説明

水素吸蔵合金容器

【課題】 水素吸蔵合金容器において、水素吸放出に伴って筒体1に作用する繰返し応力を緩和し、筒体1の変形や破壊を防止する。
【解決手段】 本発明に係る水素吸蔵合金容器10は、水素ガス吸放出管5が接続された筒体1を具え、筒体1の内部には、水素吸蔵合金2の収納室が形成されると共に、該合金収納室中を同一方向に伸びる複数の配管部を互いに直接に接続してなる熱媒配管3が設置され、該熱媒配管3の両端は筒体1から外部へ突出して熱媒入口31と熱媒出口32とを有している。そして、熱媒配管3を構成する複数の配管部の内、熱媒が最初に流れる入口配管部3aと、熱媒が最後に流れる出口配管部3bとは、互いに隣接している。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、水素吸蔵合金を充填するための水素吸蔵合金容器、及び水素吸蔵合金を収納した一対の容器を互いに連結して構成される水素ガス利用システムに関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、水素吸蔵合金の水素ガス貯蔵機能や水素吸放出に伴う熱エネルギー変換機能等を応用した水素ガス利用システム、例えばヒートポンプ、空調装置、アクチュエータ等の開発が進んでいる。これらの水素ガス利用システムは、基本的には図3に示す如く、水素吸蔵合金が充填された一対の水素吸蔵合金容器(10)(10)を水素ガス吸放出管(5)によって互いに連結して構成され、各水素吸蔵合金容器(10)には、水素吸蔵合金を加熱し或いは冷却するための熱媒配管(30)が設置されている。
【0003】図2は、従来の水素吸蔵合金容器(11)の具体的構成を表わしており、密閉構造を有する筒体(1)に水素ガス吸放出管(5)が接続されている。筒体(1)の内部には、粉末状の水素吸蔵合金(2)が充填され、該水素吸蔵合金(2)中を熱媒配管(30)が複数回に亘って往復して伸びており、その両端は筒体(1)から外部へ突出して熱媒入口(31)と熱媒出口(32)とを有している。又、筒体(1)の内部には、熱媒配管(30)が貫通する複数枚の伝熱フィン(4)が、管軸方向に一定の間隔をおいて配列されている。尚、従来の水素吸蔵合金容器(11)においては、熱媒配管(30)の内、熱媒が最初に流れる入口配管部(3a)と、熱媒が最後に流れる出口配管部(3b)は、筒体(1)内の最大離間位置に配置されていた。
【0004】上記水素吸蔵合金容器(11)においては、熱媒入口(31)から熱媒配管(30)へ温水を供給することによって、水素吸蔵合金(2)が加熱され、水素吸蔵合金(2)中の水素が放出される。逆に、熱媒入口(31)から熱媒配管(30)へ冷水を供給することによって、水素吸蔵合金(2)が冷却され、水素吸蔵合金(2)中に水素が吸収される。従って、図3の如く水素ガス吸放出管(5)を介して互いに接続されている一対の水素吸蔵合金容器(11)(11)の内、一方を加熱すると同時に他方を冷却することによって、一方から他方へ水素ガスが移動し、その後、冷却と加熱を逆転させることによって、逆向きに水素ガスが移動する。ここで、一方の水素吸蔵合金容器(11)に充填すべき水素吸蔵合金と、他方の水素吸蔵合金容器(11)に充填すべき水素吸蔵合金として、平衡水素圧力の異なる2種類の合金を採用すれば、上述の水素ガスの往復移動によって熱サイクルが構成されることになる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】上述の水素吸蔵合金容器(11)を用いた水素ガス利用システムにおいては、上述の熱サイクルにおける水素吸蔵合金の水素吸放出に伴って、水素吸蔵合金に膨張、収縮が生じ、これによって水素吸蔵合金容器(11)に繰返し応力が作用する。特に、冷水が供給される熱媒配管(3)の入口配管部(3a)の入口(31)近傍では、冷水の温度が低いため、水素吸蔵合金の反応速度が高く、水素吸収に伴う水素吸蔵合金の局所的な膨張によって、過大な応力が発生する。この結果、水素吸蔵合金容器(11)が変形し、更には破壊に至る問題があった。
【0006】本発明の目的は、水素吸放出に伴って水素吸蔵合金容器に作用する繰返し応力を緩和し、水素吸蔵合金容器の変形や破壊を防止することである。
【0007】
【課題を解決する為の手段】本発明に係る水素吸蔵合金容器は、水素ガス吸放出管(5)が接続された筒体(1)を具え、該筒体(1)の内部に、水素吸蔵合金の収納室が形成されると共に、該合金収納室中を同一方向に伸びる複数の配管部を互いに直接に接続してなる熱媒配管(3)が設置されている。熱媒配管(3)の両端は筒体(1)から外部へ突出して熱媒入口(31)と熱媒出口(32)とを有している。ここで、熱媒配管(3)を構成する複数の配管部の内、熱媒が最初に流れる入口配管部(3a)と、熱媒が最後に流れる出口配管部(3b)とは、互いに隣接している。
【0008】又、本発明に係る水素ガス利用システムは、上記本発明の水素吸蔵合金容器を水素ガス吸放出管(5)により互いに連結して構成される。
【0009】上記本発明の水素吸蔵合金容器において、熱媒入口(31)へ流入した熱媒としての冷却液は、熱媒配管(3)内を流れた後、熱媒出口(32)から流出し、この過程で筒体(1)内の水素吸蔵合金を冷却する。これによって、水素吸蔵合金は水素を吸収して、膨張する。又、冷却液は、水素吸収によって発熱する水素吸蔵合金と熱交換を行ないつつ、熱媒配管(3)内を流れるため、熱媒配管(3)の入口配管部(3a)で最も温度が低く、出口配管部(3b)で最も温度が高くなる。
【0010】従来の水素吸蔵合金容器においては、熱媒配管の入口配管部(3a)と出口配管部(3b)とが離間して配置されており、入口配管部(3a)と出口配管部(3b)の間で熱交換は殆ど行なわれないのに対し、本発明の水素吸蔵合金容器においては、入口配管部(3a)と出口配管部(3b)とが隣接して配置されているため、出口配管部(3b)と入口配管部(3a)の間で十分な熱伝達が行なわれ、両配管部(3a)(3b)の温度差が縮小されることになる。この結果、従来は入口配管部(3a)の入口(31)近傍で生じていた水素吸蔵合金の局所的な膨張による過大な応力が抑制される。
【0011】
【発明の効果】本発明に係る水素吸蔵合金容器及びこれを用いた水素ガス利用システムにおいては、熱媒配管(3)の入口配管部(3a)と出口配管部(3b)を互いに近接させて配置した構成により、水素吸放出に伴って水素吸蔵合金容器に作用する繰返し応力が緩和され、この結果、水素吸蔵合金容器の変形や破壊が防止される。
【0012】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態につき、図面に沿って具体的に説明する。図1は、本発明に係る水素吸蔵合金容器(10)の構造を表わしており、図4は、一対の水素吸蔵合金容器(10)(10)を水素ガス吸放出管(5)により互いに連結して構成される水素ガス利用システムを、模式的に表わしたものである。
【0013】図1に示す如く水素吸蔵合金容器(10)は、密閉構造を有する筒体(1)を具え、該筒体(1)に水素ガス吸放出管(5)が接続されている。筒体(1)の内部には、粉末状の水素吸蔵合金(2)が充填され、該水素吸蔵合金(2)中を熱媒配管(3)が複数回に亘って往復して伸びており、その両端は筒体(1)から外部へ突出して熱媒入口(31)と熱媒出口(32)とを有している。ここで、熱媒配管(3)は、図示の如く互いに平行に伸びる複数の配管部の内、熱媒が最初に流れる入口配管部(3a)が筒体(1)の上方の隅部を水平に伸びた後、筒体(1)内を往復しつつ筒体(1)の下方の隅部まで至り、その後、戻り管部(3c)を経て再び筒体(1)の上部まで戻り、熱媒が最後に流れる出口配管部(3b)は、入口配管部(3a)と隣接して、入口配管部(3a)とは逆方向に伸びている。又、筒体(1)の内部には、熱媒配管(3)が貫通する複数枚の伝熱フィン(4)が、管軸方向に一定の間隔をおいて配列されている。
【0014】上記水素吸蔵合金容器(10)においては、熱媒入口(31)から熱媒配管(30)へ温水を供給することによって、水素吸蔵合金(2)が加熱され、水素吸蔵合金(2)中の水素が水素ガス吸放出管(5)から放出される。逆に、熱媒入口(31)から熱媒配管(30)へ冷水を供給することによって、水素吸蔵合金(2)が冷却され、水素ガス吸放出管(5)から供給される水素が水素吸蔵合金(2)中に吸収される。従って、図4の如く一対の水素吸蔵合金容器(10)(10)を水素ガス吸放出管(5)により互いに連結してなる水素ガス利用システムにおいて、一方の水素吸蔵合金容器(10)をを加熱すると同時に他方の水素吸蔵合金容器(10)を冷却することによって、一方の水素吸蔵合金容器(10)から他方の水素吸蔵合金容器(10)へ水素ガスが移動し、その後、冷却と加熱を逆転させることによって、逆向きに水素ガスが移動する。尚、一方の水素吸蔵合金容器(10)に充填すべき水素吸蔵合金と、他方の水素吸蔵合金容器(10)に充填すべき水素吸蔵合金は、互いに平衡水素圧力の異なるものが採用されている。
【0015】上記水素吸蔵合金容器(10)においては、入口配管部(3a)と出口配管部(3b)とが隣接して配置されているため、出口配管部(3b)と入口配管部(3a)の間の熱伝達によって、入口配管部(3a)と出口配管部(3b)の温度差が縮小され、水素吸蔵合金の局所的な体積膨張が抑制される。これによって、水素吸蔵合金容器に作用する繰返し応力が緩和され、水素吸蔵合金容器の変形や破壊が防止されるのである。
【0016】発明者らは、上記本発明の水素吸蔵合金容器(10)の効果を実証するべく、熱媒配管(3)の入口配管部(3a)と出口配管部(3b)の間の熱伝達が水素吸蔵合金の反応に及ぼす影響を、計算機シミュレーションによって調べると共に、水素吸蔵合金の体積膨張と筒体(1)に作用する応力の関係を、実験によって調べた。
【0017】シミュレーション局所的な体積膨張の原因となる合金容器内の反応率分布を定量的に把握するために、図3に示す如く熱媒流れ方向に分割したモデルを作成し、2つの水素吸蔵合金容器(11)(11)間で、下記数1に示す複数の基礎式を用いた水素吸蔵合金反応シミュレーションを行なった。
【0018】
【数1】


【0019】ここで、合金反応速度式は別途実験により得られた実験式を、合金特性式はP−C−T曲線特性フィッティングモデル式を採用し、時間差分法により反応特性を解析した。
【0020】更に本発明の水素吸蔵合金容器(10)の構造と局所的な反応率分布との関係を把握するために、図4に示す如きモデルを作成し、2つの水素吸蔵合金容器(10)(10)間の熱伝達係数HA(HA=熱伝達量Q/温度差ΔT)による、局所的反応率の変化を解析した。
【0021】図5は、最も局所的反応率が増大するn=1のセルにおいて、熱伝達係数HAが水素吸蔵量の時間的変化に及ぼす影響を示したグラフである。このグラフから、HA=0の場合(図3のモデルに相当)に対し、HA>0の場合(図4のモデルに相当)では、HAの増大とともに局所的な水素吸蔵量の増大が緩和されることがわかる。特に、有効水素移動量が0.8wt%となるポイントでは、HAが20(W/K)のとき、水素吸蔵量の増大が大幅に緩和され、HAが50(W/K)以上では、緩和の効果が低減する。
【0022】この結果から、熱媒配管(3)の入口配管部(3a)と出口配管部(3b)を、両配管部間の熱伝達係数が20(W/K)程度、或いはそれ以上となる様な間隔に設置すれば、局所的な水素吸蔵合金の膨張を大幅に緩和することが出来ると言える。
【0023】実験実験では、外径18mm、厚さ1mmの円筒状の水素吸蔵合金容器(10)を水平に設置し、水素の吸放出サイクルを行なって、その際の体積膨張によって容器が受ける応力を測定した。図6は、熱伝達係数HAをパラメータとして、水素吸蔵合金容器(10)の各セルの応力をグラフ化したものである。このグラフから明らかな様に、HA=0の場合(図3のモデルに相当)では、最大応力がステンレス鋼や銅の許容応力を大きく上回るのに対し、HA>0の場合(図4のモデルに相当)では、HAの増大とともに最大応力が緩和されており、例えばHAが20(W/K)のときの最大応力は、ステンレス鋼の許容応力よりも低くなる。
【0024】この結果から、熱媒配管(3)の入口配管部(3a)と出口配管部(3b)を互いに隣接させて配置し、両配管部間の熱伝達係数を20(W/K)程度、或いはそれ以上に設定することによって、筒体(1)に作用する応力を大幅に緩和することが出来、ステンレス鋼或いは銅製の筒体(1)の変形や破壊を防止することが出来ると言える。
【0025】尚、本発明の各部構成は上記実施の形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。例えば、熱媒配管(3)の出口配管部(3b)のみを入口配管部(3a)に隣接させる構造に限らず、出口側の複数の配管部を入口側の配管部に隣接させる構造の採用も可能である。これによって、水素吸蔵合金全体の均熱化を図ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る水素吸蔵合金容器の断面図である。
【図2】従来の水素吸蔵合金容器の断面図である。
【図3】従来の水素吸蔵合金容器を用いた水素ガス利用システムのモデルを表わす図である。
【図4】本発明の水素吸蔵合金容器を用いた水素ガス利用システムのモデルを表わす図である
【図5】入口配管部と出口配管部の間の熱伝達係数をパラメータとして、水素吸蔵量の時間変化を表わすグラフである。
【図6】入口配管部と出口配管部の間の熱伝達係数をパラメータとして、筒体に作用する応力の分布を表わすグラフである。
【符号の説明】
(1) 筒体
(10) 水素吸蔵合金容器
(11) 水素吸蔵合金容器
(2) 水素吸蔵合金
(3) 熱媒配管
(31) 熱媒入口
(32) 熱媒出口
(3a) 入口配管部
(3b) 出口配管部
(4) 伝熱フィン
(5) 水素ガス吸放出管

【特許請求の範囲】
【請求項1】 水素ガス吸放出管(5)が接続された筒体(1)の内部に、水素吸蔵合金の収納室が形成されると共に、該合金収納室中を同一方向に伸びる複数の配管部を互いに直接に接続してなる熱媒配管(3)が設置され、該熱媒配管(3)の両端は筒体(1)から外部へ突出して熱媒入口(31)と熱媒出口(32)とを有している水素吸蔵合金容器において、前記熱媒配管(3)を構成する複数の配管部の内、熱媒が最初に流れる入口配管部(3a)と、熱媒が最後に流れる出口配管部(3b)とは、互いに隣接していることを特徴とする水素吸蔵合金容器。
【請求項2】 合金収納室には、前記複数の配管部が貫通する複数枚の伝熱フィン(4)が、管軸方向に沿って配列されている請求項1に記載の水素吸蔵合金容器。
【請求項3】 合金収納室には、粉末状の水素吸蔵合金が充填される請求項1又は請求項2に記載の水素吸蔵合金容器。
【請求項4】 筒体(1)はステンレス鋼製であって、熱媒配管(3)の入口配管部(3a)と出口配管部(3b)とは、相互間の熱伝達係数が20W/K以上となる様に間隔が設定されている請求項1乃至請求項3の何れかに記載の水素吸蔵合金容器。
【請求項5】 水素吸蔵合金を収納した一対の筒体(1)(1)が水素ガス吸放出管(5)を介して互いに連結され、各筒体(1)の内部には、水素吸蔵合金の収納室が形成されると共に、該合金収納室中を同一方向に伸びる複数の配管部を互いに直接に接続してなる熱媒配管(3)が設置され、該熱媒配管(3)の両端は筒体(1)から外部へ突出して熱媒入口(31)と熱媒出口(32)とを有している水素ガス利用システムにおいて、各筒体(1)の合金収納室内に設置された熱媒配管(3)は、前記複数の配管部の内、熱媒が最初に流れる入口配管部(3a)と、熱媒が最後に流れる出口配管部(3b)とが、互いに隣接していることを特徴とする水素ガス利用システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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