説明

水路の改修工法

【課題】水が流れる改修箇所に埋め戻し材を直接打設しても希釈されたり材料分離が起きず、バイパス水路を設置しなくても既設水路の改修を確実に行うことができる水路の改修工法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の水路の改修工法は、既設水路1内に水路用成形体2を敷設し、セメントミルクからなるA液と可塑化材を含む懸濁液からなるB液とを攪拌混合して得られる可塑性注入材を、既設水路1と水路用成形体2との間に形成される隙間4に注入して隙間4の水の流れを止めた後、残った隙間4に可塑性注入材を注入することにより隙間4を埋めることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設水路内に水路用成形体を敷設して水路を改修する施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
既設水路を改修する場合には、既設水路内に水路用成形体を敷設した後に既設水路と水路用成形体との隙間を埋め戻し材で充填する工法が採用され、また、近年、埋め戻し土としては、セメント、水、骨材、発泡剤を混練して得られるエアモルタルや、土砂に水等を混ぜこれに固化材を添加した流動化処理土が採用される場合が多い。
【0003】
しかし、水が流れる既設水路に水路用成形体を直接敷設した後にそのまま埋め戻した場合には、流水によって埋め戻し材が希釈されたり、材料分離を起こして埋め戻し材の品質が低下するという問題がある。
【0004】
そこで、図7に示すように、矢板等の止水材100を用いて既設水路101のバイパス既設水路102を設けて改修個所から水を完全に遮断し、その後に該改修箇所に水路用成形体103を敷設して埋め戻し土で埋め戻すようにしていた。
【0005】
しかし、この工法を採用した場合には、バイパス水路を設ける分だけ工期が長くなり、コスト高になるという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記の点に鑑みなされたものであって、水が流れる改修箇所に埋め戻し材を直接打設しても希釈されたり材料分離が起きず、バイパス水路を設置しなくても既設水路の改修を確実に行うことができる水路の改修工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の水路の改修工法は、既設水路内に水路用成形体を敷設し、セメントミルクからなるA液と可塑化材を含む懸濁液からなるB液とを攪拌混合して得られる可塑性注入材を、前記既設水路と前記水路用成形体との間に形成される隙間に前記可塑性注入材を注入して前記隙間の水の流れを止めた後、残った前記隙間に前記可塑性注入材を注入することにより前記隙間を埋めることを特徴とする。
【0008】
本願明細書でいう「可塑性」とは、ゲル状の凝集体の状態になり、流水等に希釈されることなく、その形状付与性により周囲への逸脱が生じ難い性状をいう。
【0009】
前記可塑性注入材の充填箇所の境界部分に型枠を設け、前記充填箇所の水量を減らすことが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水路の改修工法によれば、水路の流水箇所に埋め戻し材を直接注入しても流水中での水路用成形体の材料分離や希釈がないので、バイパス水路を設けて施工箇所の水を止める必要がなくなり、大幅な施工コストの削減及び工期短縮が図れる。
【0011】
また、既設水路と水路用成形体との間に形成される隙間に可塑性注入材を注入して隙間の水の流れを止めた後、残った隙間に可塑性注入材を注入するようにすれば、隙間に注入される可塑性注入材が凝集状態で押し流されるのを確実に防止でき、可塑性注入材の注入作業を円滑に行うことができ、施工性が向上する。
【0012】
また、隙間に注入される可塑性注入材によって水路用成形体の継ぎ目を塞ぐようにすれば、継ぎ目を塞ぐための作業工程が不要になって施工作業の能率が向上し、また、継ぎ目を塞ぐための止水専用材料も不要となって施工コストを低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の水路の改修工法の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0014】
図1乃至図4は、可塑性注入材を用いた水路の改修工法の施工工程を示している。
(1)図1及び図2のように、ヒューム管等の成形管2を、水路水3が流れる既設水路1内に矢印で示す水流方向に沿って連続して敷設する。これにより、同図の矢印で示すように、成形管2内に水路水3が流れ、また、成形管2と既設水路1との間の隙間4にも水路水3が流れることになる。なお、成形管2は水路用成形体の一例である。
(2)次に、図3及び図4に示すように、隙間4に可塑性注入材5を注入する。
【0015】
可塑性注入材5は、後述するA液とB液とを攪拌混合して均一に混ぜることにより、瞬時にゲル状の凝集体の状態になり、流水等に希釈されることなく、その形状付与性により周囲への逸脱が生じ難い性状を有するものである。
【0016】
隙間4に注入された可塑性注入材5は自重で流動することにより隙間4に確実に充填される。
【0017】
可塑性注入材5の注入順序は、図3のように上流側の隙間4に可塑性注入材5を注入して上流側の隙間4を充填した後に、図4及び図5の白抜き矢印で示すように、可塑性注入材5を該充填部から下流側に向けて順次注入する。
【0018】
可塑性注入材5はその形状付与性により周囲への逸脱が生じ難いものの、流水中に注入する際に流水量が多い場合等には可塑性注入材5は凝集体の状態のまま下流側に押し流されるおそれがある。
【0019】
そこで、上流側の隙間4に可塑性注入材5を最初に集中的に注入して隙間4の水路水3の流れを止めれば、その後、隙間4に注入される可塑性注入材5が凝集状態で押し流されるのを防止できる。また、型枠を設けて水量を少なくしても良いが、止水する必要はないので矢板、合板、杭等で簡易な型枠を形成するだけで済む。
【0020】
可塑性注入材5の充填量については、隙間4の充填に必要な量よりも多めに設定し、充填後に不必要な部分を掘削して所定の形状に成型するようにしても良い。
【0021】
また、隙間4に注入される可塑性注入材5は、隙間4を塞ぐと同時に、図5のように成形管2の継ぎ目2aを塞いでいく。この場合、可塑性注入材5はその形状付与性によって継ぎ目2aから成形管2内に流出することなく継ぎ目2a内に適度の深さだけ入り込んだ状態で継ぎ目2aを塞ぐので、継ぎ目2aを塞ぐための作業工程を別途設ける必要がなくなる。
(3)そして、隙間4への可塑性注入材5の充填の完了により、水路水3が流れる成形管2が敷設された水路が完成する。
【0022】
なお、水路用成形体としては、ヒューム管等の成形管2の他に、図6に示すボックスカルバートが考えられ、ボックスカルバートの場合にも上記と同じ要領で施工する。また水路用成形体は開渠構造であっても良い。
【0023】
可塑性注入材5の隙間4への注入については、注入箇所の水量が多い場合には、図2の二点鎖線で示すように、可塑性注入材5の充填箇所の境界部分に矢板、合板、杭、土のう等で簡易な型枠6を設け、充填箇所の水量を減らすようにしても良い。このようにすれば、可塑性注入材5をより的確に注入でき、注入作業も更に容易になる。
【0024】
本発明方法において用いるA液は、従来の可塑性注入材5で使用されているセメントミルクであれば特に限定はない.セメントミルクとは、セメント及び水を主成分とするミルク状態の溶液であり、セメントとしては、普通、早強、超早強、白色、耐硫酸塩、中庸熱、低熱等の各種ボルトランドセメント、前記ボルトランドセメントの少なくとも一種と高炉スラグ、フライアッシュなどの少なくとも一種とを混合した混合セメント、ジェットセメント、アルミナセメントなどの特殊セメント、セメント系固化材等から選ぶことができる。
【0025】
セメントミルクは、必要に応じて起泡剤を発泡処理した気泡を混合してセメントエアミルクとしても良い。また、セメントミルクに砂、レキ、発泡ビーズ等を添加することにより可塑性注入材5の比重を調整してもよい。
【0026】
更に、セメントミルクには、必要に応じて減水剤、遅延剤、分散剤等の混和剤を添加してもよく、これらの混和剤を添加した場合にも、練り上がり後の可塑性にはほとんど影響はない.減水剤の添加によりセメントミルク中の単位水量を減らしたり、単位セメント量を増加することができ、高強度化及び軽量化の配合設計の範囲が拡大される.遅延剤の添加により輸送配管等設備内部での硬化を防止して設備の洗浄を軽減することができる.分散剤の添加により流動性が向上し、配管等による輸送距離を延ばすことができる。
【0027】
セメントミルクにおける水の添加量は、均質なセメントミルクの調製可能な範囲であれば良く、通常、セメント:水(重量比)=1:0.3〜1:1程度の範囲とすればよい。
【0028】
本発明方法において用いるB液(可塑化液)は、可塑化材を分散させた懸瀦液であり、従来公知の各種の可塑化材を用いることができる.この様な可塑化材の具体例としては、ペントナイト、アタパルジャイト、メタカオリン等を例示でき、これらを一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0029】
可塑化液における水の添加量は、特に制限はないが、通常、可塑化材:水(重量比)=1:6.2〜1:7.1程度の範囲とすればよい。
【0030】
可塑化材として用いるペントナイト、アタパルジャイト、メタカオリン等の品位については特に限定はなく、従来から用いられているものを適宜選択して使用できる。
【0031】
また、固化材量を増減することにより、任意の強度を発現させることができ、低強度に設定することにより、埋め戻し後に地中構造物の補修等のために再掘削する場合でも掘削を容易に行うことができる。
【0032】
本発明の施工方法では、通常は、施工現場において、パイプ等の配管を用いて施工場所まで圧送し、施工場所の直前で両液を混合して瞬時に可塑化させて、施工場所に注入する。なお、施工現場ではなく、別の場所に設置した製造プラントにおいてA液とB液を製造した後、ミキサー車等を用いてA液とB液を施工現場に搬送し、施工現場においてA液とB液を混合して、瞬時に可塑化させて施工場所に注入するようにしても良い。
【0033】
A液とB液の混合割合については特に限定的ではなく、B液に含まれる可塑化材の種類等に応じて、適度な可塑性能、硬化性能等が発揮できるように適宜決めればよい。
【0034】
また、可塑化材を含むB液を必要に応じて施工現場で希釈してA液と混合して可塑化させて施工場所に注入することができ、希釈の度合いによって施工現場に適したフロー値、可塑化材濃度などに調節できる。
【0035】
また、調整された可塑性注入材5のフロー値は、80〜120mmの範囲が好ましく、この範囲では水中打設や流水のある場所でも材料分離が極めて少なくなる。 なお、フロー値は、日本道路公団規格「エアモルタル及びエアミルクの試験方法(JHSA313−1992)」のコンシステンシー試験方法のシリンダー法のよった。内径8cm高さ8cmのシリンダーに試料を入れ、引き抜き後の試料の底面の直径を測定した。
【0036】
可塑性注入材5は、可塑化薬剤を使用せず、無機材料の配合技術のみで可塑性を発現するものである
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】(a)は本発明の水路の改修工法の施工工程を示す平面図、(b)はその施工工程の横断面図である。
【図2】(a)は本発明の水路の改修工法の施工工程を示す平面図、(b)はその施工工程の横断面図である。
【図3】(a)は本発明の水路の改修工法の施工工程を示す平面図、(b)はその施工工程の横断面図である。
【図4】本発明の水路の改修工法の施工工程を示す平面図である。
【図5】本発明の水路の改修工法の施工工程を示す縦断面図である。
【図6】本発明の水路の改修工法の他の施工工程を示す横断面図である。
【図7】従来の水路の改修工法の施工工程を示す平面図である。
【符号の説明】
【0038】
1 水路
2 成形管(水路用成形体)
2a 成形管の継ぎ目
3 水路水
4 隙間
5 可塑性注入材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設水路内に水路用成形体を敷設し、セメントミルクからなるA液と可塑化材を含む懸濁液からなるB液とを攪拌混合して得られる可塑性注入材を、前記既設水路と前記水路用成形体との間に形成される隙間に前記可塑性注入材を注入して前記隙間の水の流れを止めた後、残った前記隙間に前記可塑性注入材を注入することにより前記隙間を埋めることを特徴とする水路の改修工法。
【請求項2】
前記可塑性注入材の充填箇所の境界部分に型枠を設け、前記充填箇所の水量を減らすことを特徴とする請求項1に記載の水路の改修工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−161556(P2006−161556A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−30492(P2006−30492)
【出願日】平成18年2月8日(2006.2.8)
【分割の表示】特願2001−281175(P2001−281175)の分割
【原出願日】平成13年9月17日(2001.9.17)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【出願人】(391051049)株式会社エステック (28)