説明

水素生成方法

【課題】 水素生成菌の培地として活用できると共に、コストを低減することの可能な水素生成方法を提供すること。
【解決手段】 バイオマスに対し代替培地として水産系廃棄物を投入し、該バイオマスに対して水産系廃棄物が投入された混合物を、Clostridium beijerinkii AM21B株、Clostridium sp.No.2株、Clostridium sp.X53株のうちの少なくとも1つを含む水素生成菌により水素発酵処理をして水素を発生し、該発生された水素を回収するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素生成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バイオマス資源の有効活用すると共に、環境負荷の少ない次世代エネルギーの有力候補として、水素が注目されている。かかる水素を得るために、水素生成菌によりバイオマス資源を水素発酵させ、取り出す手法が鋭意研究されている。この水素生成菌の中でも、Clostridium beijerinkii AM21B株、Clostridium sp.No.2株、Clostridium sp.X53株の水素生成菌は、水素の発生量が多いことが分かっており、その中でも、特にClostridium beijerinkii AM21B株の水素生成菌は、水素の発生量が最も多く、注目されている。
【0003】
ところで、上述の水素生成菌の栄養源として、現在は主にポリペプトンと酵母エキスと微量な無機塩類を含む、いわゆるPY培地が用いられている。このPY培地は、水素生成菌の活動を促進するために、非常に効果的であることが確認されている。なお、上述の水素生成菌の培地として、PY培地を用いた例としては、例えば特許文献1および特許文献2に開示されているものがある。
【0004】
【特許文献1】特開2001−157595号公報(段落番号0044等参照)
【特許文献2】特開2002−355022号公報(段落番号0063等参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のPY培地は、試薬であることから、その価格が高価である。そのため、水素生成菌を用いた水素発酵システムの実用化を図る場合、生産される水素の価格の上昇を招き、水素発酵システムの実用化を図る上での障害となる。
【0006】
そこで、PY培地に代わる、安価な培地を用いることが考えられるが、他の培地を用いる場合であっても、試薬としての培地を用いる場合、コストがさほど変わらなく、また、水素の生成量も低減されるため、同様の問題が生じる。すなわち、現状では、PY培地に代わり、水素生成菌の栄養源となるものを見出せていない。
【0007】
一方、1996年1月のロンドン条約の改正により、市場等で発生する魚のアラ等の水産系廃棄物を、海洋に投棄することが禁止されたため、現状では、魚のアラ等を乾燥後、粉砕させたり、一般の廃棄物と同様に焼却する等により処理している。しかしながら、かかる処理は、コストがかかるため、その低減が望まれている。
【0008】
本発明は、上記の事情にもとづきなされたもので、その目的とするところは、水素生成菌の培地として活用でき、しかも安価であって、水素生成におけるコストを低減することが可能な水素生成方法を提供しよう、とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、微生物の生育に必要な培地として水産系廃棄物を用い、この水産系廃棄物を有機廃棄物に投入し、該有機廃棄物に対して水産系廃棄物が投入された混合物を、Clostridium beijerinkii AM21B株、Clostridium sp.No.2株、Clostridium sp.X53株のうちの少なくとも1つを含む水素生成菌により水素発酵処理をして水素を生成させるものである。
【0010】
このように構成した場合には、バイオマスを水素生成菌に作用させ、水素発酵させる際に、微生物の生育に必要な培地として水産系廃棄物が投入される。ここで、培地として水産系廃棄物が投入されると、従来用いていたPY培地と同様に、バイオマスから水素を発生させることが可能であることが判明した。しかも、本発明においては、水素生成菌は、Clostridium beijerinkii AM21B株、Clostridium sp.No.2株、Clostridium sp.X53株のうちの少なくとも1つを含んでいるため、バイオマスからの水素発生量を多くすることが可能となる。
【0011】
また、上述のように、水産系廃棄物をPY培地の代わりの培地として用いることができるため、高価なPY培地を用いる場合と比較して、バイオマスから水素を発生させる際のコストを低減させることが可能となる。それにより、環境負荷の小さな、水素を用いたエネルギーシステムの実現性を一層向上させることが可能となる。さらに、水産系廃棄物が、別途処理する必要もなくなるため、水産系廃棄物の処理に要していたコストも低減可能となる。加えて、水産系廃棄物が不法に投棄される等を防ぐことも可能となり、環境保全を図ることも可能となる。
【0012】
さらに、他の発明は、上述の発明に加えて更に、水産系廃棄物は、各種水産物の内蔵を含むものである。このように構成した場合、水産系廃棄物が各種水産物の内蔵を含むと、水素生成菌を用いたバイオマスの水素発酵を良好に行えることが判明した。すなわち、各種水産物の内蔵を含む水産系廃棄物は、バイオマスの水素発酵に際して、PY培地に代わる培地として機能させることができ、高価なPY培地を用いる場合と比較して、バイオマスの水素発酵による水素発生の際のコストを低減させることが可能となる。
【0013】
また、他の発明は、上述の各発明に加えて更に、水産系廃棄物は、各種魚のアラ、ホタテのウロ、イカのゴロ、カツオの煮汁のうち、少なくとも1つを含むものである。このように構成した場合には、水産系廃棄物の内部には、それら水産物の内蔵が含まれる状態となり、水素生成菌を用いたバイオマスの水素発酵を良好に行えることが判明した。
【0014】
さらに、他の発明は、上述の発明に加えて更に、水産系廃棄物は、魚のアラであると共に、この魚のアラは、混合物に対して、0.5%〜15%の湿重量を有するものである。このように構成した場合には、水素生成菌を用いたバイオマスの水素発酵を良好に行える。すなわち、魚のアラが、混合物に対して、0.5%〜15%の湿重量を有する場合、水素発酵により水素を発生させることができる。
【0015】
また、他の発明は、上述の発明に加えて更に、水産系廃棄物は、魚のアラであると共に、この魚のアラは、混合物に対して、5.0%〜10%の湿重量を有するものである。このように構成した場合には、水素生成菌を用いたバイオマスの水素発酵を、一層良好に行うことが可能である。すなわち、魚のアラが、混合物に対して、5.0%〜10%の湿重量を有する場合、単位時間当たりの水素発生量および水素生成総量が、共に良好となる。このため、PY培地を用いない場合における、バイオマスの水素発酵による水素の発生量を一層増大させることができ、実用性に優れたものとなる。
【0016】
さらに、他の発明は、上述の各発明に加えて更に、水産系廃棄物をバイオマスに投入する前に、該水産系廃棄物に対して粉砕処理を施すものである。このように構成した場合には、水産系廃棄物を細かく砕かれるため、成分のバラつきが低減される。それにより、水素生成の部分的な偏りを減じさせることができる。
【0017】
また、他の発明は、上述の各発明に加えて更に、粉砕処理が為された水産系廃棄物に対して、イオン交換水または水道水の投入による希釈処理を行うものである。このように構成した場合には、希釈処理を図ることにより、水産系廃棄物の流動性を向上させることが可能となる。それにより、水産系廃棄物の成分の偏りを、一層減じさせることが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、水産系廃棄物を水素生成菌の培地として活用することができる。しかも、水産系廃棄物は、安価であるため、水素生成におけるコストを低減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の一実施の形態に係る水素生成方法について、詳しく説明する。しかしながら、この出願の発明は、以下の実施の形態によって、限定されるものではない。
【0020】
この出願は、PY培地の変わりとなる、新たな培地に関するものである。すなわち、現状では、水素生成菌を用いた、有機材料(バイオマス;食品関連廃棄物や生活関連廃棄物等)の水素発酵(水素分解)を行うために、PY培地が用いられている。このPY培地は、バイオマスの水素分解を行う場合に必須と考えられているものである。すなわち、PY培地が存在しない場合、水素生成菌は、バイオマスの水素分解を行うことができなく、水素生成量は0であることが、従来の実験および後述する実験等により確認されている。しかしながら、僅かな量でもPY培地が存在すれば、水素生成菌は、バイオマスの水素分解を行うことが可能となっている。
【0021】
このため、バイオマスを主栄養源とした場合、PY培地は、水素生成菌を用いた水素発酵(水素分解)において、副栄養源として作用している、と考えられている。しかも、PY培地は、水素生成菌が活動するために必要な、他の栄養源の供給源となっている、とも考えられる。
【0022】
なお、PY培地の組成は、1Lの水で、10g peptone、5g yeast extract、500mg L-cystein HCl、その他微量の無機塩類を含み、炭素源は含まない。
【0023】
かかるPY培地に代わる培地として、水産系廃棄物に着目し、該水産系廃棄物を用いて水素生成の実験を行ったところ、水素生成に成功した。ここで、水産系廃棄物としては、各種の魚のアラ、ホタテのウロ、イカのゴロ、カツオ等の煮汁(カツオの内蔵を含む)等を用いる。かかる部分は、その大部分が、水産物の内蔵に対応する。しかしながら、例えば魚のアラではなく、例えば魚の身といった部分が、上述の水産系廃棄物中に混入したとしても、その部分は主栄養源に対応すると現状では考えられるため、水素発酵の支障とはならない。
【0024】
すなわち、現状における基本的な考え方としては、例えばキャベツや砂糖大根等の野菜、ホテイアオイなどの雑草類、各種の生ゴミといったバイオマスは、主栄養源であり、水素を生成するための主成分である。そして、上述の水産系廃棄物は、副栄養源であり、バイオマスの水素発酵を助ける役割を果たす、と考えられる。
【0025】
そして、これらの水産系廃棄物に対して、粉砕処理、希釈処理を行い、バイオマスと共に、水素発酵槽(図1における水素発酵槽11)に投入する。そして、水素生成菌を投入すれば、水素発酵を行うことが可能となっている。なお、粉砕処理とは、水産系廃棄物を細かく砕くことであり、かかる粉砕処理を経ることにより、成分のバラつきが低減され、水素生成の部分的な偏りを減じさせることができる、という点で有利である。また、希釈処理とは、粉砕処理を経た後の水産系廃棄物に対して、イオン交換水や水道水等の如き液体を投入することを指す。かかる希釈処理を図ることにより、水産系廃棄物の流動性を向上させることが可能となり、該水産系廃棄物の成分の偏りを、一層減じさせることが可能となる。
【0026】
なお、上述のように、水産系廃棄物は、後述する実験に示すように、機能的にはPY培地に対してさほど劣らないものの、高価なPY培地に比べて安価であり、高価なPY培地の代わりとして用いることができる、いわばPY培地に対する代替培地としての機能を発揮させることが可能なものである。しかしながら、水産系廃棄物は、PY培地よりもコスト面等で優れていることから、水産系廃棄物は、単に代替可能な代替培地としてではなく、主流の培地として用いることが可能である。
【0027】
ここで、水素生成菌には、嫌気性細菌であるクロストリジウム属の微生物があるが、その中でも特に、Clostridium beijerinkii AM21B 株(Journal of Fermentation and Bioengineering 73:244-245, 1992参照)、Clostridium sp.No.2株(Canadian Journal of Microbiology 40:228-233, 1994参照)、Clostridium sp.X53株(Journal of Fermentation and Bioengineering 81:178-180, 1996参照)等の本発明者によって分離されたクロストリジウム属(Clostridium)に属する水素生成菌がある。しかしながら、水素生成菌は、バイオマスを効率良く処理しつつ、水素を生産するものであれば、各種の水素生成菌を利用することができ、上述の水素生成菌に限定されるものではない。
【0028】
また、上述の水素生成菌の中でも、Clostridium beijerinkii AM21B 株の水素生成菌は、水素発酵に関して、現状では反応速度が最も早く、かつ反応により得られる水素の収量が最も多くなっている。さらに、AM21B株の水素生成菌は、塩素や溶存酸素が存在する水道水を用いた場合でも、増殖と水素生成が可能となっている。
【0029】
なお、代替培地および水素生成菌を用いて、バイオマスを水素発酵させる場合、図1に示す水素生成装置10を用いるようにするのが好ましい。図1に示す水素生成装置10は、水素発酵槽11と、培養液タンク20と、微生物前培養槽21と、水素生成装置10を制御する判断手段30と、pH測定手段40と、アルカリ性物質投入手段41と、温度センサ50と、温度調整手段51と、圧力センサ60と、ポンプ61と、水素発生量計測手段70と、培養液流量調整手段71と、煮沸手段80と、を具備している。
【0030】
これらのうち、培養液タンク20には、水素生成菌の培養に適した培養液が蓄えられる。そして、この培養液タンク20からは、微生物前培養槽21から水素発酵槽11の内部に水素生成菌を供給した後に、該微生物前培養槽21に新たな培養液を供給可能となっている。
【0031】
この培養液タンク20に対して、配管22を介して微生物前培養槽21が接続されている。微生物前培養槽21は、培養液の中で、水素生成菌を増殖させるものである。それにより、微生物前培養槽21に水素生成菌を供給することなく、水素生成菌を増殖させることが可能となっている。
【0032】
また、この微生物前培養槽21は、水素生成菌の増殖が為された、増殖済み培養液において、水素生成菌が生存している状態を維持するものである。そのため、この微生物前培養槽21では、後述する温度調整手段51とは別個の温度調整手段が設けられるようにしても良い。この温度調節手段の作用によって、微生物前培養槽21が増殖に最適な温度に保たれる。なお、微生物前培養槽21と水素発酵槽11との間は、供給管路23によって接続されている。この供給管路23の中途部分には、後述する培養液流量調整手段71が設けられている。なお、温度調節手段によって、微生物前培養槽21の温度調整を行う場合、後述する水素発酵槽11と同程度の温度に調整するのが好ましい。
【0033】
また、水素生成装置10は、以下に述べる各種の制御を行うための判断手段30を具備している。判断手段30は、後述するpH測定手段40、温度センサ50、圧力センサ60、および水素発生量計測手段70等での測定結果に基づいて、アルカリ性物質投入手段41、温度調整手段51、ポンプ61、培養液流量調整手段71および煮沸手段80等を作動させるか否かの判断を行う部分である。
【0034】
この判断手段30は、CPU、RAM、ROM、およびこれらを接続するバス、情報表示手段などの外部機器を接続するためのインターフェース、ROMに記憶されているpHコントロール等の各種の制御に関するデータおよびプログラム等を備えている。しかしながら、ROMに代えて、またはROMと共に不揮発性メモリを用いるようにしても良い。
【0035】
なお、ROMに記憶されているデータ/プログラムとしては、後述するように、pHが一定のしきい値を越えた場合に、水酸化ナトリウム溶液等のアルカリ性溶液の投入を開始するためのものがある。その他のデータ/プログラムとしては、温度調節を行うためのデータ/プログラム、圧力調節を行うためのデータ/プログラム、水素生成菌の再投入を行うためのデータ/プログラムがある。これらについては、後述する。
【0036】
また、水素生成装置10は、pH測定手段40と、アルカリ性物質投入手段41とを具備している。すなわち、水産系廃棄物を代替培地として用いて、水素発酵を行う場合、反応の進行に伴なって酢酸、酪酸といった有機酸が生成されてゆき、水素発酵が進めば進むほど、徐々に水素発酵槽11の内部における酸性の度合いが強くなってしまう。このように、有機酸が増えると、水素発酵の速度が低下していく。そこで、水素発酵の速度を一定以上に維持するために、アルカリ性物質を、水素発酵槽11に投入するようにするのが好ましい。アルカリ性物質を水素発酵槽11に投入する場合、pHを7側に近付けることが可能となる。
【0037】
そのため、本実施の形態では、pH測定手段40と、アルカリ性物質投入手段41とを備えている。ここで、pHを測定するpH測定手段40としては、各種のものが存在するが、その中でも、例えばガラス電極を具備しガラス電極法によりpH測定を行うもの、アンチモン電極を具備しアンチモン電極法によりpH測定を行うもの、キンヒドロンを用いてキンヒドロン電極法によりpH測定を行うもの、水素ガスを用いて水素電極法によりpH測定を行うもの、指示薬を用いたpH測定法を行うもの等、各種のpH測定法があり、いずれのpH測定法を行うpH測定手段40を用いても良い。
【0038】
また、アルカリ性物質投入手段41としては、アルカリ性物質を蓄えることが可能なタンク(不図示)と、このタンクから水素発酵槽11に向かう管路(不図示)と、この管路の中途部分に存在すると共に駆動源(不図示)およびこの駆動源により開閉される開閉弁(不図示)等を具備する構成が、その一例として挙げられる。しかしながら、アルカリ性物質投入手段41は、これには限られず、その他、種々変形可能である。
【0039】
ここで、アルカリ性物質としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、炭酸水素ナトリウム等、各種のアルカリ性物質があり、これらのアルカリ性物質を水に溶かす等の溶液とすることがさらに好適である。また、後述する実験例に示されるように、pHを6.5にコントロールする場合、発酵により発生する水素の分量が多くなり、良好な結果を得ることが可能となっている。そのため、判断手段30は、pH測定手段40での測定結果に基づいて、水素発酵槽11の内部におけるpHを、6.5程度にコントロールするように、アルカリ性物質投入手段41を制御駆動させるのが好ましい。
【0040】
なお、pH測定手段40での測定した場合、該pH測定手段40は、判断手段30に対して測定結果に対応する測定信号を送信し、判断手段30では、このpH測定手段40での結果に基づいて、pHの値が一定の範囲内となっているか否かを判断する。そして、判断手段30でアルカリ性物質を投入すると判断した場合には、該判断手段30からアルカリ性物質投入手段41に向けて制御信号を送信し、この制御信号を受信した場合に、アルカリ性物質投入手段41を作動させて、アルカリ性物質を投入する。
【0041】
なお、pHを、上述のようにコントロールするための、ROMに記憶されているデータ/プログラムとしては、pHが一定のしきい値を越えた場合に、水酸化ナトリウム溶液等のアルカリ性溶液の投入を開始する手法がある。この場合、pHのしきい値と実際のpHとの間の偏差を計算し、その偏差に応じて投入するアルカリ性溶液の分量を計算するようにしても良い。かかる偏差の計算を行う場合であって、特に、大規模な水素発生のためのプラント等においては、PI制御、PID制御、フィードフォワード制御等の制御手法を用いるようにして、水素発生量の最適化を測るようにしても良い。また、かかる偏差の計算を行わずに制御を簡略化し、pHが一定のしきい値に到達した場合に、一定分量のアルカリ性溶液を水素発酵槽11に投入するようにしても良い。
【0042】
また、水素生成装置10は、温度センサ50と、温度調整手段51とを具備している。すなわち、水産系廃棄物を代替培地として用いて、水素発酵を行う場合、水素発酵槽11の内部の温度を最適に制御すれば、バイオマスの分解/発酵によって得られる水素発生量を多くすることができる。そこで、本実施の形態の水素生成装置10は、水素発酵槽11の温度の制御を行うために、水素発酵槽11に温度センサ50と、水素発酵槽11の内部の温度調整を行うための温度調整手段51とを具備している。
【0043】
すなわち、温度センサ50によって測定された温度に基づいて、判断手段30で、温度調整を行うか否かを判断し、温度調整を行うと判断された場合には、温度調整手段51を用いて温度調整を行う。この場合、温度のしきい値と実際の温度との間の偏差を計算し、その偏差に応じて加熱/冷却する等の温度調整を行うようにしても良い。かかる偏差の計算を行う場合であって、特に、大規模な水素発生のためのプラント等における温度制御も、上述のpHの制御と同様に、一定のしきい値を基準にする手法があり、その制御手法も、上述と同様に、PI制御、PID制御、フィードフォワード制御等、各種の制御手法がある。
【0044】
ここで、温度センサ50、温度調整手段51および判断手段30を用いた温度調節を行う場合、水素発酵槽11の内部の温度を、摂氏37度程度に調整するのが、最も好ましい。温度を37度に調整する場合、上述したAM21B株等の水素生成菌が最も活発に活動し、水素生成量が最も多くなることが、実験等により確かめられている。すなわち、AM21B株等の水素生成菌は、中温菌であり、摂氏37度程度で最も良く繁殖する状態となっている。しかしながら、用いる水素生成菌が、上述したAM21B株の場合、中温菌であるため、その至適温度は、摂氏25度から45度であり、この範囲であれば、十分に増殖可能となっている。すなわち、温度センサ50、温度調整手段51および判断手段30を用いた温度調節を行う場合、水素発酵槽11の内部の温度を、摂氏25度から45度の範囲内に制御するようにすれば、水素を生成可能となる。
【0045】
なお、温度を、上述のようにコントロールするための、ROMに記憶されているデータ/プログラムとしては、pHの場合と同様に、温度が一定のしきい値を越えた場合に、温度調整手段51の作動を開始する手法がある。この場合、温度のしきい値と実際の温度との間の偏差を計算し、その偏差に応じて加熱等の温度調節を行う時間長さ/時間当たりの加熱等の温度調節量を計算するようにしても良い。かかる偏差の計算を行う場合であって、特に、大規模な水素発生のためのプラント等においては、PI制御、PID制御、フィードフォワード制御等の制御手法を用いるようにして、水素発生量の最適化を測るようにしても良い。また、かかる偏差の計算を行わずに制御を簡略化し、温度が一定のしきい値に到達した場合に、定型的な温度調節を水素発酵槽11に対して行うようにしても良い。
【0046】
さらに、水素生成装置10は、圧力センサ60と、ポンプ61とを具備している。すなわち、水産系廃棄物を代替培地として用いて、水素発酵を行う場合、水素発酵槽11の内部の圧力を最適に制御すれば、バイオマスの分解/発酵によって得られる水素発生量を多くすることができる。そこで、本実施の形態の水素生成装置10は、水素発酵槽11の圧力の制御を行うために、水素発酵槽11に圧力センサ60と、水素発酵槽11の内部の圧力調整を行うためのポンプ61とを具備している。
【0047】
すなわち、圧力センサ60によって測定された圧力に基づいて、判断手段30で、圧力調整を行うか否かを判断し、圧力調整を行うと判断された場合には、ポンプ61を用いて圧力調整を行う。ここで、圧力管理をより厳格化させる要請がある場合、圧力のしきい値と実際の圧力との間の偏差を計算し、その偏差に応じて加圧/減圧する等の圧力調整を行うようにしても良い。かかる偏差の計算を行う場合であって、特に、大規模な水素発生のためのプラント等における圧力制御も、上述のpHの制御と同様に、一定のしきい値を基準にする手法があり、その制御手法も、上述と同様に、PI制御、PID制御、フィードフォワード制御等、各種の制御手法がある。しかしながら、圧力管理の厳格化が要請されない場合、例えばCPUからのクロック信号に基づいて時間計測を行い、ポンプ61を一定時間作動させた後に、その時間計測結果に基づいて停止させる等、より単純な制御手法を用いるようにしても良い。
【0048】
ここで、圧力センサ60、ポンプ61および判断手段30を用いた圧力調節を行う場合、水素発酵槽11の内部の圧力を、大気圧よりも陰圧となるように、圧力を調整するのが最も好ましい。すなわち、上述の水素生成菌の中で、水素発生量の多いものの中には、嫌気性の細菌であるAM21B株の微生物があるが、かかる微生物を用いる場合、水素発酵槽11の内部を、若干陰圧となるように設定した方が、水素発生量を多くすることができる。
【0049】
なお、圧力を、上述のようにコントロールするための、ROMに記憶されているデータ/プログラムのうち、圧力管理をより厳格化させたい場合には、圧力が一定のしきい値を越えた場合に、ポンプ61の作動を開始させる手法がある。この場合、圧力のしきい値と実際の圧力との間の偏差を計算し、その偏差に応じて減圧等の圧力調節を行う時間長さ/ポンプ61の効率(揚程/吐出量)を計算するようにしても良い。かかる偏差の計算を行う場合であって、特に、大規模な水素発生のためのプラント等においては、PI制御、PID制御、フィードフォワード制御等の制御手法を用いるようにして、水素発生量の最適化を測るようにしても良い。また、ROMには、ポンプ61を一定時間作動させた後に、その時間計測結果に基づいて停止させる等、より単純な制御手法を行うためのプログラム/データが記憶されるようにしても良い。
【0050】
また、水素生成装置10は、水素発生量計測手段70と、培養液流量調整手段71とを具備している。すなわち、水産系廃棄物を代替培地として用いて水素発酵を行うのに際して、十分な分量のバイオマスが残存しているにも拘わらず、水素発生量が少ない場合、水素生成菌の分量が不足していることが、原因として考えられる。かかる事態に対応させるために、水素発酵槽11から排出される水素の単位時間当たりの発生量を計測するための水素発生量計測手段70を、水素発酵槽11から水素を排出するための排出管路24に設ける。また、供給管路23の中途部分に、培養液流量調整手段71を設けるようにする。そして、排出管路24での水素発生量計測手段70による水素発生量の計測に基づいて、該計測信号を判断手段30に送信し、この判断手段30での判断結果に基づいて、水素生成菌(微生物前培養槽21における培養済みの培養液)を投入するか否かを判断するようにしても良い。
【0051】
なお、培養液流量調整手段71としては、培養液の流量を制御する流量調整弁が挙げられるが、その他、ポンプ等で培養済みの培養液を汲み上げる方式を採用する場合には、かかるポンプが該当する。
【0052】
ここで、水素発生量が減少した場合、他の雑菌の繁殖により、水素生成菌の増殖が阻害されている、という事態も想定される。このため、水素発酵槽11の煮沸処理を行う煮沸手段80を設けるようにし、水素生成菌を投入するのに先立って煮沸処理を行い、この煮沸処理が終了した後に、水素生成菌を投入するようにしても良い。なお、煮沸処理を行う煮沸手段80としては、化石燃焼を利用する加熱手段、電流導通による抵抗熱を利用する加熱手段等、種々の方法が存在する。かかる煮沸手段80も、判断手段30での判断結果に基づいて、作動するか否かが決定される。
【0053】
また、上述の構成とは別途に、水素発酵槽11の内部にフィンおよびこのフィンを駆動させるモータ等から構成される攪拌手段を設け、この攪拌手段により、バイオマスと水産系廃棄物の混合物を攪拌するようにしても良い。この攪拌手段(モータ)も、上述の判断手段30によりその作動が制御される。なお、この攪拌手段の駆動制御も、上述したような各制御手法と同様の制御手法を用いるようにしても良い。
【0054】
なお、排出管路24を介して水素を回収する場合、その回収後に、水素を気体や液体、もしくは固体という形態にして、貯蔵するようにしても良い。さらに、エネルギー(燃料)として利用し易い形態に適宜に形態を加工、変更することもできる。例えば、気体として回収した水素に圧縮処理等を施して、液体状にする等も可能である。この場合、水素を運搬、貯蔵することが容易となる。また、圧縮処理を施すだけで済むため、運搬、貯蔵に際して、コストを低減することができる。
【0055】
また、水素は、カーボンナノチューブに吸着させることによって、貯蔵するようにしても良い。かかるカーボンナノチューブを用いる場合、重量比で非常に多くの水素を、該カーボンナノチューブによって吸蔵させることができる。このため、容器等に圧縮する場合よりも、より多くの水素を貯蔵可能となる。また、圧縮等しないため、爆発の危険を防止することもできる。かかるカーボンナノチューブとしては、単層カーボンナノチューブ(Single-Walled Carbon Nanotubes; SWNT)、グラファイトナノファイバ(Graphite Nanofibers;GNF)が好適である。なお、この場合、低温/加圧下において、水素吸着させても良いし、常温/大気圧下において、水素吸着させても良い。また、かかるカーボンナノチューブは、バイオマスを用いたメタン発酵により生成されるメタンを原料として、生成するようにしても良い。また、生成されたカーボンナノチューブに、K,Li等を加えるようにしても良い。
【0056】
さらに、水素は、水素吸蔵合金に吸着させることによって、貯蔵するようにしても良い。かかる水素吸蔵合金を用いる場合、重量比で多くの水素を、該カーボンナノチューブによって吸蔵させることができる。このため、容器等に圧縮する場合よりも、より多くの水素を貯蔵可能となる。また、圧縮等しないため、爆発の危険を防止することもできる。かかる水素吸蔵合金としては、例えばMgH2 といったMg系合金、FeTiH2 といったTi系合金、Ti-V-Mn,Ti-V-CrといったV系合金等がある。
【0057】
以上のような構成を有する水素生成装置10を用いる場合、水素発生量を増加させることができるため、好ましい。すなわち、水素発酵槽11の内部における温度、圧力、pHを適切にコントロールすることにより、水素発生量を増大させることが可能となる。また、必要に応じて、、水素生成菌(培養済みの培養液)を水素発酵槽11に投入したり、水素発酵槽11の内部の煮沸処理を行うことにより、水素発生量を一層増大させることが可能となる。
【0058】
次に、水素生成菌によりバイオマス資源を水素発酵させる際に、水産系廃棄物を代替培地として用いることが可能であるか否かを確認した実験結果について、以下に説明する。
【0059】
(実験例)
有機廃棄物として、キャベツを用い、水素系廃棄物の添加量を種々変更しながら、水素発酵させる実験を行った。そのときの水素発生量のグラフを図2に示す。この実験においては、水産系廃棄物のうち、魚のアラを用いて実験を行っている。この実験においては、魚のアラの濃度は培養液の全量(後述するように400ml分)に対して、それぞれ0%、0.5%(2.0g)、1.0%(4.0g)、2.0%(8.0g)、5.0%(20g)、10%(40g)、15%(60g)、20%(80g)として、実験を行っている。
【0060】
また、この実験においては、バイオマスとして、キャベツを用いていて、該キャベツの重量は、湿重量で30%としている。さらに、この実験においては、キャベツを粉砕した状態で用いている。キャベツは、食物繊維、各種ビタミン、たんぱく質等を含むものである。このため、実験例では、水産系廃棄物を代替培地として用いた場合、キャベツが有する各成分を分解可能か否か確認するものである。
【0061】
この実験においては、上述した湿重量のキャベツが入っている三角フラスコの内部に、上述の各濃度の魚のアラを投入する。そして、390mlになるように、各フラスコの内部にイオン交換水を入れて、前処理として加熱処理を行った。その後、上述の三角フラスコの内部に、10mlの菌液を投入し、全量を400mlとした。
【0062】
この状態で三角フラスコを37℃の恒温槽に保持させると共に、培養液のpHを6.5となるようにコントロールした。このときの、水素発生量を図2に示す。なお、この図2においては、図示が省略されているが、魚のアラの投入量が0%の場合、水素は全く発生しなかった。図2に示すように、魚のアラの濃度が15%の場合を除き、実験開始から4〜5時間経過した付近の水素発生量が最も多くなっている。
【0063】
その中でも、特に4〜5時間経過した付近の濃度が5.0%の場合における、単位時間当たりの水素発生量が最大となっている。続いて、濃度が10%の場合における、単位時間当たりの水素発生量が多くなっている。濃度が10%の場合の水素発生量の曲線は、濃度が5.0%の場合の水素発生量の曲線に近くなっている。ここで、魚のアラが5.0%の場合、6時間経過後の水素発生量は急激に少なくなり、反応収束に近い状態であると考えられる。また、魚のアラが10%の場合、同様に7時間経過後の水素発生量は急激に少なくなり、反応収束に近い状態であると考えられる。
【0064】
また、魚のアラの濃度が0.5%の場合でも、十分な量の水素が得られたが、9時間経過後でも水素の発生が見られることから、反応収束まで時間を要することがうかがえる。また、魚のアラの濃度が1.0%の場合、8時間経過後の水素発生量は急激に少なくなり、反応収束に近い状態であると考えられる。また、魚のアラの濃度が2.0%の場合、8時間経過後の水素発生量は急激に少なくなり、反応収束に近い状態であると考えられる。しかしながら、魚のアラの濃度が1.0%の場合とは異なり、早い段階で多くの水素発生量を得られる結果となっている。
【0065】
また、魚のアラの濃度が15%の場合、濃度が0.5〜10%の場合とは異なる兆候が見られた。すなわち、水素発生量が最大となる時間が、6時間半〜7時間の間となっていて、上述の0.5〜10%の場合とは異なる時間帯に水素発生のピークが存在している。また、7時間を経過した後に、急激に水素発生量が減少し、8時間経過後においては、反応収束に近い状態となっていると考えられる。
【0066】
次に、PY培地を用いた場合と、上述の各濃度における魚のアラを用いた場合との、水素発生量を比較して説明する。この図3の上段における水素生成速度とは、水素生成速度がピークとなる場合の、単位時間当たりの水素発生量であり、水素発生の条件は、上述の図2に示すものと同様である。また、同等の条件において、PY培地を用いたときのピークとなる水素生成速度は、66.7L/hであり、PY培地との比較の欄においては、PY培地を用いた場合の水素発生量に対して、何%の水素発生量が得られるかを示している。
【0067】
この図3に示すように、0.5%〜15%のいずれの濃度においても、水素の発生が見られるが、この中でも、特に、2.0〜15%のときには、PY培地を用いた場合と比較して、80%以上の水素生成量が得られている。そのため、2.0〜15%の範囲内であれば、単位時間当たりの水素生成量は、十分なものとなる。なお、この中でも特に、魚のアラの濃度が5.0%の場合、水素生成量は最大となっており、水素生成量は、PY培地に対して95%程度となっている。また、濃度が10%の場合には、水素生成量は、PY培地に対して90%程度となっており、この場合も、十分な水素生成量となっている。つまり、濃度が5.0〜10%の場合には、水素生成速度が速い、という点で有利であり、好適となっている。その中でも、特に、濃度が5.0%の場合には、水素生成速度が最も速く、最も好適となっている。
【0068】
続いて、図3の下段に基づいて、各濃度における水素生成総量を説明する。この図3の下段には、PY培地を用いた場合における水素生成総量に対する、各濃度における水素生成総量の%について示している。図3の下段に示すように、水素生成総量は、濃度が0.5%〜15%となる全ての領域において、83%以上となっており、PY培地を用いた場合と比較して、水素生成総量は、さほど落ち込んでいないことがうかがえる。この範囲の中でも、1.0〜10%の範囲であれば、PY培地を用いた場合の水素生成総量に対して、90%以上を確保しているため、十分な水素生成総量を確保しており、好適となっている。その中でも、特に、2.0%〜5.0%の場合には、水素生成総量がPY培地を用いた場合の94%となっており、十分な水素生成総量を得ることが可能となっている。
【0069】
以上の実験結果に鑑みると、魚のアラは、AM21B 株の水素生成菌を用いた場合において、魚のアラの濃度が0%の場合とは異なって水素の生成が見られることから、水素生成菌の活動に必要な、栄養源として用いられている、と考えられる。すなわち、キャベツを主栄養源とし、このキャベツの水素発酵により水素を得る場合、魚のアラは、副栄養源として水素生成菌に利用されている、と考えられる。そして、魚のアラの濃度が0.5%の場合における実験結果から分かるように、魚のアラが少しでも存在すれば、水素発酵を行うことができる。
【0070】
また、現状の段階では、濃度が1.0〜15%の場合であれば、8時間経過後に反応収束に近い状態となるため、好適となっている。この範囲の中でも、特に濃度が5.0%〜10%の場合が、早く、かつ大量の水素が得られる、という点で有利であり、最も好適となっている。
【0071】
また、濃度が2.0〜15%の場合、単位時間当たりの水素発生量は、PY培地を用いた場合の水素生成総量と比較して、80%以上を確保することが可能である。そのため、単位時間当たりの水素発生量を良好にしたい場合には、好適である。また、濃度が1.0〜10%の場合、水素生成総量は、PY培地を用いた場合の水素生成総量と比較して、90%以上を確保することが可能となる。
【0072】
なお、魚のアラ以外にも、ホタテのウロ、イカのゴロ、カツオの煮汁(カツオの内蔵を含む)等を代替培地として用いた場合、水素を発生するか否かについてであるが、これらを代替培地として用いた場合でも、水素を発生可能であることを確認している。この原因としては、以下の理由が考えられる。すなわち、魚のアラは、DHA、EPA、たんぱく質、脂質等を含んでおり、これは、ホタテのウロ、イカのゴロ、カツオの煮汁(カツオの内蔵を含む)でも、同様となっている。すなわち、魚のアラ等のように、生物の内蔵を主成分とする水産系廃棄物は、同様に生物の内蔵を主成分とするホタテのウロ、イカのゴロ、カツオの煮汁(カツオの内蔵を含む)等と成分が類似している。そのため、上述の水素生成菌を用いた水素発酵を行う場合、該水素生成菌は、これらの成分を有する水産系廃棄物を、副栄養源として活用し、それらの成分を栄養として取り入れることで、水素を生成可能となっている、と考えられる。
【0073】
このような水素生成方法およびこの水素生成方法を行うための水素生成装置10によれば、バイオマスを水素生成菌に作用させ、水素発酵させる際に、代替培地として水産系廃棄物を用いることが可能となる。ここで、水産系廃棄物を代替培地として用いる場合、PY培地と同様に、バイオマスから水素を発生させることが可能となる。しかも、水素生成菌として、Clostridium beijerinkii AM21B株(AM21B株)、Clostridium sp.No.2株、Clostridium sp.X53株のうちの少なくとも1つを有する場合、バイオマスからの水素発生量を多くすることが可能となる。その中でも、特に、AM21B株の水素生成菌を用いる場合には、水素の発生量を特に多くすることが可能となる。
【0074】
また、水産系廃棄物を代替培地として用いることにより、高価なPY培地を用いる場合と比較して、バイオマスから水素を発生させる際のコストを低減させることが可能となる。それにより、環境負荷の小さな、水素を用いたエネルギーシステムの実現性を一層向上させることが可能となる。さらに、水産系廃棄物が、別途処理する必要もなくなるため、水産系廃棄物の処理に要していたコストも低減可能となる。加えて、水産系廃棄物が不法に投棄される等を防ぐことも可能となり、環境保全を図ることも可能となる。
【0075】
ここで、用いられる水産系廃棄物は、各種水産物の内蔵を含んでいる。このように、水産系廃棄物が各種水産物の内蔵を含むと、水素生成菌を用いたバイオマスの水素発酵を良好に行える。すなわち、各種水産物の内蔵を含む水産系廃棄物は、バイオマスの水素発酵に際して、PY培地に代わる代替培地として機能させることができる。そのため、高価なPY培地を用いる場合と比較して、従来、単にゴミとして捨てられていた水産系廃棄物を代替培地として用いることで、バイオマスの水素発酵による水素発生の際のコストを低減させることが可能となる。特に、水産系廃棄物は、各種魚のアラ、ホタテのウロ、イカのゴロ、カツオの煮汁(カツオの内蔵を含む)のうち、少なくとも1つを含む場合、水産系廃棄物の内部には、それら水産物の内蔵が含まれる状態となり、水素生成菌を用いたバイオマスの水素発酵を良好に行うことが可能となる。
【0076】
さらに、水産系廃棄物が魚のアラであって、この魚のアラが混合物に対して0.5%〜15%の湿重量を有する場合、バイオマスから水素を生成することが可能となる。ここで、魚のアラが混合物に対して、1.0%〜15%の湿重量を有する場合、水素生成菌を用いたバイオマスの水素発酵を良好に行える。すなわち、魚のアラが、混合物に対して、1.0%〜15%の湿重量を有する場合、所定の時間(実験例では、8時間)が経過した後に、水素発酵は収束される。
【0077】
また、水産系廃棄物が魚のアラであって、この魚のアラが混合物に対して2.0%〜15%の湿重量を有する場合、水素生成菌を用いたバイオマスの水素発酵を良好に行える。その中でも、特に単位時間当たりの水素発生量は、PY培地を用いた場合の水素生成総量と比較して、80%以上を確保することが可能となる。そのため、PY培地を用いない場合であっても、バイオマスの水素発酵を十分に行うことが可能となり、コスト面を考えると、実用性に優れたものとなる。
【0078】
さらに、水産系廃棄物が魚のアラであって、この魚のアラが混合物に対して、1.0%〜10%の湿重量を有する場合、水素生成菌を用いたバイオマスの水素発酵を良好に行える。その中でも、特に水素生成総量は、PY培地を用いた場合の水素生成総量と比較して、90%以上を確保することが可能となり、水素発生の効率を一層向上させることが可能となる。
【0079】
また、水産系廃棄物が魚のアラであって、この魚のアラが混合物に対して、5.0%〜10%の湿重量を有する場合、水素生成菌を用いたバイオマスの水素発酵を、一層良好に行うことが可能となる。すなわち、魚のアラが、混合物に対して、5.0%〜10%の湿重量を有する場合、単位時間当たりの水素発生量および水素生成総量が、共に良好となる。このため、PY培地を用いない場合における、バイオマスの水素発酵による水素の発生量を一層増大させることができ、水素発生の効率をより一層向上させることが可能となる。
【0080】
さらに、本実施の形態では、水産系廃棄物をバイオマスに投入する前に、該水産系廃棄物に対して粉砕処理を施している。かかる粉砕処理を施すことにより、水産系廃棄物を細かく砕かれる。それにより、水産系廃棄物の成分のバラつきが低減され、水素生成の部分的な偏りを減じさせることができる。
【0081】
また、本実施の形態では、粉砕処理が為された水産系廃棄物に対して、イオン交換水の投入による希釈処理が行われる。かかる希釈処理を行うことにより、水産系廃棄物の流動性を向上させることが可能となる。それにより、水産系廃棄物の成分の偏りを、一層減じさせることが可能となる。
【0082】
以上、本発明の一実施の形態について説明したが、本発明はこれ以外にも種々変形実施可能である。
【0083】
上述の実施の形態においては、バイオマスとして、食品関連廃棄物および/または生活関連廃棄物が含まれるバイオマスを用いて水素を生成する方法について説明している。しかしながら、水素を生成するための原料としては、かかる食品関連廃棄物および/または生活関連廃棄物が含まれるバイオマスに限られるものではない。例えば、廃棄物以外のエネルギ作物を用いる農業系資源、エネルギ植林を用いる林業系資源、畜産系資源、水産系資源等の、種々のバイオマスを用いて、水素を発生させるようにしても良い。また、精糖された状態の砂糖のような、廃棄物となっていない食品関連の各種製品、生活関連の各種製品を、バイオマスとして用いても良い。
【0084】
また、上述の一実施の形態における水素生成装置10は、培養液タンク20、微生物前培養槽21、判断手段30、pH測定手段40、アルカリ性物質投入手段41、温度センサ50、温度調整手段51、圧力センサ60、ポンプ61、水素発生量計測手段70、培養液流量調整手段71および煮沸手段80の各構成を具備している。しかしながら、これらの各構成のうち、少なくとも1つを欠く水素生成装置としても良い。
【0085】
また、上述のようにしてバイオマスの水素発酵を行った後に生じる排出物に対して、メタン生成のためのメタン発酵処理を行うように構成しても良い。この場合には、メタン発酵を行うためのメタン発酵槽を新たに備える構成となると共に、このメタン発酵槽の内部にメタン菌を投入される。それによって、排出物がメタン菌によって分解され、メタンガスを生成可能となる。
【0086】
なお、メタン菌としては、例えば、メタノバクテリウム(Methanobacterium)属、メタノコッカス(Methanococcus)属、メタノザルチナ(Methanosarcina)属、メタノシータ(Methanosaeta)属、メタノハロフィルス(Methanohalophillus)属に属する細菌等がある。しかしながら、メタン菌は、バイオマスや水素発酵処理後の発酵液を処理しつつ、効率良くメタンを生産することができるものであれば、上述のメタン菌に限定されるものではなく、各種のメタン菌を利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の水素生成方法は、燃料電池等のエネルギ分野において利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の一実施の形態に係る水素生成装置の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る水素生成方法に関する実験結果を示す図であり、ガス発生量と時間との関係を示す図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係る水素生成方法に関する実験結果を示す表図であり、魚のアラの濃度を種々変更して水素を発生させた場合と、PY培地を用いて水素を発生させた場合との水素生成速度および水素生成総量とを比較して示す図である。
【符号の説明】
【0089】
10…水素生成装置
11…水素発酵槽
20…培養液タンク
30…判断手段
40…pH測定手段
41…アルカリ性物質投入手段
50…温度センサ
51…温度調整手段
60…圧力センサ
61…ポンプ
70…水素発生量計測手段
71…培養液流量調整手段
80…煮沸手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物の生育に必要な培地として水産系廃棄物を用い、この水産系廃棄物を有機廃棄物に投入し、該有機廃棄物に対して上記水産系廃棄物が投入された混合物を、Clostridium beijerinkii AM21B株、Clostridium sp.No.2株、Clostridium sp.X53株のうちの少なくとも1つを含む水素生成菌により水素発酵処理をして水素を生成させることを特徴とする水素生成方法。
【請求項2】
前記水産系廃棄物は、各種水産物の内蔵を含むことを特徴とする請求項1記載の水素生成方法。
【請求項3】
前記水産系廃棄物は、各種魚のアラ、ホタテのウロ、イカのゴロ、カツオの煮汁のうち、少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1記載の水素生成方法。
【請求項4】
前記水産系廃棄物は、魚のアラであると共に、この魚のアラは、前記混合物に対して、0.5%〜15%の湿重量を有することを特徴とする請求項1記載の水素生成方法。
【請求項5】
前記水産系廃棄物は、魚のアラであると共に、この魚のアラは、前記混合物に対して、5.0%〜10%の湿重量を有することを特徴とする請求項1記載の水素生成方法。
【請求項6】
前記水産系廃棄物を前記バイオマスに投入する前に、該水産系廃棄物に対して粉砕処理を施すことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の水素生成方法。
【請求項7】
前記粉砕処理が為された前記水産系廃棄物に対して、イオン交換水または水道水の投入による希釈処理を行うことを特徴とする請求項6記載の水素生成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−314203(P2006−314203A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−136960(P2005−136960)
【出願日】平成17年5月10日(2005.5.10)
【出願人】(301035851)株式会社フレイン・エナジー (11)
【Fターム(参考)】