説明

水蒸気透過性評価用セルおよび水蒸気透過性評価方法

【課題】 水蒸気透過性を評価する試験片の水蒸気透過性評価において、セルの割れを防止することが可能であり、より高い信頼性を有する評価結果が得られる水蒸気透過性評価セル及び水蒸気透過性評価方法を提供する。
【解決手段】 腐食性金属層と、水蒸気を透過しない金属からなる金属層を有する水蒸気不透過層とを備え、前記水蒸気不透過層が、水蒸気透過性評価に用いる評価用セルであって、前記水蒸気不透過層は、水蒸気を透過しない金属からなる金属層と、アルカリ土類金属からなる割れ防止緩衝層を有する積層構造を備えた水蒸気透過性評価用セル、並びに、前記水蒸気透過性評価用セルを用いて、前記評価用セルを加湿処理し、腐食性金属層の腐食状態を評価することにより、試験片の水蒸気透過性を評価する、水蒸気透過性評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水蒸気透過性評価用セルおよび水蒸気透過性評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、プラスチック、フィルム、シートなどの包装材料の重要な特性の一つである水蒸気透過度は、所定の温度と湿度の条件下で単位時間に単位面積の試験片を通過する水蒸気の量で評価され、代表的な試験方法として、感湿センサー法、カップ法などにより測定されている(例えば、非特許文献1及び2参照。)。
【0003】
近年、ディスプレイなどに用いる薄膜などにおいては耐透水性の良好な膜が開発されるようになり、従来の水蒸気透過度試験では評価が困難なレベルとなり、カルシウム層を用いた試験法などにより測定されるようになってきた(例えば、非特許文献3参照。)。しかし、このような方法においても、高度な耐透水性が求められる薄膜の試験では、適切な処理をしないと、試験片やカルシウム層上のゴミ等の影響により、加湿処理の際に、評価用セルにおけるカルシウム層の外層に設けられた水不透過層にわずかな割れなどを生じることがある。このようにわずかなものであっても割れなどが生じると、その隙間から水蒸気が進入し、カルシウム腐食法の評価基準となるカルシウム層に、目的としない腐食物を生じることとなり、試験片が本来有する特性や測定精度に影響を与えることとなる。また、カルシウム層に生じた腐食物が、試験片を透過した水によるものか、外層部の水不透過層より浸入した水によるものかを容易に確認できないこともあり、評価の信頼性を向上させることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献1】JIS K 7129
【非特許文献2】JIS Z 0208
【非特許文献3】G. NISATO at al, SID Conference Record of the International Display Research Conference pp. 1435-8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、水蒸気透過性を評価する試験片の水蒸気透過性評価において、セルの割れを防止することが可能であり、より高い信頼性を有する評価結果が得られる水蒸気透過性評価セル及び水蒸気透過性評価方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、試験片の評価面に、水蒸気透過性を評価するための腐食性金属層と、水蒸気不透過層とを備えた評価用セルにおいて、前記水蒸気不透過層が、水蒸気を透過しない金属からなる金属層と該金属層の割れ防止緩衝層を有する積層構造を備えることにより、評価用セルの割れを防止することが可能となり、評価における信頼性が向上することを見出し、さらに検討することにより、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は、下記第(1)項〜第(5)項に記載の水蒸気透過性評価用セル、及び下記第(6)項〜第(8)項に記載の水蒸気透過性評価方法により構成される。
(1)試験片に、水と化学反応して腐食物を生じる金属からなる腐食性金属層と、水蒸気を透過しない金属からなる金属層を有する水蒸気不透過層とを備えた、水蒸気透過性評価に用いる評価用セルであって、前記水蒸気不透過層は、水蒸気を透過しない金属からなる金属層と、アルカリ土類金属からなる割れ防止緩衝層を有する積層構造を備えたものであることを特徴とする水蒸気透過性評価用セル。
(2)前記水蒸気不透過層における水蒸気を透過しない金属からなる金属層を有する水蒸気不透過層は、水蒸気を透過しない金属からなる2つの金属層の間に、該割れ防止緩衝層を有する積層構造である第(1)項に記載の水蒸気透過性評価用セル。
(3)前記水蒸気不透過層における水蒸気を透過しない金属からなる金属層を有する水蒸気不透過層は、水蒸気を透過しない金属からなる金属層が、少なくとも2種類の金属層で構成されるものである第(1)項又は第(2)項に記載の水蒸気透過性評価用セル。
(4)前記水蒸気不透過層における水蒸気を透過しない金属からなる金属層を有する水蒸気不透過層は、水蒸気を透過しない金属からなる金属層が、金属合金で構成されるものである第(1)項〜第(3)項のいずれか1項に記載の水蒸気透過性評価用セル。
(5)前記水蒸気不透過層における水と化学反応して腐食物を生じる金属からなる腐食性金属層は、アルカリ土類金属又はアルカリ金属を含むものである第(1)項〜第(4)項のいずれか1項に記載の水蒸気透過性評価用セル。
(6)第(1)項〜第(5)項のいずれか1項に記載の水蒸気透過性評価用セルを用いて、前記評価用セルを加湿処理し、水と化学反応して腐食物を生じる腐食性金属層の腐食状態を評価することにより、試験片の水蒸気透過性を評価する、水蒸気透過性評価方法。
(7)前記腐食状態の評価は、試験片と接する、水と化学反応して腐食物を生じる腐食性金属層の表面を直接観察することにより、試験片の欠陥部を評価するものである、第(6)項に記載の水蒸気透過性評価方法。
(8)前記腐食状態の評価は、さらに、水と反応して腐食物を生じる腐食性金属層における腐食物の面積と腐食物の厚みから算出される金属腐食物の体積から、試験片を透過した水分量を定量するものである、第(7)項に記載の水蒸気透過性評価方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水蒸気透過性評価セルによれば、水蒸気透過性を評価する試験片の水蒸気透過性評価において、セルの割れを防止することが可能であり、より高い信頼性を有する評価結果が得られる。水蒸気透過性評価セル及び水蒸気透過性評価方法に関するものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の水蒸気透過性評価用セルの構造の一例について説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、試験片に、水と化学反応して腐食物を生じる金属からなる腐食性金属層と、水蒸気を透過しない金属からなる金属層を有する水蒸気不透過層とを備えた、水蒸気透過性評価に用いる評価用セルであって、前記水蒸気不透過層は、水蒸気を透過しない金属からなる金属層と、アルカリ土類金属からなる割れ防止緩衝層を有する積層構造を備えたものであることを特徴とする水蒸気透過性評価用セルであり、水蒸気を透過しない金属からなる金属層の割れ防止用の緩衝層を有することにより、評価用セルの割れを防止することが可能となり、より評価の信頼性を向上させることができるものである。また、本発明の水蒸気透過性評価用セルは、前記水蒸気不透過層が、水蒸気不透過金属層ともう一つの水蒸気不透過金属層の間に、割れ防止緩衝層であるアルカリ土類金属層をサンドイッチ状とする積層構造を構成することにより、評価用セルの割れ防止効果をより発現しやすくするものである。
【0011】
また、本発明は、上記水蒸気透過性評価用セルを用いて、前記評価用セルを加湿処理し、水と化学反応して腐食物を生じる腐食性金属層の腐食状態を評価することにより、試験片の水蒸気透過性を評価することができるものである。水蒸気透過性の評価においては、加湿処理により、水蒸気透過性評価用セルに組み込んだ水蒸気透過性を評価する試験片が水蒸気を透過する場合、水蒸気が、前記水と化学反応して腐食物を生じる腐食性金属層に到達し、該腐食性金属層が腐食反応を起こし腐食物を生成することから、ここで生成した腐食物を評価するものである。さらに詳しい評価として、該腐食物の体積を算出することにより、試験片を透過した水分量を定量して水蒸気透過率を得ることができるものである。
【0012】
本発明の水蒸気透過性評価用セルの構造について、図面を用いて、その一例を説明する。
図1は、本発明の水蒸気透過性を評価する試験片と、水と化学反応して腐食物を生じる金属からなる腐食性金属層(以下、腐食性金属層)と、水蒸気を透過しない金属からなる金属層を有する水蒸気不透過層(以下、水蒸気不透過層)とを備え、水蒸気不透過層が、水蒸気を透過しない金属からなる金属層(以下、水蒸気不透過金属層)と水蒸気不透過金属層の割れ防止緩衝層(以下、割れ防止緩衝層)を有する積層構造を備えた評価用セルの一例を示す模式図である。
【0013】
本発明の評価用セルは、フィルムなどの水蒸気透過性を評価する試験片1の評価面の所定の位置に、腐食性金属層2が設けられ、次いで、水蒸気不透過層6が設けられている。水蒸気不透過層6は、腐食性金属層2を覆うように、第一の水蒸気不透過金属層3が設けられ、さらに第一の水蒸気不透過金属層3を覆うように、割れ防止緩衝層4が設けられ、さらに割れ防止緩衝層4を覆うように、第二の水蒸気不透過金属層5が設けられた積層構造を有するものである。なお、水蒸気不透過層の構造は、2つの水蒸気不透過金属層の間に、割れ防止緩衝層を備えた積層構造を示したが、図面の構造に限られるものではないが、水蒸気不透過金属層は、1種又は2種以上の金属層であっても良い。
【0014】
本発明の評価に用いる試験片としては、フィルム状、シート状、板状あるいはブロック状などの形状を有するものを用いることができる。本発明の水蒸気透過性評価には、一般的に、食品や電子部品などに用いられる単層もしくは複合防湿フィルムやシート、金属蒸着膜、建材用防水シート、組立部品などが適用される。
【0015】
次に、本発明の評価用セルの作り方の例について、上記構造の一例を用いて説明する。
まず、水蒸気透過性を評価する試験片1を用意し、該試験片の評価する面、通常は水蒸気を接触させる面の反対側の面の所定の位置に、水と化学反応して腐食物を生じる金属を用いて、蒸着法などの方法により、腐食性金属層2を形成することができる。次いで、水蒸気不透過層6を形成するが、まず、上記試験片上の腐食性金属層2を覆うように、水蒸気を透過しない金属を用いて、蒸着法などの方法により第一の水蒸気不透過金属層3を形成することができる。
【0016】
次いで、上記第一の水蒸気不透過金属層3を覆うように、アルカリ土類金属を用いて、上記同様にして蒸着法により、割れ防止緩衝金属層4を形成し、さらに上記割れ防止緩衝層4を覆うように、水蒸気を透過しない金属を用いて、上記同様にして蒸着法により、第二の水蒸気不透過金属層5を形成することで水蒸気不透過層6を形成することができる。
【0017】
次いで、上記で得られた、腐食性金属層2と水蒸気不透過層6が形成された試験片1において、水蒸気に暴露される際に、少なくとも腐食性金属層2と水蒸気不透過層6が水蒸気に接触することがないように、水蒸気接触面以外の部分を、樹脂、ガラス、金属等により封止を行い、評価用セルを得ることができる。
【0018】
上記水と化学反応して腐食物を生じる金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム及びフランシウムなどのアルカリ金属、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム及びラジウムなどのアルカリ土類金属、さらにはアルミニウム、鉄及び鉛などのイオン化傾向の高い金属が挙げられる。これらの中でも、アルカリ土類金属又はアルカリ金属が好ましく、より好ましくはアルカリ土類金属であり、これらの中でも、バリウム又はカルシウムが好ましい。また、これらの金属の粒子径としては、1〜5mm程度のものを用いることができる。
【0019】
上記腐食性金属層を作製する方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング蒸着法、イオプレーテイング法等の公知の蒸着法を用いることができる。
上記腐食性金属層の厚みとしては、30nm〜500nmが好ましく、それぞれの腐食性金属層の厚みは同じであっても異なっていても良い。
【0020】
上記水蒸気を透過しない金属としては、水蒸気を透過しない、かつ、水と化学反応して腐食物を生じない金属であればよく、アルミニウム、亜鉛、錫、インジウム、鉛、銀及び銅などの金属が挙げられ、これらの金属を含む合金であっても良い。これらの中でも、アルミニウム及び銀が好ましい。これらの金属は、水蒸気不透過層において、異なる金属を用いることができる。
【0021】
上記割れ防止緩衝層に用いるアルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム及びラジウムなどが挙げられる。これらの中でも、バリウム又はカルシウムが好ましい。また、割れ防止緩衝層に、水と化学反応して腐食物を生じる金属を用いることで、水蒸気不透過層の割れを確認することもできる。
【0022】
上記水蒸気不透過層の作製において、水蒸気不透過金属層と割れ防止緩衝金属層を作製する方法としては、上記腐食性金属層を作製する方法と同様な蒸着法を用いることができ、さらには一般的な溶射法を用いることができる。
【0023】
上記水蒸気不透過金属層の厚みとしては、500nm〜20μmが好ましく、それぞれの水蒸気不透過金属層の厚みは同じであっても異なっていても良い。
また、割れ防止緩衝層の厚みとしては、10nm〜800nmが好ましい。
【0024】
上記水蒸気接触面以外の部分を封止する樹脂としては、評価用セルの水蒸気不透過層の表面を保護するために、評価の際に加湿を行う条件、例えば、温度40±0.5℃、相対湿度90±2%の条件下に、評価用セルを24時間暴露したときに、封止樹脂の質量変化が、暴露面積50cmで当たり1mg以下である有機物であれば良く、具体例としては、蜜蝋、カルナバ蝋、パラフィン系ワックス等を挙げることができる。
【0025】
水蒸気接触面以外の部分の封止を行う方法としては、例えば、蜜蝋とパラフィンとを1:1の割合で溶融混合した樹脂混合物を溶融させ、溶融樹脂として、これを用いて、少なくとも最外層の前記水蒸気不透過金属層(水蒸気不透過層)の露出面の全面を覆うことができるよう、接触させて樹脂層を形成した後、樹脂層を冷却固化させて封止することができる。また、ガラス板や金属板などと、溶融樹脂とを組み合わせて用いることにより、ガラス板や金属板などを樹脂で固定して、腐食性金属層と水蒸気不透過層を封止することもできる。
【0026】
次に、本発明の水蒸気透過性評価用セルの用い方の例を説明する。
本発明の水蒸気透過性評価用セルを用いて、試験片の水蒸気透過性を評価する方法の例としては、まず、上記評価用セルを用意し、これを水蒸気接触面に水蒸気が触れるように、恒温恒湿槽内に配置して、所定の条件下にて加湿処理を行う。
【0027】
加湿処理条件としては、封止樹脂の融点以下での任意の条件下において行うことが好ましいが、例えば、温度が40±0.5℃で、相対湿度が90±2%で行うことができる。
【0028】
このような加湿処理を、測定する時間ごとに行った評価用セルを、それぞれ用意し、腐食性金属層の腐食状態を評価することにより、試験片の水蒸気透過性を評価することができる。また、加湿処理時間を経過するごとに、評価用セルを取り出し腐食性金属層の腐食状態を評価することもできる。
【0029】
また、このような腐食状態を評価する方法としては、試験片と接する、腐食性金属層の表面を直接観察することにより、試験片の欠陥部(生成腐食物)を評価する方法が挙げられる。さらには、腐食性金属層における腐食物の面積と腐食物の厚みから算出される金属腐食物の体積から、試験片を透過した水分量を定量することができる。
【0030】
上記試験片を透過した水分量の定量法としては、加湿処理により、腐食性金属層は水分と化学反応することで、下記化学式(1)に示すように、価数aの腐食性金属層を構成する金属Mの1モルはaモルの水分と反応し、1モルの金属水酸化物を生成する。
M + aHO → M(OH)a + (a/2)H 化学式(1)
【0031】
このことより、試験片を透過した水分量を1日の単位面積当たりに換算した水蒸気透過度(単位:g/m/day)として表すことができ、前記水蒸気透過度は、上記加湿処理における、加湿処理時間、水蒸気透過性評価用セルの腐食性金属層の面積、加湿処理後の腐食性金属層に生成した金属腐食物の面積と腐食性金属層の厚み、腐食後の金属水酸化物の密度から、下記数式(1)により算出して求めることができる。
水蒸気透過度=X*18*a*(10000/A)*(24/T) 数式(1)
【0032】
なお、上記数式(1)中、Tは恒温恒湿処理時間(時間)、Aは腐食性金属層の面積(cm)、tは腐食性金属層の厚み(cm)、δは腐食性金属層に生成した金属腐食物の面積(cm)、dは腐食後の金属水酸化物密度(MOH)(g/cm)、aは腐食性金属層を構成する金属の価数を表し、Xは下記数式(2)で得られる加湿処理により生成する金属腐食物(金属水酸化物)のモル質量(g/mol)を表す。
X=(δ*t*d)/Mw 数式(2)
上記数式(2)中、Mwは腐食性金属層に生成した金属腐食物(金属水酸化物)の分子量(式量)を表し、δ、t及びdは数式(1)中のそれらと同じものを表す。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)
(1)水蒸気透過性評価用セルの作製
試験片として、ポリエーテルサルホンフィルム(厚み200μm)とSiO層(無機層、厚み50nm)からなる二層構造を有する水蒸気不透過性フィルムを用意し、試験片の一方の面の中央部に、腐食金属として金属カルシウム(2価)を用いて、真空蒸着装置(日本電子製真空蒸着装置JEE−400)により、面積が2.0mm×2.0mmで、厚み200nmの腐食性金属層を形成した。次いで、前記腐食性金属層の露出面のすべてを覆うように、金属アルミニウムを用いて、上記と同様の真空蒸着により、厚み4μmの第一の水蒸気不透過金属層を形成した。次いで、前記第一の水蒸気不透過金属層の露出面のすべてを覆うように、金属バリウム(2価)を用いて、真空蒸着法により、厚み50nmの割れ防止緩衝金属層を形成した。次いで、割れ防止緩衝金属層の露出面のすべてを覆うように、銀を用いて、真空蒸着法により、厚み1μmの第二の水蒸気不透過金属層を形成した。次いで、蜜蝋(融点60〜62℃)とパラフィン(融点60〜62℃)とを1:1の割合で溶融混合した樹脂を用いて、80℃〜100℃の温度で溶融させたものに、第二の水蒸気不透過金属層を全て覆うように接触させ、樹脂を冷却固化させて封止を行い、水蒸気透過性評価用セルを作製した。なお、試験片のフィルムは、その無機層をスパッタリングにて形成したものを用いた。
【0035】
(2)水蒸気透過性の評価
上記で得た水蒸気透過性評価用セルを用い、これを40℃、湿度90%の恒温恒湿槽に、300時間載置し、恒温恒湿による処理(加湿処理)を行った。加湿処理後、第一の腐食性金属層における腐食物の生成について、レーザー顕微鏡により、2.0mm×2.0mmの画像を撮影し記録した。腐食した部分は、金属カルシウムが水分と反応し、水酸化カルシウムとなり、撮影すると変色あるいは白色部として観察された。予め、加湿処理前に、上記水蒸気透過性評価用セルの腐食性金属層における腐食物の生成について、レーザー顕微鏡により記録しておいた画像を基準として比較して、恒温恒湿処理500時間での腐食部の総面積を測定した。恒温恒湿度500時間処理後の2.0mm×2.0mmの面積の腐食性金属層に50〜150μm径の腐食が確認でき、腐食総面積は5.1x10−4cmであった。腐食として観察される水酸化カルシウムの分子量と密度は76.1と2.24g/cmとであることから、生成した水酸化カルシウムのモル質量は3.00x10−10g/molであった。これらより、水蒸気透過度を求めたところ、2.2×10−4(g/m/day)であった。尚、腐食部付近を観察したが、水蒸気不透過層に割れは認められず、上記水蒸気透過性評価用セルが正常に機能したことがわかった。
【0036】
(実施例2)
(1)水蒸気透過性評価用セルの作製
実施例1において、第二の水蒸気不透過金属層に、第一の水蒸気不透過金属層の形成に用いた金属アルミニウムを用いた以外は、実施例1と同様にして、水蒸気透過性評価用セルを作製した。
【0037】
(2)水蒸気透過性の評価
上記で得た水蒸気透過性評価用セルを用い、実施例1における恒温恒湿槽の載置時間を、300時間から400時間とした以外は、実施例1と同様の操作により水蒸気透過性の評価を行った。
加湿処理後の腐食性金属層における腐食物の生成について確認したところ、変色あるいは白色部となった腐食物である水酸化カルシウムが観察された。恒温恒湿度600時間処理後の2.0mm×2.0mmの面積の腐食性金属層には、60〜160μm径の腐食が確認でき、腐食総面積は5.6×10−4cmであった。これより算出される水酸化カルシウムのmol質量は3.30×10−10g/molであった。これらより、水蒸気透過度を求めたところ、1.8×10−4(g/m/day)であった。尚、腐食部付近を観察したが、水蒸気不透過層に割れは認められ認められず、上記水蒸気透過性評価用セルが正常に機能したことがわかった。
【0038】
(実施例3)
(1)蒸気透過性評価用セルの作製
実施例1において、水蒸気不透過性フィルム上に、直径約100μm〜約500μmの異物粒子を付着させた試験片を用いた以外は、実施例1と同様にして、水蒸気透過性評価用セルを作製した。
【0039】
(2)水蒸気透過性の評価
上記で得た水蒸気透過性評価用セルを用い、実施例1における恒温恒湿槽の載置時間を、300時間から450時間とした以外は、実施例1と同様の操作により水蒸気透過性の評価を行った。
加湿処理後の腐食性金属層における腐食物の生成について確認したところ、変色あるいは白色部となった腐食物である水酸化カルシウムが観察された。恒温恒湿度700時間処理後の2.0mm×2.0mmの面積の腐食性金属層には、50〜140μm径の腐食が確認でき、腐食総面積は3.6×10−4cmであった。これより算出される水酸化カルシウムのmol質量は2.12×10−10g/molであった。これらより、水蒸気透過度を求めたところ、1.0×10−4(g/m/day)であった。尚、腐食部付近を観察したが、水蒸気不透過層に割れは認められず、上記水蒸気透過性評価用セルが正常に機能したことがわかった。
【0040】
(比較例1)
(1)水蒸気透過性評価用セルの作製
実施例1において、水蒸気不透過性フィルム上に、直径約100μm〜約500μmの異物粒子を付着させた試験片を用い、水蒸気不透過層について、割れ防止緩衝金属層と第二の水蒸気不透過金属層を形成しなかった以外は、実施例1と同様にして水蒸気透過性評価用セルを作製した。
【0041】
(2)水蒸気透過性の評価
上記で得た水蒸気透過性評価用セルを用い、実施例1と同様の操作により水蒸気透過性の評価を行った。
加湿処理後の腐食性金属層における腐食物の生成について確認したところ、変色あるいは白色部となった腐食物である水酸化カルシウムが観察された。恒温恒湿度500時間処理後の2.0mm×2.0mmサイズのカルシウム薄膜中に100〜580μm径の腐食が確認でき、腐食総面積は7.5×10−3cmであった。これより算出される水酸化カルシウムのmol質量は4.42×10−9g/molであった。これらより、水蒸気透過度を求めたところ、3.2×10−3(g/m/day)であった。なお、腐食部付近を観察したところ、水蒸気不透過層に割れが認められ、水蒸気透過性評価用セルが正常に機能していないことがわかった。
【符号の説明】
【0042】
1 試験片
2 腐食性金属層
3 第一の水蒸気不透過金属層
4 割れ防止緩衝金属層
5 第二の水蒸気不透過金属層
6 水蒸気不透過層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験片に、水と化学反応して腐食物を生じる金属からなる腐食性金属層と、水蒸気を透過しない金属からなる金属層を有する水蒸気不透過層とを備えた、水蒸気透過性評価に用いる評価用セルであって、前記水蒸気不透過層は、水蒸気を透過しない金属からなる金属層と、アルカリ土類金属からなる割れ防止緩衝層を有する積層構造を備えたものであることを特徴とする水蒸気透過性評価用セル。
【請求項2】
前記水蒸気不透過層における水蒸気を透過しない金属からなる金属層を有する水蒸気不透過層は、水蒸気を透過しない金属からなる2つの金属層の間に、該割れ防止緩衝層を有する積層構造である請求項1に記載の水蒸気透過性評価用セル。
【請求項3】
前記水蒸気不透過層における水蒸気を透過しない金属からなる金属層を有する水蒸気不透過層は、水蒸気を透過しない金属からなる金属層が、少なくとも2種類の金属層で構成されるものである請求項1又は2に記載の水蒸気透過性評価用セル。
【請求項4】
前記水蒸気不透過層における水蒸気を透過しない金属からなる金属層を有する水蒸気不透過層は、水蒸気を透過しない金属からなる金属層が、金属合金で構成されるものである請求項1〜3のいずれか1項に記載の水蒸気透過性評価用セル。
【請求項5】
前記水蒸気不透過層における水と化学反応して腐食物を生じる金属からなる腐食性金属層は、アルカリ土類金属又はアルカリ金属を含むものである請求項1〜4のいずれか1項に記載の水蒸気透過性評価用セル。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の水蒸気透過性評価用セルを用いて、前記評価用セルを加湿処理し、水と化学反応して腐食物を生じる腐食性金属層の腐食状態を評価することにより、試験片の水蒸気透過性を評価する、水蒸気透過性評価方法。
【請求項7】
前記腐食状態の評価は、試験片と接する、水と化学反応して腐食物を生じる腐食性金属層の表面を直接観察することにより、試験片の欠陥部を評価するものである、請求項6に記載の水蒸気透過性評価方法。
【請求項8】
前記腐食状態の評価は、さらに、水と反応して腐食物を生じる腐食性金属層における腐食物の面積と腐食物の厚みから算出される金属腐食物の体積から、試験片を透過した水分量を定量するものである、請求項7に記載の水蒸気透過性評価方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−7954(P2012−7954A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−143062(P2010−143062)
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)