説明

水路用ブロック

【課題】本発明は、水路本来の機能を損なわず、植物の植生量を適量にコントロールでき、水路周りの自然を護りつつ、人間の生活とが共存を可能にし、安価で製造容易な水路用ブロックを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、凹状断面を備え、通水方向に所定長さを有する水路用ブロック1であって、凹状断面の内底面には、流れによって運ばれる土砂3を溜めるための1個または2個以上の所定深さの砂溜部2が形成されると共に、砂溜部2の通水方向の後縁側が内底面1aに対して所定の角度以下の勾配を有する傾斜面として形成され、土砂3に根付いた植物に対する流れの抵抗が大きくなると植物4を流失させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、灌漑用水路を形成するための側溝用ブロック等として使用される水路用ブロック関し、とくに、ホタル等の水棲生物や昆虫、植物等が棲息可能な水路用ブロックに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ホタルやその他の水棲生物が棲息可能な環境がきわめて少なくなってきている。二、三十年前、農村のあちこちで普通に観られたホタルの舞う情緒ある風景は、現在過去のものになりつつある。そして、こうした環境が一度破壊されると、これをもとに戻すのはきわめて困難である。
【0003】
こうしたホタル等が棲息できる環境が少なくなったことと、これらの棲息地に水路用ブロックからつくられた水路が普及したことが無関係であるとは言い切れない。棲息地の豊かな自然環境に代わって排水路や灌漑用水路が構築されて地域開発されており、結果からみればある意味、人工の水路がホタル等の棲息環境を奪ったとも言えるのである。
【0004】
ここで、側溝用ブロック等の水路用ブロックは、所定長さで断面が凹状のブロックで、内面は滑らかに形成されており、現場でこの水路用ブロックを複数個並べて連設することにより、排水路や灌漑用水路等の水路を形成するものである。水田などでは畦道に沿って溝を掘り、この溝内に水路用ブロックを埋設して灌漑用水路がつくられる。
【0005】
さて、このような水路用ブロックは、その本来の目的が水の排水や灌漑といった水の供給であるため、流路内に植物が群生したときは流れの障害となる。このため従来水路用ブロックは植物が根付かないような構造、材料のものが望まれ、通常であれば水路用ブロックに植物が群生することは稀である。
【0006】
しかし、これと裏腹の関係になるが、植物が根付かない環境は、水棲昆虫や蛙等の両生類、ドジョウ等の魚などの水棲生物、また近辺の陸上の昆虫などが棲息可能な環境とはなり得ない。生態系は植物を含めて依存しあう共生が基本に形成されているからである。そして、人工の水路はこうした共生関係を断ち切るだけでなく、昆虫などにとっては生存を脅かす巨大な迷路でもある。これらが水路内に落ちると、その急峻な人工の側壁のため溝から這い上がることはできずに死んでしまう。このように水路の周りに棲息する全ての生物にとって、従来の水路用ブロックを使った水路は生物の棲息に不適当な環境を提供するものであった。
【0007】
中でも、ホタルはその棲息のために際立った清水を必要とし、この清水とその近くの陸上との両方に跨って棲息する昆虫である。いわば環境破壊のバロメータともいえる。従って、ホタルが棲息可能となったときには、水が浄化され、水路周りに棲息する全ての生物が棲息可能な環境を取り戻したと言うことができ、このときこれら生物と農業に代表される人間の生活が共存できるようになったと言える。
【0008】
そこで、従来、水生昆虫類、微生物及び藻類並びに魚類、その他の生物の生育に好適な環境を得ること及び流速を緩和することが可能な側溝用ブロック構造物及びそれによって形成された水路並びに側溝用ブロック構造物の製造方法を提供する目的から、透水性を有するコンクリート材の水路の内側表面に植物繊維層を一体に取着した側溝用ブロック構造物が提案されている(特許文献1参照)。
【0009】
コンクリート材としては、透水性を有するコンクリート材を使用する。骨材としては、人工軽量骨材や産業廃棄物を用いる。コンクリート材の結合材としては、無機系結合材、有機系結合材を採用し、各々単独又は混合して用いる。植物繊維層としては、植物繊維を乾燥させた多くの植物繊維を採用することができるが、椰子繊維が適当とされている。
【0010】
また、水生生物の好ましい棲息場を形成すると共に、周囲の景観にも調和したものを比較的低廉且つ簡易に提供するため、断面U形の農業用などの排水路または用排水路用コンクリートブロックにおいて、水路内幅より狭い幅である複数の貫通穴を底版にランダムや千鳥状など部分的に配設した農業用などの水路用U形コンクリートブロックが提案されている(例えば、特許文献2参照)。また、同様のものが特許文献3に開示されている。
【0011】
【特許文献1】特開2005−194693号公報
【特許文献2】特開2001−172941号公報
【特許文献3】特開2004−197363号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1記載の側溝用ブロック構造物は、内側表面を植物繊維層によって覆うことになり、コンクリートの肌面が露出することがなく、この箇所より植物が育成されるようにして、景観面で優れたものにする。
【0013】
また、コンクリート材及び植物繊維層が共にポーラス構造のため、例えば、側溝用ブロック構造物により水路を形成する場合、増水期には周囲の土壌より水路内へ水分が浸透させることができ、渇水期には周囲の土壌へ水路より水分を供給させることができる。水分が地下へも補給されるので、周辺地域の地盤沈下を防止するとともに、地下水位の低下を防止することになり、渇水期においても、周囲の植物、微生物及び昆虫等の生命維持に貢献することができるものである。
【0014】
しかし、特許文献1記載のように、コンクリート材及び植物繊維層を共にポーラス構造にすることは、水路本来の機能(下流に水を供給するという機能)を損なってしまうことを意味し、下流側では水涸れを起してしまう。豊かに水が供給される上流では植物が育ち易く、上流側で植物が群生するようになり、水路に張り出し、流れの障害になる。これにより流れはここで停滞して、さらに水分が地下に浸透し、下流側への水の供給量の低下に一層拍車がかかるものであった。
【0015】
同様に、特許文献2、3記載の側溝用ブロックも底に貫通穴が形成されており、貫通穴で生長した植物の根は、水路下部の地中深くにしっかりと根を張る。このため増水などがあっても流失することなく、通常の水位に戻れば徐々に起き上がって元の姿となり、流水を堰止める。これにより、水路本来の機能を損ない、下流側では水が涸れ、供給量が低下する。
【0016】
従って、特許文献2、3記載の側溝用ブロックを使うときは、同じ水量を流すのに相対的に大きな水路断面が必要となり、これは農地の減少につながるものであった。そして、もしそれを避けようと思えば、何度も草刈り作業や泥上げ作業を行う必要があった。このように、従来は水路に自然と根付く植物の植生量をコントロールできず、植物は時間が経つと徐々に水路に張り出し、結局流れの障害となるものであった。
【0017】
できれば、植物が適当な大きさまで成長すると、それ以上の大きさの群生は流れを妨げることになるため、この規模になったとき自然と成長を止めさせ、あるいは大きな植物が自然に除去されるのが望ましい。そして、これにより水路近辺に棲息する全ての生物が棲息し易い環境となる。
【0018】
適量な植物が水路に根付き、この植物の周りに棲息する微生物等の作用で水を浄化し、水棲生物、ホタルが十分に棲息できる環境を実現できるはずである。このとき水路周りの生態系を壊さず、付近の全ての生物と人間生活とが共存できたことになる。
【0019】
そこで、本発明は、水路本来の機能を損なわず、植物の植生量を適量にコントロールでき、水路周りの自然を護りつつ、人間の生活との共存を可能にし、安価で製造容易な水路用ブロックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の水路用ブロックは、上記課題を解決したもので、凹状断面を備え、通水方向に所定長さを有する水路用ブロックであって、凹状断面の内底面には、流れによって運ばれる土砂を溜めるための1個または2個以上の所定深さの砂溜部が形成されると共に、砂溜部の通水方向の後縁側が内底面に対して所定の角度以下の勾配を有する傾斜面として形成され、土砂に根付いた植物に対する流れの抵抗が大きくなると植物を流失させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の水路用ブロックによれば、水路本来の機能を損なわず、植物の大きさや植生量を適量にコントロールでき、水路周りの自然を護りつつ、人間の生活との共存を可能にし、安価で製造容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の第1の発明は、凹状断面を備え、通水方向に所定長さを有する水路用ブロックであって、凹状断面の内底面には、流れによって運ばれる土砂を溜めるための1個または2個以上の所定深さの砂溜部が形成されると共に、砂溜部の通水方向の後縁側が内底面に対して所定の角度以下の勾配を有する傾斜面として形成され、土砂に根付いた植物に対する流れの抵抗が大きくなると植物を流失させることを特徴とする水路用ブロックである。
【0023】
この構成によって、水路本来の機能を損なわず、植物の大きさや植生量を適量にコントロールでき、水路周りの自然を護りつつ、人間の生活との共存を可能にし、安価で製造容易になる。
【0024】
本発明の第2の発明は、第1の発明に従属する発明であって、砂溜部の通水方向と直交する方向の断面形状が、長辺を流れに向けた台形形状である水路用ブロックである。
【0025】
この構成によって、簡単な形状の構造で砂溜部をつくるのが容易である。
【0026】
本発明の第3の発明は、第1または第2の発明に従属する発明であって、勾配が、植物を流失させることができる第1の勾配と、後縁側で内底面と接続される第1の勾配より大きな第2の勾配を含むことを特徴とする水路用ブロックである。
【0027】
この構成によって、第2の勾配を備えた後端面が形成され、植物の大きさや植生量が限度を越えるまでは安定した土砂の保持が行え、この限度を越えれば植物を流失させることが可能になる。
【0028】
本発明の第4の発明は、第1乃至第3の何れかの発明に従属する発明であって、砂溜部が前記植物を流失させるために所定の深さ以下に形成されていることを特徴とする水路用ブロックである。
【0029】
この構成によって、植物の大きさや植生量が限度を越えると、土砂と植物とを流失させることができる。
【0030】
本発明の第5の発明は、第1乃至第4の何れかの発明に従属する発明であって、凹状断面の側壁面に1本または2本以上の細溝が形成されたことを特徴とする水路用ブロックである。
【0031】
この構成によって、水路用ブロックの側壁面に細溝を形成し、昆虫等が水路に落ちて這い上がろうとしているときこの溝の内側に入り込むと、昆虫等が抜け出す足場とすることができる。
【0032】
本発明の第6の発明は、第1乃至第5の何れかの発明に従属する発明であって、砂溜部が底面において通水方向と直交する方向で中央を基準に2個以上順に整列して形成され、所定ピッチで配置されたことを特徴とする水路用ブロックである。
【0033】
この構成によって、流れに蛇行が生じることがほとんどない。
【0034】
本発明の第7の発明は、第1乃至第6の何れかの発明に従属する発明であって、砂溜部が底面において通水方向と直交する方向で中央を基準にして2個以上が千鳥配列に形成されたことを特徴とする水路用ブロックである。
【0035】
この構成によって、流れが蛇行し、ゆったりとした流れとなって水棲生物の棲息に適した環境を提供できる。
【0036】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態1における水路用ブロックと、それによって形成された水路について説明する。図1は本発明の実施の形態1における水路用ブロックの斜視図、図2は本発明の実施の形態1における水路用ブロックの断面図、図3(a)は本発明の実施の形態1における水路用ブロックの流れ方向側面図、図3(b)は(a)の水路用ブロックの流れ方向正面図、図4(a)は本発明の実施の形態1における水路用ブロックの砂溜部の拡大図、図4(b)は(a)の砂溜部のx−x断面図、図4(c)は(a)の砂溜部のy−y断面図、図5(a)は本発明の実施の形態1における砂溜部の構成の説明図、図5(b)は(a)の砂溜部の作用の説明図である。
【0037】
図1、図2、図3(a)(b)、図4(a)(b)(c)の水路用ブロック1は、凹状断面で、水を流すための所定の水路幅を有すると共に所定長さの略樋状の形状を有した側溝ブロックである。両側壁1b間の内底面1aの幅が水路用ブロック1の水路幅となる。そのブロック本体はコンクリート材から形成され、その内部には図示はしないが、必要に応じて例えば水路幅方向(本発明の通水方向と直交する方向)と流れの方向とで縦横に鉄筋が配筋されている。
【0038】
この水路用ブロック1を構成するコンクリート材としては、耐水強度のあるセメントを使用するのが好適である。そして、これを製造するためには、詳細に図示はしないが、内底面1aの肉厚部分を形成する平坦な底型枠上に、凹状ブロックの内面となる側壁1b、内底面1aを規定する溝型枠を肉厚に相当する距離だけ離して載置し、両脇に両側壁1bの肉厚を与える側型枠を配置し、側型枠と溝型枠の上部に天面型枠を載せることで枠組みし、この中にコンクリート材を充填することにより行う。
【0039】
さて、実施の形態1の水路用ブロック1には、図1に示すように、内底面1a上に長方形の開口をもち有底の窪み若しくは有底の溝の形態を有する砂溜部2が形成されている。この長方形の開口は、両側壁1bの近くにこれに沿うように短辺が配置され、長辺は流れに直交する向きに配置される。水路用ブロック1は複数連結して長い水路を形成する。
【0040】
この水路で通水を続けていると、水によって運ばれた土砂が砂溜部2に溜まるようになる。実施の形態1の水路用ブロック1は、この土砂に、同じくこの流れによって運ばれてきた、あるいは風に乗って運ばれてきた植物を植生させるものである。
【0041】
ところで、従来のようにこの砂溜部2を貫通穴付きのものやポーラス構造に形成すると、この貫通穴やポーラス構造から水が漏れることにより、下流側では水が涸れ、水の供給量が低下するようになる。そして、植物4が貫通穴を通して地中に根付くと、大きく群生するようになり、流れの中に張り出し、これによって流れの抵抗が増大し、水の供給量をさらに低下させてしまう。これでは水路周りの自然を護るという目的で水路用ブロック1に貫通穴やポーラス構造にしても、水路の本来の機能を損ないかねない。
【0042】
できれば、植物4が適当な大きさまで育つのは許容、促進して、それ以上の大きさの植物4は成長しないようにするか、許容限度を越えて群生しないようにするのが好ましい。適度の植生量で植物4が根付くのなら、水路本来の機能(水の供給)を維持しながら、水路周りに棲息する全ての生物が棲息し易い環境を提供することが可能になる。
【0043】
このため実施の形態1の水路用ブロック1は、内底面1a上に窪み若しくは溝の砂溜部2を形成し、その窪み形状を特定の形状とすることで、流れの力を借りて植物4のサイズや植生量をコントロールするものである。
【0044】
以下、実施の形態1における水路用ブロック1の構造について説明する。図1、図2、図3(a)(b)、図4(a)(b)(c)のように、水路用ブロック1は両側壁1bと内底面1aで構成される内壁面を有し、それぞれで所定の肉厚をもつ凹状断面に形成されている。また、水路用ブロック1は、水の流れの方向(本発明の通水方向)に1単位となる所定長さ、例えば2000mm〜3000mmに形成され、その両端には水路用ブロック1を連結して水路を形成するときに嵌合させる雄雌の嵌合部がそれぞれ設けられている。連結する際に確実、容易に嵌め合えばよく、嵌合部の形態は問わない。
【0045】
水路用ブロック1の内底面1aには、水の流れの方向に所定ピッチ、例えば200mm〜300mm、一例として283mmで、複数の砂溜部2が設けられている。実施の形態1の砂溜部2は、流れの方向と直交する方向の断面形状が長辺を上方(水が流れる面側)に向けた台形形状または五角形等の多角形であり、流れの方向に前縁側と後縁側が上方に拡開した形状の有底の溝となっている。
【0046】
砂溜部2は流れの方向に複数並んで設けられ、その内底面1aに形成された正面からみて長方形の開口は流れ方向が40mm〜60mm、直交方向が100mm〜390mm程度に形成され、深さは10mm〜30mm程度である。なお、砂溜部2は流れの方向に複数個設けるのが適当であるが、水路用ブロック1の単位長さの短長もあり、1個であっても、2個以上であってもよい。実施の形態1では、砂溜部2は、同一サイズで流れの方向と直交する方向に平行に、内底面1aの中央位置(中央線)を基準にして複数個一列に整列して設けられている。それゆえ流れには大きな変化は起こらず、蛇行が生じることはまずない。
【0047】
ところで、砂溜部2の縦横の大きさがあまりに小さかったり、深さが不足したりすると、溜まる土砂の量が少なくなり、植物4が根付かない。逆に、砂溜部2の大きさが大きすぎたり、深すぎたりすると、水によって運ばれてきた土砂が溜まる量は多くなるが、植物4が強く根付いてしまい、必要量以上に植物4が群生するようになる。時を経るとともに除去できないほど群生するようになる。
【0048】
従って、砂溜部2には、水路用ブロック1の構造に応じて、適度の深さと好適な形状を備えた好適なサイズ、構造があり、これを満たすとき植物4の植生量が適度なものになることが分かる。そして好適な砂溜部2の構造としては、以下説明するように、後縁側の開口が上方に拡開して、内底面1aに対して所定の角度以下の緩やかな勾配を有する傾斜面2bを備えた有底の窪み若しくは溝とするのがよい。しかも、このような形状にするのは、水路用ブロック1製造時に、溝型枠から砂溜部に相当する突出部を突出させるだけで簡単に形成することができる。
【0049】
ところで、砂溜部2の傾斜面2bが緩やかな勾配といっても、どのような水路用ブロック1でも一定でなければならないというわけでなく、これに応じて、また砂溜部2の開口のサイズや深さによって変化させてもよい。背が高い植物など、勾配は植物4の種類にも影響されることもあるし、植生量をどれだけにするかによっても変化する。例えば砂溜部2が、深さ15mm、流れ方向が50mm×直交方向390mmのサイズだとすると、25°〜30°以下の角度であって、10°より大きい角度が望ましい。この範囲の角度であれば、溜まった土砂3の堆積量、張った根で固まった一体化の程度、保持力が適当になる。なお、10°以下、例えば5°だとあまりに砂溜部2の開口の大きさが流れ方向に広くなって、植物4と無関係に内底面1aを占め、上部の土砂3が流失し易くなる。このような場合には、後述するように第2の勾配を付けて土砂3の流失を防ぎ、砂溜部2の開口のサイズを広げすぎないようにするのが好ましい。
【0050】
もし、砂溜部2の開口のサイズを広げと深さを深くすると、運ばれてきた土砂3の堆積量が増加し、植物4が群生するようになる。これらのことから、砂溜部2の開口のサイズや深さ、傾斜、構造をコントロールすることで、砂溜部2の土砂3に植物4が根付かせると同時に、砂溜部2に植生する植物4の植生量をコントロールできることが分かる。これにより泥上げ作業を行う必要が減り、農家等の負担を軽くすることができる。
【0051】
図4(a)(b)(c)は砂溜部2の拡大図である。図4(a)の砂溜部2のx−x断面が図4(b)であり、y−y断面が図4(c)である。図4(b)(c)からも分かるように、流れ方向と、流れと直交する方向の何れにおいても、内底面1aに設けられた砂溜部2の開口は水路内の空間に向けて拡開した溝(側面が傾斜した溝)となっている。砂溜部2の深さはHであり、内底面1aに形成された窪みは長方形の開口をもつ。
【0052】
図4(c)に示すように両側壁1b側の拡開は90°に近い角度の勾配になっているが、砂溜部2の後縁側はθ1(本発明の第1の勾配)が25°〜30°以下で10°より大きい角度で傾斜するように傾斜面2bが形成されている。なお、前縁側にも勾配が付けられ、このθ1に対応する勾配の角度は90°に近い鋭角に形成されている。
【0053】
後縁側はθ1の角度のまま直接内底面1aに接続されてもよいが、θ1が小さいと砂溜部2の開口のサイズが広くなりすぎるので、図4(c)においては後縁側で内底面1aに接続される部分(高さhの部分)が傾斜面2dとして形成され、θ2(本発明の第2の勾配)が25°〜30°より大きい角度、ここでは垂直に近い鋭角の勾配で傾斜している。この場合、砂溜部2の流れの方向と直交する方向の断面形状は最も長い長辺を上方(水の流れる側)に位置した多角形となる。なお、θ1、θ2は水路用ブロック1の内底面1aに対する勾配であるが、これは図4(c)で示すように交角として示すことができ、通常これは砂溜部2の底面に対する勾配と同等である。
【0054】
このようにθ1の角度の傾斜に加えてθ2の傾斜を付けることによって、砂溜部2にθ2の角度で傾斜した後端面が形成され、砂溜部2の開口のサイズが広くなりすぎるのを抑えると共に、植物4の大きさや植生量が限度を越えるまでは安定して土砂を保持することができ、この限度を越えれば植物4を流失させることが可能になる。
【0055】
このように砂溜部2に適度の深さと好適な形状を備えた好適な形状を与えたとき、砂溜部2に植物が根付かせ、同時に、植物4を流失させて植物4の大きさあるいは植生量をコントロールすることが可能になるメカニズムを説明する。図5(a)は砂溜部の構成の説明図、図5(b)は(a)の砂溜部の作用の説明図である。
【0056】
図5(a)の破線は第2の勾配であるθ2の角度の傾斜を設けた場合の傾斜面を示しており、第1の勾配であるθ1の角度の傾斜を設けた傾斜面に接続して設けられることを示している。
【0057】
さて、図5(b)に示すように、砂溜部2に溜まった土砂3に水草等の植物4が根付いているとすると、水流5が植物4の根元に流れの力Rを及ぼしていると考えることができる。実際には1本々の茎に流体抵抗が作用し、その総和としての力R、作用点が決まる。水流5の力Rは水流5の流れの方向(内底面1aに沿った方向)に沿って作用すると考えられる。
【0058】
次に、水流5で運ばれてきた植物4は土砂3の中で根を張るが、砂溜部2の深さが浅くHであることから十分根を張るには限度がある。従って、植物4の生育には限度があり、大きくは育ちにくい。そして、水流5の流体抵抗による力Rの作用で、反力Fが土砂3に作用し、θ1の傾斜面付近の土砂3には傾斜面に垂直な力Nと保持力Pが作用する。反力Fは力Rと反力Fによって回転モーメントMを生じる。θ1の傾斜が小さいと保持力Pはその限界を容易に超えることができる。流れに勢いがないときは、回転モーメントMは小さく、保持力Pは限界を超えないが、流れが強くなると力Nの方向がθ1方向と垂直であるため、保持力Pが容易にその限界を越え、土砂3と植物4を砂溜部2から持ち上げ、脱離させることができる。
【0059】
この回転モーメントMは流体抵抗に比例して大きくなり、土砂3に対して根ごと砂溜部2から持ち上げるように作用する。流体抵抗は主として土砂3に根付いた植物4の個々の茎部分に対する抵抗の総和と見做せるから、植物4が過度に群生すると流体抵抗は大きくなり、植物4と土砂3をこれによって持ち上げて除去できる。そして、水路の流れの水量には変動があるが、抵抗が小さい水量の少ないときでも砂溜部2の深さHが浅いために根が伸びるのは抑えられ、水量が多いときは力Rが大きくなって脱離作用が働く。従って、水量の多寡によらず水路用ブロック1において植物4が大きく成長するということはない。水流5は常時滞ることなく流れ、下流側で水の供給量が低下することもない。
【0060】
なお、第2の勾配であるθ2の角度の傾斜を設けた場合、この傾斜面2dで力Rのかなりの部分を負担することができ、θ1の傾斜面bだけの場合より土砂3の保持力Pが増し、安定して土砂3を保持できる。しかも、θ2の傾斜を設けたからといって、回転モーメントMの大きさはおおむね維持でき、θ1の傾斜面2bだけの場合と同様に、θ1、θ2の傾斜面で植物4の植生量をコントロールすることができる。
【0061】
このように実施の形態1における水路用ブロックは、下流側で水枯れを起すことがなく、植物の大きさや植生量を適量にコントロールでき、水路周りの自然を護りつつ、人間生活との共存が可能になる。また、製造にあたっては砂溜部に相当する凸部を溝型枠に設けるだけで簡単に砂溜部を形成することができ、安価に製造することができる。
【0062】
(実施の形態2)
以下、本発明の実施の形態2における水路用ブロックについて説明する。図6は本発明の実施の形態2における水路用ブロックの流れ方向正面図である。実施の形態2の水路用ブロックは、実施の形態1の水路用ブロックと基本的に同様の構成を有しており、砂溜部の配列の仕方が異なるだけである。従って、実施の形態1の説明で使った図1、図2、図3(a)、図4(a)(b)(c)、図5(a)(b)は実施の形態2の説明においても参照し、実施の形態1の説明で使用した符号と同一の符号を付与するものとする。その詳細な説明は実施の形態1の説明に譲って省略する。
【0063】
本発明の実施の形態2における水路用ブロック1は砂溜部2を千鳥配列にしたものである。図6に示すように、砂溜部2は流れの方向に千鳥配列に配列されている。内底面1aにおいて流れの方向と直交する方向にみたとき、砂溜部2が内底面1aの中央位置を基準にして複数個千鳥配列に配列されている。すなわち、流れの方向に向かって左右に交互に配列される。
【0064】
実施の形態1のように、同一サイズの砂溜部2を内底面1aの中央位置を基準にして複数個一列に整列して形成するのではなく、同一サイズの砂溜部2を二列に千鳥配列するから、砂溜部2に土砂3が沈降して植物4が生えると、水流5はこの砂溜部2の植物4の周りをゆったりと蛇行して流れるようになる。
【0065】
砂溜部2が千鳥配列になっているので、上流側だけで片寄って土砂3の沈降が進み、下流側では土砂3の沈降が遅れるといったことが起きにくい。また、流れが蛇行しているため流速が小さくなり、植物4の周囲に棲息する水棲生物にとって穏やかな好ましい環境になる。
【0066】
このように実施の形態2における水路用ブロックは、各砂溜部において土砂の沈降量の空間的、時間的なバラツキを小さくすることができ、流れが蛇行しているため流速を下げ、植物の周囲に棲息する水棲生物にとって好ましい環境を提供できる。水路本来の機能を損なわず、植物の大きさや植生量を適量にコントロールでき、水路周りの自然を護りつつ、人間の生活とが共存を可能にし、安価で製造容易になる。
【0067】
(実施の形態3)
以下、本発明の実施の形態3における水路用ブロックについて説明する。図7は本発明の実施の形態3における水路用ブロックの流れ方向側面図である。実施の形態3の水路用ブロックは、実施の形態1の水路用ブロックと基本的に同様の構成を有しており、砂溜部の配列の仕方が異なるだけである。従って、実施の形態1の説明で使った図1、図2、図3(b)、図4(a)(b)(c)、図5(a)(b)は実施の形態3の説明においても参照し、実施の形態1の説明で使用した符号と同一の符号を付与するものとする。その詳細な説明は実施の形態1の説明に譲って省略する。
【0068】
本発明の実施の形態3における水路用ブロック1は側壁面1bに細溝6を形成し、昆虫等が抜け出す足場としたものである。ホタルは棲息地の清らかな水環境とその近くの陸上との両方に跨って棲息する。水中から陸上への橋渡しを行う細溝6は、ホタルの棲息に重要な要素となる。
【0069】
図7に示すように、水路用ブロック1の側壁面1bには、細溝6が内底面1a近くから側壁面1b上端まで設けられている。ホタルは水中から陸上へ細溝を伝わって移動できるし、昆虫等が水路に落ちて這い上がろうとしている場合には、昆虫等が細溝6の内側に入り込めば脱出することが可能になる。細溝6の幅は5mm〜15mm、例えば7mm程度が好適であるが、虫の足場となる幅であれば、どのような幅、形態であっても構わない。また、側壁面1b上で内底面1aに対して90°方向に形成するだけでなく、傾斜させてもよい。
【0070】
細溝6を形成するに当たっては、砂溜部2をつくるのと同様に、製造時に溝型枠から突出した細溝6に相当する突条を設けるだけで簡単につくることができる。
【0071】
このように実施の形態3における水路用ブロックは、水路用ブロックの側壁面に細溝を形成し、昆虫等が水路に落ちて這い上がろうとしているときこの溝の内側に入り込むと、昆虫等の足場とすることができる。水路近くに棲息する昆虫等にとって好ましい環境を提供できる。水路本来の機能を損なわず、植物の大きさや植生量を適量にコントロールでき、水路周りの自然を護りつつ、人間の生活との共存を可能にし、安価で製造容易になる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、側溝用ブロック等の水路用ブロックに適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施の形態1における水路用ブロックの斜視図
【図2】本発明の実施の形態1における水路用ブロックの断面図
【図3】(a)本発明の実施の形態1における水路用ブロックの流れ方向側面図、(b)(a)の水路用ブロックの流れ方向正面図
【図4】(a)本発明の実施の形態1における水路用ブロックの砂溜部の拡大図、(b)(a)の砂溜部のx−x断面図、(c)(a)の砂溜部のy−y断面図
【図5】(a)本発明の実施の形態1における砂溜部の構成の説明図、(b)(a)の砂溜部の作用の説明図
【図6】本発明の実施の形態2における水路用ブロックの流れ方向正面図
【図7】本発明の実施の形態3における水路用ブロックの流れ方向側面図
【符号の説明】
【0074】
1 水路用ブロック
1b 側壁
1a 内底面
2 砂溜部
3 土砂
4 植物
5 水流
6 細溝
θ1 第1の勾配
θ2 第2の勾配
h 深さ
H 深さ
R 力
N 力
P 保持力
F 反力
M 回転モーメント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹状断面を備え、通水方向に所定長さを有する水路用ブロックであって、前記凹状断面の内底面には、流れによって運ばれる土砂を溜めるための1個または2個以上の所定深さの砂溜部が形成されると共に、前記砂溜部の前記通水方向の後縁側が前記内底面に対して所定の角度以下の勾配を有する傾斜面として形成され、前記土砂に根付いた植物に対する流れの抵抗が大きくなると前記植物を流失させることを特徴とする水路用ブロック。
【請求項2】
前記砂溜部の前記通水方向と直交する方向の断面形状が、長辺を流れに向けた台形形状であることを特徴とする請求項1記載の水路用ブロック。
【請求項3】
前記勾配が、前記植物を流失させることができる第1の勾配と、前記後縁側で前記内底面と接続される前記第1の勾配より大きな第2の勾配を含むことを特徴とする請求項1または2記載の水路用ブロック。
【請求項4】
前記砂溜部が前記植物を流失させるために所定の深さ以下に形成されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載された水路用ブロック。
【請求項5】
前記凹状断面の側壁面に1本または2本以上の細溝が形成されたことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の水路用ブロック。
【請求項6】
前記砂溜部が前記底面において前記通水方向と直交する方向で中央を基準に2個以上順に整列して形成され、所定ピッチで配置されたことを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載された水路用ブロック。
【請求項7】
前記砂溜部が前記底面において前記通水方向と直交する方向で中央を基準にして2個以上が千鳥配列に形成されたことを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載された水路用ブロック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−221726(P2009−221726A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−66770(P2008−66770)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(508079371)
【Fターム(参考)】