説明

水素分離膜モジュールの製造方法

【課題】 漏洩試験により漏洩箇所が見出された水素分離膜モジュールを支障なく処理し、その使用を可能とし、製品歩留まりを悪化させ、コスト増を防止し、Pd資源の有効活用を図るようにした水素分離膜モジュールの製造方法を提供する。
【解決手段】 水素分離膜3と少なくとも1枚の多孔性の補強板2とを接合した接合体5と、上記接合体5の二次側に精製ガス回収路を形成するベースプレート4とを備えた水素分離膜モジュール1の製造方法において、上記接合体5について漏洩試験を行い、漏洩箇所が検出された場合、該漏洩箇所に対し、上記補強板2の上記ベースプレート4と接触する面に水素分離膜片7を拡散接合し、該水素分離膜片7が拡散接合によって、溶接した面から突出しないように補強板2の接合箇所に取り込むようにすることとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素分離膜モジュールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素製造装置としては、都市ガス、水蒸気からなる原料ガスの反応場に、水素のみを選択的に透過させるPdやPd合金などからなる水素分離膜を置き、水素分離膜を介して純水素を取り出すものがある。この水素分離膜は、膜厚を薄くすることにより水素透過性能を向上させることができる。しかし、薄膜化すると高温高圧の原料ガス側と低圧の精製ガス側との差圧により膜が破断する問題がある。このため、薄膜化する場合には、膜を補強する必要がある。そこで、このような補強を行った水素分離膜として、特許文献1のようなものが提供されている。
【0003】
このような水素分離膜では、水素分離膜本体と、少なくとも1枚の多孔性の補強板(支持体)とを接合して接合体としている。このような接合体には、その二次側に精製ガス回収路を形成するベースプレートが溶接され、これによって水素分離膜モジュールが製造される。
【0004】
ここで、従来、製造された水素分離膜モジュールについて、Heガスを用いた漏洩試験を行っていた。漏洩試験で漏洩が発見された水素分離膜モジュールは、廃棄処分されていた。
単に廃棄処分するだけでは、製品歩留まりを悪化させ、コスト増に繋がり、高価なPd資源を浪費することともなり、対策が望まれていた。
【特許文献1】特開2004−8966公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、漏洩試験により漏洩箇所が見出された水素分離膜モジュールを支障なく処理し、その使用を可能とし、製品歩留まりを悪化させ、コスト増を防止し、Pd資源の有効活用を図るようにした水素分離膜モジュールの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、水素分離膜と少なくとも1枚の多孔性の補強板とを接合した接合体と、上記接合体の二次側に精製ガス回収路を形成するベースプレートとを備えた水素分離膜モジュールの製造方法において、上記接合体について漏洩試験を行い、漏洩箇所が検出された場合、該漏洩箇所に対し、上記補強板の上記ベースプレートと接触する面に水素分離膜片を拡散接合し、該水素分離膜片が拡散接合によって、溶接した面から突出しないように補強板の接合箇所に取り込むようにすることとすることを特徴とする。
【0007】
本発明は、その実施の形態で、上記拡散接合後、上記水素分離膜片が上記補強板を接合した面から突出しないことを、表面粗さ試験によって確認することをさらに含むことができる。
【0008】
本発明は、別の実施の形態で、上記補強板が複数の水素通過孔を穿孔して成るものであり、上記漏洩箇所が、3箇所の水素通過孔に亘るまでの小さなものであるとき、上記水素分離膜片を接合することに代替して、上記補強板が上記ベースプレートと接触する面の側から、上記漏洩箇所に相当する上記水素通過孔をレーザ溶接によって閉成することをさらに含むことができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、漏洩試験により漏洩箇所が見出された水素分離膜モジュールを支障なく処理し、その使用を可能とし、製品歩留まりを悪化させ、コスト増を防止し、Pd資源の有効活用を図るようにした水素分離膜モジュールの製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明に係る水素分離膜モジュールの製造方法について、その実施の形態を参照しながらさらに詳細に説明する。なお、以下の実施の形態により、本発明が限定されるものではない。また、以下の実施の形態における各構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、又は実質的に同一のものが含まれる。
【0011】
まず、本発明によって製造される水素分離膜モジュールの一般的形態について説明する。図1は、このような水素分離膜モジュールを分解して斜視図によって示している。
この図1で水素分離膜モジュール1は、補強板2と、水素分離膜3と、ベースプレート4から構成されている。この図1は、あくまで概念的に示したものである。
【0012】
補強板2は、金属多孔質板で構成されており、長方形状の水素通過孔2aが複数穿孔されている。この補強板2は、例えば、ステンレス鋼板(SUS430)をエッチングによりメッシュ加工した後、メッキ処理し、所定の形状に裁断したものを用いることができる。なお、それぞれ厚さおよび開孔パターンの異なる金属製の多孔板を積層することによっても補強板2を構成することができる。
【0013】
水素分離膜3は、水素透過性の金属箔からなり、例えば、Pd−Ag合金、Pd−希土類元素合金を用いることができる。
そして、補強板2及び水素分離膜3を積層し拡散接合して接合体5を形成する。
【0014】
ベースプレート4は、平板状の金属板の上面及び/又は下面に、長手方向に複数の平行な溝6を加工したものである。
これらの溝6は、長手方向の両端部で幅方向の溝によって相互に連通される(図示を省略)。この各溝6によって精製ガス回収路を形成している。
【0015】
水素分離膜モジュールの製造にあたっては、接合体5の端面とベースプレート4とをシール溶接によって接合する。
【0016】
ここで、本実施の形態に係る水素分離膜モジュールの製造方法では、上記接合体5について漏洩試験を行う。
漏洩試験は、接合体5をベースプレート6上に載置し、外周をクランプし、溝6にHeガスを流すことによって行う。
漏洩箇所及びその大きさは、感知器によって検出される。
【0017】
漏洩箇所が検出された場合、漏洩箇所に対し、水素分離膜片7を拡散接合する。
拡散接合するためには、接合体5をベースプレートから取り外す。
そして、図2に示すように、補強板2がベースプレート4と接触する面、すなわち、水素分離膜3を接合した側とは反対の側から水素分離膜片7を拡散接合する(左側)。
【0018】
ここで、水素分離膜片7が拡散溶接によって、上記補強板2を溶接した面から突出しないように溶接箇所に取り込む(図2の右側)。このように取り込むためには、
10-1Torr以下の真空度で、水素分離膜7を0.5kgf/mm2以上 の圧力で押さえ、500〜800℃の温度下で、150分以上保持のような条件で拡散接合を行う。この条件は、接合体5を形成する際の条件と異なっている。接合体5を形成する際は、単に水素分離膜3と、補強板2とが接合するまでの条件で足りる。
【0019】
拡散溶接後、水素分離膜片7が補強板2を溶接した面から突出しないことを、表面粗さ試験によって確認する。表面粗さ試験は、JISB0651に従って行う。すなわち、タングステン針を溶接箇所面において走らせ、その表面粗さの度合いが許容範囲内であるかどうかを確認する。
【0020】
一方、漏洩箇所が、図3に示すように、3箇所の水素通過孔2aに亘るまでの小さいものであるとき(左側)、水素分離膜片7を溶接することをレーザ溶接で代替することができる。すなわち、補強板2がベースプレート4と接触する面の側から、漏洩箇所に相当する水素通過孔2aをレーザ溶接によって閉成することで代替できる。
【0021】
レーザ溶接は、その漏洩箇所を溶融するものであって、他の材料を必要としない。レーザ溶接後、溶接箇所を研磨し、平滑面とする。
【0022】
その後、水素分離膜片7を用いた場合と同様に、補強板2面が平滑であることを、表面粗さ試験によって確認する。表面粗さ試験は、JISB0651に従って行う。すなわち、タングステン針を溶接箇所面8において走らせ、その表面粗さの度合いが許容範囲内であるかどうかを確認する。
【0023】
漏洩箇所に対する処理が終了した後、再度確認のために、上記した漏洩試験を行う。漏洩箇所が検出された場合は、再度その処理を行う。
漏洩箇所が検出されない接合体5は、その端面とベースプレート4とをシール溶接によって接合する。
【0024】
本発明者らは、当初、漏洩箇所において、水素分離膜3の側から水素分離膜片7を拡散溶接することを試みた。しかし、条件を適切に設定しようとしても、さらなる破損を招くのみであって、失敗に終わった。
本実施の形態で説明した方法によれば、このような不都合を招くことなく漏洩箇所を解消でき、水素分離膜モジュールの製造にあたり、その歩留まりを大きく向上させることができた。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る水素分離膜モジュールの製造方法によって製造される水素分離膜モジュールを説明する概念的斜視図である。
【図2】本発明に係る水素分離膜モジュールの製造方法の一実施の形態について、その手順を説明する断面図である。
【図3】本発明に係る水素分離膜モジュールの製造方法の他の実施の形態について、その手順を説明する断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1 水素分離膜モジュール
2 補強板
2a 水素透過孔
3 水素分離膜
4 ベースプレート
5 接合体
6 溝
7 水素分離膜片
8 溶接箇所面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素分離膜と少なくとも1枚の多孔性の補強板とを接合した接合体と、上記接合体の二次側に精製ガス回収路を形成するベースプレートとを備えた水素分離膜モジュールの製造方法において、上記接合体について漏洩試験を行い、漏洩箇所が検出された場合、該漏洩箇所に対し、上記補強板の上記ベースプレートと接触する面に水素分離膜片を拡散接合し、該水素分離膜片が拡散接合によって、接合した面から突出しないように補強板の接合箇所に取り込むようにすることとすることを特徴とする水素分離膜モジュールの製造方法。
【請求項2】
上記拡散接合後、上記水素分離膜片が上記補強板を溶接した面から突出しないことを、表面粗さ試験によって確認することをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の水素分離膜モジュールの製造方法。
【請求項3】
上記補強板が複数の水素通過孔を穿孔して成るものであり、上記漏洩箇所が、3箇所の水素通過孔に亘るまでの小さなものであるとき、上記水素分離膜片を接合することに代替して、上記補強板が上記ベースプレートと接触する面の側から、上記漏洩箇所に相当する上記水素通過孔をレーザ溶接によって閉成することをさらに含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の水素分離膜モジュールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−195873(P2009−195873A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−42713(P2008−42713)
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】