説明

水素製造装置および水素製造方法

【課題】 硫酸濃縮分解工程において消費される熱量を可及的に低減して、水素製造効率を向上させた水素製造装置および水素製造方法を提供する。
【解決手段】 ヨウ素、二酸化硫黄および水から硫酸水溶液およびヨウ化水素水溶液を生成するブンゼン反応装置と、ブンゼン反応装置によって得られたヨウ化水素水溶液を濃縮した後にヨウ化水素を分解し、水素とブンゼン反応装置へ供給するヨウ素とを得るヨウ化水素濃縮分解装置と、ブンゼン反応装置によって得られた硫酸水溶液を分解して三酸化硫黄を得る硫酸分解部15と前記三酸化硫黄を分解して二酸化硫黄を得る三酸化硫黄分解部17とを内部に直列に配置し、前記三酸化硫黄を分解して得られた分解ガスが流れる挿入管が硫酸分解部15および三酸化硫黄分解部17を貫通して配置された分解容器39を備えた硫酸濃縮分解装置4と、が設けられたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヨウ素および二酸化硫黄を用いて水を熱分解することにより水素を製造する水素製造装置および水素製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水を熱分解することにより水素を製造する方法として、IS(Iodine Sulfur)法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。IS法は、以下の3つの工程から構成されている。
(i) ブンゼン反応工程
ヨウ素、二酸化硫黄および水から硫酸水溶液およびヨウ化水素水溶液を生成する。
(ii) ヨウ化水素濃縮分解工程
ブンゼン反応装置によって得られたヨウ化水溶液を濃縮した後に、ヨウ化水素を分解し、製品としての水素とブンゼン反応工程へ供給するヨウ素とを得る。
(iii) 硫酸濃縮分解工程
ブンゼン反応装置によって得られた硫酸水溶液を濃縮した後に、硫酸を分解し、酸素とブンゼン反応工程へ供給する二酸化硫黄とを得る。この工程で得られる二酸化硫黄は、硫酸の分解により生成する三酸化硫黄をさらに三酸化硫黄分解工程によって分解することにより得られる。
上記(i)から(iii)の3つの工程はそれぞれが接続され、閉サイクルとされている。
【0003】
ブンゼン反応は発熱反応であるが、ヨウ化水素濃縮分解工程におけるヨウ化水素の分解反応、硫酸濃縮分解工程における硫酸の分解反応および硫酸の分解によって生成した三酸化硫黄の分解反応は吸熱反応とされる。したがって、IS法を実現する場合には、ヨウ化水素濃縮分解工程および硫酸濃縮分解工程に熱エネルギを投入する必要がある。
【特許文献1】特開2004−107115号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現在のところ、製造された水素の高位発熱量をヨウ化水素濃縮分解工程および硫酸濃縮分解工程に投入した熱量で除した水素製造効率は、熱回収を考慮しても約30%に止まっている。現実に水素を商業ベースにて供給可能とするには、さらなる熱効率の向上が望まれる。
【0005】
本発明者は、IS法の熱収支を鋭意検討した結果、硫酸濃縮分解工程における三酸化硫黄分解反応に着目した。なぜなら、三酸化硫黄分解反応では、全体の25%もの熱エネルギを消費していることが明らかになったからである。
三酸化硫黄分解反応は、下式に示すとおりであり、三酸化硫黄を熱分解することにより、二酸化硫黄と酸素を生成するものである。
SO=SO+1/2O
【0006】
この三酸化硫黄分解反応における二酸化硫黄への平衡転化率は、図6に示すように、高温であるほど、また、圧力が低いほど高くなる。したがって、850℃程度の高温が得られるものとして、ヘリウムガスを熱媒体として用いた高温ガス炉から得られる核熱が検討されている。しかし、熱媒体としてヘリウムガスを機能させるにはヘリウムガスの圧力を上げざるを得ない。そこで、プロセスガスとヘリウムガスの熱交換時におけるガス漏洩の問題を緩和するために、現実には、三酸化硫黄分解反応時の圧力を最高2MPaとし、プロセスガスとヘリウムガスの圧力差を2MPa程度に抑えるようにしている。2MPaにおける二酸化硫黄への平衡転化率は50%程度に止まる。
【0007】
このような圧力による制限によって、二酸化硫黄への平衡転化率を向上させることができないだけでなく、次のような問題があった。
三酸化硫黄分解工程におけるプロセスガス中には、三酸化硫黄以外の不純物(水、生成酸素、未反応硫酸)が混在しているため、実質の転化率は、単組成に比べて悪化している。これを改善するために、未反応の三酸化硫黄ガスを環流操作する方法が必要となるが、処理流量の増大とともに、投入熱量の増大をも招いてしまい、水素製造効率の向上を阻むという問題があった。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、硫酸濃縮分解工程において消費される熱量を可及的に低減して、水素製造効率を向上させた水素製造装置、水素製造装置に用いられる硫酸濃縮器および水素製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の手段を提供する。
本発明の水素製造装置は、ヨウ素、二酸化硫黄および水から硫酸水溶液およびヨウ化水素水溶液を生成するブンゼン反応装置と、前記ブンゼン反応装置によって得られたヨウ化水素水溶液を濃縮した後にヨウ化水素を分解し、製品としての水素と前記ブンゼン反応装置へ供給するヨウ素とを得るヨウ化水素濃縮分解装置と、前記ブンゼン反応装置によって得られた硫酸水溶液を分解して三酸化硫黄を得る硫酸分解部と前記三酸化硫黄を分解して二酸化硫黄を得る三酸化硫黄分解部とを内部に直列に配置し、前記三酸化硫黄を分解して得られた分解ガスが流れる挿入管が前記硫酸分解部および前記三酸化硫黄分解部を貫通して配置された分解容器を備えた硫酸濃縮分解装置と、が設けられたことを特徴とする水素製造装置。
【0010】
本発明によれば、分解ガスが有する熱の一部は、挿入管を介して三酸化硫黄および硫酸水溶液に回収されるため、三酸化硫黄および硫酸水溶液の温度は回収された熱量の分だけ上昇し、三酸化硫黄および硫酸水溶液を所定温度に加熱するために必要な熱量は減少する。
ここで、三酸化硫黄の所定温度とは、三酸化硫黄分解器において三酸化硫黄を二酸化硫黄に転化する反応に必要な温度であり、硫酸水溶液の所定温度とは、硫酸分解器において硫酸水溶液を三酸化硫黄に分解する反応に必要な温度である。
【0011】
硫酸分解器および三酸化硫黄分解器が同一の分解容器内に配置されているため、硫酸分解器および三酸化硫黄分解器が別々に配置されている場合と比較して、機器の数が削減される。
さらに、硫酸分解器および三酸化硫黄分解器の間の配管接続がなくなり、硫酸水溶液や三酸化硫黄の漏れが防止される。
【0012】
上記発明においては、前記分解ガスと前記三酸化硫黄および前記硫酸水溶液との間で再生熱交換が行われること
【0013】
本発明によれば、分解ガスが有する熱の一部は、熱交換により三酸化硫黄および硫酸水溶液に回収される、すなわち再生方式の熱交換により再生されることから、三酸化硫黄および硫酸水溶液の温度は回収された熱量の分だけ上昇し、三酸化硫黄および硫酸水溶液を所定温度に加熱するために必要な熱量は減少する。
【0014】
上記発明においては、前記硫酸濃縮分解装置には、前記ブンゼン反応装置によって得られた硫酸水溶液を濃縮する硫酸濃縮器が設けられ、前記分解ガスは、前記硫酸濃縮器内の前記硫酸水溶液中に導かれることが望ましい。
【0015】
本発明によれば、分解ガスには、三酸化硫黄から転化された二酸化硫黄ガスおよび酸素ガスと、水蒸気と、未分解の三酸化硫黄ガスおよび硫酸ガスと、が含まれるため、分解ガスが硫酸水溶液中に導入されると、三酸化硫黄ガスおよび硫酸ガスは硫酸水溶液に溶け込み、二酸化硫黄ガス等と分離される。
このようにして、ブンゼン反応とは関係のない三酸化硫黄ガスを除去した二酸化硫黄ガス等を上記ブンゼン反応装置に移送することで、ブンゼン反応装置における反応効率が向上する。
【0016】
また、ブンゼン反応とは関係のない三酸化硫黄ガスを硫酸濃縮器の硫酸水溶液に溶け込ませることで、三酸化硫黄ガスの有する熱がブンゼン反応装置に送られることが防止される。つまり、回収された三酸化硫黄ガスの熱が硫酸濃縮分解装置における硫酸水溶液の分解する過程や、三酸化硫黄を分解する過程に寄与するため、新たに投入される熱量が減少し熱効率が改善される。
【0017】
上記発明においては、前記分解ガスを前記分解容器から前記硫酸濃縮器まで導く配管には保温手段が設けられ、該保温手段は、前記配管の温度を、前記分解ガスに含まれるガス成分の結露温度より高く保つことが望ましい。
【0018】
本発明によれば、配管内における硫酸水溶液の生成が防止されるため、硫酸に対して腐食性のある金属製の配管を用いることができる。
つまり、配管内を流れる分解ガスに含まれる二酸化硫黄ガスや、酸素ガスや、水蒸気や、三酸化硫黄ガスのうち水蒸気が結露すると、結露した水に三酸化硫黄ガスが溶け込み硫酸水溶液となる。保温手段は配管の温度を、例えば、水蒸気の結露温度より高く保つことで、結露の発生を防止し、硫酸水溶液の発生を防止している。
【0019】
本発明の水素製造方法は、ヨウ素、二酸化硫黄および水から硫酸水溶液およびヨウ化水素水溶液を生成するブンゼン反応工程と、前記ブンゼン反応装置によって得られたヨウ化水素水溶液を濃縮した後にヨウ化水素を分解し、製品としての水素と前記ブンゼン反応装置へ供給するヨウ素とを得るヨウ化水素濃縮分解工程と、前記ブンゼン反応装置によって得られた硫酸水溶液を濃縮した後に硫酸を分解し、酸素と前記ブンゼン反応装置へ供給する二酸化硫黄とを得る硫酸濃縮分解工程と、を備え、前記硫酸濃縮分解工程には、前記硫酸水溶液を分解して三酸化硫黄を得る硫酸分解工程と前記三酸化硫黄を分解して二酸化硫黄を得る三酸化硫黄分解工程とが設けられた、水素製造方法において、前記三酸化硫黄分解工程において前記三酸化硫黄を分解して得られた分解ガスと、前記三酸化硫黄分解工程における前記三酸化硫黄および前記硫酸分解工程における前記硫酸水溶液との間で再生熱交換が行われることを特徴とする。
【0020】
本発明によれば、分解ガスが有する熱の一部は、熱交換により三酸化硫黄および硫酸水溶液に回収されることから、三酸化硫黄および硫酸水溶液の温度は回収された熱量の分だけ上昇し、三酸化硫黄および硫酸水溶液を所定温度に加熱するために必要な熱量は減少する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の水素製造装置および水素製造方法によれば、分解ガスが有する熱の一部は、熱交換により三酸化硫黄および硫酸水溶液に回収されることから、三酸化硫黄および硫酸水溶液の温度は回収された熱量の分だけ上昇するため、硫酸濃縮分解工程において消費される熱量を可及的に低減して、水素製造効率を向上させるという効果を奏する。
【0022】
本発明の水素製造装置に用いられる硫酸濃縮器によれば、ブンゼン反応とは関係のない三酸化硫黄ガスを硫酸濃縮器の硫酸水溶液に溶け込ませて、三酸化硫黄ガスの有する熱を回収することで、硫酸濃縮分解工程において消費される熱量を可及的に低減して、およびブンゼン反応に関係のない三酸化硫黄をブンゼン反応装置に送らないために、水素製造効率を向上させるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
この発明の一実施形態に係る水素製造装置について、図1から図5を参照して説明する。
図1には、本実施形態の水素製造装置の概略構成が示されている。
水素製造装置1は、原料である水を熱分解によって分解し、製品である水素(さらには酸素)を製造するものである。水素製造装置1は、IS(Iodine Sulfur)法を採用しており、ブンゼン反応装置2と、ヨウ化水素濃縮分解装置3と、硫酸濃縮分解装置4とを備えている。
【0024】
ヨウ化水素濃縮分解器3および硫酸濃縮分解装置4へ供給される熱源としては、図示しない高温ガス炉の核熱が用いられる。すなわち、中間熱交換器10を介して得られる二次ヘリウムガスの顕熱を利用する。
中間熱交換器10は、高温ガス炉の核熱によって高温とされた一次ヘリウムガスと、水素製造装置1側に熱を与える二次ヘリウムガスとの間で熱交換を行わせるものである。中間熱交換器10には、一次ヘリウムガスが流れる一次側配管10aと、二次ヘリウムガスが流れる二次側配管10bとが接続されている。二次側配管10bを流れる二次ヘリウムガスは、中間熱交換器10において約880℃まで加熱され、その圧力は約4MPaとされる。
中間熱交換器10において加熱された二次ヘリウムガスは、後述する三酸化硫黄分解器17、硫酸分解器15およびヨウ化水素分解器11との間で熱交換を行う。
【0025】
ブンゼン反応装置2は、ブンゼン反応器5と、二相分離器7とを備えている。
ブンゼン反応器5には、原料である水(HO)と、ヨウ化水素濃縮分解装置3から供給されるヨウ素(I)と、硫酸濃縮分解装置4から供給される二酸化硫黄(SO)が供給される。ブンゼン反応器5では、例えば0.1MPa(ゲージ圧),100℃の条件下で、下式によるブンゼン反応が行われ、ヨウ化水素水溶液および硫酸水溶液が生成される。なお、ブンゼン反応は発熱反応であるため、外部からエネルギが投入されることはない。
SO(g)+I(L)+2HO → HSO(aq)+2HI(aq) ・・・(1)
二相分離器7では、ブンゼン反応器5において得られた硫酸水溶液およびヨウ化水素水溶液を分離する。二相分離器7内は、例えば0.1MPa(ゲージ圧),100℃の条件とされる。二相分離器7において分離されたヨウ化水素水溶液および硫酸水溶液は、それぞれ、ヨウ化水素濃縮分解装置3および硫酸濃縮分解装置4へと導かれる。
【0026】
ヨウ化水素濃縮分解装置3は、ヨウ化水素精製濃縮器9と、ヨウ化水素分解器11とを備えている。
ヨウ化水素精製濃縮器9は、例えば1MPa(ゲージ圧),100℃から234℃の条件下で、ヨウ化水素水溶液を精製するとともに、ヨウ化水素水溶液を濃縮する。ヨウ化水素は、ヨウ化水素精製濃縮器9において気化され、ヨウ化水素分解器11へと導かれる。ヨウ化水素精製濃縮器9には、精製濃縮過程に必要な熱エネルギが投入される。
【0027】
ヨウ化水素分解器11は、例えば1MPa(ゲージ圧),450℃の条件下で、下式によるヨウ化水素の分解を行う。
2HI(g) → H(g)+I(g) ・・・(2)
上記ヨウ化水素分解反応は吸熱反応とされ、したがって、熱エネルギが投入される。つまり、中間熱交換器10において加熱された二次ヘリウムガスが流通するガス配管13との熱交換によって(2)式のヨウ化水素分解反応が進行する。
ヨウ化水素分解器11において分解されたヨウ素は、ブンゼン反応器5へと導かれる。未反応のヨウ化水素は、ヨウ化水素精製濃縮器9へと返送される。
【0028】
硫酸濃縮分解装置4は、硫酸精製濃縮器(硫酸濃縮器)14と、硫酸分解器(硫酸分解部)15と、三酸化硫黄分解器(三酸化硫黄分解部)17とを備えている。
硫酸精製濃縮器14は、例えば0.1MPa(ゲージ圧),100℃から391℃の条件下で、硫酸を精製するとともに、硫酸水溶液を濃縮する。硫酸精製濃縮器14には、精製濃縮過程に必要な熱エネルギが投入される。硫酸精製濃縮器14において精製濃縮された硫酸(液体)は、硫酸分解器15へと導かれる。
【0029】
硫酸分解器15は、例えば2MPa(ゲージ圧),391℃から527℃の条件下で、下式による硫酸の分解を行う。
SO(L) → HO(g)+SO(g) ・・・(3)
上記硫酸分解反応は吸熱反応とされ、したがって、熱エネルギが投入される。つまり、中間熱交換器10において加熱された二次ヘリウムガスが流通するガス配管19との熱交換によって(3)式の硫酸分解反応が進行する。
硫酸分解器15において分解された三酸化硫黄と水蒸気は、三酸化硫黄分解器17へと導かれる。
【0030】
三酸化硫黄分解器17は、例えば2MPa(ゲージ圧),527℃から850℃の条件下で、下式による三酸化硫黄の分解を行う。
SO(g) → SO(g)+1/2O(g) ・・・(4)
上記三酸化硫黄分解反応は吸熱反応とされ、したがって、熱エネルギが投入される。つまり、中間熱交換器10において加熱された二次ヘリウムガスが流通するガス配管20との熱交換によって(4)式の三酸化硫黄分解反応が進行する。図1に示されているように、三酸化硫黄分解器17に最も高い温度の二次ヘリウムガスを導くために、中間熱交換器10において加熱された二次ヘリウムガスは、最初に三酸化硫黄分解器17に導かれるようになっている。三酸化硫黄分解器17において熱交換を終えた二次ヘリウムガスは、硫酸分解器15およびヨウ化水素分解器11において熱交換を行う。
三酸化硫黄分解器17において生成した酸素は、製品として系外に取り出される。また、三酸化硫黄分解器17において生成した二酸化硫黄は、少量の水蒸気とともに、ブンゼン反応器5へと導かれる。
【0031】
このように、本実施形態に係る水素製造装置1によれば、原料として水をブンゼン反応装置2へ投入することにより、製品としての水素がヨウ化水素濃縮分解装置3から、酸素が硫酸濃縮分解装置4から得ることができる。
【0032】
図2には、図1の硫酸濃縮分解装置の具体的な構成が示されている。
硫酸濃縮分解装置4は、硫酸気液分離器21および硫酸濃縮蒸留器23を有する硫酸精製濃縮器14と、硫酸分解器15および三酸化硫黄分解器17を有する一体型硫酸分解器(分解器)25と、を主として備えている。
【0033】
硫酸気液分離器21は、ブンゼン反応装置2(図1参照。)から導かれた最高2.1MPa(絶対圧),100℃の硫酸水溶液(A;50wt%程度の希硫酸)、および、一体型硫酸分解器25から導かれた分解ガスから、液体である硫酸水溶液と、気体である水蒸気、二酸化硫黄および酸素とを分離するものである。
【0034】
硫酸気液分離器21の高さ方向(図2の上下方向)の上方には、ブンゼン反応装置2から硫酸水溶液を導くための第1希硫酸供給配管27が接続されている。一方、硫酸気液分離器21の下方には、一体型硫酸分解器25から分解ガスを導くための分解ガス返送配管(配管)29が接続されている。また、第1希硫酸供給配管27には、硫酸水溶液を硫酸気液分離器21に向けて移送する第1ポンプ31が配置されている。
【0035】
分解ガスに含まれる三酸化硫黄および硫酸ガスは硫酸水溶液に回収され、分解ガスに含まれる二酸化硫黄、酸素および水蒸気から分離される。分離された最高2.1MPa(絶対圧),183℃程度の二酸化硫黄、酸素および水蒸気(F)は、硫酸濃縮蒸留器23において硫酸水溶液から蒸発した水蒸気と合流し、第5ポンプ75により移送される。そのうち、二酸化硫黄および水蒸気はブンゼン反応装置2に送られ、酸素は製品用酸素として系外に取り出される。
一方、三酸化硫黄および硫酸ガスを回収した硫酸水溶液は、濃度が若干高くなった状態(60wt%程度)で、硫酸濃縮蒸留器23に送られる。
【0036】
図3には、図2の硫酸濃縮蒸留器の具体的な構成が示されている。
硫酸濃縮蒸留器23は、硫酸気液分離器21から導かれた最高2.1MPa(絶対圧),183℃程度の硫酸水溶液(B;60wt%程度の希硫酸)を蒸留法によって90wt%程度の濃硫酸に濃縮するものである。
図2および図3に示すように、硫酸濃縮蒸留器23の高さ方向(図2の上下方向)における略中央部には、硫酸気液分離器21から硫酸水溶液を導くための第2希硫酸供給配管33が接続されている。第2希硫酸供給配管33には、硫酸水溶液を硫酸濃縮蒸留器23に向けて移送する第2ポンプ35が配置され、硫酸水溶液が硫酸濃縮蒸留器23に流入する。硫酸濃縮蒸留器23の下部には、一体型硫酸分解器25および分解ガス返送配管29において熱交換した後の二次ヘリウムガスが流通するガス配管19cが配置され、流入した硫酸水溶液と二次ヘリウムガスとの間で熱交換が行われる。熱交換されて加熱された硫酸水溶液に含まれる水は蒸発し、硫酸水溶液の濃度は略90wt%に高められる。
一方、硫酸濃縮蒸留器23の上部には冷却水が流通する冷却配管37が配置され、硫酸水溶液から蒸発した水蒸気が冷却される。冷却されて最高2.1MPa(絶対圧),100℃以上となった水蒸気(G)は、上述の硫酸気液分離器21において分離された二酸化硫黄、酸素および水蒸気と合流する。
【0037】
一体型硫酸分解器25は、図2に示すように、一方の端部が開口するとともに他方の端部が閉じられた円筒状の鞘管(分解容器)39と、鞘管39の内部に挿入された挿入管41と、鞘管39および挿入管41との間に配置された硫酸分解器15および三酸化硫黄分解器17と、を主として備えている。
鞘管39は開口した一方の端部が下方に、閉じられた他方の端部が上方になるように配置されている。また、硫酸分解器15は開口した一方の端部側に配置され、三酸化硫黄分解器17は閉じられた他方の端部側に配置されている。
以下に、一体型硫酸分解器25の構成を具体的に説明する。
【0038】
図4には、図2の一体型硫酸分解器の具体的な構成が示されている。
一体型硫酸分解器25は、圧力容器を構成する上端部43と、円筒部45と、下端部47とを備え、円筒部45の内部には上述の鞘管39および挿入管41が配置されている。また、円筒部45と下端部47との間には、硫酸水溶液を鞘管39および挿入管41の間に導く導入部49が配置されている。
なお、硫酸と接触しない上端部43および円筒部45と、硫酸の気相部と接触する下端部47とは金属で製作されることが望ましい。
【0039】
上端部43には、ガス配管19により中間熱交換器10(図1参照。)において加熱された二次ヘリウムガス(加熱流体)が導かれ、二次ヘリウムガスは上端部43に形成された流通孔51から円筒部45に流入する。
円筒部45内には、左右から水平方向に互い違いに延びるバッフル板53が設けられ、円筒部45内部に導かれた二次ヘリウムガスを左右に蛇行させながら、円筒部45の下方に向って導くように構成されている。なお、鞘管39はバッフル板53を貫通して配置され、鞘管39とバッフル板53とは、上下方向(鞘管39の中心軸線方向)に相対移動可能に構成されている。円筒部45の下方の側面には、円筒部45内を流れた二次ヘリウムガスが外部に流出するヘリウムガス流出口55が形成されている。
【0040】
このように、鞘管39および挿入管41の下側の端部のみを固定し、その他の部分を鞘管39の中心軸線方向に沿って移動可能に構成することで、鞘管39とその周囲の構成要素と間の熱膨張差を吸収することが出来る。同時に、鞘管39および挿入管41とその周囲の構成要素とに熱応力が発生するのを防止できる。
また、鞘管39および挿入管41の下側の端部は、上側の端部と比較して温度が低いため、容易に固定することができる。
【0041】
図5には、図4の鞘管、挿入管および導入部の具体的な構成が示されている。
導入部49は、図4および図5に示すように、円筒部45との仕切り板である上端板57と、下端部47との仕切り板である下端板59と、円筒部45と略同一径の円筒部材である側板61と、を備えている。側板61には、硫酸濃縮蒸留器23から硫酸水溶液(濃硫酸)を導くための濃硫酸供給配管63(図3参照。)が接続される硫酸供給口65が設けられている。
硫酸の液相部である硫酸水溶液と接触する上端板57、下端板59、側板61、硫酸供給口65、鞘管39および挿入管41は、セラミックスやガラスライニング材や貴金属ライニング(めっき)材などで製作されることが望ましく、特にシリコンカーバイト(SiC)で製作されることが望ましい。
【0042】
上端板57には、図5に示すように、鞘管39の下端が取り付けられ、下端板59には挿入管41の下端が取り付けられている。さらに、導入部49の内部、具体的には、上端板57、下端板59および側板61に囲まれた空間と、鞘管39および挿入管41の内部には充填材67が配置されている。充填材67の全部もしくは一部は、三酸化硫黄分解器17における分解触媒を担持するものでもある。
なお、充填材67は、上述の上端板57などと同一の材料から形成されていることが望ましい。
【0043】
下端部47には、図4に示すように、挿入管41から流入した分解ガスが、分解ガス返送配管29に流出する分解ガス流出口69が設けられている。
【0044】
濃硫酸供給配管63に設けられた第3ポンプ71(図2参照。)により、導入部49へ移送された最高2.1MPa(絶対圧),400℃程度の硫酸水溶液(C)は、鞘管39と管挿入管41との間に流入して円筒部45内を流れる二次ヘリウムガスにより加熱される。加熱された硫酸水溶液は、硫酸分解器15(図2参照。)に相当する領域において、(3)式で示したように三酸化硫黄ガスと水蒸気に分解される。
分解された水蒸気を含む三酸化硫黄ガスは、さらに鞘管39と挿入管41との間を上方に押し上げられ、三酸化硫黄分解器17(図2参照。)に相当する領域において、(4)式で示したように二酸化硫黄へと転化される。
【0045】
このようにして一体型硫酸分解器25の三酸化硫黄分解器17において生成された最高2.1MPa(絶対圧),850℃程度の分解ガス(D)は、挿入管41内を自重により下方に向って流れる。
このように、分解ガスの自重を利用して分解ガスを流す(循環させる)ことにより、移送ポンプを用いて分解ガスを流す方法と比較して、構成を簡素にすることができる。あるいは、分解ガスを熱循環させても同様の効果を得ることができる。
【0046】
分解ガスの有する熱の一部は、三酸化硫黄分解器17に相当する領域において三酸化硫黄に供給され、二酸化硫黄への転化に寄与する。また、分解ガスの有する熱のさらに一部は、硫酸分解器15に相当する領域において、硫酸水溶液に与えられ硫酸水溶液の分解に寄与する。
このように分解ガスの有する熱の一部を、三酸化硫黄および硫酸水溶液などに与えることにより、挿入管41から流出する分解ガスの温度を低くすることができる。
【0047】
挿入管41から流出した2.1MPa(絶対圧),571℃の分解ガス(E)は、図2に示すように、下端部47から分解ガス返送配管29内を硫酸気液分離器21に向けて、第4ポンプ73により移送される。また、分解ガス返送配管29には、挿入管41から流出した分解ガスの結露の恐れがあるほど温度が低い場合(およそ500℃以下)には、一体型硫酸分解器25の円筒部45から流出した二次ヘリウムガスが流れるガス配管(保温手段)19bが配置されている。
分解ガスには、二酸化硫黄の他に、分解生成物である酸素、未反応の三酸化硫黄、上流側から持ち込まれた硫酸ガスおよび水蒸気が含まれる。
ガス配管19bを流れる二次ヘリウムガスにより分解ガスを加熱し、分解ガス返送配管29内を液相の硫酸が生成される温度より高く保つ。このようにすることで、分解ガス返送配管29を、液相の硫酸に対して腐食性を有する金属で形成することができる。
【0048】
ここで、上述のAからFにおける各種流体の圧力(MPa(絶対圧))、温度(℃)、流量(kmol/hr)、モル分率(%)の一例を下記の表に示す。
【表1】

【0049】
上記の構成によれば、硫酸分解器15および三酸化硫黄分解器17が同一の鞘管39内に配置されているため、硫酸分解器15および三酸化硫黄分解器17が別々に配置されている場合と比較して、機器の数が削減されるため、水素製造装置1の製造コスト低減を図ることができる。
さらに、硫酸分解器15および三酸化硫黄分解器17の間の配管接続がなくなるため、硫酸分解器15からの硫酸水溶液や三酸化硫黄などの漏れ、三酸化硫黄分解器17からの三酸化硫黄や二酸化硫黄などの漏れが防止され、信頼性の向上を図ることができる。
【0050】
分解ガスが有する熱の一部は、分解ガスが挿入管41を流れる間に、三酸化硫黄および硫酸水溶液などに回収される。三酸化硫黄および硫酸水溶液の温度は回収された熱量の分だけ上昇するため、三酸化硫黄分解器17において三酸化硫黄を二酸化硫黄に転化する反応に必要な温度や、硫酸分解器15において硫酸水溶液を三酸化硫黄に分解する反応に必要な温度に加熱するために必要な熱量が減少し、水素製造装置1における熱効率の向上が図られる。
【0051】
分解ガスには、三酸化硫黄から転化された二酸化硫黄ガスおよび酸素ガスと、水蒸気と、未分解の三酸化硫黄ガスおよび硫酸ガスと、が含まれるため、分解ガスが硫酸水溶液中に導入されると、三酸化硫黄ガスおよび硫酸ガスは硫酸水溶液に溶け込み、二酸化硫黄ガス等と分離される。
このようにして、ブンゼン反応とは関係のない三酸化硫黄ガスを除去した二酸化硫黄ガス等を上記ブンゼン反応装置2に移送することができる。
【0052】
また、ブンゼン反応とは関係のない三酸化硫黄ガスを硫酸気液分離器21の硫酸水溶液に溶け込ませることで、三酸化硫黄ガスの有する熱がブンゼン反応装置2に送られることが防止される。つまり、回収された三酸化硫黄ガスの熱が硫酸濃縮分解装置4の硫酸分解器15における硫酸水溶液の分解する過程や、三酸化硫黄分解器17における三酸化硫黄を分解する過程に寄与するため、新たに投入される熱量が減少し熱効率が改善される。
【0053】
分解ガス返送配管29内における硫酸水溶液の生成が防止されるため、硫酸に対して腐食性のある金属製の分解ガス返送配管29を用いることができる。
例えば、分解ガス返送配管29内を流れる分解ガスに含まれる二酸化硫黄ガスや、酸素ガスや、水蒸気や、三酸化硫黄ガスのうち水蒸気が結露すると、結露した水に三酸化硫黄ガスが溶け込み硫酸水溶液となる。ガス配管19bは分解ガス返送配管29の温度を、例えば、水蒸気の結露温度より高く保つことで、結露および硫酸水溶液の発生を防止し、硫酸に対して腐食性のある金属製の分解ガス返送配管29の使用を可能としている。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施形態に係る水素製造装置の概略構成を示す図である。
【図2】図1の硫酸濃縮分解装置の具体的な構成を示す図である。
【図3】図2の硫酸濃縮蒸留器の具体的な構成を示す図である。
【図4】図2の一体型硫酸分解器の具体的な構成を示す図である。
【図5】図4の鞘管、挿入管および導入部の具体的な構成を示す図である。
【図6】三酸化硫黄分解反応における二酸化硫黄への平衡転化率を示すグラフである。
【符号の説明】
【0055】
1 水素製造装置
2 ブンゼン反応装置
3 ヨウ化水素濃縮分解装置
4 硫酸濃縮分解装置
14 硫酸精製濃縮器(硫酸濃縮器)
15 硫酸分解器(硫酸分解部)
17 三酸化硫黄分解器(三酸化硫黄分解部)
25 一体型硫酸分解器(分解器)
29 分解ガス返送配管(配管)
39 鞘管(分解容器)
19b ガス配管(保温手段)
41 挿入管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨウ素、二酸化硫黄および水から硫酸水溶液およびヨウ化水素水溶液を生成するブンゼン反応装置と、
前記ブンゼン反応装置によって得られたヨウ化水素水溶液を濃縮した後にヨウ化水素を分解し、製品としての水素と前記ブンゼン反応装置へ供給するヨウ素とを得るヨウ化水素濃縮分解装置と、
前記ブンゼン反応装置によって得られた硫酸水溶液を分解して三酸化硫黄を得る硫酸分解部と前記三酸化硫黄を分解して二酸化硫黄を得る三酸化硫黄分解部とを内部に直列に配置し、前記三酸化硫黄を分解して得られた分解ガスが流れる挿入管が前記硫酸分解部および前記三酸化硫黄分解部を貫通して配置された分解容器を備えた硫酸濃縮分解装置と、
が設けられたことを特徴とする水素製造装置。
【請求項2】
前記分解ガスと前記三酸化硫黄および前記硫酸水溶液との間で再生熱交換が行われることを特徴とする請求項1記載の水素製造装置。
【請求項3】
前記硫酸濃縮分解装置には、前記ブンゼン反応装置によって得られた硫酸水溶液を濃縮する硫酸濃縮器が設けられ、
前記分解ガスは、前記硫酸濃縮器内の前記硫酸水溶液中に導かれることを特徴とする請求項1または2に記載の水素製造装置。
【請求項4】
前記分解ガスを前記分解容器から前記硫酸濃縮器まで導く配管には保温手段が設けられ、
該保温手段は、前記配管の温度を、前記分解ガスに含まれるガス成分の結露温度より高く保つことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の水素製造装置。
【請求項5】
ヨウ素、二酸化硫黄および水から硫酸水溶液およびヨウ化水素水溶液を生成するブンゼン反応工程と、
前記ブンゼン反応装置によって得られたヨウ化水素水溶液を濃縮した後にヨウ化水素を分解し、製品としての水素と前記ブンゼン反応装置へ供給するヨウ素とを得るヨウ化水素濃縮分解工程と、
前記ブンゼン反応装置によって得られた硫酸水溶液を濃縮した後に硫酸を分解し、酸素と前記ブンゼン反応装置へ供給する二酸化硫黄とを得る硫酸濃縮分解工程と、を備え、
前記硫酸濃縮分解工程には、前記硫酸水溶液を分解して三酸化硫黄を得る硫酸分解工程と前記三酸化硫黄を分解して二酸化硫黄を得る三酸化硫黄分解工程とが設けられた、水素製造方法において、
前記三酸化硫黄分解工程において前記三酸化硫黄を分解して得られた分解ガスと、前記三酸化硫黄分解工程における前記三酸化硫黄および前記硫酸分解工程における前記硫酸水溶液との間で再生熱交換が行われることを特徴とする水素製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−208005(P2008−208005A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−47577(P2007−47577)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)