説明

水耕栽培容器

【課題】 根部分の発育がある葉菜類の水耕栽培において、根部分が傷むことなく、しかも、栽培後における水耕栽培容器の後処理が不要であるとともに、低コストでの栽培が可能な葉菜類の水耕栽培容器の提供を目的とする。
【解決手段】 液肥Eが供給される液肥テーブル20と、上下方向に貫通する貫通孔32、42が形成され、液肥テーブル20の上方に配置される第1の天板30と、第1の天板30の上方に所要間隔をあけて配置され、第1の天板30に形成された貫通孔32と同一平面位置に貫通孔32より大径の貫通孔42が形成された第2の天板40とを有することを特徴とする水耕栽培用容器10である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水耕栽培用容器に関し、より詳細には、株状の根部分を有する葉菜類の効率的栽培に特に好適な水耕栽培用容器に関する。
【背景技術】
【0002】
葉菜類の栽培においては、市場に提供する前における袋詰め作業を容易にするためや、販売時における見た目の美しさの点から、葉菜類は根部分から上方に伸びる枝部分が徐々に拡大し、全体として略V字状の形状となっていることが好ましく、葉菜類の栽培においては、略V字状となるような栽培方法が各種提案されている。
【0003】
葉菜類を略V字状に栽培する方法として、例えば特許文献1に記載されているような葉菜類の水耕栽培方法が提案されている。
具体的には、逆円錐形のガイド穴を多数穿設したパネル板を栽培槽の底面に対向させて配設し、ガイド穴からセルトレー育成苗の根鉢を落し込んで、栽培槽の底面に載置すると共に、ガイド穴下端内周縁で支え、その根鉢に培養液を供給して生育させ、ガイド穴内面に沿って葉や葉柄を伸長肥大させるといったものである。これにより、袋詰めが容易に行えると共に、販売時における見た目の美しさを確保することができる。また、同時に栽培した葉菜類を均等に発育さることができるため広く用いられている。
【特許文献1】特開平6−141714号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1の水耕栽培方法においては、根部分が収容されるガイド穴の側壁と、根部分が常に接触しているため、根部分の発育がある野沢菜等の葉菜類の栽培においては、根部分が発育することにより根部分が傷むため、鮮度保持が困難になるといった課題がある。
また、根部分は直接液肥に接触しておらず、根部分は根鉢を介して液肥を吸収するため、根部分が根鉢に絡まり、栽培後における根鉢の処理が必要になるといった課題もある。
【0005】
そこで、本発明は、根部分の発育がある葉菜類の水耕栽培において、根部分が傷むことなく、しかも、栽培後における水耕栽培容器の後処理が不要であると共に低コストでの栽培が可能な葉菜類の水耕栽培容器の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、液肥が供給される液肥テーブルと、上下方向に貫通する貫通孔が形成され、前記液肥テーブルの上方に配置される第1の天板と、該第1の天板の上方に所要間隔をあけて配置され、前記第1の天板に形成された貫通孔と同一平面位置に当該貫通孔より大径の貫通孔が形成された第2の天板とを有することを特徴とする水耕栽培用容器である。
【0007】
また、前記液肥テーブルの底部には液肥の流路が形成されていて、前記各貫通孔の中心位置と前記液肥の流路の位置が一致していることを特徴とする。
これにより、流路のみに液肥を流下させればよいため、液肥の流下量を削減することができる。したがって水耕栽培に必要な経費の大幅な削減が可能になると共に、栽培している葉菜類の根腐れを予防することができる。
また、前記第1の天板が弾性材料により形成されていることを特徴とする。
これにより、葉菜類の根部分の発育を阻害することがなく、根部分を傷めるおそれを少なくすることができ、長期間にわたる鮮度維持が可能になる。
【0008】
また、前記第1の天板と前記第2の天板の離間距離は、30mm以上であることを特徴とする。
これにより、根部分が十分の発育することができるので、型が良く、高品質な葉菜類の栽培が可能になる。
【0009】
また、前記第1の天板と前記第2の天板は、一辺が900mmの正方形に形成されていて、前記各貫通孔が均等間隔に配設されていることを特徴とする。
これにより、水耕栽培における栽培時のセッティングが容易に行えると共に、組み合わせて使用すれば任意の栽培面積で葉菜類を水耕栽培することが可能になる。
【発明の効果】
【0010】
本発明による葉菜類の水耕栽培用容器によれば、野沢菜等の根部分の発育がある葉菜類の水耕栽培においても、根部分が傷むことなく、葉菜類の型を向上させることができる。
しかも、栽培後における水耕栽培容器の後処理を不要にすることができる。これらにより、見た目に優れた葉菜類が提供可能になり、長期にわたって鮮度を維持することができるため付加価値を高めることが可能になる他、葉菜類の栽培コストを低減させることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付図面に基づいて本発明の最良の実施の形態を詳細に説明する。図1は、本実施の形態における水耕栽培用容器の組立図である。図2は、本実施の形態における水耕栽培用容器の平面図である。図3は図2中のA−A線における断面図である。
【0012】
本実施の形態における水耕栽培容器10は、液肥が供給される液肥テーブル20と、液肥テーブル20の上部に配設される第1の天板30および第2の天板40とを有している。液肥テーブル20への液肥Eの供給は、図示しない循環装置によりなされている。循環装置は、ポンプ装置の他に、ろ過装置、殺菌装置、液肥濃度測定装置、液肥供給装置等を具備している。
また、水耕栽培容器10と循環装置とにより構成される図示しない水耕栽培装置には、循環装置の動作を制御するマイクロコンピュータ等の制御手段が配設されており、制御手段により、常に適切な濃度や流下量に調整された液肥Eが液肥テーブル20に供給される。
【0013】
液肥テーブル20は、発泡スチロールに代表される発泡樹脂により縦1800mm、横920mmの長方形に形成されている。発泡樹脂の表面のうち、少なくとも液肥Eが供給される内底面には、カビ防止剤が塗布されていることが好ましい。図3に示すように、本実施の形態における液肥テーブル20の内底部22は、液肥Eが流下する方向と直交する切断面の断面形状が鋸刃状に形成されている。鋸刃状に形成されたうちの谷部分28が液肥Eの流路として機能する。このように、液肥Eの流路が形成されていることにより、液肥テーブル20の内底面全体に液肥Eを供給する必要がない。したがって、僅かな量の液肥Eで葉菜類を栽培することが可能となり、栽培コストの低減に好都合である。
また、液肥テーブル20の側壁24の上部には、第1の天板30と第2の天板40を配設する配設溝26が設けられている。
【0014】
第1の天板30は、発泡ウレタンフォーム等の柔軟性に富んだ材料により、縦900mm、横900mmの正方形状のパネルに形成されている。第1の天板30には、直径20mm程度の貫通孔32がマトリクス状をなして均等間隔に配設されている。
第2の天板40は、アクリル等の合成樹脂により、縦900mm、横900mmの正方形状のパネルに形成されている。第1の天板30と異なり、特に柔軟性を具備していなくても良い。第2の天板には、直径40mm程度の貫通孔42が第1の天板30と同様にマトリクス状をなして均等間隔に配設されている。第1の天板30に配設された貫通孔32の中心位置と、第2の天板40に配設された貫通孔42の中心位置は、それぞれの貫通孔32、42において一致している。
【0015】
第1の天板30と第2の天板40とは、図3に示すように、互いに離間するようにして液肥テーブル20の配設溝26、26に配設されている。本実施の形態における第1の天板30と第2の天板40の離間距離は約30mmとなっている。
貫通孔32、42の中心位置と、液肥テーブル20の底部22に配設された鋸刃状部分のうちの谷部分28の位置とは平面位置が互いに一致するように形成されている。
【0016】
以上のようにして水耕栽培容器10が構成されている。次に水耕栽培容器10を用いた水耕栽培方法について説明する。図4は、水耕栽培容器に幼苗を設置した状態を示す説明図である。
まず、水耕栽培容器10を組み立てる。水耕栽培容器10は、1台の液肥テーブル20に対し、第1および第2の天板30、40をそれぞれ2枚配設したものが一単位となる。水耕栽培容器10を敷地内に所要単位配設する。それぞれの水耕栽培容器10は、一方向から液肥Eを流下させることができるように、長手方向に傾斜させて配設される。次に、循環装置および管路を配設し、液肥Eを供給することで水耕栽培装置が完成する。
【0017】
図4に示すように、水耕栽培用容器10には、別の苗床(図示せず)により栽培された幼苗Yが第1および第2の天板30、40に配設された貫通孔32、42の部分に設置される。したがって、幼苗Yは、少なくとも根部分が第1の天板30に配設された貫通孔32の径寸法よりも大きくなるまで苗床で栽培される。
【0018】
液肥テーブル20の底部22に形成された鋸刃状部分のうちの谷部分28には、循環装置により液肥Eが循環供給されている。幼苗Yは、第1の天板30に形成された貫通孔32から下方に根を伸ばし液肥Eから養分を吸収する。液肥Eの流路である谷部分28は、貫通孔32の真下部分に配設されているので、幼苗Yの根は速やかに液肥E部分に到達することができるため好適である。
また、液肥テーブル20に液肥Eを流下させる部分は鋸刃状部分の谷部分28のみとなっている。したがって、使用する液肥Eの量が少なくて済み、ポンプや廃液処理装置等が小型化され、イニシャルコストやランニングコストを軽減することができる。さらに、幼苗Yの根が液肥Eと接触する部分を最小限にすることができるので、根腐れが起きにくくなり、幼苗Yの管理に要する手間を大幅に軽減させることも可能になる。
【0019】
本水耕栽培容器10に配設された幼苗Yは、根部分が液肥Eに接触した後、第1の天板30と第2の天板40との間に形成されたスペースにおいて根部分が発育する。第2の天板40に配設された貫通孔42は、第1の天板30に配設された貫通孔32と同心円となるように配設されている。さらに、第2の天板40に配設された貫通孔42は、第1の天板30の貫通孔32よりも大径に形成されている。すなわち、幼苗Yの根部分が発育するスペースは逆台形状になる。このようなスペースで幼苗Yの根部分が発育すると、幼苗Yの根部分の発育に伴い、幼苗Yは自ら直立状態になる。根部分が十分に発育した後に、茎部分や葉部分が成長するため、幼苗Yが直立状態になれば、茎部分や葉部分が第2の天板40に干渉して傷んでしまうおそれはない。同時に、全体として略V字状をなすような葉菜類に生育しやすい状態に幼苗Yを発育させることができる。
【0020】
本実施の形態の水耕栽培容器10においては、液肥テーブル20の谷部分28から第1の天板30までの離間距離が約40mm、第1の天板30と第2の天板40との離間距離が約30mmとなっているが、栽培すべき葉菜類の種類に応じてこれらの離間距離を適宜変更することができる。また、各天板30、40に配設する貫通孔32、42の配設間隔も栽培すべき葉菜類の種類に応じて適宜変更し得るのはもちろんである。
【0021】
幼苗Yは、出荷できる大きさの葉菜類となるまで水耕栽培容器10において水耕栽培装置により生育される。葉菜類が出荷できる大きさになったら、葉菜類を収穫し必要に応じて包装された後、市場に提供される。
本実施の形態における水耕栽培容器10およびこれを用いた水耕栽培装置によれば、例えば、野沢菜の場合、通常の水耕栽培では40日程度かけて栽培していたところを20日未満で栽培することができ、大幅な栽培時間の短縮が可能になる。
【0022】
以上に、本発明に係る水耕栽培容器について実施の形態に基づいて詳細に説明してきたが、本発明は実施の形態に限定されるものではない。例えば、液肥テーブル20の内底部22は必ずしも鋸刃状に形成しなくてもよく、正弦波状等の波形に形成することも可能である。
また、液肥Eの流路として、液肥テーブル20の内底部22に溝(図示せず)を配設するだけであっても良いのはもちろんである。
【0023】
また、液肥テーブル20の内底部22は、水平面に対して液肥Eを流下させる方向に傾斜した状態となるように形成すれば、液肥テーブル20を水平に設置した状態であっても、液肥Eの流路に動水勾配を与えることができるため好都合である。
【0024】
また、葉菜類の収穫は、水耕栽培容器10から直接引き抜いて収穫する他、第1の天板30と第2の天板40を配設溝26からスライドさせて引き出した後に、収穫する形態のいずれであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本実施の形態における水耕栽培用容器の組立図である。
【図2】本実施の形態における水耕栽培用容器の平面図である。
【図3】図3は図2中のA−A線における断面図である。
【図4】水耕栽培容器に幼苗を設置した状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0026】
10 水耕栽培容器
20 液肥テーブル
22 内底部
24 側壁
26 配設溝
28 谷部分
30 第1の天板
40 第2の天板
32、42 貫通孔
E 液肥
Y 幼苗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液肥が供給される液肥テーブルと、
上下方向に貫通する貫通孔が形成され、前記液肥テーブルの上方に配置される第1の天板と、
該第1の天板の上方に所要間隔をあけて配置され、前記第1の天板に形成された貫通孔と同一平面位置に当該貫通孔より大径の貫通孔が形成された第2の天板とを有することを特徴とする水耕栽培用容器。
【請求項2】
前記液肥テーブルの底部には液肥の流路が形成されていて、
前記各貫通孔の中心位置と前記液肥の流路の位置が一致していることを特徴とする請求項1記載の水耕栽培用容器。
【請求項3】
前記第1の天板が弾性材料により形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の水耕栽培用容器。
【請求項4】
前記第1の天板と前記第2の天板の離間距離は、30mm以上であることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項記載の水耕栽培用容器。
【請求項5】
前記第1の天板と前記第2の天板は、一辺が900mmの正方形に形成されていて、前記各貫通孔が均等間隔に配設されていることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか一項記載の水耕栽培用容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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