説明

水質浄化材

【課題】炭素繊維を用いない導電性物質と金属鉄とを用いて、リンなどの環境汚染物質を環境水中から除去しつつ、長期間に渡って、導電性物質と金属鉄との接触状態を良好に保つことができる水質浄化材を提供する。
【解決手段】導電性を有する弾性物質と金属鉄とからなり、該弾性物質が体積抵抗率で103Ω・cm以下で、かつ該弾性物質の弾性係数が5GPa以下であり、該弾性物質と該金属鉄との少なくとも一部が接触している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性を有する弾性物質と金属鉄を用いた水質浄化材に関し、特に環境水中のリンおよび窒素を効果的に除去しようとするものである。
【背景技術】
【0002】
リンは植物の三大栄養素の一つであり、植物の成長にとっては不可欠な元素である。また、リンは、農業のみならず産業等においても重要な資源であるが、枯渇が懸念されている。さらに、人口の増加や資源作物(食用ではなくエネルギー源や製品材料とすることを主目的に栽培される植物)の増産等の状況を鑑みると極めて重要な物質である。
【0003】
日本は、全てのリンを輸入に依存している。昨今、世界各国に対してリン鉱石の安定供給を続けてきたアメリカは、資源保護を理由に1996年以降事実上輸出を禁止しているのが現状である。
【0004】
一方、リンは、環境水(湖沼池、河川、ため池、湾、海域等に存在する水)汚染の原因元素でもある。リンは資源として重要であるが、湖沼や内湾などの水質の汚れの原因になるという面も有している。
河川などでは工業排水や農薬の使用によって、水中にリンが多く含まれるようになってきた。リンは、肥料としても大量に農地に散布されている。畜産業からは、家畜のし尿や糞からも、大量のリンが環境水に流れ込んでいる。また、公共下水処理場では、リンを汚泥中に濃縮して処理しているが、処理水の中にも一定濃度のリンが含まれている。
さらに、家庭用の洗濯洗剤中にもリンは含まれており、それらが河川などの環境水中に流出している。特に、湖沼・内湾等の閉鎖性水域となる環境水中での富栄養化問題は未だに残っており、環境水の再生が大きな課題となっている。
【0005】
ここで、内水面の環境に目を転じてみると、緑色の藻が大量に発生し問題となっている。緑色の藻はアオコと呼ばれている。アオコは、水中の窒素およびリン濃度が高くなることに起因して発生するが、やがて、赤潮や青潮となり、それによって魚介類が死滅することにもなる。
アオコ、赤潮および青潮は、いずれもリンに基因した現象で、プランクトンの発生によるものである。一旦、アオコや赤潮が発生すると、プランクトンの持つ毒素が発生したり、プランクトンの分解に大量の酸素が消費され、水中の溶存酸素不足が生じたりして、魚介類が大量死するなど大きな被害が発生する。
【0006】
上記した種々の問題に対し、例えば、特許文献1には、畜産し尿の処理に塩化第二鉄、ポリ硫酸第二鉄などの凝集処理剤を使用し、排水中のリン除去を行う技術が提案されている。
【0007】
特許文献2には、鉄塩またはアルミニウム塩とリン酸イオンとを反応させて排水処理を行う技術が提案されている。
【0008】
特許文献3には、リン酸イオンと反応して固体化する鉄塩またはアルミニウム塩で塊状化させて、排水浄化を行う技術が提案されている。
【0009】
特許文献4には、下水や工場排水中のリンを除去するために、ポリ硫酸第二鉄やポリ塩化アルミニウムなどの凝集剤を加えて排水中のリンをリン酸鉄に化学変化させて、排水浄化を行う技術が提案されている。
【0010】
しかしながら、上記した特許文献1〜4に記載の鉄塩等を用いたリンの除去方法では、いずれも鉄イオン等以外のイオンや成分が水中に残留してしまうという問題があった。すなわち、処理対象水への鉄塩等の添加に伴い、鉄イオン等と結合して鉄塩等を形成している塩化物イオンや硫酸イオン等の対イオンも処理対象水中に添加されることとなる。その結果、処理対象水中の塩化物イオン濃度や硫酸イオン濃度が上昇し、生態系へ悪影響が生じるという問題があった。
また、上記した特許文献1〜4に記載のリンの除去方法では、いずれも対象溶液中の窒素の除去に関しては何らの考慮が払われていない。
【0011】
これらの問題に対し、発明者らは、特許文献5で、水中に溶解するリンを、鉄イオンあるいは亜鉛イオンと反応させて、水に不溶性のリン酸鉄あるいはリン酸亜鉛に変化させることで、水中のリンを沈殿物として回収する方法を提案した。
この技術は、金属鉄と炭素繊維とを接触させることにより、水に溶解する鉄イオンを生成させて、水中のリンと反応させ、水に不溶性のリン酸鉄として変化させ沈殿物として回収する技術である。
また、水中の鉄イオンは、金属鉄とイオン化傾向の高い金属とを接触させることによっても生成させることができる。従って、この技術は、水中のリンを、エネルギーを消費することなしに効率的に除去する、環境への負荷のない技術である。
【0012】
また、発明者らは、特許文献6で、環境水中のアオコの発生を防止するアオコ発生防止材として、炭素繊維と金属鉄とを接触させたものを提案した。この技術では、織物状、不織布状、マット状、シート状、フィルム状、板状、ストランド状および束状の炭素繊維を使用し、また、水の抵抗が少なくて、鉄イオンの溶出、不溶性のリン酸鉄の生成が容易となる、メッシュ状、網状、板状、貫通孔をもつ板状の金属鉄を使用した。
【0013】
さらに、特許文献5、6に記載の技術を、畜産関係に利用する技術として提案したものに特許文献7がある。この技術は、炭素繊維と鉄材とを混在させることで、し尿中のリンの除去効果を増大した方法および装置に関する技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2001−205273号公報
【特許文献2】特開2006−281177号公報
【特許文献3】特開2008−68248号公報
【特許文献4】特開2003−340464号公報
【特許文献5】特願2009−18799号明細書
【特許文献6】特願2009−202778号明細書
【特許文献7】特願2009−18798号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献5〜7に記載の技術は、いずれも炭素材として、種々の形態を提案しているが、中でも、前述したように、炭素繊維を用いることが最も好適であると記載している。というのは、炭素材の中でも炭素繊維は、平面上の金属鉄と密着させて接触面積を大きくすることができるだけでなく、金属鉄の形状の変化にも対応することができるからである。
【0016】
すなわち、特許文献5〜7に記載の技術は、実質的に、炭素繊維を用いる技術であって、炭素繊維の形状変形が良好なこと、比表面積が大きいことを利用して、金属溶出部材との接触面積を大きく保ち、鉄イオンの溶出速度を高めた技術である。また、炭素繊維は機械的強度にも優れているので、自然環境下での使用に適している素材でもある。
【0017】
しかしながら、上述した利点を持ち、全体としては機械的強度に優れている炭素繊維でも、繊維の端末からの「ほごれ」は防ぐことができず、「ほごれ」を防止するためには特別の端末処理を必要とするところに問題を残していた。
例えば、フクオカ機業製の炭素繊維織物では、横糸を連続させて織り上げることで、「ほごれ」を防止している。それでも、炭素繊維織物の長手方向(経糸方向)では、「ほごれ」防止ができない。そのため、現状では、「ほごれ」防止のために端末を接着剤などで固定しているのが現状である。
【0018】
また、炭素繊維を自然環境下で使用した場合、大きな外力がかかることも想定される。このような場合、炭素繊維の破損が懸念される。このような時、炭素繊維の「ほごれ」が拡大し、炭素繊維の原形を維持することができなくなってしまうことがある。すなわち、このような破損が生じた場合には、環境水中に大量の炭素繊維が散乱することとなり、これを完全に回収することはとても困難な作業となる。
【0019】
さらに、炭素繊維は、鋭利な形状を持つものによって切断されることも考えられる。例えば、ギロチン状の歯をもつ魚類(例えば、フグやカワハギなど)、カメの歯およびアメリカザリガニのはさみなどである。炭素繊維は、これら鋭利な形状物によって切断された場合、環境水中に大量の炭素繊維が散乱し、これを完全に回収することも、上記同様とても困難な作業となる。
【0020】
上述したように、炭素繊維の初期形状を維持することは難しい。というのは、海中などで炭素繊維を使用する際、炭素繊維には、波などによってねじれや回転などの複雑な動きが生じるため、炭素繊維の形状変形性の良いことが逆に作用し、初期形状を維持することができなくなるからである。特に、水の流れが速く、流れが乱れている所が多い河川や湖沼では、より炭素繊維の初期形状を維持することが難しくなる。
【0021】
前述した技術では、炭素繊維と金属鉄とを密着させるために、結束バンド等を使用して外部から押しつける手段を用いる。しかし、この場合、結束バンド等の固定力が弱くなると、炭素繊維と金属鉄材との密着面積が少なくなり、鉄イオンの溶け出し速度が低下してしまうという問題があった。
【0022】
従って、特許文献5〜7に記載の技術では、水質浄化を開始した初期段階においては、炭素繊維と金属鉄とが良好に接触して密着しているが、時間の経過と共に、金属鉄は溶解してその体積が減少し、炭素繊維と金属鉄との間に空隙が生じて、鉄イオンの溶け出し速度が低下し、その水質浄化能力が低下してしまうという問題があった。
【0023】
本発明は、上記した現状に鑑み開発されたもので、炭素繊維を用いない導電性物質と金属鉄とを用いて、リンなどの環境汚染物質を環境水中から除去しつつ、長期間に渡って、導電性物質と金属鉄との接触状態を良好に保つことができる水質浄化材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
発明者らは、上記した炭素繊維の持つ問題を解決するために、鋭意検討を重ねた。
その結果、「ほごれ」を防ぐためには、弾性物質を使うことで解決できることに想到した。すなわち、水質浄化材の設置初期において、導電性弾性物質、例えば導電性ゴムと金属鉄とを接着固定する時に、導電性ゴムを延伸した状態にして接着すれば、例え鉄材が溶けて、導電性ゴムと金属鉄との間に空隙が発生したとしても、常に、導電性ゴムと金属鉄との接着状態は維持することができる。
【0025】
また、金属鉄と接触して、効率よく鉄イオンを生成する導電性物質をさらに鋭意検討した結果、上記した導電性ゴムの他に、所定の弾性係数を有する導電性プラスチック、さらには可撓性黒鉛シート等の弾性物質も好適に使用可能であることが判明した。
本発明は、上記した知見に基づき完成されたものである。
【0026】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.導電性を有する弾性物質と金属鉄とからなり、該弾性物質が体積抵抗率で103Ω・cm以下で、かつ該弾性物質の弾性係数が5GPa以下であり、該弾性物質と該金属鉄との少なくとも一部が接触していることを特徴とする水質浄化材。
【0027】
2.前記弾性物質が、導電性プラスチックまたは導電性ゴムであることを特徴とする前記1に記載の水質浄化材。
【0028】
3.前記弾性物質が、可撓性黒鉛シートであることを特徴とする前記1または2に記載の水質浄化材。
【0029】
4.前記金属鉄は、Fe含有量:80質量%以上であることを特徴とする前記1〜3いずれかに記載の水質浄化材。
【発明の効果】
【0030】
本発明に従う水質浄化材によれば、長期間の使用によって、例え金属鉄が溶けて導電性弾性物質と金属鉄との間に空隙が発生したとしても、常に、導電性弾性物質と金属鉄との圧着状態を自己修復して維持することができる。その結果、長期間に渡って環境水中で、リンおよび窒素という汚染物質を除去する効果を効果的に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に従う板状の導電性プラスチック(ゴム)と金属鉄との接触要領を示した図である。
【図2】本発明に従う筒状の導電性プラスチック(ゴム)と金属鉄との接触要領を示した図である。
【図3】本発明に従う筒状の導電性プラスチック(ゴム)と金属鉄との他の接触要領を示した図である。
【図4】本発明に従う導電性プラスチック(ゴム)と金属鉄(エキスバンドメタル)との接触要領を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明における水質浄化材は、導電性を有する弾性物質と金属鉄とからなり、この弾性物質の導電性が体積抵抗率:103Ω・cm以下であって、かつ弾性係数が5GPa以下であり、導電性弾性物質の少なくとも一部が金属鉄と接触していることが重要である。
【0033】
本発明に用いる弾性物質の導電性は、体積抵抗率で103Ω・cm以下とすることが必要である。というのは、体積抵抗率が103Ω・cmを超えると、静電気防止材としての領域となり、良好な鉄イオン流出作用が望めないからである。一方、その下限値は特に制限はないが、純粋な炭素の比抵抗が10-3Ω・cm程度であることを考えると、10-3Ω・cm程度である。なお、体積抵抗率は含有物質の含有量によって異なるものであり、金属の種類によっても異なるものである。
【0034】
本発明において、体積抵抗率の測定方法は従来公知の方法が使用できるが、例えば、JIS K 7194の「導電性プラスチックの4探針法による抵抗率試験方法」に準拠する方法で測定することができる。
なお、導電性物質の電気抵抗は、複合則に従うので、前記した導電性物質は使用する炭素等導電体の含有量が高いほど、電気抵抗は小さくなって導電性が高くなる。
【0035】
また、本発明に用いる導電性弾性物質の弾性係数は、5GPa以下である必要がある。というのは、弾性係数が5GPaを超えると、形状変形性に乏しくなり、金属鉄との圧着状態を自己修復して維持することができなくなるからである。一方、その下限値に制限はないが、一般的なゴムの弾性係数は、1MPa程度であり、0.1 MPa程度まで許容することができる。
【0036】
本発明において、弾性係数の測定方法は従来公知の方法をいずれも使用することができるが、例えば、JIS K 6301の「加硫ゴム物理試験方法」に準拠する方法で測定することができる。
【0037】
上記した導電性弾性物質としては、導電性プラスチックまたは導電性ゴムが望ましい。というのは、前述したような本発明における体積抵抗率や弾性係数の数値範囲を満足するからである。また、これら導電性プラスチックまたは導電性ゴムは、炭素粉、切断された炭素繊維、チョップドストランド状の炭素繊維、ミルド状の炭素繊維などを添加することによって、導電性を付与することができる。あるいは、イオン化傾向が鉄よりも上位に置かれる金属、例えば、ニッケル、スズ、鉛、銅、金、銀および白金などを粉末状、フィラメント状またはハク状の形で含ませることによっても導電性を付与することができる。
【0038】
上記した導電性弾性物質は、前記弾性係数の規定範囲を満足すれば、可撓性、弾性変形性を有するか、または粉体のように全体として形状変形性を有している従来公知のプラスチックおよびゴムで良い。
また、本発明では、上記した導電性弾性物質としては、自動車のエンジンガスケット等に使用されている可撓性黒鉛シートを用いることもできる。この可撓性黒鉛シートというのは、黒鉛結晶のみから作られたシート状の物質であり、黒鉛からなる物質なので電気伝導性は極めて高く、プラスチックと同等の可撓性を有しているからである。
なお、可撓性黒鉛シートに補強剤として布を接着した材料もあるが、機械的強度に優れており、水流が乱流状態にある場所などでも本発明に従う導電性を有する弾性物質として好適に使用することができる。
【0039】
さらに、本発明に用いる金属鉄としては、Fe含有量で80質量%以上の合金鉄または純鉄であれば、好適に使用することができる。ここに、Fe含有量が80質量%に満たないと、金属鉄の表面におけるFe組織の専有面積が下がり、導電性物質との接触状態が不十分となる。また、環境水への不要なイオンの溶け出しも起こる。なお、かような合金鉄としては、純鉄を始めとして、Fe-ニッケル合金やFe-クロム合金等が有利に適合するが、純鉄がとりわけ有利である。
【0040】
本発明に用いる金属鉄の形態は、鉄板、鉄棒、鉄筋、塊、メッシュ、線、粉など、通常の合金鉄または純鉄の形態のいずれもが使用可能である。特に、本発明では、金属鉄のメッシュ材であるエキスパンドメタルを好適に使用できる。なお、エキスパンドメタルとは、金属板をエキスパンド製造機によって、千鳥状に切れ目を入れながら押し広げ、その切れ目を菱形や亀甲形に成形したメッシュ状の金属板である。
【0041】
ここに、金属鉄メッシュ材の特徴を示す。
(1) エキスパンドメタルは、一枚の板状なので網目がもつれたり、ほどけることがない。
(2) 金属板を切断開口して作るため、最小限の金属量で良く省資源製品である。
(3) 製造過程では、ほとんど原材料のロスが出ない製品である。
(4) メッシュが立体形状なので、水質浄化材の強度が維持できる。
(5) 水質浄化材として使用した後も、再び新たな鉄鋼製品としてリサイクルが可能である。
【0042】
本発明に従う水質浄化材における、導電性弾性物質と金属鉄との組み合わせを表1に示す。同表に、導電性弾性物質として記載したものは、前述したとおり、炭素材または鉄よりもイオン化傾向が高位になる金属を分散させ、導電性を付与したものである。
本発明では、表1中、左列の導電性弾性物質群から選んだ形態と、右列の金属鉄群から選んだ形態とを、少なくとも一部で接触させることにより本発明に従う水質浄化材とする。
なお、本発明において、導電性弾性物質と金属鉄との組み合わせは、必ずしも一形態同士に限られない、すなわち、以下の表1に記載の形態であれば、本発明にかかる弾性物質として、複数形態を同時に使用しても問題はない。また、プラスチック材またはゴム材の区別なく、右列の金属鉄群のいずれか一つまたは複数の組み合わせに対し、導電性弾性物質として用いることができる。
【0043】
【表1】

【0044】
図1〜4に、本発明に従う導電性弾性物質と金属鉄とを接触させる要領をそれぞれに示す。
図1には、板状の導電性プラスチック(ゴム)と金属鉄とを、図2および3には、筒状の導電性プラスチック(ゴム)と筒状の金属鉄とを、図4には、導電性プラスチック(ゴム)と金属鉄とを接触させる要領をそれぞれ示している。
本発明では、図1に示したように、板状の導電性プラスチック(ゴム)と金属鉄とを、1層または複数層に積層させて接触させることができる。
また、図2および3に示したように、筒状の導電性プラスチック(ゴム)と筒状の金属鉄とを接触させることができる。この時、図2に示したように、筒状の導電性プラスチック(ゴム)を外側に配置することもできるし、図3に示したように、筒状の金属鉄を外側に配置することもできる。
さらに、図4に示したように、導電性プラスチック(ゴム)を、エキスパンドメタルで挟み込むように配置することもできる。
なお、その他、導電性弾性物質が元の形状に復元しようとする位置に金属鉄を載置して、ひもで縛ったり、また、単に導電性弾性物質に金属鉄を埋め込んだり、差し込んだりしても本発明の効果が得られる。
【0045】
本発明に従う水質浄化のメカニズムは以下のとおりである。
一般的に、排水浄化は、生物処理によって行われる。これは廃水中に空気をバブリングさせることで、水中の好気性菌を活性にし、好気性菌によって有機物を二酸化炭素あるいは水に分解する。また、窒素化合物は、一般的には好気性菌で硝酸イオンに分解される。好気性菌のみでは、水質浄化はできないので、還元性条件下、嫌気性菌の作用によって硝酸イオンを分解して窒素ガスとし、大気中に放出する。この反応を起させるには、硝酸イオンから酸素原子を除去しなければならないが、嫌気性菌の作用だけでは不十分であった。
【0046】
ここに、硝酸イオンから酸素原子を取除くことは、一種の化学反応と見れば、還元反応である。すなわち、上記したような、環境水中の窒素を除去するためには、強力な還元剤が必要であるが、一般的な還元剤は環境に与える負荷も大きく、実際に用いることのできる還元剤はほとんどない。
【0047】
そこで、本発明では、以下に説明するメカニズムでリンおよび窒素を環境水中から取り除くのである。
まず、金属鉄のみを水中に加えたとしても、金属鉄の溶解はほとんどおこらない。そこで、導電性を有する弾性物質と金属鉄を接触させて水中に加えると、鉄の溶解が促進される。これは、上記弾性物質と金属鉄との間に、一種の局部電池が形成され、それによって鉄イオンが生成するためである。その後、この鉄イオンと水中のリン酸イオンとで反応が起こり、リン酸が、以下の反応式のように不溶性のリン酸鉄となり、環境水中から除去することが可能となる。
3Fe2+ + 2PO43− = Fe3(PO42
Fe3+ + H3PO4 = Fe(PO4
【0048】
一方、金属鉄は酸化して酸化鉄にもなる。この酸化鉄生成に使用される酸素は、環境水中にある窒素酸化物から供給されるため、窒素酸化物は、酸素が脱離して窒素ガスとなる。その結果、環境水中の窒素の除去ができるのである。
【0049】
本発明において、水中のリン酸イオンは、金属鉄中の鉄イオンと反応してリン酸鉄を生成する。これは不溶性であり沈殿する。ここで、生成したリン酸鉄は、金属鉄あるいは弾性物質の表面を被覆し、反応を抑制することもある。また、鉄の酸化物は、鉄イオンの生成反応を阻害するので、金属鉄表面および弾性物質表面の付着物は、適宜取除くことが望ましい。そのためには、振動、攪拌、揺らぎおよび超音波など、物理的な作用を、水質浄化材に付与することが好ましい。
また、例えば、ボールミルのような装置を使用すると、水質浄化材に対して攪拌と混合と衝撃とが同時に付加されることとなり、本発明に従う水質浄化材の脱リン効果を一層促進することができる。
【実施例】
【0050】
〔実施例1〕
弾性物質として導電性プラスチック板を用い、リンの除去実験をおこなった。導電性プラスチック板は、太平化学製品(株)製(商品名:CMPS406ME)を用いた。その材質は、ポリスチレンで、厚さは1mmである。また、導電性プラスチックの主な物理的性質は、体積抵抗率:102Ω・cm、弾性係数:3.4GPa、引張降伏強度:22MPa、破断伸び:47%、荷重たわみ温度:77℃、密度:1.15g/cm3である。なお、上記の導電性プラスチックに含有した導電性物質は、カーボンブラックであり、含有量が約20質量%である。
【0051】
金属鉄は、鉄網および鉄釘(長さ:2.5cm)を用いた。Feの含有率は、鉄網が約100質量%、鉄釘が約100質量%である。鉄網は、プラスチック板に密着し、外側をひもでしばり固定した。鉄釘は、プラスチック板に差し込んだ。以上の試料を、試験溶液を入れたビーカー(2リットル)に入れた。試験溶液は、溶媒として純水を用い、窒素とリンの濃度を、全窒素量:5.0mg/L、全リン量:2.5mg/Lに調整した溶液とした。
【0052】
前記導電性プラスチック板および炭素繊維織物と金属鉄とを接触させて以下の試料(5種類)を作製し、試験溶液中に浸漬した。
No.1 導電性プラスチック板(3cm×5cm、4枚)、鉄網(3cm×5cm、4枚)
No.2 導電性プラスチック板(3cm×5cm、4枚)、鉄釘(3cm×5cm、4枚)
No.3 導電性プラスチック板(3cm×5cm、4枚)、鉄網(3cm×5cm、4枚)
No.4 炭素繊維織物(3cm×20cm、1枚)、鉄網(3cm×5cm、4枚)
No.5 炭素繊維織物(3cm×20cm、1枚)、鉄網(3cm×5cm、4枚)
所定時間経過後の検液中の全リン濃度を測定し、その結果を表2に示す。なお、試験No.3および5は試験溶液をバッキした。
バッキは、小型のエアーポンプからストンと呼ばれる多孔質の球を通して、空気を水中に吹き出した。吹き出した空気量は、小型水槽(10L)の場合では、毎分3L〜10L程度であった。
【0053】
また、炭素繊維製織物(フクオカ機業製)を比較例として使用したが、本試験においては、炭素繊維製織物に対して、「ほごれ」を人工的に付与する処理を施した。すなわち、炭素繊維の織物の端部の経糸を20本ほど取り去って緯糸がほごれるようにして、「ほごれ」促進試験とした。
【0054】
【表2】

【0055】
同表より、弾性物質として導電性プラスチックを使用した場合、全リン濃度は時間の経過と共に低くなった。中でも、導電性プラスチック板と釘を用いた場合に、リン濃度が低下した。炭素繊維を用いた場合と比較すると、最初の内は炭素繊維の方が全リン濃度の低下は大であったが、やがて「ほごれ」が生じた当たりから、炭素繊維の方はリン濃度の減少が停止した。
従って、導電性プラスチックを使用しても、リン濃度が減少することがわかった。また、リン濃度における、バッキの有無による顕著な差は特に認められなかった。
【0056】
〔実施例2〕
導電性弾性物質として導電性ゴムシートを使用した。厚さ:1mm、材質はEPDM、クレハエラストマー(株)製(商品名EB360E2)である。また、主な物理的性質は、下記のとおりである。
体積抵抗率:1.2×102Ω・cm、弾性係数:5MPa、ゴム硬度:61、引張破断強度:9.3MPa、破断伸び:520%、密度:1.06g/cm3 なお、上記の導電性ゴムに含有した導電性物質は、カーボンブラックであり、含有量が約20質量%である。
【0057】
比較試料として、炭素繊維織物(フクオカ機業製)を用いた。金属鉄は、菱形の空間をもつメッシュ状鉄板(エキスパンドメタル、東邦ラサ工業(株)製、リブフラット)を用いた。菱形空間の大きさは、長径:14mm、短径:7mmであった。また、メッシュを構成している鉄材の太さは、1.2mm〜1.3mmであった。
なお、上記炭素繊維織物は、実施例1に記載の「ほごれ」処理を施している。
【0058】
鉄メッシュ材は、ゴム板の外側に密着させ、さらに外側からタコ糸で縛った。これを広口瓶(3リットル)にいれ、この中に試験溶液(全窒素量:5.0mg/L、全リン量:2.5mg/L)を加えた。広口瓶は、マグネッチクスターラーに載せ、ゆるやかに攪拌を行った。
なお、攪拌の回転数は、50rpmで行った。
【0059】
本発明に従う弾性物質として前記導電性ゴム板を、また比較材として炭素繊維織物を、金属鉄と接触させて、2種類の試料(No.6および7)を作製し試験溶液に浸漬した。
No.6 導電性ゴム板(6cm×6cm)、
金属鉄(エキスパンドメタル、6cm×6cm、4枚)
No.7 炭素繊維織物(7cm×11.8cm)、
金属鉄(エキスパンドメタル、6cm×6cm、4枚)
所定時間経過後、試験溶液中の全リン濃度を測定した。測定結果を表3に示す。
【0060】
【表3】

【0061】
同表に示したとおり、導電性ゴムおよび炭素繊維織物の両方で、検液中の全リンの濃度はゆるやかに低下することが分かる。本発明に従うNo.6の方が、減少の度合いが大きくなっていることが分かる。
【0062】
〔実施例3〕
導電性弾性物質として、導電性ゴムシートを使用した。導電性ゴムシートは、実施例2で使用した物である。
比較試料として、炭素繊維織物(フクオカ機業製)を用いた。金属鉄は、鉄釘鉄(ムラタ 鉄丸くぎ N25 #16×25)および網(亜鉛引鉄線網目:0.3mm)を使用した。鉄釘は、ゴム板に差し込んだ。以上の試料を、試験溶液を入れたビーカー(2リットル)に入れた。試験溶液中の窒素とリンの濃度は、全窒素量:5.0mg/L、全リン量:2.5mg/Lに調整した。
なお、上記炭素繊維織物は、実施例1に記載の「ほごれ」処理を施している。
【0063】
上記導電性ゴムシートと金属鉄とを接触させて試料4種類(No.8、9、10および11)を作製し、試験溶液に浸漬した。本試験では、バッキは行わなかったが、攪拌を行った。
なお、攪拌の条件は、マグネチックスターラーを使用し、50rpmで行った。
No.8 炭素繊維織物(14cm×10cm)、鉄釘100本(48.50g)
No.9 導電性ゴム(14cm×10cm)、鉄釘100本 (48.50g)
No.10 導電性ゴム(14cm×10cm)、鉄釘50本(24.24g)
No.11 導電性ゴム(14cm×10cm)、鉄網(14cm×10cm)
所定時間経過後の試験溶液中の全リン濃度を測定し、測定結果を表4に示す。
【0064】
【表4】

【0065】
同表に示したとおり、試験溶液中の全リンの濃度は、導電性ゴムでも炭素繊維織物でも、共に減少した。減少の度合いは、最初の内は炭素繊維の方が良く、やがて「ほごれ」が生じた当たりから、炭素繊維の方はリン濃度の減少が止まった。また、釘と網では、同様の傾向を示した。
【0066】
〔実施例4〕
導電性物質として、ゴムを使用した。導電性ゴムシートは、厚さ:2mm、材質は天然ゴムで、株式会社十川ゴム製(商品名:導電性ゴムシート品番 E-100)である。主な物理的性質は、下記のとおりである。体積抵抗率:1.0×102Ω・cm、弾性係数:3MPa、ゴム硬度(タイプAデュロメーター):62、引張強さ:14.8MPa、破断伸び:450%、圧縮永久ひずみ(70℃、22h):34%、密度:1.2 g/cm3なお、上記の導電性ゴムシートに含有した導電性物質は、カーボンブラックであり、含有量が約20質量%である。
比較試料として、炭素繊維織物(フクオカ機業製)を用いた。金属鉄は、実施例3で使用した物と同じである。鉄釘は、ゴム板に差し込んだ。以上の試料を、試験溶液を入れたビーカー(2リットル)に入れた。試験溶液中の窒素とリンの濃度は、全窒素量:5.0mg/L、全リン量:2.5mg/Lに調整した。
なお、上記炭素繊維織物は、実施例1に記載の「ほごれ」処理を施している。
【0067】
ゴム板と金属鉄とを接触させた下記の試料4種類(No.12、13、14および15)を作成し、試験溶液中に浸漬した。なお、バッキは行わず、攪拌のみを行った。
なお、攪拌の条件は、マグネッチクスターラーで50rpmとして、行った。
No.12 炭素繊維織物(14cm×10cm)、鉄釘100本(48.50g)
No.13 導電性ゴム(14cm×10cm)、鉄釘100本 (48.50g)
No.14 導電性ゴム(14cm×10cm)、鉄釘50(24.24g)
No.15 導電性ゴム(14cm×10cm)、鉄網(14cm×10cm)
所定時間経過後の試験溶液中の全リン濃度を測定し、測定結果を表5に示す。
【0068】
【表5】

【0069】
同表に示したとおり、試験溶液中の全リン濃度は、導電性ゴムの厚さに関わらず減少した。また、減少の度合いは、釘と網でも、同様の傾向であった。さらに、「ほごれ」を施した炭素繊維の試料のは、全リンの濃度の減少度合いは、最初の内は炭素繊維の方が良く、やがて「ほごれ」が生じた当たりから、炭素繊維の方はリン濃度の減少が止まる事になると考えられ。
【0070】
〔実施例5〕
次に、導電性弾性物質として導電性プラスチック板を用い、窒素の除去実験をおこなった(試料No.16)。導電性プラスチックは、実施例1と同じ物を使用した。金属鉄は、鉄釘(長さ:2.5cm)を用いた。鉄釘は、導電性プラスチック板に差し込んだ。以上の試料を、試験溶液を入れたビーカー(2リットル)に入れた。試験溶液中の窒素とリンの濃度は、全窒素量:5.0mg/L、全リン量:2.5mg/Lに調整した。その内、所定時間経過後の試験溶液中の全窒素濃度を測定した。
【0071】
実験開始時の全窒素濃度は、5.0 mg/Lであったが、2日後では4.9 mg/L、6日後では4.4 mg/L、18日後では3.7 mg/Lとなった。以上の結果より、本発明に従う水質浄化材を用いると、試験溶液中の全窒素濃度は時間の経過と共に低くなることが分かる。
【0072】
〔実施例6〕
ついで、導電性弾性物質として導電性ゴム(実施例4で用いた物と同じ)、金属鉄として鉄釘(実施例4で用いた物と同じ)を使用した(試料No.17)。導電性ゴム(14cm×10cm)に鉄釘100本をさした。これらを池水と共に広口びん(2リットル)に入れ、マグネチックスターラーで底部をゆるやかに攪拌した。所定時間経過後、全窒素濃度を測定した。
なお、攪拌の条件は、マグネッチクスターラーで50rpmとして行った。
【0073】
実験開始時の全窒素濃度は、1.28 mg/L、1日後では1.20 mg/L、2日後では1.16 mg/L、6日後では1.02 mg/L、9日後では0.8 mg/Lとなった。以上の結果より、本発明に従う水質浄化材を用いると、試験溶液中の全窒素濃度は時間の経過と共に低くなることが分かる。
【0074】
以上の実施例1〜6に示した結果より、本発明に従う水質浄化材を用いた試験溶液においては、リン量および窒素量がそれぞれ十分に低減していることが分かる。特に、リン量は、「ほごれ」が生じた炭素繊維よりも、本発明に従う水質浄化材の方が、長期間に渡り安定して低減していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明に従う水質浄化材を利用することにより、環境水中のリンや窒素の濃度を効果的に抑制し、その抑制効果を長期間維持することができ、もって環境水汚染防止等の環境の維持に大きく貢献する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する弾性物質と金属鉄とからなり、該弾性物質が体積抵抗率で103Ω・cm以下で、かつ該弾性物質の弾性係数が5GPa以下であり、該弾性物質と該金属鉄との少なくとも一部が接触していることを特徴とする水質浄化材。
【請求項2】
前記弾性物質が、導電性プラスチックまたは導電性ゴムであることを特徴とする請求項1に記載の水質浄化材。
【請求項3】
前記弾性物質が、可撓性黒鉛シートであることを特徴とする請求項1または2に記載の水質浄化材。
【請求項4】
前記金属鉄は、Fe含有量:80質量%以上であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の水質浄化材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−206730(P2011−206730A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78782(P2010−78782)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(508174687)石井商事株式会社 (8)
【Fターム(参考)】