説明

水路補修板および既設水路の補修方法および補修水路

【課題】既設水路の補修を手間や時間をかけることなく、水路が完全に渇いた状態でなくとも簡単におこなえるようにする。
【解決手段】水路補修板11を、FRPMパネル11aと、パネル裏面に周縁部を残して貼付された緩衝材11bと、パネル周縁部に緩衝材11bを取り囲んで貼付された水膨潤ゴム11cと、を備える構成とする。既設水路12の内壁面に補修板11の緩衝材11bおよび水膨潤ゴム11c側を密着させ、水路長さ方向に間隔をあけて並設させ、アンカーボルト13で固定して補修水路10を構成する。緩衝材11bがパネル11aと既設水路12との隙間を埋め、補修板間の間隔から流入する水は水膨潤ゴムが吸い取るため、漏水がほぼ完全に防止される。水路補修板に裏込め材やコーキング材を用いたときと異なり、補修作業時に養生時間は要らず、既設水路の内壁面を乾燥させる手間も要らない。そのため、工期の短縮化および作業の省略化が図られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、既設水路を補修するための水路補修板、およびこの水路補修板を用いた既設水路の補修方法、および既設水路をこの水路補修板で補修した補修水路、に関する。
【背景技術】
【0002】
上方が開放されたコンクリート製の既設水路(開渠)は、気候や経年による老朽化で、ひび割れ等が生じがちである。
ひび割れが生じると、これを通じて水路の水が外部に漏れ出すことが多いため、老朽化した既設水路は早急に補修する必要がある。
補修の方法として、複数の繊維強化合成樹脂製水路補修板(FRPパネル、FRPMパネル等)を用意し、これを老朽化した既設水路の内壁面に沿って並設させ、固定することが行われている。
【0003】
ところで、このように水路補修板で補修する場合に、水路補修板と既設水路の内壁面との間に隙間があると漏水を十分には防げないため、この隙間を塞ぐための様々な試みがなされている。
具体的には、水路補修板と既設水路との隙間にモルタルなどの裏込め材を充填したり(特許文献1)やコーキング材を充填したり(特許文献2)することが考えられる。
【特許文献1】特開2005−290847号公報
【特許文献2】特開2004−027587号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、隙間の充填に裏込め材を用いるとなると、硬化までの養生時間を要するため、手早く補修できない問題がある。
また、隙間の充填にコーキング材を用いる場合、その粘着性を発揮させるためには、既設水路の内壁面がほぼ完全に乾いている必要がある。
したがって、水路を乾かせる作業に手間や時間がかかり、特に北海道、東北地方などの低温環境下では、水路が乾きにくいため、このような作業の手間や時間は膨大なものとなる。
【0005】
そこで、この発明の解決すべき課題は、既設水路が完全に乾いていなくとも、その補修を手間や時間をかけることなく、簡単におこなえるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を解決するため、この発明の水路補修板を、繊維強化合成樹脂製のパネルと、前記パネルの一面にパネル周縁部を残して貼付された緩衝材と、前記パネル周縁部に前記緩衝材を取り囲んで貼付された水膨潤ゴムと、を備える構成としたのである。
【0007】
ここで、繊維強化合成樹脂製のパネルとは、繊維強化合成樹脂製の単層パネル(FRPパネル)、繊維強化合成樹脂製のパネルでモルタル層を挟み込んだ複合パネル(FRPMパネルなど)の双方を意味する。
また、水膨潤ゴムとは、水を吸収保持して膨らむ性質を有するゴムおよびエラストマーを意味し、別名水膨張ゴムともいう。
この水膨潤ゴムは、たとえば、基材となるゴムに吸水性ポリマーを練りこみ、加硫等の処理を適宜おこなって成型することにより得られる。
さらに、ここでいう既設水路には、背景技術の欄で述べた開渠のみならず、暗渠も含まれるものとする。
【0008】
既設水路の内壁面に水路補修板の緩衝材および水膨潤ゴム側を密着させ、既設水路に沿って並設させ固定する。
このようにすると、緩衝材がパネルと既設水路との隙間を埋めるため、水路補修板の周縁部以外での漏水が防止される。
ところで水路補修板は、気温によって伸縮するため、並設させた際には、隣接する水路補修板の間には、伸縮を吸収するための隙間をあける必要がある。
そのため、この隙間から水が漏れ入るおそれがあるところ、水路補修板周縁部の水膨潤ゴムがこのような水を吸い取って保持するため、補修板周縁部での漏水も防止されることになる。
【0009】
水路補修板に緩衝材を用いているため、裏込め材を用いたときと異なって、補修作業時に養生時間は要らず、工期を短縮することができる。
また、コーキング材を用いたときと異なって、既設水路の内壁面を乾燥させる必要もないため、同じく工期の短縮が図られ、作業の省力化も図られる。
緩衝材は、既設水路の内壁面の凹凸に追従して変形するため、パネルと内壁面との隙間がほぼ完全に埋められて漏水防止に万全が期せられる。
【0010】
このような緩衝材としては、独立気泡の発泡樹脂または発泡ゴムが、安価で軽量であり、かつ水を通さないため漏水の防止にもなり好ましい。
この水路補修板に厚み方向に貫通する取り付け孔を設けると、この孔を通じてアンカーボルトで補修板を既設水路に固定することが容易となる。
【0011】
この発明を方法的観点から考察すると、複数の前記水路補修板を、既設水路の内壁面に緩衝材および水膨潤ゴム側を密着させ、既設水路に沿って所定の間隔をあけて並設させる工程と、前記各水路補修板を既設水路の対向する内壁面に固定する工程と、を含む既設水路の補修方法であることが理解される。
【0012】
ここでいう所定の間隔とは、上述したように、気温変化に伴う水路補修板の伸縮を吸収するための間隔であり、通常の環境下では1mm〜数mm程度、さらには1mm〜2mm程度である。
また、水路補修板は、既設水路の内壁面に沿って並設した際に、必ずしも完成していることは要求されない。
すなわち、パネルと緩衝材のみからなる未完成の水路補修板を、緩衝材を水路内壁面に密着させて固定し、その後に緩衝材を取り囲むようにして、水膨潤ゴムをパネルと水路内壁面との間に充填して水路補修板を完成させてもよい。
【0013】
この発明を補修された既設水路全体の観点から考察すると、既設水路と、この既設水路の内壁面に、緩衝材および水膨潤ゴム側を密着させ、既設水路に沿って所定の間隔をあけて並設して固定された前記水路補修板と、を備える補修水路であることが理解される。
【0014】
あるいは、既設水路と、この既設水路の内壁面に、前記緩衝材および水膨潤ゴム側を密着させ、既設水路に沿って所定の間隔をあけて並設する水路補修板と、この水路補修板の取り付け孔を通じて既設水路に打設されたアンカーボルトと、を備える補修水路であることが理解される。
【0015】
この補修水路は、前記既設水路と前記水路補修板との上部隙間に充填された目地材を備えるのが、水路を上から見た場合の体裁がよく、また水路上部における漏水の一層の防止にもなるため好ましい。
【発明の効果】
【0016】
繊維強化合成樹脂製のパネルの一面に周縁部を残して緩衝材を貼付し、さらに周縁部に緩衝材を取り囲んで水膨潤ゴムを貼付して水路補修板を形成し、緩衝材および水膨潤ゴムを既設水路の内壁面に密着させて固定するようにした。
【0017】
これにより、緩衝材と水膨潤ゴムとがパネルと水路内壁面間の漏水を防止するので、裏込め材を用いる場合のような養生時間が不要となり、またコーキング材を用いる場合のような水路の乾燥作業も不要となるため、手間がかからず工期が短縮される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1から図4に示す実施形態の補修水路10は、老朽化した既設水路12の内壁面に、漏水防止のために水路補修板11を固定して補修を施したものである。
この既設水路12は、たとえばコンクリート製であって図示のように、上面が開放された開渠である。
【0019】
図2のように水路補修板11は、既設水路12の内壁面である底面および両側面においてそれぞれ水路の長さ方向に並設されている。
そして、水路の長さ方向に隣接する各水路補修板11間には、1mm〜2mm程度の間隔Sがあけられ、この状態で既設水路12の内壁面へと固定されている。
このように間隔Sをあけたのは、気温の変化による水路補修板11の伸縮を吸収するためである。
【0020】
図5のように、水路補修板11は、方形のFRPMパネル11a(FRPとモルタルの複合パネル)の裏面に、緩衝材11bと水膨潤ゴム(水膨張ゴム)11cとを貼り付けることで形成されている。
シート状の緩衝材11bはFRPMパネル11aと相似形の方形でかつ一回り小さく、FRPMパネル11aの周縁部を残して貼り付けられている。
ここで緩衝材11bの種類は特に限定されないが、独立気泡の発泡樹脂または発泡ゴムが好ましい。
【0021】
また、水膨潤ゴム11cはこの緩衝材11bの外周を取り囲むようにして(囲繞して)FRPMパネル11aの周縁部に貼り付けられている。
水膨潤ゴム11cと緩衝材11bの厚みはほぼ同じである。
水膨潤ゴム11cの種類も特に限定されないが、基材となるゴム(エラストマーを含む。)に吸水性ポリマーを練り込んだものを例に挙げれば、基材として、天然ゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、エラストマーなどが挙げられ、吸水性ポリマーとしてポリアクリル酸ソーダなどが挙げられる。
水膨潤ゴム11cの膨張率、吸水率等は、ゴムと吸水性ポリマーの配合比率により適宜調整可能である。
以上から、緩衝材11bと水膨潤ゴム11cとの配置の関係は、緩衝材11bを額に見立てれば、水膨潤ゴム11cが額縁に見立てられる関係となることが理解される。
【0022】
ここで水路補修板11の寸法は特に限定されないが、たとえば厚みについては、FRPMパネル11aの厚み10mm、緩衝材11bおよび水膨潤ゴム11cの厚み10mmの合計20mm程度が好適である。
また、高さはたとえば2000mm程度、幅はたとえば1000mm程度である。
また、水膨潤ゴム11cの幅Wも特に限定されないが、3〜10mm程度、さらには4〜6mm程度が好適である。
幅が狭すぎると吸水性が悪くなる一方、幅が広すぎると吸水量が多くなりすぎて水路補修板の重量が増し、またコストが高くなるからである。
【0023】
図1から図4のように、この水路補修板11には、表裏を貫通する取り付け孔11eが所定の間隔を置いて形成されている。
上記したような水路補修板11の固定は、水路補修板11の緩衝材11bおよび水膨潤ゴム11c側を既設水路12の内壁面に密着させ、この取り付け孔11eを通じてアンカーボルト13を既設水路12の内壁面に打設することにより行われる。
アンカーボルト13の種類は特に限定されず、たとえば皿頭状のものでもよいが、図示するような金属拡張式(芯棒打込式)のオールアンカーボルト13が強度が高く施工が容易であるため好適である。
【0024】
また図1および図3のように、水路補修板11と既設水路12との上部隙間には、目地材11dが充填されている。
目地材11dの種類は特に限定されないが、たとえば湿気硬化型ウレタン系の目地材が用いられ、適宜プライマーが併用される。
【0025】
この補修水路10への水路補修板11の施工は、たとえば図6および以下に示す9つの手順を経る。
(1)既設水路12の状況に応じて水替工を実施する。
(2)既設水路12の内壁面を清掃する。
詳しくは、高圧ジェット式洗浄機により、既設水路12の内壁面を洗浄し、付着した汚れ、藻類を清掃し、風化したコンクリート表層を除去する。
既設水路12の伸縮部分に用いられるエラストマーが水路内部へと飛び出している場合、ノミ等で水路内壁面とほぼ面一になるように除去する。
また既設水路12の底に土砂等が堆積している場合、スコップなどで取り除く。
(3)既設水路12の水路幅、高さ、水位等の測量をおこなう。
(4)既設水路12の浸透水のある箇所の止水処理をおこなう。
既設水路12のひび割れ水が浸透している箇所は、止水モルタル等で止水をおこなう。
(5)既設水路12へのオールアンカーボルト13の仮打設を行い、引き抜き試験で強度の確認をおこなう。
詳しくは、既設水路12にドリルで穿孔をおこない、金属拡張式アンカーボルト13をこの孔に挿入し、試験治具とともにオールアンカーボルト13の芯棒をハンマーで打ち込み孔内で拡張させ、荷重測定器により引き抜き荷重の測定をおこなう。
(6)FRPMパネル11aの裏面にあらかじめ緩衝材11bが貼り付けられてあるものに、その緩衝材11bの周りに水膨潤ゴム11cを貼り付けることで水路補修板11を完成させる。
(7)水路補修板11の取り付け孔11eの位置に合わせて既設水路12の内壁面を穿孔し、オールアンカーボルト13で固定する。
詳しくは、まず水路補修板11の位置あわせをして、その緩衝材11bおよび水膨潤ゴム11c側が既設水路12の内壁面に密着するようにして、既設水路12内に仮置きをおこなう。
この際に、既設水路12の長さ方向に隣接する水路補修板11間の間隔が上記Sとなるように、水路補修板11間に適宜スペーサ(その厚みがSに相当する。)を挟みこむ。
ついで、水路補修板11の取り付け孔11eの位置に合わせて既設水路12の内壁面を穿孔し、孔内をワイヤーブラシやダストポンプで清掃して切粉等は適宜除去する。
この孔にオールアンカーボルト13を挿入し、その芯棒をハンマーで打ち込んで孔内で拡張させ、スパナ類を用いてナットの締め付け具合を確認する。
ここで既設水路12の曲線部については、ダイヤモンドホイールカッター等を用いて水路補修板11を水路形状に合わせて切断加工し、水路補修板11が既設水路12の形状に沿うようにしておく。
また、既設水路12の中途に流入管口などがある場合には、それに合わせて水路補修板11に開口を穿っておく。
(8)既設水路12と水路補修板11の上部隙間に目地材11dを充填する。
(9)補修された水路10内に通水し、目視にて補修の具合の確認をおこなう通水試験を実施する。
【0026】
こうしてできた補修水路10は、水路補修板11に緩衝材11bを用いているため、裏込め材を用いたときと異なって、補修作業時に養生時間は要らず、工期を短縮することができる。
また、コーキング材を用いたときと異なって、既設水路12の内壁面を乾燥させる必要もないため、同じく工期の短縮が図られ、作業の省力化も図られる。
【0027】
さらに図4のように、緩衝材11bは、既設水路12の内壁面の凹凸に追従して変形するため、FRPMパネル11aと内壁面との隙間がほぼ完全に埋められる。
また、隙間Sから漏れ入るおそれのある水は水膨潤ゴム11cが吸い取って保持するため、補修板周縁部での漏水および水の補修板裏面への回り込みもほぼ完全に防止されることになる。
さらに上部隙間には目地材11dが充填されているため、補修水路10を上から見た場合の体裁がよく、また水路上部における漏水の一層の防止にもなる。
【0028】
以上の実施形態では水路補修板11にFRPMパネル11aを用いたが、FRPパネルなど他の繊維強化合成樹脂製のパネルを用いてもよい。
また、水路補修板11の既設水路12への固定は、アンカーボルト13によるものには限定されない。
さらに、既設水路12の形状も特に限定されず、たとえば上方も閉塞された暗渠でもよく、その場合には、既設水路12の内壁上面も、適宜水路補修板11で補修をおこなうことになる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】補修水路の断面図
【図2】補修水路の斜視図
【図3】補修水路の断面拡大図
【図4】補修水路の断面拡大図
【図5】水路補修板の(a)は分解斜視図、(b)は斜視図、(c)断面拡大図
【図6】補修水路の施工流れ図
【符号の説明】
【0030】
10 補修水路
11 水路補修板
11a FRPMパネル
11b 緩衝材
11c 水膨潤ゴム
11d 目地材
11e 取り付け孔
12 既設水路
13 アンカーボルト
S 水路補修板間の間隔
W 水膨潤ゴムの幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設水路12の内壁面に取り付けて水路を補修するための水路補修板11であって、
繊維強化合成樹脂製のパネル11aと、
前記パネルの一面にパネル周縁部を残して貼付された緩衝材11bと、
前記パネル周縁部に前記緩衝材を取り囲んで貼付された水膨潤ゴム11cと、を備える水路補修板。
【請求項2】
前記緩衝材11bは、独立気泡の発泡樹脂または発泡ゴムである請求項1に記載の水路補修板。
【請求項3】
厚み方向に貫通する取り付け孔11e、を備える請求項1または2に記載の水路補修板。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の水路補修板11を用いた既設水路12の補修方法であって、
複数の前記水路補修板11を、既設水路12の内壁面に緩衝材11bおよび水膨潤ゴム11c側を密着させ、既設水路12に沿って所定の間隔をあけて並設させる工程と、
前記各水路補修板11を既設水路12の対向する内壁面に固定する工程と、を含む既設水路の補修方法。
【請求項5】
既設水路12と、
前記既設水路12の内壁面に、前記緩衝材11bおよび水膨潤ゴム11c側を密着させ、既設水路12に沿って所定の間隔をあけて並設して固定された請求項1から3のいずれかに記載の水路補修板11と、を備える補修水路。
【請求項6】
既設水路12と、
前記既設水路12の内壁面に、前記緩衝材11bおよび水膨潤ゴム11c側を密着させ、既設水路12に沿って所定の間隔をあけて並設する請求項3に記載の水路補修板11と、
この水路補修板11の取り付け孔11eを通じて既設水路12に打設されたアンカーボルト13と、を備える補修水路。
【請求項7】
前記既設水路12と前記水路補修板11との上部隙間に充填された目地材11d、を備える請求項5または6に記載の補修水路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−249967(P2009−249967A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−101355(P2008−101355)
【出願日】平成20年4月9日(2008.4.9)
【出願人】(000164885)栗本化成工業株式会社 (32)