説明

水素発生用陰極

【課題】従来より電極活性が高くかつ長期安定性を有する水素発生陰極を提供する。
【解決手段】陰極基体上に、触媒層を形成した水素発生陰極で、触媒層が、セリウム、白金及びルテニウムの金属、金属酸化物又は水酸化物を、0<x≦50モル%、0<y≦50モル%、0<z≦100モル%の範囲(x、y及びzはそれぞれセリウム、白金及びルテニウムのモル分率)で含むことを特徴とする水素発生用陰極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素発生用陰極に関し、より詳細には食塩電解等の工業電解に用いる水素発生用陰極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工業用原料として重要である水酸化ナトリウム及び塩素は主として食塩電解法により製造されている。この電解プロセスは、水銀陰極を使用する水銀法及びアスベスト隔膜と軟鉄陰極を使用する隔膜法を経てイオン交換膜を隔膜とし、過電圧の小さい活性化陰極を使用するイオン交換膜法に移行してきた。この間、苛性ソーダ1トンの製造の電力原単位は2000kWhまで減少した。活性化陰極としては、酸化ルテニウム粉をNiめっき浴に分散させて複合めっきすることにより得られる活性な電極、及びSやSnなどの第2成分を含むNiめっき、NiOプラズマ浴射により得られる陰極、ラネーニッケル、Ni−Mo合金を有する陰極、及び逆電流に耐性を与えるために水素吸蔵合金を用いて得られる陰極がある(Electrochemical Hydrogen Technologies p.15-62, 1990, H.Wcndt, US Patent No.4801368, J.Electrochem.Soc.,137,1419(1993), Modern Chlor-Alkali Technology,Vol.3,1986)。特公平6−33481号及び特公平6−33492号ではセリウムと貴金属の混有触媒が鉄の汚染に対して耐性があることが報告されている。最近イオン交換膜電解法において、生産能力の増大と投資コストの低減のために電流密度を高くできる電解セルが考案されつつあり、低抵抗膜の開発により、大電流の負荷が可能になってきた。
【0003】
陽極であるDSAは水銀法で200〜300A/dm2までの運転実績があるが、イオン交換膜法の陰極の寿命、性能に関しては未だ実績が無く、更なる改良の要求が出てきた。即ち過電圧が低いこと、膜との接触において膜を痛めないこと、陰極からの金属イオンなどの汚染が少ないことが重要である。従来から使用されてきた陰極(表面の凹凸が大きい、触媒層の機械的強度が小さいもの)を使用していくことが困難となり、新プロセスを実現させるためには高性能かつ上記電解条件でも十分な安定性を要する活性化陰極の開発も不可欠である。
現在最も一般的に行われている活性化陰極を用いた食塩電解法では、カチオン交換膜の陰極側に接するか、3mm以下のギャップで陰極が配置された電解槽で水と食塩が反応して水酸化ナトリウムを生成する。陽極、陰極反応はそれぞれ次の通りであり、理論分解電圧は2.19Vとなる。
【0004】
2Cl = Cl + 2e (1.36V)
2H2O + 2e = 2OH +H (-0.83V)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の活性化陰極を大電流密度で運転使用する場合、いくつかの課題を有している。すなわち、
(1)電極の劣化に伴い基材(ニッケル、鉄、カーボン成分)の一部が溶解剥離し、陰極液及び膜や陽極室に移行し、製品品質の低下と電解性能の劣化を招く。
(2)大電流密度になるほど過電圧が増大し、エネルギー効率が低下する。
(3)大電流密度になるほど槽内の気泡分布が増大し、生成する苛性濃度の分布を生じるため、陰極液の溶液抵抗損失が増加する。
(4)運転条件が過酷になり、セル構成材料からの不純物(イオウ、鉄など)の流出量が増大し、電極を汚染する。
等である。
【0006】
また陰極をイオン交換膜と密着させて配置(ゼロギャップ)した方が電圧を低下できるはずであり望ましいが、表面形状の荒れた陰極を使用すると、機械的に膜を破壊する可能性があり、従来の陰極を高電流密度かつゼロギャップ条件で使用するのは問題があった。貴金属を触媒として用いた陰極も従来より提案されており、性能的には期待できるが、価格的には問題があり使用量を低減することが必須であるが、この場合触媒層が薄くなるため基材は溶解剥離しやすくなり、やはり改良が要望されている。特開2000-239882号公報は、貴金属触媒を担持した陰極基材を保護する方法について開示している。また、特開2003-277966号公報はシュウ酸を添加した塗布液を用いてルテニウムとセリウムからなる陰極を製造する方法が開示されている。いずれも陰極の安定化、低価格化を目的として提案されているが、従来から公知の触媒よりも更に高い触媒活性(低い過電圧)を示し、かつ電解浴中の不純物に対しても高い安定性を維持する陰極を提供するにいたっていない。
【0007】
本発明では前述の従来技術の問題点を解消し、大電流密度の電解槽(ゼロギャップタイプを含む)でも高触媒活性及び高安定性下で使用可能であり、かつ比較的安価な活性化陰極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、陰極基体上に、触媒層を形成した水素発生用陰極において、前記触媒層が、セリウム、白金及びルテニウムのそれぞれの金属、金属酸化物又は水酸化物を、前記セリウム、白金及びルテニウムのモル分率をそれぞれx、y、zとして、各成分が、0モル%<x≦50モル%、0モル%<y≦50モル%、0モル%<z<100モル%の範囲で有する水素発生用陰極、又は各成分が、0モル%<x≦50モル%、0モル%<y≦50モル%、0モル%<z≦50モル%の範囲で有する水素発生用陰極である。
【0009】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明は、前述の特定の3成分を有する水素発生陰極を提供するもので、当該陰極を使用することにより、高活性で比較的長期間の電解運転後も高安定性を維持できる。
前記セリウム、白金及びルテニウムの組成範囲は、図1の三元図の線分B、C、z軸及びx軸で囲まれる範囲、つまり(x=50モル%、y=0モル%、z=50モル%)、(x=50モル%、y=50モル%、z=0モル%)、(x=0モル%、y=50モル%、z=50モル%)及び(x=0モル%、y=0モル%、z=100モル%)の4点で形成される平行四辺形の内部領域、あるいは図1の三元図の線分A、B、Cで囲まれる範囲、つまり(x=50モル%、y=0モル%、z=50モル%)、(x=50モル%、y=50モル%、z=0モル%)及び(x=0モル%、y=50モル%、z=50モル%)の3点で形成される正三角形の内部領域である。
【0010】
前者の各成分のモル分率は、0モル%<x≦50モル%、0モル%<y≦50モル%、0モル%<z<100モル%であり、好ましくは、1モル%≦x≦50モル%、1モル%≦y≦50モル%、1モル%≦z≦99モル%であり、より好ましくは、5モル%≦x≦50モル%、5モル%≦y≦50モル%、5モル%≦z≦95モル%である。
後者の各成分のモル分率は、0モル%<x、y、z≦50モル%、好ましくは、1モル%≦x、y、z≦50モル%であり、より好ましくは、5モル%≦x、y、z≦50モル%である。
【0011】
本発明の水素発生陰極は、例えばイオン交換膜法食塩電解セルにおいて使用すると、大電流密度でも触媒の損失がわずかであり、電解液不純物成分による汚染に強い電極として機能する。
即ちイオン交換膜法食塩電源セルにおいて、従来の貴金属陰極の触媒層に貴金属の中では比較的安価な成分であるルテニウムを添加することで触媒貴金属の使用量を低減させることが可能になり、また、活性が高い白金を特定の組成比の範囲で添加することによって従来の触媒よりも高い触媒活性を示し、かつ電解浴中の不純物に対しても高い安定性を維持する陰極を見いだしたものである。
【0012】
本発明の前記水素発生陰極は通常0.01mm以下の平滑な構造であり、ルテニウムやルテニウム化合物を添加することによって貴金属触媒粒子の活性点が増加して低過電圧を示すこと、電解による該触媒金属の被毒を防ぐこと、膜との接触において膜を痛めないこと、長時間の使用でも触媒の損失が少ないことなど工業的価値が大きい。また陰極をイオン交換膜と密着させて配置することが可能となり、また高価な触媒の使用を最小限にできるため、投資、電力コストが低減できる。
このように白金とルテニウムを選択しその組成範囲を調節することにより、最大限のコスト低減を行いながら、所定値以上の電極活性を得ることができる。
更にセリウムを使用すると、その使用量に応じて触媒活性及び安定性が増大する。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、特定の3成分を有する触媒層を含む水素発生陰極は、電解に使用した際の電極活性及び長期安定性に優れ、電解分野における工業的価値が大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
続いて本発明の陰極を構成する各部材及びその製造方法を例示する。
陰極基体として、電気導電性と化学的安定性からステンレス、チタン、ニッケル、カーボン系材料の使用が好ましく、基体の厚さは0.05〜5mm、空隙率は10〜95%であることが好ましい。また本発明の触媒層は、表面形状が平滑な基材に限らず、ラネーなどの表面の凹凸が大きい基材にも適用することができる。
次いでニッケルを使用する陰極基体について説明する。触媒層の密着力を高めるために、基体表面の粗面化処理を行うことが好ましく、粗面化方法としては従来の粉末を吹き付けるブラスト処理、可溶性の酸を用いたエッチング、プラズマ溶射などがある。
更に表面の金属、有機物などの汚染粒子を除去するために化学エッチング処理を行っても良い。
前記粗面化処理及び化学エッチング処理におけるニッケル基体の消耗量は30〜400g/m2程度が好ましい。
【0015】
本発明では、触媒層を形成する前に酸化物の中間層を形成することが望ましい。
中間層の形成方法は特に限定されず、単に基体を熱処理するだけでも空気中の酸素とニッケルが反応し、Ni(1-X)Oを生成させることができる。熱処理温度は350〜550℃で、焼成時間は5〜60分が好ましい。
酸化物は製造条件にもよるが、酸素欠陥があるため一般にp型の半導性を有している。酸化物の厚みが厚すぎると抵抗損失が増大し、薄いと不均一な表面層しか得られない。最適な厚さは0.1〜100μm程度であり、陰極基材の金属が電解液であるアルカリ水溶液等と接触しないように表面に均一に形成されることが好ましい。
【0016】
単に熱処理を行うだけでなく、ニッケルイオンを含む溶液を塗布し、同様に熱処理することでも安定に酸化物を得ることができ、陰極基材を腐食するような組成の溶液の使用が好ましい。
前記溶液中のニッケル原料としては、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、塩化ニッケルなどがあり、これを硝酸、硫酸に添加し、適当な濃度にした水溶液を塗布液として利用できる。
前記溶液を塗布した後、乾燥し熱分解を行うと、前記酸化物が得られる。
基材がニッケルの場合でも、他の成分からなる導電性酸化物中間層を形成することもできる。例えばn型の酸化チタン(TiO2-X)などアルカリで安定であり、水素発生の能力が表面の触媒のそれに対して無視できる程度に小さい化合物を中間層として使用できる。
【0017】
触媒層は、前述の通り、セリウム、白金及びルテニウムを含む。
セリウムとルテニウムは、金属、金属酸化物又は水酸化物のいずれかとして、白金は金属として触媒層中に存在し、金属層、酸化物混合層、水酸化物混合層、あるいは合金層を形成する。好ましい触媒層は、白金とルテニウム化合物とセリウムが均一に混合し中間層又は基体に担持される。
【0018】
図1のB、C、z軸及びx軸で囲まれる範囲の組成の触媒層を有する陰極、特にABCで囲まれる範囲の組成の触媒層を有する陰極は、上記範囲以外の組成の触媒層を有する陰極と比較して、水素過電圧が低い、短絡安定性が高い、あるいは被毒耐性が高いという性質を示す。
また、触媒層全体は多孔質構造を形成しており、前記中間層が存在しないと、電解液が浸透し基体消耗が進行するが、運転時間や用途によっては中間層を設けなくて良い場合がある。
前記触媒層は、食塩電解で汎用されている陽極(DSE)と同様に触媒金属の塩溶液を基体表面に塗布し焼成することにより形成することが望ましいが、塩溶液を作製し電気メッキするか還元剤を用いて無電解メッキすることにより形成しても良い。特に焼成して触媒を形成する場合には、触媒層を形成する金属イオンを含む溶液が基体と反応して、ニッケル基体成分が触媒層に進入し酸化物や水酸化物として溶解し、膜や陽極に影響を及ぼすことがあり、中間層はこの腐食を防止する作用がある。
【0019】
触媒層で用いるルテニウムは、金属ルテニウム、酸化ルテニウム、塩化ルテニウム、硝酸ルテニウム、酢酸ルテニウム、ルテニウムアルコキシド、トリスアセチルアセトナトルテニウムなどを原料とすることができ、これを硝酸、塩酸、水に添加し、適切な濃度に溶解した水溶液を塗布液とする。白金の場合は、塩化白金酸、ジニトロジアンミン白金塩などを原料として使用でき、これを硝酸、塩酸、水に添加し、適当な濃度に溶解した水溶液を塗布液とする。セリウムの場合は、金属セリウム、塩化セリウム、硝酸セリウムなどを原料とすることができ、これを硝酸、塩酸、水に添加し、適当な濃度に溶解した水溶液を塗布液とする。
【0020】
これらの塗布液は単独で、基体や中間層に塗布しても、3種の塗布液を混合後、塗布しても良い。白金とルテニウムとセリウムとの比率は、図1に示すB、C、z軸及びx軸で囲まれる範囲の組成、特にABCで囲まれる範囲の組成となるように前記塗布液の量を調節する。
塗布液の塗布後に、乾燥を40〜150℃で5〜20分行い、その後熱分解反応(焼成)を行う。熱分解温度は300〜650℃、焼成時間は5〜60分が好ましい。全触媒層は1〜15g/m2程度が最良であり、最適な厚さは0.1〜10μm程度である。
【0021】
食塩電解で前記水素発生陰極を使用する場合、イオン交換膜としてはフッ素樹脂系の膜が耐食性の面から最適である。陽極はDSE、DSAと呼ばれる貴金属酸化物を有するチタン製の不溶性電極の使用が望ましく、この陽極は膜と密着して用いることができるよう多孔性であることが好ましい。
前記水素発生陰極と膜を密着させる必要がある場合には前もってそれらを機械的に結合させておくか、或いは電解時に圧力を与えておけば十分である。圧力0.1〜30kgf/cm2が好ましい。電解条件としては、温度は60〜95℃、電流密度は10〜100A/dm2が好ましい。
前記触媒層は、活性の低い、或いは低下した既存の陰極上に塗布することも可能である。その場合は、下地となる元の触媒面の付着物を上記方法で洗浄除去した後、上記記載の塗布、焼成を施せばよい。
【0022】
次に本発明の水素発生陰極及びその製造に関する実施例を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0023】
[実施例1]
電解面積が100cm2(幅5cm、高さ20cm)であるセルを用いた。陰極基体は、ニッケルメッシュ(長径8mm、短径6mm、厚さ1mm)とし、表面をアルミナ粒子(60番)で十分に粗面化し、20重量%の沸騰塩酸でエッチングした。500℃の空気雰囲気の焼成炉に、前記陰極基体を20分入れてその表面にニッケル酸化物を形成させた。
硝酸セリウム(セリウム:成分X)、ジニトロジアンミン白金塩(白金:成分Y)及び硝酸ルテニウム(ルテニウム:成分Z)を原料として、表1に示す組成(x=33モル%、y=33モル%、z=33モル%)で濃度が5重量%の塗布液を作製した。前記陰極基体を塗布液に浸漬し、その後ゆっくり引き上げ、60℃で乾燥後、電気炉内で500℃、10分の焼成を行った。これを3回繰り返し、最終的な全触媒量が7g/m2である水素発生用陰極を得た。
【0024】
陽極としてチタン製のDSE多孔性陽極、イオン交換膜としてナフィオン981(デュポン製)を用いた。イオン交換膜の両側に前記陰極及び前記多孔性陽極を密着させて電解セルを構成した。陽極液として飽和食塩水を毎分4mlで供給し、陰極には純水を毎分0.4ml供給した。陰極アルカリ液中には鉄などの不純物が0.5ppm程度存在していることをICPにより確認した。温度を90℃とし、50Aの電流を流したところ、陰極過電圧は90mVであった。1日に1時間電解を停止させながら10日間の電解後において陰極過電圧の上昇は見られなかった(表1参照)。セルを解体後、電極を分析したが、付着物は観察されなかった。
なお本実施例における塗布液の原料の価格を1として、他の実施例及び比較例の塗布液の原料の価格と比較した。
【0025】
[実施例2]
実施例1と同じニッケルメッシュ製の陰極基体を用い、この基体表面に、四塩化チタンを5wt%溶解した液を5g/m2になるように塗布し、500℃の空気雰囲気焼成炉に、20分入れてその表面にチタン酸化物を形成させた。
塩化セリウム、塩化白金酸、塩化ルテニウムを原料として表1に示す組成(x=50モル%、y=45モル%、z=5モル%)で濃度が5wt%の塗布液を作製した。少量ずつ刷毛で前記陰極基体の両面に塗り、これを60℃で乾燥後、電気炉内で500℃、20分の焼成を行った。これを5回繰り返し、最終的な全触媒量が7g/m2である水素発生用陰極を得た。
【0026】
実施例1と同様のセルを組み立てて同様の条件で電解したところ、陰極過電圧は85mVであった。1日に1時間電解を停止させながら10日間の電解後において陰極過電圧の上昇は見られなかった(表1参照)。セルを解体後、電極を分析したが、付着物は観察されなかった。
実施例1における塗布液の原料の価格を1とした場合の本実施例の塗布液の原料の価格は、0.9であった。
【0027】
[実施例3]
実施例1と同じニッケルメッシュ製の陰極基体を用い、この基体表面に、硝酸ニッケルを5wt%溶解した液を5g/m2になるように塗布し、500℃の空気雰囲気焼成炉に、20分入れてその表面にニッケル酸化物を形成させた。
トリスアセチルアセトナトセリウム、塩化白金酸、トリスアセチルアセトナトルテニウムを原料として表1に示す組成(x=45モル%、y=5モル%、z=50モル%)で濃度が5wt%の塗布液を作製した。前記陰極基体を塗布液に浸漬してからゆっくり引き上げ、これを60℃で乾燥後、電気炉内で500℃、20分の焼成を行った。これを5回繰り返し、最終的な全触媒量が7g/m2である水素発生用陰極を得た。
【0028】
実施例1と同様のセルを組み立てて同様の条件で電解したところ、陰極過電圧は90mVであった。1日に1時間電解を停止させながら10日間の電解後において陰極過電圧の上昇は見られなかった(表1参照)。セルを解体後、電極を分析したが、付着物は観察されなかった。
実施例1における塗布液の原料の価格を1とした場合の本実施例の塗布液の原料の価格は、0.7であった。
【0029】
[実施例4]
実施例1と同じニッケルメッシュ製の陰極基体を用い、この基体表面に、テトラブチルチタネートを5wt%溶解した液を5g/m2になるように塗布し、500℃の空気雰囲気焼成炉に、20分入れてその表面にチタン酸化物を形成させた。
酢酸セリウム、ジニトロジアンミン白金、酢酸ルテニウムを原料として表1に示す組成(x=5モル%、y=50モル%、z=45モル%)で濃度が5wt%の塗布液を作製した。
少量ずつ刷毛で前記ニッケルメッシュの両面に塗り、これを60℃で乾燥後、電気炉内で500℃、20分の焼成を行った。これを5回繰り返し、最終的な全触媒量が7g/m2である水素発生用陰極を得た。
【0030】
実施例1と同様のセルを組み立てて同様の条件で電解したところ、陰極過電圧は75mVであった。1日に1時間電解を停止させながら10日間の電解後において陰極過電圧の上昇は見られなかった(表1参照)。セルを解体後、電極を分析したが、付着物は観察されなかった。
実施例1における塗布液の原料の価格を1とした場合の本実施例の塗布液の原料の価格は、0.8であった。
【0031】
[実施例5]
実施例1と同じニッケルメッシュ製の陰極基体を用い、この基体表面に、塩化ニッケルを5wt%溶解した液を5g/m2になるように塗布し、500℃の空気雰囲気焼成炉に、20分入れてその表面にニッケル酸化物を形成させた。
酢酸セリウム、ジニトロジアンミン白金、酢酸ルテニウムを原料として表1に示す組成(x=20モル%、y=20モル%、z=60モル%)で濃度が5wt%の塗布液を作製した。
前記陰極基体を塗布液に浸漬してからゆっくり引き上げ、これを60℃で乾燥後、電気炉内で500℃、20分の焼成を行った。これを5回繰り返し、最終的な全触媒量が7g/m2である水素発生用陰極を得た。
【0032】
実施例1と同様のセルを組み立てて同様の条件で電解したところ、陰極過電圧は85mVであった。1日に1時間電解を停止させながら10日間の電解後において陰極過電圧の上昇は見られなかった(表1参照)。セルを解体後、電極を分析したが、付着物は観察されなかった。
実施例1における塗布液の原料の価格を1とした場合の本実施例の塗布液の原料の価格は、0.8であった。
【0033】
[比較例1]
触媒層を白金とセリウムの混合層(x=50モル%、y=50モル%、z=0モル%)としたこと以外は実施例1と同様の電極を作製し、実施例1と同様のセルを組み立てて同様の条件で電解したところ、陰極過電圧は90mVであった。
1日に1時間電解を停止させながら10日間の電解後において陰極過電圧の上昇は見られなかった。セルを解体後、電極の分析を実施したが、付着物はなかった。
本比較例における陰極過電圧値及び付着物の有無は実施例1と同等であるが、白金使用量が実施例1の陰極より1.5倍必要であり、実施例1における塗布液の原料の価格を1とした場合の本比較例の塗布液の原料の価格は、1.5であった。
【0034】
[比較例2]
触媒層の組成をx=10モル%、y=80モル%、z=10モル%)に変えたこと以外は実施例2と同様の電極を作製し、実施例1と同様のセルを組み立てて同様の条件で電解したところ、陰極過電圧は90mVであった。
1日に1時間電解を停止させながら10日間の電解後において陰極過電圧は150mVに上昇した。セルを解体後、電極の分析を実施したところ、鉄の付着が確認された。
実施例1における塗布液の原料の価格を1とした場合の本比較例の塗布液の原料の価格は、1.8であった。
【0035】
[比較例3]
触媒層をルテニウムとセリウムの混合層(x=50モル%、y=0モル%、z=50モル%)としたこと以外は実施例3と同様の電極を作製し、実施例1と同様のセルを組み立てて同様の条件で電解したところ、陰極過電圧は110mVであった。
1日に1時間電解を停止させながら10日間の電解後において陰極過電圧の上昇は見られなかった。セルを解体後、電極の分析を実施したところ、鉄の付着が確認された。
実施例1における塗布液の原料の価格を1とした場合の本比較例の塗布液の原料の価格は、0.7であった。
【0036】
【表1】

[実施例及び比較例の考察]
実施例1〜5、比較例1〜3の組成比および電解結果を表1に示したが、比較例の範囲の組成の陰極では過電圧が大きいか、鉄による性能劣化があるか、或いは白金触媒使用量が比較的多いため、実用性に欠けている一方、実施例の範囲の組成の陰極ではいずれの特性も優れていた。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の水素発生陰極の組成比を表す三元図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極基体上に、触媒層を形成した水素発生用陰極において、前記触媒層が、セリウム、白金及びルテニウムのそれぞれの金属、金属酸化物又は水酸化物を、0モル%<x≦50モル%、0モル%<y≦50モル%、0モル%<z<100モル%の範囲(x、y及びzはそれぞれセリウム、白金及びルテニウムのモル分率)で有することを特徴とする水素発生用陰極。
【請求項2】
陰極基体上に、触媒層を形成した水素発生用陰極において、前記触媒層が、セリウム、白金及びルテニウムの金属、金属酸化物又は水酸化物を、0モル%<x≦50モル%、0モル%<y≦50モル%、0モル%<z≦50モル%の範囲(x、y及びzはそれぞれセリウム、白金及びルテニウムのモル分率)で有することを特徴とする水素発生用陰極。
【請求項3】
陰極性基体と触媒層の間に導電性酸化物を含有する中間層を設けた請求項1又は2に記載の陰極。
【請求項4】
中間層がニッケル及びチタンの少なくとも1種を含有する酸化物である請求項3に記載の陰極。

【図1】
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