説明

水蒸気処理、樹脂含浸処理の複合による、木材の圧密化

【課題】 比較的低い圧力で高強度の強化木材が得られる方法を提供すること。従来のように亜塩素酸ナトリウムなどの化学薬品を使用することなく、高強度の強化木材が得られる方法を提供すること。
【解決手段】 木材を水蒸気により処理する工程、該処理した木材に樹脂を含浸する工程、および該樹脂が含浸した木材を圧縮する工程、を包含する強化木材の製造方法である。水蒸気処理が、水蒸気で満たされた密閉容器中に木材を配置し、水蒸気温度140〜180℃で1〜30分間処理することである。樹脂が、フェノール樹脂であり、木材に含まれる樹脂量が水蒸気処理の前の木材100重量部に対して10〜80重量部である。樹脂が、減圧下で木材に含浸される。一つの実施形態では、前記木材を圧縮する工程が、140〜160℃で10〜30分間実施される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、比較的低い圧縮力で高強度の強化木材が得られる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に木材の強度は50〜60MPaであるが、従来から、木材を圧密化して圧縮強度200〜500MPaの高強度材料とすることが知られている。しかしながら、この方法で高強度材料を作成する場合は、従来、30〜50MPaの圧力が必要であり、木材加工メーカーにおける一般的な加圧設備(代表的には、合板を作成する際に使用される0.8〜1MPa程度の圧締圧力の加圧設備)では圧力が足らないため、特殊な加圧設備が必要であるので実用的ではない。
【0003】
従って、低圧力で高強度の強化木材を作製できる方法が望まれていた。
【0004】
木材は、通常、およそ40〜50%程度のセルロースと、およそ20〜30%のリグニンと、およそ20〜30%のヘミセルロースとから構成される。高強度の繊維素材であるセルロースが、樹脂状のリグニンおよびヘミセルロース中に埋め込まれたような構造が木材の典型的な構造として知られている。リグニンおよびヘミセルロースのうち、リグニンは、3次元架橋構造を有し、セルロースの繊維を強固に固定する役割を果たしており、リグニンおよびセルロースが木材の強度を決める主要因であると従来から考えられていた。
【0005】
他方、ヘミセルロースは、リグニンとは異なり、セルロースを強固に固定するような構造を有さない軟質の物質であることが知られており、ヘミセルロースは、木材の強度に寄与しないか、寄与したとしてもその程度は非常に低いと考えられていた。
【0006】
本発明者らは、上記リグニンの性質に着目して、木材を亜塩素酸ナトリウム溶液で処理して木材中のリグニンを除去して木材を処理させ、次いで処理した木材にフェノール樹脂を含浸させ、その後樹脂含浸木材を圧縮する強化木材の製造方法を提案した(非特許文献1)。
【0007】
しかし、この方法は、化学薬品を使用するので環境汚染の問題や、大型の処理槽を必要とするといった生産設備の問題がある。
【0008】
また、例えば、特開平3−231802号公報(特許文献1)、特開平10−166319号公報(特許文献2)、特開平9−295303号公報(特許文献3)および特開2003−245907号公報(特許文献4)には、木材を水蒸気雰囲気内において軟化させた後、圧縮成形しその変形を固定する木材の改質処理方法が開示されている。特開平5−50409号公報(特許文献6)には、木材を水蒸気と高周波により加熱軟化させた後、この木材を圧縮成形してその変形を高温高圧雰囲気下内に置いて固定化する木材の処理方法が開示されている。
【0009】
しかし、これらの文献に開示された処理法では、木材寸法を固定する効果があるものの、依然、高圧で木材を圧縮する必要がある。
【0010】
さらに、特開平9−59584号公報(特許文献5)には、水蒸気により軟化処理された複数の木材を圧縮成形して集合材を生成するに際して、レゾルシノールーフェノール系樹脂を主成分とする接着剤を使用することが開示されている。
【0011】
しかし、この文献は樹脂を複数枚の木材を接着するための接着剤として使用しており、樹脂を木材に含浸することについては開示されていない。また、低圧力で木材を圧縮することについては開示されていない。
【非特許文献1】矢野浩之ら、「超可塑化・選択的圧密技術を活用した高耐久・高強度木質材料の開発」、平成13年度京都大学木質科学研究所所内プロジェクト研究成果報告書1〜7頁
【特許文献1】特開平3−231802号公報
【特許文献2】特開平10−166319号公報
【特許文献3】特開平9−295303号公報
【特許文献4】特開2003−245907号公報
【特許文献5】特開平9−59584号公報
【特許文献6】特開平5−50409号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、比較的低い圧力で高強度の強化木材が得られる方法を提供することを目的とする。
【0013】
本発明の他の目的は、従来のように亜塩素酸ナトリウムなどの化学薬品を使用することなく、高強度の強化木材が得られる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の強化木材の製造方法は、木材を処理して該木材中に含まれるヘミセルロースを除去または低分子化する工程、該処理した木材に樹脂を含浸する工程、および該樹脂が含浸した木材を圧縮する工程、を包含し、そのことにより上記目的が達成される。
【0015】
一つの実施形態では、前記ヘミセルロースを除去または低分子化する木材処理工程後の木材中のリグニンが該処理工程前と比べて実質的に維持されている。
【0016】
一つの実施形態では、前記ヘミセルロースを除去または低分子化する工程が、木材を水蒸気処理する工程である。
【0017】
一つの実施形態では、前記水蒸気処理が、水蒸気で満たされた密閉容器中に木材を配置し、水蒸気温度140〜180℃で1〜30分間処理することである。
【0018】
一つの実施形態では、前記樹脂が、フェノール樹脂であり、木材に含まれる樹脂量が、ヘミセルロースを除去または低分子化する処理の前の木材100重量部に対して10〜80重量部である。
【0019】
一つの実施形態では、前記樹脂が、減圧下で木材に含浸される。
【0020】
一つの実施形態では、前記木材を圧縮する工程が、140〜160℃で10〜30分間実施される。
【0021】
本発明はまた、表層が強化された木材積層体の製造方法を提供する。この表面強化木材積層体の製造方法は、表層用木材を処理して該表層用木材に含まれるヘミセルロースを除去または低分子化する工程、該表層用木材に樹脂を含浸する工程、および該樹脂が含浸した該表層用木材に、裏打ち層用木材を重ねて加熱圧縮する工程、を包含する。
【0022】
この方法の一つの実施形態では、前記木材に含まれるヘミセルロースを除去する工程が、木材を水蒸気で処理することである。
【発明の効果】
【0023】
本発明の強化木材の製造方法においては、木材を水蒸気処理し、次いで水蒸気処理した木材に樹脂を含浸させ、その後樹脂含浸した木材を圧縮することにより、低い圧力で木材を圧縮できるようにすると共に高密度の樹脂強化木材が得られる。
【0024】
すなわち、木材(未処理)に対して、水蒸気処理とフェノール処理を併せて行った後に、必要に応じて複数枚木材を重ねて圧密処理することにより、密度が大きく、高強度、高耐久性の木質材料が得られる。
【0025】
従って、従来のように亜塩素酸ナトリウムなどの化学薬品を使用した特別な製造装置を必要とせず、また環境汚染の心配がない。
【0026】
また、本発明の他の強化木材の製造方法では、木材に含まれるヘミセルロースを除去または低分子化する工程、該木材に樹脂を含浸する工程、および該樹脂が含浸した木材を圧縮する工程、を包含することにより、木材のマトリックスを構成する一成分であるヘミセルロースを分解または除去して、低い圧力で木材を圧縮できるようにすると共に高密度の樹脂強化木材が得られる。
【0027】
すなわち、従来、水蒸気処理は、主としてフェノール樹脂に代わる変形固定方法として考えられていた。また、フェノール樹脂の含浸によって木材が軟化することは知られていたが、水蒸気処理の後に続いてフェノール樹脂で処理することによって、木材の軟化がさらに促進する(より低い応力で木材を潰すことができる)ことは知られていなかった。また、水蒸気処理をする場合には、わざわざコストを上乗せするフェノール樹脂処理をする必要がなかった。このような理由で、両処理法を複合するという考えは従来考えられていなかった。実際、上記特許文献6の従来技術において、木材の堅牢化を図るため木材内部にフェノール樹脂等の樹脂剤を注入させ、その樹脂剤の硬化により木材の堅牢化を図る方法では、樹脂剤費が嵩み加工コストが高くなることが指摘されている。
【0028】
さらに、上述したとおり、従来においては、ヘミセルロースの木材強度への寄与が極めて低いと考えられていたため、木材中のヘミセルロースを処理しても、木材の成形性等の性能は実質的に変化しないと予想されていた。そして、上記非特許文献1に記載されているように、リグニンを除去しなければ低圧での木材の圧密化は達成できないと考えられていた。
【0029】
これに対して、本発明では、リグニンではなく、ヘミセルロースを処理することにより、予想外の圧密化方法の改善をもたらすことを発見し、生産コストの上昇をはるかに上回る付加価値があることを見出したものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下に本発明の実施の形態を説明する。
【0031】
本発明に使用する木材は、限定されないが、バルサ、ファルカータ、スギ、トウヒ、マカンバ、ヒノキ、ブナ、ナラ、ミズナラ、カバ、ヤマザクラ、カシ等を使用することができ、好ましくは比重が0.1〜0.6程度、より好ましくは比重が0.1〜0.4程度の低比重の木材である。比重が高過ぎると、本発明の効果が発揮され難い。木材は、切断されていないもの、あるいは切断されたものを使用でき、特にスライスされた単板またはベニヤが好ましい。
【0032】
このような木材は、まず、その木材中に含まれるヘミセルロースを除去または低分子化するように処理を行う。この処理は、木材中のセルロースを実質的に損傷することなくヘミセルロースの少なくとも1部分を除去または低分子化し得る処理である限り、特に限定されない。例えば、水蒸気または薬品による処理が可能であり、より具体的には、水蒸気、水酸化ナトリウム水溶液、硫化ナトリウム溶液等による処理が挙げられる。
【0033】
なお、本明細書中でヘミセルロースが「低分子化される」とは、例えば、ヘミセルロースの分子の鎖の一部が切断されて、分子量が低下することを意味する。一定レベルの分子量以下までに低分子化されたヘミセルロースは、その木材を水に浸漬した際に水中に溶出してしまうので、容易に木材中から除去される。ただし、本発明においては、ヘミセルロースが水中に溶出する程度までに低分子化することは必ずしも必要ではない。
【0034】
処理される木材中に存在するヘミセルロースのうち、なるべく多くのヘミセルロースを除去または低分子化することが好ましい。例えば、処理前の木材中に存在していたヘミセルロースのうち、30重量%以上を除去または低分子化することが好ましく、50重量%以上を除去または低分子化することがより好ましく、70重量%以上を除去または低分子化することがさらに好ましい。そのすべてを除去または低分子化することが最も好ましいが、必ずしもそのすべてを除去または低分子化する必要はない。
【0035】
好ましくは、上記木材の処理は、ヘミセルロースを除去または低分子化する木材処理工程後の木材中のリグニンが該処理工程前と比べて実質的に維持されるように行われる。例えば、水蒸気による処理を後述するとおりの好ましい温度および時間の条件下で行えば、リグニンが分解されることはなく、そのままリグニンが木材中に残存する。
【0036】
木材を水蒸気で処理する場合、その処理工程においては、水蒸気の温度は140〜200℃で実施するのが良く、特に140〜180℃が好ましく、さらに好ましくは140〜160℃である。水蒸気の温度が140℃より低いと、木材の加圧成形性改良効果が低くなり、200℃を超えると木材のセルロースが熱で損傷するため強度が低下する傾向にある。
【0037】
水蒸気処理時間は、製造時間を考慮すると1〜60分間が好ましいが、処理温度に応じて変更でき、通常は2〜30分間であり、160℃で処理する場合には、5〜10分間が好ましい。処理時間が短過ぎる場合には木材の加圧成形性改良が不十分になり、長すぎる場合には木材の加圧成形性改良の効果はそれ以上には上がらない。
【0038】
このように木材を水蒸気で処理することによって、木材の一成分であるヘミセルロースが分解して揮散あるいは脱離しやすくなる。
【0039】
水蒸気処理は、典型的には、水蒸気で満たされた耐圧の密閉容器中に木材を配置することにより行われる。その際、密閉容器内の圧力は可変としてもよい。
【0040】
水蒸気処理した木材に樹脂を含浸するには、通常は樹脂溶液中に木材を浸漬することによって実施される。あるいは、上記の密閉容器を利用して、この容器内に樹脂溶液を注入し樹脂を木材に含浸するようにしてもよい。この場合、減圧下で樹脂を木材に含浸するようにしてもよい。
【0041】
このようにして、処理によりヘミセルロースが除去または低分子化された木材は、次いで、樹脂を含浸する工程に供される。
【0042】
木材に樹脂を含浸する工程は、水蒸気などのヘミセルロース除去または低分子化処理した直後の木材に連続して行ってもよいが、常温に放置、冷却した後に木材に樹脂を含浸してもよい。
【0043】
本発明で使用される樹脂としては、従来から木材に含浸させることが出来る樹脂として公知の任意の樹脂が使用され得る。好ましくは熱硬化性樹脂である。フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂やウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂を使用することができ、好ましくは低分子量のフェノール樹脂である。樹脂の分子量は、木材への含浸性の観点から、低分子量であることが好ましい。ただし、分子量が低すぎる場合には、揮発性が高くなって作業環境に悪影響を与える場合がある。例えば、重量平均分子量として50〜1000程度のものが好ましく、100〜500程度のものがより好ましい。樹脂は、通常は10〜30%(特に20%)程度の水溶液として使用されるが、アルコール(例えば、メタノール)などの希釈液を使用することもできる。樹脂の含浸量は特に限定されず、使用する木材の種類およびその木材中に存在する空隙の体積に応じて適宜選択される。具体的には例えば、ヘミセルロースを除去または低分子化する処理の前の木材100重量部に対して3〜100重量部が好ましく、5〜90重量部がより好ましく、10〜80重量部がさらに好ましい。
【0044】
樹脂を木材に含浸した後、圧縮する前に、必要に応じて、乾燥工程を設けることができる。この場合、樹脂が硬化しない温度で乾燥させる。通常は40〜70℃(例えば、50℃)で2〜24時間(例えば、12時間)乾燥させる。乾燥時間は乾燥温度によって適宜変更でき、例えば、70℃で乾燥する場合には10時間程度で充分である。この乾燥によって木材中に含まれていた水(あるいはその他の希釈液、溶媒など)が揮散あるいは脱離する。
【0045】
次に、樹脂が含浸した木材を圧縮する。圧縮は、常温で行っても良いが、好ましくは、加熱しながら圧縮を行う。木材を圧縮するには熱板を使用して実施でき、この圧縮工程における温度および時間は含浸樹脂の硬化特性に応じて適宜選択される。加熱温度は140〜160℃が好ましく、さらに好ましくは150〜160℃である。圧縮時間は、10〜30分間が好ましい。また、加圧および加熱を同時に行うことが、木材の圧密化と樹脂の硬化反応を同時に行える点で好ましいが、必要に応じて、加圧および加熱を別々に行っても良い。例えば、加圧のみを先に行い、加圧を解除した後に加熱を行うことも可能である。
【0046】
圧縮工程においては、例えば、0.3〜1MPa程度の圧締圧力を加えることができるプレス機を用いて圧縮することができる。具体的には、従来から合板やパーティクルボード製造のために使用されていたプレス機を使用することができる。例えば、合板用のプレスであれば、0.7〜1MPa程度の圧締圧力を加えることができるプレス機が汎用されており、このようなプレス機を本発明に用いることができる。
【0047】
本発明においては、未処理の木材に対して、上記のように水蒸気処理と樹脂含浸処理を併せて行った後に、得られた処理木材を、必要に応じて複数枚重ねて加熱加圧処理することにより、密度の大きい木質材料を得ることができる。このとき、圧締圧力は、一般的な合板を製造する程度の圧力(例えば、1MPa:10.2kgf/cm)で充分であり、好ましい実施形態では、0.3〜1MPa程度での圧縮が可能となり、一般的な高強度木材を作製する場合に比べ、圧締圧力が著しく低減できる。このため、従来から使用されていたようなプレス機においても、大面積の強化材料を製造することができる。
【0048】
1つの実施形態においては、上述した方法により木材を処理し、樹脂が含浸して得られたものを該表層用木材とし、これに、未処理の、樹脂が含浸されていない裏打ち層用木材に重ねて加熱圧縮することができる。このような方法によれば、1つの層が圧密化され、他の層が未処理のまま圧密化されていない積層体が得られる。
【0049】
具体的には例えば、上記のように、水蒸気で処理し、次いでフェノール樹脂で処理した木材を、未処理の木材あるいは熱圧前の木質ボードマットに重ねて圧密すれば、選択的な圧密が実現し、単一の表面のみを高強度木材でコーティングした積層体、あるいは表側表面および裏側表面の両面を高強度木材として、その間に通常の圧密化されていない木材をサンドイッチしたような積層体が作製できる。この場合、高強度木材層と、裏打ち木材層との界面での接着力は非常に強固なものであり、接着力の良好な積層体が容易に製造できる点で非常に有利である。
【0050】
上述したとおり、本発明によれば、軽量かつ高強度で寸法安定性に優れた木質系材料、合板等を作成できる。処理工程も非常に単純であり、従来技術に比べて作業時間が大幅に短縮される。また、環境負荷が小さいなどの工業的なメリットがあり、家具材など一般的な用途に普及する可能性がある。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
【0052】
なお、以下の実施例において、試験方法は次の通りとした。
1.木材の重量減少:(木材の水蒸気処理前の全乾重量−木材の水蒸気処理後の全乾重量)/(木材の水蒸気処理前の全乾重量)
2.木材の重量増加:(木材のフェノール樹脂含浸後の全乾重量−木材のフェノール樹脂含浸前の全乾重量)/(木材のフェノール樹脂含浸前の全乾重量)
3.ヤング率および曲げ強度:幅8mm長さ50mm厚み2mmの木材の下面に幅40mmの間隔で支持部を配置し、木材の上面から中央部を、圧縮した(圧縮速度:5mm/分、25℃)。その他は、JIS K7203に準拠して測定した。
【0053】
(実施例1)
木材として、長さ60mm、幅40mm、厚み1.5mmのスギの単板(長さ方向に木目が走っている。密度0.37g/cm)を使用した。
【0054】
単板を、図1に示すように、水蒸気処理温度を変えて10分間水蒸気処理した。なお、図1においては、(a)水蒸気処理しないもの(未処理)、(b)140℃で水蒸気処理したもの、(c)160℃で水蒸気処理したもの、(d)180℃で水蒸気処理したもの、(e)200℃で水蒸気処理したものとした。
【0055】
これら単板を、20%濃度の低分子量フェノール樹脂(PL−2771,群栄化学工業(株)、平均分子量300、pH5.5)に室温、およそ0.5気圧の減圧下で3日間浸漬し、その後、風乾して含水率12%の樹脂含浸単板を得た。
【0056】
次に、単板を木目の方向を揃えて4枚積層し、温度が150℃の熱板を用いて、圧縮速度5mm/分で圧縮して、圧縮歪と圧縮力との関係を示す曲線を得た。
【0057】
それらの結果を図1に示す。
【0058】
(実施例2)
木材として実施例1で使用したものと同じ単板を使用した。
【0059】
単板を次のように処理した。
(A)単板を、160℃で10分間水蒸気処理して試料を得た。
(B)単板を、20%濃度の低分子量フェノール樹脂(PL−2771)に室温、およそ0.5気圧の減圧下で3日間浸漬し、その後、風乾して含水率12%の樹脂含浸試料を得た。
(C)単板を、160℃で10分間水蒸気処理し、次に20%濃度の低分子量フェノール樹脂(PL−2771)に室温、およそ0.5気圧の減圧下で3日間浸漬し、その後、風乾して樹脂含浸試料を得た。
(D)単板を、200℃で5分間水蒸気処理し、次に20%濃度の低分子量フェノール樹脂(PL−2771)に室温、およそ0.5気圧の減圧下で3日間浸漬し、その後、風乾して樹脂含浸試料を得た。
(E)単板を2%濃度の亜塩素酸ナトリウム水溶液中、50℃で20時間処理した。この操作を4回繰り返し、重量減少率21.9%の試料を得た。次に、20%濃度の低分子量フェノール樹脂(PL−2771)に室温、およそ0.5気圧の減圧下で3日間浸漬し、その後、オーブン中に風乾して樹脂含浸試料を得た。
【0060】
次に、これらの試料を、木目の方向を揃えて4枚積層し、温度が150℃の熱板を用いて、圧縮速度5mm/分で圧縮して、圧縮力と木材の密度の関係を示す曲線を得た。
【0061】
それらの結果を図2に示す。
【0062】
(実施例3)
木材として、実施例1で使用したものと同じ単板を使用した。
【0063】
単板を、図3に示すように水蒸気処理温度を変えて10分間水蒸気処理した。なお、図3においては、(a)水蒸気処理しない(未処理)もの、(b)140℃で水蒸気処理したもの、(c)160℃で水蒸気処理したもの、(d)180℃で水蒸気処理したもの、(e)200℃で水蒸気処理したものとした。
【0064】
これら単板を、20%濃度の低分子量フェノール樹脂(PL−2771)に室温、およそ0.5気圧の減圧下で3日間浸漬し、その後、風乾して樹脂含浸試料を得た。
【0065】
次に、各単板を木目の方向を揃えて4枚積層し、温度が150℃の熱板を用いて、図3に示す時間、1MPaで圧縮保持して、保持時間と木材の密度との関係を示す曲線を得た。
【0066】
それらの結果を図3および表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
図3から、水蒸気温度が高いほど、木材の密度が上がることがわかり、また表1から、水蒸気で処理すると木材の機械特性が上がることがわかる。
【0069】
(実施例4)
木材として、実施例1で使用したものと同じ単板を使用した。
【0070】
単板を、図4に示すように水蒸気処理時間を変えて160℃の水蒸気処理を実施した。なお、図4においては、(a)水蒸気処理しない(未処理)もの、(b)160℃で2分間水蒸気処理したもの、(c)160℃で5分間水蒸気処理したもの、(d)160℃で10分間水蒸気処理したもの、(e)160℃で20分間水蒸気処理したもの、(f)160℃で30分間水蒸気処理したもの、(g)160℃で60分間水蒸気処理したものとした。
【0071】
これら単板を、20%濃度の低分子量フェノール樹脂(PL−2771)に室温、およそ0.5気圧の減圧下で3日間浸漬し、その後、風乾して樹脂含浸試料を得た。
【0072】
次に、単板を木目の方向を揃えて4枚積層し、温度が150℃の熱板を用いて、圧縮速度5mm/分(測定温度:25℃)で圧縮して、圧縮力と木材の密度との関係を示す曲線(図4)を得た。
【0073】
また、各単板を木目の方向を揃えて4枚積層し、温度が150℃の熱板を用いて、図5に示す時間、1MPaで圧縮保持して、保持時間と木材の密度との関係を示す曲線(図5)を得た。
【0074】
結果を図4および図5ならびに表2に示す。
【0075】
【表2】

【0076】
図4および図5ならびに表2の結果から、水蒸気の処理時間が長くなると、低い圧縮力で変形することがわかる。また、木材の密度、機械特性が上がっていることがわかる。
【0077】
上述した実施例では、水蒸気処理のみを行っているので、木材中のリグニンおよびセルロースはそのまま保持され、ヘミセルロースのみが低分子化または除去されている。すなわち、ヘミセルロースの低分子化または除去により低圧の圧縮条件下で高強度の材料が得られていることが理解される。このことは、「リグニンおよびセルロースが木材の成形性に大きく寄与するのであって、ヘミセルロースは木材の成形性には実質的に寄与しない」という従来の技術常識からは予想し難い予期せぬ結果である。
【0078】
本明細書中では、好ましい実施形態および実施例を中心に説明したが、本発明はこれらの好ましい実施形態および実施例に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】圧縮歪と圧縮力との関係を示す図である。
【図2】圧縮力と木材の密度との関係を示す図である。
【図3】圧縮の保持時間と木材の密度との関係を示す図である。
【図4】圧縮力と木材の密度との関係を示す図である。
【図5】圧縮の保持時間と木材の密度との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材を処理して該木材中に含まれるヘミセルロースを除去または低分子化する工程、
該処理した木材に樹脂を含浸する工程、および
該樹脂が含浸した木材を圧縮する工程、を包含する強化木材の製造方法。
【請求項2】
前記ヘミセルロースを除去または低分子化する木材処理工程後の木材中のリグニンが該処理工程前と比べて実質的に維持されている、請求項1に記載の強化木材の製造方法。
【請求項3】
前記ヘミセルロースを除去または低分子化する工程が、木材を水蒸気処理する工程である、請求項1に記載の強化木材の製造方法。
【請求項4】
前記水蒸気処理が、水蒸気温度140〜180℃で1〜30分間の条件で実施される請求項3に記載の強化木材の製造方法。
【請求項5】
前記水蒸気処理が、水蒸気で満たされた密閉容器中に木材を配置して実施される請求項3に記載の強化木材の製造方法。
【請求項6】
前記樹脂が、フェノール樹脂である請求項1に記載の強化木材の製造方法。
【請求項7】
前記樹脂の木材に含浸される樹脂量が、ヘミセルロースを除去または低分子化する処理の前の木材100重量部に対して10〜80重量部である請求項1に記載の強化木材の製造方法。
【請求項8】
前記樹脂が、減圧下で木材に含浸される請求項1に記載の強化木材の製造方法。
【請求項9】
前記木材を圧縮する工程が、140〜160℃で10〜30分間の条件で実施される請求項1に記載の強化木材の製造方法。
【請求項10】
表層用木材を処理して該表層用木材に含まれるヘミセルロースを除去または低分子化する工程、
該表層用木材に樹脂を含浸する工程、および
該樹脂が含浸した該表層用木材に、裏打ち層用木材を重ねて加熱圧縮する工程、を包含する表層強化木材積層体の製造方法。
【請求項11】
前記木材に含まれるヘミセルロースを除去する工程が、木材を水蒸気で処理することである請求項10に記載の表層強化木材積層体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−240032(P2006−240032A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−58248(P2005−58248)
【出願日】平成17年3月2日(2005.3.2)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】