説明

水質汚濁防止装置

【課題】底泥などの水底に堆積した土砂を巻き上げて水質を汚濁させることがないうえに、杭周の清掃が可能な水質汚濁防止装置を提供する。
【解決手段】水中に立設される杭2に設置されてその周辺水域の汚濁を防止するための水質汚濁防止装置3である。
そして、杭を貫通させる挿通孔46を備えたフロート部4と、フロート部の側縁から水底1に向けて展開可能な汚濁防止膜5と、杭を囲繞するとともにフロート部と連結される錘枠部6と、錘枠部の内周と杭との隙間に延設されるブラシ部7とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中に杭を打設したり、水中に打設した杭を引き抜いたりする際に、周辺水域を汚濁するのを防ぐための水質汚濁防止装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、水域において工事をおこなう際に、巻き上げられた水底の土砂、埋め立て用に投入される砂、資機材に付着した泥などによって周辺水域が汚濁することがないように、水質汚濁防止シートで施工水域を囲う方法が知られている(特許文献1−3など参照)。
【0003】
この水質汚濁防止シートは、上端にフロートが取り付けられるとともに、下端に錘が取り付けられており、水中で深度方向に展開して対象水域を囲い込むことができる。
【特許文献1】特開昭60−230415号公報
【特許文献2】特開2004−154656号公報
【特許文献3】特開2003−253658号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、水質汚濁シートで囲うだけでは、施工中の汚濁物質の拡散を防ぐことができるだけで、囲われた内部の水質の浄化を、別途、おこなう必要がある。
【0005】
また、土中から引き抜かれた杭は、杭周に土砂が付着しており、引き上げに際して水中、空中に土砂を撒き散らして水質汚濁の原因になるだけでなく、水上に引き上げた後に、別途、清掃作業が必要になる。
【0006】
さらに、杭を水底に打ち込む際には、水底に堆積したヘドロなどの底泥が打込み時の振動によって舞い上がり、水質を汚濁させる場合がある。
【0007】
そこで、本発明は、底泥などの水底に堆積した土砂を巻き上げて水質を汚濁させることがないうえに、杭周の清掃が可能な水質汚濁防止装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の水質汚濁防止装置は、水中に立設される杭に設置されてその周辺水域の汚濁を防止するための水質汚濁防止装置であって、前記杭を貫通させる挿通孔を備えたフロート部と、前記フロート部の側縁から水底に向けて展開可能な膜部と、前記杭を囲繞するとともに前記フロート部と連結される錘枠部と、前記錘枠部の内周と前記杭との隙間に延設されるブラシ部とを備えたことを特徴とする。
【0009】
ここで、前記フロート部の上面には足場が形成されていることが好ましい。また、前記ブラシ部は、前記杭に向けてスライド可能に構成することができる。
【0010】
さらに、前記錘枠部には、前記フロート部を貫通して上方に延伸される吊りワイヤが接続されるとともに、前記吊りワイヤと前記膜部が接続されている構成とすることもできる。
【発明の効果】
【0011】
このように構成された本発明の水質汚濁防止装置は、杭の周辺水域が膜部によって囲まれているとともに、錘枠部と杭との隙間にブラシ部が延設されている。
【0012】
このため、杭を打ち込む際には底泥などの汚濁原因物質の上昇がブラシ部に遮られて拡散が抑えられるうえに、杭を引き抜く際には、ブラシ部によって杭周に付着した土砂が掻き落とされて清掃することができる。
【0013】
また、錘枠部とフロート部とが連結されて一つになっているので、設置、撤去などの移動を容易におこなうことができる。
【0014】
さらに、フロート部の上面に足場が形成されていれば、作業者は容易に杭に近づいて作業をおこなうことができるので、作業効率がよい。
【0015】
また、ブラシ部が杭に向けてスライド可能に構成されていれば、様々な形状の杭に適合させることができる。
【0016】
さらに、フロート部を貫通させて錘枠部に吊りワイヤを接続し、その吊りワイヤと膜部とを接続しておくことで、吊りワイヤを引き上げることによって錘枠部とフロート部とが近接し、膜部を折り畳むことができる。
【0017】
このように膜部を折り畳むことができれば、吊り上げ時の風の影響を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の最良の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0019】
図1は、本実施の形態の水質汚濁防止装置3の構成を説明する断面図である。
【0020】
この水質汚濁防止装置3は、水中に立設された杭2に装着されるものであって、水面12に浮遊させるフロート部4と、そのフロート部4の側縁を囲繞するように取り付けられる膜部としての汚濁防止膜5と、杭2の周囲を囲繞するとともにフロート部4と連結される錘枠部6と、錘枠部6の内周と杭2との隙間に延設されるブラシ部7とから主に構成される。
【0021】
この杭2は、工事用の桟橋などの橋脚や基礎とするために水底1に打ち込まれる鋼管杭などである。また、仮設として使用するために水底1に打ち込まれた杭2は、工事終了後に引き抜かれ、撤去される。
【0022】
そして、このように水面12下の水底1に杭2を打設したり、水底1から杭2を引き抜いたりすると、水底1に堆積した土砂11や杭2の周囲に付着した土砂が水中に拡散して、周辺水域の水質を汚濁することがある。本実施の形態の水質汚濁防止装置3は、そのような水質汚濁を防止するための装置である。
【0023】
この水質汚濁防止装置3に浮力を与えるフロート部4は、図2に示すように、平面視四角形に形成された浮遊体であり、略中央に杭2を貫通させる挿通孔46が形成されている。この挿通孔46は、杭2の外形よりも大きな内形に形成されており、この挿通孔46に通した杭2によってフロート部4の横移動は制限される。
【0024】
また、この挿通孔46の周囲には、水よりも比重が小さい発泡スチロールなどが浮体41,・・・として取り付けられている。この浮体41の大きさは、足場42、手摺43、下面板44などの自重や、作業員などの上載荷重や、汚濁防止膜5の重量などを差し引いても浮力が発生する大きさに設計される。
【0025】
さらに、この浮体41,・・・の上面は、金網や鋼板などの面材で覆われて足場42が形成されている。また、この足場42には、手摺43が設けられて、水面12上であっても安全に作業がおこなえるように構成されている。
【0026】
また、このフロート部4の上面には、図2に示すように、四隅に上面フック42a,・・・がそれぞれ取り付けられており、これらの上面フック42a,・・・には吊りワイヤ83,・・・がそれぞれ接続される。
【0027】
一方、フロート部4の下面側には、上面側の足場42と連結された下面板44が設けられており、吊りワイヤ83,・・・によってフロート部4を持ち上げると下面板44も持ち上がるように構成されている。そして、この下面板44には、複数の下面フック44a,・・・が取り付けられる。
【0028】
また、フロート部4の側縁には、汚濁防止膜5の上端が取り付けられる。また、この四角筒状に形成された汚濁防止膜5の下端には、アンカーチェーン51が取り付けられる。そして、このアンカーチェーン51が錘になって、汚濁防止膜5の下端の浮き上がりが防止される。
【0029】
この汚濁防止膜5は、少なくとも土砂の通過を遮ることが可能なシート材で、水を透過させることが可能な織布、又はビニルシートや合成樹脂シートなどの遮水性シートなどが使用できる。
【0030】
また、この汚濁防止膜5は、設置箇所の水深より長いものが使用される。さらに、汚濁防止膜5の内周面には、深度方向に間隔を置いて後述する吊りワイヤ81及び連結ワイヤ82と汚濁防止膜5とを接続するための係留金具52,・・・が取り付けられている。
【0031】
そして、係留金具52,・・・によって汚濁防止膜5と接続される連結ワイヤ82は、上端が下面フック44aに接続され、下端が錘枠部6の連結フック62に接続される。
【0032】
この錘枠部6は、図3に示すように、鋼材によって外形が平面視四角形となるように形成されており、内周は平面視八角形の中央開口63に形成されている。すなわち、この錘枠部6は、汚濁防止膜5の内部に収容可能な外形に形成されるとともに、中央開口63には杭2が挿入される。
【0033】
また、この中央開口63の杭2と錘枠部6の内周面との隙間には、複数のブラシ部7A−7Hが延設される。さらに、このブラシ部7A−7Hは、中央開口63の各辺にスライド可能にそれぞれ取り付けられる。
【0034】
ここで、図4は、ブラシ部7A−7Hの構成を説明するために代表して示したブラシ部7の斜視図である。
【0035】
この図4に示すように、ブラシ部7は、H形鋼材によって形成される錘枠部6の上面フランジ6aに取り付けられている。このブラシ部7は、上面フランジ6aに当接させる板状のスライド板73と、そのスライド板73の一側端に取り付けられる基部72と、その基部72に植毛されるワイヤブラシ71とから主に構成される。
【0036】
また、このスライド板73には、ブラシ部7をスライドさせる方向に向けて延伸される長穴74,74が設けられており、上面フランジ6aから所望する長さを張り出させた状態で、その長穴74,74に通したボルト75,75を締結することによって、錘枠部6に固定することができる。
【0037】
そして、このようにスライド可能に構成されたブラシ部7A−7Hは、図3に示すように、八角形の中央開口63の各辺にそれぞれ独立してスライドできるように取り付けられている。
【0038】
また、中央開口63に挿入する杭2の大きさや形状に合わせて各ブラシ部7A−7Hをスライド移動させ、それらのワイヤブラシ71,・・・の先端を杭2の周面に当接させる。
【0039】
このようにブラシ部7A−7Hが錘枠部6に固定されることによって、杭2の打設時には、ブラシ部7A−7Hが水底1に引き込まれるのを防ぐことができる。他方、杭2の引き抜き時には、ブラシ部7A−7Hが杭2と共に持ち上がってしまうのを錘枠部6の重量によって防ぐことができる。
【0040】
また、スライド板73の幅方向略中央には、吊りワイヤ81を接続する吊りフック61が突設されている。この吊りワイヤ81は、フロート部4を厚さ方向に貫通するワイヤ用孔45に挿通され、係留金具52,・・・を介して汚濁防止膜5に接続されて、下端が吊りフック61に接続されている。
【0041】
このため、この吊りワイヤ81によって錘枠部6を直接、吊り上げることができるとともに、汚濁防止膜5を折り畳んで吊り上げることができるようになっている。
【0042】
次に、本実施の形態の水質汚濁防止装置3の作用について説明する。
【0043】
このように構成された本発明の水質汚濁防止装置3は、杭2の周辺水域が汚濁防止膜5によって囲まれているとともに、錘枠部6と杭2との隙間にブラシ部7が延設される。
【0044】
このため、杭2を打ち込む際には水底1に堆積した土砂11などの汚濁原因物質の上昇がブラシ部7によって遮られて拡散が抑えられる。また、杭2を引き抜く際には、ブラシ部7のワイヤブラシ71によって、杭2の周面に付着した土砂が掻き落とされて清掃することができる。
【0045】
さらに、杭2の引き抜き時に水底1の近くで掻き落とされた土砂11によって、引き抜かれた後の杭孔が埋め戻されれば、杭2の引き抜き後の水底1地盤の緩みを防止することができる。
【0046】
また、錘枠部6とフロート部4とが連結されているので、錘枠部6又はフロート部4のいずれを持ち上げても水質汚濁防止装置3全体を持ち上げることが可能で、設置、撤去などの移動を容易におこなうことができる。
【0047】
さらに、従来は、汚濁防止膜5によって囲まれた内側には入れなかったので、杭2に接近して作業をおこなうには、別途、作業床となる足場を設ける必要があった。
【0048】
しかしながら本実施の形態の水質汚濁防止装置3は、フロート部4の上面に足場42が形成されており、作業者はその足場42を使って容易に杭2に近づいて作業をおこなうことができるので、作業効率がよい。
【0049】
また、錘枠部6とフロート部4とが連結されることによって、フロート部4の上昇や横移動などの変動が制限されて、足場42としての安定性を高めることができる。
【0050】
さらに、ブラシ部7が杭2に向けてスライド可能に構成されていれば、様々な形状の杭に適合させることができる。すなわち、杭2の大きさが変化しても、ブラシ部7A−7Hをスライドさせて、杭2にワイヤブラシ71の先端を当接させることができる。また、平面視非対称な形状の杭2であっても、ブラシ部7A−7Hのスライド量を個別に調整することで、杭2の周面にワイヤブラシ71の先端を密着させることができる。
【0051】
さらに、フロート部4を貫通させて錘枠部6に吊りワイヤ81を接続するとともに、その吊りワイヤ81と汚濁防止膜5とを接続しておくことで、吊りワイヤ81を引き上げることによって錘枠部6とフロート部4とを近接させることができる。
【0052】
そして、錘枠部6とフロート部4とが近づくと、それに伴って汚濁防止膜5が折り畳まれることになる。このように汚濁防止膜5を折り畳むことができれば、風の当たる面積が削減されて、吊り上げ時に風力によって不安定な状態が発生することを防ぐことができる。
【0053】
例えば、風が強い日に汚濁防止膜5を展開したまま水質汚濁防止装置3を吊り上げると、風の力を受けて揺れたり、回転したりして不安定な状態が発生するので、作業を中止しなければならない場合がある。これに対して、汚濁防止膜5を折り畳むことで、風から受ける抵抗が格段に低減され、作業可能な条件が緩和されて作業効率を上げることができる。
【0054】
また、連結ワイヤ82によってフロート部4の下方に錘枠部6を吊り下げた場合は、係留金具52,・・・を介して連結ワイヤ82に接続された汚濁防止膜5を展開することができる。
【0055】
このように吊りワイヤ81による吊り上げと、吊りワイヤ83による吊り上げとを使い分けることによって、汚濁防止膜5の折畳み、展開を容易に切り替えることができる。
【0056】
以上、図面を参照して、本発明の最良の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0057】
例えば、前記実施の形態では、ブラシ部7A−7Hによって中央開口63の錘枠部6の内周と杭2との隙間を埋めたが、これに限定されるものではなく、隙間が残っていても大部分の土砂11の巻き上がりを抑えることができればよい。
【0058】
また、前記実施の形態では、ブラシ部7をスライド可能に構成したが、これに限定されるものではなく、水質汚濁防止装置3を装着する杭2の形状にそれほど変化がない場合は、ブラシ部7は錘枠部6に固定されるものであってもよい。
【0059】
さらに、前記実施の形態で説明したようにフロート部4を貫通する吊りワイヤ81と汚濁防止膜5とが接続されていなくてもよい。例えば、連結ワイヤ82と汚濁防止膜5とが接続されていれば、錘枠部6を持ち上げてフロート部4に近づけるだけで、汚濁防止膜5も折り畳まれることになる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の最良の実施の形態の水質汚濁防止装置の構成を説明する断面図である。
【図2】フロート部を上から見た平面図である。
【図3】錘枠部とブラシ部を上から見た平面図である。
【図4】ブラシ部の構成を説明する斜視図である。
【符号の説明】
【0061】
1 水底
2 杭
3 水質汚濁防止装置
4 フロート部
42 足場
46 挿通孔
5 汚濁防止膜(膜部)
6 錘枠部
7 ブラシ部
73 スライド板
81 吊りワイヤ
82 連結ワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中に立設される杭に設置されてその周辺水域の汚濁を防止するための水質汚濁防止装置であって、
前記杭を貫通させる挿通孔を備えたフロート部と、
前記フロート部の側縁から水底に向けて展開可能な膜部と、
前記杭を囲繞するとともに前記フロート部と連結される錘枠部と、
前記錘枠部の内周と前記杭との隙間に延設されるブラシ部とを備えたことを特徴とする水質汚濁防止装置。
【請求項2】
前記フロート部の上面には足場が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の水質汚濁防止装置。
【請求項3】
前記ブラシ部は、前記杭に向けてスライド可能に構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の水質汚濁防止装置。
【請求項4】
前記錘枠部には、前記フロート部を貫通して上方に延伸される吊りワイヤが接続されるとともに、前記吊りワイヤと前記膜部が接続されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の水質汚濁防止装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−121344(P2010−121344A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−295401(P2008−295401)
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)