説明

氷結トラップを有する透過量測定装置

【課題】加湿下におけるガス透過係数、拡散係数、溶解度係数を、差圧式圧力計法により測定可能な透過量測定装置を提供する。
【解決手段】高圧チャンバー10と低圧チャンバー30の間に試験膜3を挟んだ透過セル2と、高圧チャンバーと接続された高圧流路を有し、高圧流路から試験ガスを高圧チャンバーに導入し、低圧チャンバーと接続された低圧流路に圧力計35を設置し、試験膜を透過する試験ガス量を圧力計により圧力変化として検知する透過量測定装置1である。高圧流路に、高圧チャンバーに導入される試験ガスに水蒸気を添加する加湿器14を設置した。また、低圧流路に氷結トラップ33を設置し、試験膜を透過した試験ガス中の水蒸気を氷結トラップにより氷に凝縮するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂フィルム、樹脂シート等の気体透過量、拡散係数、溶解度係数などの測定装置に関するものである。特に詳しくは、加湿した状態での各種気体の透過量、拡散係数、溶解度係数などの測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
樹脂フィルム、樹脂シート等膜のガスバリヤー性の評価には、透過係数・透過度と共に重要なファクターとして拡散係数、溶解度係数が用いられる。
【0003】
拡散係数は、透過曲線グラフ上で、直線的に透過量が増加する区間を外挿することにより、気体暴露時点から透過が生じるまでの時間である「遅れ時間」を決定し、遅れ時間と膜の厚さを用いて算出される。拡散係数の算出方法は後に詳述する。また、溶解度係数は、透過係数と拡散係数から算出する。
【0004】
透過量の測定方法の中で、従来多用されている方法は、JIS K7126−1付属書1に規定されている非多孔質膜の気体の透過測定方法(差圧式圧力計法)である。すなわち、高圧チャンバーと真空チャンバーの間に試験膜を挟んだ透過セルと、高圧チャンバーに接続された高圧流路を有し、高圧流路から試験ガスを高圧チャンバーに導入し、低圧チャンバーに接続された低圧流路に圧力計を設置し、試験膜を透過する試験ガスにより上昇する低圧流路の圧力値を圧力計により検知する方法である。
【0005】
この方法は、単一ガスの透過量や拡散係数測定に利用され、試験ガスを変えれば各種ガスの透過量や拡散係数が測定できる。しかし、圧力計はガス種の選択性がないから、差圧式圧力計法は混合ガスには適用できない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】JIS K7126−1付属書1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、電解質膜等の分野にあって、加湿した状態での各種ガスの透過係数、拡散係数、溶解度係数の測定実行についての強い要望がある。差圧式圧力計法では、加湿環境下でのガス透過は測定できない。なぜなら、水蒸気の透過を伴い、低圧流路に透過(出現)するガスと水蒸気を分離しての測定が不可能だからである。
【0008】
このような不都合を解消するために、低圧流路側に、水分の影響を受けないガス検出器と試料ガスに影響されない水分計を設置し測定する方法も考えられるが、この方法は限られた成分しか測定できず、同時に、装置の高額化を招来する。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、加湿下におけるガス透過係数、拡散係数、溶解度係数が測定できる装置を提供することにある。
【0010】
本発明のその他の課題は、本発明の説明により明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下に課題を解決するための手段を述べる。理解を容易にするために、本発明の実施態様に対応する符号を付けて説明するが、本発明は当該実施態様に限定されるものではない。
【0012】
本発明の一の態様にかかる透過量測定装置(1)は、
高圧チャンバー(10)と低圧チャンバー(30)の間に試験膜(3)を挟んだ透過セル(2)と、高圧チャンバーと接続された高圧流路を有し、高圧流路から試験ガスを高圧チャンバーに導入し、低圧チャンバーと接続された低圧流路に圧力計(35)を設置し、試験膜を透過する試験ガス量を前記圧力計により圧力変化として検知する透過量測定装置において、
前記高圧流路に、前記高圧チャンバーに導入される試験ガスに水蒸気を添加する加湿器(14)を設置し、
前記低圧流路に氷結トラップ(33)を設置し、試験膜を透過した試験ガス中の水蒸気を前記氷結トラップにより氷に凝縮することを特徴とする。
【0013】
本発明の好ましい実施態様にかかる透過量測定装置にあって、
前記氷結トラップの温度T℃は、
T℃における水蒸気圧の値が前記圧力計の最小検出圧力よりも低い値となる温度であるものであってもよい。
【0014】
本発明の他の好ましい実施態様にかかる透過量測定装置にあって、
前記低圧流路は、前記低圧チャンバー(30)、前記氷結トラップ(33)と前記圧力計(35)が前記記載順序に配置されているものであってもよい。
【0015】
本発明のその他の好ましい実施態様にかかる透過量測定装置は、
さらにデータ処理装置(54)を備え、前記データ処理装置は前記圧力計による計測圧力値を時間の関数すなわち透過曲線として記録するものであってもよい。
【0016】
以上説明した本発明、本発明の好ましい実施態様、これらに含まれる構成要素は可能な限り組み合わせて実施することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明にかかる透過量測定装置は、その他の特徴とともに、高圧流路に加湿器を設置し、低圧流路に氷結トラップを設置したので、低圧流路側に透過してくる水蒸気を凝固して、圧力計による圧力測定系の系外に取り除くことができる。よって、従来の差圧式圧力計法と同一の圧力計を用いた測定により、加湿下における試験ガス透過量を測定できるという利点がある。また、透過量測定に用いる試験ガスの種類を問わず、さらに装置は高額化しないという利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は透過量測定装置の説明図である。
【図2】図2は透過曲線を示した説明図である。
【図3】図3は本透過量測定装置を用いて測定した電解質膜における乾燥試験ガスの透過曲線である。
【図4】図4は本透過量測定装置を用いて測定した電解質膜における調湿試験ガスの透過曲線である。供試した電解質膜は、図3の測定に用いた電解質膜と同一である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施例にかかる透過量測定装置をさらに説明する。本発明の実施例に記載した部材や部分の寸法、材質、形状、その相対位置などは、とくに特定的な記載のない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではなく、単なる説明例にすぎない。
【0020】
まず、非多孔質膜の気体の透過現象と拡散係数、透過係数の算出方法などを説明する。
【0021】
図2は、非多孔質膜の気体の透過現象を説明する透過曲線である。非多孔質膜の気体の透過量は差圧式圧力計法で測定したものであり、グラフの縦軸は圧力を示し、横軸は経過時間を示す。
【0022】
非多孔質膜の気体の透過現象は、透過量が過渡的に増加する過程を経て、直線的に増加する定常状態になる。図2中実線で示す透過曲線において、一定時間経過後に過渡的な増加過程である曲線部分82が生じ、その後、定常状態である直線部分81が出現する。直線部分81を経過時間ゼロ側に外挿(外挿直線を破線83で示している)して、測定開始時点での圧力値(以下、開始時圧力値という)における時間t1を求める。t1は外挿直線83と時間軸の交点として求められる。時間t1を遅れ時間(θ)とする。
【0023】
膜の厚さ(L)を測定する。膜の厚さ(L)は、例えば、マイクロメーターで測定する。そして、遅れ時間(θ)と膜の厚さ(L)から拡散係数を算出する。
【0024】
また、透過曲線の直線部分の傾き84と低圧側体積から透過係数を求める。低圧側体積は、測定に使用する装置において、低圧側チャンバーの体積と低圧流路体積の合計体積である。
【0025】
具体的な測定は、まず、高圧チャンバー、高圧流路、低圧チャンバーと低圧流路を一度真空に減圧し、膜内部に試験ガスが存在しない状態にして、その後チャンバーや流路を封止状態にする。続いて、高圧チャンバーに試験ガスを流すと同時に測定を開始し、低圧チャンバー側の圧力上昇を記録する。時間―圧力関係が直線になることを確認し測定を終了する。
【0026】
開始時圧力値(透過前の圧力値である)ラインと、圧力上昇が定常状態になった以後の直線を外挿した線の交点における測定開始からの時間を求める。この時間を遅れ時間(θ)とする。
【0027】
遅れ時間(θ)と拡散係数(D)との関係は、膜の厚さ(L)として
数式(1)
D=L2/6θ − − − (1)
で表される。
【0028】
透過係数は、測定された圧力−時間関係の直線の傾き84を、低圧側体積から体積変化量に換算し求める。
【実施例1】
【0029】
図1を参照して透過量測定装置1を説明する。
【0030】
透過量測定装置1は透過セル2を有する。透過セル2は試験膜3を間に挟む高圧チャンバー10と低圧チャンバー30からなる。透過セル2は恒温槽52の中に収納されていて、一定温度に保たれている。このため、一定温度条件下での、膜の透過量を測定することができる。
【0031】
高圧チャンバー10に接続される気体流路が高圧流路である。高圧流路には加湿器14が接続されている。
【0032】
低圧チャンバー30に接続される気体流路が低圧流路である。低圧流路には氷結トラップ33と圧力計35が接続されている。
【0033】
高圧流路は試験ガス入口20から始まり、調圧弁11、圧力指示器12、三方弁13と三方弁17が接続されている。三方弁13から流路が分岐し、加湿器14、第一保温管16を経て三方弁17に接続されている。加湿器14の容器中には水が収められていて、当該水の中を試験ガスの泡が通過することにより、試験ガスに水蒸気が添加される。加湿器14は加湿器恒温槽15に収められ一定温度に保たれる。加湿器恒温槽15によって加湿器14の温度調節を行うことにより、加湿器が添加する水蒸気量を調節することができる。必要に応じて、高圧流路に湿度計を設置すればよい。
【0034】
高圧チャンバー10につながる一方の流路に三方弁18が接続されている。高圧チャンバー10につながる他方の流路に三方弁19を介して、真空ポンプ51が接続されている。
【0035】
試験ガス入口20から乾燥状態のガスを流す。三方弁13と三方弁17を操作して、高圧流路に加湿器14が介在する状態にすれば、乾燥状態のガスは三方弁13を経由して加湿器14に入り、加湿された試験ガスとなる。そして、三方弁17を経由して、高圧チャンバー10に調湿された試験ガスが流れる。三方弁13と三方弁17を直結状態にすれば、高圧チャンバー10に乾燥状態のガスが流れる。また、三方弁18と三方弁19を操作すれば、真空ポンプ51を作動して、高圧チャンバー10を真空にすることができる。
【0036】
試験ガスに加湿する場合には、流路中での結露を防ぐため、第一保温管16により、流路を露点以上の温度に保っている。
【0037】
低圧チャンバー30に、ストップ弁31、第二保温管32、氷結トラップ33、圧力計35、ストップ弁36が接続されている。
【0038】
氷結トラップ33はデュワー瓶34の中に収納されたドライアイスによって冷却される。氷結トラップの温度T℃は、T℃における水蒸気圧の値が圧力計の最小検出圧力よりも低い値となる温度であることが好ましい。圧力測定系から、水蒸気に由来する圧力をより一層効果的に取り除くことができるからである。例えば、圧力計35の最小検出圧力が5Paなら、氷結トラップの冷却温度における水蒸気圧が5Pa以下になる温度以下に冷却する。例えば、上記の例の場合、−50℃以下に冷却する。
【0039】
氷結トラップ33の先端と第二保温管32との間隔は極力短くし、氷結トラップ33以外の流路中に結露が生じることを避ける。
【0040】
氷結トラップ33の内径は水分(水蒸気)が氷結しても氷結トラップのガス通路が閉塞しない太さにする。
【0041】
氷結トラップ33の内容積は、一回の測定で試験膜を透過する水蒸気が氷となって、生じる氷の体積よりも大きくなるようする。数回の予備測定を行えば、生じる氷の体積は決定することができる。
【0042】
低圧チャンバー30からストップ弁36までの内容積は、透過ガスを検出するに必要でかつ十分な内容積になる様にする。
【0043】
一例を上げると、ガス透過度が×10〜×10程度の透過度(cc・/m・24hr)の膜の場合、低圧側体積を50ml程度とする。そして、氷結トラップの氷結部分の内径は8mmφ程度とする。典型的な電解質膜は、ガス透過度が×103〜×10程度(cc・/m・24hr)である。
【0044】
低圧流路は、低圧チャンバー30、氷結トラップ33と圧力計35が当該記載順序に配置されていることが好ましい。低圧チャンバーと氷結トラップが接近する結果、氷結トラップ以外での結露のおそれが減少するからである。
【0045】
ストップ弁31とストップ弁36を開けると、低圧流路は真空ポンプ51につながり、低圧チャンバーと低圧流路全体を真空引きすることができる。続いて、ストップ弁36を閉めると、低圧チャンバー30の真空引きが停止されて、試験膜3を透過した試験ガスが低圧流路に溜めこまれる状態となる。
【0046】
透過ガスが溜めこまれる状態で圧力計35の圧力変化をデータ処理装置54に取り込む。データ処理装置54は、圧力値を経過時間の関数として記録する。制御器53は恒温槽の温度、三方バルブとストップ弁の操作など透過量測定装置1の制御を行う。ここで制御器53、データ処理装置54の結線は図示を省略している。
【0047】
続いて、透過量測定装置1を用いる測定操作を説明する。
【0048】
まず、透過セル2に試験膜3をセットする。次に、高圧チャンバー10、高圧流路、低圧チャンバー30と低圧流路を真空ポンプ51と接続し、これらを減圧にする。高圧チャンバー10、低圧チャンバー30など及び試験膜3内に含まれている気体を可能な限り排出するように減圧を一定時間継続する。
【0049】
高圧流路と低圧流路を封止する。圧力計35の指示値を開始時圧力値として、データ処理装置54に記録する。
【0050】
次に、高圧チャンバー10に試験ガスを流す。この時を測定開始時とする。試験ガスは加湿された試験ガスであってもよく、乾燥状態の試験ガスであってもよい。試験ガスが試験膜3を透過し、低圧流路に入り低圧流路の圧力が上昇する。
【0051】
透過する試験ガスに水蒸気が含まれている場合には、水蒸気は冷却されて氷結トラップ33中で氷となる。このため、水蒸気は低圧流路の圧力上昇を招来しない。
【0052】
圧力計35の指示値を一定時間毎にデータ処理装置54に取り込む。データ処理装置は透過曲線を記録する。
【0053】
圧力計35の指示値が、経過時間との関係で直線的に増加する定常状態になったことを確認して、一回の測定を終了する。
【0054】
透過量測定装置1を用いて、上記した測定方法で測定された透過曲線の例を図3、図4に示す。図3と図4は同一の電解質膜の透過曲線である。図3は水蒸気を含まないドライガスの例で図4は試験ガスを調湿したガスで測定した場合の例である。測定は、温度60℃、試験ガスN、膜厚50μm、加湿時湿度80%RHで得られたものである。
【符号の説明】
【0055】
1 透過量測定装置
2 透過セル
3 試験膜
10 高圧チャンバー
14 加湿器
15 加湿器恒温槽
16 第一保温管
20 試験ガス入口
30 低圧チャンバー
32 第二保温管
33 氷結トラップ
34 デュワー瓶
35 圧力計
51 真空ポンプ
52 恒温槽
53 制御器
54 データ処理装置
81 直線部分
82 曲線部分
83 外挿直線
84 傾き

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧チャンバーと低圧チャンバーの間に試験膜を挟んだ透過セルと、高圧チャンバーと接続された高圧流路を有し、高圧流路から試験ガスを高圧チャンバーに導入し、低圧チャンバーと接続された低圧流路に圧力計を設置し、試験膜を透過する試験ガス量を前記圧力計により圧力変化として検知する透過量測定装置において、
前記高圧流路に、前記高圧チャンバーに導入される試験ガスに水蒸気を添加する加湿器を設置し、
前記低圧流路に氷結トラップを設置し、試験膜を透過した試験ガス中の水蒸気を前記氷結トラップにより氷に凝縮することを特徴とする透過量測定装置。
【請求項2】
前記氷結トラップの温度T℃は、
T℃における水蒸気圧の値が前記圧力計の最小検出圧力よりも低い値となる温度であることを特徴とする請求項1に記載した透過量測定装置。
【請求項3】
前記低圧流路は、前記低圧チャンバー、前記氷結トラップと前記圧力計が前記記載順序に配置されていることを特徴とする請求項1乃至2いずれかに記載した透過量測定装置。
【請求項4】
さらにデータ処理装置を備え、前記データ処理装置は前記圧力計による計測圧力値を時間の関数すなわち透過曲線として記録するものである請求項1乃至3いずれかに記載した透過量測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−43386(P2011−43386A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−191063(P2009−191063)
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(503107130)ジーティーアールテック株式会社 (2)