説明

水草の種子の発芽処理方法および植付け方法

【課題】水草の種子の休眠期間を任意に制御することができ、かつ必要に応じて速やかに種子を発芽させることのできる水草の種子の発芽処理方法と、効率的に発芽可能な状態となった種子を移植することのできる発芽可能な状態となった種子を収容するための保存容器および水草の種子の植付け方法を提供すること。
【解決手段】水草の種子を採取し、例えば4℃の第1の温度条件で例えば少なくとも1ヶ月以上の一定の保存期間該種子を水中保存することによって休眠状態を維持し、水中保存された種子を第1の温度よりも高温の例えば20℃の第2の温度条件下に置くことによって発芽可能な状態とする水草の種子の保存および発芽処理方法である。また、水草の種子の植付け方法は、発芽可能となった種子を水を貯めた保存容器内に播種し、保存容器を構成する織り目の粗い生育基盤ごと被移植領域に設置するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水草の種子の発芽処理方法および発芽状態となった水草の種子の植付け方法と発芽可能な状態となった種子を収容するための保存容器に係り、特に、水草の種子の休眠期間を任意に制御することができ、かつ必要に応じて速やかに種子を発芽させることのできる水草の種子の発芽処理方法と、発芽可能な状態となった種子を効率的に移植することのできる発芽可能な状態となった種子を収容するための保存容器および水草の種子の植付け方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水草は、植物の体の半分以上を水面上に出して生活する抽水性植物や、睡蓮などのように根は水中の土中で葉を水面に浮かべる浮葉性植物、植物全体が水面下で生活する沈水性植物、根を土に固定せず、常に水面に浮かび漂って生活する浮遊性植物に分類することができる。
【0003】
ところで、近時、上記水草の中でも、沈水性植物が絶滅の危機に瀕している状況である。自然再生の高まりとともに、特に水質に影響を与える沈水性植物の減少は大きな問題である。この沈水性植物の育成は、種子の保管方法が確立されていないため、したがって、種子を採取後にすぐに被移植領域に播く必要がある。しかし、現生種子の場合には季節に制限されてしまい、休眠解除の処理がなされないために発芽までに時間を要してしまう虞や、発芽率の低下の虞がある。
【0004】
また、仮に、何らかの発芽技術が確立されたとしても、従来の農作物に適用されるような育苗トレイなどによる面的な育苗では、育苗に広範なヤードを要するという問題もある。
【0005】
従来の上記沈水性植物の種子の保存〜育苗に至る技術としては、例えば特許文献1を挙げることができる。この発明は、生分解性樹脂容器内に所定の温度および塩分濃度にて一定期間保存した海草類種子と底質を配設して基盤ユニットとし、この基盤ユニットを低濃度塩水または淡水によって発芽促進処理した後に、発芽に適した環境下にて管理し、生育した海藻類を基盤ユニットごと藻場に設置する海草類種苗生産システムである。本システムによれば、発芽〜育苗〜藻場設置に至るまでの工程において、一定期間保存した種子を基盤ユニットにて保存することで、採取時期に限定されずに、海草類の種苗を生産することが可能となる。
【0006】
【特許文献1】特開2005−143306号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の海草類種苗生産システムによれば、種子の採取時期に限定されずに、海草類の種苗を生産することが可能となるが、種子の休眠状態〜発芽可能状態までをも勘案した保存技術ではないために、任意に種子の休眠状態を制御し、かつ任意の時期に種子を発芽状態に制御することはできない。したがって、水草、中でも在来の沈水性植物による被植生領域での速やかな緑化を齎すことは困難である。
【0008】
本発明の水草の種子の保存および発芽処理方法および水草の種子の植付け方法および発芽可能な状態となった種子を収容するための保存容器は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、採取された沈水性植物をはじめとする水草の種子を任意に休眠状態〜発芽可能状態まで制御することにより、効率的に発芽可能な状態となった種子を被移植領域に移植することのできる水草の種子の保存および発芽処理方法および水草の種子の植付け方法を提供することを目的としている。また、効率的な水草の種子の植付けを実現することのできる発芽可能な状態となった種子を収容するための保存容器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明による水草の種子の発芽処理方法は、水草の種子を採取し、第1の温度条件で一定の保存期間該種子を水中保存することによって休眠状態を維持し、水中保存された種子を第1の温度よりも高温の第2の温度条件下に置くことによって発芽可能な状態とすることを特徴とする。
【0010】
ここで、水草とは、既述するように、抽水性植物や、浮葉性植物、沈水性植物、浮遊性植物を包含する広範な意味であるが、本発明の種子の保存および発芽処理方法は、中でも、沈水性植物の種子の休眠状態〜発芽可能な状態の制御に特に好適である。また、種子は、例えば水辺で採取された現生植物の結実した種子やシードバンクとして土中に休眠する種子などを含んでいる。
【0011】
採取した種子は、まず、休眠状態を維持できる適宜の温度条件の水中にて保存することにより、種子の発芽を抑制する。特に、沈水性植物の場合には、結実しても休眠状態であり、そのままでは発芽できないが、所定の温度条件下に一旦置くことで、該所定温度よりも高温の一定温度条件とした際に、速やかに発芽可能な状態となることができる。
【0012】
本発明は、採取された種子を一定温度条件下にて一定期間水中保存することによって休眠状態を任意に制御でき、種子を被移植領域に移植する前段で発芽可能な状態とするものである。かかる制御が実現されることにより、例えば河川改修などで緑化の必要が生じた場合において、所望の時期に休眠状態で保存された種子を発芽可能な状態とすることができるため、速やかに河川護岸の緑化を促進させることができる。
【0013】
また、本発明による水草の種子の発芽処理方法の好ましい実施形態において、第1の温度が4℃または略4℃であり、一定の保存期間は少なくとも1ヶ月以上の期間であり、第2の温度が20℃または略20℃であることを特徴とする。
【0014】
発明者等の実験によれば、ネジレモをはじめとする沈水性植物においては、4℃の条件で1ヶ月以上の期間、該沈水性植物の種子を水中保存することにより、休眠状態をその後長期にわたって維持できることが検証されている。また、この4℃の温度条件は、種子を発芽可能な状態に移行させるに最適な温度条件でもあり、種子を20℃の水中環境下に置くことにより、種子は発芽可能な状態となることも実証されている。
【0015】
したがって、例えば沈水性植物に関し、種子の休眠状態を維持し、かつその後の処理によって速やかに発芽可能な状態に移行できるための上記する第1の温度条件と保存期間と、その後に種子を発芽可能な状態に移行させる第2の温度条件に基づいて沈水性植物の種子を保存/発芽処理することにより、必要な時期に種子の速やかな発芽を実現することができる。
【0016】
また、本発明による水草の種子の発芽処理方法の好ましい実施形態において、種子が発芽可能となるまでは、種子の保存具としてビンが使用されることを特徴とする。
【0017】
本発明は、種子を休眠状態〜発芽可能な状態まで水中保存するに際し、その保存を任意のビン(密閉ビン)内で保存することにより、その持ち運びの利便性や外部から発芽の有無を視認し易いという利点、保存具として極めて低コストであるという利点は勿論のこと、ビンを適宜に積み上げることによって保存スペースの狭小化を図ることができる。
【0018】
また、本発明による水草の種子の植付け方法は、前記水草の種子の発芽処理方法によって発芽可能な状態となった種子を保存容器に収容し、保存容器内から該種子を取り出して被植付け領域に植え付ける水草の種子の植付け方法であって、前記保存容器は、上面が開放した箱状の第1のトレイと、上面が開放した箱状であって少なくとも1つの側面が底面との間の折れ線を中心に転倒可能に構成されており、底面が透水可能に構成された第2のトレイと、織り目が比較的粗い生育基盤と、からなり、第1のトレイに第2のトレイが収容され、第2のトレイ内に生育基盤が収容されてなり、第1のトレイ内に水を満たして発芽可能な状態となった種子を生育基盤上に播種し、第1のトレイから生育基盤を収容した第2のトレイを取り出し、第2のトレイの側面を転倒させて被植付け領域に生育基盤をスライドさせることにより、生育基盤を被植付け領域に植え付けることを特徴とする。
【0019】
本発明は、上記する種子の制御方法に基づいて発芽可能となった種子を実際の被移植領域に移植する種子の植付け方法に関し、効率的な植付けを可能とするために構成された保存容器を用意し、該容器内に発芽可能となった種子を播種した後に適宜の被移植領域に種子の植付け、厳密には後述する発芽可能な状態の種子を備えた生育基盤を設置する方法に関するものである。
【0020】
保存容器は、箱状に形成された第1のトレイ、該第1のトレイ内に収容される箱状に形成された第2のトレイと、第2のトレイに収容されて、種子がそこに付着した姿勢で生育するための生育基盤とから大略構成されている。第1のトレイは、例えばプラスチックを素材とした上面が開放した箱状に形成されている。また、第2のトレイは、同様に例えばプラスチックを素材とした箱状に形成されているが、その底面は、水が透過するための穴を有しており、その上(箱内部)に透水性のある例えば不織布が敷設された構成となっている。また、少なくとも1つの側面は底面との折れ線を中心に転倒できるように構成されており、第2のトレイ内から生育基盤を取り出す際に、トレイ全体を傾けることによって第2のトレイの該側面が倒れて、生育基盤が外部にスライドしながら放出できるようになっている。
【0021】
生育基盤は、織り目が比較的粗い任意の素材から成形されており、この織り目の間に種子が収容ないし付着し易い構成となっている。
【0022】
発芽状態の種子を播種するに際し、第1のトレイ内に第2のトレイを収容しておき、第2のトレイ内に生育基盤を収容しておき、第1のトレイ内に水を貯めた状態で種子の播種をおこなう。
【0023】
第1のトレイから第2のトレイを取り外すことによって第2のトレイの底面の例えば不織布を介して第2のトレイ内の水を脱水することで、第2のトレイ内に収容された生育基盤の織り目の凹部内に種子が収容ないし付着した状態となる。
【0024】
生育基盤の設置場所(種子の被移植領域)に第2のトレイを移載し、第2のトレイの転倒可能な側面を下側にしてトレイ全体を傾けることにより、第2のトレイから生育基盤がスライドしながら設置場所に設置される。
【0025】
本発明の水草の種子の植付け方法によれば、上記構成の保存容器を使用することで、発芽可能状態の種子を生育基盤とともにその設置場所に簡易に設置することができる。また、生育基盤内の織り目の凹部内に種子が収容付着された姿勢となっているため、水域に設置する場合でも種子が水流に流され難く、また、各折り目内に種子が付着されることから種子が適正な密度状態で移植されるという大きな利点がある。
【0026】
また、本発明による発芽可能な状態となった種子を収容するための保存容器は、採取した水草の種子を第1の温度条件でかつ一定の保存期間水中保存することによって休眠状態とし、水中保存された種子を第1の温度よりも高温の第2の温度条件下に置くことによって発芽可能な状態となった種子を収容するための保存容器であって、前記保存容器は、上面が開放した箱状の第1のトレイと、上面が開放した箱状であって少なくとも1つの側面が底面との間の折れ線を中心に転倒可能に構成されており、底面が透水可能に構成された第2のトレイと、織り目が比較的粗い生育基盤と、からなり、第1のトレイに第2のトレイが収容され、第2のトレイ内に生育基盤が収容されてなることを特徴とする。
【0027】
本発明の保存容器を使用することで、上記するように、種子の簡易な被移植領域への移植に加えて、種子が水流に流され難くなり、さらには適正な密度の種子の植付けが可能となるという大きな効果を得ることができる。なお、第1のトレイや第2のトレイは、上記するようにプラスチック製や発泡樹脂製など、可及的に軽量で持ち運びに便利な素材にて製作されるのが好ましい。
【0028】
また、本発明による発芽可能な状態となった種子を収容するための保存容器の好ましい実施形態において、生育基盤は、ヤシガラを含む生分解性の素材からなることを特徴とする。
【0029】
生育基盤の素材として、ヤシガラマットを使用することにより、比較的粗い織り目を有し、かつ、生分解性であることから自然分解されるという大きな利点がある。なお、生育基盤の素材としてはその他にも、脂肪族ポリエステルや酢酸セルロース、ニトロセルロースといった天然高分子、ポリエステルナイロン共重合体などの合成高分子、アミロースポリエステル共重合体などの天然合成高分子などを含む生分解性プラスチックを使用することもできる。
【発明の効果】
【0030】
以上の説明から理解できるように、本発明の水草の種子の保存および発芽処理方法によれば、採取された水草の種子を一定温度条件下にて一定期間水中保存することによって休眠状態を任意に制御でき、種子を被移植領域に移植する前段でさらに一定の温度条件下に置くことで発芽可能な状態に制御することができるため、保存期間の任意な調整と移植後の速やかな発芽を実現することができる。また、本発明の発芽可能な状態となった種子を収容するための保存容器を使用した水草の種子の植付け方法によれば、発芽状態の種子を生育基盤とともにその設置場所に簡易に設置することができ、さらに、生育基盤内の織り目の凹部内に種子が収容付着された姿勢となっているため、水域に設置する場合でも種子が水流に流され難く、適正な密度の種子の植付けが可能となるという大きな効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の水草の種子の保存および発芽処理方法および水草の種子の植付け方法を説明したフローを、図2は、本発明の保存容器の一実施形態を示した分解斜視図を、図3a〜図3dは、順に、保存容器の準備〜水草の種子の播種〜脱水〜植付け準備が完了するまでの流れを示した模式図を、図4は、図3に続き、生育基盤を被移植領域に設置している状況の模式図をそれぞれ示している。図5は、第2の温度と発芽率との関係に関する実験結果を示したグラフを、図6は、第1の温度条件における種子の水中保存期間と発芽率との関係に関する実験結果を示したグラフをそれぞれ示している。
【0032】
図1は、水草の種子の保存および発芽処理〜水草の種子の植付けまでを概略的に示したフローである。まず、ステップ1(S1)において、水辺にて現生植物の結実した種子を採取し、またはシードバンクとして土中に休眠する種子を採取する。採取される種子は、その採取場所にて採取可能な沈水性植物をはじめとする適宜の水草の種子である。
【0033】
採取された種子を、任意形状のビン(図示略)の中で水中保存するとともに、水の温度を4℃に保った状態で少なくとも1ヶ月以上の間、任意の保管ヤード(建屋)において保存することにより、種子の休眠状態を維持する(ステップ2(S2))。
【0034】
種子の移植をおこなう所望の時期がきた段階で、ビン内の水温を4℃から20℃に上げることにより、休眠状態の種子を発芽可能状態に移行させる(ステップ3(S3))。
【0035】
次に、発芽可能状態となった種子を播種する保存容器の構成および準備に関して図2,3を参照しながら説明する。
【0036】
図2に示すように、保存容器10は、プラスチック製で上方が開放された箱状の第1のトレイ1と、この第1のトレイ1内に収容されるやはりプラスチック製で箱状の第2のトレイ2と、さらに、この第2のトレイ2の内部に収容される生育基盤4とから構成される。
【0037】
第2のトレイ2は、複数の脱水用の穴21a,21a,…を備えた底面21上に不織布をはじめとする透水性マット3が敷設されている。また、トレイ2の側面22の1つは底面21との間の折れ線を中心に転倒可能に形成されている(矢印X)。発芽可能な状態の水草の種子を付着させた生育基盤4を側面22を転倒させることによって外部にスライドできるようにするためである。
【0038】
生育基盤4は、比較的織り目の粗い生分解性の素材から成形されており、折り目の凹所41,41,…内に発芽可能となった種子を収容付着できるようになっている。この素材としては、ヤシガラのほか、脂肪族ポリエステルや酢酸セルロース、ニトロセルロースといった天然高分子、ポリエステルナイロン共重合体などの合成高分子、アミロースポリエステル共重合体などの天然合成高分子などを含む生分解性プラスチックを選定できる。
【0039】
図1における保存容器の準備(ステップ4(S4))〜種子の播種(ステップ5(S5))〜生育基盤の設置準備(ステップ6(S6))までの流れをさらに図3に基づいて説明する。保存容器10は、第1のトレイ1内に第2のトレイ2を収容し、第2のトレイ2内に生育基盤4を収容し、第1のトレイ1内に水を貯める(図3a)。その中にステップ4にて発芽可能となった種子を播種する(図3b)。ここで、発芽可能となった種子6は、採取された後に図示するビン5内に水中保存されており、上記するステップ2にて4℃の温度下で少なくとも1ヶ月以上保存され、さらにステップ3にて水温20℃の雰囲気下に曝された種子である。
【0040】
その後、図3cに示すように、第1のトレイ1から第2のトレイ2を取り出すことにより(矢印X)、第2のトレイ2内に貯まった水が透水性マット3をゆっくりと通過し、さらに底面21の穴21a,21a,…を介して脱水がおこなわれる。脱水が完了することにより、図3dに示すように、生育基盤4の織り目の凹所41,41,…に種子6,6,…が収容付着して植付け準備が完了する。
【0041】
生育基盤の設置準備が完了した第2のトレイ2を被移植領域に載置し、被移植領域において、第2のトレイ2から生育基盤4をスライドさせながら生育基盤の設置をおこなう(図1のステップ7(S7))。この工程を模式的に図4に示している。第2のトレイ2を下方に傾けることにより、転倒可能な側面22が転倒し(矢印X)、生育基盤4がY方向にスライドすることにより、容易に被移植領域7への生育基盤4の設置をおこなうことができる。被移植領域7において必要な数の生育基盤4を同様の操作を繰返しながら順次設置していくことにより、発芽可能状態の種子の被移植領域への植付けが完了する。
【実施例】
【0042】
次に、発明者等による実験結果について図5,6に基づいて説明する。まず、4℃の低温条件下で2ヶ月間保存したネジレモの種子をそのままの4℃とした場合と、10℃の温度雰囲気下に置いた場合と、20℃の温度雰囲気下に置いた場合の3ケースについて、それぞれの発芽率を検証した実験結果を図5に示している。図5中、4℃のままの場合がX、10℃の温度雰囲気下に置いた場合をY、20℃の温度雰囲気下に置いた場合をZとしてそれぞれ示している。また、グラフZにおける実験日ごとの縦線hは実験結果から想定される発芽率の可能範囲である。
【0043】
比較例であるX,Yの実験結果と本実施例であるZを比較すると明らかなように、発芽率を格段に高めることができることが実証されている。これは、4℃の低温条件を前提として、その後に20℃の温度雰囲気下に置くことがネジレモの発芽を効果的に促進させることを示している。
【0044】
また、図6は、4℃の低温保存期間を1ヶ月とした場合(図中のX)と、2ヶ月とした場合(図中のY)と、3ヶ月とした場合(図中のZ)のぞれぞれの実験結果を示している。
【0045】
実験結果からも明らかなように、1ヶ月の保存期間であっても40日程度で発芽率はほぼ100%程度となり、また、3ヶ月の保存期間を置くと、2週間程度で90%の発芽率を達成できることが実証された。したがって、極めて早期に水域の緑化を図りたい場合には、低温(4℃)の保存期間を1ヶ月よりも長くおくことがよく、一般には、少なくとも1ヶ月の低温保存期間で十分に早期の緑化を実現することができる。
【0046】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の水草の種子の保存および発芽処理方法および水草の種子の植付け方法を説明したフロー。
【図2】本発明の保存容器の一実施形態を示した分解斜視図。
【図3】(a)〜(d)は、順に、保存容器の準備〜水草の種子の播種〜脱水〜植付け準備が完了するまでの流れを示した模式図。
【図4】図3に続き、生育基盤を被移植領域に設置している状況の模式図。
【図5】第2の温度と発芽率との関係に関する実験結果を示したグラフ。
【図6】第1の温度条件における種子の水中保存期間と発芽率との関係に関する実験結果を示したグラフ。
【符号の説明】
【0048】
1…第1のトレイ、2…第2のトレイ、21…底面、21a…穴、22…側面、3…透水性マット、4…生育基盤、41…凹所、5…ビン、6…種子、7…被移植領域、10…保存容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水草の種子を採取し、第1の温度条件で一定の保存期間該種子を水中保存することによって休眠状態を維持し、水中保存された種子を第1の温度よりも高温の第2の温度条件下に置くことによって発芽可能な状態とすることを特徴とする水草の種子の発芽処理方法。
【請求項2】
第1の温度が4℃または略4℃であり、一定の保存期間は少なくとも1ヶ月以上の期間であり、第2の温度が20℃または略20℃であることを特徴とする請求項1に記載の水草の種子の発芽処理方法。
【請求項3】
種子が発芽可能となるまでは、種子の保存具としてビンが使用されることを特徴とする請求項1または2に記載の水草の種子の発芽処理方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の水草の種子の発芽処理方法によって発芽可能な状態となった種子を保存容器に収容し、保存容器内から該種子を取り出して被植付け領域に植え付ける水草の種子の植付け方法であって、
前記保存容器は、上面が開放した箱状の第1のトレイと、上面が開放した箱状であって少なくとも1つの側面が底面との間の折れ線を中心に転倒可能に構成されており、底面が透水可能に構成された第2のトレイと、織り目が比較的粗い生育基盤と、からなり、第1のトレイに第2のトレイが収容され、第2のトレイ内に生育基盤が収容されてなり、第1のトレイ内に水を満たして発芽可能な状態となった種子を生育基盤上に播種し、第1のトレイから生育基盤を収容した第2のトレイを取り出し、第2のトレイの側面を転倒させて被植付け領域に生育基盤をスライドさせることにより、生育基盤を被植付け領域に植え付けることを特徴とする水草の種子の植付け方法。
【請求項5】
採取した水草の種子を第1の温度条件でかつ一定の保存期間水中保存することによって休眠状態とし、水中保存された種子を第1の温度よりも高温の第2の温度条件下に置くことによって発芽可能な状態となった種子を収容するための保存容器であって、
前記保存容器は、上面が開放した箱状の第1のトレイと、上面が開放した箱状であって少なくとも1つの側面が底面との間の折れ線を中心に転倒可能に構成されており、底面が透水可能に構成された第2のトレイと、織り目が比較的粗い生育基盤と、からなり、第1のトレイに第2のトレイが収容され、第2のトレイ内に生育基盤が収容されてなることを特徴とする発芽可能な状態となった種子を収容するための保存容器。
【請求項6】
生育基盤は、ヤシガラを含む生分解性の素材からなることを特徴とする請求項5に記載の発芽可能な状態となった種子を収容するための保存容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−124979(P2007−124979A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−322426(P2005−322426)
【出願日】平成17年11月7日(2005.11.7)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】