説明

水素センサおよび水素ガス検知装置

【課題】外乱光等の影響を受けず、高感度で、好ましくは、漏洩水素ガスの検知時間を設定可能な水素センサおよび水素ガス検知装置を提供する。
【解決手段】平板光伝送路表面に薄膜層を形成するとともに薄膜層表面に触媒層を形成して平板光伝送路と薄膜層の間に第1の境界面を形成し、また裏面に基板が接するようにして平板光伝送路と基板の間に第2の境界面を形成し、光源からの光を入射部で平板光伝送路の一端側に拡散・入射させ、第1の境界面と第2の境界面との間で交互に反射させて、平板光伝送路の他端側から出射させるとともに出射集光部によって光センサへと伝送し、薄膜層を水素に触れた触媒層で水素化して第1の境界面からの反射光量を低下させ、この光量低下を光センサで検知して、水素ガスを検知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漏洩水素ガスを検知するための水素センサおよび水素ガス検知装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素の排出を抑制するためのエネルギー源として水素が注目されている。しかし、水素ガスが雰囲気中(例えば水素ガス製造装置や水素ガス貯蔵装置の周辺、水素を燃料とする車両の駐車場)に漏れると爆発するおそれがあるため、水素ガスの漏洩を速やかに検知してその漏洩を止めなければならない。そこで、図7に示すようにガラス等の光を透過する部材11の表面に、薄膜層12と触媒層13とを有する調光膜(反射膜)14を形成し、常温下、触媒層13が雰囲気中の水素ガスに触れると薄膜層12を可逆的に水素化して、薄膜層12の光学的反射率を変化させる水素センサ10が開発された(特許文献1)。上記水素センサ10を用いた水素ガス検知装置20は、図8に示すように、光源21からの光21aを水素センサ10の調光膜14で反射させ、この反射光を光センサ22が受光するように構成されて、光センサ22が受光した反射光の光量変化によって、漏洩水素ガスを検知することができる。
【特許文献1】特開2005−083832号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、水素ガス検知装置20では、光源21からの光21aが、雰囲気中を伝播して光センサ22に到達するから、光源21以外の光源からの光が(例えば、地下駐車場の天井の照明灯、自動車のヘッドライト等の外乱光が)、光センサ22に入射し、あるいは水素センサ10で反射等して光センサ22に入射する虞を否定できない。また光源21から水素センサ10への光路もしくは水素センサ10から光センサ22への光路に塵が浮遊して、あるいは水素センサ10に塵などが付着して、光センサ22による受光が妨げられる虞を否定できない。また、水素ガス検知装置20は、水素センサにおいて光21aが照射される狭い領域(殆ど点領域)でのみ、水素化に伴う透過率の変化を検知するから、水素ガスの検知感度に改善の余地がある。
【0004】
そこで、本発明は、外乱光および雰囲気中の塵などの影響を受けずに水素ガスを検知することができ、さらに水素ガスを広い領域で検知して、高い水素ガスの検知感度および、より確実な検知を実現し、好ましくは、上記検知時間を任意に設定することができる、水素センサおよび水素ガス検知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明にかかる水素センサは、平板光伝送路と、この平板光伝送路の表面に形成された薄膜層と、平板光伝送路の裏面に接する基板と、さらに薄膜層の表面に形成された触媒層を有し、さらに、光源から放射された光を平板光伝送路の一端側に導入するための入射部と、平板光伝送路の他端側から出射した光を集光して光センサに伝送する出射集光部とを有している。そして、平板光伝送路と薄膜層との間には第1の境界面が形成され、平板光伝送路と基板との間には第2の境界面が形成されている。したがって、平板光伝送路の一端側に導入された光は、第1の境界面と第2の境界面とに交互に入射して反射し、平板光伝送路の他端側へ伝送されて平板光伝送路から出射し、さらに出射集光部によって集光されて光センサへと伝送される。
【0006】
ここで、触媒層および薄膜層は、触媒層が水素ガスに触れると薄膜層を水素化して、薄膜層および第1の境界面の光学的反射率(以下、単に「反射率」)を可逆的に減少するように構成されている。したがって、水素ガスが触れた触媒層の近傍では、薄膜層および第1の境界面の反射率が低下して(薄膜層および第1の境界面の透過率が高くなって)、入射した光の一部または殆どが、薄膜層から触媒層へと透過して平板光伝送路の外部に漏れ出るから、出射集光部へ出射する光量が低下する。この光量低下から、該水素センサは水素ガスを検知することができる。このように該水素センサは、第1の境界面と第2の境界面とで反射されて(両境界面の間に閉じ込められた状態で)平板光伝送路を伝送される光の光量低下によって、水素ガスを検知するから、外乱光や雰囲気中の塵などの影響を受けずに水素ガスを検知できる。
【0007】
また、該水素センサが平板光伝送路の厚さ方向に光を拡散し導入する手段を有していれば、光は、平板光伝送路の長さ方向の直線上に位置する第1の境界面と、第2の境界面との間を交互に反射して、平板光伝送路の他端側に伝送されて出射する。こうして他端側から出射する光は、平板光伝送路の厚さ方向に拡散するが、出射集光部で集光されて光センサに伝送される。該水素センサは、前記直線上のどこか一部の薄膜層の反射率が変化したことを出射光の光量低下として光センサに伝送できるから、水素ガスを高感度に、より確実に検知できる。
【0008】
また、該水素センサが平板光伝送路の幅方向に光を拡散し導入する手段を有していれば、光は、平板光伝送路の長さ方向に一定の間隔を有する複数の直線上に位置する第1の境界面と、第2の境界面との間を交互に反射して、平板光伝送路の他端側に伝送されて出射する。こうして他端側から出射する光は、平板光伝送路の幅方向に拡散するが、出射集光部で集光されて光センサに伝送される。該水素センサは、前記複数の直線上のどこか一部の薄膜層の反射率が変化したことを出射光の光量低下として光センサに伝送することができるから、水素ガスを高感度に、より確実に検知できる。
【0009】
さらに、該水素センサが平板光伝送路の厚さ方向および平板光伝送路の幅方向に拡散して導入する手段を有していれば、光は、平板光伝送路の長さ方向および幅方向を有する面上に位置する第1の境界面と、第2の境界面との間を交互に反射して平板光伝送路の他端側に伝送され出射する。該水素センサは、前記面上のどこか一部の薄膜層の反射率が変化したことを出射光の光量低下として光センサに伝送することができるから、水素ガスを高感度に、より確実に検知できる。
【0010】
すなわち、該水素センサは、光源から放射された光を、平板光伝送路の厚さ方向に拡散して入射する手段、あるいは平板光伝送路の幅方向に拡散して入射する手段の、いずれか一方若しくは双方を有して、水素ガスを高感度に、より確実に検知できる。(請求項1)。
請求項2に記載の水素センサは、平板光伝送路として、光の入射角および出射角が特定の一の角度に限定されないスラブ光導波路を用いる構成としたので、平板光伝送路の厚さ方向あるいは幅方向のいずれか一方又は双方に光を拡散して入射させるのに好都合である。
【0011】
請求項3に記載の水素ガス検知装置は、光源から放射された光を、水素センサの入射部から平板光伝送路に導入し、水素センサの平板光伝送路で伝送したのち平板光伝送路から出射し、出射集光部で集光して、光センサに伝送する水素ガス検知装置において、上述した水素センサを用いる構成としたので、外乱光や雰囲気中の塵などの影響を排除するとともに、水素ガスの検知感度に優れた水素ガス検知装置を実現できる。
【0012】
請求項4に記載の水素センサでは、水素ガスに触れた触媒層によって薄膜層が水素化されるとき、薄膜層は、薄膜層に入射した光を、第1の境界面において鏡面反射する鏡面反射状態から、第1の境界面近傍の薄膜層において吸収する吸収状態に遷移したのち、触媒層へと透過する透過状態に遷移し、かつ上記鏡面反射状態から上記透過状態に遷移するまでの時間が第1の境界面に入射する光の波長に依存する構成とされている。したがって、該水素センサは、出射集光部から出射される光の波長を選択して、薄膜層が鏡面反射状態から吸収状態に遷移するまでの時間を適宜設定でき、漏洩水素ガスの検知時間を設定することが可能となる。
【0013】
請求項5に記載の水素センサは、触媒層をパラジウムで形成し、薄膜層をマグネシウム・ニッケル合金薄膜層で形成することによって、前述の鏡面反射状態、吸収状態、および透過状態を有し、かかる状態遷移の時間が第1の境界面に入射する光の波長に依存する水素センサを実現することができる。
請求項6に記載の水素ガス検知装置は、光源から放射された光を、水素センサの入射部から平板光伝送路に導入し、水素センサの平板光伝送路で伝送したのち平板光伝送路から出射し、出射集光部で集光して光センサに伝送する水素ガス検知装置において、水素センサが、薄膜層の鏡面反射状態、吸収状態および透過状態の状態遷移を有し、かつ鏡面反射状態から透過状態に遷移するまでの時間が第1の境界面に入射する光の波長に依存するものである。さらに該水素ガス検知装置は、水素センサの入射部に光を照射する光源および水素センサの出射部から伝送される光を受光する光センサを有し、光源が放射する光の波長分布を変化させる手段、光源から光センサまでの光路上に配置された色フィルタ、光電変換特性に波長依存性を有する光電変換素子を用いた光センサのうち、少なくとも一つを有し、光センサが受光した光量を予め設定された閾値と比較して、水素ガスを検知する。
【0014】
したがって、該水素ガス検知装置は、光源が放射する光の波長分布を変化させることによって、あるいは光源から光センサまでの光路上に色フィルタを配置して、光センサに入射する光の波長分布を変化させて、薄膜層を迅速に状態遷移させる波長の光を選択し、あるいは薄膜層をゆっくりと状態遷移させる波長の光を選択することができる。また、該水素ガス検知装置は、水素センサから出射される光を、色フィルタを介して光センサに伝送することによって、あるいは光電変換特性に波長依存性を有する光電変換素子を用いた光センサによって、水素センサから出射する光から、薄膜層の迅速な状態遷移に対応した波長の光を選択し、あるいは薄膜層の比較的遅い状態遷移に対応した波長の光を選択することができる。
【0015】
このようにして光の波長を選択したうえで、光センサが受光した光量を予め任意に設定した閾値と比較すれば、該水素ガス検知装置は、水素センサから出射される光の光量低下を検知する時間、すなわち漏洩水素ガスの検知時間を任意に設定するができる。
【発明の効果】
【0016】
以上述べたとおり、本発明にかかる水素センサおよび水素ガス検知装置は、外乱光や雰囲気中の塵などの影響を排除することができ、かつ水素ガスを高感度に、より確実に検知でき、また薄膜層の状態遷移が光の波長に依存することを利用して漏洩水素ガスの検知時間を任意に設定するができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明にかかる水素ガス検知装置を説明する。
【実施例1】
【0018】
本発明にかかる水素センサおよび水素ガス検知装置(実施例1)を、図1および図2を用いて説明する。なお、従来の水素センサと同様の機能を有する構成要素には、同一の符号を付する。
(水素センサ)
図1は、水素センサ10および水素ガス検知装置20aの概略構成例を示す図である。
【0019】
水素センサ10では、コア11の表面に薄膜層12が形成され、薄膜層12の表面に触媒層13が形成され、これら薄膜層12と触媒層13とで調光膜14が構成されており、コア11の裏面には、クラッド15が接している(コア11(平板光伝送路)とクラッド15(基板)とによってスラブ光導波路が構成されている)。そして、コア11の表面と薄膜層12との境界には、第1の境界面12aが形成され、コア11の裏面とクラッド15との境界には、第2の境界面15aが形成されている。コア11の一端側11aの表面には、プリズム16aが接着され、プリズム16aに光を導入するレンズ17aとともに入射部18を形成している。コア11の他端側11bの表面には、プリズム16bが接着され、プリズム16bから出射された光を集光するレンズ17bとともに出射集光部19を形成している。
【0020】
薄膜層12は、スパッタリング法、真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、メッキ法などによって形成することができ、その組成は例えばMgNix(0≦x<0.6)であり、その厚さは、例えば1nmないし100nmである。触媒層13は、例えば、薄膜層12の表面にパラジウムをコーティングすることによって形成することができ、その厚さは、例えば1nmないし100nmである。なお薄膜層12、触媒層13の組成等は上記のものに限定されない。
【0021】
(水素センサおよび水素ガス検知装置による水素検知)
水素ガス検知装置20aは、水素センサ10、光源21および光センサ22を有している。光源21から放射された光は、光源21の光軸上に沿って入射部18に入射する光21aと、光軸以外の経路を通って入射部18に入射する光とからなるが、図1中、光軸から最も上方の経路を通って入射部18に入射する光を光21bと表示し、光軸から最も下方の経路を通って入射部18に入射する光を光21cと表示し、光21a、21b、21cを含む光源21から放射された全ての光を光21rと表示する(入射部18に入射した後についても同様に表示する)。
【0022】
光21rは、レンズ17aで集束されてプリズム16aに入射し、コア11の一端側11aの表面において一点に集束して、コア11に入射する。このとき、光21rは、コア11の厚さ方向に拡散して入射する(光21a、21b、21cは、それぞれ異なる入射角でコア11に入射する)。すると、コア11中を他端側11bに伝送される光21a、21b、21cは、それぞれの入射角の相違によって、図1に示すように、コア11の長さ方向の直線L(図1中、11pと11qとを結ぶ直線)上の第1の境界面12aと、第2の境界面15aとの間を交互に反射してコア11の他端側11bに伝送されて、コアの他端側11bの表面から出射し、プリズム16bとレンズ17bからなる出射集光部19で集光されて、光センサ22へ伝送される。すなわち、第1の境界面12aでは、コア11の長さ方向の直線L上において光21rが反射されることになるから、水素ガス検知装置20aは、直線L上のどこか一部の第1の境界面12aの反射率が変化したことを検知できて、水素ガスを高感度に、より確実に検知することができる。
【0023】
また例えば、入射部18は、光21rを、コア11の長さ方向に平行で且つコア11の幅方向に拡散する手段(例えばレンチュキラーレンズやフレネルレンズ等)を有して、コアの一端側11aの表面に入射するように構成することもできる。図2の一点鎖線および2つに破線に示すように、光21rが、コア11の厚さ方向に拡散せず、幅方向Wだけ拡散して(拡散した両端の光を光21d、21eとする)コア11に入射した場合、図1中における光21rの経路は一点鎖線で示す経路となるから、光21rは、コア11の長さ方向に一定の間隔dを有する複数の直線PL上(図2参照)に位置する第1の境界面12aと、第2の境界面15aとの間を交互に反射してコア11の他端側11bに伝送されて出射し、出射集光部19で集光されて、光センサ22へ伝送される。すると、水素ガス検知装置20aは、複数の直線PL上のどこか一部の第1の境界面12aの反射率が変化したことを検知できて、水素ガスを高感度に、より確実に検知することができる。
【0024】
さらに光21rをコア11の厚さ方向および幅方向に拡散したうえでコアの一端側11aの表面に入射するように構成すれば、光21aは、コア11の長さ方向Lと幅方向Wを有する第1の境界面12aの面上(長方形の面上)と、第2の境界面15aとの間を交互に反射してコア11の他端側11bに伝送されて出射し、出射集光部19で集光されて、光センサ22へ伝送される。すると、水素ガス検知装置20aは、上記面上のどこか一部の第1の境界面12aの反射率が変化したことを検知できて、さらに水素ガスを高感度に、より確実に検知することができる。
【0025】
以上説明した水素センサ10および水素ガス検知装置20aは、光源21から放射された光21rを、コア11の厚さ方向に拡散して入射する手段およびコア11の幅方向に拡散して入射する手段の、いずれか一方若しくは双方を有する入射部18を有して、高い水素ガス検知感度を実現できるとともに、第1の境界面12aと第2の境界面15aとで閉じ込められてコア11中を伝送される光21rによって、薄膜層12の水素化を検知するから、外乱光や雰囲気中の塵などの影響を受けずに水素ガスを検知できる。
【実施例2】
【0026】
本発明にかかる水素センサおよび水素ガス検知装置の他の実施例(実施例2)を、図3ないし図6を用いて説明する。なお、実施例1と同様の機能を有する構成要素には、同一の符号を付してその説明を省略する。
(薄膜層の状態遷移)
マグネシウム・ニッケル合金からなる薄膜層12、およびパラジウムからなる触媒層13を有する調光膜14では、水素ガスに触れた触媒層13によって薄膜層12が水素化されるとき、薄膜層12は、次のように状態が遷移する。すなわち、薄膜層12は、コア11から入射した光21rを、第1の境界面12aで鏡面反射する鏡面反射状態から、第1の境界面12aの近傍の薄膜層12の領域12b(図3参照)において吸収する吸収状態に遷移し、さらに触媒層13へと透過させる透過状態に遷移する。薄膜層12が吸収状態に遷移すると、第1の境界面12aに入射した光21rは、一部が薄膜層12の領域12bに入射し吸収されて減衰し、残りが第1の境界面12aで反射される。その結果、コア11の他端側11bに到達する光21rの光量が低下する。薄膜層12が透過状態に遷移すると、光21rは、第1の境界面12aで反射されずに薄膜層12に入射して、薄膜層12を減衰しつつ透過し、触媒層13から水素センサ10の外部に出射するから、コア11の他端側11bに到達する光21rの光量はさらに低下する。
【0027】
図4は、触媒層13が水素ガスに触れて、第1の境界面12aが鏡面反射の状態から、薄膜層12が吸収状態となって、さらに透過状態へと遷移するときの調光膜14の吸収率特性を示したものである。図4は、調光膜14における吸収率(鏡面反射状態では吸収率はゼロであり、薄膜層12が減衰状態に変移すると吸収率が増加し始め、さらに薄膜層12が透過状態に変移すると、光は、薄膜層12及び触媒層13を透過して外部に漏れ出す。)を縦軸、第1の境界面に入射する光の波長(空気中における波長)を横軸として、波長対吸収率の特性を、触媒層13が水素に触れてからの時間をパラメータとして示している。例えば、500nmの波長の光の場合、触媒層13が水素ガスに触れると、吸収率は2秒後に約0.145となり10秒以降には約0.445に達する。400nm弱の波長の光の場合では、吸収率は2秒後に約0.345となり10秒以降には約0.445に達する。すなわち、波長が約400nmないし500nmの範囲だけでも、波長が短いほど、薄膜層12が鏡面反射状態から透過状態に遷移するまでの時間が短くなって(薄膜層12の応答が速くなって)、調光膜14の吸収率が速やかに高くなることがわかる。
【0028】
このように、薄膜層12の応答は、入射する光の波長が短いほど速く、波長が長くなるほど遅くなる(例えば、図4のグラフにおいて、波長が400nm弱から800nmの波長領域)。
(水素ガス検知装置)
図5は、実施例2にかかる水素ガス検知装置20bの概略構成例を示す図である。水素センサ10は、鏡面反射状態から透過状態に遷移するまでの時間が第1の境界面12aに入射する光の波長に依存するものである。水素ガス検知装置20bは、赤色発光ダイオード、緑色発光ダイオードおよび青色発光ダイオードを有して、例えば波長領域400nmないし700nmにおいて、ほぼ平坦な波長分布を有する光を発するように構成された光源21と、上記各発光ダイオードの駆動電流を制御して光源21が発する光21rの波長分布を制御することができる電源30を有している。ここで光センサ22は、受光した光量を予め任意に設定された閾値と比較する(閾値よりも受光量が低下したことをもって、光センサ22が水素ガスを検知する)。
【0029】
電源30の操作によって、例えば、光源21が発する光21rの色温度を高くすれば(青色発光ダイオードを強く発光させ、赤色発光ダイオードおよび緑色発光ダイオードの発光を弱くすれば)コア11中を伝送される光21rのエネルギーは、青色発光ダイオードが発する光(例えば400nmないし500nmの波長領域の光)のエネルギーが強くなるから、薄膜層12は、水素に触れた触媒層13に迅速に応答して、調光膜14の吸収率が高くなる(光センサ22の受光光量が迅速に低下する)。こうして水素ガス検知装置20bは、漏洩水素ガスを迅速に検知することができる。電源30の操作によって、光源21が発する光21rの色温度を低くすれば(赤色発光ダイオードを強く発光させ、青色発光ダイオードおよび緑色発光ダイオードの発光を弱くすれば)コア11中を伝送される光21rのエネルギーは、赤色発光ダイオードが発する光(約600nmより長い波長の光)のエネルギーが強くなるから、前述した高い色温度の場合に比較して、薄膜層12の応答が遅くなる(光センサ22の受光光量の低下が遅くなる)。
【0030】
すなわち、コア11中を伝送される光21rの波長分布を設定することで、薄膜層12の鏡面反射状態から前記透過状態に遷移するまでの時間を変えることができ(光センサ22の受光光量が低下する時間を変えることができ)、光センサ22の閾値の設定とあいまって、光センサ22による水素ガスの検知時間を設定することが可能となる。
図6(a)および(b)は、時刻t0において漏洩水素ガスが水素センサ10の触媒層に触れたとした場合の、薄膜層12の応答と、光センサ22の閾値の設定と、水素ガスの検知時間との関係を示すグラフであり(縦軸は光センサ22の受光光量、横軸は時間である)、薄膜層12の応答特性を速い方から応答特性x1、x2、x3で示したものである。図6(a)は、閾値をTh1としたときの応答特性対水素ガス検知時間を示している。たとえば応答特性x1のときには、閾値Th1と応答特性x1とが交わる点における時刻t11が水素ガスの検知時刻である。閾値Th1と応答特性x2若しくはx3とが交わる点における時刻はt12若しくはt13となって、薄膜層12の応答が遅くなるほど遅くなる(t11<t12<t13であり、水素ガス検知時間はt11−t0、t12−t0、t13−t0となる)。
【0031】
図6(b)は、薄膜層12の応答特性をx2とし、閾値を閾値Th1、Th2、Th3(Th1>Th2>Th3)と変化させたときにおける、水素ガスの検知時刻t12、t22、t32を示している(t12<t22<t32、水素ガス検知時間はt12−t0、t22−t0、t32−t0となる)。閾値が高いほど水素ガス検知時間が速くなり、方閾値が低いほど水素ガス検知時間が遅くなる。このように、水素ガス検知装置20bは、迅速に漏洩水素ガスを検知することができ、また、水素ガスの検知時間を任意に設定することもできる。
【0032】
(色フィルタ)
ここで、水素ガス検知装置20bは、光源21と入射部18との間に色フィルタ31を有するものであってもよい。色フィルタ31によって、光源21から放射される光21rの波長領域のうち、400nmないし500nmの波長領域の光をコア11に入射すれば、薄膜層12は、水素に触れた触媒層13に迅速に応答して、水素ガス検知装置20bは漏洩水素ガスを迅速に検知することができる。色フィルタ31によって、600nmより長い波長の光をコア11に入射すれば、薄膜層12の応答が遅くなる。このように水素ガス検知装置20bは、水素ガス検知時間を任意に設定することができる。
【0033】
ここで、色フィルタ31の挿入位置は、光源21と入射部18との間に限定されない。例えば、色フィルタ31を、入射部18と出射集光部19との間の任意の位置に配置してもよいし、出射集光部19と光センサ22との間に配置してもよい。かかる構成の水素ガス検知装置20bは、光センサ22に伝送される光を、色フィルタ31によって、薄膜層12が迅速に反応する(水素化する)波長の光に限定することができるし、あるいは薄膜層12の水素化にゆっくりと反応する波長の光に限定することもできる。
【0034】
(光電変換特性に波長依存性を有する光電変換素子)
水素ガス検知装置20bは、出射集光部19からの光21rを光電変換特性に波長依存性を有する光電変換素子によって受光する光センサ22を用いてもよい。かかる水素ガス検知装置20bでは、光電変換素子の光電変換特性を適宜選択して、薄膜層12の水素化に迅速に反応する波長の光を検知して水素ガスを迅速に検知することができるし、あるいは薄膜層12の水素化にゆっくりと反応する波長の光を検知して水素ガスを比較的遅く検知することもできる。
【0035】
本発明は上述した各実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で変形して実施することができ、また薄膜層と触媒層も、実施例に記載のものに限定されるものではない。例えば、光源から放射された光を水素センサの入射部に伝送する際、光源と水素センサの入射部との間に光ファイバ等の光伝送手段を介在させることもでき、水素センサの出射集光部から光センサに光を伝送する際、水素センサの出射集光部と光センサとの間に光ファイバ等の光伝送手段を介在させた水素ガス検知装置とすることもできる。この場合、上記水素センサの出射集光部と光センサとの間に、光ファイバ等の光伝送手段とともに他の水素センサを介在させて、複数の水素センサを有する水素ガス検知装置水素ガスとすることもできる。また例えば、スラブ光導波路にかえて、すなわち、コアを、ガラス、アクリル樹脂、又はポリエチレンシート(ポリエチレンフィルム)などからなる平板光伝送路にかえるとともに、この平板光伝送路の裏面にニッケル、クロムなどの膜(水素に反応しない膜)や光を透過しない材料からなる基板、また光を透過しても平板光伝送路とは屈折率がことなり第2の境界面で鏡面反射する材質の基板などを接する構成としてもよい。また入射部を構成するプリズムをグリセリンドロップ、レンズにかえ、光ファイバをコア上に設け、このグリセリンドロップに直接光ファイバを挿入し光を入射してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施例(実施例1)における水素センサおよび水素ガス検知装置の概略構成例である。
【図2】図1の水素センサの平面の概略構成例である(入射部の周辺のみ図示)。
【図3】図1の水素センサの光伝送路の断面構成を示す図である。
【図4】触媒層が水素ガスに触れたときの薄膜層の吸収率の変化特性を示すグラフである。
【図5】実施例2にかかる水素ガス検知装置の概略構成例である。
【図6】薄膜層の応答と、光センサの閾値の設定と、水素ガスの検知時間との関係を示すグラフである
【図7】従来の水素センサの概略構成例である。
【図8】図7の水素センサを用いた従来の水素ガス検知装置の概略構成例である。
【符号の説明】
【0037】
10 水素センサ
11 平板光伝送路(コア)
11a 平板光伝送路(コア)の一端側
11b 平板光伝送路(コア)の他端側
12 薄膜層
12a 第1の境界面
13 触媒層
15 基板(クラッド)
15a 第2の境界面
18 入射部
19 出射集光部
20a、20b 水素ガス検知装置
21 光源
22 光センサ
30 電源
31 色フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板光伝送路と、
前記平板光伝送路の表面に形成されて前記平板光伝送路との間に第1の境界面を形成する薄膜層と、
前記薄膜層の表面に形成された触媒層と、
前記平板光伝送路の裏面に接して前記平板光伝送路との間に第2の境界面を形成する基板と、
光源から放射された光を前記平板光伝送路の一端側に導入する入射部と、
前記一端側に導入され前記平板光伝送路を伝送されて前記平板光伝送路の他端側から出射した光を、集光し光センサに伝送する出射集光部とを有し、
前記入射部は、光源から放射された光を、前記平板光伝送路の厚さ方向に拡散して入射する手段あるいは前記平板光伝送路の幅方向に拡散して入射する手段の、いずれか一方若しくは双方を有し、
前記平板光伝送路は、前記一端側に入射した光を、前記第1の境界面と前記第2の境界面とを交互に反射させて伝送し、
前記触媒層は、雰囲気中に含まれる水素ガスに触れると前記薄膜層を水素化して前記薄膜層および前記薄膜層が前記平板光伝送路との間に形成した前記第1の境界面の光学的反射率を可逆的に変化させる
ことを特徴とする水素センサ。
【請求項2】
前記平板光伝送路および前記基板が、光の入射角および出射角が特定の一の角度に限定されないスラブ光導波路であることを特徴とする請求項1に記載の水素センサ。
【請求項3】
光源と、水素センサと、光センサとを有して、前記光源から放射された光を、前記水素センサの入射部から平板光伝送路に導入し、前記平板光伝送路で伝送したのち出射し、出射集光部で集光して前記光センサに伝送する水素ガス検知装置において、
前記水素センサが請求項1または2に記載の水素センサであることを特徴とする水素ガス検知装置。
【請求項4】
前記触媒層が水素ガスに触れて前記薄膜層を水素化するとき、
前記薄膜層は、前記第1の境界面に入射する光を、前記第1の境界面において鏡面反射する鏡面反射状態から、前記第1の境界面近傍の前記薄膜層において吸収する吸収状態に遷移したのち、触媒層へと透過する透過状態に遷移し、
かつ前記鏡面反射状態から前記透過状態に遷移するまでの時間が前記第1の境界面に入射する光の波長に依存することを特徴とする請求項1または2に記載の水素センサ。
【請求項5】
前記触媒層がパラジウムで形成され、前記薄膜層がマグネシウム・ニッケル合金薄膜層で形成されたことを特徴とする請求項4に記載の水素センサ。
【請求項6】
光源と、水素センサと、光センサとを有して、前記光源から放射された光を、前記水素センサの入射部から平板光伝送路に導入し、前記平板光伝送路で伝送したのち出射し、出射集光部で集光して前記光センサに伝送する水素ガス検知装置において、
前記水素センサが請求項4または5に記載の水素センサであり、
前記光源が放射する光の波長分布を変化させる手段、前記光源から前記光センサまでの光路上に配置された色フィルタ、光電変換特性に波長依存性を有する光電変換素子を用いた前記光センサのうち、少なくとも一つを有し、
前記光センサは、前記水素センサから伝送されたて受光した光量を予め設定された閾値と比較して、水素ガスを検知することを特徴とする水素ガス検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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