説明

水酸化第2鉄含有含水中和スラッジを製造原料とする消臭剤及びその製造方法

【課題】 都市下水等の廃水処理施設又は付帯施設等において、悪臭物質の硫化水素を高濃度で発生させる濃縮汚泥貯留等に好適に使用することができる水酸化第2鉄含有含水中和スラッジを鉄製造原料として用いる液体消臭剤及びその製造方法の提供。
【解決手段】 その液体消臭剤は、鉄化合物含有酸性廃液を中和した際に発生する水酸化第2鉄含有含水スラッジを原料として製造される液体消臭剤であって、前記スラッジに、濃度20wt%以上の硝酸をNO3/Feのモル比が3.0から6.0において混合し、温度60〜100℃で1〜12時間加熱溶解させて製造する、第2鉄がFe23換算で7〜35wt%含有され、NO3/Feモル比が3.0から6.0の範囲内にあり、かつSO4濃度が1.6wt%以下の水溶液である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水酸化第2鉄含有含水中和スラッジを製造原料とする、都市下水又は工場廃水等の廃水処理施設又は付帯施設等において硫化水素等が生成することにより発生する悪臭を抑制する液体消臭剤及びその製造方法に関する。
より詳しくは、都市下水又は工場廃水等の廃水処理施設又は付帯施設等において、悪臭物質である硫化水素を高濃度で発生させる濃縮汚泥貯留施設等に好適に使用することができる、金属処理工場等で排出される鉄化合物含有酸性水溶液を中和する際に生成する水酸化第2鉄含有含水中和スラッジを鉄の製造原料として用いる液体消臭剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸洗設備を備える製鉄所、焼き入れ工場、あるいは製線工場等の各種工場又は鉄鉱山等においては、第2鉄含有酸性廃水が発生し、これをそのまま排出放流することは、河川、海洋等を汚染し、また厳しい廃水規制も存在することから不可能である。そのため、この廃水は単独あるいは合併されて中和されるが、生成した水酸化第2鉄含有含水中和スラッジは、現状においては特に利用されることもなく通常廃棄物として処理されている。
【0003】
この廃棄処理されている水酸化第2鉄含有含水中和スラッジは処理量も多く、また有害物等の廃棄処理は、規制も非常に厳しくなっており、その処分場の確保も一段と困難となっている。そのため、該スラッジ中の鉄を有効活用し廃棄処理する量を少しでも低減させる技術の開発が望まれている。そのような中において、本発明者が所属する企業は下水処理の凝集剤であり、鉄を主成分とするポリ硫酸第2鉄を製造販売している。本発明者らは、このポリ硫酸第2鉄の製造に鉄または鉄化合物の廃物を活用し、低コストで製造し、低価額で販売提供することを既に提案している。
【0004】
また、鉄の化合物である、第1鉄イオン、硫酸イオン及び硝酸イオンの存在下で第1鉄イオンを第2鉄イオンに酸化して生成される、第2鉄イオン、硝酸イオン及び硫酸イオンから形成される液状複合体が、悪臭の原因物質の一つである硫化水素の発生抑制能が優れていることを本発明者らが見出し、既に消臭剤として提案している(特許文献1)。
本発明者らは、この視点から水酸化第2鉄含有含水中和スラッジを活用する路を開拓する可能性について着目し既に検討した。
【0005】
その結果、水酸化第2鉄含有含水中和スラッジは、高濃度の硝酸(具体的には濃度20wt%以上の硝酸)によっては、常温では溶解し難いが70℃以上の温度では、比較的短時間で溶解し、第2鉄がFe23換算で7.1〜17wt%含有され、NO3/Feのモル比が2.3から3.0未満の範囲にある水溶液を作製することができ、それを用いて廃水処理施設等で発生する硫化水素による悪臭を抑制できることを確認して、特許出願し、既に特許を取得した(特許文献2)。
【0006】
このような優れた性能を持つ消臭剤を下水処理施設等で使用することを促進すべく、該施設等に対して営業活動を行いサンプルを提供したところ、高濃度の硫化水素を発生する濃縮汚泥等を貯蔵する施設では、その消臭性能が十分なものではないとの感触があった。
そこで、高濃度の硫化水素を発生する濃縮汚泥に対して、特許文献2の消臭剤を用いて人間による簡便な消臭性能試験、すなわち人間による臭気感応試験を行ったところ僅かに臭気が感じれた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−206863号公報
【特許文献2】特許第4,098,584号(特開2004−82006号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そのようなことから、この消臭剤について消臭性能に関し客観的データを取るべく、高濃度の硫化水素を発生する濃縮汚泥に対してガス検知管を用いて消臭性能試験を行ったところ消臭性能が特許文献2に記載されているような完璧なものではないことが判明した。
その原因を調査すべく、まず液体消臭剤の組成を調査したところ、硫酸根(SO4)が相当量、すなわち2.4wt%という量で存在することが判明した。
【0009】
そこで、その硫酸根の由来を調査すべく、鉄原料の水酸化第2鉄含有含水中和スラッジの組成を分析したところ多量の硫酸根が存在することが判明した。すなわち、特許文献2に記載の消臭剤の製造原料である水酸化第2鉄含有含水中和スラッジには、13.9wt%(乾燥ベース)もの多量の硫酸根が存在することが判明した。
このことから、特許文献2の消臭剤には水酸化第2鉄含有含水中和スラッジ由来の硫酸根が相当量残存し、その硫酸根が嫌気性雰囲気においては硫酸塩還元菌により還元されて硫化水素が生成するものと推測し、含有硫酸根の少ない消臭剤を使用して消臭性能を行ったところ消臭性能が向上するとの知見を得た。
【0010】
したがって、本発明は、水酸化第2鉄含有含水中和スラッジを鉄原料として用い、その上で前記知見を利用して、高濃度の硫化水素を発生させる濃縮汚泥等の発生源に対して優れた消臭性能を発揮する液体消臭剤及びその製造方法を提供することを発明の解決すべき課題とするものである。
より詳しくは、、本発明は、各種金属処理工場等で排出される鉄化合物含有酸性水溶液を中和する際に生成する水酸化第2鉄含有含水中和スラッジを製造原料として用いて製造される、すなわち廃棄物を有効活用して製造される液体消臭剤であるにもかかわらず、高濃度の硫化水素を発生する汚泥等の発生源に対して、優れた消臭性能を発揮する消臭剤及びその製造方法を提供することを発明の解決すべき課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は前記課題を達成するための液体消臭剤及びその製造方法を提供するものであり、その液体消臭剤は、鉄化合物含有酸性廃液を中和した際に生成する水酸化第2鉄含有含水スラッジを原料として製造される液体消臭剤であって、第2鉄がFe23換算で7〜35wt%含有され、NO3/Feモル比が3.0から6.0の範囲内にあり、かつSO4濃度が1.6wt%以下の水溶液であることを特徴とするものである。
また、その液体消臭剤は、第2鉄がFe23換算で9〜20wt%、NO3/Feモル比が3.5から5.5の範囲にあり、かつSO4濃度が0.8wt%以下であることが好ましい。
【0012】
そして、その液体消臭剤の製造方法は、鉄化合物含有酸性廃液を中和した際に発生する水酸化第2鉄含有含水スラッジに、濃度20wt%以上の硝酸をNO3/Feのモル比が3.0から6.0において混合し、温度60〜100℃で1〜12時間加熱溶解させることを特徴するものである。
また、その際の硝酸濃度は50wt%以上、温度は75〜100℃、加熱溶解する時間は4〜12時間が好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の液体消臭剤は、製造原料の1つである鉄原料に関し水酸化第2鉄含有含水中和スラッジを使用するものであるから、廃棄物を有効活用するもので、その低減に貢献するものである。
また、本発明で用いる鉄原料の水酸化第2鉄含有含水中和スラッジは、SO4濃度が低いことから、濃度が高いものに比し溶解し難いと考えられていたが、それを効率的に溶解することを条件を見出したものであり、更なる廃棄物の有効活用に路を拓いたものである。
【0014】
そして、本発明を開発する過程においては、特許文献2に記載の消臭剤の消臭性能が十分ではなく、それを改良すべく鋭意検討している間に、その消臭剤において鉄原料として用いた水酸化第2鉄含有含水中和スラッジ中に高濃度のSO4が含有され、それに由来する硫酸根が製造された消臭剤にも残留することが判明し、これが更なる悪臭物質の硫化水素を発生させる原因になっている可能性が推測され、本発明は、この推測の当否を確認し、それを解決することにより濃縮汚泥等の高濃度の硫化水素を発生する施設においても有効に消臭性能を発現する優れた消臭剤を提供するものである。
【0015】
すなわち、特許文献2で製造された消臭剤には鉄原料である水酸化第2鉄含有含水中和スラッジから持ち込まれたSO4が2.4%含有されており、このSO4が濃縮汚泥の貯槽のように高い嫌気性雰囲気(水中に酸素分子も硝酸イオンも存在しない状態)下ある環境においては、硫酸塩還元菌により還元されて硫化水素が生成するものと推測し、SO4濃度が低い水酸化第2鉄含有含水中和スラッジを鉄原料として消臭剤を製造したのが、本発明の消臭剤及びその製造方法であり、その結果、本発明では高濃度の硫化水素を発生する濃縮汚泥等に対して用いても良好な消臭性能を発現するものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下において、本発明について発明を実施するための形態に関し詳述するが、本発明は、この実施の形態によって何等限定されるものではなく、特許請求の範囲によって特定されるものであることはいうまでもない。
【0017】
本発明は前記したとおり液体消臭剤及びその製造方法を提供するものであり、その液体消臭剤は、鉄化合物含有酸性廃液を中和した際に発生する水酸化第2鉄含有含水スラッジを原料として製造される液体消臭剤であって、第2鉄がFe23換算で7〜35wt%含有され、NO3/Feモル比が3.0から6.0の範囲内にあり、かつSO4濃度が1.6wt%以下の水溶液であることを特徴とするものである。また、その液体消臭剤は、第2鉄がFe23換算で9〜20wt%、NO3/Feモル比が3.5から5.5の範囲にあり、かつSO4濃度が0.8wt%以下であることが好ましい。
【0018】
そして、その液体消臭剤の製造方法は、前記したとおり鉄化合物含有酸性廃液を中和した際に発生する水酸化第2鉄含有含水スラッジに、濃度20wt%以上の硝酸をNO3/Feのモル比が3.0から6.0において混合し、温度60〜100℃で1〜12時間加熱溶解させることを特徴とするものである。
また、その際の硝酸濃度は50wt%以上、温度は75〜100℃、加熱溶解する時間は4〜12時間が好ましい。
【0019】
本発明の液体消臭剤においては、第2鉄がFe23換算で7〜35wt%含有されることが必要であり、それは7wt%未満では鉄濃度が低すぎ硫化水素発生抑制効果が低下するためであり、35wt%を超えた場合には硝酸第2鉄の結晶が析出するためであるためである。なお、第2鉄の含有量についてはFe23換算で9〜20wt%含有されることが好ましい。
【0020】
さらに、NO3/Feモル比は3.0から6.0の範囲内にあることが必要であり、それはNO3/Feモル比が3.0未満では、鉄の量が過剰で溶液が不安定となり、硝酸第2鉄の結晶が析出してしまうためであり、逆に6.0を超えた場合には、溶液中のNO3濃度が高くなってしまい、溶液の酸性度が強くなり過ぎるためである。
このモル比については、好ましくは3.5から5.5であることがよい。
【0021】
このモル比については、特許文献2に記載の液体消臭剤に比し高い値になっているが、水酸化第2鉄含有含水スラッジを硝酸で溶解する場合には、硫酸根の含有率が低い場合には、高い場合よりも溶解し難く、そのため短時間で効率的に溶解するには硝酸濃度が高く、使用量も増加することになる。
その結果、得られた液体消臭剤は、硝酸根の濃度が高く、NO3/Feモル比も高いものとなる。なお、前記したとおりであるから、特許文献2の製造方法に比し、溶解時の加熱温度が高くなり、溶解時間も長くなることは避けられない。
【0022】
また、本発明の液体消臭剤においてはSO4濃度は1.6wt%以下であることが必要であり、これを超えた場合には、鉄原料である酸化第2鉄含有含水スラッジから液体消臭剤中に取り込まれたSO4が濃縮汚泥のように高い嫌気性雰囲気を形成する場合には、硫酸塩還元菌により還元されて硫化水素が生成し易くなり、その結果硫化水素発生抑制効果が低下してしまうためと考えている。
【0023】
本発明では、鉄原料として廃棄物である鉄化合物含有酸性廃液を中和した際に発生する水酸化第2鉄含有含水スラッジを用いるものであり、本発明の液体消臭剤は、それを濃度20wt%以上の硝酸を用いて加熱溶解することにより製造されるものである。
その製造された消臭剤においては、その中に含有されるSO4が濃度1.6wt%以下であることが必要であり、0.8wt%以下であることが好ましいのであるが、このSO4 、すなわち硫酸根は、鉄原料である水酸化第2鉄含有含水スラッジから由来するものであり、製造された液体消臭剤中に残存するものである。
【0024】
そのため、鉄原料である水酸化第2鉄含有含水スラッジ中のSO4濃度も自ずと制約され、溶解後得られる前記消臭剤中の硫酸根濃度が達成できる範囲内のものである。
すなわち、消臭剤中の硫酸根濃度を1.6wt%以下とするためには、前記スラッジ中の硫酸根濃度は、6.61wt%(乾燥ベースによる)であることが必要であり、消臭剤中の硫酸根濃度を0.8wt%以下とするためには、前記スラッジ中の硫酸根濃度は、3.96wt%(乾燥ベースによる)以下であることが必要である。
【0025】
そして、本発明の液体消臭剤は、前記したとおり第2鉄がFe23換算で7〜35wt%含有され、NO3/Feモル比が3.0から6.0で、かつSO4濃度が1.6wt%以下の水溶液であることが必要であり、それを製造するためには、水酸化第2鉄含有含水スラッジに、濃度20wt%以上の硝酸をNO3/Feモル比が3.0から6.0において混合し、温度60〜100℃で1〜12時間加熱溶解させることが必要である。
【0026】
本発明の液体消臭剤も、水酸化第2鉄含有含水スラッジを鉄原料とする点においては特許文献2の場合と共通するものであるが、本発明の液体消臭剤の製造方法で用いる水酸化第2鉄含有含水スラッジは、前記したとおり特許文献2で用いる水酸化第2鉄含有含水スラッジに比し、含有される硫酸根濃度が低いものである。
その結果、特許文献2に記載の製造方法に比し、硝酸により水酸化第2鉄含有含水スラッジの溶解する際の条件が厳しいものとなる。
【0027】
そのため、本発明の液体消臭剤の製造方法においては、使用する硝酸濃度は特許文献2の場合よりも高い方が好ましく、具体的には50%以上がよい。
また、加熱温度も同様に高い方が良く75℃以上が好ましい。さらに、溶解時間は硝酸濃度及び加熱温度が特許文献2と同様の場合には倍以上とするのがよく、具体的には4時間以上が好ましい。
【実施例1】
【0028】
以下においては、本発明について実施例に基づいて詳述するが、本発明は、この実施例によって何等限定されるものではなく、特許請求の範囲によって特定されるものであることはいうまでもない。
その実施例については、実施例1として本発明の液体消臭剤の製造方法に関し複数の例を示し、また実施例2として製造された液体消臭剤を使用した消臭性能試験例を示す。
【0029】
[製造例1]
鉄原料の水酸化第2鉄含有含水スラッジとしては、半導体材料の製造過程において排出されたものを使用した。
その成分をまず分析したところ、その結果は表1に示すとおりであり、それに含有されるFe23及びSO4の含有量は、いずれも乾燥ベースでそれぞれ75.4wt%及び2.10wt%であり、これ以外に水39wt%が含有されていた。
【0030】
【表1】

【0031】
この水酸化第2鉄含有含水スラッジ30gを、溶解時のNO3/Feモル比が3.0になるように濃度60wt%硝酸54gに十分に懸濁させた後、懸濁液の温度を80℃まで加熱し、同温度到達後、さらに4時間攪拌を続け、4時間経過後、溶解液を40℃以下まで冷却させた後、5C濾紙を用いて溶解残渣を固液分離した。
【0032】
その濾液については、その中に含まれるT−Fe濃度、NO3濃度およびSO4濃度を測定した。濾別した溶解残渣は、110℃にて乾燥させた後、その重量を測定し、原料スラッジの溶解率を算出した。それらの結果は、表2に示すとおりであり、濾液中のT−Fe濃度10.6wt%(Fe23換算濃度15.0wt%)、NO3濃度38.5%、NO3/Feモル比3.3、SO4濃度0.5%であった。また、原料スラッジの溶解率は76%であった。
【0033】
【表2】

【0034】
[製造例2]
製造例1と同じ水酸化第2鉄含有含水スラッジを用いて、溶解時のNO3/Feモル比が4.5になるように濃度60wt%硝酸量を82gに変更した以外は、製造例1と同一条件で溶解した。
その結果は、製造例1と同様に表2に示してあり、濾液中のT−Fe濃度9.6wt%(Fe23換算濃度13.7wt%)、NO3濃度43.8%、NO3/Feモル比4.1、SO4濃度0.5%であった。また、原料スラッジの溶解率は90%であった。
【0035】
[製造例3]
製造例1と同じ水酸化第2鉄含有含水スラッジを用いて、溶解時のNO3/Feモル比が6.0になるように濃度60wt%硝酸量を109gに変更した以外は、製造例1と同一条件で溶解した。
その結果は、製造例1、2と同様に表2に示してあり、濾液中のT−Fe濃度11.6wt%(Fe23換算濃度16.5wt%)、NO3濃度48.4%、NO3/Feモル比5.6、SO4濃度0.2%であった。また、原料スラッジの溶解率は94%であった。
【0036】
[製造例4]
鉄原料の水酸化第2鉄含有含水スラッジについては、現在までのところ製造例1ないし3において使用した半導体材料の製造過程において排出された硫酸含有量が比較的低いものと、特許文献2で使用した硫化鉄鉱山排水を中和沈殿する際に生成する硫酸根が高濃度で含有されているものの2種類しか入手できない。
そのため、これら両者の中間の硫酸根含有量を持つ液体消臭剤については、水酸化第2鉄含有含水スラッジから硝酸を用いて溶解することにより直接製造することはできない。
【0037】
そこで、両者の中間の硫酸根を含有する液体消臭剤については、製造例1の水酸化第2鉄含有含水スラッジに硫酸を添加して硫酸根を増量し、それを硝酸で溶解して液体消臭剤を作製し、これを消臭性能試験に用いることとした。
すなわち、製造例1の水酸化第2鉄含有含水スラッジに硫酸を添加、混合し、乾燥して硫酸根濃度を増加させたものを液体消臭剤を製造する際の鉄原料とした。
【0038】
その製造方法は具体的には以下のとおりである。すなわち、製造例1と同じ水酸化第2鉄含有含水スラッジ100gに98%硫酸2.54gを添加して十分に攪拌混合し、1晩静置乾燥させた。その成分を分析した結果は表3に示すとおりであり、それに含有されるFe23及びSO4の量は、いずれも乾燥ベースでそれぞれ75.6wt%及び3.96wt%であり、これ以外に水33.3wt%が含有されていた。
【0039】
【表3】

【0040】
この水酸化第2鉄含有含水スラッジ30gを、溶解時のNO3/Feモル比が3.0になるように濃度60wt%硝酸54gに十分に懸濁させた後、懸濁液の温度を80℃まで加熱し、同温度到達後、さらに4時間攪拌を続け、4時間経過後、溶解液を40℃以下まで冷却させた後、5C濾紙を用いて溶解残渣を固液分離した。
その結果は、製造例1ないし3と合わせて表2に示しており、濾液中のT−Fe濃度10.7wt%(Fe23換算濃度15.3wt%)、NO3濃度39.8%、NO3/Feモル比3.4、SO4濃度0.8%であった。
【0041】
[製造例5]
この製造例は製造例4と同様に液体消臭剤を製造した。すなわち製造例4と同じ水酸化第2鉄含有含水スラッジ100gに98%硫酸7.54gを添加して十分に攪拌混合し、1晩静置乾燥させた。その成分を分析したところ表3に示すとおりであり、それに含有されるFe23及びSO4の量は、いずれも乾燥ベースでそれぞれ74.4wt%及び6.61wt%であり、これ以外に水32.5wt%が含有されていた。
【0042】
この水酸化第2鉄含有含水スラッジ30gを、溶解時のNO3/Feモル比が3.0になるように濃度60wt%硝酸54gに十分に懸濁させた後、懸濁液の温度を80℃まで加熱し、同温度到達後、さらに4時間攪拌を続け、4時間経過後、溶解液を40℃以下まで冷却させた後、5C濾紙を用いて溶解残渣を固液分離した。
その結果は、濾液中のT−Fe濃度11.0wt%(Fe23換算濃度15.7wt%)、NO3濃度40.2%、NO3/Feモル比3.3、SO4濃度1.6%であった。
【0043】
[製造例に関する考察]
製造例1ないし3を対比すると、加熱溶解時の硝酸の使用量が多いほど水酸化第2鉄含有含水スラッジの溶解量が増加することがわかる。
すなわち、水酸化第2鉄含有含水スラッジの同一量(30g)に対し、硝酸の使用量は製造例1では54g、製造例2では82g、製造例3では109gであり、その使用量の増加と共に前記スラッジの溶解量も、76%、90%及び94%と増加しており、該スラッジ中の鉄分が液体消臭剤として有功に活用されることがわかる。
【実施例2】
【0044】
この実施例では、前記したとおり実施例1で製造した液体消臭剤を使用して消臭性能試験を行う例を示す。この消臭性能試験では、製造例3、4及び5の液体消臭剤、並びに特許文献2に記載の消臭剤及び市販の硝酸第2鉄溶液を用いた消臭剤(以下、参考例という)を用いた。すなわち、硫酸根含有量が0%、0.2%、0.8%、1.6%及び2.4%の消臭剤を用いた。なお、比較のために消臭剤無添加(ブランク)の場合についても消臭性能試験を行った。
【0045】
なお、市販の硝酸第2鉄溶液を用いた消臭剤は、硫酸根含有量が0%の場合の消臭剤を使用した場合の消臭性能結果を得るためであり、そのために、株式会社十条合成化学研究所から市販されている硝酸第2鉄溶液を使用し、その成分を分析して硫酸根の含有量はゼロであることを確認した。
また、T−Fe濃度9.5wt(Fe23換算濃度13.5wt%)、%、NO3濃度31.8%、NO3/Feモル比3.0であることも分析して確認した。
【0046】
この消臭性能試験は、地方自治体から提供された汚泥を10日間屋外に放置し、その後消臭性能試験を行ったが、このようにしたのは、放置することにより汚泥の腐敗が促進されて硫化水素が発生し易くなり、その結果として硫酸根濃度の差異に基づく液体消臭剤の消臭性能の差異がより明確になると考えられるからである。
その消臭性能試験方法に関し、以下において具体的に示す。
【0047】
各硫酸根濃度の液体消臭剤の数及び測定回数に対応する500mLのポリ瓶を用意し、それぞれのポリ瓶に汚泥200mLを採取し、各ポリ瓶に各硫酸根濃度の液体消臭剤を添加量が5000ppmとなるようにそれぞれ個別に添加した。
液体消臭剤を添加した後ポリ瓶を密閉し、静置した。そして添加直後、6時間静置後及び24時間静置後に各ポリ瓶を1分間振とうし、それぞれガス検知管にてポリ瓶中の硫化水素濃度を測定した。
【0048】
その性能試験結果は表4に示すとおりであり、液体消臭剤無添加(ブランク)の場合には、0〜24時間経過後の間に大きな変化はなく、いずれの場合も1100ppmを超えている。
それに対して、本発明の液体消臭剤を用いた場合には、ブランクの場合に比し、硫化水素発生量が極端に低減していることがわかる。すなわち、本発明の液体消臭剤を用いた場合には添加直後に半減し、24時間経過後には1/10前後に低下することがわかる。
【0049】
【表4】

【0050】
さらに、具体的に言及するに、24時間経過後における硫化水素発生量をみると、硫酸根濃度0.2%の液体消臭剤の場合には95pm、0.8%の場合には110ppm、1.6%の場合には150ppmとなっており、このことから液体消臭剤中の硫酸根濃度が低いほど消臭性能に優れることがわかる。
なお、硫酸根ゼロの場合は、硫酸根の含有されていない市販の硝酸鉄を使用しており、水酸化第2鉄含有含水スラッジを鉄原料として製造したものではないので、本発明には該当せず参考例ではあるが、この場合には、消臭性能が最もよく、硫化水素発生量は添加直後であっても500ppmで、24時間経過後には50ppmまで低下することがわかる。
【0051】
そして、硫酸根含有量2.4%の消臭剤は、特許文献2に記載の硫酸根を13.9wt%(乾燥ベース)含有する水酸化第2鉄含有含水中和スラッジを鉄原料として製造されたものであり、本発明に該当するものではない。
それは本発明の液体消臭剤と対比するために表4中に記載してはいるものの、あくまでも比較例であり、本発明の液体消臭剤は、いずれの硫酸根濃度の場合においても前記特許文献2に記載の消臭剤よりも消臭性能が優れており、そのことがこの性能試験結果からも明白である。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の液体消臭剤は、水酸化第2鉄含有含水中和スラッジを鉄原料として使用するも
のであるから、廃棄物の低減に貢献し、それを有効活用するものである。
また、汚泥貯槽等の高濃度の硫化水素を発生する、下水、排水処理施設あるいはそれらの付帯施設において、硫化水素の発生抑制あるいは低減に大いに有効なもので、活用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄化合物含有酸性廃液を中和した際に発生する水酸化第2鉄含有含水スラッジを原料として製造される液体消臭剤であって、第2鉄がFe23換算で7〜35wt%含有され、NO3/Feモル比が3.0から6.0の範囲内にあり、かつSO4濃度が1.6wt%以下の水溶液であることを特徴とする液体消臭剤。
【請求項2】
第2鉄がFe23換算で9〜20wt%、NO3/Feモル比が3.5からの範囲にあり、かつSO4濃度が0.8wt%以下である請求項1に記載の液体消臭剤。
【請求項3】
鉄化合物含有酸性廃液を中和した際に発生する水酸化第2鉄含有含水スラッジに、濃度20wt%以上の硝酸をNO3/Feのモル比が3.0から6.0において混合し、温度60〜100℃で1〜12時間加熱溶解させることを特徴する請求項1に記載の液体消臭剤の製造方法。
【請求項4】
鉄化合物含有酸性廃液を中和した際に発生する水酸化第2鉄含有含水スラッジに、濃度50wt%以上の硝酸をNO3/Feのモル比が3.5から5.5において混合し、温度75〜100℃で4〜12時間加熱溶解させることを特徴する請求項3に記載の液体消臭剤の製造方法。

【公開番号】特開2011−212537(P2011−212537A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81298(P2010−81298)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000227250)日鉄鉱業株式会社 (82)
【Fターム(参考)】