説明

水解性不織布

【目的】 水中に投入することにより、崩壊分散する不織布において、機械的強度を損なわずにその崩壊分散性を向上させる。
【構成】 不飽和カルボン酸成分の一部が中和塩に形成されている不飽和カルボン酸/不飽和カルボン酸エステル共重合体を主成分とする、水溶性バインダーで結合された水分散性繊維からなる水解性不織布において、該繊維層は15mm長以下の繊維が互いに交絡して構成されており、かつ塩感応性バインダーの含有率が0.5〜10重量%であることを特徴とする水解性不織布。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、多量の水中に投入することにより、瞬時に崩壊分散させることができる水解性不織布に関するものである。
【0002】
【従来の技術及びその問題点】不織布は、生理用ナプキン、オリモノシート、紙オムツなどの使い捨て吸収性物品類の構成材料として広く用いられている。このような吸収性物品に用いられる不織布はその特性上、経血、尿等の体液で湿潤されても破れを生ずることのない十分な強力を有することが必要である。そのため、繊維同志を結合する手段として、繊維長の比較的長い、例えば30mm以上の繊維原料を使用して繊維間を高度に交絡したり、繊維間の結合するバインダーとして水不溶性の樹脂を用いたりしている。
【0003】一方、前記使い捨て吸収性物品類やオムツライナーに用いられる不織布には、使用後の廃棄が水洗トイレで可能なように、水中で細かくほぐれて分散する性質、即ち、水解性を付与することが要望されている。この点からすると前記不織布はこうした用途には使用不可能である。
【0004】これまでにも、前記用途のための水解性不織布として、例えば、レーヨン短繊維と水溶性ビニロン繊維を主成分とするいわゆる湿式不織布があるが、使用時の湿潤強力や風合い面などで不満足なものである。特開平1−30661号公報によると、水解性不織布を得るために繊維長が26mmのレーヨン繊維を用い、エアレイ法で繊維ウエブを形成し、次いで塩感応性バインダーを塗布することが提案されているが、バインダーの塗布量と使用時の湿潤強力、風合のバランスが悪く、実用上不満足であり、また、水解性においても、安心して水洗トイレに流せるレベルではない。このように、従来技術は湿潤強力と水解性には二律相反性の関係を示しており、この両者を満たした、しかも風合いの良い水解性不織布は見当たらない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、従来技術に見られる前記問題を解決し、使用時の湿潤強力を保持し、水洗トイレへの廃棄において容易に崩壊分散し、かつ、風合いの良い(柔軟で触感の良い)不織布を提供することをその課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記課題を解決すべき鋭意研究を重ねた結果、不織布を構成する繊維として10〜15mm長の短繊維を用い、この繊維同志の交絡構造と塩感応性バインダーによる結合の組み合わせにより、その課題を解決できることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0007】即ち、本発明によれば、塩感応性バインダーで結合された水分散性繊維からなる水解性不織布において、該繊維層は10〜15mm長の繊維が互いに交絡して構成されており、かつ塩感応性バインダーの含有率が0.5〜10重量%であることを特徴とする水解性不織布を提供するものである。
【0008】本発明で用いられる塩感応性バインダーは、繊維層の結合を強化せしめると共に体液のような塩濃度の高い液体に浸されても溶解せず結合強力を発揮し、かつ多量の水に接触すると塩濃度が下がり即時に溶解するものである。
【0009】この塩感応性バインダーの組成は、不飽和カルボン酸成分の一部が中和塩に形成された不飽和カルボン酸と不飽和カルボン酸エステルとの共重合体を主成分とするものであり、不飽和カルボン酸としては、従来公知のものが挙げられるが、特にアクリル酸及び/又はメタクリル酸が好ましい。不飽和カルボン酸エステルとしては、アルキルエステル、シクロヘキシルエステル、アルキルヘキシルエステル等が挙げられる。
【0010】前記共重合体において、その平均分子量は5000〜100000である。また、その不飽和カルボン酸成分Aと不飽和カルボン酸エステル成分Bとの重量比A/Bは、1/9〜9/1、好ましくは3/7〜8/2であり、不飽和カルボン酸成分Aのうち、その2〜60モル%、好ましくは5〜50モル%は中和塩として形成されている。不飽和カルボン酸成分Aの中和率が前記範囲より小さいと、水溶性が低下して不織布の水解性が劣るので好ましくない。一方、前記範囲より大きいと、体液による溶解が起こり不織布の強力が低下するので好ましくない。
【0011】以上のように、塩感応性バインダーとしての前記共重合体は、不飽和カルボン酸成分A、及び不飽和カルボン酸エステル成分Bの種類、A/B比率、不飽和カルボン酸成分Aの中和率、並びに共重合体の分子量において、不織布の体液に対する強さと水解性が実用上バランスするように、更には、不織布の柔らかさ、湿潤時のサラット性も付与するように前記範囲内で調節することができるので好都合である。また、本発明で用いる本塩感応性バインダーは、前記共重合体を単独で使用し得る他、他の水溶性高分子又はそれらの塩の重合体等を適量併用することもできる。
【0012】次に不織布を構成する繊維層について説明すると、本発明で使用される繊維の種類は、特に限定されるものではなく、従来公知のセルロース系や動物系の天然繊維、セルロース系再生及び誘導繊維、各種合成繊維等が挙げられる。廃棄後の生分解性の点では合成繊維は不利であり、天然繊維の使用が好ましい。これらの繊維は単独又は複数の混合物として使用することができる。パルプ繊維は、その繊維長が2〜5mmと短いが、繊維層の主成分が合成繊維である場合には、ウェブの強度を良好にするので、少量使用することが好ましい。
【0013】これらの繊維は、10〜15mm長に切断処理された短繊維を主成分とすることが必要である。15mm長より長い、長繊維を主成分とする繊維同志が交絡した不織布の水解性は急激に低下、即ち一定レベルの水解性に達する時間が長くなる。一方、15mm長以下の短繊維であれば、水解性の点では特に問題はないが、繊維長が5mm長より短かくなると、繊維交絡が起こりにくく、不織布の強さが極端に小さくなるばかりでなく、ウオーターニードリングを中心とする工程性が全く無くなる。この点から、主成分となる繊維の繊維長は10mm以上に規定するのがよい。本発明の不織布の繊維層において、その10〜15mm長の繊維の含有率は50重量%以上、好ましくは70〜100重量%であり、15mm長より長い長繊維の含有率は10重量%以下、好ましくは6重量%以下に規定するのが良く、10mm長より短い繊維の含有率は、50重量%以下、好ましくは30重量%以下にするのがよい。
【0014】更に、繊維の太さ(繊度)や繊維形状(断面形状、捲縮)について説明を加えると、これらについても特に限定されるものではなく、従来公知のテキスタイルや不織布に用いられる範囲のものであればよいが、繊度は6デニール以下が好ましく、6デニールより大きくなると後述するように、その形成されたシートの強さが弱くなり、また、ウオーターニードリングでの繊維交絡も起きにくくなる。繊維の捲縮については、捲縮数が0〜15ヶ/インチが好ましく、15ヶ/インチ以上になるとシート形成のための繊維分散が悪くなる。
【0015】上記短繊維を用いて不織布を作成するには、まず該繊維からなるシート状の繊維層を形成する必要がある。この方法には、繊維長が15mm長以下であることから、従来公知のガーネットや飛動シリンダーを用いたエアレイ法、湿式抄紙法等が有利に採用されるが、ウエブの均一性、及び次工程のウオーターニードリングに対する安定性から、湿式抄紙法が有利である。即ち、短繊維を分散剤を用いて水中に分散せしめ、次いで丸網、短網、又は傾斜スクリーン式抄紙機に供給して湿潤繊維層シートを形成するのが好ましい。
【0016】この湿潤繊維層シートは、引き続いてウオーターニードリング処理により繊維交絡された繊維層に変換される。この繊維交絡がない場合は、短繊維に起因して不織布の強さが著しく小さく、これを向上せしめるには塩感応性バインダーの塗布量を10重量%より多くすることが必要となり、その結果、不織布の風合いや体液の透過性を著しく損ない、実用に供することが出来なくなる。つまり、ウオーターニードリング処理の目的は、繊維交絡により不織布の強度向上を計って短繊維の欠点を補い、しかも湿式抄紙法の欠点であるペーパーライクな風合いを不織布ライクな風合いにする。更には、ウオーターニードリングにより繊維層に細かい貫通孔を生じせしめて体液の透過性を向上させる効果も発揮するものである。
【0017】ウォーターニードリング処理は、従来公知の方法が適用されるが、水圧力は40kg/cm2以下、つまり低圧法がよく、40kg/cm2超になると短繊維がスクリーンに絡みつき短繊維層は剥がれなくなるか、一方、繊維交絡の度合いが強くなり水解性が悪くなるので適当でない。
【0018】ウオーターニードリング処理に供される湿潤繊維層シートは、短繊維であるため不安定であり水圧によりシートがちぎれたり、短繊維の飛散を起こしたりするので、湿潤繊維層シートは強力が大きく、より安定したシートであることが必要である。本発明者らは種々実験した結果、抄紙法で形成された湿潤繊維層シートの含水率が250重量%以下、好ましくは200重量%以下で供することによりウオーターニードリングが可能になることが判明した。つまり、サクション式やフェルトプレス式により、従来の抄紙法より高度な搾水を行い、湿潤繊維層シートの密度を上げ安定化を図るものである。また、この効果を更に向上させる手段として、叩解パルプや、水溶性ポリビニールアルコール繊維を補助的に混合使用するのがよいが、この場合でも湿潤繊維層シートの含水率は250重量%以下にすることが必要である。
【0019】ウオーターニードリング処理した繊維交絡シートを再び搾水した後、塩感応性バインダーを塗布し、乾燥を行って本発明の水解性不織布が得られるが、この塩感応性バインダーの塗布量は、0.5〜10重量%の範囲であり、好ましくは2〜10重量%である。この範囲より少ないと不織布強力は実用上の強力より低くなり、一方、この範囲より大きくなると不織布の風合いや体液の透過性が悪くなる。バインダーの塗布法は、スプレー法、含浸法、ロールコート法、プリント法等が適用できるが、プリント法では中間に乾燥工程を入れるのが望ましい。また、乾燥はオーブン式、シリンダー式、サクション式、又はこれらの組み合わせ式が適用される。
【0020】本発明の不織布の坪量(又は目付)は、特に限定されるものではないが、不織布の強力や水解性に影響を与えることは当然である。本発明の場合、一般には、低坪量と称される範囲、即ち15〜45g/m2の範囲に規定するのがよい。
【0021】
【発明の作用・効果】本発明の不織布は、各種体液、例えば血液、経血、尿等と接触し湿潤してもその体液の塩濃度によりバインダーは溶解せず、不織布の構造が維持され、かつ使用上満足し得る強力を有する。一方、水に接触すると使用中の塩濃度が極めて低くなるのでバインダーが溶解し、かつ不織布の繊維層が短繊維であるため水中で容易に不織布が崩壊分散する。従って、本発明の不織布は安心して水洗トイレに廃棄が可能なものである。本発明の不織布は、上記体液を吸収する各種吸収性物品、例えば生理用ナプキン、オリモノシート、紙オムツ、痔用パット等の表面材や外装材として、また、各種の使い捨て不織布製品、例えばベッドシート、ペット用排便シート、オムツライナー等として有用であり、かつ使用後水洗トイレに簡便に廃棄できる。
【0022】
【実施例】次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
実験例繊維としてレーヨン繊維(太さ3デニール、繊維長5、10、15、20mm)を用い、TAPPI型テスト抄紙機にて繊維濃度0.05重量%になるよう水中分散させて抄き上げて湿潤繊維シートを得た。この湿潤繊維シートをフェルトを介してプレス搾水して含水率が、150〜180重量%になるように調整した後、80メッシュ平織り金網にのせてウォーターニードリングテスト機で、水圧20kg/cm2のウォーターニードリング処理した。次に、下記に示す塩感応性バインダーの5重量%水溶液を用い、塗布量が5重量%になるようにスプレー塗布し、90℃熱風乾燥機で乾燥して水解性不織布を得た。これらの不織布の特性を表1に示す。
【0023】(塩感応性バインダー)
アクリル酸成分:65モル%、このうちナトリウム中和率35%、アクリル酸シクロヘキシル成分:35モル%からなる分子量:32,000の共重合体
【0024】次に、不織布の性能を以下のようにして評価しその結果を表1に示す。
(1)風合い(柔軟性)
不織布の触感を次の4段階で官能評価した。
◎ …… 非常にソフトである○ …… ソフトである△ …… やや硬い(ハリ感がある)
× …… 硬い(ゴワゴワ感がある)
(2)乾燥強力不織布を2.5×12cmに裁断し、この試料を引張強度試験機(オリエンテック(株)製、 RTM−100型)を用い、チャック間隔10cm、引張速度100mm/分の条件で測定した。
(3)湿潤強力前記同様の試料を1.0%濃度の生理食塩水中に1分間浸漬した後取り出し、含浸率が150重量%になるように濾紙で水を切り、これを前記乾強力と同様に測定した。
(4)水分散性1リットル円筒容器に、水道水0.5リットルと6cm×6cmの寸法に裁断した不織布を投入する。この円筒容器をシェーカーにかけ、毎分300往復で5分間振盪した後、不織布の崩壊及び水分散状況を評価した。
5 完全分散4 多数の小片に完全崩壊3 数個の小片に崩壊2 一部分が崩壊1 崩壊せず
【0025】
【表1】


【0026】表1に示した結果からわかるように、No.1及びNo.5の不織布のように、20mm長の繊維が15重量%以上存在すると、水分散性が悪くなり好ましくない。一方、No.4の不織布のように5mm長繊維のみでは湿潤強力が弱く、実用性に乏しくなる。一般的には、最良の繊維長は10〜15mmである。また、不織布中に含まれる20mm長以上の繊維比率は15重量%以下、一方、5mm長以下の繊維比率は20重量%以下に規定するのが良い。
【0027】実施例2繊維としてレーヨン繊維(太さ3デニール、繊維長10mm)、ビニロン繊維(太さ4デニール、繊維長20mm)、水溶性ポリビニールアルコール繊維(太さ3デニール、繊維長3mm)及び叩解パルプ(NBKP、フリーネス400CSF、ml)を用い、表2に示す配合組成で抄紙用粘剤(ポリエチレンオキサイド)の存在下で水に分散した後、坪量30〜35g/m2になるように抄き上げて湿潤繊維シートを作成した。このシートを抄紙用フェルトを介してプレス搾水し、この時の含水率を測定した。この湿潤繊維シートをウオーターニードリング(W.N)テスト機(80メッシュ金網コンベア式)に供給し、金網コンベア下の水サクションとバランスさせながら、水圧20〜50kg/cm2フ範囲でウオーターニードリング処理した後、更にサクション脱水して繊維交絡シートを得た。
【0028】次に、下記性状を有する塩感応性バインダーの5重量%水溶液を用い、塗布量が5重量%になるようにスプレー塗布し、最後に90℃熱風乾燥機で乾燥して水解性不織布を得た。この不織布の性能を表2に示す。
(塩感応性バインダーの性状)
アクリル酸成分:65モル%アクリル酸シクロヘキシル成分:35モル%アクリル酸成分の中和率(ナトリウム塩):35モル%分子量:32,000
【0029】
【表2】


【0030】表2に示したNo.10の不織布は、20mm長の繊維が20重量%存在するため水分散性の点で劣り、また、No.9及びNo.12の不織布は、湿潤繊維シートの含水率が高いため、及び、ウオーターニドリングの水圧が高いため、ウォーターニードリング処理が不能であった。
【0031】実施例3繊維として、レーヨン繊維(太さ3デニール、繊維長10mm、15mm)、水溶性ビニールアルコール繊維(太さ3デニール、繊維長3mm)を用い表3に示す配合組成にて、実施例2と同様にして含水率が170〜200%の湿潤繊維シートを得た。次いで、水圧20kg/cm2フウォーターニードリング処理を行い、下記成分の塩感応性バインダーの塗布量を0.2〜15%にした以外は実施例2と同様にして水解性不織布を作成し、その性能を表3に示した。
(塩感応性バインダーの性状)
アクリル酸成分:70モル%アクリル酸ブチル/アクリル酸2−エチルヘキシル共重合成分:72/8モル%アクリル酸成分の中和率(ナトリウム塩):12モル%分子量:30,000
【0032】
【表3】


【0033】表3に示したように、塩感応性バインダーの共重合体成分を変えることにより不織布の強力や風合いの改善が可能になる。No.13の不織布はこの塩感応性バインダーの塗布量が少ないため、湿潤強力が弱く実用性に乏しく、一方No.16の不織布はは塗布量が多すぎるため風合いが著しく悪い不織布となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 不飽和カルボン酸成分の一部が中和塩に形成されている不飽和カルボン酸/不飽和カルボン酸エステル共重合体を主成分とする水溶性バインダーで結合された水分散性繊維からなる水解性不織布において、該繊維層は10〜15mm長の短繊維を主成分とする繊維が互いに交絡して構成されており、かつ該バインダーの含有率が0.5〜10重量%であることを特徴とする水解性不織布。
【請求項2】 10〜15mm長の短繊維を主成分とする繊維を水中に分散させ、抄紙法により湿潤繊維層シートを形成した後、該シートの含水率を250重量%以下に搾水して、水圧40kg/cm2以下のウォーターニードリング処理を行い、次いで不飽和カルボン酸成分の一部が中和塩に形成されている不飽和カルボン酸/不飽和カルボン酸エステル共重合体を主成分とする水溶性バインダーを0.5〜10重量%塗布して乾燥することを特徴とする水解性不織布の製造方法。