水質連続監視方法
【課題】 毒物物質等の汚染物質が混入した場合に、その直後で水棲生物の挙動が変化する前にその汚染を容易且つ迅速に判定できる水質連続監視方法を提供する。
【解決手段】 被検水が通水する水槽1内で水棲生物を飼育しておき、一対の電極13a,13b間の電圧出力を所定のサンプリング周期でサンプリングしながら被検水の汚染の有無を監視するに際し、水棲生物の活動電位が変化する前に電圧出力が急激に変化したときに被検水が汚染の可能性ありとする。電極13a,13bには白金酸化物又は白金酸化物のコーティング材を使用する。また一対の電極13a,13bは被検水の流れ方向に配置する。
【解決手段】 被検水が通水する水槽1内で水棲生物を飼育しておき、一対の電極13a,13b間の電圧出力を所定のサンプリング周期でサンプリングしながら被検水の汚染の有無を監視するに際し、水棲生物の活動電位が変化する前に電圧出力が急激に変化したときに被検水が汚染の可能性ありとする。電極13a,13bには白金酸化物又は白金酸化物のコーティング材を使用する。また一対の電極13a,13bは被検水の流れ方向に配置する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水棲生物を用いた水質連続監視方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば水道原水として適性がある地表水、地下水、人造水にあっても、様々な原因で突発的に毒性物質、或いは水質基準を超えた上水処理障害物質等により、水質汚染被害を受ける惧れがある。
【0003】
水道法に定められている毒性物質には、無機物質としてシアン、次亜塩素酸ナトリウム、砒素があり、有機物質として農薬類、白蟻防除剤、PCBの他、ベンゼン、トリクロロエチレン、キシレン、四塩化炭素等の有機溶剤がある。
【0004】
これらの毒性物質等による水道水の汚染が発生した場合には、いち早くこれを検出して対処することは公衆衛生上必要である。しかし、これらの原因物質による突発的な汚染を常時監視するために理化学分析に依存することは経済性からも不可能であり、水棲生物を用いた監視方法が提案されている。
【0005】
この水棲生物を用いた監視方法は、従来、被検水が通水する水槽内に緋メダカ等の水棲生物を飼育しておき、水棲生物の活動による筋電位の変化を一対の電極により捉えて、水質汚染の有無を判定する方法を採ったものがある(特許文献1)。
【特許文献1】特開平11−125628号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の水質連続監視方法は、水棲生物の活動電位の変化により水質汚染の有無判定するため、緋メダカ等の水棲生物が平常時と異なる挙動(例えば呼吸困難での鼻あげ、忌避行動、狂奔行動等)を行うようになるまで待たなければならず、毒物の混入から水棲生物の挙動の変化までにしばらくの時間を要する。従って、毒物が混入した場合にも、その混入直後の比較的短間時間でその事実を判定できないという欠点がある。
【0007】
本発明は、このような従来の問題点に鑑み、毒物物質等の汚染物質が混入した場合に、その直後で水棲生物の挙動が変化する前にその汚染を容易且つ迅速に判定できる水質連続監視方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、被検水が通水する水槽内で水棲生物を飼育しておき、一対の電極間の電圧出力を所定のサンプリング周期でサンプリングしながら前記被検水の汚染の有無を監視する水質連続監視方法おいて、前記水棲生物の活動電位が変化する前に前記電圧出力が急激に変化したときに前記被検水が汚染の可能性ありとするものである。
【0009】
前記電極に白金酸化物又は白金酸化物のコーティング材を使用することが望ましい。また前記一対の電極が前記被検水の流れ方向に配置された前記水槽を使用することが望ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、毒物物質等の汚染物質が混入した場合に、その直後で水棲生物の挙動が変化する前にその汚染を容易且つ迅速に判定できる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて詳述する。図面は本発明の一実施例を例示する。水質連続監視用の水槽1は、図2、図3に示すように矩形状の内部が被検水の流入領域2、整流領域3、給餌領域4、分配領域5、第1監視領域6、第2監視領域7、予備飼育領域8、排水領域9とに区画されている。流入領域2、整流領域3、給餌領域4は水槽1の上流側に横方向に配置され、その流入領域2に、水槽1内に被検水が流入する流入管10が設けられ、この流入管10から流入した被検水は、流入領域2から整流領域3を経て給餌領域4へと流れる。給餌領域4には給餌器11が設けられている。
【0012】
分配領域5は上流側に、排水領域9は下流側に夫々横方向に配置され、その分配領域5と排水領域9との間に、水棲生物、例えば緋メダカを飼育する第1監視領域6、第2監視領域7、予備飼育領域8が横方向に配置されている。そして、給餌領域4からの被検水は、分配領域5で第1監視領域6、第2監視領域7、予備飼育領域8に夫々分配され、その監視領域6,7、予備飼育領域8を通過した後、排水領域9の排水管11を経て外部に排出されるようになっている。排水管11は監視領域6,7、予備飼育領域8に夫々対応して設けられている。
【0013】
監視領域6,7、予備飼育領域8は、隔壁12により互いに区画されると共に、餌等が通過し緋メダカが通過しない程度の編み目、孔等を有する仕切り板13,14により分配領域5、排水領域9と区画されている。監視領域6,7には、例えば13匹程度の多数(複数)の緋メダカが飼育されている。予備飼育領域8には予備用の緋メダカが飼育されている。
【0014】
監視領域6,7には、被検水の流れ方向の両端部、即ち上流側(流入口側)と下流側(流出口側)との端部に一対の電極13a,14aが配置されている。各電極13a,14aには緋メダカの活動電位(筋電位)の観測に適した材料、例えば白金酸化物をコーティングした金属板が使用されており、仕切り板13,14を兼用するようになっている。電極13a,14aは仕切り板13,14と別に設けてもよい。また一対の電極13a,14aは平行に配置することが望ましい。更に電極13a,14aは白金酸化物製でもよい。
【0015】
監視領域6,7には、緋メダカが下流側で被検水の流れに沿って逆らう方向に遊泳するように、一対の電極13a,14a間に複数のポール等の突起15が設けられている。これは、緋メダカの身体が一対の電極13a,14a間の方向になった場合に、その筋電位の計測効率が最もよくなるためである。
【0016】
なお、監視領域6,7には、被検水の流れ方向と略直交する方向の両側に別の一対の電極を設ける等、一対の電極間を結ぶ方向が異なるように、複数組の電極を異なる方向に配置してもよい。また水槽1は、静電気の影響を防ぐために金属製接地板16の上に配置されている。監視領域6,7の一方は省略してもよい。
【0017】
このような構成の水槽1を用いて、その監視領域6,7で所定数の緋メダカを飼育しながら、図1に例示のサンプリング手段20、フーリエ変換手段21、周波数成分波形演算手段22、移動平均波形演算手段23、第1判定手段24、第2判定手段25、第3判定手段26、第4判定手段27、警報手段28等から成る水質連続監視系統により、緋メダカの活動電位の電位変化を捉えて、被検水の水質を連続的に監視する。
【0018】
次に図1の水質連続監視系統、図4のフローチャート等を参照しながら、被検水の水質連続監視方法について説明する。水槽1の監視領域6,7内に多数の緋メダカを飼育しておけば、緋メダカの活動電位(遊泳、給餌、睡眠、交尾等の活動に伴う、緋メダカの生命維持のための筋電位)の変化により監視領域6,7の両側の電極13a,14a間の電圧出力が変化する。
【0019】
なお、緋メダカの活動電位は、魚体が電極13a,14a間でその方向に沿い且つその頭、尾びれが各電極13a,14a側に向いているときに最大値を示す。そして、緋メダカの頭、尾びれが逆向きになれば、活動電位の極性が反転する。また緋メダカが電極13a,14aと略平行(電極13a,14a間を結ぶ方向と略直角方向)になれば、電極13a,14a間の活動電位が殆どゼロまで低下する。従って、一対又は複数対の電極13a,14a間の活動電位の変化を捉えることにより、水槽1内の緋メダカの状態を把握することができる。
【0020】
監視に際しては、先ず図5に示すように所定の時間間隔tに設定された所定の監視時刻T1,T2,T3・・・毎に、サンプリング手段20により、電極13a,14a間の電圧出力(電圧データ)を一定のサンプリング周期Δtで所定時間TにわたってN点の電圧データをサンプリングする(図4のステップS1)。例えば、この実施例では、例えば各監視時刻T1,T2,T3・・・毎にサンプリング周波数100Hzで8192点サンプリングし、その各サンプリング時点の電圧データを得る。なお、一対の電極13a,14a間の電圧変化は微弱であるため、適宜増幅する。
【0021】
次にフーリエ変換手段21において、サンプリング手段20のサンプリングによって得た各監視時点の電圧データを高速フーリエ変換して、各サンプリング時の電圧データの周波数成分を抽出する(図4のステップS2)。続いて周波数成分波形演算手段22において、フーリエ変換手段21により変換された各電圧データの周波数成分に基づいて、その周波数成分の分布状況を振幅値として示す周波数成分波形を演算する(図4のステップS3)。
【0022】
なお、フーリエ変換データは、そのままでは細かな振動が生じるため、周波数成分の振幅値を0.1Hz幅(所定の周波数幅)で平均化することが望ましい。例えば8192点でサンプリングする場合には、具体的にはフーリエ変換データを9点分ずつ足して、その平均を取る。なお、9点分は約0.1Hzの周波数幅である。
【0023】
サンプリング手段20により電極13a,14a間の電圧出力をサンプリングする場合、その電圧データは緋メダカの活動電位(筋電位)によるものと、被検水によるものとが重畳されたものとなる。しかし、その後のデータの処理により、次のようにその両者を確実に区別できる。
【0024】
図6は緋メダカ13匹の平常時の活動電位の電圧波形を示し、図7はその活動電位の周波数成分波形を示す。図8は水槽1内が水だけの場合の電圧出力の電圧波形を示し、図9はその電圧出力の周波数成分波形を示す。
【0025】
緋メダカの平常時の活動電位をサンプリング手段20によりサンプリングした場合、その活動電位は図6に示すように略一定の振幅と周期のパルス列として観測できる。因みに、この活動電位はパルス振幅が10μV、パルス周波数(パルス周期の逆数)が約3〜4Hzの約3.5Hzである。そして、この活動電位をフーリエ変換手段21で高速フーリエ変換して、周波数成分波形演算手段22により、その時点の活動電位の周波数成分波形を求めると、図7に示す波形となる。この図7の周波数成分波形では、約3.5Hzの基本周波数成分による高尖頭部Aと、その整数倍の高調波成分による低尖頭部Bとが確認できる。
【0026】
なお、緋メダカの数が増えるに連れて、活動電位の基本周波数成分、高調波成分の2つの尖頭部A,Bが周波数成分波形にはっきりと現れる傾向にある。緋メダカの活動電位は、緋メダカの向き(正電極13a,14aに頭が向いているか、尾が向いているか)によって形状が決まる。また活動電位の電圧値は緋メダカが電極13a,14aを結ぶ直線に沿ったときに上昇し、直角に向くと低下するが、緋メダカの活動の大小と発生電位(筋電位)は略比例関係にある。
【0027】
水槽1内が水だけの場合には、電極13a,14a間の電圧出力は図8に示すように振幅が1μVであり、その周波数成分の周波数成分波形は、図9に示すように振幅が周波数に略逆比例する1/f特性を示している。この1/f特性は自然界に普遍的に存在する「1/fゆらぎ」の特性を表している。
【0028】
図7と図9との周波数成分波形を比較すると、その周波数成分の相違は1Hz以上の周波数帯に現れるが、1Hz未満の周波数帯では確認できない。従って、1Hz以上の周波数帯の周波数成分波形を見れば、その電圧出力が緋メダカの活動電位によるものか、流水によるものかを判定できる。何故なら、流水による電圧出力の周波数成分は、その振幅が周波数に逆比例(1/fゆらぎ)する。一方、緋メダカの活動電位の周波数成分は約3〜4Hzに尖頭部A,Bがあり、活動が活発か休止中かで周波数が僅かに上下し、周波数成分の振幅も変化するが、明かに流水の1/fゆらぎとは区別できる。
【0029】
次に移動平均波形演算手段23において、過去の複数回の監視時刻T1〜T5における周波数成分波形を平均化した移動平均波形を演算し(図4のステップS4)、その移動平均波形を毒性物質混入の有無を判定する基準周波数成分波形とする。即ち、図10〜図15は平常時の活動電位の異なる監視時刻T1〜T5における周波数成分の周波数成分波形を示すが、緋メダカの活動電位は、この図10〜図15に示すように、平常時においても水槽1内の被検水の水温、緋メダカの活動状況等によって若干異なる。しかし、各周波数成分波形において、その基本周波数成分と、その整数倍の高調波成分とが大きく変化することはない。そして、各監視時刻T1〜T5毎の活動電位の周波数成分波形を平均化すると、図15に太線で示す移動平均波形となる。従って、移動平均波形演算手段23により、過去の所定時間(例えば30分間、1時間等)内の複数回分の周波数成分波形を平均化して、その移動平均波形を基準周波数成分波形とする。
【0030】
その後、第1判定手段24において、周波数成分波形演算手段22により演算された移動平均波形を基準周波数成分波形として、この基準周波数成分波形と周波数成分波形演算手段22で演算された現在の監視周波数成分波形との波形を対比して(図4のステップS5)、毒性物質の混入の可能性の有無を判定する。また第2判定手段25において、基準周波数成分波形と現在の監視周波数成分波形との約1Hz以下の周波数成分の振幅の大小を比較して、毒性物質の混入の可能性の有無を判定する。
【0031】
即ち、図16、図17は毒性物質の混入直後に電圧出力が急激に変化する場合の電圧波形を示す。図18はその後の緋メダカの活動電位の電圧波形を示し、図19は基準周波数成分波形C、水の1/f特性の電圧出力の周波数成分波形C6の他に、毒性物質の混入後における活動電位の周波数成分の周波数成分波形C1〜C5を示す。図18の活動電位の電圧出力は、緋メダカの平常時とは異なる挙動(例えば呼吸困難での鼻あげ、忌避行動、狂奔行動等)に伴う活動電位であり、緋メダカの大きな動きに対応して大きな振幅となって現れている。毒性物質の混入後に各監視時刻でサンプリングした電圧データの周波数成分の周波数成分波形は、例えば図19に示すある時点の最大の周波数成分波形C1を経た後、時間の経過に伴う緋メダカの活動の低下により、周波数成分波形C2〜C5のように低下する。
【0032】
この図19の周波数成分波形C1〜C5からも判るように、毒性物質の混入後の所定の時間帯では、平常時に比較して全周波数成分波形の振幅が大きく増大している。そして、約1Hz以下の低周波域で周波数成分の振幅が大きく上昇している。また周波数特性は略1/f特性であるが、約3Hz以上の周波数成分が一様に増大し、基準周波数成分波形Cの基本周波数成分、高調波成分の尖頭部A,Bが消滅又は埋没している。
【0033】
そこで、第1判定手段24では、各監視時点の現在の監視周波数成分波形(例えば周波数成分波形C1)と基準周波数成分波形Cとを対比して(図4のステップS5)、監視周波数成分波形C1に基準周波数成分波形Cの基本周波数成分、高調波成分の尖頭部A,Bがあるか否か確認し(図4のステップS6)、監視周波数成分波形C1から基本周波数成分、高調波成分の尖頭部A,Bが消滅するか、尖頭部A,Bが監視周波数成分波形C1に埋没した場合に毒性物質汚染、又はその可能性があるものとして(図4のステップS7)、警報手段28から予告又は警報を発する。
【0034】
一方、第2判定手段25では、各監視時点の現在の監視周波数成分波形C1と基準周波数成分波形Cとの1Hz以下の低周波数域の振幅の大小を比較して、現在の監視周波数成分波形C1の振幅が基準周波数成分波形Cの振幅よりも或る閾値以上に上昇しているか否かを確認し(図4のステップS8)、上昇した場合に毒性物質汚染又はその可能性があるものとして(図4のステップS9)、警報手段28から予告又は警報を発する。
【0035】
緋メダカが死滅又はこれに近い状態になれば、平常時の活動電位の周波数特性に約3Hz以上に見られた周波数成分の増大は現れず、全体が略1/f特性を示す。これは、水槽1が被検水だけの場合の周波数成分波形C6に殆ど一致する。従って、第3判定手段26で現在の監視周波数成分波形と水の1/f特性の周波数成分波形C6とを比較して(図4のステップS10)、現在の監視周波数特性が1/f特性の周波数成分波形C6と一致又は近づけば、水槽1内の緋メダカの死滅と判定して(図4のステップS11)、警報手段28から警報を発する。
【0036】
このように各監視時点の各電圧出力をフーリエ変換して周波数成分を抽出し、その監視時点の各周波数成分の分布状況を演算し、その監視時点の分布状況を緋メダカの活動電位による周波数成分の分布状況と比較して被検水の汚染の有無を監視することにより、汚染物質の混入等による汚染を容易且つ迅速に判定できる。また緋メダカの活動電位(筋電位)の電圧出力の振幅の大小を毒性物質汚染の判定基準とする場合には、その電圧波形の変化が複雑である上に、毒性物質汚染以外の要因による誤判定が多発する惧れがあるが、そのような問題を容易に解消できる。
【0037】
電極13a,14a間の水質が一様であれば、その界面電位の差は小さい。しかし、毒性物質が混入して電極13a,14aの一方と接触した場合には、緋メダカの活動電位が変化する前に或る時間だけ、電極13a,14a間の界面電位に大きな差が発生するため、図16、図17に示すように電圧出力が急激に変化する。このため第4判定手段27において、電極13a,14a間の電圧出力が急激に変化するか否かを監視し(図4のステップS12)、電圧出力が所定の閾値を超えて急激に上昇した場合に毒性物質汚染等による水質急変の可能性ありとして(図4のステップS13)、警報手段28から警報を発する。
【0038】
即ち、図16は毒性物質注入直後(80秒余りの間)の電圧出力の電圧波形であり、図17は毒性物質注入から1分30秒後の電圧出力の電圧波形である。図16の電圧出力の急激な上昇は、緋メダカの活動が大きく変化する前に発生する。そして、しばらくして毒性物質が被検水に溶け込み、均質な溶液が一対の電極13a,14aに接触すると、図17に示すように毒性物質と電極13a,14aとの接触による電位は観測されなくなる。従って、これは毒性物質の不均質な溶液と一方の電極13a,14aとの接触により発生する、一種の接触電位と考えられる。そこで、第4判定手段27により電極13a,14a間の電圧出力の急激な変化の有無(電圧振幅の時間変化)を監視しておけば、毒性物質により緋メダカの活動が大きく変化する前の時点で、毒性物質汚染の可能性の有無を容易且つ迅速に確認できる。
【0039】
急激な電圧出力の増大もなく(ステップS12)、尖頭部A,Bの埋没等がなく(ステップS6)、低周波域での振幅の増大もなく(ステップS8)、1/f特性ともならなければ(ステップS10)、被検水の水質に異常がないものとして処理する((図4のステップS14)。
【0040】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、監視周波数成分波形と基準周波数成分波形とを対比して、尖頭部A,Bの有無を確認する場合、所定の周波数帯毎に積分して、その監視周波数成分波形、基準周波数成分波形を各周波数帯毎の積分値として求め、その積分値を比較すればよい。移動平均波形演算手段23は、過去の複数回の監視周波数成分波形の移動平均を求めて、それを基準周波数成分波形とするが、その過去の複数回は被検水が汚染した場合に緋メダカが死滅に至る時間を十分に超えた時間に跨がる回数であることが望ましい。
【0041】
被検水がごく微量の毒性物質等によって徐々に汚染した場合には、緋メダカの活動能力が徐々に低下し、それに伴って緋メダカの活動電位も徐々に低下する。このため過去の複数回の監視周波数成分波形を平均化して、それを基準周波数成分波形とすれば、監視周波数成分波形の振幅が低下しても、被検水の汚染を判定できない惧れがある。従って、監視周波数成分波形の振幅が平常時の平均周波数成分波形の振幅から一定の閾値を超えて低下したときに、被検水の汚染又はその可能性ありと判定する等の適宜手段を講じることが望ましい。
【0042】
被検水が汚染した場合、基準周波数成分波形の尖頭部A,Bよりも低周波数側において、その監視周波数成分波形に尖頭部A,Bができることがある。このような場合には、基準周波数成分波形の尖頭部A,Bと監視周波数成分波形の尖頭部A,Bとの相対的な位置関係から、被検水の汚染の有無を判定することができる。また基準周波数成分波形の尖頭部A,Bに対する監視周波数成分波形の振幅値の大小から、被検水の汚染の有無を判定することも可能である。
【0043】
実施例では、フーリエ変換後の各周波数成分から、監視時点の各周波数成分の分布状況を示す監視周波数成分波形を演算し、この監視周波数成分波形と緋メダカの活動電位による基準周波数成分波形とを比較して被検水の汚染の有無を判定する方法を例示しているが、フーリエ変換後の各周波数成分から、監視時点の各周波数成分の分布状況を演算し、その監視時点の分布状況を水棲生物の活動電位による周波数成分の分布状況と比較して被検水の汚染の有無を判定してもよい。
【0044】
監視周波数成分波形に、水棲生物の活動電位による周波数成分波形中の基本周波数成分及び/又はその高調波成分の尖頭部A,Bが共にない場合に被検水の汚染の可能性ありと判定する他、基本周波数成分、高調波成分の尖頭部A,Bの何れか一方がない場合に汚染の可能性ありと判定するようにしてもよい。
【0045】
水槽1の飼育部は1個でもよい。また水棲生物の代表例として緋メダカを例示しているが、緋メダカ以外の水棲生物でもよい。電極13a,14aには、白金酸化物板又は白金酸化物のコーティングン板の他に、酸化チタン板、銅板、アルミ板等のように導電性を有する各種の板材等が使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一実施例を示す水質連続監視系統のブロック図である。
【図2】本発明の一実施例を示す水槽の平面図である。
【図3】本発明の一実施例を示す水槽の断面図である。
【図4】本発明の一実施例を示す水質連続監視のフローチャートである。
【図5】本発明の一実施例を示すサンプリングのタイムチャートである。
【図6】本発明の一実施例を示す平常時の活動電位の電圧波形図である。
【図7】本発明の一実施例を示す平常時の活動電位の周波数成分波形図である。
【図8】本発明の一実施例を示す水の電圧出力の電圧波形図である。
【図9】本発明の一実施例を示す水の電圧出力の周波数成分波形図である。
【図10】本発明の一実施例を示す平常時の活動電位の周波数成分波形図である。
【図11】本発明の一実施例を示す平常時の活動電位の周波数成分波形図である。
【図12】本発明の一実施例を示す平常時の活動電位の周波数成分波形図である。
【図13】本発明の一実施例を示す平常時の活動電位の周波数成分波形図である。
【図14】本発明の一実施例を示す平常時の活動電位の周波数成分波形図である。
【図15】本発明の一実施例を示す平常時の活動電位の周波数成分波形図である。
【図16】本発明の一実施例を示す毒性物質の混入直後の電圧波形図である。
【図17】本発明の一実施例を示す毒性物質の混入直後の電圧波形図である。
【図18】本発明の一実施例を示す毒性物質の混入から所定時間経過後の電圧波形図である。
【図19】本発明の一実施例を示す毒性物質の混入から所定時間経過後の周波数成分波形図である。
【符号の説明】
【0047】
1 水槽
6 第1監視領域
7 第2監視領域
13a,14a 電極
20 サンプリング手段
21 フーリエ変換手段
22 周波数成分波形演算手段
23 移動平均波形演算手段
24 第1判定手段
25 第2判定手段
26 第3判定手段
27 第4判定手段
28 警報手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、水棲生物を用いた水質連続監視方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば水道原水として適性がある地表水、地下水、人造水にあっても、様々な原因で突発的に毒性物質、或いは水質基準を超えた上水処理障害物質等により、水質汚染被害を受ける惧れがある。
【0003】
水道法に定められている毒性物質には、無機物質としてシアン、次亜塩素酸ナトリウム、砒素があり、有機物質として農薬類、白蟻防除剤、PCBの他、ベンゼン、トリクロロエチレン、キシレン、四塩化炭素等の有機溶剤がある。
【0004】
これらの毒性物質等による水道水の汚染が発生した場合には、いち早くこれを検出して対処することは公衆衛生上必要である。しかし、これらの原因物質による突発的な汚染を常時監視するために理化学分析に依存することは経済性からも不可能であり、水棲生物を用いた監視方法が提案されている。
【0005】
この水棲生物を用いた監視方法は、従来、被検水が通水する水槽内に緋メダカ等の水棲生物を飼育しておき、水棲生物の活動による筋電位の変化を一対の電極により捉えて、水質汚染の有無を判定する方法を採ったものがある(特許文献1)。
【特許文献1】特開平11−125628号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の水質連続監視方法は、水棲生物の活動電位の変化により水質汚染の有無判定するため、緋メダカ等の水棲生物が平常時と異なる挙動(例えば呼吸困難での鼻あげ、忌避行動、狂奔行動等)を行うようになるまで待たなければならず、毒物の混入から水棲生物の挙動の変化までにしばらくの時間を要する。従って、毒物が混入した場合にも、その混入直後の比較的短間時間でその事実を判定できないという欠点がある。
【0007】
本発明は、このような従来の問題点に鑑み、毒物物質等の汚染物質が混入した場合に、その直後で水棲生物の挙動が変化する前にその汚染を容易且つ迅速に判定できる水質連続監視方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、被検水が通水する水槽内で水棲生物を飼育しておき、一対の電極間の電圧出力を所定のサンプリング周期でサンプリングしながら前記被検水の汚染の有無を監視する水質連続監視方法おいて、前記水棲生物の活動電位が変化する前に前記電圧出力が急激に変化したときに前記被検水が汚染の可能性ありとするものである。
【0009】
前記電極に白金酸化物又は白金酸化物のコーティング材を使用することが望ましい。また前記一対の電極が前記被検水の流れ方向に配置された前記水槽を使用することが望ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、毒物物質等の汚染物質が混入した場合に、その直後で水棲生物の挙動が変化する前にその汚染を容易且つ迅速に判定できる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて詳述する。図面は本発明の一実施例を例示する。水質連続監視用の水槽1は、図2、図3に示すように矩形状の内部が被検水の流入領域2、整流領域3、給餌領域4、分配領域5、第1監視領域6、第2監視領域7、予備飼育領域8、排水領域9とに区画されている。流入領域2、整流領域3、給餌領域4は水槽1の上流側に横方向に配置され、その流入領域2に、水槽1内に被検水が流入する流入管10が設けられ、この流入管10から流入した被検水は、流入領域2から整流領域3を経て給餌領域4へと流れる。給餌領域4には給餌器11が設けられている。
【0012】
分配領域5は上流側に、排水領域9は下流側に夫々横方向に配置され、その分配領域5と排水領域9との間に、水棲生物、例えば緋メダカを飼育する第1監視領域6、第2監視領域7、予備飼育領域8が横方向に配置されている。そして、給餌領域4からの被検水は、分配領域5で第1監視領域6、第2監視領域7、予備飼育領域8に夫々分配され、その監視領域6,7、予備飼育領域8を通過した後、排水領域9の排水管11を経て外部に排出されるようになっている。排水管11は監視領域6,7、予備飼育領域8に夫々対応して設けられている。
【0013】
監視領域6,7、予備飼育領域8は、隔壁12により互いに区画されると共に、餌等が通過し緋メダカが通過しない程度の編み目、孔等を有する仕切り板13,14により分配領域5、排水領域9と区画されている。監視領域6,7には、例えば13匹程度の多数(複数)の緋メダカが飼育されている。予備飼育領域8には予備用の緋メダカが飼育されている。
【0014】
監視領域6,7には、被検水の流れ方向の両端部、即ち上流側(流入口側)と下流側(流出口側)との端部に一対の電極13a,14aが配置されている。各電極13a,14aには緋メダカの活動電位(筋電位)の観測に適した材料、例えば白金酸化物をコーティングした金属板が使用されており、仕切り板13,14を兼用するようになっている。電極13a,14aは仕切り板13,14と別に設けてもよい。また一対の電極13a,14aは平行に配置することが望ましい。更に電極13a,14aは白金酸化物製でもよい。
【0015】
監視領域6,7には、緋メダカが下流側で被検水の流れに沿って逆らう方向に遊泳するように、一対の電極13a,14a間に複数のポール等の突起15が設けられている。これは、緋メダカの身体が一対の電極13a,14a間の方向になった場合に、その筋電位の計測効率が最もよくなるためである。
【0016】
なお、監視領域6,7には、被検水の流れ方向と略直交する方向の両側に別の一対の電極を設ける等、一対の電極間を結ぶ方向が異なるように、複数組の電極を異なる方向に配置してもよい。また水槽1は、静電気の影響を防ぐために金属製接地板16の上に配置されている。監視領域6,7の一方は省略してもよい。
【0017】
このような構成の水槽1を用いて、その監視領域6,7で所定数の緋メダカを飼育しながら、図1に例示のサンプリング手段20、フーリエ変換手段21、周波数成分波形演算手段22、移動平均波形演算手段23、第1判定手段24、第2判定手段25、第3判定手段26、第4判定手段27、警報手段28等から成る水質連続監視系統により、緋メダカの活動電位の電位変化を捉えて、被検水の水質を連続的に監視する。
【0018】
次に図1の水質連続監視系統、図4のフローチャート等を参照しながら、被検水の水質連続監視方法について説明する。水槽1の監視領域6,7内に多数の緋メダカを飼育しておけば、緋メダカの活動電位(遊泳、給餌、睡眠、交尾等の活動に伴う、緋メダカの生命維持のための筋電位)の変化により監視領域6,7の両側の電極13a,14a間の電圧出力が変化する。
【0019】
なお、緋メダカの活動電位は、魚体が電極13a,14a間でその方向に沿い且つその頭、尾びれが各電極13a,14a側に向いているときに最大値を示す。そして、緋メダカの頭、尾びれが逆向きになれば、活動電位の極性が反転する。また緋メダカが電極13a,14aと略平行(電極13a,14a間を結ぶ方向と略直角方向)になれば、電極13a,14a間の活動電位が殆どゼロまで低下する。従って、一対又は複数対の電極13a,14a間の活動電位の変化を捉えることにより、水槽1内の緋メダカの状態を把握することができる。
【0020】
監視に際しては、先ず図5に示すように所定の時間間隔tに設定された所定の監視時刻T1,T2,T3・・・毎に、サンプリング手段20により、電極13a,14a間の電圧出力(電圧データ)を一定のサンプリング周期Δtで所定時間TにわたってN点の電圧データをサンプリングする(図4のステップS1)。例えば、この実施例では、例えば各監視時刻T1,T2,T3・・・毎にサンプリング周波数100Hzで8192点サンプリングし、その各サンプリング時点の電圧データを得る。なお、一対の電極13a,14a間の電圧変化は微弱であるため、適宜増幅する。
【0021】
次にフーリエ変換手段21において、サンプリング手段20のサンプリングによって得た各監視時点の電圧データを高速フーリエ変換して、各サンプリング時の電圧データの周波数成分を抽出する(図4のステップS2)。続いて周波数成分波形演算手段22において、フーリエ変換手段21により変換された各電圧データの周波数成分に基づいて、その周波数成分の分布状況を振幅値として示す周波数成分波形を演算する(図4のステップS3)。
【0022】
なお、フーリエ変換データは、そのままでは細かな振動が生じるため、周波数成分の振幅値を0.1Hz幅(所定の周波数幅)で平均化することが望ましい。例えば8192点でサンプリングする場合には、具体的にはフーリエ変換データを9点分ずつ足して、その平均を取る。なお、9点分は約0.1Hzの周波数幅である。
【0023】
サンプリング手段20により電極13a,14a間の電圧出力をサンプリングする場合、その電圧データは緋メダカの活動電位(筋電位)によるものと、被検水によるものとが重畳されたものとなる。しかし、その後のデータの処理により、次のようにその両者を確実に区別できる。
【0024】
図6は緋メダカ13匹の平常時の活動電位の電圧波形を示し、図7はその活動電位の周波数成分波形を示す。図8は水槽1内が水だけの場合の電圧出力の電圧波形を示し、図9はその電圧出力の周波数成分波形を示す。
【0025】
緋メダカの平常時の活動電位をサンプリング手段20によりサンプリングした場合、その活動電位は図6に示すように略一定の振幅と周期のパルス列として観測できる。因みに、この活動電位はパルス振幅が10μV、パルス周波数(パルス周期の逆数)が約3〜4Hzの約3.5Hzである。そして、この活動電位をフーリエ変換手段21で高速フーリエ変換して、周波数成分波形演算手段22により、その時点の活動電位の周波数成分波形を求めると、図7に示す波形となる。この図7の周波数成分波形では、約3.5Hzの基本周波数成分による高尖頭部Aと、その整数倍の高調波成分による低尖頭部Bとが確認できる。
【0026】
なお、緋メダカの数が増えるに連れて、活動電位の基本周波数成分、高調波成分の2つの尖頭部A,Bが周波数成分波形にはっきりと現れる傾向にある。緋メダカの活動電位は、緋メダカの向き(正電極13a,14aに頭が向いているか、尾が向いているか)によって形状が決まる。また活動電位の電圧値は緋メダカが電極13a,14aを結ぶ直線に沿ったときに上昇し、直角に向くと低下するが、緋メダカの活動の大小と発生電位(筋電位)は略比例関係にある。
【0027】
水槽1内が水だけの場合には、電極13a,14a間の電圧出力は図8に示すように振幅が1μVであり、その周波数成分の周波数成分波形は、図9に示すように振幅が周波数に略逆比例する1/f特性を示している。この1/f特性は自然界に普遍的に存在する「1/fゆらぎ」の特性を表している。
【0028】
図7と図9との周波数成分波形を比較すると、その周波数成分の相違は1Hz以上の周波数帯に現れるが、1Hz未満の周波数帯では確認できない。従って、1Hz以上の周波数帯の周波数成分波形を見れば、その電圧出力が緋メダカの活動電位によるものか、流水によるものかを判定できる。何故なら、流水による電圧出力の周波数成分は、その振幅が周波数に逆比例(1/fゆらぎ)する。一方、緋メダカの活動電位の周波数成分は約3〜4Hzに尖頭部A,Bがあり、活動が活発か休止中かで周波数が僅かに上下し、周波数成分の振幅も変化するが、明かに流水の1/fゆらぎとは区別できる。
【0029】
次に移動平均波形演算手段23において、過去の複数回の監視時刻T1〜T5における周波数成分波形を平均化した移動平均波形を演算し(図4のステップS4)、その移動平均波形を毒性物質混入の有無を判定する基準周波数成分波形とする。即ち、図10〜図15は平常時の活動電位の異なる監視時刻T1〜T5における周波数成分の周波数成分波形を示すが、緋メダカの活動電位は、この図10〜図15に示すように、平常時においても水槽1内の被検水の水温、緋メダカの活動状況等によって若干異なる。しかし、各周波数成分波形において、その基本周波数成分と、その整数倍の高調波成分とが大きく変化することはない。そして、各監視時刻T1〜T5毎の活動電位の周波数成分波形を平均化すると、図15に太線で示す移動平均波形となる。従って、移動平均波形演算手段23により、過去の所定時間(例えば30分間、1時間等)内の複数回分の周波数成分波形を平均化して、その移動平均波形を基準周波数成分波形とする。
【0030】
その後、第1判定手段24において、周波数成分波形演算手段22により演算された移動平均波形を基準周波数成分波形として、この基準周波数成分波形と周波数成分波形演算手段22で演算された現在の監視周波数成分波形との波形を対比して(図4のステップS5)、毒性物質の混入の可能性の有無を判定する。また第2判定手段25において、基準周波数成分波形と現在の監視周波数成分波形との約1Hz以下の周波数成分の振幅の大小を比較して、毒性物質の混入の可能性の有無を判定する。
【0031】
即ち、図16、図17は毒性物質の混入直後に電圧出力が急激に変化する場合の電圧波形を示す。図18はその後の緋メダカの活動電位の電圧波形を示し、図19は基準周波数成分波形C、水の1/f特性の電圧出力の周波数成分波形C6の他に、毒性物質の混入後における活動電位の周波数成分の周波数成分波形C1〜C5を示す。図18の活動電位の電圧出力は、緋メダカの平常時とは異なる挙動(例えば呼吸困難での鼻あげ、忌避行動、狂奔行動等)に伴う活動電位であり、緋メダカの大きな動きに対応して大きな振幅となって現れている。毒性物質の混入後に各監視時刻でサンプリングした電圧データの周波数成分の周波数成分波形は、例えば図19に示すある時点の最大の周波数成分波形C1を経た後、時間の経過に伴う緋メダカの活動の低下により、周波数成分波形C2〜C5のように低下する。
【0032】
この図19の周波数成分波形C1〜C5からも判るように、毒性物質の混入後の所定の時間帯では、平常時に比較して全周波数成分波形の振幅が大きく増大している。そして、約1Hz以下の低周波域で周波数成分の振幅が大きく上昇している。また周波数特性は略1/f特性であるが、約3Hz以上の周波数成分が一様に増大し、基準周波数成分波形Cの基本周波数成分、高調波成分の尖頭部A,Bが消滅又は埋没している。
【0033】
そこで、第1判定手段24では、各監視時点の現在の監視周波数成分波形(例えば周波数成分波形C1)と基準周波数成分波形Cとを対比して(図4のステップS5)、監視周波数成分波形C1に基準周波数成分波形Cの基本周波数成分、高調波成分の尖頭部A,Bがあるか否か確認し(図4のステップS6)、監視周波数成分波形C1から基本周波数成分、高調波成分の尖頭部A,Bが消滅するか、尖頭部A,Bが監視周波数成分波形C1に埋没した場合に毒性物質汚染、又はその可能性があるものとして(図4のステップS7)、警報手段28から予告又は警報を発する。
【0034】
一方、第2判定手段25では、各監視時点の現在の監視周波数成分波形C1と基準周波数成分波形Cとの1Hz以下の低周波数域の振幅の大小を比較して、現在の監視周波数成分波形C1の振幅が基準周波数成分波形Cの振幅よりも或る閾値以上に上昇しているか否かを確認し(図4のステップS8)、上昇した場合に毒性物質汚染又はその可能性があるものとして(図4のステップS9)、警報手段28から予告又は警報を発する。
【0035】
緋メダカが死滅又はこれに近い状態になれば、平常時の活動電位の周波数特性に約3Hz以上に見られた周波数成分の増大は現れず、全体が略1/f特性を示す。これは、水槽1が被検水だけの場合の周波数成分波形C6に殆ど一致する。従って、第3判定手段26で現在の監視周波数成分波形と水の1/f特性の周波数成分波形C6とを比較して(図4のステップS10)、現在の監視周波数特性が1/f特性の周波数成分波形C6と一致又は近づけば、水槽1内の緋メダカの死滅と判定して(図4のステップS11)、警報手段28から警報を発する。
【0036】
このように各監視時点の各電圧出力をフーリエ変換して周波数成分を抽出し、その監視時点の各周波数成分の分布状況を演算し、その監視時点の分布状況を緋メダカの活動電位による周波数成分の分布状況と比較して被検水の汚染の有無を監視することにより、汚染物質の混入等による汚染を容易且つ迅速に判定できる。また緋メダカの活動電位(筋電位)の電圧出力の振幅の大小を毒性物質汚染の判定基準とする場合には、その電圧波形の変化が複雑である上に、毒性物質汚染以外の要因による誤判定が多発する惧れがあるが、そのような問題を容易に解消できる。
【0037】
電極13a,14a間の水質が一様であれば、その界面電位の差は小さい。しかし、毒性物質が混入して電極13a,14aの一方と接触した場合には、緋メダカの活動電位が変化する前に或る時間だけ、電極13a,14a間の界面電位に大きな差が発生するため、図16、図17に示すように電圧出力が急激に変化する。このため第4判定手段27において、電極13a,14a間の電圧出力が急激に変化するか否かを監視し(図4のステップS12)、電圧出力が所定の閾値を超えて急激に上昇した場合に毒性物質汚染等による水質急変の可能性ありとして(図4のステップS13)、警報手段28から警報を発する。
【0038】
即ち、図16は毒性物質注入直後(80秒余りの間)の電圧出力の電圧波形であり、図17は毒性物質注入から1分30秒後の電圧出力の電圧波形である。図16の電圧出力の急激な上昇は、緋メダカの活動が大きく変化する前に発生する。そして、しばらくして毒性物質が被検水に溶け込み、均質な溶液が一対の電極13a,14aに接触すると、図17に示すように毒性物質と電極13a,14aとの接触による電位は観測されなくなる。従って、これは毒性物質の不均質な溶液と一方の電極13a,14aとの接触により発生する、一種の接触電位と考えられる。そこで、第4判定手段27により電極13a,14a間の電圧出力の急激な変化の有無(電圧振幅の時間変化)を監視しておけば、毒性物質により緋メダカの活動が大きく変化する前の時点で、毒性物質汚染の可能性の有無を容易且つ迅速に確認できる。
【0039】
急激な電圧出力の増大もなく(ステップS12)、尖頭部A,Bの埋没等がなく(ステップS6)、低周波域での振幅の増大もなく(ステップS8)、1/f特性ともならなければ(ステップS10)、被検水の水質に異常がないものとして処理する((図4のステップS14)。
【0040】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、監視周波数成分波形と基準周波数成分波形とを対比して、尖頭部A,Bの有無を確認する場合、所定の周波数帯毎に積分して、その監視周波数成分波形、基準周波数成分波形を各周波数帯毎の積分値として求め、その積分値を比較すればよい。移動平均波形演算手段23は、過去の複数回の監視周波数成分波形の移動平均を求めて、それを基準周波数成分波形とするが、その過去の複数回は被検水が汚染した場合に緋メダカが死滅に至る時間を十分に超えた時間に跨がる回数であることが望ましい。
【0041】
被検水がごく微量の毒性物質等によって徐々に汚染した場合には、緋メダカの活動能力が徐々に低下し、それに伴って緋メダカの活動電位も徐々に低下する。このため過去の複数回の監視周波数成分波形を平均化して、それを基準周波数成分波形とすれば、監視周波数成分波形の振幅が低下しても、被検水の汚染を判定できない惧れがある。従って、監視周波数成分波形の振幅が平常時の平均周波数成分波形の振幅から一定の閾値を超えて低下したときに、被検水の汚染又はその可能性ありと判定する等の適宜手段を講じることが望ましい。
【0042】
被検水が汚染した場合、基準周波数成分波形の尖頭部A,Bよりも低周波数側において、その監視周波数成分波形に尖頭部A,Bができることがある。このような場合には、基準周波数成分波形の尖頭部A,Bと監視周波数成分波形の尖頭部A,Bとの相対的な位置関係から、被検水の汚染の有無を判定することができる。また基準周波数成分波形の尖頭部A,Bに対する監視周波数成分波形の振幅値の大小から、被検水の汚染の有無を判定することも可能である。
【0043】
実施例では、フーリエ変換後の各周波数成分から、監視時点の各周波数成分の分布状況を示す監視周波数成分波形を演算し、この監視周波数成分波形と緋メダカの活動電位による基準周波数成分波形とを比較して被検水の汚染の有無を判定する方法を例示しているが、フーリエ変換後の各周波数成分から、監視時点の各周波数成分の分布状況を演算し、その監視時点の分布状況を水棲生物の活動電位による周波数成分の分布状況と比較して被検水の汚染の有無を判定してもよい。
【0044】
監視周波数成分波形に、水棲生物の活動電位による周波数成分波形中の基本周波数成分及び/又はその高調波成分の尖頭部A,Bが共にない場合に被検水の汚染の可能性ありと判定する他、基本周波数成分、高調波成分の尖頭部A,Bの何れか一方がない場合に汚染の可能性ありと判定するようにしてもよい。
【0045】
水槽1の飼育部は1個でもよい。また水棲生物の代表例として緋メダカを例示しているが、緋メダカ以外の水棲生物でもよい。電極13a,14aには、白金酸化物板又は白金酸化物のコーティングン板の他に、酸化チタン板、銅板、アルミ板等のように導電性を有する各種の板材等が使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一実施例を示す水質連続監視系統のブロック図である。
【図2】本発明の一実施例を示す水槽の平面図である。
【図3】本発明の一実施例を示す水槽の断面図である。
【図4】本発明の一実施例を示す水質連続監視のフローチャートである。
【図5】本発明の一実施例を示すサンプリングのタイムチャートである。
【図6】本発明の一実施例を示す平常時の活動電位の電圧波形図である。
【図7】本発明の一実施例を示す平常時の活動電位の周波数成分波形図である。
【図8】本発明の一実施例を示す水の電圧出力の電圧波形図である。
【図9】本発明の一実施例を示す水の電圧出力の周波数成分波形図である。
【図10】本発明の一実施例を示す平常時の活動電位の周波数成分波形図である。
【図11】本発明の一実施例を示す平常時の活動電位の周波数成分波形図である。
【図12】本発明の一実施例を示す平常時の活動電位の周波数成分波形図である。
【図13】本発明の一実施例を示す平常時の活動電位の周波数成分波形図である。
【図14】本発明の一実施例を示す平常時の活動電位の周波数成分波形図である。
【図15】本発明の一実施例を示す平常時の活動電位の周波数成分波形図である。
【図16】本発明の一実施例を示す毒性物質の混入直後の電圧波形図である。
【図17】本発明の一実施例を示す毒性物質の混入直後の電圧波形図である。
【図18】本発明の一実施例を示す毒性物質の混入から所定時間経過後の電圧波形図である。
【図19】本発明の一実施例を示す毒性物質の混入から所定時間経過後の周波数成分波形図である。
【符号の説明】
【0047】
1 水槽
6 第1監視領域
7 第2監視領域
13a,14a 電極
20 サンプリング手段
21 フーリエ変換手段
22 周波数成分波形演算手段
23 移動平均波形演算手段
24 第1判定手段
25 第2判定手段
26 第3判定手段
27 第4判定手段
28 警報手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検水が通水する水槽内で水棲生物を飼育しておき、一対の電極間の電圧出力を所定のサンプリング周期でサンプリングしながら前記被検水の汚染の有無を監視する水質連続監視方法おいて、前記水棲生物の活動電位が変化する前に前記電圧出力が急激に変化したときに前記被検水が汚染の可能性ありとすることを特徴とする水質連続監視方法。
【請求項2】
前記電極に白金酸化物又は白金酸化物のコーティング材を使用することを特徴とする請求項1に記載の水質連続監視方法。
【請求項3】
前記一対の電極が前記被検水の流れ方向に配置された前記水槽を使用することを特徴とする請求項1又は2に記載の水質連続監視方法。
【請求項1】
被検水が通水する水槽内で水棲生物を飼育しておき、一対の電極間の電圧出力を所定のサンプリング周期でサンプリングしながら前記被検水の汚染の有無を監視する水質連続監視方法おいて、前記水棲生物の活動電位が変化する前に前記電圧出力が急激に変化したときに前記被検水が汚染の可能性ありとすることを特徴とする水質連続監視方法。
【請求項2】
前記電極に白金酸化物又は白金酸化物のコーティング材を使用することを特徴とする請求項1に記載の水質連続監視方法。
【請求項3】
前記一対の電極が前記被検水の流れ方向に配置された前記水槽を使用することを特徴とする請求項1又は2に記載の水質連続監視方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2006−317229(P2006−317229A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−138762(P2005−138762)
【出願日】平成17年5月11日(2005.5.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年4月20日 社団法人日本水道協会発行の「第56回 全国水道研究発表会講演集」に発表
【出願人】(000226378)日研システム株式会社 (2)
【出願人】(592126681)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年5月11日(2005.5.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年4月20日 社団法人日本水道協会発行の「第56回 全国水道研究発表会講演集」に発表
【出願人】(000226378)日研システム株式会社 (2)
【出願人】(592126681)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
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