較例3のように触媒を添加しなかった場合は、無灰石炭を用いた場合と原炭を用いた場合のいずれもガス化速度が非常に遅かった。
以上のように、無灰石炭に触媒を添加するとガス化の反応速度が著しく速くなることがわかった。
【0017】
図3は、生成したガスの成分を示したものである。図3−1は実施例1を、図3−2は比較例1の場合を示す。
実施例1および比較例1のいずれの場合も、生成したガスの主成分は水素、二酸化炭素、一酸化炭素であるが、実施例1のように無灰石炭を用いた場合は、比較例1のように原炭を用いた場合と比較して、水素および二酸化炭素の生成速度がより速く、一酸化炭素に対する水素の割合が高くなることがわかった。実施例1ではガス生成量が多くなり、水素および二酸化炭素が主成分であるので二酸化炭素を除くと水素の生成割合を90%以上である。
【0018】
(実施例2)
無灰オーキークリーク石炭に6%の触媒炭酸カリウムを添加し、完全にガス化させた。その後回収した触媒を再度同量の無灰石炭に添加してからガス化を行った。これを3回繰り返した。結果を図4に示す。横軸は反応時間を、縦軸はガス化の転化率を示す。
触媒を回収して繰り返し使用しても反応速度はほとんど変化しないことが明らかとなり、無灰石炭を使用することにより、灰がないため触媒が失活せずガス化反応を持続できることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の製造方法に用いる連続プラントの例を示したものである。
【図2】実施例1および比較例1〜3のガス化の反応速度を示したものである。
【図3】実施例1および比較例1で生成したガスの成分を示したものである。
【図4】触媒を回収して繰り返し使用した場合の反応速度をしめしたものである。
【符号の説明】
【0020】
1・・ミキサー、2・・フィードスクリュー、3・・外部熱源、4・・流動層、5・・水蒸気配管、6・・ベッドオーバーフロー配管、7・・サイクロン、8・・コンデンサー、9・・再利用石炭用配管、10・・窒素配管、11・・ヒーター、12・・ガス生成物導出口、13・・液状生成物導出口


【特許請求の範囲】
【請求項1】
無灰石炭と触媒とを接触させることを特徴とする水素の製造方法。
【請求項2】
無灰石炭と触媒とを混合し、水蒸気と熱風とを供給しながら前記無灰石炭と前記触媒とを接触させ、発生した気体と残存する石炭残留物とから気体を分離することを特徴とする請求項1に記載の水素の製造方法。
【請求項3】
前記触媒が炭酸カリウムであることを特徴とする請求項1または2に記載の水素の製造方法。
【請求項4】
前記無灰石炭が、オーキークリーク炭であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水素の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−143971(P2006−143971A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−339445(P2004−339445)
【出願日】平成16年11月24日(2004.11.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「石炭利用技術振興事業 石炭利用次世代技術開発調査 ハイパーコール利用高効率燃焼技術の開発」、産業活力特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】