説明

水素資化性メタン菌のメタン生成活性制御方法

【課題】水素資化性メタン菌自体のメタン生成活性を高める。水素資化性メタン菌の生育を促進させる。
【解決手段】内在するあるいは添加される化学成分によって環境中に形成され得る水素資化性メタン菌が生育可能な酸化還元電位を基準電位とし、水素資化性メタン菌を含む環境に電極を接触させ、環境の酸化還元電位を銀・塩化銀電極電位基準で−0.8Vを含んで−0.8Vよりもマイナス側に大きくなるように制御し、水素資化性メタン菌のメタン生成活性を基準電位における水素資化性メタン菌のメタン生成活性よりも高めるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素資化性メタン菌のメタン生成活性を制御する方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、水素(H)と二酸化炭素(CO)からメタン(CH)を生成する微生物である水素資化性メタン菌のメタン生成活性を制御するのに好適な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、資源循環型社会の構築に向けて、生物の機能を活用した高効率な物質変換技術が脚光を浴び始めており、各種研究が進められつつある。このような代表的な技術として、生ゴミ等の有機性廃棄物をメタン発酵処理する技術が知られている。メタン発酵処理とは、有機性廃棄物を発酵液に投入し、嫌気性条件下で発酵処理して有機性廃棄物をメタンガスを含むバイオガスに変換する方法である。メタン発酵処理は、有機性廃棄物を大幅に減容できることから、近年の埋め立て処分地の逼迫の問題を解決することができ、しかもメタンガスをエネルギーとして回収できる極めて有益性の高い技術である。
【0003】
ところで、メタン発酵処理に用いられる発酵液には、メタン生成を担うメタン細菌として、水素資化性メタン菌が含まれていることが知られている。水素資化性メタン菌は、水素(H)と二酸化炭素(CO)からメタン(CH)を生成する過程でエネルギーを獲得して生育する呼吸様式を持つメタン細菌であり、メタン発酵過程の最終段階で最終生成物たるメタンを生成する重要な役割を担っている。
【0004】
また、水素資化性メタン菌は、水素(H)と二酸化炭素(CO)からメタン(CH)を生成することができる機能を利用して、地球温暖化ガスである二酸化炭素をメタンガスというエネルギー資源に変換するために利用することもできる。例えば、特許文献1では、排気中の二酸化炭素を水またはアルカリ溶液に溶解し、得られた二酸化炭素溶液中の溶存酸素を低濃度化した後、これを基質として水素資化性メタン発酵を行うことにより、排気中の二酸化炭素を回収して削減するとともに、これを燃料源として有益なメタンに変換することによって、地球環境を保護しながらエネルギー資源として有効なメタンを回収するようにしている。
【0005】
このように、水素資化性メタン菌は極めて優れた機能を持ち、産業上極めて有用な微生物であると考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−321857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
水素資化性メタン菌によるメタン生成を効率よく実施するためには、水素資化性メタン菌を効率よく生育する手法と、水素資化性メタン菌自体のメタン生成活性を高める手法を確立することが重要となる。しかしながら、現在に至るまで、これらの手法は確立されるには至っていない。
【0008】
即ち、水素資化性メタン菌を生育させるためには、培養液にシステインや硫化ナトリウムといった還元剤を添加する等といった化学的調整によって、酸化還元電位を低く調整する必要があるが、このような方法では、水素資化性メタン菌の生育速度を十分に速くはできず、水素資化性メタン菌を効率よく生育できるとは言い難かった。
【0009】
また、水素資化性メタン菌自体のメタン生成活性を高める手法については、現在に至るまで、全く明らかにされていない。
【0010】
ところで、水素資化性メタン菌が生成するメタンガスは、二酸化炭素の20倍程度の地球温暖化効果のあるガスとして知られている。水素資化性メタン菌は、地球上に広く生息しており、例えば僻地においては、メタンガスをエネルギー資源として回収してもメタンガスの輸送コストがかかるので、むしろメタンガスを回収せずに温暖化ガスとしてのメタンガスの発生を抑えたいという要請もある。また、将来的にメタンガスの供給量が過剰となった場合にも、メタンガスを回収せずに温暖化ガスとしてのメタンガスの発生を抑える要請が生じ得ることも考えられる。このような観点から、水素資化性メタン菌のメタン生成活性を高める手法のみならず、水素資化性メタン菌のメタン生成活性を低下させる手法をも確立しておく必要がある。
【0011】
そこで、本発明は、水素資化性メタン菌自体のメタン生成活性を高めることができ、水素資化性メタン菌の生育も促進させることのできる手法を提供することを目的とする。
【0012】
また、本発明は、水素資化性メタン菌自体のメタン生成活性を低下させることができる手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる課題を解決するため、本願発明者は、水素資化性メタン菌を定常期の生育段階の菌体密度で含む培養液について種々検討を行った。即ち、水素資化性メタン菌を定常期の生育段階の菌体密度で含む場合には、これ以上の菌体密度の増加は起こり得ないことから、この状況でメタン生成活性の向上効果、低下効果が確認されれば、この効果は、水素資化性メタン菌自体のメタン生成活性の向上ないしは低下によって奏される効果であると言える。その結果、培養液に電極を接触させて、この電極に電位を印加することにより培養液の酸化還元電位をある範囲に制御することによって、水素資化性メタン菌のメタン生成活性を高めたり低下させたりする制御が可能であることを知見した。
【0014】
さらに、本願発明者は鋭意検討を行い、水素資化性メタン菌を対数増殖期前の生育段階の菌体密度で含む培養液に電極を接触させて、この電極に電位を印加することにより培養液の酸化還元電位を水素資化性メタン菌のメタン生成活性を高めることのできる電位に制御することで、水素資化性メタン菌の生育を促進できることも知見した。
【0015】
本願発明者は、これらの知見に基づき、内在するあるいは添加される化学成分によって環境中に形成され得る水素資化性メタン菌が生育可能な酸化還元電位を基準電位として、水素資化性メタン菌を含む環境に電極を接触させ、電極に電位を印加して環境の酸化還元電位を銀・塩化銀電極電位基準で−0.8Vを含んで−0.8Vよりもマイナス側に大きくなるように制御することで、水素資化性メタン菌のメタン生成活性を基準電位における水素資化性メタン菌のメタン生成活性よりも高めることができ、電極に電位を印加して環境の酸化還元電位を基準電位よりもプラス側に大きくなるように制御することで、水素資化性メタン菌のメタン生成活性を基準電位における水素資化性メタン菌のメタン生成活性よりも低下させることができることが導かれることを知見するに至り、本願発明を完成するに至った。
【0016】
即ち、本発明の水素資化性メタン菌のメタン生成活性制御方法は、内在するあるいは添加される化学成分によって環境中に形成され得る水素資化性メタン菌が生育可能な酸化還元電位を基準電位とし、水素資化性メタン菌を含む環境に電極を接触させ、電極に電位を印加して環境の酸化還元電位を銀・塩化銀電極電位基準で−0.8Vを含んで−0.8Vよりもマイナス側に大きくなるように制御することで、水素資化性メタン菌のメタン生成活性を基準電位における水素資化性メタン菌のメタン生成活性よりも高めるようにしている。尚、環境の酸化還元電位は銀・塩化銀電極電位基準で−0.8Vとすることが好ましい。また、電極を接触させる環境が基準電位を有していることが好ましい。
【0017】
次に、本発明の水素資化性メタン菌のメタン生成活性制御方法は、内在するあるいは添加される化学成分によって環境中に形成され得る水素資化性メタン菌が生育可能な酸化還元電位を基準電位とし、水素資化性メタン菌を含むと共に基準電位を有する環境に電極を接触させ、電極に電位を印加して環境の酸化還元電位を基準電位よりもプラス側に大きくなるように制御することで、水素資化性メタン菌のメタン生成活性を基準電位における水素資化性メタン菌のメタン生成活性よりも低下させるようにしている。尚、この場合の環境の酸化還元電位は、具体的には銀・塩化銀電極電位基準で−0.2Vを含んで−0.2Vよりもプラス側に大きな電位とすることが好ましい。
【0018】
ここで、本発明の水素資化性メタン菌のメタン生成活性制御方法においては、水素資化性メタン菌が定常期の生育段階に相当する菌体密度で環境に含まれていることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、水素資化性メタン菌のメタン生成活性を基準電位における水素資化性メタン菌のメタン生成活性よりも高める制御を行うことができるので、環境中に存在している水素資化性メタン菌群のそれぞれの菌体のメタン生成活性を高めて、環境全体としてのメタン生成活性を大きく向上させることが可能となる。また、環境中に存在している水素資化性メタン菌の菌体密度が、定常期の生育段階における菌体密度よりも小さい場合には、その生育速度を基準電位における生育速度よりも促進することも可能となる。
【0020】
また、本発明によれば、水素資化性メタン菌のメタン生成活性を基準電位における水素資化性メタン菌のメタン生成活性よりも低下させる制御を行うことができるので、環境中に存在している水素資化性メタン菌群のそれぞれの菌体のメタン生成活性を低下させて、環境全体としてのメタン生成活性を大きく低下させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例1における各種設定電位でのメタン生成量の経時変化を示す図である。
【図2】実施例2における各種設定電位での培養液の菌数を示す図である。
【図3】実施例2における各種設定電位でのメタン生成量を示す図である。
【図4】実施例において使用した実験装置の構成を示す図である。
【図5】第一の実施形態Aにかかる活性制御装置の一例を示す断面図である。
【図6】第一の実施形態Bにかかる活性制御装置の一例を示す断面図である。
【図7】第一の実施形態Cにかかる活性制御装置の一例を示す断面図である。
【図8】第一の実施形態Dにかかる活性制御装置の一例を示す断面図である。
【図9】第二の実施形態にかかる活性制御装置の一例を示す断面図である。
【図10】活性制御装置の他の形態の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0023】
本発明の水素資化性メタン菌のメタン生成活性制御方法は、内在するあるいは添加される化学成分によって環境中に形成され得る水素資化性メタン菌が生育可能な酸化還元電位を基準電位とし、水素資化性メタン菌を含む環境に電極を接触させ、電極に電位を印加して環境の酸化還元電位を銀・塩化銀電極電位基準で−0.8Vを含んで−0.8Vよりもマイナス側に大きくなるように制御することで、水素資化性メタン菌のメタン生成活性を基準電位における水素資化性メタン菌のメタン生成活性よりも高めるようにしている。
【0024】
また、本発明の水素資化性メタン菌のメタン生成活性制御方法は、内在するあるいは添加される化学成分によって環境中に形成され得る水素資化性メタン菌が生育可能な酸化還元電位を基準電位とし、水素資化性メタン菌を含むと共に基準電位を有する環境に電極を接触させ、電極に電位を印加して環境の酸化還元電位を基準電位よりもプラス側に大きくなるように制御することで、水素資化性メタン菌のメタン生成活性を基準電位における水素資化性メタン菌のメタン生成活性よりも低下させるようにしている。
【0025】
つまり、本発明では、内在するあるいは添加される化学成分によって環境中に形成され得る水素資化性メタン菌が生育可能な酸化還元電位を基準電位とし、水素資化性メタン菌を含む環境に接触させた電極によって、環境の酸化還元電位を銀・塩化銀電極電位基準で−0.8Vを含んで−0.8Vよりもマイナス側に大きくなるように制御することで、水素資化性メタン菌のメタン生成活性を基準電位における水素資化性メタン菌のメタン生成活性よりも高め、水素資化性メタン菌を含む環境の酸化還元電位を基準電位よりもプラス側に大きな電位に電気的に制御することで、水素資化性メタン菌のメタン生成活性を基準電位における水素資化性メタン菌のメタン生成活性よりも低めるようにしている。
【0026】
このように、水素資化性メタン菌の菌体自体のメタン生成活性を高めたり低下させたりする制御ができることを報告した例は今までになく、本出願において初めて明らかにされたことである。尚、メタン生成活性とは、水素(H)と二酸化炭素(CO)からメタン(CH)を生成する能力を意味しており、メタン生成活性が高まれば水素(H)と二酸化炭素(CO)からメタン(CH)を生成する速度が向上し、メタン生成活性が低下すれば水素(H)と二酸化炭素(CO)からメタン(CH)を生成する速度が低下する。
【0027】
以下、本発明の方法の詳細について、具体的に説明する。
【0028】
本発明における「基準電位」とは、内在するあるいは添加される化学成分によって環境中に形成され得る水素資化性メタン菌が生育可能な酸化還元電位である。水素資化性メタン菌は嫌気呼吸を行う微生物であることから、低酸化還元電位環境、例えばΔE’=−0.33Vよりもマイナス側に大きな酸化還元電位環境でなければ生育しないと言われている。自然界において水素資化性メタン菌が生育している環境においては、環境中に内在する化学成分によって、水素資化性メタン菌が生育可能な低い酸化還元電位が形成されている。また、水素資化性メタン菌を含むメタン発酵液についても、水素資化性メタン菌が生育可能な低い酸化還元電位が形成されている。水素資化性メタン菌が生育し得ない環境(培養液等の培地を含む)で水素資化性メタン菌を生育させる際には、内在する化学成分のコントロールや化学成分の添加によって、水素資化性メタン菌を生育可能な酸化還元電位に制御する。例えば、水素のバブリング、窒素等の不活性ガスのバブリング、システインや硫化ナトリウム等の還元剤の添加によって、水素資化性メタン菌を生育可能な酸化還元電位に制御することができる。
【0029】
つまり、内在するあるいは添加される化学成分によって環境中に形成され得る水素資化性メタン菌が生育可能な酸化還元電位とは、環境に内在している化学成分によって既に水素資化性メタン菌が生育可能な酸化還元電位に制御されている環境の酸化還元電位、環境に内在している化学成分だけでは水素資化性メタン菌が生育し得ず化学成分の添加によって水素資化性メタン菌が生育可能な酸化還元電位に制御されている環境の酸化還元電位を意味している。
【0030】
本発明では、内在するあるいは添加される化学成分によって環境中に形成され得る水素資化性メタン菌が生育可能な酸化還元電位を基準電位とし、基準電位における水素資化性メタン菌のメタン生成活性を基準として、水素資化性メタン菌を含む環境の酸化還元電位を電気的に制御することにより、水素資化性メタン菌のメタン生成活性を高めたり、低めたりする制御を行う。
【0031】
メタン生成活性を高める場合の本発明の方法においては、水素資化性メタン菌を含む環境の酸化還元電位は限定されない。即ち、水素資化性メタン菌が生育し得ない酸化還元電位を有する環境であっても、本発明の方法により、メタン生成活性を高めることができ、さらにはその生育を促進することができる。
【0032】
メタン生成活性を低下させる場合の本発明の方法においては、水素資化性メタン菌を含む環境の酸化還元電位は、水素資化性メタン菌が生育可能な酸化還元電位に限定される。即ち、水素資化性メタン菌が生育し得ない酸化還元電位を有する環境においては、水素資化性メタン菌が生息し得ないので、メタン生成活性を低下させる場合の本発明の方法を適用する意義は無い。しかしながら、水素資化性メタン菌が生育可能な酸化還元電位を有する環境においては、本発明の方法により、容易に水素資化性メタン菌のメタン生成活性を低下させることができる。
【0033】
尚、本発明における「環境」とは、水素資化性メタン菌が生息しているまたは生息し得る土壌や地下水、汚泥、メタン発酵液は勿論のこと、培養液等の培地等も含まれる。尚、「環境」は、水分を多く含むものとすることが好適である。この場合、電極による環境の酸化還元電位の制御性を向上させ易くなり、本発明の効果が得られ易くなる。また、環境には、必要に応じて水素資化性メタン菌の栄養源等の添加剤を添加するようにしてもよい。
【0034】
本発明の方法を適用し得る水素資化性メタン菌は、特に限定されるものではなく、水素(H)と二酸化炭素(CO)からメタン(CH)を生成する呼吸様式を持つあらゆる水素資化性メタン菌に対して適用可能である。例えば、Methanothermobacter thermautotrophicusが挙げられるがこれに限定されるものではない。尚、水素資化性メタン菌がメタンを生成するためには、水素(H)と二酸化炭素(CO)が必要であることから、環境中にこれらのガスが存在しない場合、または不足している場合には、適宜供給する必要がある。尚、水素(H)と二酸化炭素(CO)の供給割合は、モル比で4:1程度とすることが好適である。
【0035】
メタン生成活性を高める場合の本発明の方法においては、電極に電位を印加して環境の酸化還元電位を銀・塩化銀電極電位基準で−0.8Vを含んで−0.8Vよりもマイナス側に大きくなるように制御することで、水素資化性メタン菌のメタン生成活性を基準電位における水素資化性メタン菌のメタン生成活性よりも高めるようにしている。ここで、電極の電位をマイナス側に大きくし過ぎると、水の電気分解が激しく生じて目的外の反応に投入した電気エネルギーが消費されてしまう。また、−0.8Vでも十分なメタン生成活性の向上効果が得られる。したがって、環境の酸化還元電位は、−0.8V〜−1.4Vとすることがより好適であり、−0.8Vとするのがさらに好適である。
【0036】
メタン生成活性を低下させる場合の本発明の方法においては、電極に電位を印加して環境の酸化還元電位を基準電位よりもプラス側に大きくなるように制御することで、水素資化性メタン菌のメタン生成活性を基準電位における水素資化性メタン菌のメタン生成活性よりも高めるようにしている。環境の酸化還元電位は、具体的には銀・塩化銀電極電位基準で−0.45Vよりもプラス側に大きな電位((環境の酸化還元電位)>−0.45V)とすればよいが、−0.2Vを含んでプラス側に大きな電位とするのが好適である。但し、電極の電位をプラス側に大きくし過ぎると、投入した電気エネルギーが無駄となるので、−0.2V〜+0.2Vとすることがより好適である。
【0037】
メタン生成活性を高める場合の本発明の方法によれば、環境中の水素資化性メタン菌の生育速度を基準電位における生育速度よりも高めて、より効率よく水素資化性メタン菌を増殖させて、メタン生成に供することができる。しかも、水素資化性メタン菌のメタン生成活性を基準電位における水素資化性メタン菌のメタン生成活性よりも高めることができ、その効果は、水素資化性メタン菌が定常期の生育段階に相当する菌体密度で環境中に含まれていても得られる。したがって、水素資化性メタン菌が極めて高密度に含まれている環境中においても、水素資化性メタン菌のメタン生成活性を高めて、環境全体としてのメタン生成能を極めて優れたものとすることができる。
【0038】
また、メタン生成活性を低下させる場合の本発明の方法によれば、水素資化性メタン菌のメタン生成活性を基準電位における水素資化性メタン菌のメタン生成活性よりも低下させることができ、その効果は、水素資化性メタン菌が定常期の生育段階に相当する菌体密度で環境中に含まれていても得られる。したがって、水素資化性メタン菌が定常期の生育段階に相当する菌体密度で含まれている環境に対して本発明を適用することで、水素資化性メタン菌のメタン生成活性を低下させて、環境全体としてのメタン生成能を大幅に低下させ、場合によっては水素資化性メタン菌を死滅させることもできる。この方法を利用することで、温暖化ガスとしてのメタンガスの発生を抑えたいという要請に応えることが可能となる。例えば、水系環境に電極を接触させて本発明の方法を実施すれば、水素資化性メタン菌のメタン生成活性を低下させて、環境全体としてのメタン生成能を大幅に低下させることができるし、水系環境でない環境であっても、酸化還元電位を制御可能な程度に水を含ませてから電極を接触させて本発明の方法を実施すれば、水素資化性メタン菌のメタン生成活性を低下させて、環境全体としてのメタン生成能を大幅に低下させ得る。
【0039】
以下に、メタン生成活性を高める場合の本発明の方法の実施形態の一例について、環境を培養液とした場合の第一の実施形態を図5〜図8に基づいて説明し、第二の実施形態を図9に基づいて説明する。
【0040】
<第一の実施形態>
第一の実施形態にかかる本発明の方法は、作用電極と対電極と参照電極とを定電位設定装置に結線し、培養液と電解液とをイオン交換膜を介して接触させ、培養液に作用電極と参照電極を接触させ、電解液に対電極を接触させ、作用電極の電位を3電極方式で制御することにより、培養液の酸化還元電位を基準電位よりもマイナス側に大きくなるように制御するようにしている。
【0041】
第一の実施形態にかかる本発明の方法は、例えば図5〜図8に示す活性制御装置1により実施される。即ち、図5〜図8に示す活性制御装置1は、イオン交換膜6によって仕切られた二つの槽のうちの一方の槽を活性制御槽7とし、他方の槽を対電極槽8とし、活性制御槽7には水素資化性メタン菌を含む培養液4が収容されると共に作用電極9と参照電極11が浸され、対電極槽8には電解液4aが収容されると共に対電極10が浸され、作用電極9と対電極10は定電位設定装置12に結線され、作用電極9の電位を3電極方式で制御することにより、培養液4の酸化還元電位を基準電位よりもマイナス側に大きくなるように制御するようにしている。
【0042】
このように、3電極方式で作用電極9の電位を制御することで、作用電極9の電位を厳密に設定電位に制御することができる。詳細には、定電位設定装置(ポテンシオスタット)12により、作用電極9と参照電極11との間の電位差を測定し、この電位差が設定電位に達するように作用電極9と対電極10との間に電流を流し、基準となる参照電極11には一切電流が流れないようにしている。尚、3電極方式による電位制御については、例えば、電気化学測定法(上)、技報動出版株式会社、第1版15刷、2004年6月発行の6〜9ページにその詳細が記載されている。但し、作用電極9と対電極10の極間電圧のみで作用電極9の電位を制御できる場合には、3電極方式とせずともよい。
【0043】
また、図5〜図8に示す活性制御装置1では、活性制御槽7内の培養液4の液面よりも上部の空間(ヘッドスペース)に滞留するメタンガスを含むバイオガスを活性制御槽7の外(活性制御装置1の外)へ導くガス排出管15aを備え、このガス排出管15aをバルブ15bにより開閉可能としたガス回収手段15により、活性制御槽7内のバイオガスを回収するようにしている。但し、バイオガスの回収方法は、この方法には限定されない。例えば、ガス回収手段15を備えることなく、活性制御槽7の上部に開口部を設けて合成ゴム等(例えばシリコーンゴム)の弾性材料でこの開口部を塞ぎ、開口部を塞ぐ弾性材料に注射器の注射針を刺してヘッドスペースからバイオガスを回収するようにしてもよい。合成ゴム等の弾性材料は、注射針を引き抜くと孔が塞がる。したがって、バイオガスの回収を行わないときには、注射針を引き抜いておいても、活性制御槽7からバイオガスが漏れ出すことがない。
【0044】
さらに、図5〜図8に示す活性制御装置1では、活性制御槽7内の培養液4の液面よりも下部に、活性制御槽7内の培養液4を活性制御槽7の外に導く培養液排出管16aを備え、この培養液排出管16aをバルブ16bにより開閉可能とした培養液採取手段16により、活性制御槽7内から培養液4を採取するようにしている。但し、培養液4の採取方法は、この方法に限定されるものではない。例えば、培養液採取手段16を備えることなく、活性制御槽7に開口部を設けて合成ゴム等の弾性材料で塞ぎ、注射器の注射針を刺して培養液4を採取するようにしてもよい。または両端が開口された管の一端の注射器に接続し、他端を培養液4に浸けて、管を介して培養液4を採取するようにしてもよい。これらの場合にも、活性制御槽7からバイオガスが漏れ出すことはない。
【0045】
また、ガス回収手段15や培養液採取手段16とは別に、培養液4に物質を添加・供給する手段を設けるようにしてもよい。具体的には、活性制御槽7の外部から培養液4に物質を添加・供給することのできる開閉可能な物質導入管を備えるようにしてもよい。この場合には、培養液4に栄養源、中和剤等の物質を必要に応じて添加することができる。また、環境を嫌気性に維持するためにガスを供給することもできるし、水素資化性メタン菌に必要な二酸化炭素と水素を供給することもできる。但し、培養液4に物質を添加・供給する手段は必ずしも備える必要はなく、ガス回収手段15や培養液採取手段16を培養液4に物質を添加・供給する手段として併用するようにしてもよい。また、上記のように注射器の注射針を弾性材料に差し込んで培養液4に物質を添加・供給するようにしてもよい。
【0046】
以下、図5に示す活性制御装置を用いた場合を第一の実施形態Aとして説明し、図6に示す活性制御装置を用いた場合を第一の実施形態Bとして説明し、図7に示す活性制御装置を用いた場合を第一の実施形態Cとして説明し、図8に示す活性制御装置を用いた場合を第一の実施形態Dとして説明する。
【0047】
(第一の実施形態A)
図5に示す活性制御装置1は、密閉構造の容器20を活性制御槽7とし、容器20に収容可能な密閉構造の小容器21を対電極槽8とし、小容器21は少なくとも一部にイオン交換膜6を備えると共にガス(対電極10から発生するガス)を容器20の外に排出するガス排出管22を備えるものとしている。尚、図5に示す活性制御装置1では、対電極10と定電位設定装置12を結線する配線は、ガス排出管22の中を通過させているが、必ずしもこの構成には限定されず、配線をガス排出管22を通さずに定電位設定装置12と結線するようにしてもよい。
【0048】
したがって、図5に示す活性制御装置1によれば、活性制御槽7からバイオガスが漏洩することがない。また、対電極槽8から発生するガスが活性制御槽7に漏れ出すことがないので、バイオガスに対電極槽8から発生したガスが混入してバイオガスのメタン濃度を低下させたり、対電極槽8から発生したガスが培養液4に溶け込んで水素資化性メタン菌の生育や機能に悪影響を及ぼすこともない。さらに、活性制御槽7を密閉構造としているので、活性制御槽7を嫌気環境に制御し易い利点もある。また、対電極槽8から発生するガスを所望の位置から排出させることができるので、これを回収し、場合によっては再利用することが可能となる。
【0049】
また、容器20に小容器21を収容することで、容器20に収容されている培養液4に小容器21が浸され、小容器21の少なくとも一部に備えられているイオン交換膜6は培養液4と接触する。換言すれば、培養液4はイオン交換膜6を介して電解液4aと接触する。
【0050】
活性制御槽7としての密閉構造の容器20は、対電極槽8としての密閉構造の小容器21を収容可能な大きさの容器であり、形状は特に限定されない。容器の材質としては、例えば、ガラス、プラスチック、絶縁処理を施した金属、コンクリート等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。また、ガス不透過性の膜材をヒートシール等により袋状に形成した容器を活性制御槽7として用いるようにしてもよい。
【0051】
対電極槽8としての密閉構造の小容器21は、活性制御槽7としての容器20に収容可能な大きさの容器であり、少なくとも一部にイオン交換膜6を備えるものとしている。ここで、小容器21はその全体をイオン交換膜6で形成した袋状の容器としてもよいが、袋状の容器の片面だけをイオン交換膜6で構成したり、一つの面のさらに一部分をイオン交換膜6のみで構成するようにしてもよい。部分的にイオン交換膜6を用いる場合には、その他の部分は容器20と同様の上記材質で構成してもよいし、イオン交換膜6以外の膜材、例えばガス不透過性の膜材により構成し、小容器21からのガス(対電極槽8から発生するガス)が容器20の内部に漏洩しないようにしてもよい。
【0052】
対電極槽8に収容される電解液4aは、例えば、ナトリウムイオンやカリウムイオン等を含むものとすればよい。尚、通常、培養液4にもナトリウムイオンやカリウムイオン等が含まれていることから、電解液4aとして培養液4を用いることも可能である。
【0053】
作用電極9及び対電極10としては、例えば炭素板等の導電性材料を適宜使用することができる。対電極10では、作用電極9における酸化還元反応に対して電子の授受を補完する反応が進行する。
【0054】
活性制御槽7の温度(培養液4の温度)は、活性制御対象となる水素資化性メタン菌の生育に好適な温度に適宜制御する。例えば、Methanothermobacter thermautotrophicusのような好熱性の水素資化性メタン菌を活性制御対象とする場合には、40℃〜70℃とすることが好適であり、50℃〜60℃とすることがより好適であり、55℃とすることがさらに好適である。
【0055】
本発明では、作用電極9の電位を制御することにより、培養液4の酸化還元電位を銀・塩化銀電極電位基準で−0.8Vを含んでマイナス側に大きな値に制御する。尚、培養液4の酸化還元電位は、−0.8V〜−1.4Vに制御するのが好適であり、−0.8Vに制御するのがより好適である。
【0056】
ここで、酸化還元物質3を培養液4に添加することで、培養液4の電位の制御性を高めて、培養液4の酸化還元電位を作用電極9の電位に近づけるあるいは一致させることができる。そして、イオン交換膜6を備えることで、培養液4に含まれている酸化還元物質3の電解液4aへの透過を防ぐことができる。例えば、イオン交換膜6として、一価の陽イオンのみを透過する膜であるナフィオン膜(デュポン製)を用いることで、酸化還元物質3が鉄イオンである場合に、二価の鉄イオンや三価の鉄イオンはイオン交換膜6を透過しないことから、酸化還元物質を電解液4aに透過させることなく、培養液4中に留まらせることができる。したがって、作用電極9の電位を制御すると、それに応じて培養液4中の酸化還元物質3の酸化体と還元体の濃度比が変化し、作用電極9の電位による培養液4の電位の追随性が向上する。
【0057】
酸化還元物質3としては、培養液4に浸されている作用電極9と可逆的に酸化還元反応を生じ得る物質であり、且つ水素資化性メタン菌に対して毒性を呈しない物質を用いることができる。例えば、上記のように、土壌成分として一般的な鉄イオンが挙げられる。ここで、鉄イオンを培養液4中で安定に存在させるためには、鉄イオンをキレート剤に配位させて培養液4中に添加することが好ましい。キレート剤としては、鉄イオンを配位しうるものであれば任意のキレート剤を用いることができるが、例えばジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、テトラエチレントリアミン(TET)、エチレンジアミン(EDA)、ジエチレントリアミン(DETA)、クエン酸、シュウ酸、クラウンエーテル、ニトリロテトラ酢酸、エデト酸二ナトリウム、エデト酸ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、ペニシラミン、ペンテテートカルシウム三ナトリウム、ペンテト酸、スクシメルおよびエデト酸トリエンチンを挙げることができる。また、鉄イオン以外にも、フェロシアン化カリウム、アントラキノンジスルホン酸ナトリウムなどのキノン化合物、メチルビオロゲンを用いることができる。これらの物質も酸化還元反応により、酸化体と還元体に可逆的に変化する。特に、キノン化合物は土壌成分の一つとして知られている物質であり、好ましい。つまり、土壌そのものを培養液4に添加することで、土壌に含まれている酸化還元物質3により培養液4の酸化還元電位が制御できる場合がある。但し、酸化還元物質3は上記した物質に限定されるものではない。
【0058】
また、イオン交換膜6を設けることで、培養液4に含まれる水素資化性メタン菌を活性制御槽7に留まらせることができる。したがって、イオン交換膜6を設けることによって、酸化還元電位が制御された好適な環境である培養液4に水素資化性メタン菌を留まらせて、本発明の効果をより得やすいものとすることができる。
【0059】
尚、酸化還元物質3を添加せずとも培養液4の電位を制御できる場合があるので、酸化還元物質3は必ずしも添加せずともよい。また、イオン交換膜6を設けなくても、培養液4の電位を制御できる場合があるので、イオン交換膜6は必ずしも設けなくともよい。
【0060】
(第一の実施形態B)
【0061】
図6に示す活性制御装置1は、上方が開放されている容器23をイオン交換膜6で仕切ることにより開放された二つの槽が形成され、活性制御槽7としての一方の槽の上方開放部がガス不透過膜またはガス不透過部材24により塞がれているものとしている。つまり、図6に示す活性制御装置1は、対電極槽8から発生するガスを活性制御槽7に漏れ出さないようにする構成以外は、図5と同一の構成としている。したがって、図5に示す活性制御装置を用いた場合と同様の効果が得られる。
【0062】
ガス不透過膜またはガス不透過部材24としては、各種分野で一般に用いられているものを適宜用いることができる。例えば、ガス不透過部材としては、ガラス、プラスチック、絶縁処理を施した金属、コンクリート等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。また、ガス不透過膜としては、例えばイオン交換膜6を用いることができるがこれに限定されるものではない。
【0063】
尚、対電極槽8については、開放したままでもよいが、活性制御槽7と同様に密閉構造とし、対電極槽8において発生するガスを対電極槽8の外に排出するガス排出管を備えるようにしてもよい。この場合には、対電極槽8から発生するガスを所望の位置から排出させることができるので、これを回収し、場合によっては再利用することが可能となる。
【0064】
(第一の実施形態C)
図7に示す活性制御装置1は、収容される液体の液面よりも下部に開口部を備える二つの容器25aと25bがイオン交換膜6を介して開口部で連結されてU字型の容器25が形成され、一方の容器25aを密閉構造として活性制御槽7とし、他方の容器25bを開放して対電極槽8としている。この場合、培養液4と電解液4aがイオン交換膜6を介して接触すると共に、活性制御槽7の培養液4の液面よりも上部の空間と対電極槽8の電解液4aの液面よりも上部の空間とが容器25自体のU字型構造によって隔てて配置される。そして、一方の容器25aが密閉構造とされていることから、対電極槽8から発生するガスが活性制御槽7に侵入するのを防ぎながら、活性制御槽7から発生するバイオガスが活性制御槽7から漏洩するのを防ぐことができる。したがって、図5に示す活性制御装置を用いた場合と同様の効果が得られる。
【0065】
尚、図7に示す活性制御置1における他方の容器25bの開放とは、例えば他方の容器25bの端部を完全に開放した場合は勿論のこと、一方の容器25aと同様に密閉構造としつつ、対電極槽8において発生するガスを対電極槽8の外に排出するガス排出管を備える場合も含むことを意味している。ガス排出管を備える場合には、対電極槽8から発生するガスを所望の位置から排出させることができるので、これを回収して再利用し易くなる。
【0066】
(第一の実施形態D)
図8に示す活性制御装置1は、収容される液体の液面よりも下部に開口部を備える二つの容器26aと26bがイオン交換膜6を介して開口部で連結されてH字型の容器26が形成され、一方の容器26aを密閉構造として活性制御槽7とし、他方の容器26bを開放して対電極槽8としている。この場合にも、培養液4と電解液4aがイオン交換膜6を介して接触すると共に、活性制御槽7の培養液4の液面よりも上部の空間と対電極槽8の電解液4aの液面よりも上部の空間とが容器26自体のH字型構造によって隔てて配置される。そして、H字型容器26の一方の容器26aが密閉構造とされていることから、活性制御槽7は密閉構造となる。したがって、対電極槽8から発生するガスが活性制御槽7に侵入するのを防ぎながら、活性制御槽7から発生するバイオガスが活性制御槽7から漏洩するのを防ぐことができる。したがって、図5に示す活性制御装置を用いた場合と同様の効果が得られる。
【0067】
尚、本実施形態における他方の容器26bの開放とは、容器26を完全に開放した場合は勿論のこと、一方の容器26aと同様に密閉構造としつつ、対電極槽8において発生するガスを対電極槽8の外に排出するガス排出管を備える場合も含むことを意味している。ガス排出管を備える場合には、対電極槽8から発生するガスを所望の位置から排出させることができるので、これを回収して再利用し易くなる。
【0068】
<第二の実施形態>
第二の実施形態にかかる本発明の方法は、作用電極と対電極と参照電極とを定電位設定装置に結線し、培養液と対電極とをイオン交換膜を介して接触させ、培養液に作用電極と参照電極を接触させ、作用電極の電位を3電極方式で制御することにより、培養液の酸化還元電位を基準電位よりもマイナス側に大きくなるように制御するようにしている。つまり、第一の実施形態における方法とは、電解液を用いることなく対電極を直接イオン交換膜に接触させている点のみが異なっている。
【0069】
しかしながら、第一の実施形態のように電解液4aを用いずとも、作用電極9と対電極10との間でイオン交換膜6を介してイオン電流は流れ得る。また、培養液4中の水素資化性メタン菌を対電極10側に移動(拡散)させることなく、活性制御槽7に留める効果も得られる。さらには、培養液4中の酸化還元物質3を対電極10側に透過させない効果も得られる。したがって、第二の実施形態にかかる方法によれば、第一の実施形態と同様の電位制御条件で、同様の効果を得ることが可能である。
【0070】
第二の実施形態にかかる本発明の方法は、例えば図9に示す活性制御装置により実施される。図9に示す活性制御装置1は、イオン交換膜6を少なくとも一部に備える密閉構造の容器5内に作用電極9と参照電極11が配置され、容器5の外側に対電極10が配置され、容器5に培養液4が収容されると共に作用電極9と参照電極11が培養液4に浸され、容器4のイオン交換膜6は容器5に培養液4が収容されたときに少なくともその一部がイオン交換膜6と接触しうる位置に備えられ、イオン交換膜6の培養液4の接触面とは反対側の面の少なくとも一部に対電極10が接触して配置されているものとしている。図9に示す活性制御装置1では、容器5の培養液4の液面よりも下部に開口部5aが設けられ、開口部5aがイオン交換膜6で塞がれ、容器5の外側のイオン交換膜6の表面の少なくとも一部に対電極10が接触して配置されているものとしている。つまり、図9に示す活性制御装置1では、容器5全体が活性制御槽7として機能することとなる。
【0071】
したがって、図9に示す活性制御装置1によれば、容器5からバイオガスが漏洩することがない。また、対電極10から発生するガスが容器5内に漏れ出すことがないので、バイオガスに対電極10から発生したガスが混入してバイオガスのメタン濃度を低下させたり、対電極10から発生したガスが培養液4に溶け込んで水素資化性メタン菌の生育や機能に悪影響を及ぼすこともない。さらに、容器5を密閉構造としているので、容器5内を嫌気環境に制御し易い利点もある。
【0072】
尚、図9に示す活性制御装置1では、第一の実施形態と同様に、ガス回収手段15、培養液採取手段16を備えるようにしているが、上記の通り、ガス回収方法、培養液採取方法は、これらの手段を利用したものには限定されない。また、第一の実施形態と同様、培養液4に物質を添加・供給する手段を設けるようにしてもよい。
【0073】
以下、図9に示す活性制御装置1の詳細について説明する。但し、以下に説明する以外の構成については、第一の実施形態と実質的に同一であり、説明は省略する。
【0074】
容器5は、イオン交換膜6を少なくとも一部に備える密閉構造としている。容器5の材質としては、例えば、ガラス、プラスチック、絶縁処理を施した金属、コンクリート等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。尚、図9では、密閉構造の容器5の培養液4の液面よりも下部に設けられた開口部5aをイオン交換膜6により塞ぐようにしているが、容器5の形態や構造は特に限定されない。例えば容器5全体をイオン交換膜6で形成した袋状の容器としてもよいし、袋状の容器の片面だけをイオン交換膜6で構成してもよいし、一つの面のさらに一部分をイオン交換膜6のみで構成するようにしてもよい。部分的にイオン交換膜6を用いる場合には、その他の部分はガラス等の上記材質で構成してもよいし、イオン交換膜6以外の膜材、例えば培養液4と培養液4中の成分(水素資化性メタン菌を含む)の双方を透過させることがない膜材により構成してもよい。要は、容器5に収容される培養液4が容器5の少なくとも一部を構成するイオン交換膜6と接触しうる構造の容器とすればよい。
【0075】
対電極10は、イオン交換膜6の培養液4との接触面とは反対側の面の少なくとも一部に接触させるようにしている。本実施形態において、対電極10は板状の炭素電極としているが、対電極10の形状と材質はこれに限定されるものではなく、要は、イオン交換膜6との接触が可能な形状であり、且つ作用電極9における酸化還元反応に対して電子の授受を補完する反応を進行させることが可能な材質とすればよい。また、本実施形態では、対電極10の面積をイオン交換膜6の面積よりも大きなものとしてイオン交換膜6全体を対電極10で完全に覆うようにし、イオン交換膜6と対電極10とを接触させるようにしているが、イオン交換膜6の培養液4との接触面とは反対側の面の少なくとも一部に対電極10を接触させれば、イオン交換膜6を介して培養液4から対電極10にイオンが伝達するので、必ずしもイオン交換膜6全体を対電極10で完全に覆うようにしてイオン交換膜6と対電極10とを接触させずともよい。但し、イオン交換膜6全体を対電極10で完全に覆うことで、対電極10をイオン交換膜6の保護材としても機能させることができると共に、培養液4からのイオンの伝達面が増大する結果として、培養液4の電位制御性を高めることができる利点があり、好適である。イオン交換膜6全体を対電極10で完全に覆う方法としては、例えば、容器5の開口部5aの周囲に接着剤を塗布して対電極10を接着することにより、開口部5aを塞ぐイオン交換膜6全体と対電極10とを接触させるようにしてもよいし、容器5の開口部5aの周囲に接着剤を塗布して対電極10の表面の少なくとも一部に塗布形成されたイオン交換膜6を接着することにより、開口部5aをイオン交換膜6で塞ぎつつ、開口部5aを塞ぐイオン交換膜6全体と対電極10とを接触させるようにしてもよい。イオン交換膜6を塗布形成するための薬剤としては、例えばナフィオン分散液が挙げられるが、これに限定されるものではない。また、対電極10の表面にナフィオン分散液を塗布し、ナフィオン分散液が乾燥する前にイオン交換膜6を貼り付けるようにしてもよい。この場合には、イオン交換膜6の対電極10の表面への接着性と接触性とを十分なものとすることができる。
【0076】
ここで、対電極10は多孔質体とすることが好適である。この場合には、イオン交換膜6と対電極10との接触面で発生したガスを接触面とは反対側の面に通過させやすくなる。尚、対電極10を多孔質体とし、ナフィオン分散液を用いてイオン交換膜6を貼り付けることで、ナフィオン分散液の多孔質体の孔への侵入によりイオン交換膜6と対電極10との接触面積を増大させて電気化学反応をより進行させやすくすることができ、好適である。
【0077】
上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【0078】
例えば、上述の第一の実施形態及び第二の実施形態では、メタン生成活性を高める場合の本発明の方法について図5〜図9に基づいて説明したが、上述の実施形態がメタン生成活性を低下させる場合の本発明の方法にも適用できることは言うまでもない。
【0079】
また、本発明を実施するための活性制御装置は、例えば図10に示すように、培養液4と電解質4aをイオン交換膜6ではなく、イオンや水素資化性メタン菌を一切透過させることのない不透過部材40で隔て、あるいは活性制御槽7と対電極槽8を別の容器で形成し、塩橋41(寒天等にKCl等の飽和電解質溶液を入れたもの)を介して培養液4と電解質4aを接触(液絡)させるようにしてもよい。この場合にも、培養液4中の水素資化性メタン菌の対電極槽8への移動を防ぐことができ、しかも、塩橋41によってイオン電流の流れが許容される。また、培養液4に含まれる酸化還元物質3についても対電極槽8に透過しないので、培養液4の電位の制御性も確保される。
【実施例】
【0080】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に限られるものではない。
<実験装置及び実験方法>
図4に示す実験装置を用いて実験を行った。250mL容のガラスバイアル瓶(Duran製)を培養容器5とし、培養液4の液面より下部に開口部を3つ設けた。1つめの開口部5bには参照電極11(東亜DDK製、HS−205C、銀・塩化銀電極)を差し込んで参照電極11と培養液4とを接触させた。2つめの開口部5cは培養液4を採取するために設け、蓋の開閉により培養液4を採取可能とした。3つめの開口部5aはイオン交換膜6を介して対電極10で塞いだ。対電極10にはポーラス板状の炭素電極を用いた。イオン交換膜6にはナフィオン膜N117(デュポン製)を用い、対電極10の下半分に20%ナフィオン分散液DE2021(デュポン製)を塗布してイオン交換膜6を貼り付けて用いた。作用電極9として板状の炭素電極を培養液4に浸した。そして、作用電極9と対電極10と参照電極11とを3電極式の電位制御装置(ポテンシオスタット、東方技研、PS-08)12に結線して、作用電極9の電位を厳密に制御可能とした。尚、培養液4は培養容器5の8分目程度まで入れ、液面上部にヘッドスペースを確保した。培養容器5には蓋18をし、蓋18の上面18aに弾性材料であるシリコーンゴムを備えて、注射器の注射針を差し込んで培養容器5内のヘッドスペースからガス状物質を回収可能とし、且つ注射針の差し込みにより生じた孔が注射針を抜いた際に塞がるようにした。
【0081】
培養液4の組成は、以下の通りとした。
[培養液の組成(/L)]
・KHPO 0.3g
・(NHSO 1.5g
・NaCl 0.6g
・MgSO・7HO 0.12g
・CaCl・2HO 0.08g
・FeSO・7HO 4mg
・KHPO 0.15g
・NaCO 4.0g
・微量ビタミン 10ml
・微量元素溶液 10ml
【0082】
培養液4の微量元素溶液の組成は、以下の通りとした。
[微量元素溶液の組成(/L)]
・Na-EDTA 0.64g
・MgSO・7HO 6.2g
・MnSO・4HO 0.55g
・NaCl 1.0g
・FeSO・7HO 0.1g
・CoCl・6HO 0.17g
・ZnSO・7HO 0.18g
・CuSO 0.05g
・KAl(SO・12HO 0.018g
・HBO 0.01g
・NaMoO・2HO 0.011g
NiCl・6HO 0.025g
【0083】
培養液4の微量ビタミンの組成は、以下の通りとした。
[微量ビタミンの組成(/L)]
・ビオチン 2.0mg
・葉酸 2.0mg
・ピリドキシン−HCl 10.0mg
・チアミン−HCl 5.0mg
・リボフラビン 5.0mg
・ニコチン酸 5.0mg
・パントテン酸カルシウム 5.0mg
・ビタミンB12 0.1mg
・p−アミノ安息香酸 5.0mg
・リポ酸 5.0mg
【0084】
実験中の培養温度(培養液温度)は55℃とし、培養液4は攪拌子19で攪拌し続けた。また、培養液4には、AQDS(アントラキノン−2,6−ジスルホン酸)を0.5mMとなるように添加した。また、上部のシリコーンゴム栓に注射針を1本刺し、別の注射針を培養液採取口5Cのゴム栓部分に挿入し、そこからからH/CO=80/20(体積比)の混合ガスを通気することで培養液および培養液上部の気相を混合ガスで置換した。培養液4のpHは7.2とした。
【0085】
水素資化性メタン菌として、Methanothermobacter thermautotrophicus DSM1053を用いて実験を行った。
【0086】
<分析方法>
1.化学分析
培養容器5から排出されるバイオガス生成量を水上置換法により測定し、熱伝導率検出器(GC390B、GLサイエンス製)と活性炭充填カラム(GLサイエンス製)を備えたガスクロマトグラフィーによりバイオガスの組成を分析して、メタンガス生成量を算出した。
【0087】
2.生物学的分析
培養液4中の菌体密度を顕微鏡Nikon ECLIPSE E400(ニコン製)、バクテリアカウンター血球計算板(サンリードガラス製)により測定した。
【0088】
(実施例1)
培養液4に水素資化性メタン菌を初期菌体密度が6.0×10cells/mLとなるように添加して実験を行った。尚、この初期菌体密度は、通常の培養法での定常期の菌体密度に相当し、以下のいずれの実験条件においても菌体密度の増加が見られないことが確認されている。
【0089】
作用電極9の設定電位を参照電極11(銀・塩化銀電極)に対して+0.2V、−0.2V、−0.5V、−0.8Vに制御することにより、培養液4の酸化還元電位をそれぞれ+0.2V、−0.2V、−0.5V、−0.8Vに電気的に制御した条件での培養試験を実施した。
【0090】
また、比較試験として、通電を行なわずに培養液4にL−システイン・HCl・HO、NaS・9HOをそれぞれ終濃度0.5g/Lになるように添加して、培養液4の酸化還元電位を化学的に−0.45Vに調整した条件での培養試験を実施した。この条件は、添加される化学成分によって環境中に形成され得る水素資化性メタン菌が生育可能な酸化還元電位、即ち基準電位に該当する条件である。
【0091】
各種条件での培養試験におけるメタン生成量の経時変化を測定した結果を図1に示す。−0.5Vでは比較試験との差が殆ど見られなかったが、−0.8Vでは比較試験と比べて顕著にメタン生成量が増加する傾向が見られ、近似直線の傾きから計算したメタン生成速度は比較試験よりも1.7倍向上していることが明らかとなった。これに対し、+0.2V及び−0.2Vでは比較試験と比べて顕著にメタン生成量が減少する傾向が見られた。
【0092】
ここで、実施例1では、いずれの実験条件においても菌体密度の増加が見られないことが確認されていることから、メタン生成量の増減は、水素資化性メタン菌1個体のメタン生成活性の増減によってもたらされたものであると推定された。
【0093】
つまり、実施例1における培養試験結果から、水素資化性メタン菌の菌体自体のメタン生成活性を、培養液4の酸化還元電位の電気的な制御によってコントロールできることが明らかとなった。
【0094】
また、実施例1における培養試験結果から、培養液4の酸化還元電位を−0.8Vよりもマイナス側に大きな値に制御することで、−0.8Vに制御した場合と近似した効果が得られるものと推定された。さらに、+0.2V及び−0.2Vでは比較試験と比べて顕著にメタン生成量が減少する傾向が見られたことから、培養液4の酸化還元電位を基準電位よりもプラス側に大きな値に制御すれば、メタン生成活性を低下させることができ、−0.2Vよりもプラス側に大きな値に制御すれば、メタン生成活性を確実に低下させることができ、−0.2V〜+0.2Vに制御すれば、メタン生成活性をより確実に低下させることができるものと推定された。
【0095】
(実施例2)
培養液4に水素資化性メタン菌を初期菌体密度が1.5×10cells/mLとなるように添加して実験を行い、水素資化性メタン菌の生育に対する酸化還元電位の電気的な制御による影響について検討した。
【0096】
作用電極9の設定電位を参照電極11(銀・塩化銀電極)に対して+0.4V、−0.1V、−0.4V、−0.8Vに制御することにより、培養液4の酸化還元電位をそれぞれ+0.4V、−0.1V、−0.4V、−0.8Vに電気的に制御した条件での培養試験を実施した。
【0097】
また、実施例1と同様の条件で比較試験を実施した。
【0098】
各種条件で一週間培養を行った後の培養液4の菌体密度を図2に示す。尚、図2における縦軸の数値は、比較試験における菌体密度を1とした場合の相対値である。−0.8Vでは比較試験と比べて顕著に菌体密度が増加することが明らかとなった。
【0099】
次に、各種条件で一週間培養を行った際のメタン生成量を図3に示す。尚、図3における縦軸の数値は、比較試験におけるメタン生成量を1とした場合の相対値である。また、図3におけるメタン生成量は、菌体当たりのメタン生成量に換算した値である。−0.8Vでは比較試験と比べて顕著にメタン生成量が増加することが明らかとなった。
【0100】
ここで、実施例1では、−0.8Vとすることで水素資化性メタン菌の菌体自体のメタン生成活性を向上できることが明らかになったことから、実施例2において得られた結果は、−0.8Vとすることで水素資化性メタン菌の菌体自体のメタン生成活性(呼吸活性)が向上した結果として、生育が促進されたものと推定された。
【符号の説明】
【0101】
4 培養液(環境)
9 電極(作用電極)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内在するあるいは添加される化学成分によって環境中に形成され得る水素資化性メタン菌が生育可能な酸化還元電位を基準電位とし、
前記水素資化性メタン菌を含む環境に電極を接触させ、前記電極に電位を印加して前記環境の酸化還元電位を銀・塩化銀電極電位基準で−0.8Vを含んで−0.8Vよりもマイナス側に大きくなるように制御し、前記水素資化性メタン菌のメタン生成活性を前記基準電位における前記水素資化性メタン菌のメタン生成活性よりも高めることを特徴とする水素資化性メタン菌のメタン生成活性制御方法。
【請求項2】
前記電極を接触させる前記環境が前記基準電位を有している請求項1に記載の水素資化性メタン菌のメタン生成活性制御方法。
【請求項3】
内在するあるいは添加される化学成分によって環境中に形成され得る水素資化性メタン菌が生育可能な酸化還元電位を基準電位とし、
前記水素資化性メタン菌を含むと共に前記基準電位を有する環境に電極を接触させ、前記電極に電位を印加して前記環境の酸化還元電位を前記基準電位よりもプラス側に大きくなるように制御し、前記水素資化性メタン菌のメタン生成活性を前記基準電位における前記水素資化性メタン菌のメタン生成活性よりも低下させることを特徴とする水素資化性メタン菌のメタン生成活性制御方法。
【請求項4】
前記水素資化性メタン菌が定常期の生育段階に相当する菌体密度で前記環境に含まれている請求項1または3に記載の水素資化性メタン菌のメタン生成活性制御方法。
【請求項5】
前記電極により制御される前記環境の酸化還元電位が銀・塩化銀電極電位基準で−0.8Vである請求項1に記載の水素資化性メタン菌のメタン生成活性制御方法。
【請求項6】
前記電極により制御される前記環境の酸化還元電位が銀・塩化銀電極電位基準で−0.2Vを含んで−0.2Vよりもプラス側に大きな電位である請求項3に記載の水素資化性メタン菌のメタン生成活性制御方法。

【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−223895(P2011−223895A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94357(P2010−94357)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「微生物機能を活用した環境調和型製造基盤技術開発/微生物群のデザイン化による高効率型環境バイオ処理技術開発/デザイン化微生物群を用いた高効率型固定床メタン発酵の研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】