説明

水素透過試験システム

【課題】鉄筋における水素透過状態の測定を、より長時間にわたって正確に行えるようにする。
【解決手段】鉄筋101の中空構造部102の内部に配置された参照電極103と、中空構造部102内に配置された対向電極104と、中空構造部102に収容された電解質溶液105と、中空構造部102に電解質溶液105を供給する電解質溶液供給部106とを備える。鉄筋101は、例えば、水素吸蔵環境に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋における水素透過の状態を試験する水素透過試験システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄筋を配することで引っ張り強度を補強したコンクリート(鉄筋コンクリート)は、多くの建築物、建造物に用いられている。このような鉄筋コンクリートにおいては、水素の侵入による鉄筋への影響が検討されている。このような検討では、鉄筋への水素浸入挙動を知ることが重要となる。鉄筋への水素浸入の挙動を測定する技術として、水素が鋼材を透過したことにより発生する電流を測定する電気化学的水素透過試験法がある(非特許文献1参照)。電気化学的水素透過試験法では、鋼材を板状に切り出し、切り出した鋼材片の一方の面を試験環境に曝露し、他方の面を電解質に接触させ、鋼材片を電解質中に水素原子がイオン化する電位に保持し、他方の面を流れる電流を測定している。
【0003】
電気化学的水素透過試験法は、鋼材などの材料の水素透過能を評価するのに用いられて一定の効果を上げているが、現実に使用される鋼材、特に鉄筋など円柱状の形状における構造物の水素透過能について評価するには十分ではない。
【0004】
円柱状の鉄筋における水素透過能を評価するために、鉄筋の内部をくりぬいてこの中に電解質溶液を充填し、上述した他方の面と同様に、電解質中で水素原子がイオン化する電位に保持し、外部から侵入する水素により鉄筋を流れる電流を測定することが考えられる。この方法は、実際に用いられる構造体の形状とした鉄筋における水素透過を評価できる点で優れる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】原 卓也、樽井 敏三、「アルカリ環境中の水素浸入挙動」、第56回材料と環境討論会CD−ROM、A−201、2009年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した測定方法では、鉄筋中に形成した中空構造は、容積が小さく、この中に収容できる電解質溶液の量が少ない。このため、測定における電位の印加による電解質溶液の分極などが短時間で発生し、電解質溶液のpHが変化するなど性質が短時間で変化しやすいため、長時間にわたる正確な測定が困難であるという問題がある。
【0007】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、鉄筋における水素透過状態の測定を、より長時間にわたって正確に行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る水素透過試験システムは、鉄筋と、この鉄筋の中に鉄筋が筒状となるように形成された中空構造部と、この中空構造部内に配置された参照電極と、中空構造部内に配置された対向電極と、中空構造部に収容された電解質溶液と、中空構造部に電解質溶液を供給する電解質溶液供給手段とを備え、鉄筋を作用電極とし、参照電極および対向電極を用いて電解質溶液に水素イオンとして拡散する際の電流を検出することで、外部より鉄筋を透過する水素の量を測定する。
【0009】
上記水素透過試験システムにおいて、鉄筋は、電解質溶液供給手段から供給される電解質溶液を中空構造部に導入する導入口と、中空構造部に収容されている電解質溶液を排出する排出口とを備えるようにすればよい。また、電解質溶液供給手段により、電解質溶液を導入口に供給し、排出口より排出される電解質溶液を回収して循環させるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明によれば、鉄筋の中空構造部に電解質溶液を供給する電解質溶液供給手段を備えるようにしたので、鉄筋における水素透過状態の測定が、より長時間にわたって正確に行えるようになるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態1における水素透過試験システムの構成を示す構成図である。
【図2】本発明の実施の形態2における水素透過試験システムの構成を示す構成図である。
【図3】鉄筋などの鋼材からなる柱状の試験片301の構成を示す断面図である。
【図4】本発明の実施の形態における他の水素透過試験システムの構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【0013】
[実施の形態1]
はじめに、本発明の実施の形態1について説明する。図1は、本発明の実施の形態1における水素透過試験システムの構成を示す構成図である。本システムは、鉄筋101の中空構造部102の内部に配置された参照電極103と、中空構造部102内に配置された対向電極104と、中空構造部102に収容された電解質溶液105と、中空構造部102に電解質溶液105を供給する電解質溶液供給部106とを備える。鉄筋101は、例えば、水素吸蔵環境に配置されている。なお、図1では、鉄筋101については、断面を示している。
【0014】
中空構造部102は、鉄筋101の中に鉄筋101が筒状となるように形成され、電解質溶液供給部106より供給される電解質溶液が導入される導入口111と、中空構造部102内の電解質溶液105が排出される排出口112とを備える。鉄筋101は、例えば、直径9〜12mmであり、中空構造部102における鉄筋101の部分の厚さは1〜2mmとされている。また、中空構造部102は、鉄筋101が延在している方向に100〜300mm程度の長さに形成されている。
【0015】
また、参照電極103は、ルギン管107に収容されて中空構造部102内に配置され、参照電極103が電解質溶液105に直接接触しない構造としている。一方、対向電極104は、電解質溶液105に接触している。
【0016】
このシステムでは、鉄筋101を作用電極とし、例えばポテンショスタット108に、作用電極となる鉄筋101,参照電極103,および対向電極104を接続し、電解質溶液105に水素イオンとして拡散する際の電流を検出することで、外部より鉄筋101を透過する水素の量を測定する。
【0017】
中空構造部102の容積は小さいが、本システムによれば、電解質溶液供給部106により新たな電解質溶液が供給されるので、中空構造部102に収容されている電解質溶液105においては、測定における電位の印加による分極やpHが変化するなどの変化が抑制されるようになる。この結果、本システムによれば、長時間にわたる正確な測定が行えるようになる。
【0018】
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2について説明する。図2は、本発明の実施の形態2における水素透過試験システムの構成を示す構成図である。本システムは、鉄筋201の中空構造部202の内部に配置された参照電極203と、中空構造部202内に配置された対向電極204と、中空構造部202に収容された電解質溶液205とを備える。鉄筋201は、例えば、水素吸蔵環境に配置されている。
【0019】
中空構造部202は、鉄筋201の中に鉄筋201が筒状となるように形成され、電解質溶液供給部206より供給される電解質溶液が導入される導入部211と、中空構造部202内の電解質溶液205が排出される排出部212とを備える。鉄筋201は、例えば、直径9〜12mmであり、中空構造部202における鉄筋201の部分の厚さは1〜2mmとされている。また、中空構造部202は、鉄筋201が延在している方向に100〜300mm程度の長さに形成されている。
【0020】
また、本システムでは、電解質溶液251を収容する電解質槽261と、電解質槽261に収容している電解質溶液251を導入部211に供給するポンプ262とを備える。例えば、導入部211は、フレキシブルチューブおよびコネクタなどにより構成することができる。本システムでは、電解質槽261およびポンプ262により電解質溶液供給部206を構成している。
【0021】
また、参照電極203は、ルギン管207に収容されて中空構造部202内に配置され、参照電極203が電解質溶液205に直接接触しない構造としている。一方、対向電極204は、電解質溶液205に接触している。なお、図2では、鉄筋201および電解質槽261については、断面を示している。
【0022】
このシステムでは、鉄筋201を作用電極とし、例えばポテンショスタット208に、作用電極となる鉄筋201,参照電極203,および対向電極204を接続し、電解質溶液205に水素イオンとして拡散する際の電流を検出することで、外部より鉄筋201を透過する水素の量を測定する。
【0023】
本実施の形態におけるシステムでは、電解質槽261に収容されている電解質溶液251が、ポンプ262により、導入部211に供給されて中空構造部202に導入される。また、中空構造部202に収容されている電解質溶液205は、導入部211より新たな電解質溶液251が供給されることにより、排出部212より排出される。排出部212より排出される電解質溶液は、電解質槽261に回収される。このように、本システムでは、電解質溶液が、中空構造部202と電解質槽261との間で循環される。
【0024】
本システムにおいては、電解質溶液供給部206により、電解質槽261と中空構造部202との間で、電解質溶液が循環される。このため、中空構造部202の容積を拡大したことに等しい状態が得られる。このように、本実施の形態においては、中空構造部202において測定に用いられる電解質溶液の量をより増やすことができるので、中空構造部202に収容されている電解質溶液205においては、測定における電位の印加による分極やpHが変化するなどの変化が抑制されるようになる。この結果、本システムによれば、長時間にわたる正確な測定が行えるようになる。
【0025】
なお、図3の断面図に示すように、測定対象とする鉄筋などの鋼材からなる柱状の試験片301は、柱状の上端および下端にかけて貫通する中空部302を形成し、また、中央部に肉薄となる試験部分303を形成するとよい。試験部分303においては、0.3〜1.5mmの範囲で肉薄とすることで、水素透過・浸入試験を行いながら、引張り試験により変形の影響を容易に試験することができる。
【0026】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形が実施可能であることは明白である。例えば、上述では、導入口と排出口とを設けるようにしたが、これらを共通としてもよい。また、ルギン管を用いることで参照電極を設けるようにしたが、これに限るものではなく、塩橋を用いるようにしてもよい。また、参照電極を電解質溶液に接触させて用いることもできる。
【0027】
また、電気化学的な水素透過試験は、図4に示すように、円筒状の鋼材(試験片)401を、容器402の底部の固定部403に固定し、鋼材401内に内部試験溶液404を収容し、鋼材401の外側の容器402内に外部試験溶液405を収容した状態で行うようにしてもよい。この場合、内部試験溶液404に白金からなる内部対向電極406および内部参照電極407を配置し、外部試験溶液405に白金からなる外部対向電極411および外部参照電極412を配置すればよい。また、鋼材401は、両者に共通の参照電極とすればよい。このようにすることで、外部試験溶液405と鋼材401との反応により発生する水素の透過について測定を行うことができる。
【符号の説明】
【0028】
101…鉄筋、102…中空構造部、103…参照電極、104…対向電極、105…電解質溶液、106…電解質溶液供給部、107…ルギン管、108…ポテンショスタット、111…導入口、112…排出口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋と、
この鉄筋の中に前記鉄筋が筒状となるように形成された中空構造部と、
この中空構造部内に配置された参照電極と、
前記中空構造部内に配置された対向電極と、
前記中空構造部に収容された電解質溶液と、
前記中空構造部に前記電解質溶液を供給する電解質溶液供給手段と
を備え、
前記鉄筋を作用電極とし、前記参照電極および前記対向電極を用いて前記電解質溶液に水素イオンとして拡散する際の電流を検出することで、外部より前記鉄筋を透過する水素の量を測定することを特徴とする水素透過試験システム。
【請求項2】
請求項1記載の水素透過試験システムにおいて、
前記鉄筋は、
前記電解質溶液供給手段から供給される前記電解質溶液を前記中空構造部に導入する導入口と、
前記中空構造部に収容されている前記電解質溶液を排出する排出口と
を備えることを特徴とする水素透過試験システム。
【請求項3】
請求項2記載の水素透過試験システムにおいて、
前記電解質溶液供給手段は、前記電解質溶液を前記導入口に供給し、前記排出口より排出される前記電解質溶液を回収して循環させることを特徴とする水素透過試験システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−153897(P2011−153897A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−15248(P2010−15248)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)