説明

水電解装置

【課題】水電解装置において、起動時間を短縮して水素生成効率の向上を可能とする。
【解決手段】固体高分子電解質膜22により水を電気分解する水電解セル11を有する水電解スタック21と、水電解セル11の陰極側に水を循環供給する第2循環水経路17と、第2循環水経路17を流動する水と水素ガスを分離する第2気液分離タンク18と、第2循環水経路17の水を加圧する第2水供給経路43と、第2気液分離タンク18に水素制御弁33を介して連結される水素取出経路19と、第2循環水経路17を循環する水の圧力が予め設定された所定値を超えたら水素制御弁33を開放する制御装置20とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子電解質膜を隔膜として用い、水を電気分解して酸素及び水素を製造可能な水電解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
石油や石炭等の化石燃料を使用することにより、大気中に二酸化炭素が放出されることで、地球温暖化につながることが問題となっている。化石燃料の代替であるクリーンなシステムとして燃料電池や水素エンジン等の水素利用が注目されている。水の電気分解(以下、水電解)により水素ガスや酸素ガスを製造する水電解装置は、比較的容易に、且つ、無公害で水素ガスや酸素ガスを製造することが可能である。
【0003】
例えば、下記特許文献1に記載された固体高分子膜型水電解装置では、固体高分子電解質膜によって内部が陽極室と陰極室に区画された水電解槽を設け、この水電解槽の陽極室の固体高分子電解質膜側に水を供給すると共に、陰極室の固体高分子電解質膜側に水を供給する。すると、陽極室内に流入する水が、固体高分子電解質膜により電気分解され、水素イオンがこの膜を通過して陰極室側で水素が発生し、発生した水素は陰極室に供給される循環水と共に気水分離タンクに入り、ここで水素と水とに分離され、水素が回収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4240834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した固体高分子膜型水電解装置にあっては、陽極室の固体高分子電解質膜側に水を供給し、電気分解された水素イオンが固体高分子電解質膜を通過することで、陰極室側にて水素ガスが発生し、発生した水素ガスが陰極室に供給される循環水と共に循環し、気水分離タンクにて水から水素ガスが分離されて回収されている。この電解装置において、常圧より高い圧力の水素ガスを製造するためには容器内部の循環水を加圧する必要があるが、この場合、水素ガスが循環水に溶存することから、循環水が飽和状態に達するまでの間は水素ガスを安定的に回収することが難しい。そのため、水電解装置を起動してから、気水分離タンクにより水素ガスを分離して回収するまでに長時間を要してしまい、結果として、水電解装置の起動時間が長くなるので、水素ガスを必要とする状況で短時間に安定的に供給することが難しく、生成効率が低下してしまうという問題がある。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するものであり、起動時間を短縮して水素生成効率の向上を可能とし、水素ガスを安定して供給する水電解装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するための本発明の水電解装置は、固体高分子電解質膜により水を電気分解する水電解セルを有する水電解スタックと、水電解スタックと電気的に接続された電力供給装置と、前記水電解セルの陽極側に水を循環供給する第1循環水経路と、前記水電解セルの陰極側に水を循環供給する第2循環水経路と、前記第1循環水経路を流動する水と酸素ガスを分離する第1気液分離タンクと、前記第2循環水経路を流動する水と水素ガスを分離する第2気液分離タンクと、前記第1循環水経路の水を加圧する第1加圧手段と、前記第2循環水経路の水を加圧する第2加圧手段と、前記第2気液分離タンクに水素制御弁を介して連結される水素取出経路と、前記第2循環水経路を循環する水の圧力を検出する圧力検出手段と、該圧力検出手段が検出した圧力が予め設定された所定値を超えたら前記水素制御弁を開放する制御手段と、を備えることを特徴とするものである。
【0008】
本発明の水電解装置では、前記第2循環水経路を循環する水における水素溶存量を検出または推定する水素溶存量検出推定手段を設け、前記制御手段は、前記水素溶存量検出推定手段が検出または推定した水素溶存量が飽和状態となったら、前記水素制御弁を開放することを特徴としている。
【0009】
本発明の水電解装置では、前記第2加圧手段は、前記第2循環水経路に水を供給する第2水供給経路と、該第2水供給経路に設けられる第2水供給弁とを有し、前記制御手段は、第2水供給弁を開閉制御して前記第2水供給経路から前記第2循環水経路に供給する水量を調整することで、該第2循環水経路内の圧力を制御することを特徴としている。
【0010】
本発明の水電解装置では、前記制御手段は、前記第1、第2加圧手段により前記第1、第2循環水経路内の圧力を予め設定された運転圧力よりも高い圧力まで加圧するとき、前記電力供給手段による供給電力を上昇させることを特徴としている。
【0011】
本発明の水電解装置では、前記制御手段は、水素溶存量検出推定手段が検出または推定した水素溶存量が飽和状態となったら、前記電力供給手段による供給電力を運転電力まで低下させることを特徴としている。
【0012】
本発明の水電解装置では、前記第2循環水経路の水を減圧する第2減圧手段を設け、前記制御手段は、前記第2加圧手段により前記第2循環水経路内の圧力を予め設定された運転圧力よりも高い圧力まで加圧し、予め設定された所定のタイミングで前記第2減圧手段により前記第2循環水経路内の圧力を運転圧力まで減圧した後、前記水素制御弁を開放することを特徴としている。
【0013】
本発明の水電解装置では、前記制御手段は、前記水素溶存量検出推定手段が検出または推定した水素溶存量が予め設定された所定量となったら、前記第2減圧手段により前記第2循環水経路内の圧力を減圧することを特徴としている。
【0014】
本発明の水電解装置では、前記水電解セル内での水電解運転の停止後、前記制御手段は、前記循環水経路内を密閉状態で保持することを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明の水電解装置によれば、固体高分子電解質膜により水を電気分解する水電解セルを有する水電解スタックと、水電解セルの陽極側に水を循環供給する第1循環水経路と、水電解セルの陰極側に水を循環供給する第2循環水経路と、第1循環水経路を流動する水と酸素ガスを分離する第1気液分離タンクと、第2循環水経路を流動する水と水素ガスを分離する第2気液分離タンクと、第1循環水経路の水を加圧する第1加圧手段と、第2循環水経路の水を加圧する第2加圧手段と、第2気液分離タンクに水素制御弁を介して連結される水素取出経路と、第2循環水経路を循環する水の圧力を検出する圧力検出手段と、圧力検出手段が検出した圧力が予め設定された所定値を超えたら水素制御弁を開放する制御手段とを設けている。
【0016】
従って、第2加圧手段により第2循環水経路内を加圧して発生した水素ガスを溶存させ、この第2循環水経路内の圧力が所定値を超えたら水素制御弁を開放して水素ガスを取り出すこととなる。そのため、所定圧の水素ガスを取り出すまでの起動時間を短縮することができ、水素生成効率を向上することができると共に、所定圧の水素ガスを安定して確保することができる。
【0017】
本発明の水電解装置によれば、制御手段は、第2循環水経路内の水における水素溶存量が飽和状態となったら水素制御弁を開放するので、発生した水素ガスを飽和状態になるまで溶存させてから取り出すことで、所定圧の水素ガスを安定して確保することができる。
【0018】
本発明の水電解装置によれば、第2加圧手段を、第2循環水経路に水を供給する第2水供給経路と、第2水供給経路に設けられる第2水供給弁とで構成し、制御手段は、第2水供給弁を開閉制御して第2水供給経路から第2循環水経路に供給する水量を調整することで圧力を制御するので、第2循環水経路内の圧力を迅速に上昇させることができる。
【0019】
本発明の水電解装置によれば、制御手段は、第1、第2加圧手段により第1、第2循環水経路内の圧力を予め設定された運転圧力よりも高い圧力まで加圧するとき、電力供給手段による供給電力を上昇させるので、第2循環水経路内の圧力上昇に応じて水に対して水素ガスを早期に溶存させることができる。
【0020】
本発明の水電解装置によれば、水素溶存量検出推定手段が検出または推定した水素溶存量が飽和状態となったら、電力供給手段による供給電力を運転電力まで低下させるので、効率的に水素ガスを溶存させることができる。
【0021】
本発明の水電解装置によれば、第2循環水経路の水を減圧する第2減圧手段を設け、制御手段は、第2加圧手段により第2循環水経路内の圧力を予め設定された運転圧力よりも高い圧力まで加圧し、予め設定された所定のタイミングで第2減圧手段により第2循環水経路内の圧力を運転圧力まで減圧した後、水素制御弁を開放するので、水における水素溶存量を飽和状態まで早期に上昇させることとなり、その後、第2循環水経路内の圧力を運転圧力として水素ガスを取り出すことで、所定圧力及び所定量の水素ガスを安定して取り出すことができる。
【0022】
本発明の水電解装置によれば、制御手段は、水素溶存量検出推定手段が検出または推定した水素溶存量が予め設定された所定量となったら、第2減圧手段により第2循環水経路内の圧力を減圧するので、無駄な水素ガスの発生を抑制して効率的に所定圧の水素ガスを確保することができる。
【0023】
本発明の水電解装置によれば、水電解セル内での水電解運転の停止後、制御手段は、循環水経路内を密閉状態で保持するので、次の起動時には、加圧手段により循環水経路内の圧力を上昇させる必要がなく、起動時間を更に短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、本発明の実施例1に係る水電解装置を表す概略構成図である。
【図2】図2は、実施例1の水電解装置における起動時の状態変化を表すタイムチャートである。
【図3】図3は、本発明の実施例2に係る水電解装置における起動時の状態変化を表すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に添付図面を参照して、本発明に係る水電解装置の好適な実施例を詳細に説明する。なお、この実施例により本発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0026】
図1は、本発明の実施例1に係る水電解装置を表す概略構成図、図2は、実施例1の水電解装置における起動時の状態変化を表すタイムチャートである。
【0027】
実施例1の水電解装置は、図1に示すように、水電解セル11と、発電装置(電力供給装置)12と、充電装置13と、第1循環水経路14と、第1気液分離タンク15と、酸素ガス取出経路16と、第2循環水経路17と、第2気液分離タンク18と、水素ガス取出経路19と、制御装置20とから構成されている。また、実施例1の水電解装置では、第1循環水経路14の水を加圧する第1加圧手段として、第1水供給経路41と、第1水供給弁42が設けられている。更に、第2循環水経路17の水を加圧する第2加圧手段として、第2水供給経路43と、第1水供給弁44が設けられている。
【0028】
水電解セル11は、水電解スッタク内21内に、固体高分子電解質膜22の一方に陽極を配置し、他方に陰極を配置するものであり、水電解セル11は単数または複数積層して水電解スタック21内に構成される。水電解セル11は、固体高分子電解膜により水を電解することで、陽極側23に酸素ガスを、陰極側24に水素ガスを発生させるものである。
【0029】
発電装置12は、水電解セル11における固体高分子電解質膜22に対して電力(電流)を供給するものであり、本実施例では、自然エネルギを利用した電力供給装置として、風力発電装置、太陽光発電装置、水力発電装置、波力発電装置、地熱発電装置、海洋温度差発電装置などが適用される。この場合、夜間に発電が不可能な電力供給装置に対応して、昼間に発電した電力を蓄電する充電装置13が設けられている。また、発電装置12としては、系統からの電力を供給することも可能である。制御装置20は、発電装置12により得られた電力が入力され、水電解セル11の固体高分子電解質膜22へ供給する電力の電流値、電圧値を制御することで、水電解セルの要求値に最適な状態で電力を供給することで水電解を行い、酸素ガス及び水素ガスを発生させることができる。
【0030】
第1循環水経路14は、水電解スタック21に対して水を循環し、水電解セル11の陽極側23に水を供給することで、水の電気分解を可能としている。この第1循環水経路14は、第1気液分離タンク15に連結されており、この第1循環水経路14は、水電解スタック21に対する入口経路14aと、水電解スタック21からの出口経路14bから構成されている。そして、第1循環水経路14における入口経路14aに、第1循環ポンプ31が設けられている。この場合、第1循環水経路14と第1気液分離タンク15により、本発明の第1循環水経路が構成される。
【0031】
第1気液分離タンク15は、循環する水に気泡または溶存して存在する酸素ガスを分離して取り出すものであり、上部には、分離した酸素ガスを排出する酸素取出経路16が連結されている。また、この第1気液分離タンク15には、フィルタ15aが内蔵されており、このフィルタ15aにより、水の電気分解により発生して不純物(例えば、溶出金属など)を除去した後、再び、水電解スタック21に供給する。
【0032】
第2循環水経路17は、水電解スタック21に対して水を循環し、水電解セル11の陰極側24に水を供給することで、固体高分子電解膜の冷却と水素ガスの導出を行うことが可能である。この第2循環水経路17は、第2気液分離タンク18に連結されており、この第2循環水経路17は、水電解スタック21に対する入口経路17aと、水電解スタック21からの出口経路17bから構成されている。そして、第2循環水経路17における入口経路17aに、第2循環ポンプ32が設けられている。この場合、第2循環水経路17と第2気液分離タンク18により、本発明の第2循環水経路が構成される。
【0033】
第2気液分離タンク18は、循環する水に気泡または溶存して存在する水素ガスを分離して取り出すものであり、上部には、分離した水素ガスを排出する水素取出経路19が連結されている。そして、この水素取出経路19に水素制御弁33が設けられている。また、この第2気液分離タンク18には、フィルタ18aが内蔵されており、このフィルタ18aにより、水の電気分解により発生して不純物(例えば、溶出金属など)を除去した後、再び、水電解スタック21に供給する。
【0034】
また、第2循環水経路17における入口経路17aには、補助経路34を介してバッファタンク35が連結されており、この補助経路34には、水排出弁36が設けられている。このバッファタンク35は、第2循環水経路17内の第2気液分離タンク18の水素ガス量に応じて、一時的に循環水を保持するために用いられる。
【0035】
第1水供給経路41は、外部から第1気液分離タンク15内に水を供給することで、水電解スタック21の陽極側23における循環水経路である第1循環水経路14及び第1気液分離タンク15の圧力を昇圧制御するものである。そして、この第1水供給経路41には、第1気液分離タンク15内に供給する水を調整する水供給弁42が設けられている。なお、この第1水供給経路41には、図示しない水供給ポンプが設けられている。また、第1水供給経路41から供給される水は純水が用いられるが、予め酸素ガスが溶存されている水を流入させてもよい。
【0036】
第2水供給経路43は、外部から第2気液分離タンク18内に水を供給することで、水電解スタック21の陰極側23における循環水経路である第2循環水経路17及び第2気液分離タンク18の圧力を昇圧制御するものである。そして、この第2水供給経路43には、第2気液分離タンク18内に供給する水を調整する水供給弁44が設けられている。なお、この第2水供給経路43には、図示しない水供給ポンプが設けられている。また、第2水供給経路43から供給される水は純水が用いられるが、予め水素ガスが溶存されている水を流入させてもよい。
【0037】
制御装置20は、発電装置12または充電装置13の電力に応じて、水電解セル11の固体高分子電解質膜22への電流値、電圧値を制御可能である。また、制御装置20は、上述した第1循環ポンプ31及び第2循環ポンプ32の吐出圧(ポンプモータの回転数)を調整制御可能であり、水素制御弁33及び水排出弁36の開度(0〜100%)を調整制御可能となっている。更に、制御装置20は、第1水開閉弁42及び第2水開閉弁43の開度(0〜100%)を調整制御可能となっている。
【0038】
陰極側の循環水経路には、第2気液分離タンク18及び第2循環水経路17内を循環する水の水素溶存量を検出または推定する水素溶存量検出推定手段が設けられている。この水素溶存量検出推定手段は、制御装置20が機能する。即ち、予め計算値や実験値などに基づいて、第2循環水経路17内を流動する水の圧力と、水電解セル11の固体高分子電解質膜22に付与する電流値(水素発生量)に基づいて設定される水素溶存量をマップ化し、このマップを用いて陰極側の循環水における水素溶存量を求めればよい。なお、第2循環水経路17内における水の圧力は、圧力センサ(圧力検出手段)により検出してもよいし、第2循環ポンプ32に内蔵される圧力センサ(圧力検出手段)に基づいて推定してもよい。また、水の圧力としては、第2気液分離タンク内に圧力センサ(圧力検出手段)を設置することで検出してもよい。
【0039】
そして、水電解装置の起動時に、制御装置20は、第2循環水経路17内の循環水における水素溶存量が予め設定された所定量を超えたら、水素制御弁33を開放し、水素取出経路19から水素ガスを取り出すようにしている。具体的には、制御装置20は、第2循環水経路17内の循環水における水素溶存量が飽和水素量となったら、水素制御弁33を開放し、水素取出経路19から水素ガスを取り出す。この場合、循環水における飽和水素量は、循環水の圧力に応じて変動することから、予め、計算値や実験値に基づいてマップ化し、このマップを用いて飽和水素量を求めればよい。
【0040】
本実施例にて、上述したように、陰極側の循環水経路の循環水を加圧する第2加圧手段は、第2水供給経路43からの水の供給量で決まり、第2循環水経路17及び第2気液分離タンク18の圧力に応じて第2水供給経路43に設けられた第2水供給弁44により制御される。この場合、第2循環水経路17内の運転圧力は、水素取出経路19から取り出して使用する水素ガスの圧力に応じて設定される。この陰極側の循環水の圧力は、0.1MPa〜80MPaに設定されるのが好ましく、さらに好ましくは1MPa〜80MPaに設定される。
【0041】
なお、陽極側の循環水経路の循環水を加圧する第1加圧手段は、第1水供給経路41からの水の供給量で決まり、第1循環水経路14及び第1気液分離タンク15の圧力に応じて第1水供給経路41に設けられた第1水供給弁42により制御される。この場合、第1水供給弁42は、第2水供給弁44と同様に制御される。そして、水電解セル11の効率を安定させるために、陽極側23と陰極側24に供給される循環水の圧力は、ほぼ同一に設定される必要があるから、水電解セル11と連結する陽極側の第1循環水経路14と陰極側の第2循環水経路17に流れる循環水の圧力がほぼ均圧に保持されている。本実施例においては、陽極側の循環水と陰極側の循環水の差圧は30kPa以下に制御される。
【0042】
また、本実施例の水電解装置では、水電解セル11での水電解運転の停止後、制御装置20は、第2循環水経路17内を密閉状態で保持するようにしている。即ち、制御装置20は、水電解セル11への通電を停止し、各循環ポンプ31,32の駆動を停止すると同時に、水素制御弁33を閉止することで、陰極側の第2循環水経路17を閉塞空間とする。
【0043】
ここで、実施例1の水電解装置における起動時の作用について、図2のタイムチャートに基づいて説明する。
【0044】
水電解装置における起動操作において、図2に示すように、オペレータが、時間t1にて、水電解装置の起動スイッチを入力すると、制御装置20は、まず、第1、第2水供給弁42,44を開放させて、第1、第2の水供給経路41,43を介して水電解セル11の陽極及び陰極の循環水経路14,17に水を供給する。それと同時に、第1循環ポンプ31と第2循環ポンプ32を稼動させることで循環水を流動させる。更に、水電解セル11に電力の供給を開始して、水電解セル11による電解反応を開始する。このとき、水電解セル11に供給される電流密度は、定常電流密度より高めに設定される。制御装置20は、水素制御弁33により水素取出経路19を閉塞することで、第2循環水経路17を密閉状態とする。なお、制御装置20は、水電解セル11に供給される電流に応じて、第1循環ポンプ31と第2循環ポンプ32による循環水の流速を制御している。
【0045】
制御装置20により、固体高分子電解質膜22への電流値、電圧値を制御することで、陽極側23の循環水が固体高分子電解質膜22により電気分解される。即ち、水電解セル11の陽極側23の固体高分子電解質膜22に対して水が供給されることで、この固体高分子電解質膜22の陽極側23で反応が起こり、酸素ガスと水素イオンが発生する。この水素イオンは、陽極側23と陰極側24との電位差により水を伴い、陽極側23から固体高分子電解質膜22を通過して陰極側24に移動し、陰極側24で反応して、水素ガスが発生する。
【0046】
制御装置20は、陽極及び陰極の循環水経路14,17の循環水の圧力を監視し、所定の電解圧力になった時間t2にて、第1、第2水供給弁42,44を閉じることで、水の流入を停止させる。なお、循環水経路14,17の循環水の圧力は、図示しない圧力センサにより検出している。
【0047】
この場合、第2循環水経路17の循環水の圧力が定常圧より高圧であることから、水素ガスは循環水に溶け込みやすい。よって、陰極側23で発生した水素ガスは循環水に溶存した状態で第2循環水経路17を循環する。
【0048】
発生した水素ガスが循環水に溶け込んで水素溶存量が増加すると、所定時間で水素溶存量が飽和状態に達し、これ以上は、水素ガスが水に溶存しなくなる。そこで、時間t3にて、第2循環水経路17の循環水における水素溶存量が飽和状態を超えたら、制御装置20は、水素制御弁33を開放する。すると、水素取出経路19の圧力が上昇し、水素取得量が上昇する。そして、時間t4にて、水素取得量が予め設定された所定量を超えたら、水素制御弁33の開度を一定とする。これにより所定量、所定圧の水素を安定して取得することができる。
【0049】
このように実施例1の水電解装置にあっては、固体高分子電解質膜22により水を電気分解する水電解セル11を有する水電解スタック21と、水電解セル11の陽極側に水を循環供給する第1循環水経路14と、水電解セル11の陰極側に水を循環供給する第2循環水経路17と、第1循環水経路14を流動する水と酸素ガスを分離する第1気液分離タンク15と、第2循環水経路17を流動する水と水素ガスを分離する第2気液分離タンク18と、第1循環水経路14の水を加圧する第1水供給経路41と、第2循環水経路17の水を加圧する第2水供給経路43と、第2気液分離タンク18に水素制御弁33を介して連結される水素取出経路19と、第2循環水経路17を循環する水の圧力が予め設定された所定値を超えたら水素制御弁33を開放する制御装置20とを設けている。
【0050】
従って、第2水供給経路43から第2循環水経路17内に水を供給することで加圧し、発生した水素ガスを溶存させ、この第2循環水経路17内の圧力が所定値を超えたら水素制御弁33を開放して水素ガスを取り出すこととなる。そのため、所定圧の水素ガスを取り出すまでの起動時間を短縮することができ、水素生成効率を向上することができると共に、所定圧の水素ガスを安定して確保することができる。
【0051】
また、実施例1の水電解装置では、制御装置20は、第2循環水経路17内の水における水素溶存量が飽和状態となったら水素制御弁33を開放する。従って、発生した水素ガスを飽和状態になるまで溶存させてから取り出すことで、所定圧の水素ガスを安定して確保することができる。
【0052】
また、実施例1の水電解装置では、第2循環水経路17へ水を供給する第2水供給経路43に第2水供給弁44を設け、制御装置20は、第2水供給弁44を開閉制御して第2水供給経路43から第2循環水経路17に供給する水量を調整することで圧力を制御する。従って、第2循環水経路17内の圧力を迅速に上昇させることができる。
【0053】
また、実施例1の水電解装置では、制御装置20は、第1、第2循環水経路14,17内の圧力を予め設定された運転圧力よりも高い圧力まで加圧するとき、供給電力を上昇させる。従って、第2循環水経路内17の圧力上昇に応じて水に対して水素ガスを早期に溶存させることができる。
【0054】
また、実施例1の水電解装置では、水素溶存量が飽和状態となったら、供給電力を運転電力まで低下させている。従って、効率的に水素を溶存させることができる。
【0055】
また、実施例1の水電解装置では、水電解セル11内での水電解運転の停止後、制御装置20は、第2循環水経路17内を圧力を保った密閉状態で保持している。従って、水電解装置の次の起動時には、第2循環水経路17内の圧力を上昇させる必要がなく、再起動時間を短縮することができる。
【実施例2】
【0056】
図3は、本発明の実施例2に係る水電解装置における起動時の状態変化を表すタイムチャートである。なお、実施例2の水電解装置における全体構成は、上述した実施例1とほぼ同様であり、図1を用いて説明すると共に、この実施例で説明したものと同様の機能を有する部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0057】
実施例2の水電解装置では、図1に示すように、制御装置20は、第2循環水経路17内の圧力を予め設定された運転圧力よりも高い圧力まで加圧した後、水素取出経路17を開放すると共に、第2循環水経路17内の圧力を運転圧力まで降下させている。また、制御装置20は、第2循環水経路内の圧力を予め設定された運転圧力よりも高い圧力まで加圧するとき、水電解セル11への供給電力を上昇させている。
【0058】
ここで、実施例2の水電解装置における起動時の作用について、図3のタイムチャートに基づいて説明する。
【0059】
水電解装置における起動操作において、図3に示すように、オペレータが、時間t11にて、水電解装置の起動スイッチを入力すると、制御装置20は、まず、第1、第2水供給弁42,44を開放させて、第1、第2の水供給経路41,43を介して陽極及び陰極の第1、第2循環水経路14,17に水を供給する。それと同時に、第1、第2循環ポンプ31,32を稼動させることで一定の循環水を各循環水経路14,17に流動させる。更に、水電解セル11に電力の供給を開始して、水電解セル11による電解反応を開始する。このとき、水電解セル11に供給される電流密度は定常電流密度より高めに設定される。制御装置20は、水素制御弁33により水素取出経路19を閉塞することで、第2循環水経路17を密閉状態とする。なお、制御装置20は、水電解セル11に供給される電流に応じて、第1、第2ポンプ31,32による循環水の流速を制御している。
【0060】
制御装置20は、陽極及び陰極の循環水経路14,17の循環水の圧力を監視し、所定の高電解圧力になった時間t12にて、第1、第2水供給弁42,44を閉じることで、水の流入を停止させる。なお、循環水経路14,17の循環水の圧力は、図示しない圧力センサにより検出している。この場合、第2循環水経路17の循環水の圧力が常圧より高圧であり、更に所定の定常運転圧力よりも高圧にしていることから、容易に水素ガスを循環水に溶け込ませることができる。
【0061】
そして、制御装置20が、所定の定常運転圧力よりも高圧の圧力状態から減圧した場合に循環水が水素ガスを飽和状態まで溶存しているレベルにあるか計算する。そこで、制御装置20が、循環水の圧力を減圧した場合に飽和状態であると判断したら、t13にて、水排出弁36を開放し、循環水の一部をバッファタンク35に引き抜き、循環水の圧力を定常運転圧力まで減圧する。なお、バッファタンク35には、第2循環水経路17を流れる水素が溶存する高圧の循環水を引き抜くと同時に、気液分離して水素ガスのみを第2循環水経路17に排出する構造となっている。
【0062】
そして、第2循環水経路17の循環水の圧力が所定の定常運転圧力まで減圧されたら、時間t14にて、制御装置20は水排出弁36を閉じ、固体高分子電解質膜22へ供給する電流値を、定常運転電流値まで低下させる。ここで、循環水が水素ガスの飽和状態となる。
【0063】
更に、このとき、制御装置20は、水素制御弁33を開放する。すると、水素取出経路19の圧力が上昇し、水素取得量が上昇する。そして、時間t15にて、水素取得量が予め設定された所定量を超えたら、水素制御弁33の開度を一定とする。これにより所定量、所定圧の水素を安定して取得することができる。
【0064】
このように実施例2の水電解装置にあっては、第2循環水経路17の水を減圧する補助経路34を設け、制御装置20は、第2水供給経路43から第2循環水経路17内に水を供給して圧力を予め設定された運転圧力よりも高い圧力まで加圧し、予め設定された所定のタイミングで補助経路34の水排出弁36を開放して第2循環水経路17内の圧力を運転圧力まで減圧した後、水素制御弁33を開放するようにしている。
【0065】
従って、第2循環水経路17内を高圧運転圧力まで上昇して発生した水素ガスを溶存させ、この水素溶存量が飽和水素量を超えたら、定常運転まで低下して水素取出経路17から水素ガスを取り出すこととなる。そのため、循環水における溶存水素量を加速して、より短時間で水素を溶存させることができ、その後、第2循環水経路17内の循環水をバッファタンク35に引き抜くことで圧力を定常運転圧力して水素を取り出すことで、所定圧力及び所定量の水素ガスを安定して取り出すことができる。また、所定圧の水素ガスを安定して取り出すまでの起動時間(t11〜t14)を短縮することができ、水素生成効率を向上することができると共に、所定圧の水素ガスを安定して確保することができる。
【0066】
また、実施例2の水電解装置では、制御装置20は、水素溶存量が予め設定された所定量となったら、補助経路34の水排出弁36を開放して第2循環水経路17内の圧力を運転圧力まで減圧する。従って、循環水の水素溶存量が飽和状態になる直前で第2循環水経路17を減圧することで、減圧によって循環水の水素溶存量が確実に飽和状態となり、無駄な水素ガスの発生を抑制して効率的に所定圧の水素ガスを確保することができる。
【0067】
なお、上述の各実施例では、第1、第2加圧手段を、第1、第2水供給経路41,43としたが、この構成に限定されるものではない。即ち、第1、第2循環ポンプ31,32を適用してもよい。
【0068】
また、水素溶存手段として、超音波発信器を設け、この超音波発信器により陰極側24内の水、または、第2循環水経路17内の循環水や水素ガスに対して、超音波を発信して振動させることで、発生した水素ガスを循環水に溶存させるようにしてもよい。また、水素溶存手段として、高電圧装置を設け、この高電圧装置により固体高分子電解質膜に対して高電圧を印加することで、水素ガスの気泡を非常に微細なマイクロバルーンとし、発生した水素ガスを循環水に溶存させるようにしてもよい。
【0069】
また、上述の各実施例では、第2循環水経路17の水における水素溶存量が飽和水素量を超えたら、水素制御弁33を徐々に開放し、水素取得量が所定量となったら水素制御弁33の開度を一定としたが、このような制御に限定されるものではない。例えば、第2循環水経路17の循環水における水素溶存量が飽和水素量を超えたら、水素制御弁33を直ちに全開とし、水素取得量を早期に所定量となるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明に係る水電解装置は、循環水経路内の循環水の圧力が予め設定された所定量を超えたら水素制御弁を開放することで、起動時間を短縮して水素生成効率の向上を可能とするものであり、いずれの水電解装置にも適用することができる。
【符号の説明】
【0071】
11 水電解セル
12 発電装置(電力供給装置)
13 充電装置
14 第1循環水経路
15 第1気液分離タンク
16 酸素取出経路
17 第2循環水経路
18 第2気液分離タンク
19 水素取出経路
20 制御装置(制御手段)
22 固体高分子電解質膜
23 陽極側
24 陰極側
31 第1循環ポンプ
32 第2循環ポンプ
33 水素制御弁
36 水排出弁(減圧手段)
41 第1水供給経路(第1加圧手段)
42 第1水供給弁
43 第2水供給経路(第2加圧手段)
44 第2水供給弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子電解質膜により水を電気分解する水電解セルを有する水電解スタックと、
水電解スタックと電気的に接続された電力供給装置と、
前記水電解セルの陽極側に水を循環供給する第1循環水経路と、
前記水電解セルの陰極側に水を循環供給する第2循環水経路と、
前記第1循環水経路を流動する水と酸素ガスを分離する第1気液分離タンクと、
前記第2循環水経路を流動する水と水素ガスを分離する第2気液分離タンクと、
前記第1循環水経路の水を加圧する第1加圧手段と、
前記第2循環水経路の水を加圧する第2加圧手段と、
前記第2気液分離タンクに水素制御弁を介して連結される水素取出経路と、
前記第2循環水経路を循環する水の圧力を検出する圧力検出手段と、
該圧力検出手段が検出した圧力が予め設定された所定値を超えたら前記水素制御弁を開放する制御手段と、
を備えることを特徴とする水電解装置。
【請求項2】
前記第2循環水経路を循環する水における水素溶存量を検出または推定する水素溶存量検出推定手段を設け、前記制御手段は、前記水素溶存量検出推定手段が検出または推定した水素溶存量が飽和状態となったら、前記水素制御弁を開放することを特徴とする請求項1に記載の水電解装置。
【請求項3】
前記第2加圧手段は、前記第2循環水経路に水を供給する第2水供給経路と、該第2水供給経路に設けられる第2水供給弁とを有し、前記制御手段は、前記第2水供給弁を開閉制御して前記第2水供給経路から前記第2循環水経路に供給する水量を調整することで、該第2循環水経路内の圧力を制御することを特徴とする請求項2に記載の水電解装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記第1、第2加圧手段により前記第1、第2循環水経路内の圧力を予め設定された運転圧力よりも高い圧力まで加圧するとき、前記電力供給手段による供給電力を上昇させることを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の水電解装置。
【請求項5】
前記制御手段は、水素溶存量検出推定手段が検出または推定した水素溶存量が飽和状態となったら、前記電力供給手段による供給電力を運転電力まで低下させることを特徴とする請求項4に記載の水電解装置。
【請求項6】
前記第2循環水経路の水を減圧する第2減圧手段を設け、前記制御手段は、前記第2加圧手段により前記第2循環水経路内の圧力を予め設定された運転圧力よりも高い圧力まで加圧し、予め設定された所定のタイミングで前記第2減圧手段により前記第2循環水経路内の圧力を運転圧力まで減圧した後、前記水素制御弁を開放することを特徴とする請求項1から5のいずれか一つに記載の水電解装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記水素溶存量検出推定手段が検出または推定した水素溶存量が予め設定された所定量となったら、前記第2減圧手段により前記第2循環水経路内の圧力を減圧することを特徴とする請求項6に記載の水電解装置。
【請求項8】
前記水電解セル内での水電解運転の停止後、前記制御手段は、前記循環水経路内を密閉状態で保持することを特徴とする請求項1から7のいずれか一つに記載の水電解装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate